4月11日
少し遅めにルブランを出て、雨宮蓮の悩みは続いていた。
仲間の安全、自分が居る意味。
─────だからといって、自分だけ戦って自己満足に浸り、影のヒーロー気取りか?
(そんなの絶対に彼らは許さない……)
特に竜司辺りはそれはもう荒れるだろう。
それに、あの神や丸木との戦いは仲間無しでは到底乗り切れるものではなかった。
(…おっと、改札か)
そういえば、小雨が絶え間なく降っている。
自分の手元には傘が───────────ある。
『ほらよ…今日、降るらしいからな』
(ありがとう…惣治郎)
外に出ると、声が聞こえてきた。
「ありがとうございます」
しばらくして、白い車が走り出す。
鴨志田の車だろう。
「クソ……はぁ、あの変態、野郎…!」
鴨志田の事だろう。
そんな事よりも、だ。
「……」
遂に、邂逅してしまった。
坂本竜司、コードネームスカル。
「…なんだ、鴨志田にチクるきかよ」
おっと、少々会えた感動と会ってしまった動揺でぼーっとしていた。
「チクリなんかしない、俺は鴨志田という人を知らないんだ」
「鴨志田を知らない?……ハハーン?シュージンに来た転校生か?」
「あぁ」
そういうとガラの悪い竜司は納得したように顔を頷かせながら、こちらを注視する。
「タメか…よろしくな」
「よろしく」
坂本竜司が手を伸ばす。
その手を取ろうと手を伸ばした瞬間だった。
「っ」
「っっ…頭いてぇなぁ……」
確かに、景色が一瞬歪んだ。
……『パレス』に入ったのだろう。
「行こうぜ……あぁ、俺は坂本竜司。名前は?」
「雨宮蓮だ」
「んじゃ行こーぜ蓮、鴨志田のヤローにドヤされちまう」
◆◆◆◆◆
「…………」
「…………」
「いや何処だよ、ここ!!」
状況を説明しよう。
俺たちは何時もの通学路へと進み歩き続け、秀尽へと登校していたはず──────だった。
しかし俺たちが目にしているのはまさに王城とも言うべき立派な城。
何を言ってるか……いや、分かるな……。
まぁ要は前回と同じくパレスに入った、ということなのだが……
「……お前の服もおかしくなっちまってるしよぉ」
そう。
前回ではペルソナ覚醒前までは普通の制服だったのだが、今回は城を認識した途端怪盗服へと変わったのだ。
「……中、入って聞くしかねぇか」
ぐわん、と。
さらに認識が変わる感覚がする。
「……ここが、学校?」
「んなわけない……けどよ、もんには確かに秀尽て書いてたし……」
訳が分からない、といった様子で慌てふためく竜司を尻目に、状況を整理しよう。
(内装、見た目共に前回と変わりは無い……俺の服が変わったのは既に反逆の意志を持っているから……だと思うけど)
けど、だ。
雨宮蓮は全てを知っているからこそ、この状況が良くないことを知っている。
その理由の一つ目が、ペルソナの使用不可だ。
(アルセーヌ……クソ、ダメか)
単純に防御手段を持たないというのもそうなのだが、怪盗服に変わっていてペルソナが出ない、というのは……
(俺の心は、何らかの乖離が起きている。もしくは何か見落とし、気付いてないことがある?)
ペルソナとは、心の力。
そして怪盗服も、反逆の心が映すもの。
本来、これらは片方だけが存在する、という状況にはなり得ないはずなのだが……
「……おい、おい蓮!」
「?」
「?じゃねー!なんか囲まれてんぞ!」
周りに目を配ると騎士のような人型の化け物が自分たちを囲っていた。
どうやら考え事に熱中しすぎたらしい。
「とんでもねぇ集中力でござんすね……じゃねーよ!どうする、逃げるか!?」
そう言葉を発した瞬間、竜司の背後にいた騎士が竜司の背中へと強く衝撃を与える。
「ぐはっっ…お、折れるって!」
「竜司!っアルセー……!」
クソ、アルセーヌは今……!
意識が……
…
◆◆◆◆◆
「っ……竜司!」
「お、起きたか……もう少し遅かったら無理やりにでも起こそうとしてたぜ?」
そういう竜司の顔には明らかな憤怒と、そして疲労の顔が映っていた。
脱出方法を探っていたのだろう。
「出しやがれ!っクソ……」
そうこうしていると、奥の通路から断末魔のようなものが聞こえてきた。
「なん、えぇ…?おいおい……やばくねぇか!?」
「あぁ……そうだ、貴様らは処刑されるのだからな」
竜司の言葉に合わせるように、騎士の化け物は突然出てきてそういった。
「喜べ、貴様らの処刑が決まった」
罪状は『不法侵入』である、と、そういった。
つくづく鴨志田という教師はこの城(がっこう)に執着してるらしい。
「俺様の城で勝手は許さんぞ、特に坂本……貴様はな」
薄ら笑を浮かべた見覚えのある男がこちらへ近づいてくる。
鴨志田卓、淫行教師にして暴力教師の最低教師。
布団で隠しただけのまるで裸の王様の彼が、そこにはいた。
「また俺に逆らうか?今度は仲間を引連れてか?」
「ふざけんな……てめぇ……」
「まぁいい、王である俺に蛮行を働く愚か者には死刑を命ずる」
ジリジリと、騎士の化け物は命令に従うようにこちらへと歩いてくる。
「クソっ……こんなんで殺されてたまるか!逃げん……かはっ!」
走る瞬間、坂本竜司はその巨大な鉄の鎧で体当されよろめく。
「やめろ!」
(ペルソナが使えさえすれば……!)
「やめっ……こいつら、マジで俺らを殺す気だ…!」
「逃げろ、蓮!!!!」
「逃げる訳!ぐっ……」
叫びも虚しく、雨宮蓮の体はその巨大な図体を止めることは叶わない。
「ふん、威勢だけはいい子虫が……坂本竜司を処刑する!」
「……と、思ったがお前の目、少々腹立たしいな…お前から先に処刑とするか」
そういうと鋼の腕がこちらの方をつかみ、身動きも取れない状態になる。
(解けない……!)
────────その時。
雨宮蓮の前に、青く輝く蝶が羽ばたいた。
瞬間、声が届く。
『貴方は、再び世界を歩くのでしょうか。それとも、それ以上をお望みですか?』
(……どう、いう)
『────────貴様は分かっているはずだ』
瞬間、脳内に響いたのはかつての自身の相棒の声だった。
『しかし迷っているな…?契約者。”前”以上の世界にするのか、それの選択肢は貴様にあること、分かっているのだろう』
『より良い結果にすること……しかしそれは』
それは……前の世界の仲間や記憶、思い出を否定するのではないか?
そう、雨宮蓮は思っているからこそ、大胆な行動は起こせずにいた。
だって、雨宮蓮にとってあの思い出は唯一無二で。
今もなお、あの世界を願っているのだから。
だからこそ、元の世界とこの世界についてを詳しく知るまでは迂闊に行動できずに、さながらさまよっている亡霊の様に行動してきた。
────────しかし、だ。
『後悔したんだろう、あの結末に』
例えば、奥村社長。
もっと上手くやれば救えたかもしれなかった。
あの人は悪人ではあったが、命を奪うべき相手ではなかった。
例えば、明智。
もっと、上手く自分が立ち回れば。
もっと、明智と話をしていれば。
もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。
けど、それで良かったはずだった。
それが世界の流れならば仕方ないと、何処か思っていた。
奥村社長の死も、明智の死も、”仕方がなかった”。
『……ならば、明智のあの自己犠牲は”正しかったのか?”』
「っ!」
『思ってないだろう。確かに、あの仲間との旅路、思い出は何よりも大切な、繰り返しでは手に入らないものだ。いくらいい結果にしようとしても手に入らないものだ』
『しかし契約者よ、それではあの者たちの死は正しかったのか?』
『……何も分からないフリをして、繰り返すだけなら簡単だ、しかし貴様はそれをしなかった』
現に、檻の中へと入れられるだけだとわかっているはずの坂本竜司への暴行に対し、雨宮蓮は咄嗟にペルソナを発動しようとした。
『引き起こしてしまった責任が貴様にはある。そして権利も』
『もう一度聞こうか、契約者よ』
瞬間、自身の心が酷く燃え上がるように熱くなっているのを感じた。
『あれは』
奥村社長や、明智の出来事は、あの自己犠牲は。
『あれは、間違っていなかったのか?』
間違っていない
→間違いだった
「そんなの、決まってる……!」
(奥村社長を殺され、春の悲しさが滲んでいたあの顔は……明智を守り切れず、自身たちを守るために自己を犠牲にしたあの行いは……)
「間違いだったに、決まっている!」
だからこそ、雨宮蓮は後悔した。
救えたはずの人達を想い、時間さえも戻して戻ってきた。
今、そう理解した。
「今度は救う……全部背負って!」
この世界も
『よかろう……覚悟、聞き届けたり』
「がっ!」
あの世界も
『契約だ!』
『我は汝、汝は我…』
その全てを背負い
『己が信じた正義の為に、あまねく冒涜を省みぬ者よ!』
雨宮蓮の再行動(Re,action)が、始まる。
『その怒り、そして想い!例えそれが白痴の塊だろうと、再び我が名と共に解き放て!』
『たとえ地獄へ繋がれようと全てを己で見定める、強き意志の力を、今!再び!』
「殺せっ!」
怒号が響く。
それを掻き消すように、全てを振り払うように。
雨宮蓮は再び叫ぶ。
「ふざけるな!」
瞬間。
雨宮蓮の双眸が見開かれた瞬間。
ブワッ!!と勢いよく風が吹いた後。
そこには、仮面を被った青年がいた。
「来い…」
そう言って少年は勢いよく顔の仮面を剥がす。
それを皮切りに、雨宮蓮にまとわりつくように明るい青と暗い青が混じったような炎が舞い上がる。
『フハハハハ……』
ジャラジャラと、周囲に鎖が漂っている音が聞こえる。
鎖が炎に巻きついた後、炎は赤い服を着た人型の異形へと変わり、そして。
鎖を、思い切り引きちぎった。
そして雨宮蓮は自身の化身の、決意の名を叫ぶのだ。
全く新たな決意を。その名に乗せて。
「アルセーヌ…………改!!!!!」
瞬間。1度は形を成した異形は再び炎に包まれ、そして影が浮かび上がった。
青い炎はさながら地獄の業火のようで、見る者によれば終末の日が来たのだと勘違いでもしそうなほど、それは燃え盛っている。
そして気づけば。
コウモリのような羽が6枚ある、黒の混じった赤の服を着た人型のペルソナが雨宮蓮の背後へと浮いていた。
本当は覚醒後も書きたかった…
3話作ってみましたがテンポもうちょっと早めた方がいいと感じたので次回から展開を早くすると思います