ヒロイン全員俺の嫁    作:平成オワリ

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第18話 ヒロインに甘える

 四天王を集めて格好良いところを見せようと思った俺は、盛大なブーメランにより敵認定された。

 放課後のことを一言で表すなら、そういうことだろう。

 

 おのれ歴史の修正力め。

 この程度で済んだからまだ力ずくで解決していないが、もしこれで戦争になりそうだったら大陸の勢力図を変えることも辞さないぞ俺は。

 

「……あのクロード君。なにかあったの?」

 

 シンシアと手を繋ぎながら水の都リンディウムを歩いていると、そんな風に声をかけられる。

 しまった、どうやら先ほどの件を思いだし、不機嫌な顔が出てしまっていたらしい。

 

「いや、なんでもないよ。変な顔しちゃってごめんな」

「……」

 

 こんなに可愛い恋人との時間なのだ。

 しかも今日はせっかくの制服デートなのに、これは良くない。

 

 いつも通りの顔を意識して笑顔を見せるが、シンシアの表情は曇ったまま。

 だがそれもなにかを決意したような目をすると、俺の手をぎゅっと強く握って引っ張り始める。

 

「こっち来て」

「え? ああ」

 

 そうしてお互い無言のまましばらく歩くと、長い階段を上った先の高台まで連れて来られる。

 シンシアは一番高い場所にある一本の大樹の下まで連れてくると、ゆっくり座り込む。

 

 真似をするように俺も座り彼女の視線を追うと、リンディウムの街を一望出来た。

 

「おお、これは壮観だ」

「ここね、私のお気に入りの場所なんだよ」

 

 水の都と言われるだけあり、上から見ると街の中を大きな水路が何本も交差して流れているのがわかる。

 今日は天気もよく、太陽の光と優しく撫でる風が心地良い。

 

 地面に生える芝も綺麗に整えられていて、横には銀髪の美少女。

 このシチュエーションは男の夢の一つと言っても良いだろう。

 

「やっと自然に笑ってくれた」

「え?」

「クロード君、ずっと苦しそうだったから」

「シンシア……」

 

 正直、別に四天王の面々に敵対されても大した痛手ではない。

 元々の目的は一学年の生徒を無理矢理派閥に入れるのを防ぐことで、それは達成された。

 

 原作キャラと言っても今はほぼ赤の他人だし、今回は誤解があったが、機会があればこれから交流を深めれば良いだけの話。

 

 ただ、結局二年生たちによる学園戦国時代の到来は防ぐことは出来ないのだということ。

 そしてそこに俺が巻き込まれるということ。

 

 ただ、冗談のつもりで思っていた歴史の修正力。

 

 もしこれが本当に起きるのであれば、ソルト王たちは不幸になり、そして大陸全土を巻き込んだ世界大戦が始まってしまうのではないか。

 俺のせいでももっと悲惨な出来事に発展してしまうのではないか。

 

 幼い頃から自分の背を追うようについてきた不安が、再び浮かび上がってきたのだ。

 

「大丈夫だよ。クロード君がみんなのために頑張ってるのは、私が知ってるもん」

 

 不意に、俺の手を握るシンシアの力が強くなる。

 彼女の温もりが伝わって来て、不安がどこかに消えていくのがわかった。

 

 横に座る彼女を見ると、膝を抱えて優しげにこちらを見ている。

 木漏れ日に反射する銀髪や、サファイヤのように綺麗な瞳は美の女神のようで……。

 

「シンシア……」

 

 無意識に彼女の名前を呟く

 繋いだ手と反対の手を伸ばし、頬を撫でると少し気持ちよさそうに目を細めた。

 

 欲しいと思った。

 なんだか色々と考えていたが、そんなもの全部吹き飛び、ただ目の前の女神を自分の手に抱きしめたいと思った。

 

 そう思ったときにはすでに手を離して、彼女を抱き寄せていた。

 

「わ、え? クロード君?」

「駄目か?」

「だ、めじゃない、けど……」

 

 大樹に持たれ正面から抱きしめると、彼女の柔らかい身体を全身で感じることが出来る。

 俺の膝の上に跨がり、最初は恐る恐るだったシンシアも、俺を受け入れてくれて両手を首の後ろに回してくれた。

 

 そうすると俺たちの顔は真正面から見つめ合うことになる。

 

「ん……」

「恥ずかしい?」

「うん、少し……」

 

 照れた顔をしたシンシアが可愛く、つい悪戯をしたくなった。

 

 腰に置いている手を髪の毛に置くと、シルクのように柔らかい。

 思わずずっと触れていたくなり、癖になりそうだ。

 

 気持ちよさそうな顔をするが、それが俺の悪戯だとわかったのか少しだけ拗ねたような顔に変わった。

 

「私もする」

 

 シンシアが俺の髪を梳くように何度も撫でる。

 しなやかな指に触れられると、極上のマッサージを受けているようで、俺の顔は今だらしないものに変わっていることだろう。

 

「ふふ、可愛い」

 

 目を細めて小悪魔的な表情をするシンシアを見て、心臓が跳ねる。

 いや、いくらなんでも可愛すぎるって。

 

 つい髪に触れていた手に力が入る。

 俺がなにをしようとしているのか気付いた彼女は、一瞬驚いたように目を見開き、そしてゆっくりと閉じた。

 

「ん……」

 

 受け入れてくれた、というのがとてつもない喜びの感情を浮かび上がらせる。

 早鐘を打つ心臓が、早くしろと急かしているようだ。

 

 

「好きだよ」

 

 一言だけそう言って、瑞々しい彼女の唇を俺の物にした。

 

 

 

 太陽が紅く、夕陽に変わると水の都リンディウムの景色はまた新しい姿を見せる。

 肩を抱くように寄せながら、俺たちはそんな変化を楽しんでいた。

 

 いつの間にか緊張していた身体はリラックスしたものに変わり、穏やかな気持ちでいられる。

 

「そっかぁ。デートの前にそんなことしてたんだ」

 

 今日の出来事は明日になれば広まっているだろうし、そうじゃなくてもトラブルは彼女の耳に入る。

 だから先に恋人である俺の口から伝えることにした。

 

「そしたらこれから忙しくなるね」

「勝手なことしてごめん」

「謝らなくても良いよ。だってクロード君は生徒たちを守ろうとしたんでしょ?」

 

 その言葉に頷く。

 だが、それで彼女に迷惑をかけるのは間違いない。

 

 シンシアは生徒会長だ。

 二学年はこれからの学園を引っ張る存在として強い力を持っているが、それでもライゼンがいない今、シンシアという存在は彼らにとって目の上たんこぶのようなもの。

 

 原作通りであれば彼女が卒業したあとの話だが、俺のせいで歴史は変わった。

 

 今後の激しくなっていく派閥争いに、シンシアが巻き込まれるのは確定だろう。

 

「みんな仲良く出来たら良いのにね」

「俺たちみたいに?」

「うん、そうだね」

 

 ちょっと揶揄おうと思ったら、真っ直ぐ返されて俺が照れてしまう。

 シンシアはむふふーと笑い、どうやらお姉さんぶりを見せれたことが嬉しいらしい。

 

 まったく、俺の方が精神年齢は高いのに……。

 

「もういっそ、学園中の派閥を叩き潰して、俺の下につけようかな」

「だ、駄目だからね! いくつもの派閥があるおかげでお互いやり過ぎないようになってるんだから、力が一つに集中したら……もっと強い力で潰されちゃうよ!」

 

 冗談でそう言うと、かなり焦った様子で止めてくる。

 どうやら冗談と受け取って貰えなかったようだ。

 

 焦るシンシアを見て笑うと、揶揄っていることがバレてしまう。

 少し拗ねた顔をしていて、それもまた愛らしくて、ついキスをしてしまった。

 

「ん……もう」

 

 照れた顔をするが、起こった様子は無い。

 ちなみに俺は幸せな気分になる。

 

「まあ他の派閥の先輩たちが干渉してこない限りは、俺から手を出さないから安心してくれ」

「うん。あとレオナ王女だけが心配だけど……」

「あの人は、俺でも制御不能だから……」

 

 いっそソルト王に手紙でも出して説教してもらおうか。

 そんなことしたらチクった仕返しになにされるかわかったもんじゃないから、やらないけど。

 

「私から言おうか? 学園に来る前は遊び相手になってたこともあるし、少しは聞いてくれるかも」

「それは止めた方が良い。今のシンシアだと間違いなく勧誘されるから」

 

 なにせ彼女は現時点で騎士団に内定が決まっており、しかも二年後には騎士団長になるような逸材だ。

 あの強者コレクター、あと俺に対する嫌がらせも兼ねて絶対にシンシアに手を出す。

 

 生徒会長であるシンシアを手にした彼女がこの派閥戦争にどう干渉してくるか、想像するだけでも面倒だ。

 

「まあいざとなったら力ずくでなんとかするから心配しないでいい。三年生もまた騒がしくなるかもしれないし、シンシアは自分のやるべきことをしたら良いよ」

「……うん、わかった」

 

 そうしてしばらく二人で普段の学園生活について話し合っていると、太陽が沈む時間が来た。

 名残惜しいが、今日はここまでだ。

 

 立ち上がると、再び手を繋いでリンディウムの街を歩きながら寮に向かう。

 

「このまま、ずっとこうしていたいな」

「私も……」

 

 ただ一緒に居るだけがこんなに幸せで、俺はこんな日々を求めていたのだと心の底から思えた。

 

 

 

 翌日、昨日のデートを思い出し、教室でにやけていると、慌てた様子でブロウが入ってくる。

 

「リンテンス様! ご報告があります! 特ネタです!」

「お前いい加減にしろよ! どうせそれ厄ネタだろ!」

 

 もはやいつもの展開に嫌な予感というか確定された面倒事に、話を聞くことすら面倒になるのであった。

 

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