始めはただの土塊でも   作:月宮秋

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エンブリオ

 

 

 

◇王都アルテア 【】ロダン

 

…うぅ。酷い目にあった…いきなりスカイダイビングは心臓に悪いよぉ…着地で転んだしさぁ…

 

「他にも転んでたから私だけじゃないのは分かったけど…もっとやりようはあったでしょうに…」

 

確かに発展した街並みを見下ろすのは楽しかったけど、着地の時みたいにゆっくり降ろしてくれれば最後転ばなかったのに。

何て考えていたら門に着いた。第0形態のエンブリオを見せながらジョブに就きたいが何処に行けばいいのか分からないと言えばセーブポイントとギルドの位置を教えて貰えた。

ひとまず最低限の準備をしよう。

 

 

◇◇◇

 

◇ウェズ街道 【魔術師(メイジ)】ロダン

 

「《タンブルピット》からの《マッドクラップ》」

 

街道沿いの木で姿を隠しながら、【リトルゴブリン】を一体ずつ小さな落とし穴で転ばせては《マッドクラップ》で頭部を埋める。

今の私に一撃で倒す火力は無く、拘束で動ける数を減らし窒息で敵を倒す他無いのだ。

 

「次、《タンブルピット》からの《マッドクラップ》」

 

ゴーレムを作ろうにも素材代が足りず"初ゴーレムをジョブギルドの売却用ゴーレム作成クエストで済ませたくない"というプライドが、最初のジョブを魔法系戦闘職に決めた。

……一応サブに【戦像職人(ゴーレム・マイスター)】取ってるけど…

それに後悔は無いが、もう少し準備をすれば良かったとは思う。

おかげでスニークミッションだ。ゲーム違くない?

 

「30分歩いてほぼエンカウントしなかった時点で引き返せば良かった。」

 

毒づいても意味は無いけど口に出してしまう。

アルテアから徒歩15分辺りまではマスターが多すぎたのだ……ちょこちょこと流れ弾が来た位には

同時に《ファイアボール》が発動してた辺りエンブリオの制御が利いていないというか…必要以上に発動して標的がいなくなった魔法が直進したんだろうけど。

 

「はぁ…」

 

射線の先に何が居るかは確認して欲しい…危うくデスペナだったンだよ…

そんなこんなで人が多い所から離れたら敵が見つからない。

おかげで次のエリアまで半分くらいの休憩所に着いちゃった、親切な()()()()()()に教えて貰えたから良かったけども。

引き返し始めたらリポップでもしたのか敵がわらわらと…

 

「どの群れも2体3体で集まってる…。まだレベル一桁のソロなのに…。」

 

視界内だけで両手の指を埋める敵の群れ。

正面突破?倫理的に無理。トレイン*1なんてやりたく無いし、そもそも逃げ切れる程足速くないしね。

こちとら準後衛魔法職のLv6、対して【リトルゴブリン】は達は雑魚とは言っても近接攻撃(素手)。

肉体派はどっちか、言わずもがなだよね。

 

…あれ?後ろから聞き覚えの無い音?

取り敢えず隠れながら路の端へどいてから振り向く、同時に馬車が通り過ぎて行った。

 

「お〜。馬車…商人でしょうか?」

 

リアルで馬車なんて見たことも無いし、知らない訳だ。

…っあ、乗せてもらえば良かった……

…でも相場分かんないしな…声かけるほどでもないか

 

「…後何分かかるでしょう…」

 

◇◇◇

 

◇ウェズ街道【???】???

 

ウェズ街道の休憩所近くに影が横切る。

そこで休むマスターが近くを見ても影の出来そうな物は無い。

 

「天より見下ろしても姿を現さず。何処に潜む?」

 

だが確かに、影を落とす存在がいた。地上から見えない程の高度は無いが地上から攻撃するのも難しい高度。

白銀の髪と黒い翼を広げ、黄色と赤のオッドアイをもち、()()()()()()()()()()()()()()を持つ少女が一人、唸っていた

 

「浪漫求めし者達の言が誠に非ず?…今は先達の依頼が優先か」

 

空中から地上を見下ろすその少女は、何処か焦りながら空を駆ける。まるで何かを探す様に

 

()よ、汝は何処へ?」

 

◇◇◇

 

◇ウェズ街道【魔術師】ロダン

 

「隠れながらだと移動にも時間がかかりますね…」

 

馬車とすれ違ってから約15分が経過した。

あいも変わらず愚痴を吐きながらスニーキング中なんですけど、少し面倒な事になっているらしい。

またモンスターが消えたのだ。しかも周囲の木には幾つか傷を残して

 

「傷の高さ的にゴブリンじゃ無いよね。何なら枝の断面も滑らかだし…」

 

つまりゴブリン以外のモンスターが残したことは明らかだ。

問題はこの辺りは【リトルゴブリン】がほとんどで、他のモンスターもせいぜいが【パシラビット】等の小型モンスターばかり。

 

「つまり…この辺のモンスターじゃ無い。…テイムモンスター?この辺りなら必要無いはず。対等なレベルのモンスターなら高さが合わないし。それに…」

 

ロダンは周囲に散らばっている物を拾った。それは木の欠片だった。それが問題だった。

それはどう見ても木材の破片であり、詰まる所()()()なのだ。切断された枝でもなく、近場にそれらしき木は無い。

つまり、()()()()()()()()に木片が散らばるくらいの何かがあったという事だ。

 

「確か、すれ違った()()は木製…残骸が無いから壊されては居ないの?…でも、それた轍は無い」

 

つまり、馬車は回収されたのだろう。王都で停められた馬車を見なかった辺り、アイテムボックスに入れる事が出来るはず。

恐らくはこの近くで逃げ隠れしているか

 

「ああして馬に乗っているか…ですよね。」

 

距離にしておよそ70メートル位だろうか。

馬に乗って手綱を握る男性とその腕の中で怯える女の子が、大きな低空飛行する()()()()から逃げている。

クワガタの頭上に【亜竜鍬形(デミドラグスタッグ)】と出ている辺りこの辺りのモンスターでは無いのだろう。なら間違いなく

 

『KYUIIIIII!』

 

()()()()()()。馬車を輓く輓馬ではサラブレッドより長く走れても速度は無い。

馬もモンスターなのだろうが【亜竜(デミドラグ)】の様な枕詞が無い時点で格下だろう。

私の勝てる相手では無い。無いが…

女の子が泣き出した。その声が冷静な判断力を奪ってしまったらしい。

 

「創理…ママは大丈夫だから」

 

動かずには居られなかった

 

 

 

「《ロックバレット》!コッチを見なさいクワガタムシ!」

 

あぁ、私は何をしているのか。私じゃあのクワガタはおろか商人の馬にさえ勝てないだろうに。そんな私に何が出来る。

 

「《タンブルピット》《マッドクラップ》」

 

木を倒してクワガタを胸辺りで地面と挟み、木をマッドクラップで固定する。この程度じゃ足りない。

《マッドクラップ》で右の足3本を固定する。当然足りない。

《アースバレット》で翅を狙う。翅を閉じて避けられた。

もう一度木を倒して今度は腹を閉じた翅ごと封じる。

……少しは時間を稼げるか。

 

私にはクワガタを倒す手段は無い。ならどうする?

周りを調べる、特に使えそうな物は無い。

周囲を見渡す、商人以外は人もモンスターも居ない。

トレインは無理、恐らくクワガタが狩り尽くした。

商人も無理、戦えるなら行動しただろう。………本当に?

戦えないなら何かしらの備えがあって然るべきでは無いか?

ましてアルテアへ向かう馬車、()()()()()()()()()()()()()()()()馬車に対策が無いなんて。

………聞いてみるしか無い

 

「すみません!」

「はっ、はい!」

「王都へ向かっていたという事は、モンスターの強い方から来たという事ですよね!?何か対策アイテムはありませんか!?」

「あるわけ無いだろう!使えそうな物があったら使ってるさ!うちの積み荷は金属が主で狙われる事は少ないんだ!まして魔蟲系のモンスターは南のギデオンやニッサが主でこの辺りには出ないんだ!」

 

なら尚更こんな所に居るの!誰かがテイムモンスターの不法投棄でもしたの!?

 

「じゃあ救援用の狼煙とかは無いんですか!」

「あるけど魔蟲は熱源に寄ってくるから逆効果だよ!」

「他に寄ってくる敵も居なくて肉壁になるモンスターも居ないんですから変わりません!今すぐ使って下さい!あの拘束だって長くは」

 

ーーーバギィ!

 

背筋にゾクリと悪寒が走る

咄嗟に私が出来たのはずっと泣いていた女の子を左手で突き飛ばすだけだった。

そして、同時。クワガタが目の前を通り過ぎ

 

私の左前腕が切り飛ばされた

 

クワガタはただ目の前を通り過ぎただけだった。翅が軽く当たっただけ。

()()()()()()()()()()()()()()

 

「ーーーっ!」

 

ここまでか…、結局私には何も出来なかった。

やっぱり私は

 

 

 

『KYUUUUUU!』

 

「何も出来無い」

 

「その様な事は無い」

 

 

 

黒い羽根が舞い、クワガタが弾き飛ばされる。

私の前に黒い翼を持ちゴスロリに身を包んだ少女が降り立つ

 

 

 

「汝が稼いだ時間は黄金にも劣らぬ。…良く耐えた、後は我に任せよ。」

 

「創理はきっと、パパに似て強い子になるな」

 

っあ…

こんな所で止まるのか?…私はその程度だったって…

 

認めてやるか!

 

そうでしょう?なら起きろ!私の!

 

 

 

「エンブリオ!」

 

「まったくマスターは強引。でもとっても優しい人」

 

切り飛ばされた腕から光が溢れる。いや…第0形態のエンブリオから光が漏れ、私の左腕に集まる。左腕の感覚が戻って来る。

光が落ち着いた時、私の左前腕は人ではなくなっていた。

黒ベースの金属に蒼く光る線が入った、一見機械のような腕。

でも私のエンブリオならきっと…

 

「すみません!三分時間を稼いで下さい!」

「任せよ!五分稼いでくれる!」

「ありがとうございます翼の人!」

「【暗黒騎士】のジュリエットだ!」

 

そう名乗りながら両刃の片手剣を構え直し飛び立った

余裕がありそうなのは助かる!今のうちにエンブリオの確認を

 

【創作現像 アヴィケブロン】

 TYPE:アームズ・ガードナー

 到達形態:Ⅰ

 

 ステータス補正

 HP補正:ー

 MP補正:E

 SP補正:F

 STR補正:ー

 END補正:ー

 DEX補正:D

 AGI補正:ー

 LUC補正:ー

 

『保有スキル』

 《質量と形相(ゴーレムクラフト)》Lv1:

素材を消費しゴーレムを作成する。ゴーレムのランクは素材の質と作成時間で変化する。

別のゴーレム作成スキルと同時発動で補助が可能。

 アクティブスキル

 

予想通り!私のエンブリオならゴーレムを創るとおもってた!

数はこれで誤魔化せる!何か素材を…

『…うちの積み荷は金属が主で…』

 

「すみません!積み荷の金属を幾らか分けて下さい!代金は後で払います!大至急!」

「お、おう…何に使うかは分からんが、このアイテムボックスを使え!命には変えられん」

「ありがとうございます!さぁ初仕事で大一番だよ()()()()!」

 

受け取ったアイテムボックスをひっくり返して中身をばら撒く

中身は精錬された鉄や鋼のインゴットが主だけど一部銀やミスリルのインゴットも混じってる!

これなら質は十二分!ジュリエットが五分稼いでくれるなら後四分!

出来るだけ作成に時間を回す!

 

「《質量と形相(ゴーレムクラフト)》!」

 

考えろ。今の私たちに必要なのは何か?

攻撃は騎士系統のジュリエットが居る。牽制は微妙だけど私の魔法がある。

逃げる足は無いけどグズった女の子を無理矢理連れて逃げるのは得策じゃ無い。

必要なのは盾役!

相手の攻撃を防ぎ、相手を抑える役回り!

なら創るのは決まり!

 

ミスリルで頭部のベースと心臓付近の核及び脊椎を構成

 

後三分

 

銀で手足へ魔力を流す神経部を構成

鉄で手足や胴体を他パーツを埋め込みながら形成

 

後二分

 

鋼と鉄を合わせて頭部と心臓部を守る兜とチェストプレート、そして重心を下げる為に腰部に垂や後ろへ流れるマント風パーツを形成

 

後一分

 

最後に鋼のみで作ったタワーシールド二つを両腕に融合させる!

 

「突撃しろ大盾機(シールダー)!」

『ーーーーー!』

 

出来た…!創れた…!この子が、私だけのゴーレム…!

黒みを帯びた鋼色の身体にアヴィー由来の蒼いラインがはしる、高さ2メートルの防御型亜竜級ゴーレム!大盾機(シールダー)

この子の力なら

 

「十分抑えられる!」

『ーーー!』

「ーッ!鋼の傀儡(くぐつ)!心強い!堕天使と傀儡(くぐつ)のあり得ざる両翼が揃いし時、敗北なぞあり得ぬ!」

 

大盾機(シールダー)がクワガタを奥へ押し込みつつ押さえ込む

ジュリエットが横から剣を振るい左の翅を切断する

私が大盾機(シールダー)に抑え込まれたクワガタを拘束する

大盾機(シールダー)が拘束されたクワガタの頭を盾で殴る

私がクワガタの顎を《マッドクラップ》で掴む

最後にジュリエットが

 

「はぁぁぁぁ!」

 

空から勢いと重力を味方につけた突撃が脳天を貫く!

クワガタが暴れるが私の《マッドクラップ》と大盾機(シールダー)が抵抗を許さない。だから!

 

「ここで、沈めぇぇぇ!」

『IIIIIIiiii…i…』

 

そして確かに【亜竜鍬形(デミドラグスタッグ)】は光の塵になった。

 

 

 

*1
モンスターを引き連れて、別のプレイヤーに押し付けること。MPKの一種でもある。




Infinite Dendrogram22巻読んで急遽ジュリエット追加
本来ジュリエットの開始時期はリアルで1年経ってからなんですけど…
クラスメイトが友人にデンドロの話でもしていたのでしょう。
一体ドコのゴーレム好きとその幼馴染ナンダロウナー
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