トキワの森――そこは木々が生い茂り、朝露が葉を濡らす静かな場所である。
「ここなら、ポケモンも多いし、実戦に近い形で鍛えられそうだな」
「そうね」
マサカズとリーフはトキワシティを出発してから、森の奥へと足を踏み入れていた。
マサカズはピカチュウとヒトカゲを交互に繰り出し、時にはリーフのフシギダネも加わって、襲いかかってくる野生ポケモンを撃退していった。
「ピカチュウ、“アイアンテール”!」
「ピィカァーチュウ!!」
マサカズの声に応じて、ピカチュウが尾を銀色に輝かせ叩きつけると、目の前にあった巨岩が砕け散る。
破片が飛び散り、リーフは思わず目を見張った。
「……すごい。ピカチュウであの大岩を砕けるなんて……!」
「そりゃ対いわタイプ用の必殺技だからな。旅立つ前からミュウと共に鍛えてたから技の精度には自信があるぜ」
「そう言えば今更だけど、ピカチュウに“なみのり”や“アイアンテール”ってどうやって覚えさせたの? レベル技で覚えはしない筈でしょ?」
「それはもちろん技マシンで覚えさせたんだ。ミュウのテレポートでタマムシのゲームコーナー行って荒稼ぎしてマシンは事前に入手してた。」
「……ずるい」
「効率だよ。旅立つ前から準備してたらいけないなんて、決まっちゃいないだろ?」
「……さすが、準備が違うね」
リーフは感心しながらも、襲い掛かってくるオニスズメやニドランへ、フシギダネに“つるのムチ”と“ねむりごな”を、命じ撃退しては、技の精度を高めていった。
トキワの森に入ってから二日目以降──森の奥にある開けた草地を拠点に、マサカズとリーフの二人はジム戦に向けた特訓を重ねていく方針を固める。
「ヒトカゲ、“メタルクロー”!」
ヒトカゲの鋭く光る爪が飛び出してきたスピアーを木の幹ごと叩き付け、一撃で沈める。
ヒトカゲもまた、“メタルクロー”を習得していた。
鋭い爪が勢い余って木の幹を裂き、素早く跳ねて着地する。
「ヒトカゲ、“かえんほうしゃ”からの“メタルクロー”! 連携だ!」
炎の軌道に沿って爪が閃き、向かってきていたスピアー達が驚いて逃げ出す。
一方のリーフも負けてはいなかった。
「フシギダネ、“つるのムチ”で牽制して、“ねむりごな”で仕留めて!」
つるが素早く向かってくるスピアーを叩いて牽制し、粉が空を舞う。
そうして眠りについたスピアーに、フシギダネがそっと近づいて“たいあたり”を決める。
「……よし、いい連携だったね」
フシギダネが嬉しそうに跳ねると、リーフは頭を撫でて褒めてやった。
「リーフ、俺と一戦やってみるか?」
「いいよ。フシギダネ、準備はいい?」
トキワの森に入って三日目──マサカズとリーフはお互いに模擬戦を行った。
マサカズはヒトカゲを、リーフはフシギダネを繰り出す。
タイプ相性ではヒトカゲが有利だが、リーフは冷静だった。
「ヒトカゲ、“かえんほうしゃ”!」
「フシギダネ、躱して“つるのムチ”!」
フシギダネはヒトカゲの“かえんほうしゃ”を躱すと、“つるのムチ”を使いヒトカゲを弾き飛ばす。
だが、ヒトカゲは怯まず、立ち上がる。
「フシギダネ、“ねむりごな”!」
「ヒトカゲ、“かえんほうしゃ”で薙ぎ払え!」
続けてフシギダネは“ねむりごな”を撒いてくるが、ヒトカゲの“かえんほうしゃ”は粉ごと焼き払って消滅させる。
粉が昇華し、焦げる匂いが漂う。
「ヒトカゲ、“メタルクロー”!」
フシギダネの爪が地面を裂き、フシギダネを狙う。
リーフはすぐに指示を飛ばす。
「フシギダネ、ジャンプして“たいあたり”!」
「こっちも“たいあたり”で迎え打て!」
空中からのフシギダネの一撃にヒトカゲが応える形で両者の額に命中し、お互いによろけ合う。
「……いい動きだ。トレーナーとして成長してるな、リーフ」
「えへへ、ありがと」
如何にしてポケモンバトルを勝利に導くかが、ポケモントレーナーとって問われる能力である。
リーフはマサカズの影響もあり、着実にその実力を身に着けていた。
それからもマサカズとリーフは模擬戦を交わしながら、お互いにトレーナーとしての質を高め合った。
──数日後の朝。
森の中で、マサカズは調理器具を広げて朝食の準備をしていた。
アイテムボックスから机と椅子を取り出し、ヒトカゲの火を使い焼いたウィンナーに目玉焼きにサラダを添えると、ご飯に味噌汁と共に並べる。
「美味しい……!」
リーフは目を輝かせながら、マサカズの料理を頬張る。
「マサカズって、料理上手いんだね!」
「まあ、な。自炊は生きる術だ」
(元軍人ですもんね)
ミュウはポケモンフーズを頬張りながら、そう思う。
一方のリーフはマサカズの手際の良さに感心しながらも、女としての対抗心を燃やしていた。
(私も……負けてられない)
──その時だった。
「アアーッ!」
「っ…!?」
「なに…!?」
悲鳴が森に響きわたる。
二人がそこへ駆けつけると──ピジョンがキャタピーに狙いを定めて襲いかかっている光景が広がっていた。
「フシギダネ、“つるのムチ”!」
リーフの指示でフシギダネが素早く反応し、ピジョンを弾き飛ばす。
キャタピーは怯えながらも、リーフの背に隠れる。
「この子……色違い……!?」
よく見るとそのキャタピーは、全身が淡い黄色に輝く色違いだった。
「大丈夫、私が守るから!」
リーフは驚きながらも、フシギダネと共にピジョンへ構える。
攻撃を受けたピジョンは再び羽ばたき、敵意をむき出しにして襲いかかってくる。
「フシギダネ、“しびれごな”!」
粉が舞い、ピジョンの動きが鈍る。
リーフはキャタピーを抱きかかえ、応戦を続ける。
「お主ら! マサラタウンのトレーナーでござるか!」
その時、森の奥から声が響いた。
鎧武者のような格好をした少年が、刀を構えて現れる。
短パンにタンクトップ、サンダルという軽装に、妙に立派な兜。
(……サムライか。懐かしいな)
マサカズは記憶を辿る。
無印アニポケで、サトシが初めて対戦した相手――その姿が目の前にあった。
「そうだが、お前はいったい誰なんだ?」
「拙者はサムライ! マサラタウン出身のトレーナーを探していたでござる!」
マサカズはリーフの前に立つと、サムライは斬りかかろうとしてきたので、サバイバルナイフで受け止める。
「マサカズ!?」
「バトルに集中しろ、リーフ。こっちは俺が相手する」
刀の一撃を受け止めると、サムライは刀を収める。
「女を背後から襲うとは、武士の風上にも置けねぇな」
「この刀は本物ではござらん」
「……ただのコスプレかい」
「この兜はメットとして頭を守ってくれる優れものだ!」
「にしては他が軽装すぎだろ……なんでマサラタウン出身のトレーナーを探してた?」
「拙者は、マサラタウン出身のトレーナーに敗れた屈辱を晴らすため、マサラタウンの者を倒すと決めたでござる!」
(シゲルに負けた腹いせか……)
マサカズは呆れながらも、サムライ少年の挑戦を受けることにした。
こうして、マサカズにとって初めてのポケモンバトルが始まろうとしていた一方、リーフはピジョンの撃退に成功する。
リーフは、キャタピーに寄り添いながら、そっと声をかける。
「もう大丈夫だよ……怖かったね」
キャタピーは小さく震えながらも、リーフの手にすり寄ってきた。
その瞳には、確かな信頼の光が宿っていた。
──森の奥、木漏れ日の差す空間。
マサカズとサムライ少年は向かい合っていた。
リーフはキャタピーを抱きかかえ、キズぐすりで介抱すると少し離れた場所で見守っている。
「勝負は2対2。どちらかのポケモンが2体戦闘不能になれば、勝敗が決まるでござる!」
サムライが叫ぶと、マサカズは静かにモンスターボールを構えた。
「……いいだろう。出ろ、ヒトカゲ」
炎の尾を揺らしながら、ヒトカゲが姿を現す。
サムライはカイロスを繰り出し、鋭いハサミを鳴らして威嚇する。
「カイロス、“はさむ”!」
「ヒトカゲ、“かえんほうしゃ”!」
炎がカイロスを先制し包み込む。
サムライは驚きながらも、カイロスに突撃を命じる。
「“メタルクロー”で迎え撃て!」
ヒトカゲの爪が光り、カイロスの懐に突き刺さる。
そのまま再び“かえんほうしゃ”を浴びせ、カイロスは戦闘不能となる。
「……見事でござる」
サムライはカイロスを戻し、次にキャタピーを繰り出す。
「ヒトカゲ、“かえんほうしゃ”!」
「キャタピー、躱して“いとをはく”!」
キャタピーは地面から上空に飛び上がってヒトカゲの炎を躱すと、吐いた糸でヒトカゲの体を絡め取り、動きを封じる。
サムライは勝ち誇ったように笑う。
「これで動きは封じたでござる!」
だが、マサカズは冷静だった。
「ヒトカゲ、気合いだ。炎をその身に纏え!」
ヒトカゲの体が真紅に染まり、糸を焼き切る。
サムライは目を見開いた。
「なんと……!」
「“かえんほうしゃ”!」
ヒトカゲの炎がキャタピーを包み、勝負は決した。
──その夜
リーフはキャタピーにフシギダネを紹介していた。
最初は緊張していたキャタピーも、フシギダネの優しい態度に心を開き始める。
「えへへ、かわいい♪」
リーフは膝の上で丸くなり眠ってしまったキャタピーをツンツンしながら笑顔を浮かべていた。
マサカズはその様子を見ながら、静かに思う。
(……少しずつ、冒険の楽しさが、過去の痛みを塗り替えてくれているな)
──夜が更け、森は静寂に包まれる。
焚き火の灯りの中、マサカズはリーフと向き合う。
「明日はリーフがサムライと戦う番だな」
「うん。私、キャタピーで挑んでみようと思う」
「……そっか。そいつは、もうお前の仲間だ。きっと応えてくれるだろうさ」
リーフはキャタピーのモンスターボールを見つめながら、そっと頷いた。
その顔は、どこか慈愛に満ちていた。
森の夜は静かに更けていく。
そして、夜空には星が瞬いていた。
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