ハナダジムでのカスミとの激戦を終え、ハナダシティを後にしていたマサカズとリーフは、次なる目的地・クチバシティを目指して旅を続けていた。──だが、マサカズはその道中にどこか物足りなさを感じていた。
(ポッポ、コラッタ、ナゾノクサ、パラス、コイキング……か。せめてゴースとか、ケーシィが出てきてくれないものだろうか)
草むらを抜けるたびに出会うポケモンたちは”既知のもの”ばかり。
マサカズは肩を落としながら、原作知識が冒険の新鮮さを奪っていることに気づいていた。
──ポケモンセンターのバトルフィールド。
その日、マサカズは宿泊用に訪れていたポケモンセンターで、中にいたポケモントレーナーと4対4のバトルに挑んでいた。
「ゴルダック、”みずでっぽう”!」
「リザード、躱して“かみなりパンチ”!」
「ゴルダック!!」
タイプ相性不利な相手にも関わらず、マサカズはリザードだけで4タテ勝利を重ねる。
だが、マサカズの表情は晴れなかった。
──ポケモンセンターのホール
ソファに座り、腕を組んでつまらない表情を浮かべるマサカズを見て、リーフは心配そうに声をかける。
「どうしたの、難しい顔して……? 最近バトルも連戦連勝で絶好調じゃない」
「うん? まあ、な。ただ……それが問題なんだ。強い相手に当たれなくて物足りなさを感じててな。目新しいポケモンにも出逢えていないから、刺激が足りなくて仕方ないんだ」
「刺激……」
リーフはその言葉に、胸がざわついた。
(……あれ? それってもしかして、私と一緒に旅する時間も退屈に感じてるってこと……!?)
誤解である──マサカズにとってリーフは、原作にはいない“未知”の存在であり、逆に旅に彩りを添えてくれた良き仲間だった。※1
だが、初々しいリーフにはその真意が分からず、不安を募らせた。
──その時
センターのテレビがニュース番組を映し出す。
画面には、南国の海を背景に、リポーターの女性が笑顔で話していた。
『現在、オレンジ諸島の南海域では、ラプラスの群れが確認されております。群れで行動する姿は非常に珍しく、研究者たちの間でも注目が集まっています』
その映像に、リーフの瞳が輝く。
(……これだ!)
リーフはハナダシティで買ったアレのことを思い出す。──マサカズに“刺激”を与えられるかもしれない。そして、旅の空気を変えるチャンスでもある!
その考えに至ったリーフは立ち上がると、マサカズの前に回り込む。
「ねえ、マサカズ。オレンジ諸島に行ってみない?」
「……オレンジ諸島?」
「うん。ラプラスの群れが出てるって。珍しいし、見てみたいなって……」
マサカズは少し驚いた表情をした後、目を細める。
「……急にどうした?」
「えっと……その……マサカズが退屈そうに見えるから、旅にちょっと変化を与えられたら良いと思って……」
リーフは視線を逸らしながら、言葉を選ぶ。
マサカズはしばらく黙っていたが、やがて静かに笑った。
「……いいだろう。行ってみるか」
「ほんと!?」
「ホウエン地方のムロ島にも行ったしな。ミュウのテレポートがあれば、距離なんて関係ないから、メリハリをつける為にも明日行ってみよう」
「っ……やった!」
リーフは顔をほころばせ、両手を胸元で握りしめる。
(……よかった。これでアレを活かせる)
その夜──リーフはオレンジ諸島への準備を整えた。
麦わら帽子、サンダル、日焼け止め、そしてアレ――ハナダシティで新調した水着を手に期待と共に眠りについた。
──翌朝。
ミュウがテレポートの光を放つと、二人を包み込む。
「じゃあ、行くぞ。オレンジ諸島へ」
「うん!」
視界が白く染まり、風が巻き起こる。──次の瞬間、二人は南海の無人島へと降り立った。
白い砂浜と透き通る海が広がるその場所は、まるで絵画のような静けさに包まれていた。
「ラプラス、いないね……」
リーフが海を見つめながら呟く。
「まぁ、そらそう簡単には見つからんだろう。なんせ希少種だしな」
マサカズは帽子を取り、頭を人撫でし直すと、モンスターボールを構える。
「こういう時こそ、ポケモンの力を借りるときだ」
マサカズの言わんとすることを察したリーフもモンスターボールを取り出す。
「ミズゴロウ、キミに決めた!」
「ミズゴロウ、バタフリー、出てきて!」
それぞれのモンスターボールからミズゴロウとバタフリーが姿を表す。
二人はポケモン達と話し合うと、まずは島周辺の海上を探って貰う様に命じる。
「頼んだぞ。ただ緊急事態でない限りは遊泳を満喫してこい」
「気は楽にね。ここに来たのは半分は息抜きみたいなものだから」
ポケモンたちは頷くと空と海へとそれぞれ捜索に出る。
(……さて、暇を持て余すな。……どうする?)
その時、リーフがタイミング良く声をかけてくる。
「ねえ、マサカズ。せっかくオレンジ諸島に来たんだし、海で遊ぼうよ!」
「……だろうな。まぁ、予想はしてたよ」
マサカズは苦笑しながら、アイテムボックスを開くと中から、パラソル、ビーチチェア、テーブル、冷蔵ボックス等必要なものを一式を取り出した。
「……流石マサカズ。用意周到だね」
「まっ、南海の島に行くとしたら、そう来るだろうと思ったからな。水着に着替えるか」
「うん!」
──数分後
木陰で着替えを済ませたマサカズは、海パンにTシャツ、パーカー、サンダル、サングラスという軽装で現れるとパラソルを立てて日陰になる場所へとチェアを手際よく設営する。
そして、テーブルに二つのグラスを置くと、冷えたノンアルコールカクテルとフルーツジュースをそれぞれ注いだ。
そして、リーフも姿を現した。
「ど、どうかな……。前に新しく買った水着なんだけど……///」
リーフは頬を赤らめながら、マサカズの反応をうかがっていた。
明るめのグリーンを基調としたビキニに、サンダルと麦わら帽子。
マサカズはグラサンを外し、しばし見つめる。
「……似合ってるぞ」
「ホント……!」
「ああ。リーフらしさが出てる」
「良かった……。この水着、今日はじめて着てみたの」
『フム……ほぅほぅ。リーフさん、なかなか出るとこ出て、なかなかに発育がよろしいようで』
「ちょっ! 気にしてること言わないで!///」
ミュウの指摘にリーフは胸元を隠しながら、顔を真っ赤にする。
というのもリーフ、ハナダシティに着いた頃から胸元に違和感を覚え、バストを測り直すとBカップくらいになってて持参していた水着があわなくなってしまった為、ハナダシティで新たにビキニタイプの水着を店員から勧められる形で購入し、今日はじめて着用していたのである。
(……なんでこんなに気にしてるんだろう。マサカズにどう見られてるかなんて、今まで気にしたことなかったのに)
(10年……いや、あと5年。将来が楽しみやな)
マサカズはミュウにからかわれるリーフを見て、そう思った。
それが何を意味しているかは、本人しか知らない。
その後、ピカチュウ、フシギソウ、ピッピが姿を現し、残りのポケモン達は各々くつろぎ始める。※2
ビーチチェアに座ったマサカズとリーフも、グラスを持って乾杯すると、飲んでくつろぐ。
「なんか良いね。こういうの」
「だな」
視界の向こうでは、ミュウが音頭を取り、ポケモンたちがビーチバレーを始めていた。
そして、リーフがそっと声をかける。
「マ、マサカズ。その……」
「どうした?」
「……日焼け止めクリームを塗ってほしいなぁ……なんて///」
──カラン……
グラスの氷が鳴り渡ると、マサカズは一瞬だけ瞬きし、静かに頷いて応じた。
「んっ……んんぅっ……」
「……………………フッ」
(変に声を出さないでくれない……)
マサカズはリーフの背中に日焼け止めを塗りながら、いろっぽさを感じ動揺を覚えた。
一方のリーフも目を閉じながら、静かに思う。
(こんなふうに、マサカズに触れてもらうだけで、胸がドキドキするなんて……///)
彼の手の温度、声のトーン、さりげない気遣い。
それらが、リーフの心を揺らしていた。
(……ずっと目をそらしてたけど……自覚するしかないよね)
マサカズが自分に退屈してるかもしれないと感じた時、あんなに焦った。
彼に気にかけてほしい、振り向いてほしい――そう思う自分がいる。
(……私……マサカズのこと、異性として意識してるんだ)
──波音が静かに響く。
マサカズからの日焼け止めが塗り終わった後、リーフは目を開け、空を見上げた。
(……もう、誤魔化せない)
その横顔は、少しだけ大人びていた。
──その日の夕方
偵察から戻ったバタフリーとミズゴロウたちは、ラプラスを見つけられなかった。
それでも、全員がリフレッシュしたのは…………言うまでもなかった。