──カントー地方、クチバシティ近郊のポケモンセンター。
オレンジ諸島から帰還したマサカズとリーフは、旅の再始動に向けて準備を整えていた。
「さて……オレンジ諸島でゲットしたポケモンたちを実戦で試してみるか」
マサカズは受付でバトルフィールドの使用を申し込み、リーフと共に観戦席へ向かう。
対戦相手は、カントーを旅する若手トレーナー。使用ポケモンの一番手はワンリキーであった。
そして、マサカズは先鋒にエイパムを選出する。
「エイパム、いくぞ!」
エイパムが尻尾を揺らしながらフィールドに立つ。
対するはワンリキーは、筋肉質な体を揺らしながら、構えを取る。
「“でんこうせっか”!」
マサカズが指示を飛ばす。
だが、エイパムの動きはワンテンポ遅れていた。
その隙を突くように、ワンリキーが“からてチョップ”で先制。
エイパムは吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。
「エイパム!」
リーフが思わず声を上げるが、エイパムはなんとか立ち上がる。
相手のワンリキーは続けて”ちきゅうなげ”を仕掛けてくる。
「エイパム、“かげぶんしん”!」
マサカズの指示に、しかしエイパムは直ぐに応じられなかった。
結果、ワンリキーに掴まれ、見事に”ちきゅうなげ”が決まり、戦闘不能となった。
「……戻れ」
マサカズは静かにモンスターボールを構え、エイパムを戻す。
その表情には、わずかな疑問が浮かんでいた。
(……昨日は調子が悪かっただけだと思ったが、今日も反応が遅かった。やはり……)
マサカズは続けて、オコリザルを出す。
「オコリザル、“インファイト”!」
怒りの拳が唸りを上げ、ワンリキーを圧倒。
続いて出されたストライクには“みきり”で攻撃を躱し、“かみなりパンチ”と“インファイト”で打撃を与え、撃破。
最後に出されたサンドパンには、サイドンを出して応じる。
サンドパンは、”あなをほる”を仕掛けてくるも、サイドンの、“じしん”でフィールドごと制圧し、“がんせきふうじ”で撃破に成功。
マサカズはバトルに総合勝利を収める。
だが、勝利の余韻に浸ることはなかった。
バトル後、マサカズはエイパムをジョーイさんに預け、回復をお願いする。
「……一度エイパムとよく話し合ってみる必要があるな」
「マサカズ……」
リーフはその背中を見つめながら、静かに呟いた。
──夜のポケモンセンター。
外は静かに風が吹き、星が瞬いていた。
マサカズは部屋の隅にあるソファに腰を下ろし、モンスターボールを見つめていた。
その中には、今日のバトルで敗北したエイパムがいる。
リーフは隣に座り、黙ってマサカズの横顔を見つめていた。
「……ミュウ、頼む。通訳してくれ」
ミュウがふわりと浮かび、エイパムのモンスターボールを開く。
エイパムは静かに姿を現し、尻尾を揺らしながらマサカズの前に座る。
「エイパム。今日のバトル……お前の動きが少し遅れていた。昨日の砂浜でもそうだった。……何か、あるのか?」
ミュウが通訳を始めると、エイパムはしばらく黙っていた。
やがて、ぽつりと口を開く。
『……怖いんだ。バトルが。』
「……怖い?」
『技を出すのが遅れるのは……迷ってるから。戦いたくないわけじゃない。でも、攻撃されるのが怖い。痛いのも、仲間が傷つくのも……怖いんだ』
マサカズは目を伏せ、拳を握った。
「……気づけなかった。すまなかった、エイパム」
「マサカズ……」
その言葉に、リーフは何も言う事が出来ず、マサカズを黙って見ていた。
マサカズは続ける。
「バトルに負けたことを、お前のせいにするつもりはない。俺が、お前の状態を見抜けなかった。それがすべてだ」
エイパムは目を伏せながら、尻尾で砂をなぞる。
『……でも、みんな戦ってる。オコリザルも、サイドンも。僕だけ……怖がってる』
「それでいい。お前はお前だ。無理に戦わせるつもりはない。お前が望むなら、バトル以外の道を探す。それが、トレーナーとしての俺の責任だと思ってる」
リーフはその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。
(……マサカズって、やっぱりすごい。ポケモンに謝れる人なんだ)
エイパムはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
『……ありがとう。マサカズ』
ミュウがふわりと浮かび、微笑む。
(あなたはやはり、そういう人なんですね……)
マサカズはエイパムをそっと撫で、モンスターボールに戻す。
「……お前のこと、ちゃんと考える。だから、もう少しだけ付き合ってくれ」
リーフは静かに微笑み、マサカズの隣で星空を見上げた。
──翌朝のポケモンセンター。
マサカズはロビーのテレビ電話の前に座り、通信画面に接続を試みていた。
数秒後、画面が切り替わり、懐かしい顔が映し出される。
『マサカズ! 久しぶり!』
相手はセレナであった。
画面越しとはいえ、彼女の瞳は輝いており、再会の喜びが溢れていた。
「セレナ……元気そうだな。カロスはどうだ?」
『うん、元気だよ! 今はパフォーマーの勉強をしてるの。まだポケモンは貰ってないけど、来年にはトレーナーデビューできる予定!』
セレナは嬉しそうに語る。
マサカズは微笑みながら頷いた。
「そっか。お前らしいな。俺は今、カントー地方を旅してる。前はオレンジ諸島を回って、ラプラスを保護したりしたかな」
『へえ~! ラプラスって、あの海を渡るポケモンだよね? すごい……!』
セレナは目を輝かせ、画面に身を乗り出す。
『それで今はどこにいるの?』
「クチバシティに向かう途中だ。バッジは今、二つ。次で三つ目になる」
『バッジ集めって、やっぱり大変? パフォーマンスとは違うけど、ポケモンとの信頼がすごく大事なんだろうなって思ってて……』
「そうだな。バトルはポケモンとの信頼がすべてだ。モチベーションを持たせないと、本領を発揮させてやることはできない。だけど、それはパフォーマンスも同じだと思うぞ。ポケモンが心から楽しんでなきゃ、観客には伝わらないと思う」
セレナは少し照れたように笑う。
『……マサカズって、昔よりずっと頼もしくなったね。なんか、ちょっとカッコいいかも』
「はは、そうか? お前も変わったよ。前よりずっと芯が強くなった」
画面越しに、二人はしばらく言葉を交わす。
旅の話、ポケモンの話等々。
セレナとの通話は、マサカズにとって旅の節目を感じさせるものだった。
リーフの方も少し離れたロビーのテレビ電話を使い、母親と久しぶりに会話をしていた。
その表情は微笑んでおり、そんな二人の会話をミュウは見守っていた。
──その時、センターの自動ドアが勢いよく開く。
「ジョーイさん! 僕のシャワーズが……!」
トレーナーが抱えていたシャワーズは傷だらけだった。
ジョーイがすぐに対応に入り、トレーナーは息を切らしながら叫ぶ。
「近くに……エンテイが現れたんです! ゲットするために挑んだけど、歯が立たなくて……!」
その言葉に、センター内の空気が一変する。
トレーナーたちがざわめき、次々に立ち上がる。
(おいおい、ジョウト地方なら兎も角、カントーに現れるのか。流石アニポケ世界、何が起こるか分からんな)
「マサカズ、私たちも行こう!」
「あ、ああ。すまん、セレナ。またな」
マサカズはセレナに一言断りを入れ、通話を切るとリーフと二人でポケモンセンターを飛び出し、エンテイの目撃情報があった森の奥へと向かう。
──木々を抜けた先、開けた岩場にて
「いたわ!」
「っ……!」
エンテイは堂々と立っていた。炎の鬣を揺らし、瞳は鋭く輝いている。
「ミズゴロウ、お願い!」
『ゴロ!』
リーフはミズゴロウを構える。
「さあ、バトルよ。ミズゴロウ、“みずでっぽう”!」
リーフが先手を打つが、エンテイは飛び上がって回避。
「なっ……!」
そのままマサカズの背後に着地し、振り返ったマサカズと目が合う。
──圧倒的な存在感。
マサカズは冷や汗を流しながら、ニヤリと笑う。
「流石、伝説の三犬。格が違うな……ミズゴロウ!」
『ゴロッ!』
「“みずのはどう”!」
マサカズもミズゴロウを前に出し、“みずのはどう”を命じる。
だが、エンテイは躱して距離を取ると、“かえんほうしゃ”を放ってくる。
巨大な炎が唸りを上げ、マサカズとリーフを呑み込もうとしたその瞬間――
「ミュウ!」
ミュウが割って入り、“サイコキネシス”で炎を押し返す。
再び距離を詰めてくるエンテイ。
──その時、褐色の肌に灰色の髪、カチューシャのリボンをつけた少女が現れる。
「カイリキー、“クロスチョップ”!」
カイリキーの拳がエンテイに命中。
だが、エンテイは“かえんほうしゃ”でカイリキーを弾き飛ばす。
「ミズゴロウ、“なみのり”!」
リーフが続けて命じるが、エンテイが躱した先に休んでいたイワークに命中してしまう。
イワークが咆哮を上げ、突進してくる。
「俺に任せろ!」
マサカズはミズゴロウと共にイワークを誘導し、戦線を離脱する。
「マサカズ!」
『マサカズさん!』
「ミュウ、リーフとエンテイの相手を頼む! リーフもキリの良いところまでな!」
──マサカズの背中が森の奥へと消えていく。※
マサカズがイワークを引きつけ、岩場の奥へと消えていった後、リーフはミズゴロウと共に、なおも堂々と立ち尽くすエンテイと向き合う。
その場に居た少女も、カイリキーと共にエンテイと対峙する。
エンテイの鬣が風に揺れ、瞳は鋭く、威圧感に満ちていた。
「ミズゴロウ、“みずでっぽう”!」
ミズゴロウから、水の弾がエンテイに向かって放たれる。
だが、エンテイは微動だにせず、炎の鬣を揺らしたまま真正面から受け止める。
水が蒸発し、白い蒸気が立ち上っていた。
「“なみのり”!」
リーフは続けて指示を飛ばす。
ミズゴロウが地面を揺らし、水の波を巻き起こす。
しかし、エンテイはその波を跳び越え、空中から“かえんほうしゃ”を放つ。
炎が唸りを上げ、ミズゴロウを包み込む。
「ミズゴロウ!!」
リーフが駆け寄ると、ミズゴロウは倒れていた。
尻尾が弱々しく揺れ、戦闘不能を告げていた。
リーフはそっとミズゴロウを抱き上げ、モンスターボールに戻す。
「……ごめんね。無理させちゃった」
その背後で、少女が一歩前に出る。
「カイリキー、構えなさい!」
四本の腕を持つカイリキーが姿を現し、筋肉を震わせながら構える。
「“クロスチョップ”!」
カイリキーが地面を蹴り、エンテイに向かって突進する。
鋭い交差する拳が、エンテイの肩に命中。
──エンテイが一歩後退する。
その瞬間、少女の瞳がわずかに驚きに揺れる。
(押している……いや、違う。エンテイが受け流しただけッ)
「“ばくれつパンチ”!」
カイリキーが拳を振り上げ、エンテイの胸元に叩き込む。
だが、エンテイはその拳を炎の鬣で受け止め、反撃の“かえんほうしゃ”を放つ。
炎がカイリキーを包み、地面に叩きつける。
「カイリキー、戻りなさい」
少女は素早くモンスターボールを構え、カイリキーを戻す。
そして、しばらくそのボールを見つめていた。
「……まだまだ修業が足りなかったようです」
エンテイは静かに背を向け、岩場の奥へと歩き去っていく。
その背中には、圧倒的な風格と孤高の炎が揺れていた。
二人はその場に立ち尽くし、去っていくエンテイの背中を見送った。
リーフは静かに呟く。
「……あれが、伝説のポケモン」
「ええ。格が違います。ですが、挑む価値はありました」
少女はリーフに近づき、ミュウの存在に触れる。
「ミュウがいるなら、まだ戦えたのでは?」
「ミュウは私のポケモンじゃないわ。マサカズが私の身を守るためにつけてくれたの。私の力で倒せなかった以上、彼のポケモンを使ってエンテイをゲットするのは筋違いでしょう」
少女は「なるほど」と頷き、立ち去ろうとして立ち止まる。
「もうじき嵐が来ます。どこか雨宿りできる場所を探しておいた方が良いですよ」
晴れた空を見上げながら、リーフは少女の後ろ姿を見送る。
「……あの人、ミュウを見ても、まったく動じていなかった……」
リーフは少女の正体に気づいていなかったが、ミュウは知っていた。
(流石は、ガラル・ジムリーダー、サイトウさん。ストイックですね……)
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m