先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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ゲーム開発部
通報:ミレニアムタワー内を不審なPMCが徘徊しています!


 

『半壊したロボットが通りまーす』

 

「うわ、ホントだ。半壊したロボットだ」

 

『ボロボロのロボットが通りまーす』

 

「ボロボロだ〜」

 

『ちょっとごめんねー』

 

「……ひ、久しぶりです」

 

『よっす。これ差し入れ』

 

「あ……す」

 

 綺麗なリノリウムの床の上、ゴロゴロと音を鳴らしながら台車をいくつか運んでおります。

 やってきたのはThe Laboratory(イケボ)のWorking Place (渋ボ)。

 重機が動き、金属音が止まず、薬品臭に満ちたこんな地獄みたいな場所になぜやってきたか。

 そんなの決まってるよね。

 というわけで──

 

『おーい、三人官女〜』

 

 呼びかけても大抵は反応しないので、歩き回らないといけない。サンダースon台車はその間、製図台の近くに置いておく。残りは入り口付近。

 ラボ内動き回ると危ないからな。

 

『…………いない』

 

 おかしい。

 一周したけど、他の部活の子がいるだけで肝心の3人が見当たらない。大声も出してるのに。

 この時間帯ならいる筈……というか連絡しておいたし。

 俺の声にもいい加減慣れてるだろうから、いたら出てくる筈だ。

 もしかしたら不在なのかもしれない。

 

『──ぬわああああ!』

 

 駆けつけた時には、元のアームの接続部を取り外して変なのをつけられそうになっていた。

 暴れないように縛り付けられている。

 酷い絵面だ。

 

 サンダースはそれでもと、力の限り逃げようと暴れていた。

 

「暴れないでくれるかい! あの人が来る前につけてしまえばこっちのものなんだから!」

 

『助けてええ! ユウジィィィ!』

 

「サンダースさん! 往生際が悪いですよ! ユウジさんのお堅い注文をいつもは素直に受けてあげてるんですから、譲歩してください! ステルス迷彩だって本当はチーズ削り機をつけたかったのを我慢してあげたんですよ!? ところでチーズ削り機と言えば──」

 

『やだあああ!』

 

「ふふふ……1人で来たのが、運の尽き」

 

『1人じゃない! 1人じゃない!』

 

「関係ないよ。今、キミは1人──いいや、敢えて言うならば一機きりだ。しかも、それだけ声をあげてもやってこないという事は、私たちの教室まで探しに行っているかもしれないからね。もしかしたらそのまま学校の外に一旦は探しに行くかもしれないことを考えると、戻って来るまではかなりの時間があると推察できる」

 

『う、うわあああああ!』

 

 怖すぎる。

 あれが自分だったらと思うと半狂乱になるのも分かるわ。

 腕をちぎられて、得体の知れないものを仕込まれた義手に無理矢理変えられるんだろ? 

 そんなのホラーでしかないじゃん。

 

『やあマイスター』

 

「あ……」

 

 流石に可哀想だったので止めました。

 あのままだと神秘の裏側とか関係なく恐怖で反転しそうだった。

 ロボットが反転するのかは知らん。

 

『こいつは……パン粉製造機? 何でこう、変なものをつけようとするんだ……』

 

 傭兵の体にパン粉製造機をつけて何すんねん。

 戦場で粉塵爆発でも起こすか? 

 

「傭兵なんだから、遠征で食事に困ることがあるだろう? そんな時、パン粉があれば何だって美味しく食べられるようになる筈だ」

 

『もう分かった、聞きたくない』

 

 戦地でフライを作ろうと思うタイミングって、メンタル相当追い詰められてるだろ。

 そういうのじゃねーし、うちの会社は。

 でもこればっかりは分かっていることでも避けられない。

 頼みに来ている立場だ。

 金は渡してるけど放っといたらすぐ変なことしようとする。

 

「どうせ、面白くもない真っ当な修理やら改造やらを頼みに来たんだろう?」

 

『どうかな』

 

「あのバイクだって、わたしたちに任せてくれればもっとセンセーショナルな物が作れたというのに……」

 

『アレ作った頃キミたちいなかったけどね?』

 

 あれはヴェリタスに任せた。

 AIを搭載する必要があったからな。

 そんでバイクの仕組み自体はモブちゃん(他の生徒)に手伝ってもらった。若干挙動不審だったけど、完璧にできてるんだから何の問題もねえよな。

 命を預けるものに胡椒噴射機なんて仕込まれてみろ、四肢欠損で済むかもわからんぞ。

 まあ最悪は男のシンボルだけ残ってりゃ何でもいいけど。

 

『何で俺はここなんだよお! 俺もバイクと同じであのメガネのちびっ子がいいよお!』

 

『何故って……お前にはつけなきゃならんもんがある』

 

『は? つ、つける……?』

 

 ゴロゴロ〜。

 

『はいこれ』

 

「ドローン……?」

 

『砂漠で回収したドローンだ。俺のことを観察していた』

 

「……何故砂漠に?」

 

『もちろん仕事』

 

「…………思うに、キミは仕事以外にすることがないのかな」

 

 全くそんな事はない。

 俺が本気を出せばあらゆる仕事をほっぽりだして遊び人に転職する事だってできる。

 なんなら先輩の家に転がり込めば5年くらいは養ってくれるだろう。

 

「遊びに全振りしろとは言ってないけど」

 

『そうだな。そんなことより……こいつのこれだ』

 

「駆動部分がどうしたんだい? ……いや、待てよ? まさかキミはこれをサンダースに?」

 

『そういうこった!』

 

 流石マイスター! 

 俺とは頭の出来が数段違うだけはある! 

 このドローンのモーターとローターぶっこぬいてサンダースに移植してもらう事で、単独飛行を可能にする計画を一発で見抜いてくれたぜ! 

 

『なんだそれ!?』

 

『喜べサンダース、お前はさらに強くなれる』

 

 これは間違いなく大喜び──

 

『──デカケツメスボディは!?』

 

『え?』

 

「…………え?」

 

 耳をうたがった。

 主に、こいつ学生の目の前で何言ってくれちゃってんの!? っていう方向で。

 あれは人のいない場所だからこそ言える事で、人前でそんな事言ったらどうなるかくらい分かってくれますかねえ!? 

 

「あの……い、今、なんて……?」

 

『だからデカケツメスボディ!』

 

「…………」

 

 ほらあ! 

 ほらあ! 

 ほらあ! 

 そんな大声で言う事なかったじゃん! 

 マイスターのマイスターがマイスターしそうだよ! 

 

『ユウジが言ったんだぞ! 俺をデカケツ赤髪ポニテスポーティメスボディにするって!』

 

 一言一句違わず復唱してくれてありがとよ! 

 言っちゃダメなことをな! 

 

「え……」

 

「う、嘘ですよね?」

 

「…………」

 

 言うしかない……! 

 

『じょ……』

 

「じょ……?」

 

『冗談ですやん!』

 

「……冗談なの?」

 

『身内でふざけてただけで、本気でそんなことするわけないですやん! そもそも傭兵がデカケツにしてどうすんだっちゅー話ですよ!』

 

「またデカケツって言った……」

 

 よく分からんことを言い出したポンコツロボットのせいで話の軸がブレまくったけど、何とかそこから修正した。

 サンダースをより強くてかっこいいロボにする計画だ。

 でも、あの目……俺のことをデカケツ赤髪ポニテスポーティ女が好きだと思ってる目だ……

 

 そうだが? 

 何か問題が? 

 

「その……い、一応私たちも女子なわけで……そういう話は控えてもらえると……」

 

 それは俺じゃなくて、このメス化願望持ちのロボットが思考回路物理的にバグって言い出したことだろお! 

 そもそも本気でやろうと思ったら金が足りねえだろうがよ! 

 経営破綻するわ! 

 

「ま、まあ話は分かったよ……サンダースを飛べるようにしたいという話だろう? それなら早速──」

 

「それなら私に良い考えがあります!」

 

「コトリ?」

 

「サンダースさんのボディは通常のロボットに比べて重いので、供給エネルギーも多いですね! つまり、電気エネルギーを多く使えるということです! では……風の力で浮くなどという面白みのない発想は捨てましょう!」

 

「……ふむ、つまり?」

 

 おい、待て。

 

「磁力です! 強力な磁力を操れるボディーにして、他にもう一つ、戦闘時に可動式の電磁石を使えるようにしましょう! そうすれば空中を自由に移動できるようになる筈です!」

 

「おお! いいね! せっかく壊れたバイクも持ってきたという話だし、そのバイクを電磁石に改良しよう!」

 

 改良!? 

 どこが良!? 

 純粋悪だろそれ! 

 

「いいよねユウジさん」

 

『何故良いと思ったのか』

 

「かっこいいじゃないか! 想像してくれ! 全身から稲光を迸らせ、宙を浮遊するサンダースの姿を! そうだ! 磁力を扱えるんだからレールガンも組み込もう!」

 

『ダメです』

 

「ぶーぶー!」

 

『電磁気力なんて弱い力を浮遊に使って良いわけないだろ。よしんばあるとしても超跳躍時の加速くらいだ。そもそもそんな強力な電磁石にしたらアイツの人格回路壊れんじゃねーの?』

 

「…………つまらない!」

 

 俺が真っ当な視点から反論してきたのが嫌だったらしい。

 傭兵舐めんな。

 

『お、置いてくのか……? 俺を、本当にこんなところに置いてくのか……?』

 

 サンダースは、最後まで縋るような目つきで見ていた。

 それはさながら、暗い井戸の底に置いていかれる子供のような──さようならサンダース、お前との日々は楽しかったよ。

 まあ、冗談は置いとくとして3人とも良い子だ。

 ガス抜きさえさせれば何の問題もない。

 

 サンダースの修理の他に、俺のサブ火力のショットガンも改良しておいてくれるように頼んだ。そっちには何の制約もつけてないので、きっと面白い物ができるだろう。

 当然使い物にはならなくなるけど、それならそれで使い道がある。

 

『じゃあ頼んだぞ、3人とも』

 

「いきなり真面目に期待されるとなんだかむず痒いというか……いや、そうだね。エンジニア部の名にかけて期待には応えるよ」

 

 一応、白石の顔を見つめながら後ろ歩きで角まで来たから圧はかけられたと思う。

 これで戻ってきた時にサンダースが酷いことになってたら普通にキレちゃうかもしれない。

 デカケツは許す。

 

 

 ──────

 

 

『バイクダヨ!』

 

「あ、やっときた』

 

 というわけでやってきましたヴェリタス。

 しかし、いるのは各務だけ。

 どうやら他のメンバーは買い出しのようですね。

 そういう事なら、壊れちゃったからプログラミングし直してちょ。

 

「良いけど、あんなにお金かけたのにすぐ壊しちゃうんだね」

 

『俺にも事情がね……』

 

 何で壊れたかは一応説明した。

 本当は説明する気なかったんだけど、壊れた理由がわからないと対策ができないってさ。

 仕方ないからネッチョリモッチリと話しましたよ、ええ。

 

「先生、か……ちょうど来ているらしいけど、そういう人なんだ」

 

『まあ、いろいろ手違いがあったんだよ』

 

「そうなの? 今の話聞いた限りだと手違いには思えないけど」

 

 だから説明したくなかったんだよなあ……

 

「うーん……」

 

 気になるなら本人と直接話せば良い。

 悪性の人間じゃないことはすぐわかる筈だからな。

 俺が全部庇ってても変な話になっちまう。

 

「そこだよそこ、何で被害者のユウジさんが庇ってるのさ」

 

『被害を受けたのは俺じゃなくてサンダースだけどな』

 

「そういう屁理屈は良くて」

 

 倫理規範に厳しいからなあ……本当は各務じゃなくて音瀬に頼みたかったんだよなあ……

 

「はあ……まあ、詮索するのは良くないよね」

 

『おっ! そうそう!』

 

 ミレニアムの子は頭が良いから、察してくれることが多くて助かる。

 

「でもさ、いい加減ヴェリタスでもヘルム外せば良いのに」

 

 何故自分から目立ちに行かなければならないのか。

 

「今更それ気にするの? というか、PMCのロボットが歩いてる方が目立つよ。みんなも薄々気付いてるしさ」

 

 悲報、俺の変装あんまり意味なかった。

 

「意味ないっていうか……私たちはヴェリタスだからね」

 

『かっけ〜』

 

「む……そういう言い方するならやってあげないよ」

 

『ウソウソ! 各務さんマジで素敵! 本当に! メガネとかめっちゃ似合ってるから! ヘアピンも俺があげたやつ使ってくれてるのめっちゃ嬉しい!』

 

「……まあ、60点かな」

 

 俺の言いくるめ技術が低すぎて使い物にならない件について。仮に、これでダメだったら音瀬に頼もう。

 各務じゃなきゃダメとかないし。

 

「…………」

 

『え、なに?』

 

 いきなりケーブルを一本、俺のヘルムの後ろに繋いだかと思うとなんかやり始めた。

 

「パスワード変わってないじゃん……」

 

『え? うん──あ」

 

 アーマーが強制解除されて、(中身)が排出されてしまった。それで終わりかと思えば、初期パスワードのまま使ってることに対して小言を言い始めた。

 そんなこと言ったって、覚えやすいパスワードしてるのが悪い。

 

「何度も言ってるじゃん! そういうことしてるとハッキングされちゃうよって! 物理的に隔離されてる内部サーバーってわけでもないんだから!」

 

「このヘルメットが取られたら普通のヘルメットにするわ。新しいの作る気にならん」

 

「だからパスワード変えろって話してるんでしょうが!」

 

「わさびっ」

 

 ガン詰めされてる。

 これもうご褒美だろ。

 

「そ、そんなことよりもバイクだバイク!」

 

「…………はぁ」

 

 どうやら疲れているようなので、耳寄りな情報を教えてあげることにした。

 聞いて驚くが良い! 

 

「はいはい、今回は何ですか」

 

「シャーレの先生はパスワードをディスプレイの下に貼ってるぞ」

 

「それのどこが面白い情報なの……しかも全っ然興味ないし!」

 

 俺の気遣いのありがたさに気付くのは、先生ともっと仲良くなりたいと思ったタイミングだな〜。

 その時になって、俺に感謝することになるのが悔しいだろうな〜。

 楽しみだな〜。

 

「というか、ないの?」

 

「え?」

 

 なんだろう、その手は。

 報酬支払えってこと? 

 小切手? 

 いきなり金の話とは中々大人になったわね……ほろり。

 

「違うよ、お土産だよ」

 

「…………?」

 

「前はクリームカステラだったじゃん。その前はチョココロネで、さらにその前は──」

 

 ヴェリタスの記憶力ってすげえんだ。

 これまでのお土産全部覚えてるの。

 …………覚えてなくて良いよね? 

 お土産くれてる人に言うことじゃないし。

 

「…………まさか本当にないの?」

 

 本当にないのかと問われれば──あったけど、エンジニア部に奪われたというのが正しい。

 作業量が作業量だからいっぱいくれってよ。

 

「あいつら!」

 

「そんなに食べたいなら買ってくるけど」

 

「それだと私が食いしん坊みたいじゃん!」

 

 栄養摂ってるからその体型なのでは……言わないけど、いっぱい食べるよなあって思ってたのは事実だ。

 まあ良いか、適当に買ってこよう。

 

「そういえばカードゲームやってるんだね」

 

 説明しよう! 

 

 カードゲームKIVOTOS

 君だけのデッキを作って戦え! 

 カードの種類は──

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 チェーンされた!? 

 

「真面目に広めたいならもっと企業として絡むとか色々考えた方がいいんじゃない? ほら、あんな感じでライディングデュエル? とかするにしたってもっと協力してもらってさ」

 

 ……そうか、俺は本気であのゲームを広めようとは思ってなかったのか……盲点だった。

 そうだよな、俺も一企業を経営してるんだからその視点を持つべきだったよな。

 

「あんまり気にしないでね? ただ、どっち付かずだなって思っただけだから。ゲームを楽しむ延長線上で布教してるだけにしては大掛かりじゃん?」

 

「刺さるな」

 

 バイクのコア部分の修理はひとまず任せるとして、先生への誤解は解いておかないと。

 今後のためにも。

 

「それは──直接会ってから確かめるよ。ストックホルム症候群の可能性もあるからね」

 

「……よし! じゃあ会いに行こう!」

 

「え? …………今から?」

 

「今から!」

 

 俺がストマックホルマリン? とかじゃないって証明するためにな! 

 

 

 ──────

 

 

「どこ向かってるの? 私も別に暇ってわけじゃないん──」

 

「ぐええっ!」

 

 俺たちは事故現場を目撃した。

 それはあるいは殺人現場だったのかもしれないけど、よくわからない。

 とにかく、上にある窓から身を乗り出している少女が顔を真っ青にしていた。

 白いコートを着た人物の頭に落ちてきた物体が飛び出てきたばかりの窓だ。

 

「今、あの子の頭の上からゲーム機が……プライステーション?」

 

 目玉が飛び出んばかりの表情で鶏が締め殺される時みたいな声を上げてぶっ倒れてからぴくりとも動かない。

 ヘイローも消えてる。

 

「見ない制服……違う学校の子かな? ──って言ってる場合じゃないよ! 気絶しちゃってる!」

 

『俺は何も言ってないが』

 

 駆け寄ると、完全にノビていた。

 事件です。

 しかし頭部から血は出ていない。

 仕方ないので一旦はチョークで現場を保存して、と。

 

「何ふざけてるの! 早く救急車を──」

 

『いいから、一旦こっち行くぞ』

 

「ちょっ……放置するつもり!?」

 

 木陰に引っ張り込んで待っていると、大慌てで近付いてくる小さな影が。

 緑とピンクのパーカーが目立つ二人組だ。

 チョークを見ると挙動不審になっているけど、片方は両脇を持って、片方は足を持って。

 落ち着きなく周囲を見回してから、スタコラさっさと建物の中に被害者を運び入れてしまった。

 

「……一体どういうつもり? あの2人に連れてかれちゃってよかったの?」

 

『大事な事なんだ』

 

「はあ?」

 

『中に入ろう』

 

「…………」

 

 入り口の表示図で部室の場所を確かめて部室の扉をノックした。中でガサガサと音がしたのでレンズを調整して中の様子を見ると、ピンクの瞳と目が合った。

 

『──ひゃああああ!』

 

『お姉ちゃん!?』

 

 どったんばったんと騒がしい。

 扉を開けたり何かを動かしたりする音が良く聞こえる。

 

「ねえ、もしかしてゲーム部に用があったの?」

 

『無いとは言わない』

 

「また意味深な……」

 

 このまま何もしなければ居留守を使われるだけだろう。

 そこで一計を案じた。

 

『──開けろ! ミレニアム市警だ!』

 

「は、はははははいいい! なんでしょうかああああ!」

 

 飛び出してきたのはやはりピンクの方。

 精神崩壊しそうなくらい震えている。

 このままRPを続けてもいいけど──

 

「やっ、モモイ」

 

「──チヒロ先輩?! まさか私たちを売ったの?!」

 

「売るも何も……そっちこそ頭を打った子を部屋に連れて行くなんてどういうつもり? まずは救急車を呼ぶのが先じゃないの?」

 

「ち、ちがうんです! 投げたプライステーションが偶々先生の頭にあたっちゃっただけで……そう! わざとじゃないんです! だから無罪! 無罪です!」

 

「…………先生? さっきのは先生だったの?」

 

 何だその目は。

 意図的に隠していたな、みたいな目をしやがって。

 俺もちょっとびっくりしてるんだぞ、まさかあの外套見て気付かないなんて。

 

『とりあえず、中に入れさせてもらうぞ』

 

 ぐちゃぐちゃだ。

 棚に入れてあるものがほっぽり出されているような印象を受ける。

 

「チヒロ先輩……こ、この人は誰ですか?」

 

 緑色を基調とした服に身を包んだ女の子が怯えた表情で見ている。これは答えねばなるまい。

 

『俺はミレニアム市け──』

 

「私の取引先の人」

 

 ネタを潰された。

 ヴェリタスって窮屈じゃないか? 

 ユーモアをエンジニア部から借りてくる事を推奨します。

 

「な、なんで取引先の人がここにいるんですか?」

 

「なんでって……あなた達が先生を誘拐したからでしょ。この人も先生の知り合いなんだってさ」

 

 物がめちゃめちゃに散らばっている。

 その中で特に、前の床部分の荒れ具合がひどい棚を開ける。

 

「きゅぅぅ……」

 

 白目を向いた『先生』が倒れ込んできた。

 受け止めた各務は、よく似た顔と表情の猫耳姉妹を睨み付け、その場で正座するように言い放った。

 そこからは……ね? 

 

「ごべんなざいいい! ごべんなざいいい!」

 

「だっで! だっで! おねえぢゃんがああああ!」

 

 ひどい正論パンチを見た。

 2人ともごめん寝で泣きじゃくっている。

 女の子を泣かせるなんてサイテーなんだ! 

 俺はこんな恐ろしい空間にいられるか! 帰らせてもらうぞ! 

 

「先生と話していかなくていいの?」

 

 つい最近も話したから暫くはいい! 

 それに邪魔だろうしな。

 才羽姉妹はやはり先生宛に手紙を送っていたようで、それが理由でこっちにきていたのは間違いない。

 あとはそっちに任せよう。

 今日は別の用事がメインなんだ。

 

「そっか。じゃあまたね」

 

 

 ──────

 

 

 ミレニアムタワーに戻る最中、特徴的な太ももを見つけた。

 なんか怒っている。

 外部者が中で行動するならゲスト用の許可証をちゃんと携帯しておけだって。

 持ってるんだよなあ、と肩にくっつけてたのを掲げてもぷりぷり怒ってる。

 

「わかるように携帯してください! 通報がいくつか入ってたんですからね!」

 

『ごめん』

 

「確かに付いてますけど、社章の方が目立ってるから全然分かりませんでしたよ!」

 

『気を付けるよ。そういえばバイクの話なんだけど、どうだった?』

 

「…………はあ、私も忙しいんです。でもまあ、次に会った時に言いますけど……それでいいですよね?!」

 

『ありがとう! さすがミレニアムの守護天使! 財務の最終防衛ライン!』

 

「な、なんでこんな褒められてるの……払うべき物は払う、それだけのことです! でも…………先生も忙しい日々を送ってらっしゃるので、少しだけ大目に見てあげてくださいね?」

 

『もちろん! ところで今ってゲーム部に向かってるんだろ? ちょっと中が混雑してるかもしれないから気を付けてな』

 

「え? 何でゲーム部に向かってる事知って──」

 

『じゃ! 俺用事あるから!』

 

「ちょっと!? …………走り回らないでくださいよ〜!?」

 

 やってきたのはラボ。

 今度はエンジニア部じゃない。

 1人で黙々と作業しているメガネっ娘が目的だ。

 さっき渡したお土産はすでに二つほど食べられている。

 バイクを見せると、そこまで壊れてないから時間がかからずに直せるとのことだった。

 ヴェリタスに任せてるソフトの修復の進み次第ってことか。

 

「私のミューズちゃんがああああああ!!」

 

 バイクにしがみついて泣いている。

 曰く、全ての作品が可愛い子供なのだそうだ。少しだろうが何だろうが、傷付いていたら苦しくなるんだって。

 その歳で母親の苦しみを感じられるなんて、ミレニアム生はすげえや。これもう処女懐胎だよな。

 

「誰! 誰がやったの! 私の可愛いミューズちゃんを!」

 

 コイツに本当のこと言うと先生を恨んで一生許さなさそうだから、カイザーって言っといた。

 別に良いだろカイザーなら。

 あいつらが余計なことしなきゃバイクを使う場面だって現れなかったわけだし、半分くらいあいつらのせいとも言える。

 実際、本当に半分くらいあいつらのせいだよな。

 

「許さない……カイザーローンぶっ潰す!」

 

『落ち着け』

 

「は、離せ〜! い、いくらユウジさんだって私の可愛いミューズちゃんの敵討ちを邪魔するのは許さなーい! ……あ、あの、本当に恥ずかしいから……離してほしい、です」

 

『ほら、D.U.バナナ食べろ』

 

「むぐ…………この子を治さなきゃ!」

 

『その調子だ』

 

 トンテンカンと、勢いよく直していくぅ! 

 さすが、いつ見ても鮮やかな手つきだ。

 コマ撮りにして作ればそれだけでポートフォリオを作れそう。

 

「くらあ!」

 

 ただ見ているのも暇なので置いてあるモジュールを弄っていたら、スパナ投げられた。

 そんなに暇なら資材運びくらい手伝ったらどうだってさ。

 確かに俺のアーマーの繊細さは塗料の缶を静かに開けることもできるくらいだけど、そんな事のために付けているわけじゃない。

 安全靴とかそっち方面だ。

 

「夕飯! お、お、奢ってくださいよ!」

 

 正式な対価とは別に奢りを求めるとは何とも強欲だ。

 流石ミレニアム。

 

「お肉っ! お肉っ!」

 

 ミレニアム生の食事は貧弱で、ゴミ箱にはエナドリ缶やら完全食の包みやらが捨てられている。

 その細腕でよくレンチ動かせるな……なんて思うけど、そこは神秘がカバーしているということだろう。

 とは言ってもやっぱり平均的な運動の数値から見るとかなり低いようで、神秘の及ばない通常歩行速度はゴミカスだ。

 

「治療が終わってればミューズちゃんで行けたんですけどね〜」

 

「それ、運転するの俺だよね」

 

「今日は……しょ、しょうがないから私の隣で歩く事を……ゆ、許してるんです。お、おお女の子の隣歩けるなんてこれっきりですよ!?」

 

「聞いてる?」

 

 アーマー着てると移動速度爆盛りなので、ラボに置いてきた。

 勝手に改造されそうだけど、触れたら警告が入って、しつこいと戦闘モードに切り替わるから問題ない。

 エンジニア部、お前たちに言ってるんだぞ。

 

 ちなみに、彼女には元から顔を見せているから顔バレの恐怖もない。

 

「ふふん、臆病ですよね」

 

 当たり前の安全装備を臆病とか言い付ける意識の欠けたガキにはカルビとロースとテールとランプとハチノスとハツと──とにかく肉を食わせまくって、胃を妊娠させた。

 余は満足だ。

 

「うぷ……もう、お肉いい……」

 

 後でモモトークを見てみたら、色々な方面から連絡が来ていた。

 ユウカと先生と各務からは同じことについてで、もう一個は会社からだ。今、サンダースはこっちにいるから──あとは分かるな? 

 お土産を一つエンジニア部のラボから回収して、ヴェリタスに届けてから事務所に戻ることにした。

 




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