先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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容赦のない金利

 

「よし」

 

 使うタイミングはないと思う。

 だけど、ないとも言えない。

 全てがシナリオに沿って行われるならば、俺だって朝は事務員の入れるコーヒーで始められるんだ。

 そう甘いわけじゃないことは既に分かっている、だからこそこうして無い頭を必死に回している。

 

「……これが元通りなのは良いことだ」

 

 必然的な話として、無い金は回らない。

 アビドスの6人が金を払えないなら、同じことは当然起こる。

 

「おい、なんだこれ」

 

「土地謄本と地籍図」

 

「はあ? なんでそんなもん…………え──」

 

 一枚を手に取り、何気なく見たロボットはインターフェースを驚愕の黄色に塗った。

 

「おいおい、アビドス自治区っつーかカイザー自治区じゃねえか」

 

「そうだな」

 

「この取得日……お前、こんな前から知ってたのか?」

 

「俺はビジネスマンだ。主要な土地について調べておくのは当たり前だろ」

 

「意味がわからん。土地と傭兵業になんの関係があるんだよ」

 

「黙れ鉄屑」

 

「おまっ──はぁ……」

 

 とにかく、この所有権移転自体は俺となんの関係もない。気にするべきはそこじゃない。

 

「これがなんなんだ? 金が無いから売った──当たり前の話だろ。強いて言えば、それが借金してる相手ってことで……ああ、そうか」

 

 なんの感慨もない発声。

 仕方ない。

 何せ、よくある話だ。

 

「俺たちの得意分野ね……懐かしいぜ。よくやったわ、地上げ。つっても、こんな大規模にやってるのは俺も関わった事ないな」

 

「大なり小なり、土地転売なんてのは当たり前の話だからな」

 

「そうだな。それで、あんな砂だらけの土地に何の用があるんだ?」

 

「さあな」

 

 タイミング的には、アビドスの奴らと先生もこの事実に気付いているはずだが……遠大な話だ。アビドスの広大な土地を確実に手に入れるという確固たる意志を感じさせる。

 改めて、カイザーコーポレーションがメガカンパニーである事を実感させられるってもんだ。

 

「なんか知ってんだろ〜」

 

「逆になんだと思うんだよ」

 

「…………石油!」

 

「シンプルだな」

 

「違うか……アビドス高校はまず要らないだろ? 生徒たちは別に……住民もいらない。そもそも砂漠なんだから、そういうのを求めてないのはわかる。…………風俗! 第二のブラックマーケットとか! そういうのだな! あるとしたら!」

 

 コイツは多分死んだほうがいいと思う。

 だけど、発想自体は至って順当だ。

 

「お前マトモだな」

 

「全然嬉しくねえ」

 

「多分一生当たらないからいいや」

 

「当てたら一億な」

 

 この前のこと、まだ引きずってんのかコイツ……

 

「お前が激エロデカパイ姉ちゃんの義体に乗り換えるなら貸してやらんでもない」

 

「…………」

 

 (サッ、と体を隠す)

 

 機械が自意識過剰でワロタ。

 俺がそんなメカに対して欲情するわけないだろ。

 

「お前……アイツだけに飽き足らず、俺のことも狙ってんのか!?」

 

「マジでやめろ」

 

 本当に洒落にならないから。

 社長が事務員を狙ってるなんて噂が万に一つも流れてみろ。先生と違って好感度を稼ぐ術がない上にそういうキャラでもない俺は会社ごと潰れるぞ。

 

「お前のキャラがあるとしたら面白カードゲーマーでしかないだろ。何を期待してるんだ世間様の声に」

 

「どんな危機にも駆けつけて、クールに問題を解決する傭兵だろうが!」

 

「笑いどころか?」

 

「…………やべ、しまわなきゃ」

 

 出勤のお時間でーす! 

 

「おはようございま〜ふ……」

 

 今日も目をしょぼしょぼさせながらやってきた、うちのエース事務員(笑)。

 椅子に腰掛けるなり船を漕ぎ始めた。

 

(ヌク)いからか?」

 

 確かに、お昼寝にはちょうどいい室温かもしれない。

 でもここは会社なんだ。

 お昼寝をする場所じゃないんだ。

 行楽日和じゃないんだ。

 

「ほれ、起きろ」

 

「…………すぅ」

 

「すぅ、じゃない! 起きろ!」

 

「んひゃあ!」

 

「ここは、どこかな?」

 

「会社でしゅ!」

 

 じゃあ涎拭いてね。

 あと、これやってね。

 

「こ、こんなに!?」

 

「いや、昨日終わらなかった分を半分に減らしたのは俺なんだが? こんなにって言える立場じゃないんだが?」

 

「でもサンダースさんは処理早いし……」

 

「聞きましたか社長! これがうちの事務員ですよ!」

 

 2人で仲良くやってね。

 

 

 ──────

 

 

「どこに行くんですか?」

 

「釣り」

 

「釣り……ですか?」

 

「大物の魚拓とってくる」

 

「…………」

 

「ちなみに、俺のやることはもう終わってるからな?」

 

「あうう……」

 

 もう昼前だ。

 現場にさえ出なければこんなもんだよね。

 うちにはPCだって資料だってあるんだから。

 

「サンダース、任せたぞ」

 

「──」

 

「おまえはここにいろ」

 

 立ち上がりかけたエース(真)を抑え、リュックを背負う。社長がリュックなんてダサいかも知れないけど、俺は手が塞がるのが嫌いなんだ。

 

 バイクに跨り車庫から飛び出すと、少しだけ2人の様子が見えた。既にサンダースが飛び上がるほど何かやらかしたらしい。

 面白ぇ奴ら。

 

「さて……」

 

 行くのは、一箇所しかない。

 時折カード(デュエリストの種)をばら撒きながらビルの間を抜け、辿り着いたのは巨大なビル。

 

「俺もこんなでっかいビル──」

 

 まで口に出したあたりで、管理トラブルが無限に見えて要らないと思った。

 

 ──失礼しまあーっす! 

 

「い、いらっしゃいませ!」

 

 オデコが広い女の子が元気に接客してくれた。

 多分15歳未満のシャイな女児だ。

 

「カードで」

 

「は、はいい!」

 

 2人は今日も元気に掃除をしていた。

 まだ接客をするのは厳しいらしい。

 首から下げた従業員証を嬉しそうに見せてくれたので、とりあえず問題はないようだ。

 

「先生はちゃんと繋いでくれたんだな」

 

「はい! コハネちゃん、いい人です!」

 

「すっごいわね……」

 

「なんでオネエ言葉?」

 

 人心掌握術って怖いなって思いました。

 もちろん、そういう裏の魂胆があってやってくれたわけじゃないのは分かってるけど、なんか差を感じるよね。

 

「あの、ユウジさん」

 

「うん?」

 

「どうせなら、お昼ご飯一緒に食べませんか?」

 

「──わかった」

 

 流石に、2人一気に抜けるとオデコが過労死ルートなので1人ずつという事らしい。その間くらいなら逆に俺が手伝ってもいいんだけど、一緒に食べたいという事だったので遠慮なく。

 

「焼肉弁当……いただきます!」

 

 焼肉弁当は買ってあげた。

 廃棄品を漁って食べるとかそういうのはしない。

 だって、廃棄品も立派なデータとしてカウントされるわけで、それを勝手に食べるなんて……ねえ? 

 

「おいひい〜!」

 

 年頃の女の子らしく元気に頬張る姿を見ていると、それだけでこっちまで元気になってくる気がする。

 

「喉に詰まらせないようにな」

 

「ふぁい!」

 

 と言っている間にも頬にパンパンに焼き肉が詰まっていく。これもうリス系女子だろ。

 

「ふぅ〜……お腹いっぱい!」

 

「そか、良かった」

 

「ありがとうございます!」

 

「タメ口でいいよ。どうせ年もそんなに変わらないし」

 

 8歳とか7歳とか離れてても、そんなに変わらねえよなあ!? 

 

「えと、じゃあ……ありがとう?」

 

「どういたしまして」

 

「…………」

 

 モジモジし始めた。

 ……話は? 

 大かたの予想はついてるけど。

 

「ここに来た理由?」

 

「……と、あの後のことです」

 

「後……」

 

 早瀬ユウカと4人で楽しくお泊まり会をした日のことか? 

 

「あ、それは本当に楽しかったですけど……そうじゃなくて……その……」

 

「?」

 

 歯切れが悪い。

 それに、タメ口だ。

 どうやらダメらしい。

 

「一応、2人ともシャーレに住む事になりました」

 

「すご」

 

 永久就職? 

 あの一晩で浮浪者からお嫁さんに格上げされたの? 

 おかしいなケッコンカッコカリは違うシステムのはずなんだけど。

『先生』の手が意外と早いだけか? 

 

 という冗談は置いといて。

 

「家賃とか払えるの?」

 

「最初の何ヶ月かは無料で、その後少しずつ払えるようになってくれればいいって言われました」

 

「へー」

 

 それが社会的に、かつ公平的に勘案するとどうなのかという話はあるけど、2人が独り立ちするためのモラトリアム期間として考えればとても良いと思う。

 どこの学校にも属していない生徒であるという点を取っても、シャーレに常駐する人間としてはかなり良いのかもしれない。

 

「良いじゃん」

 

 少なくも、マシュマロを突いているタヌキと男を強盗するなんて事にはならなさそうだ。

 

「あ、あれは! …………本当にごめんなさい」

 

「そこは本当に反省してもろて」

 

 まあ、未遂に終わってるし俺もそんな事でいちいち警察(ヴァルキューレ)に行ったりしない。そもそも俺が行っても相手にしてもらえない可能性が高い。

 

『あはは、ところで今度の合同訓練なんですけど──』

 

 って流されるところまで見えた。

 酷いな、本当に。

 妄想だけで腹が立ってきた。

 

 いかんいかん、今はこっちに集中だ。

 

「……先生の身辺警護とかそのうちやるようになるかもな」

 

「む、無理です無理です! 私たちじゃそんな……」

 

「そうか……まあ、なんでも良いよ。真面目に頑張れな」

 

 何にせよ、先生が直々に手配してくれてんだから大丈夫だろ。俺が心配するようなことじゃない。

 

「そういえば今日は何しにきたんですか?」

 

「シャーレを見にきた」

 

「先生いませんよ?」

 

「ああ、そうなんだ。じゃあしょうがないか」

 

 白々しいと自分でも分かっている。

 最初から分かっていることを確認しにきただけだ。

 

「……あの、一つ聞いても良いですか?」

 

「うん」

 

「あの時、なんでヘルメットで顔を隠したんですか?」

 

 少しだけ緊張を孕んだ顔だった。

 

「あ! 言いたくないなら良いんです!」

 

「いや、大した理由じゃないから大丈夫」

 

「…………それって?」

 

「そもそも俺、あんまり人に顔見せないんだよね」

 

「……?」

 

「今はほら、もう見られてるから」

 

「ああ、なるほど……え、じゃあ何で人に顔を見せたくないんですか?」

 

「質問は、一つだけ」

 

「や、やっぱり後三つくらい!」

 

 その場で新しいカード生み出せそうなくらい理不尽だな。

 

「もしかして、人に顔を見られるとまずいことがあるんですか?」

 

「特にない」

 

「え? じゃあなんで?」

 

「癖みたいなもんだよ」

 

 こっちに来てばかりの頃は、男だと目立って仕方ないなと思って顔を隠すようにしていた。今となっては、すぐに卒業する子どもたちの間でちょっと噂になっても問題ないって分かってる。

 

 だけど、これからの時期は、より積極的に隠さないとな。尾刃たちはもう遅いけど、それ以外はね。

 

「……傭兵、なんですよね?」

 

「そう。金と内容説明さえしっかりしてくれれば、東西南北春夏秋冬老若男女。誰からの依頼でも受けるぜ」

 

「ほえー……」

 

「まあ、シャーレにいたら俺に依頼することはないけどな」

 

「なんで?」

 

「先生は問題解決のプロフェッショナルだから、お願いすれば大抵の悩みは解決するよ」

 

「そうかな……」

 

「さて、俺はそろそろ行くよ」

 

「え? もう?」

 

「2人と話して、大丈夫そうだって分かったからな」

 

「……また、来るんですよね?」

 

「タイミングがあればな」

 

「…………」

 

 

 ──────

 

 

 星が瞬く空の下をバイクで駆け抜ける。

 1人きりで。

 バイクが相棒だと思えば、それも紛れるか。

 初夏が近づいているとはいえ、まだ春。夜の寒さは身に堪える。生身じゃなくてアーマーを身に付けてるから外気は関係ないけど、風を切る音はしっかりと聞こえてくる。

 

 砂漠は、昼が暑くて夜は寒い。

 ただのスーツだったら行き倒れもするってもんだ。

 よくあそこまで保たせたと感心するくらいには頑張ったか。

 

「今日は……ここでいいか」

 

 バイクを停めて、半ばまで砂に埋もれた家の窓から中を除く。一回は完全に砂の中だけど階段から上、二階の床がまだ生きていることを確認した。

 ガラスは既に割れて無くなっている。残ったサッシは邪魔だから取り外して外にポイ。

 

「……?」

 

 外で夕飯を食べていると、確かに音が聞こえた。

 

「ドローンか」

 

 どこからか集まったオンボロなドローンの群れが、こちらに向かってきている。モノアイを赤に光らせ、機底に取りついていたであろう銃は配線からかろうじてぶら下がっているような状態だ。

 

「掃除の時間ってわけですか」

 

 どんな学区にも、こうして人を襲うドローンや機械は存在する。それは警備ドローンが故障していたり、或いは意図して作られたものだったりするわけだが……いずれも相手を殺そうとして配置されているわけではない。

 なんなら監視カメラくらいの感覚で置かれているだけだ。

 勝手に外からやってきた俺がハードコアモードでやっているだけなんです。ほんまに、技術職を攻めんといてやってください! お礼は割引でいいんで! 

 

『ピー……ガガ……ガガガ……た、たたたttttt対、対象を………………開始』

 

(ガシャン)

 

 哀れですらある。

 役目を与えられたのにそれすら熟せず、装着している機銃は地面に落ちた。バラけた銃弾は錆びついて、あれを撃とうものなら装填すら出来ずに詰まってどうしようもならなくなるだろう。

 

「お前らは俺が有効活用してやる」

 

(ダァン!)

 

『そ、そそそ損傷を…………カク、ニン……』

 

 一発。

 それで数体が弾け飛んだ。

 持ち込んだスナイパーはmidnight404。

 名前似てるじゃんって思って使ってる。

 

『制御ユニット……指令…………帰投……』

 

 俺は1人で数km先の敵を打ち抜けるような銃の名手じゃないので、ポイントマンをAIに任せている。

 そのおかげで1人だとしても依頼がこなせると考えればむしろメリットだ。メリットか? ロケランで全部破壊した方が早くないか? 

 

「あと一機……」

 

『…………』

 

「ヤロウ!」

 

 一機だけは後方で待機していたけど、捕捉した途端素早い動きで逃げていく。

 

「──」

 

 鹵獲するため、EMP弾で動きを取れなくした。

 着弾地点から紫電が解放され、電子制御が一時的に失われる。俺も前はアーマー着てたらちょっと危なかったけど、今は改造してあるんで。

 

『──────────』

 

「……なるほど」

 

 エラーコードを吐き続けている機体には、ご丁寧にどこかの風紀委員長のヘイローに似た三つ傷が刻まれている。

 

「とりあえず……」

 

 マークは削って、外装を一部くり抜いて内部の配線を引っこ抜いた。GPS機能と通信機能を使えなくすれば掃除機以下だ。

 あとで持ち帰るためにも、ぶっ壊れたりしては欲しくないので家の中に入れた。

 

「今日はイッチョに寝ようね♡」

 

 砂だらけのベッドで目を覚ますと、まだ日が上る少し前だ。これなら急いで行けばアチチ砂漠になる前にアビドス校舎の近くにたどり着く。そこからは……

 

「足跡」

 

 わかりやすい。

 なんて分かりやすいんだ。

 砂に残された足跡は新しいとは言えないけど、残っているところから考えると割と近いタイミングで来ることができたってことだな。

 

 何度か校門をガシャガシャやったけどしっかりと鍵が閉まっていた。居留守されてるわけじゃなければ、既に移動したってことだ。

 

『コハネちゃんはユウカのコーヒー飲みたいなー!』

 

 仕事そっちのけで生徒とイチャイチャしてたあの行き倒れがまた砂漠を進んでいるのは、靴の模様を見ればわかる。

 精細には残されていなくとも、あの日、先生の靴は裏まで観察したからな。匂いも一応嗅いでおいた。

 

「取り敢えず……バイクは隠しておくか」

 

 ここから先は、殊更に一つ一つの物事が目立ちやすい。砂漠のど真ん中をバイクが走れば砂煙が立つし、音も出る。遠くからだって容易に発見されるだろう。トラブルの種は、ね? 

 

 

 ──────

 

 

 布を巻いて日射熱を遮蔽し、脚部も取り外してなるべくアーマーへの負荷を減らした状態で移動をしていたらそれは聞こえてきた。

 

「──警報か」

 

 出所は遥か遠く、おそらく数キロは先だ。

 こんなところでそんなものを鳴らすのは一つしか心当たりがない。

 砂煙が上がる方向へさらに進むと、聞き馴染みの声が聞こえてくる。

 

『い、急げ〜!』

 

『ちょっと! 暴れないで!』

 

 ここは砂漠だ。

 遮蔽がとんと少ない。

 隠れる場所も──なんて甘いことを言うと思ったか! 

 砂隠れの術! 

 

(ヒューン、ドゴオオ!)

 

(ダダッ、ダダダダッ)

 

「はあ……はあ……いつまで追って来んのよコイツら!」

 

「っ……囲まれた」

 

「うっそ!? …………先生は砂の下にでも埋もれてて!」

 

 なんか勢いよく砂を掘ってる音が……

 

「えっ、ちょっ、まっ──」

 

 どうやら、俺の隠れた場所も併せて取り囲まれたらしい。

 今撃つのはやめてね。

 洒落にならないから。

 

(ブロロロ)

 

「な、なによあのリムジン!?」

 

 ガソリンをふんだんに使っている車両のエンジン音が聞こえてきた。戦闘は一時中断され、アビドスの困惑する声とロボットの歩く音が重なる。

 

『アビドス──まさかここに来るとは思っていなかったが……まあ良い』

 

「何こいつ……」

 

『何コイツ、とは随分な言い草だな。辺境に住んでいるから世俗に疎いのか?』

 

「はあ!? バカにしてるわけ!?」

 

『立場というものをわきまえた発言だ。当然、私が上で君たちが下だがな』

 

 生きてきて、こんな尊大な話し方しようと思ったこと一度もないぞ。やっぱりあれか? カイザーローンの理事になるようなのは生き方からしてカイザー(皇帝)なのか? 

 ロボットが? 

 ……そうプログラミングされてるだけ? 

 

「あんたは……あの時の……」

 

『君は──そのピンク髪……ああ、アビドスの副会長か。例のゲマトリアとの話はどうなったのかね?』

 

「っ……!」

 

『ふふ……清々しいほどに直情的だな、アビドス』

 

 楽しそうな声色で、見下しているのがありありと聞いてとれる。それも当然だ。

 何せこの場には大量のカイザーPMCが集まっていて、仮に刃向かおうものなら不良なんかとは比べ物にならない練度と質による圧殺が待っているだけなんだから。

 

「ちょっと! さっきからなんなのよあんた」

 

『君こそ、先ほどから目上の相手に対して口の利き方がなっていないな。それとも……本当に私が誰だか知らないのか?』

 

「知らないわよ!」

 

『そうか、では教えてやろう。私はカイザーローンの理事だ』

 

「……!」

 

『正確に言うならばもう少し役職はついているが……そうだな、ここにいるカイザーPMCの代表取締役でもある』

 

「どうでも良いけど、要はあなたがアビドスを騙してお金を騙し取った張本人ってことで良い?」

 

 かくして、アビドスの来月の利子は9000万円になったらしい。これでまたバイトに専念できるな、猫ちゃん。

 

「きゅ、きゅ、きゅうせんまん!? なによそれ!」

 

『クックック……コレで、立場というものを真に理解するに至ったか?』

 

 なんとも禍々しく笑うものだ。

 学生相手に大人気ない──というには彼女達は成熟しているけれども、それでも子供相手にやることではない。

 

「……何のためにこんなことをするんですか?」

 

『おや、君ならば知っていると思ったがね。十六夜ノノミ』

 

「っ……」

 

『まあ良い、教えてやろう。私達はこの広大なアビドス砂漠のどこかにあるお宝を探しているのだよ』

 

「お宝……ですか……」

 

『そう、お宝だ』

 

 その言葉が真実であると、理事は真面目な口調で語る。

 

「ふざけないで!」

 

『なにがだ? まさか……お宝という言葉を文字通り金銀財宝だなどと履き違えているのではあるまいな』

 

「じゃ、じゃあ何なのよ!」

 

『それを教えてやるほど私は社会に対する知識が乏しいわけではないぞ。さて、ではここらで私はお暇するとして……3億だ』

 

「なにが!」

 

『保証だよ。君たちが9億円の借金を返す事ができるのかという疑問に対するね。現状、ほぼ利子を返す事しかできていない君たちが、この利率で本当に我々に対して元本を返済できるのか──要するに、3億円を一週間以内にカイザーローンへ預託してもらう』

 

「…………っ」

 

「そんな……」

 

「出来るわけが……」

 

『おやおや、諦めムードかね? ならば潔く学校を諦めて去るがいい』

 

「そんな事するわけない!」

 

 シロコは吠える。

 しかし、その程度に怯むはずもない。

 

『ふむ……だがアビドス高校の借金はそもそも過去の生徒会が残したものであり、君たちが追うべき責務でもない。学生の本文である学問を疎かにして金策に勤しむのは──大学生になってからでもいいだろう? 今は、平和で楽しい学校生活を楽しむためにも自主退学して転校すればいい』

 

 極めて真っ当な意見だ。

 彼女たちがアビドス高等学校存続のために支払っているものはお金だけではない。学生が本来享受するべき学問の時間を切り詰めてまでやっている。

 不健全だ。

 これを企業経営として考えた時ですら、もはや破産した方がいい程度には。

 

 ──それが出来るなら、こんな事にはなってないんだけどな。

 

「アビドスは……私たちの学校で、私たちの街。私たちが守るべき場所からいなくなるわけがない」

 

「そうよ!」

 

『──ならば、手立てがあると? それは素晴らしい。3億円を一週間で集めるのは、同じ立場であれば私とて容易ではない。それが出来るなら是非やってみせてくれ』

 

「…………みんな、帰ろう」

 

「ホシノ先輩!?」

 

「ここで言い争っても……勝ち目はないよ。弄ばれるだけ」

 

『ほう……副生徒会長、君は流石に賢いな。……ああ、思い出したよ。賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のこともな』

 

「…………」

 

『では、保証金と返済については滞りなく頼むよ。お客様──ふふっ、ふはははははは! ああ、中々どうして悪くない時間だった。さあ、お客様を入口まで案内して差し上げろ』

 

 砂の中をゆっくりと足音が近付いてくる。

 重量物の気配。

 駆動音。

 PMCの奴らが対策委員会の面々を囲んでいることは把握できた。

 その数だけ考えれば制圧は一瞬だが、ここでそんな事をする意味はない。やり過ごそうと考えて──

 

(けほっ)

 

『む? 今、何か音が……』

 

「んばふっ!」

 

『──────なっ!?』

 

「ぶふえっ! ごほっ! えっほ! えっほ! ぺっぺっ! 砂が……あ」

 

『き、貴様……その容姿、まさか──』

 

「──どうも、シャーレの先生です」

 

『…………何故、砂の中に?』

 

「乙女の秘密は聞いちゃダメだぞっ☆」

 

 うわきつ。

 

『うわきつ』

 

「は?」

 

『う、ううむ……まさか、アビドスと行動を共にしていたのか?』

 

「そうだね、私は先生だから」

 

『先生だから? ……ふっ……ふははははは! 実にくだらない! なんともまあ綺麗事を吐くものだ! それで──この場面で現れた理由は?』

 

「撃たれたら危ないからって埋められたんだけど、流石に砂が限界だったから」

 

『なるほど……聞くところによると、君は外の人間らしいな』

 

「うん、そうだよ」

 

『銃火器で致命傷に至ると』

 

「うん」

 

『では──』

 

(チャキ)

 

『人様の話を横聞きするような無礼者には、この場で消えてもらおうか』

 

 複数にわたる射撃準備の音。

 一気に緊張が張り詰めるのが砂の下からでもわかった。

 

「ちょ、ちょっと! なんのつもり!」

 

「──もし先生を撃つなら、アナタも無事じゃ済まない」

 

『…………私は寛大だ。この場は見逃してやろう』

 

「感謝はしないよ」

 

『だが、事実も消えない』

 

 一行は、(砂の下から聞いていた)改めていなくなった(感じだと十人くらいに囲まれて進んでいった)

 更にしばらく待つと、理事は無言のまま車に乗り込み、同じようにこの場からいなくなった。合わせるようにPMCも。

 ようやっと音が完全に消えたというわけだ。

 

「──思ったよりも、全然シリアスだったなあ」

 

 茶化せない迫力があった。

 それに、若干の気まずさもある。

 自分がした事とはいえ、だ。

 

 そして、現在は夕方。

 これでは今日のうちに帰ることはできない。

 野宿やね。

 

「──ん?」

 

 携帯を見るとモモトークにメッセージが届いている。

 移動したり砂の中に埋もれたりしているうちに溜まっていたらしい。

 

「たすけて、ねえ」

 

 一見して物騒だけど、緊急連絡は直でしろと言ってるから、本当にヤバい状況ならヘルメットに連絡が飛んでくる。日常の範囲内で助けて欲しい何かがあったって事だろう。無視で良い。

 ちなみに事務員とサンダースのどちらも助けてコールをしている。

 他には前回の焼肉会で連絡先を交換した局員ちゃんと、あとパンダ先輩だ。

 

 

 ──────

 

 

 局員ちゃん:夜長様、日頃よりお世話になっております。突然の話で恐縮ですが、公安局において備品買い出しを行うこととなっております。この機に際して夜長様のお力をお借りしたく、こうして連絡差し上げました。

 

 局員ちゃん:メッセージの送信を取り消しました。

 

 局員ちゃん:メッセージの送信を取り消しました。

 

 局員ちゃん:メッセージの送信を取り消しました。

 

 局員ちゃん:もし、都合が悪かったら断っていただいて大丈夫です。

 

 僕君:日時を教えていただければ

 

 局員ちゃん:──です! 

 

 僕君:OKです

 

 局員ちゃん:(ウナギが微笑んでるスタンプ)

 

「かわいいなあ……」

 

 まだ硬い。もうちょっと──サンダースくらいフランクでもいいのに、つっても流石に年上の男にタメは無理か……そういえば俺ってもう20代半ばが近づいてるんだよな。

 もう、人生終わりなんだ……

 

 

 ──────

 

 

 パンク:(蕎麦屋の写真)

 

 パンク:明日、11時

 

 女は海:ふん……あんたのことなんか全然好きじゃないんだからねっ! 

 

 パンク:うるせえ口だな

 

 女は海:ひゃだっ♡こんなの知らないっ♡

 

 パンク:くっせえ口だな。コーヒーばっか飲んでるからタンニン染み込んでんじゃねえか? 

 

 女は海:すぞ……

 

 パンク:そうやってみんなを遠ざけるから争いは無くならないんだ! (ドンツ)

 

 パンク:最近、格言を作るのにハマってるんだ

 

 パンク:(ドンツ)→(ドンッ)

 

 女は海:すまん、ドンツについて詳しく教えてもらうことできるか? 

 

 女は海:笹の品種ですかー? [未読]

 

 女は海:おーい(笑)[未読]

 

「ふう……」

 

 あとは業務依頼の連絡だけだ。

 納品書とか見積書は社の代表メールに来てるだけだからサンダースが処理してるし、今の時間から業務依頼を携帯だけで掃くのは無理。

 つーわけで、俺が見るものはなーんもなし! 

 

 一旦バイクのところに戻って、寝て、起きて、ドローン回収して、爆走。

 だな。

 

 ──明日、11時

 

 明日、11時

 

 明 日 1 1 時

 

「明日、11時」

 

 _人人人人人人人人_

 > 明日、11時 <

  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

 今日帰らなきゃじゃん! 

 

「笹食ってる場合じゃねえ!」

 

 

 ──────

 

 

 ゲヘナのとある駅前に到着すると、見覚えのある獣人が手を軽く上げた。俺よりも50cmくらい低い身長、白と黒で身体が縁取られたキューティーハニーなやられ役だ。

 

「よっす!」

 

「うっす、なんか身体大きくね?」

 

「まだ夏毛になってないだけだっつーの」

 

「一生冬毛でいいぞ〜」

 

「くっつくな!」

 

 ふひひ、モッコモコだねえお嬢ちゃん^^

 

「誰が嬢ちゃんだボケ! もういいから、こっちな! …………離せ!」

 

「ああん、もう……い、け、ず」

 

「きしょ」

 

 常に抱きしめて移動するのが俺の理想なんだけど、先輩にもプライドってものがあるわけ。俺はそういうのよく分かってるわけ。

 

「最近はどうなん?」

 

「地味にやってるよ」

 

「へー」

 

 うちの物資輸送を任せたりはしていない。

 信頼できる人ってのはそれだけで百件の顧客よりも価値があるから、その人とお金のやり取りはしたくない。遊びの場は除いてな。

 

「なんで蕎麦屋探してたの」

 

「山海經から良い小麦が流れてきたんだって」

 

「へえ! そりゃ珍しい」

 

「だろ? だから、折角なら味わってみよ……う……と…………?」

 

 ザワザワとうるせえなモブどもが俺のデートを邪魔すんじゃねえ! と思っていたら、それは蕎麦屋に並んでいる列から発されているものでしたとさ。

 

「この列、どんだけ待てばいいんだろ」

 

「……帰りゅ?」

 

「とりあえず並んでみようや。折角探したのに即帰宅は悔しい」

 

「うぃ〜」

 

 列の長さを見ただけでうんざりしてくる。

 

「あーあ! 連邦生徒会長か偉大なる同志の力で俺たちだけ先に入れさせてくれないかなあ〜! 青輝石いっぱい使ったからなあ〜!」

 

「だから……なんなんだよ青輝石って」

 

「ポリンキーはね」

 

「教えないんだな! わかったわかった!」

 

(ドカアアァァァァン────!)

 

「どわあ!」

 

「爆発!?」

 

 どこかで大きな爆発が起こった。

 かなり近い。

 それも、この列の先の方だ。

 

「まあ……いいか、別に」

 

「そうですねー」

 

 列も、一時的に乱れたとはいえすぐに収まる。

 何故ならここはキヴォトス。

 爆発なんて毎日起こっているからだ。

 店が爆発してなきゃ何でもいいもんな。

 

『ねえ見てこれ』

 

『店、爆発したらしいよ』

 

『うっそ〜……折角並んだのにぃ……』

 

『なんかね、ゲヘナの学生がいたらしいよ』

 

『爆発、店内だったらしいよ!』

 

「…………」

 

「…………」

 

 SNSによる情報拡散か。

 みんながみんな、手に入れた情報を口々に出している。

 何が起こったのか周りから聞こえるコトを繋ぎ合わせると──

 

「ゲヘナの学生が店内で爆発物を起爆したって……風紀委員会も来そうだな」

 

「これはもう、諦めるしかなさそうですね」

 

「はぁ〜……新笹の特売逃してまで来たのに……」

 

 そうこうしているうちに風紀委員会がやってきた。

 列前方にいた奴らは事情聴取を受けているようだ。

 かと思えば、俄かに湧き立っている。

 

「なんだ?」

 

「さあ」

 

 とにかく、風紀委員会が動いているのは事実だ。

 

「帰るか……」

 

 すごいがっかりしている。

 これは俺の優しさを毛並みに更に刻み込むチャンスだな……! 

 

「別の店行こうぜ」

 

「…………そうするか──わぁっ!」

 

 先輩を抱えて猛ダッシュ。

 ここら辺ならうまい中華料理屋があるんだ。

 レッツゴー! 

 

「──ここが?」

 

(カラン──)

 

 風に揺られて看板が傾く。

 描かれた屋号も読めない。

 あばら屋とまではいかないものの、中々の風体で鎮座している店がそこにあった。

 営業中であることを示すのは匂いだけだ。

 

「良い匂いだ」

 

「とりあえず入りましょうや」

 

「……店に入る前におろせー」

 

 外装に違わぬ内装の店内。

 ボロいメニュー表。

 黒くなった床。

 油でベタつく壁。

 擦れた畳。

 

 ──最高だな。

 

「とりあえず座りましょう」

 

「らっしゃーい」

 

 やや間延びした声。

 いきなり置かれた水はきんっきんに冷えている。

 

「注文は?」

 

 ぶっきらぼうとすら言える口調。

 タシタシと小刻みに床を叩く足。

 長い耳が揺れ、こちらの声を聞こうという意思自体は感じる。

 厨房から顔を出したコックがメンマの入った小皿を掲げた。

 

「これ! 出しといて!」

 

 ここを切り盛りしているのはウサギの夫婦だ。

 

「餃子とチャーハンで。先輩は?」

 

「餃子とパイタンスープ」

 

「じゃあそれでお願いします」

 

 注文を終えると、耳打ちをしてくる。

 

「めっちゃボロいぞ……!」

 

「ちなみに、あの2人地獄耳だから」

 

「え…………はっ!?」

 

 2人は、ジトーッとした目を向けていた。

 そんな圧を受けて気まずそうに顔を背ける。

 

「先に言えよ……」

 

 さらにか細い声だ。

 

「料理で大事なのは店の見た目じゃなくて味なので」

 

「まあそうだけどさ」

 

「あ、そうだ! 俺も聞きたかったことがあるんだった!」

 

「何?」

 

「ドンツについて──」

 

「しね! しね!」

 

「がぼぼぼぼ」

 

 ありったけの水を詰め込まれて死ぬかと思った。

 腹水ってそういうことじゃないだろ。

 

「──ふぃー、食った食った……美味かった!」

 

 この笑顔を見たくて連れてきた。

 好きな人の笑顔って最高なんだよね。

 …………っ! これが……恋……? 

 

「また来ような!」

 

「うっす」

 

 帰りは俺のバイクで一緒に。

 ヘルメットを貸して、背中にしがみつく感触を楽しみながら風を切る。

 

「今日は泊まってくんだよな?」

 

「いや、今日は無理。というかしばらくは先輩ん家に行けないかも」

 

「はあ〜? 笹臭いところは嫌だってか〜?」

 

「最近物騒だから、色々調査してるんだよ」

 

「ふーん……」

 

「先輩も、危ないことしちゃダメだぞ」

 

「そんなん言われなくてもわかってるっつーの」

 

 どうしても運送業は狙われがちだ。

 物資を車に積んでいることが確定しているから、不良達も積極的に襲う。

 俺がアーマー買った理由もそれだし。

 それで配送に失敗して廃業、ってルートがごく一般的にあり得るのが悲しい話だ。

 

 しかも、今年に入ってからは治安が劇的に悪化しているので殊更に気を付けないといけない。

 俺たちPMCにまで輸送依頼が回ってくるとか本当にどうにかしている。キヴォトスの運送業と治安はボロボロです。これも全部アロナと『先生』ってやつのせいなんだ。

 許せねえ……! 

 とか言ってるとリアルラック下がりそうなので撤回します。

 

 先輩の家まで送って別れ際に抱きしめた。

 

「もふもふもふもふ」

 

「離せ〜」

 

「あともう少し!」

 

 俺みたいなチャランポランに、ここから先の真剣さを受け止められるか。じっくり毛並みを味わって真剣ゲージをチャージしていきたい。キヴォトスに来たばかりのあの頃の気持ちを思い出せるから。

 

「……なんかあったか?」

 

「…………」

 

 ポフポフと、頭に軽い感触が何度か触れた。

 

「大変なんだろうけど、頑張れよ」

 

「ママぁ……」

 

「誰がママだ!」

 

「あんっ」

 

 扉を勢いよく閉める後ろ姿を見送り、またバイクで駆ける。本当はもうちょっと一緒に遊んでも良かったけど──あんまりのんびりしてるわけにもいかないんだ。

 




キヴォトスって農業どうしてるんだっけ……

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