俺たちが連れて来られたのは特に闘技場のような場所ではなく、広い草原だった。
「ここは?」
「某たちが子どもの頃から遊んでいた場所です」
たしかに周囲を見ると、子どもたちが剣を振るい合っていてチャンバラごっこをしている。
まあごっこと言う割には真剣を使っているので、遊びと言っていいものかは若干怪しいものがあるが……。
「じゃあオウカの思い出の場所でもあるんだ」
「そうですね。まあ結局、子どもたちでは某に勝てる者は一人もおらず、退屈でしたが」
「お、俺は結構善戦しただろうが!」
「記憶にございませぬ」
リンドウ君が焦ったように言うが、あまり覚えていないと言うことは本当に微妙だったのだろう。
彼の声に周囲で剣をぶつけ合っている子どもたちも何事かと集まり始めてきた。
「リンドウー、なにしてんのー?」
「あー、オウカ姉様だ! え、もしかして俺たちに鍛錬付けてくれるのか!」
「もしかしてリンドウがオウカ姉様と戦うのか? やめとけよー、泣かされるぞー」
「お、お前らを先に泣かしてやろうか!」
どうやらリンドウ君は子どもたちからも愛されキャラなのか、弄られている。
子どもに慕われてるってことは良いやつなのかも知れないな。
まあ、だからって俺の婚約者を奪おうってんなら容赦はしないけど。
「さあ、ここで決闘だ! 俺が使うのは剣だが、別にお前は魔術を使っても良いんだぞ!」
「いや、剣でいいよ」
丁度ここに来る前にカルラ姉さんに鍛えられたばかりだからな。
せっかくの実戦の機会だ。これを見逃すわけがない。
「ところで、俺が負けたらオウカがあいつのところに行かなきゃいけないらしいけど、オウカはいいのか?」
「その言葉、意味ありますか? 旦那様が負けるとは到底思えませぬが」
「一応聞いとかないとさ」
「もちろん、構いませぬ。そのときは某の見る目がなかったと、諦めるだけです」
今の会話で状況を理解したのか、子どもたちがリンドウ君を駄目なやつのような目で見ている。
まあ婚約者がいる相手から奪おうとしている、となれば情けないと思われても仕方が無い。
この世界だから力で解決をしようとしても許されるのだろうが、もし現代日本だったら周囲から酷い目で見られる行為だもんな。
「リンドウ君」
「馴れ馴れしいな⁉ 俺の方が年上なんだからリンドウさんと呼べ!」
「俺に勝てたらリンドウ様って呼んであげるよ。で、そっちが負けたらどうするの?」
「むっ……」
この反応、さてはなにも考えていなかったな。
まあ突発的だったし、そうだろうとは思っていたけど。
「俺が負けたら……二度とオウカには近づかん……」
「え、その約束がなかったら負けても俺の婚約者に付いていくつもりだったの? それはだいぶヤバいよ」
そうだそうだ、男らしくないぞリンドウー、と周囲の子どもたちもはやし立てるように言う。
だってこれ、全然こっちのメリットがないじゃん
「ぐっ……なら我が家の宝刀を一つ渡そう。もちろん、負けたら素直に身も引く!」
「ほう」
その言葉に俺では無く、オウカが反応した。
「その宝刀っていいやつ?」
「最上大業物です。特にリンドウの家にあるのはこの国でも上位三本に入る代物で……これ以上の刀はほぼ見つからないと言っても過言ではありませんな」
「なるほど」
この国の侍大将の娘であるオウカがそこまで言うのであれば、ほぼ間違いないのだろう。
「欲しい?」
「うむ! 欲しいです」
正直俺の大切な彼女と比べものになるかと言われれば、どんな宝もならないのだが……本人が興味持ってるしプレゼントにしよう。
「ってことでそれでオッケー。それじゃあ、やろうか」
観光に来ていただけなので剣は持っていないが、それは護衛という名目で来ていたカルラ姉さんから借りる。
リンドウ君も自分の腰に刺した剣を正眼に構え、立ち会うことになった。
「……勝負は相手が参ったと言うまで行う」
「ああ。問題無い。ただ一つ、明らかに勝負が付いているのに参ったと言わないのは困るんだが」
「それでも参ったと言わせればいい。まあこの俺を参ったと言わせられたら大したものだがな」
自身ありげだ。まあたしかに、リンドウ君は口だけではないのか構えに隙は無いし、かなりの実力者であるのは間違いない。
というか、俺が入学したての時であれば学園のどの生徒よりも強そうだ。
ゲームではジパングは結構後半の舞台だし、そこらにいる魔物たちもかなり強い。
ということはそんな魔物と戦えるだけの実力があるのあろう。
正直、この国にいたときはオウカの方が強いのに、物語が進むとその国にもっと強いのがいるというのは不思議で仕方ないが、それはそういうものだと割り切ろう。
「じゃあ、いざ尋常に……」
「勝負!」
一瞬で詰め寄ってきたリンドウ君の剣を受け流し、そのまま俺の剣を首に突きつけようとして――。
「っ――⁉」
「お……?」
躱されてしまった。
結構な実力者だと思ってそこそこ本気で動いたのだが、想定よりも早い。
というより勘が鋭いのかな?
「やるね」
「はっ、はっ、はっ⁉ なんだ貴様、今の動きは!」
「敵にそれを聞いたら駄目でしょ」
今度は俺が踏みこみ、何度も剣をぶつけ合う。
意外や意外。よく受け止められる。
これは勘だけじゃないな。
「目が良い。それに防御が上手だ」
「くっ⁉ 伊達に子どもの頃からオウカに叩きのめされてはいないわ!」
「なるほど。負け続けてきたからこその成長か」
少し面白くなってきた。
どこまで彼が付いてこれるか試してみよう。
俺はほんの少しずつ早さを上げながら攻撃していくと、それに付いてこようと必死に剣を動かす。
この時点でもう俺との実力差ははっきりしているはずだが、諦める気はないようだ。
根性もあるし、思った以上にいい男じゃないか。
俺、リンドウ君のことを結構気に入ってきたぞ
もしかしたらオウカルートを選ばなかったら、彼女はこの青年を選んでいたのかもしれない。
自分以外の男と結ばれるオウカ……。
あ、イラッとしてきた。
「ぬ、おおおおおお⁉ なんだお前いきなり早く⁉」
「まあリンドウ君のことは結構気に入ってきたけど、やっぱりオウカは俺の女ってことで」
「は、早い早い早い⁉」
「これで終わりっと」
俺の剣がリンドウ君の刀を弾き飛ばし、彼の首に剣を突きつける。
「あ……」
「どう?」
「……い、言わんぞ! 俺は絶対に『まいった』とは言わん」
「今言ったよね?」
俺があえて言葉にしなかった単語を彼は間違いなく言った。
「え……? あ⁉ い、いや今のは違――」
「言ったー! リンドウ今間違いなく言ったー!」
「それにその状況、どう考えても負けだー!」
「大人しく負けを認めろリンドウー!」
「ぐ、ぐぐぐ……」
観客の子どもたちからもそう言われて、彼はうなだれるようにその場に崩れ落ちる。
そして――。
「参った……俺の、負けだ」
死んでも言わないとごねるかと思ったが、思ったよりは素直にそう言ってくれた。