まのさば二次創作を書きたい   作:ひざぎ

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いつかの約束⑤

 

「──ヒロちゃんも行くんだよね?」

 

 もう既に諦めてしまった高校までの道。いつも通りにすれ違ったエマと他愛のない会話の中、唐突に彼女はその流れを切るように話題を変えた。

 

「……主語がない。『どこ』という情報がわかっていないのに、私がそれに答えられるわけがないだろう」

 

 ……実際にはエマがどこについてを指しているのかなんてわかり切っている。

 

 ハンナからのメールが届いていたタイミング。そのタイミングでその質問が来るのであれば、確実にそれは牢屋敷で開催されるお茶会についてでしかない。

 

 それでも私は誤魔化すように彼女へとそう言いながら視線を逸らした。自分でもなぜそんな遠回りなことをしているのだろう、と思ったからこそ後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。

 

「あ、そうだね……」とエマは少ししょぼくれたような表情を浮かべながら、改めて携帯を取り出して、見覚えのある文面をこちらへと突きつけてくる。

 

「これ! ハンナちゃんが牢屋敷でお茶会をする、っていうメッセージのやつ! ヒロちゃんにも来てる、……よね?」

 

 一瞬、こちらを伺うような訝しい表情、……というよりも不安そうな表情を浮かべる。おそらく、先ほどの私の言動からメッセージが来ていない可能性を今さらになって考慮したのだろう。

 

 そんな彼女の不安をぬぐうように、私は微笑さえ浮かべて見せながら、それから「ああ、そのことか」とさも知っているようなふりをした。……ふり、というか、そもそも知ってしかいない話題だったのだが。

 

 そのようなふりを続けても意味がないことはわかっている。それでも、なんとなくエマを前にすると普段通りの自分を保つことができないでいる。

 

 早速今朝もハンナからのメッセージに返信をした、というのに、それをエマに知られることに後ろめたさがある。レイアも言うように、別に気にすることではない、とわかっているはずなのだが、それでも消極的な気持ちが消えるわけじゃない。

 

「……それで、どう? ヒロちゃんも、……来てくれるよね?」

 

 こちらの様子をうかがうような、そんな瞳。

 

 そんな目をせずとも、私はもう既に返信をしていたし、なにより答えだって決まっていた。だから、不安そうな表情を浮かべなくてもいい、と言ってやりたい気持ちがある。

 

 ただ、それでも素直に言葉は吐き出せなくて「……そう、だな」と曖昧な相槌を打ってしまった。

 

「……このハンナの文面、全員参加という部分が強調されているからな。勝手に私が参加しない、という風に表明しても許されないだろう。……まあ、だから、そうだな──」

 

 さっさと素直になってしまえばいいのに。

 

 心の中で、そんなユキの言葉が聞こえてきそうだけれど、それでももどかしいまま言葉を運ぶことができない。

 

 耳の部分が少しだけ熱を持つような感覚を覚えながら、何度か呼吸を挟んでみる。目の前にいるエマにはこちらの緊張を悟られないように、ゆっくりと深呼吸をしながら。

 

「──も、もちろん参加するよ。……参加しなければ、どんな目に合うのかわからないからな」

 

「──本当?!」

 

 上ずってしまった私の言葉に、エマは過剰だとも思えるくらいに瞳を輝かせながら、私の目を見つめてくる。

 

 その純粋すぎる眼差しに、どこか私は耐えられなくなって、やはり視線をそらしてしまうけれど、それでもエマは「やったぁ!」と喜ぶ様子をこちらにアピールしてくる。

 

(そこまで喜んでくれる、のか……)

 

 私がお茶会に参加する。私はハンナのメッセージに軽く返事をしたけれど、それでも実際は熟考を重ねなければいけないものだったはずだ。

 

 そんな自分自身の振舞い、そして、参加することを表明したうえでのエマのこの様子。

 

 つりあっていない。どう見たって、この関係性はつりあっていない。

 

(──でも)

 

 それでも、エマが喜んでくれている。

 

 私がお茶会に参加しても、邪険にすることなく、純粋に喜びをこちらに伝えてきてくれている。

 

 それならば、そうであるのならば。

 

 そんな彼女の笑顔こそを大事にするべきなのではないだろうか。

 

 

 

 どうしようもなさを感じるような、今さらの気づき。

 

 それが自分自身の罪悪感を拭うだけの行為だったとしても、それでも。

 

 ──エマが笑ってくれるのであれば、それでいい。

 

 私はそう思いながら、彼女の笑顔に微笑みを返した。

 

 

 

 

 牢屋敷がある島については、今でも国の中でも極秘という風に扱われている。そのため、容易に牢屋敷に向かう、ということは難しいものの、それでもユキと対峙をした私たちは『人類を魔女因子から解放した』という功績から、望めばいつでも牢屋敷へと戻ることを許されていた。

 

 まあ、それでも極秘の存在であることには変わりない。国も、秘密裏に少女たちを監禁し、殺し合いとしか言えないことを強いていた事実がバレるわけにはいかないのだろう。普通の公共交通機関で行くことはできないし、もしくは島の場所を独自に調べて、なんとかプライベートで赴く、ということも許されなかった。

 

 そのため、牢屋敷に向かう際には要人に連絡をし、そこから指定された場所に向かう。そこで政府の役人と顔を合わせ、目隠しをつけさせられたままヘリコプターへと乗せられる。

 

 おおよそ二時間から三時間ほど、……もしくはずっと長いかもしれない。目隠しをしているうえ、役人との会話も禁止されているが故に、時間は自分自身で一秒ずつ考えることでしか把握できない。

 

 だいたい7000秒ほど数えた頃合いで眠気がやってきて、気づけば牢屋敷に着いているのだから、とりあえずはそれだけの時間を使っているはずだ。

 

(なんとも手間だな……)

 

 そんな感想を誰かに呟きたい気分になるが、それを聞いてくれる役人や知り合いもいないのだから、私はそっと息を呑みこんで、それらを吐くだけ。

 

 そうしてたどり着いた牢屋敷を前に、私は改めて深呼吸を繰り返すばかりだった。

 

 

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