サヴァイヴ(オリジナル小説)   作:一塔

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粗相

 アルテミスが未探索領域へ向けて飛び立ってから、二日。

 

 スペースホープは、当初の予定どおり教育便の運航を行う日を迎えていた。

 

 未探索領域の調査が始まったからといって、こちらの仕事が止まるわけではない。

 むしろ逆だ。

 エリンがいない今、スペースホープがきちんと仕事を回し、積み上げてきた信頼を一つも落とさずに形へしなければならない。

 それは、ペルシア自身が誰よりよく分かっていた。

 

 朝のフロアは、妙に静かだった。

 

 誰も喋っていないわけではない。

 準備の音はある。制服の擦れる音、端末を閉じる音、チェック表をめくる音、ロッカーの扉が開く音。

 だが、普段よりも声が少ない。

 

 それもそのはずだ。

 今日、スペースホープの教育便でチーフパーサーを務めるのはペルシアなのだ。

 

 ドルトムント時代に副パーサーとして辣腕を振るったこと。

 乗客の声色から感情の揺れを拾い、トラブルになる前に芽を摘むこと。

 緊急時には誰よりも強いこと。

 エリンですら、ペルシアの“人を読む力”には一歩譲ると認めていること。

 

 そういう話は、ミラとランを通じて、あるいはエリンやクリスタル達の会話の端々から、皆んな何となく知っている。

 だからこそ、今日の緊張はただの出発前の緊張ではなかった。

 “本物が立つ日”の空気が、そこにはあった。

 

 今日、教育便へ乗るのは七人。

 

 チーフパーサーのペルシア。

 ミラ。

 ラン。

 アズサ。

 クミコ。

 ミドリ。

 サリー。

 

 皆んな制服へ着替え終え、旅行事業部のフロアで自然とペルシアの方へ視線を向けていた。

 

 ペルシアは、そんな空気を少し離れた場所から眺めていた。

 いつも通りの、気の抜けたような立ち姿。

 でも、その目だけは起きている。

 

 金色の髪を軽くかき上げ、皆んなが揃ったのを確認すると、ペルシアはゆっくりと前へ出た。

 

「よし、皆んな揃ったね」

 

 明るい声だった。

 その声だけ聞けば、少し肩の力が抜けそうになる。

 けれど、次に続いた言葉は、その場の空気をぴたりと引き締めた。

 

「まず最初に言っとくね」

 

 ペルシアは、にこりともせず、七人全員を見渡した。

 

「私は久々で、正式にチーフパーサーをやる」

 

 その一言に、皆んなが無意識に背筋を伸ばす。

 

「だから、エリンみたいに皆んなの経験とか教育とかまで手が回らない」

 

 ミラとランが、ほんのわずかに目を伏せた。

 エリンとペルシア。

 同じ“上に立つ人”でも、その色が違うことを二人はよく知っている。

 

 ペルシアは続けた。

 

「悪いけど、今日は私は本気で臨ませてもらう」

 

 今度は、はっきりと言い切る。

 

「だから私の指示には従ってもらう」

 

 その声には、軽さがなかった。

 強い。

 だが怒ってはいない。

 命令というより、“今日はそういう日だ”と最初から線を引いている声だ。

 

 クミコは、そこでごくりと唾を飲み込んだ。

 怖い、とは少し違う。

 だが、甘えは通らないと一瞬で分かる。

 

 ミドリが小さく息を吸い、サリーは無言で頷いた。

 アズサは緊張したように唇を結んでいる。

 ランはペルシアの顔を真っ直ぐに見た。

 ミラもその隣で、静かに気持ちを整えている。

 

 ペルシアは、その全員の反応を確認してから、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

「誤解しないでほしいのは、皆んなを信用してないって意味じゃないよ」

 

 そこで一度、声の温度が柔らかくなる。

 

「むしろ逆。皆んなはもう、ちゃんと乗務員として動ける」

 

 ミラの瞳がわずかに揺れた。

 クミコ達も、思わず顔を上げる。

 

「だから今日は、“本番として回す”ことを最優先にするって話」

 

 ペルシアは指を一本立てる。

 

「分からないことがあったら聞いていい。でも勝手な判断はいらない。迷ったらすぐ私に上げる。いい?」

 

「はい!」

 

 今度は、皆んなの返事が綺麗に揃った。

 

 ペルシアは、その返事に満足したように頷く。

 

「よろしい」

 

 そう言ってから、今度はミラとランへ目を向ける。

 

「ミラ、ラン」

 

「はい」

 

 二人が同時に応じる。

 

「貴方達は今日、私の前に出ていい」

 

 その言葉に、アズサとクミコが一瞬だけ目を見開いた。

 前に出る。

 つまり、通常より少しだけ広い範囲で動いていい、という意味だ。

 

「でも“判断”じゃなくて“拾う”方ね」

 

 ペルシアが釘を刺す。

 

「今日は皆んな、まだ教育便の空気に寄ってる。けど私はそれを切るから。そこに付いてきて」

 

「分かりました」

 

 ランが静かに答える。

 ミラも頷いた。

 

「はい」

 

 その返事には、緊張がある。

 だが、逃げる色はない。

 

 ペルシアは次に、アズサ、クミコ、ミドリ、サリーへ視線を滑らせる。

 

「四人はまず、自分の持ち場から崩れないこと」

 

 それだけだ。

 でも、その一言が一番重い。

 

「私は声で飛ばすから。聞き逃さないで」

 

「はい!」

 

 今度は四人だけが声を揃えた。

 

 ペルシアは、そこでようやくにやっと笑った。

 

「うん、いい顔」

 

 その一言で、ほんの少しだけ場の緊張が和らぐ。

 けれど、それも束の間だった。

 

「じゃ、行こっか」

 

 その声と同時に、皆んなの気持ちは仕事へ切り替わった。

 

 

 エアポートまでの移動中、車内は静かだった。

 

 いつもの教育便なら、アズサあたりが少しだけ明るいことを言い、ミドリが相槌を打ち、クミコがスケジュールを確認し、サリーが小さく笑う――そんな空気がある。

 だが今日は違った。

 

 ペルシア自身は、窓の外を見ながら、時々端末で情報を確認しているだけだ。

 特別に空気を重くしているわけではない。

 なのに、皆んな無駄口を叩く気にならない。

 

 それは緊張だけのせいではなかった。

 “今日は本番として回す”と最初に言われた、その言葉が今もずっと残っているからだ。

 

 ミラは何度目かの乗務者名簿を見返していた。

 今日の搭乗者は教育便。

 教職員と生徒達、合計でそこそこの人数になる。

 大きすぎる便ではない。

 けれど、だからと言って気を抜ける便でもない。

 

 ランは、その横で静かに目を閉じていた。

 眠っているわけではない。

 頭の中で動線と指示の入り方をもう一度なぞっているのだろう。

 

 アズサは膝の上に置いた手をぎゅっと握ったり開いたりしていた。

 クミコはそれに気づいて、自分も同じことをしているのだと少し可笑しくなる。

 

 そんな七人を乗せた車両がエアポートへ滑り込む頃には、ペルシアの目は完全に仕事の目になっていた。

 

 

 エアポートに到着すると、そこには既に教職員達が集まっていた。

 

 教育便の運航は何度か経験を積んでいる。

 そのため、先方にも“スペースホープの顔”としてエリンが印象づいているのは当然だった。

 

 だから、教職員側の代表がペルシア達を見るなり、少しだけ意外そうな顔をする。

 

「あれ、今日はエリンさんはいないんですね」

 

 声音は穏やかだ。

 問いというより確認に近い。

 けれど、その一言に含まれる意味を、ペルシアは耳だけで綺麗に拾った。

 

 少しだけ不安。

 少しだけ比較。

 そして、“大丈夫だろうか”という、ごく軽い揺れ。

 

 ペルシアは笑った。

 明るすぎず、軽すぎず、相手が安心しやすい角度の笑みだ。

 

「はい、今日は私が責任者を務めます」

 

 言葉は丁寧。

 だが、そこで余計な説明は足さない。

 

「問題なく対応しますので、ご安心ください」

 

 その一言を、柔らかく、しかし芯を持たせて落とす。

 

 すると教職員側の表情から、余計な迷いが一つ消えた。

 大丈夫、なのだろう。

 そう思わせるには、充分な声だった。

 

 ミラは、そのやり取りをすぐ横で見ながら改めて思う。

 ペルシアは、本当に“声を読む”。

 

 相手の問いの奥にあるものを、必要以上に広げずに拾う。

 そして、余計な時間をかけずにそれだけを消していく。

 

 エリンとは違う。

 エリンは相手の空気に自分を馴染ませながら安心を広げていく。

 ペルシアは、相手の空気の中にある小さな乱れを、一点だけ見つけて摘み取る。

 

 どちらが優れているとかではない。

 ただ、やり方が全く違うのだ。

 

 ペルシアは教職員と必要な確認だけを済ませると、後ろにいる乗務員達へ視線を送った。

 

「ミラ、先に前方入口の整えお願い」

 

『了解』

 

 耳元の無線から、ミラの落ち着いた返答が返る。

 

「ランは先生方の誘導補助。生徒の動き見て」

 

『分かりました』

 

「クミコ、アズサ、荷物の流れ見る。今日は入り口で詰まらせないで」

 

『はい!』

 

『はい!』

 

「ミドリ、サリーは中で座席導線に入って」

 

『はい』

 

『承知しました』

 

 指示は短い。

 短いが、それだけで十分だった。

 

 皆んなが動く。

 

 エアポートの搭乗導線は、ほんの少しの遅れで全体が詰まる。

 教育便は特にそうだ。

 生徒達はまとまって動くようでいて、実際には目の前の友達や先生へ注意が向きやすく、歩調が乱れやすい。

 荷物の一つで立ち止まることもある。

 初めて乗る子が多ければなおさらだ。

 

 ペルシアは、その全部を前提にしていた。

 

 

 乗客の乗り入れが始まる。

 

 エアポート独特のざわめき。

 少し高い天井に反響する足音。

 子ども達の弾んだ声。

 先生方の控えめな注意。

 荷物カートの車輪音。

 遠くで流れる搭乗案内。

 

 その中へ、スペースホープの乗務員達の無線が細く通っていく。

 

 ペルシアは、入口寄りの一歩引いた場所に立っていた。

 前へ出て大きく案内する位置ではない。

 でも、全体が見える。

 そして何より、“声が流れてくる位置”だ。

 

 ペルシアの耳は、同時にいくつものものを拾っていた。

 

 教職員の声色。

 高揚して少し早口になっている生徒。

 荷物の重さに少し苛立ち始めた保護者。

 無線の中で、ほんの少しだけ上擦ったアズサの返答。

 逆に静かすぎるサリーの声。

 

 全部を、聞き分ける。

 

「ミラ、入口左、一回広げて。前から三人、立ち止まる」

 

『了解』

 

 ミラは理由を聞かない。

 すぐに入口左へ半歩動き、自然な笑みで先頭の生徒達へ声をかける。

 

「大丈夫ですよ、慌てなくて。順番にご案内しますね」

 

 その一言で、前方の小さな滞りがほどけた。

 

「クミコ、先生の茶色のバッグ、重い。預かって」

 

『はい!』

 

 クミコはすぐに視線を向ける。

 確かに、教職員の一人が肩を少しだけ落としていた。

 重いと言葉にしてはいない。

 でも、持ち直す時の呼吸が変わっている。

 

「お持ちします」

 

 クミコが駆け寄ると、教師は明らかにほっとした顔をした。

 

「すみません、助かります」

 

 その声色まで、ペルシアは聞いている。

 

「アズサ、前見すぎ。右側の子、もう不安になってる」

 

『えっ』

 

 アズサの声が一瞬揺れる。

 

「えっ、じゃない。しゃがんで目線合わせて」

 

『はいっ』

 

 アズサは慌てて動く。

 右側、搭乗口手前で立ち止まっている女の子。

 友達の背中に隠れるようにしていて、表情が硬い。

 

「大丈夫だよ」

 

 アズサがしゃがんで目線を合わせる。

 

「ゆっくりでいいから、一緒に行こうか」

 

 その声は、少しだけ緊張していた。

 だが、柔らかい。

 女の子の肩が、ほんの少しだけ下がる。

 

 ペルシアは、その変化を見ながら次の指示を飛ばす。

 

「ラン、先生二人。片方が少し苛立ってる。説明より共感先」

 

『分かりました』

 

 ランがすぐに教職員側へ寄る。

 そこで、並び順や荷物の扱いに対して少しだけ強い調子になりかけていた教師へ、落ち着いた声で言葉を差し込んだ。

 

「すみません、進みが見えづらいですよね」

 

 まず共感。

 その一言で、相手の肩から力が抜ける。

 

「今すぐ整えますので、少しだけこちらで待っていただけますか」

 

 そのあとで案内。

 だから通る。

 

 ミドリとサリーは既に機内へ入っている。

 座席導線に入り、生徒達が“友達と近い席がいい”と自然に寄り始める流れを、揉める前に整えていた。

 

 ペルシアは無線へ小さく息を乗せる。

 

「サリー、後方左の列、三人の並び変えられる?」

 

『できます』

 

「やって」

 

『はい』

 

 サリーの返答は相変わらず静かだ。

 だが、その静かさの奥に今日の集中があるのを、ペルシアは聞き取っていた。

 

「ミドリはその間、通路止めないで。流れだけ作って」

 

『はい』

 

 ミドリも短く返す。

 

 ペルシアは一度だけ、全体を見渡した。

 

 悪くない。

 エリンの時みたいな“教育のための余白”は作れない。

 それでも、仕事としては十分に流れている。

 

 何より、皆んなが指示に迷わず従っている。

 勝手に判断して広げず、聞くべき時に聞き、動くべき時に動いている。

 その一点だけでも、スペースホープの乗務員達は数ヶ月前とは別人だった。

 

 

 搭乗が中盤に差しかかった頃、小さな問題が起きた。

 

 通路手前で、ある男子生徒が急に立ち止まったのだ。

 しかも、それに気づかない後ろの列が次々に詰まりかける。

 

 クミコが一歩出ようとした瞬間、無線が入る。

 

「クミコ、出ない」

 

『はい』

 

 反射的に足が止まる。

 

「ミラ、前から二番目の子に振って」

 

『了解』

 

 ミラがすぐに前へ入り、その男子生徒ではなく、隣にいる友人へ話を振る。

 

「わあ、その荷物大きいね。持つの上手」

 

 突然の違う話題に、立ち止まっていた男子生徒が一瞬だけ顔を上げる。

 友人も反応して笑う。

 その隙に、クミコが後ろの流れだけを自然に少し下げる。

 

 詰まりは、声を荒げる前に消えた。

 

 ペルシアは、その一連を見ながら心の中で小さく頷いた。

 ミラはやっぱりこういう所が上手い。

 真正面から止めるのではなく、空気をずらして動かす。

 

「今の、よかった」

 

 無線へ小さく流す。

 

 ミラの返事はない。

 だが、それでいい。

 今は褒めて広げる時間でもない。

 

 教育便の搭乗は、旅客便のように“流れ”だけでは片づかない。

 不安、期待、緊張、友達との距離、先生の責任感、そういったものが全部混ざっている。

 だからこそ、ペルシアの耳はよく働いた。

 

 この保護者は、怒っていない。ただ急いでいる。

 この教師は、クレームを入れたいわけじゃない。ただ自分の責任で遅らせたくない。

 この生徒は、怖がっているように見えて、実際には“失敗して目立つのが嫌”なだけ。

 この子は元気そうに見えて、実は興奮しすぎて周りが見えていない。

 

 声の高さ。

 息継ぎの位置。

 語尾の尖り方。

 視線が向く方向。

 足の止まり方。

 そういうものが、ペルシアには全部“色”みたいに聞こえていた。

 

「ラン、今の先生、乗ったあとに一言いる。荷物の件、気にしてる」

 

『分かりました』

 

「アズサ、右後方の子、笑ってるけど高ぶりすぎ。座ったら一回水すすめて」

 

『はい!』

 

「クミコ、前方の二人、席近づけられるなら近づけて。離すと後で面倒」

 

『分かりました』

 

「ミドリ、荷物入れで詰まる前に先生使って」

 

『はい』

 

 無線が次々に飛ぶ。

 でも、不思議と混乱はしない。

 ペルシアの指示は短く、要点だけだからだ。

 何を見たのか、どうしてそう思ったのか、全部を説明しない。

 説明しなくても通るからだ。

 

 サリーが後方から静かに報告を上げる。

 

『後方列、着席完了しました。落ち着いています』

 

「了解。サリー、そのまま静かに回って。今の空気壊さないで」

 

『はい』

 

 その言い方ひとつにも、エリンとは違う色がある。

 エリンなら“安心してもらう”を前に出す。

 ペルシアは“空気を壊さない”を前に出す。

 

 どちらも正しい。

 でも、今日はペルシアの日だった。

 

 

 搭乗が終盤に差しかかった頃には、教職員達の表情もかなり落ち着いていた。

 

 最初にエリンの不在へ少し不安を見せた教師も、今はむしろ「今日は随分スムーズですね」と小さく口にしたほどだ。

 ペルシアはその言葉へ、笑って頷くだけに留める。

 

「ありがとうございます」

 

 それ以上は言わない。

 そこで余計に会話を広げるより、今の空気をそのまま機内へ運ぶ方が大事だと分かっているからだ。

 

 最後の数名が乗り込む。

 通路の流れが完全に船内へ吸い込まれ、エアポート側のざわめきが少しずつ後ろへ遠ざかる。

 

 ペルシアはそこで、ようやく大きく一つ息を吐いた。

 

 まだ終わっていない。

 むしろここからだ。

 でも、最初の山は越えた。

 

「全員、無線一回返事」

 

 その声で、皆んながぴたりと耳を澄ませる。

 

『ミラ、問題なしです』

 

『ラン、問題ありません』

 

『アズサ、大丈夫です』

 

『クミコ、前方落ち着いてます』

 

『ミドリ、中ほど安定してます』

 

『サリー、後方も大丈夫です』

 

 全員の声を聞き終えてから、ペルシアは小さく笑った。

 

「よし」

 

 その一言は短い。

 だが、今の七人にとっては何よりも大きかった。

 

「ここから本番よ」

 

 明るくも、厳しくもない。

 ただ、まっすぐな声だった。

 

「気抜かないでね」

 

 その言葉に、皆んなの返事が綺麗に揃う。

 

『はい!』

 

 機内の空気は、今確かに回り始めていた。

 

 エリンのように、皆んなの経験へ手を伸ばす余白はない。

 ペルシア自身がそう言った通りだ。

 でもその代わり、ペルシアは本気でこの便を回しに来ている。

 そのことが、乗務員一人一人にもはっきり伝わっていた。

 

 そして、それは不思議と怖さだけではなく、頼もしさへも変わっていく。

 

 クミコは自分の持ち場で小さく呼吸を整えながら思う。

 

(すごい……)

 

 何度目か分からない感想だった。

 でも、今日のそれは前より少し違う。

 

 エリンの凄さを見てきた。

 ラ・スペランツァの空気も見た。

 そして今、ペルシアの本気を、自分は同じ便の中で見ている。

 

 どちらも違う。

 でも、どちらも上に立つ人だ。

 

 そう思うと、胸の奥が少し熱くなった。

 

 教育便は、予定どおり離陸へ向けて動き始めた。

 そしてその最初の空気を整えたのは、間違いなくペルシアだった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 宇宙船がゆっくりとエアポートのドックを離れ、規則正しい振動と共に航路へ乗っていく。

 

 窓の外では、コロニーの光が少しずつ遠ざかっていた。

 最初は近くに見えていた連絡通路の灯りが細い筋になり、やがて人工の街並みそのものが一つの明るい塊になっていく。

 それを見て、生徒達のあちこちから小さな歓声が上がった。

 

「すごい……」

「ほんとに飛んでる……!」

「見て、あっち!」

 

 弾む声。

 高くなる息。

 押さえていた興奮が、離陸の感覚をきっかけに表へ出始めている。

 

 だが、同時に別の色もあった。

 座席の肘掛けを強く握っている子。

 笑ってはいるが声が少し上擦っている教師。

 友達と一緒にはしゃいでいるふりをしながら、身体だけがわずかに強張っている生徒。

 教育便の離陸はいつだってそうだ。

 期待と緊張が同じ速度で立ち上がる。

 

 ペルシアは、その全部を見ていた。

 いや、正確には、見ているというより“聞いていた”。

 

 足音、衣擦れ、息遣い、返事の間、声の色。

 それらは彼女にとって、単なる雑音ではない。

 客室の空気そのものだ。

 

 今の段階では、まだ大きく動く必要はない。

 シートベルトサインは点灯したまま。

 離陸直後に大袈裟に働きかければ、それだけで“何かあるのかもしれない”という余計な不安を生む。

 

 だからペルシアは、前方ギャレー寄りの位置で静かに立っていた。

 背筋を伸ばし、膝の力だけを抜いて、船体の微細な揺れを足裏全体で受けている。

 立ち姿は穏やかなのに、ほんの少しの無駄もない。

 

 ミラはその少し後ろで、通路全体を見渡していた。

 

 離陸前の搭乗から今まで、ペルシアの指示は短く、驚くほど的確だった。

 教育便における“最初の乱れ”をほとんど起こさせなかったと言っていい。

 だが、まだ本番はここからだとミラには分かっていた。

 

 エリンなら、この時点で客室全体へ薄い安心を広げていく。

 声をかけなくても、立つ位置や視線の置き方で“見ている”ことを伝える。

 それに対してペルシアは違う。

 

 ペルシアは、今この瞬間、客室全体に平等な安心を配ってはいない。

 必要なところだけを選んでいる。

 誰がどの色の緊張を持ち、どこでそれが問題になるか、その順番を決めているのだ。

 

 その違いが、ミラには少しずつ分かるようになってきていた。

 

 離陸後の揺れが一段落し、機内に穏やかな推進音だけが残る。

 やがて案内灯が切り替わり、シートベルトサインが解除された。

 

 その瞬間だった。

 

 ペルシアの動きが変わった。

 

 大きく何かをしたわけではない。

 ただ、立っているだけだった身体の“質”が変わったのだ。

 

 それまで客室全体を浅く包んでいた意識が、ここからは一点一点へ鋭く入っていく。

 柔らかいのに、深い。

 穏やかなのに、強い。

 

 クミコは、その空気の変化を背中で感じていた。

 さっきまでのペルシアも凄かった。

 でも今は、その凄さが一段、前へ出てきた気がする。

 

 ペルシアが無線へ小さく息を落とす。

 

「ミラ、左前方の先生、説明長い。気持ちは分かるけど、今は切って」

 

『了解です』

 

 ミラが即座に動く。

 前方左、若い教師が三人の生徒を相手に細かな注意を繰り返していた。

 内容は間違っていない。

 だが、生徒達の顔にはもう“聞いているふりをして聞いていない”色が出始めている。

 ここで長引くと、注意そのものの重みが消える。

 

「先生」

 

 ミラが柔らかく近寄る。

 

「ありがとうございます。この先の説明は、ラウンジ前でもう一度まとめて行いますので、まずは皆さん一度落ち着いていただきましょうか」

 

 教師は一瞬だけ戸惑ったが、すぐに表情を整えた。

 

「あ、そうですね。失礼しました」

 

 その声色はまだ少し上ずっていた。

 だが、ペルシアはもう次を見ている。

 

「ラン、後方通路。窓側の女の子、酔いじゃない。恥ずかしがってるだけ」

 

『分かりました』

 

 ランは穏やかな足取りで後方へ回る。

 窓側に座る少女は、離陸前から口数が少なかった。

 だが表情の悪さも、顔色の変化もない。

 ただ、隣の友達が何か言うたびに返事が遅れ、肩が少しだけ内側へ入っている。

 

 ランはその子の隣へしゃがみ、周囲へ聞こえすぎない声で話しかけた。

 

「景色、すごく綺麗ですよね」

 

 少女が、わずかに目を上げる。

 

「……はい」

 

「もしよかったら、後でラウンジ側の大きい窓もご案内できますよ」

 

 それは“大丈夫?”ではない。

 心配を押しつけない誘いだ。

 少女の肩が、ほんの少しだけ下がる。

 

「クミコ、右列七番。あの子、水じゃなくてまず先生」

 

『はい!』

 

 クミコはすぐに右列へ視線を走らせた。

 そこでは男子生徒が一人、平気そうな顔をしながら何度も唇を舐めていた。

 喉が渇いているのではない。

 誰かに助けを求めるか迷っている子の癖だ。

 

 そして、その隣の教師は今、別の生徒に意識を取られている。

 ここで先に水を出せば、その子は“自分だけ特別扱いされた”と余計に緊張する。

 まず教師の意識をこちらへ戻す方が先。

 

「先生」

 

 クミコは小声で呼び、目線だけでその子を示した。

 

 教師は、はっとしたように頷く。

 

「あ……ありがとう」

 

 その短いやり取りだけで十分だった。

 教師が一歩近づき、男子生徒へ自然に声をかける。

 そこへクミコがタイミングを合わせて「お水、お持ちしますね」と入る。

 それで、“特別な対応”ではなく“今ここに必要な流れ”になる。

 

 アズサは中ほどの通路で、まだ少し身体が硬かった。

 教育便の本番だ。

 緊張するなと言う方が無理だろう。

 

 だが、ペルシアはその緊張さえ利用する。

 

「アズサ、前見すぎ。左の二人、今から騒がしくなる」

 

『えっ、あ……はい!』

 

 アズサが慌てて視線を左へ送る。

 そこには、ラウンジへ行きたくてうずうずし始めている男子生徒二人組。

 まだ立ち上がってはいない。

 けれど、膝が前へ出るタイミングと、声の高さで分かる。

 

「“まだ立たないで”じゃなくて、“最初に行ける順番”を渡して」

 

『分かりました!』

 

 アズサは素直だ。

 その素直さが、今日のペルシアの下では強みになる。

 

「二人とも」

 

 アズサが笑顔で寄る。

 

「ラウンジは順番にご案内するから、最初の組に入れるように今ここで待っててくれる?」

 

 その言い方に、二人の目がぱっと輝く。

 

「最初!?」

「ほんとに!?」

 

「うん、だから今は座って待っててね」

 

 “駄目”ではなく、“待つ意味”を先に渡す。

 ペルシアは、それをさせたかったのだ。

 

 機内の空気は、ゆっくりとほどけていく。

 だが、ほどけるだけでは駄目だ。

 ほどけた先で散らばらせず、きちんと流れに乗せる必要がある。

 

 ペルシアの動きは、そこからさらに洗練されていった。

 

 

 航行が安定し、教育便らしい活動時間へ入ると、生徒達は少しずつ席を離れ始めた。

 

 ラウンジ側の大きな窓を見たがる子。

 友達同士で食堂スペースを覗きに行きたがる子。

 先生に質問をしようと立ち上がる子。

 何か飲みたくてきょろきょろし始める子。

 

 それらは全部、想定の範囲内だ。

 だが想定内だからこそ、雑に処理すると一気に空気が崩れる。

 

 ミドリは、ここからが本当に苦手だった。

 

 動線そのものは分かる。

 席からラウンジへ。

 ラウンジから食堂スペースへ。

 そこからまた席へ戻す。

 

 でも、実際の生徒は動線図みたいには動かない。

 途中で友達を見つけて立ち止まる。

 窓に近づいたと思えば、また反対の通路へ戻る。

 先生に呼ばれたと思ったら、別の子がその流れへ乗ってくる。

 

 訓練では何度もやった。

 だが本番の雑味は、やはり違う。

 

 そんなミドリへ、無線が入る。

 

「ミドリ、立ち止まる子を止めるな。動かして」

 

『はい……!』

 

「“立ち止まらないで”じゃなくて、“あっち空いてるよ”って流して」

 

『分かりました!』

 

 ミドリは、そこでようやく自分の肩に入っていた力に気づく。

 止めようとしていた。

 整列させようとしていた。

 でも今必要なのは、綺麗に並べることではなく、詰まらせずに流すことだ。

 

「あっちの窓、今なら見やすいよ」

 

 ミドリが声をかけると、通路中ほどでかたまりかけていた三人がそちらへ動く。

 すると、その後ろにいた二人も自然に流れる。

 

 “止める”と空気は固まる。

 “流す”と、子ども達は自分で動き出す。

 

 ミドリは、その感覚を身体で覚え始めていた。

 

 一方、サリーは静かに強かった。

 

 後方の席へ戻ってくる生徒達の呼吸を見て、どの子が“少し疲れた”なのか、“まだ興奮の途中”なのかを見分けている。

 その上で、今何を言うと戻りやすいかを選ぶ。

 

「少しだけお席で休憩しましょうか」

「次は先生と一緒に行くと見やすいですよ」

「この後、飲み物も出ますから」

 

 どれも穏やかな言葉だ。

 けれど、使い分けがある。

 ペルシアはそれを聞きながら、内心で小さく頷いた。

 

(サリーはやっぱり、崩れにくいわね)

 

 派手さはない。

 でも、こういう便では非常に強い。

 

 そしてその頃には、ペルシア自身の動きもさらに研ぎ澄まされていた。

 

 最初は一歩引いた位置から全体を見ていた彼女が、今は客室の中へ滑り込むように入っている。

 それでも前に出過ぎない。

 でも、必要な時には誰よりも自然にそこにいる。

 

 教師が手元の資料を落としかけた瞬間には、既に拾いやすい角度に身体が入っている。

 ラウンジ前で生徒の会話が熱くなりすぎた時には、一言も咎めずに飲み物の話題へずらす。

 後方席で友達同士の距離が近づきすぎ、周囲の子が居心地悪そうにしていれば、座席の使い方を変えずに視線だけで空気を切り替える。

 

 その一つひとつが、あまりに自然だ。

 

 クミコは、水差しを持って前方から戻る途中で、思わず見入ってしまった。

 

 洗練されている。

 そうとしか言えない。

 

 ただ上手いのではない。

 動きに無駄がないだけでもない。

 必要なものだけが残っている。

 

 歩幅。

 止まる位置。

 手を伸ばす高さ。

 相手の正面へ立たず、少し斜めへ入る角度。

 そして、声をかける前の“間”。

 

 それら全部が、何年も積み上げた人の動きだった。

 

 アズサも、ラウンジ前で一瞬それを見て息を呑んだ。

 

 ペルシアは今、ただ生徒達の様子を見ていた。

 けれど、その“見る”だけが、既に違う。

 

 じっと凝視しない。

 見られていると気づかせない。

 なのに、必要な瞬間にはちゃんと拾っている。

 

 アズサは、自分のさっきまでの“前見すぎ”を思い出して、少し頬が熱くなった。

 自分は見ようとしていた。

 でも、ペルシアは“拾っている”。

 その違いは、とても大きかった。

 

 

 ほどなくして、飲み物提供の時間が来た。

 

 教育便では、ここで一度大きく空気が変わる。

 離陸と移動の緊張が落ち着き、船内での時間を“楽しいもの”として実感し始める瞬間だ。

 

 だからこそ、下手をすると一気に気が緩み、全体が散らかる。

 

 ペルシアはその前に、短く無線を飛ばした。

 

「ミラ、ラン。今から十分だけ“広げる”」

 

『了解』

 

『分かりました』

 

「クミコ、アズサ、飲み物の受け渡しで会話長引かせない」

 

『はい』

 

『はい!』

 

「ミドリ、サリー。戻し動線だけ見て。サービスは二の次」

 

『分かりました』

 

『はい』

 

 指示が、前よりもさらに細くなっている。

 細いのに、むしろ分かりやすい。

 それは、ペルシアがもう一人一人の今の状態を掴んでいるからだ。

 

 ミラとランは、ここで一歩前へ出た。

 

 ミラは飲み物を渡しながら、必要以上に話を広げない。

 だが、短い会話の中で“今この子がどんな気分か”だけは拾う。

 

「冷たいのと温かいの、どっちがいい?」

「え、温かいのもあるの?」

「あるよ。今日はちょっと特別」

 

 それだけで、その子の顔がぱっと明るくなる。

 

 ランは教師側へ入る。

 生徒達へ意識を向け続けている先生方に対して、「先生も一息つけますよ」という空気を作る。

 

「お飲み物、こちらでお持ちしますね」

「ありがとうございます」

「今は生徒さん達も落ち着いてますので、先生も少し座っていてください」

 

 その一言で、教師の呼吸が緩む。

 そして教師が落ち着けば、その空気はそのまま生徒へも伝わる。

 

 クミコは、そこへ入るように飲み物を配る。

 

 以前の自分なら、“丁寧に渡さなきゃ”が先に立ちすぎていたかもしれない。

 でも今日は違う。

 ペルシアに言われた通り、“会話を長引かせない”ことを意識する。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「熱いのでお気をつけください」

 

 それだけ。

 けれど、その短さが全体の流れを止めない。

 

 アズサも、最初の数杯こそ少し硬かったが、途中からは明らかに動きが良くなっていった。

 飲み物を渡す時に、誰へ“今少しだけ笑顔を足す”べきか、誰へは“余計な言葉を足さない方がいいか”、それを考えながら動けるようになってきている。

 

 その頃、通路の奥で小さな問題が起きかけていた。

 

 男子生徒二人が、ジュースを受け取った勢いでそのまま後方窓側へ走りそうになったのだ。

 走れば危ない。

 でも、ここで強く止めれば空気が変わる。

 

 ペルシアは、一歩も動かずに無線を飛ばす。

 

「サリー、止めない。先に窓側を埋めて」

 

『はい』

 

 サリーはすぐに、一番近い三人組へ穏やかに声をかける。

 

「今ならこちらの方が綺麗に見えますよ」

 

 その一言で、別の生徒達が先に窓側へ寄る。

 走りそうだった二人は、結果的にその勢いをなくして歩調を落とした。

 

 走らせないために叱るのではなく、走る意味を消す。

 それがペルシアのやり方だった。

 

 ミドリは、それを見ながら内心で息を呑む。

 

(そうやって止めるんだ……)

 

 自分なら反射で「走らないで!」と出ていたかもしれない。

 でもそれでは“注意された”が残る。

 今のやり方なら、空気はそのままだ。

 

 ペルシアの洗練は、ここでさらに強くなっていく。

 

 ただ正しいだけではない。

 ただ優しいだけでもない。

 客室の空気を壊さずに、必要な結果だけを取る。

 

 それがどれほど高い技術なのか、七人の乗務員達は嫌というほど目の当たりにしていた。

 

 

 飲み物提供が一段落したあと、ようやく客室全体に安定した時間が流れ始めた。

 

 窓際で静かに景色を見ている子。

 食堂スペースで先生と一緒にワークシートを広げている子。

 小さな声で感想を言い合う生徒達。

 先ほどまで緊張していた教師も、ようやく背もたれへ身体を預けている。

 

 ここまで来て、初めてペルシアは少しだけ前へ出た。

 

 通路をゆっくり歩く。

 姿勢は真っ直ぐ。

 でも威圧感はない。

 柔らかく、しなやかで、それでいて“ここは自分の客室だ”という絶対的な強さがある。

 

 その姿を、ミラは前方から見ていた。

 

 ペルシアの動きは、エリンとはまた違う意味で“客室を支配している”。

 エリンは空気を整え、人が安心して自分のままでいられる状態を作る。

 ペルシアは、空気の波そのものを読み、強くなりすぎたところを削り、弱くなりすぎたところを押し上げる。

 

 どちらも乗務員として極めて高い。

 でも、その出し方が全く違う。

 

 ランは、その違いを言葉にはしなかったが、静かに感じ取っていた。

 だからこそ今日は、ペルシアの下で学ぶべきことが明確だった。

 

 “読む”こと。

 “押す”こと。

 そして“本番で回す”こと。

 

 ペルシアは、前方へ戻る途中で一度だけ無線へ落とす。

 

「皆んな、今のところ悪くないよ」

 

 その一言に、七人の胸が少しだけ熱くなった。

 

 褒められた。

 派手な言葉ではない。

 でもペルシアからの“悪くない”は、十分すぎるほど重い。

 

 そして、すぐに続く。

 

「でも、まだ甘いところあるからね」

 

 やっぱり、そこで終わらない。

 

 クミコは思わず小さく笑ってしまった。

 ミラもランも、わずかに口元を緩める。

 これだ。

 これがペルシアだ。

 

 客室の航行はまだ続く。

 教育便としてはまだ前半。

 だけど、既に七人は確かに感じていた。

 

 ペルシアの洗練された乗務員としての動きが、離陸直後よりも今、さらに強くなっていることを。

 そしてその“強さ”は、決して前へ押しつけるものではなく、客室そのものを静かに掌握していく種類のものだということを。

 

 スペースホープの教育便は、今、これまでとは少し違う質で回り始めていた。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 木星のコロニーが視界へ入った頃には、教育便の客室は、出発直後とは別の落ち着きを帯びていた。

 

 窓の外へ顔を寄せていた生徒達の声も、最初の頃の弾んだ高さではなく、どこか感嘆に近いものへ変わっている。

 先生方も、最初に見せていた張りつめ方は薄れ、代わりに「ここまで問題なく来られた」という安堵が表情の端に見えていた。

 

 そして、その空気の変化を誰より先に拾っていたのがペルシアだった。

 

 客室前方に立つ姿勢は少しも崩れていない。

 離陸後からずっと、ペルシアは必要な時にだけ前へ出て、必要のない時は一歩引き、全体の空気を壊さない位置にいた。

 それは終盤に差しかかった今も変わらない。

 

 木星コロニーへの到着が近づくにつれ、生徒達の集中はもう一度揺れやすくなる。

 外の景色に意識を奪われ、着席の意識が散り、荷物の確認や先生同士の声の掛け合いが重なる。

 着陸前の数分というのは、教育便に限らず、案外空気が崩れやすいのだ。

 

 だからペルシアは、むしろここからの方が指示の密度を上げた。

 

「ミラ、前方三列、声量下げて」

 

 無線が入る。

 

『了解です』

 

「ラン、先生方に一回視線入れて。荷物先にまとめさせて」

 

『分かりました』

 

「クミコ、右後方の子、窓から戻れない顔してる。声じゃなくて合図だけ」

 

『はい』

 

「アズサ、案内は一回止めていい。今は座らせる方優先」

 

『はい!』

 

「ミドリ、サリー、後方から戻し始めて。詰まらせないで」

 

『はい』

 

『承知しました』

 

 短い。

 だが、乗務員達にはもう十分に伝わる。

 

 ミラは前方通路へ半歩入り、生徒達が高くなりかけた声を笑顔一つで落としていく。

 ランは教師達の視線を自然にまとめ、次の動きへ誘導する。

 クミコは通路沿いに身体の向きを一つ変えるだけで、窓へ張りついていた女子生徒の意識を席へ戻した。

 アズサは言われた通り“案内役”をやめ、“戻す側”へ徹する。

 ミドリとサリーは後方の空気を崩さないように、でも立ち止まりだけは起こさせない。

 

 その一つひとつが、今日は確実に噛み合っていた。

 

 ペルシア自身は、もうほとんど走らない。

 必要なものは必要な場所へ先に置かれているし、必要な言葉はもう先回りして飛ばしてある。

 あとは、崩れそうな一箇所を見つけたら、そこへだけ手を入れればいい。

 

 洗練されていた。

 

 教育便という、人の期待と不安がまじる便の中で、ペルシアの動きは時間が経つほど鋭くなっていく。

 最初は“久々のチーフパーサー”として空気を測っていた。

 だが運航が中盤を過ぎ、今やそれは完全に“客室を掌握した人”の動きになっていた。

 

 そして。

 

 宇宙船は、予定どおり木星のコロニーへ到着した。

 

 着陸の微かな振動が収まり、案内灯が切り替わる。

 機内にほっとしたような空気が広がる中で、ペルシアの声だけが最後までぶれなかった。

 

「ミラ、前方から開けて」

 

『はい』

 

「ラン、先生方先導お願い」

 

『分かりました』

 

「クミコ、アズサ、荷物口で詰まらせない」

 

『はい!』

 

『はい!』

 

「ミドリ、サリー、後方列、焦らせないで出して」

 

『はい』

 

『承知しました』

 

 最後まで、指示は飛ぶ。

 最後まで、客室の流れは切らさない。

 

 生徒達が順番に降りていく。

 先生方も、さっきまでの緊張を残さない顔でペルシアへ軽く会釈をしたり、乗務員達へ礼を言いながら通路を進んでいった。

 

 クミコは、その背中を見送りながら、ふと胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

 出来た。

 ちゃんと、最後まで回った。

 

 もちろん、ペルシアがいたからだ。

 ミラもランも、皆んなも、それぞれに動いた。

 でも、それら全部を一本の流れにしたのは間違いなくペルシアだった。

 

 そしてそれは、本人が最後まで一度も誇ることのなかった事実でもある。

 

 

 全員が降り、客室内の確認と簡単な整理が一段落したあと、乗務員達はコロニー側の待機スペースへ集まっていた。

 

 休憩三十分。

 その間に、教職員や生徒達は心を落ち着かせるとともに、トイレ休憩を行い、乗務員側も軽い休憩と情報の確認を挟むことになっている。

 

 待機スペースは、宇宙港特有の人工光に満ちていた。

 白く清潔な壁。

 遠くから聞こえる案内放送。

 移動する人々の足音。

 その一角に、スペースホープの七人が自然と集まっていた。

 

 ペルシアは壁際のベンチへ腰掛けるでもなく、軽く背を預けるようにして立っている。

 まだ完全には気を抜いていないのが分かる。

 ミラとランは一歩引いた位置で周囲を見ていたし、クミコ達もそれぞれ飲み物を手にしながらも、まだどこか背筋が伸びたままだった。

 

 その時だった。

 

「あの……」

 

 控えめに声がした。

 

 振り向くと、今日同行している教師の一人が、少し緊張したような顔でこちらへ来ていた。

 四十代前半ほどの男性教師だ。

 離陸前から責任感が強く、その分だけ空気を固くしていたが、運航中にランが上手く落とした人物でもある。

 

「なんでしょうか?」

 

 ペルシアが、ごく自然に応じる。

 

 教師は、一瞬だけ迷ったあと、思い切ったように口を開いた。

 

「ペルシアさんって……その、宇宙管理局のペルシアさん、ですか?」

 

 その質問に、ミラもクミコも目を瞬いた。

 

 宇宙管理局の。

 ということは、ただの“今日の責任者”としてではなく、もっと別の何かとして認識されているのだ。

 

 ペルシアはほんの一拍だけ間を置いてから、あっさりと答えた。

 

「そうですが?」

 

 その瞬間だった。

 

「やっぱり!」

 

 教師の顔がぱっと明るくなる。

 

「ラスペランッァのペルシアさんですよね!?」

 

 “ラスペランッァ”という単語が出た途端、近くにいた別の教師が「えっ」と振り向き、生徒の何人かまでその言葉に反応した。

 

「ラスペランッァ!?」

「え、あの!?」

「本物!?」

 

 待機スペースの空気が一気に変わる。

 

 ミラとクミコは、そこでようやく事態を理解した。

 そうだ。

 ペルシアは自分達にとっては“今日のチーフパーサー”であり、“エリンの同僚”であり、“時々ふざけるけど本気だと凄い人”だ。

 だが、外から見れば違う。

 

 宇宙管理局に属し、ラ・スペランツァの一員として名前を知られている。

 一般の人や教育関係者からすれば、“伝説に片足を突っ込んだ実在の人”みたいなものなのだ。

 

 教師は目を輝かせたまま続ける。

 

「私、昔ニュースで見ました! 捜索任務の時も、救助任務の時も……!」

 

「え、じゃあほんとにラスペランッァの!?」

「すご……」

 

 生徒達の声が少しずつ広がっていく。

 

 そのざわめきの中で、スペースホープの乗務員達もまた、改めて“自分達が今誰の下で働いていたのか”を突きつけられたような気持ちになっていた。

 

 アズサはぽかんと口を開けたままだ。

 ミドリは目を見開き、サリーでさえ少しだけ驚きを隠せていない。

 クミコは、さっきまでの緊張とは別の意味で、背筋がぴんと伸びるのを感じた。

 

 尊敬の念。

 

 まさに、それだった。

 

 客室では厳しく、短く、無駄なく指示を飛ばしていたペルシア。

 その姿だけで既に凄かった。

 でも今、“ラスペランッァのペルシア”という名前がついたことで、その凄さがまた別の重みを持って迫ってくる。

 

 ミラは一瞬だけ、ランと視線を合わせた。

 ランも小さく目を丸くしている。

 

 だが、その直後。

 

 ペルシアの口元が、ゆっくりと持ち上がった。

 

 それは、本当にわずかな変化だった。

 けれどミラとランには、嫌というほど分かる。

 

(あ、まずい)

 

 二人がまったく同じことを思った瞬間には、もう遅かった。

 

 これまで身を引き締めていたペルシアにとって、この尊敬と注目は、調子に乗るには十分すぎる燃料だったのだ。

 

「やだ、そんな有名だったの?」

 

 ペルシアが、いかにも嬉しそうに言う。

 

 教師が勢いよく頷く。

 

「有名ですよ! 私、宇宙船関係の特集を見るのが好きで!」

 

「へえ、嬉しいじゃない」

 

 ペルシアの声色が、明らかに一段明るくなる。

 

 ミラが心の中で(ああ……)と遠い目をした。

 クミコはまだ事態の深刻さを完全には掴めていない。

 ただ、ペルシアさん、すごいな、と純粋に感動している。

 

「ラスペランッァって、やっぱり凄いんですか!?」

 

 と、生徒の一人が目を輝かせて聞いてきた。

 

 それが決定打だった。

 

「凄いわよぉ」

 

 ペルシアが、もう完全にご機嫌な声で答える。

 

「だって、あのメンバーよ?」

 

 教師も生徒も、乗務員達まで自然とペルシアの方へ引き寄せられる。

 

 壁際だったはずの待機スペースが、あっという間に小さな輪になった。

 

「リュウジはね、あれでも結構細かいのよ。顔に出ないだけで」

「えー!」

「クリスタルなんて、いつも冷静ぶってるけど昔はもっと尖ってて」

「ほんとですか!?」

「チャコはおしゃべりで、でも肝心な時はちゃんと強いの」

「わあ……」

 

 そこまではまだよかった。

 

 実際、面白い。

 ペルシアの話し方には人を引き込む力があるし、本人が楽しそうに話すと、聞く方までつい笑ってしまう。

 教師達も生徒達も、完全に引き込まれていた。

 

 そして当然のように、その話題はエリンへ飛んだ。

 

「じゃあ、エリンさんもラスペランッァの方なんですか?」

 

 教師の一人が聞く。

 

 ペルシアが待ってましたとばかりに頷く。

 

「もちろん」

 

 ここで、ミラとランの背中が同時にぴんと張った。

 

「エリンはね、真面目すぎるのよ」

 

 ペルシアが手振りを交えて話し始める。

 

「もう、びっくりするぐらい真面目。こっちがちょっと冗談で流そうとしたら、あの子だけ全部真正面から受け止めるんだから」

 

 生徒達から笑いが起きる。

 教師達も頬を緩める。

 

「昔、学校でね、腹筋して声が上擦ってるってだけでやり直し食らって、終わったあとトイレでこっそり泣いてたの」

 

「ええっ!?」

 

 声が上がる。

 

「でもね、次の日にはケロッとした顔で戻ってきて、“今日は昨日より出来ると思う”とか言うのよ」

 

 ペルシアが、わざとエリンの真似をした少し澄ました声を出す。

 

 それが妙に似ていて、笑いが広がる。

 

「あとね、怖いの。ほんとに」

「エリンさんがですか!?」

「そう! 優しい顔してるけど、仕事になるとめちゃくちゃ怖いのよ」

 

 そこで、ペルシアはわざと背筋をぴんと伸ばし、エリンそっくりの口調を真似してみせた。

 

『ペルシア、それ、必要?』

『今それ言う意味ある?』

『面白いけど、後にして』

 

 その真似が、また妙に的確だった。

 

 教師達も生徒達も、乗務員達まで吹き出してしまう。

 ミドリは思わず口元を押さえ、アズサは「似てる……!」と小さく呟いた。

 サリーでさえ、肩を揺らしていた。

 

 ペルシアは、完全に乗っていた。

 

「でもね、あの子、全部ちゃんと見てるのよ。誰がどこで無理してるとか、何が足りないとか。だから怖いんだけど」

 

 そこまでは、ちゃんと尊敬も滲んでいる。

 けれど、やっぱり話し方は面白おかしくなる。

 

「この前なんてね、――」

 

 どんどん話が出てくる。

 エリンがどれだけ真面目か。

 どれだけ細かいか。

 どれだけ必要なところで鬼みたいな顔になるか。

 でもその奥で、どれだけ人を見ているか。

 

 聞いている側は笑う。

 笑いながら、でも同時に“やっぱり凄い人なんだ”と分かる。

 ペルシアの話は、からかっているようでいて、ちゃんと人の凄さを伝えるのだ。

 

 そしてそれが、さらにペルシア自身を調子づかせた。

 

 問題は一つだけ。

 

 休憩時間が、三十分しかないことだった。

 

 

 一方その頃――。

 

 アルテミスの中は、静かな時間が流れていた。

 

 出発してから二日。

 船内の音は、もう身体の一部になりつつある。

 一定の駆動音。

 時折変わる補助制御の響き。

 生活区画へ抜ける空調の低い唸り。

 

 コックピットは、今は比較的落ち着いている時間帯だった。

 

 サツキとマリは仮眠室で交代休憩に入っている。

 チャコは副操縦席で軽く身体を預け、クリスタルは補助席寄りで記録をまとめていた。

 リュウジは機長席で前方表示を眺めながら、淡々と航路を追っている。

 

 そんな中で、エリンは静かに飲み物を配っていた。

 

 誰にも気づかれないように。

 いや、正確には“気づかれてもいいけれど、意識を割かせないように”だ。

 

 クリスタルの手元へ水を置く。

 チャコの方へはジュースのパック。

 そしてリュウジの横へ、コーヒーをそっと置いた。

 

 その瞬間だった。

 

「何か気になる事でも?」

 

 リュウジが、前を向いたまま言った。

 

 エリンの手が、ほんのわずかに止まる。

 

「どうしたんや?」

 

 チャコが耳を動かして振り向く。

 

 クリスタルも、記録端末から顔を上げた。

 

「エリンさん、何かありました?」

 

 リュウジが今度は少しだけ視線を向ける。

 

 エリンは、そこで小さく苦笑した。

 

「……よく分かるわね」

 

 チャコが思わず口笛でも吹きそうな顔をする。

 

「よう気づいたな」

 

「流石、リュウジね」

 

 クリスタルも少しだけ目を細めた。

 

 リュウジは、ごく自然に答える。

 

「僅かですけど、エリンさんの気配がありましたから」

 

 その言い方に、チャコが「何やそれ」とにやりとし、クリスタルは「はいはい」と肩をすくめる。

 

 エリンはそんな反応に苦笑を深めながら言った。

 

「今日は、スペースホープで教育便があるのよ」

 

「ああ」

 

 クリスタルがすぐに頷く。

 

「ペルシアがチーフパーサーとして乗ってるのよね」

 

「ええ」

 

 エリンはコーヒーのカップを置き直すようにしながら答えた。

 

「大丈夫だとは思うけど」

 

「ペルシアなら大丈夫やろ」

 

 チャコがあっさり言う。

 

「実力的には問題ないはずだ」

 

 リュウジも淡々と続ける。

 

「ええ、私もそう思うけど」

 

 エリンはそこで少しだけ笑みを浮かべた。

 

「乗務員以外のところがね」

 

 その一言に、チャコとクリスタルが同時に「ああ」とでも言いたげな顔をする。

 リュウジも、ほんのわずかに視線を落とした。

 

 粗相。

 その単語を誰も口にしない。

 でも、全員が同じものを思い浮かべていた。

 

「褒められたりすると、止まらん時あるからなあ……」

 

 チャコが遠い目をする。

 

「あるわね」

 

 クリスタルが即答する。

 

「あの子の実力と、調子に乗る速度がきれいに比例してるのよ、あの子」

 

「やっぱりそうなんやな」

 

「ええ」

 

 エリンは肩をすくめる。

 

「粗相がなきゃいいんだけど」

 

 その言い方が、本気で心配しているのに少しだけ楽しそうでもあって、三人は揃って苦笑した。

 

 ペルシアが本当にまずい失敗をするとは思っていない。

 実務では隙がない。

 でも“休憩時間”や“褒められた後”の扱いが少々危ういことを、皆んなよく知っている。

 

 リュウジが、コーヒーへ口をつける前に小さく言う。

 

「ミラとランがいれば、止めると思います」

 

 エリンは、その言葉に少しだけ表情を和らげた。

 

「そうね」

 

 確かに。

 あの二人なら、必要なところでは止められる。

 特に今のミラとランは、エリンの下で随分と“支える側”の視点が育ってきている。

 

 エリンはそう思いながらも、やはり心のどこかで映像を見たい気持ちを捨てきれなかった。

 

 

 そして。

 

 エリンの予想は、見事に的中していた。

 

 木星コロニーの待機スペースでは、休憩時間が三十分で終わるどころか、十分近く過ぎてもペルシアの話が続いていた。

 

「それでね、エリンったら――」

 

「ペルシアさん」

 

 ミラが、ついに笑顔のまま割って入った。

 

 タイミングは慎重に選んだ。

 教師も生徒も完全に話へ乗っている。

 ここで強く切れば、せっかく出来た空気に水を差す。

 でも、切らなければ本当に戻しが間に合わない。

 

「そろそろ移動準備のお時間です」

 

 声は柔らかい。

 けれど、曖昧さはない。

 

「えー、あと一個だけ」

 

 ペルシアが本気で残念そうに言う。

 

 教師達が笑う。

 生徒達も「聞きたいー!」と口々に言い出す。

 

 それでも、今度はランが一歩前へ出た。

 

「だめです」

 

 穏やかな声だった。

 だが、その一言は綺麗に線を引いていた。

 

「この後に響きます」

 

 その言い方に、空気が少しだけ止まる。

 

 ランは笑っていた。

 でも、その笑顔は“ここまでは許すけど、ここからは動きます”という時のものだ。

 ミラもその隣で静かに頷いている。

 

 ペルシアは、その二人の顔を見て、数秒だけ黙った。

 そして、ふっと吹き出す。

 

「……はーい」

 

 やっと引いた。

 

 クミコがそこで内心大きく息を吐く。

 アズサは危うく「助かった……」と声に出しそうになり、ミドリとサリーも小さく肩の力を抜いた。

 

「ごめんごめん」

 

 ペルシアは悪びれずに笑う。

 

「ちょっと喋りすぎた」

 

「ちょっとじゃないですよ」

 

 ミラが、珍しくきっぱり言う。

 

 ランも柔らかく続ける。

 

「でも皆さんも、この後のプログラムがあるので」

 

 教師達もそこで「そうですね」と頷き始めた。

 生徒達はまだ少し名残惜しそうだったが、乗務員達が静かに動き出したことで、空気は自然と折り返し準備へ戻っていく。

 

 ペルシアは、そんな流れを見ながら小さく笑った。

 

「やだ、二人とも」

 

 ミラとランが同時にペルシアを見る。

 

「ちょっとエリンみたいだった」

 

 その一言に、周囲がまた少し笑う。

 ミラとランは、顔を見合わせ、それから少しだけ困ったように笑った。

 

 エリンの予想は当たっていた。

 粗相、とまでは言わない。

 でも、確かにペルシアは調子に乗った。

 

 ただ、その調子に乗り方さえも、最後にはきちんと止められた。

 それが今のスペースホープの乗務員達なのだと、ミラもランも、そしてペルシア自身も、少しだけ誇らしく思っていた。

 

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