先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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廃墟へ

 

 

「うう……?」

 

 気がついたら知らない天井を見上げていた。

 なんだろう。

 私は何をしていたんだろう。

 ……そうだ、私は確かミレニアムサイエンススクールに来ていたはずだ。

 とある部活から一通の手紙が届いたから、そこへ向かっていたんだ。

 それで…………それで……? 

 

「だめだよ、まだ動いちゃ」

 

 とんでもない美少女が心配そうに私のことを見つめていた。

 もしかしてギャルゲーの世界に入り込んじゃった? 

 不思議なことがいっぱいのキヴォトスなら、それもあり得るのかもしれない。

 動くなと言われたので、寝転がったまま聞いてみることにひた。

 

「あの……あなたは?」

 

「私は各務(カガミ)チヒロ。あなたはシャーレの先生だよね? 初めまして」

 

「あ、うん……ここはどこ?」

 

「ここは──」

 

「ちゅおっと待ったあああ!」

 

 いきなり、元気なキンキンとした声が響き渡った。

 チヒロがうるさそうに耳を抑えて、声の方を睨む。

 

「うっ……ご、ごめんなさい……でも、ここを紹介するなら私たちでしょ! チヒロ先輩が勝手にやるのはマナー違反!」

 

「マナーとか語れる立場なわけ?」

 

「い、今は別の話だから!」

 

「…………じゃあ、ほら。先生も待ってるから」

 

 何やらやんごとなき事情がありそうだったけど、聞いて驚いた。

 ここはゲーム開発部。

 目の前にいる2人のそっくりさんは才羽モモイと才羽ミドリ。

 双子の姉妹で、ゲーム開発部の部員なんだって。

 つまり、手紙を送ってきたのがこの2人というわけだ。

 それで何故私がそんな場所にワープしたのかと言えば、モモイがプライステーションをぶん投げて私の頭に直撃させたらしい。

 …………なんて? 

 

「チヒロ先輩! それは語弊があるよ! 別に人を狙って投げたわけじゃないから!」

 

「結果は同じでしょ。私たち──んんっ……私、見ててゾッとしたんだからね。2階の窓から先生の頭にまっすぐ落ちて、一瞬で気絶したんだから」

 

 全く思い出せないけど、そんな恐ろしいことがあったらしい。

 よく生きてたな私。

 

「……と、とにかく! シャーレの先生なんだよね!?」

 

「うん! シャーレの紅一点、プリティーな伊坂コハネとは私のこと! コハネちゃんとかコハネ先生って呼んでね!」

 

「おおw」

 

「何で笑った?」

 

「あ、いや……シナリオライターとか向いてるよ先生!」

 

「先生に向いてるって言って欲しかったかな」

 

 ミドリとも話をして、何となくこの姉妹の性格が見えてきたけど、それよりもすごい気になることがある。

 チヒロが私のことを明らかに観察していることだ。

 初対面のはずなのに冷たい空気も感じる。

 ミドモモにも冷たい感じがあるけど、私にも同じような感じを向けてきていて……もしかして、サンクトゥムタワーで顔を合わせてたとか? 

 

 忘れていたら本当に申し訳ないから聞いてみたら、腕組みを解いた。

 

「ううん、違うよ」

 

「えっと……ごめんねチヒロ。私、何か気に入らないかな?」

 

 雰囲気作りにだけは自信があるつもりだった。

 こうやって自認初対面の相手に冷たくされると、ちょっと怖い。相手が学生だからこそ、マイナスの感情を向けられるのはくるものがあった。

 

「……気に入らないとはちょっとだけ違うかな。それよりも、ここ……たんこぶ出来てるから氷嚢で冷やして、はいこれ。傷が残ったら大変でしょ」

 

「あ……ありがとう」

 

 まだ、理由を教えてもらえそうにはないかもしれない。

 でも優しくて良い子なのはすでに分かった。

 少しずつ仲良くなりたいな。

 

「そーいえば、なんでチヒロ先輩は残ったの?」

 

「確かに……も、もう反省はしたので、これ以上は怒らないでくれますよね?」

 

 2人はビクビクしている。

 何かあったのかな。

 

「先生が起きる前に2人には先に説教しておいたの。人の頭に鈍器ぶつけておいて隠蔽しようとしたから」

 

「は、反省してるって〜……」

 

 2人のショボショボビクビクした感じからして、相当搾られたらしい。

 そこは直して欲しいというか、叱られて当然というか、次やられたら下手したら死ぬ。

 私もだいぶ弱くなってるからね……

 

「本当はユズがやるべき事なんだけど、今はいないから代わりに私がやったってわけ。と言っても……いたところで、あの性格じゃ叱れるとは思えないかな」

 

 優しくて気が弱い子なんだろうね、ユズは。

 私もそうだから気が合うかもしれない。

 

「じゃ、じゃあ、もう良いでしょ! チヒロ先輩だってヴェリタスの副部長なんだから、そっちのやる事やりなよ! もう私たちは反省したもんね! ミドリ!」

 

「う、うん……」

 

 早く返したくて仕方ないらしいけど、チヒロは全然帰る様子を見せないというか…………あれっ? じゃあもしかして──

 

「私に用があるから残ってたって事?」

 

「うん、だけど今はいいよ。モモイたちの用事の方が先約っぽいからね。私のことはトーテムポールか何かだと思って無視してて」

 

 やっぱり、まだ話す気はないらしい。

 

「じゃ、じゃあそういうわけで──改めて…………ようこそゲーム開発部へ!」

 

「来ていただけて、とても嬉しいです」

 

「よしっ! 全員揃ったから早速廃墟に行こっか!」

 

 どういうこと!? 

 話の流れが早すぎた気がするんだけど! 

 私の頭が悪いだけ? 

 いや、そんなはずない。

 流石に早すぎた。

 

「あ、そっか。じゃあ最初から順を追って説明すると……私たちは今までずっと平和にゲームを作ってたんだけど、いきなり生徒会に襲撃されたの! 一昨日には、生徒会四天王の中で最も恐ろしいと言われるユウカに最後通牒を突きつけられて……」

 

「最後通牒を!?」

 

 私もユウカからよく最後通牒を突きつけられるからよくわかる。あれは恐ろしい。仕事を終えるまで、泣いても吐いても絶対に家に帰してくれないんだ。

 休憩は1時間半に一回、10分まで。

 ちょっとだけ冷房強めにして寝ないようにした上で、書類のミスを書いたそばから指摘されて頭が痛くなって──

 

「うああ……」

 

 押し寄せる紙の津波……段ボールに満杯のカエル……切っても切っても終わらない領収書の群れ……積み重なるコーヒー豆の残り滓……誰か……助けて……

 

「せ、先生が白目を剥いてる……」

 

「ちょっと大丈夫!? 脳内出血とか起こしてないよね……先生、これ何本に見える?」

 

 三本。

 

「うわ、元に戻った」

 

「ちょっとトラウマが蘇っちゃって……」

 

「……やっぱり病院行く? 私、付き添うよ」

 

「大丈夫、本当に」

 

 私のバイタルに明らかな異常があれば、アロナがまず気付いてくれるから。

 それがないんだから大丈夫ってこと。

 

「体調悪くなったら言ってね」

 

「……ありがとう、チヒロは優しいんだね」

 

「普通だよ、これくらい」

 

 これくらい、の時にまたミドリとモモイを見ていた。

 私、この子には逆らわないようにしよう。

 

 

 ──────

 

 

「混雑ってこういうことかあ……そもそもなんでチヒロ先輩がゲーム部にいるんですか?」

 

「ちょっと野暮用でね」

 

「そうですか。先生は……はあ、色々言いたいことはありますけど、それは後にするとして……モモイ」

 

 ゲーム開発部の扉を開けてあらわれたユウカが、実際のところってやつを教えてくれた。

 襲撃とは何なのか。

 最後通牒とは何なのか。

 

 話を聞くと、モモイが詰められてる理由はゲームがちゃんと作れないからっていうことみたいだった。

 私と大体同じ方向性だあ! 

 すごく嬉しい! 

 

「な、何で先生が私を見る目がどんどんキラキラしていくの……はっ!? ま、まさか私が作ったゲームを遊んでくれたことあるの!? それで知らずのうちに私たちのファンになってたみたいな!」

 

「先生、そうなんですか!?」

 

 なんか勘違いされていた。

 クソゲー系はやってないって、もちろん説明した。

 

「クソゲーじゃないよ!?」

 

 説明を聞くだにクソゲーでしかなかったのに、そんなことがあるんだろうか。キヴォトスのKOTYも取ってるんだよね? 

 それに、ユウカの反応からしても一般人が手を出していい部類じゃないのは間違いない。

 私だってサブカルチャーは好きだから、そこを見る目は腐ってないと思う。

 

「違うよ! 確かに一般ウケはしないかもしれないけど、テイルズ・サガ・クロニクルは私たちが全身全霊を込めて作った傑作なんだから!」

 

 …………それなら、きっといい作品なんだね。

 

「先生! あれは酷い作品でしたよ!」

 

 たとえ外部評価が伴っていなくても、それを作るまでの過程にこそ意味がある。クソゲーかどうかは他人が言っているだけで、本人たち──ミドリやモモイからすれば大事な思い出なんだよね。

 

「そ、そうだけど思い出だけじゃないんだから! 先生もやってみれば絶対に分かるよ! あれは最高のゲームだって!」

 

「──その最高のゲームがもたらした結果が、クソゲーランキング一位をとったってこと? それは……本当に胸を張って言える? 例えばどこかの会社に対して、実績として提出できる? 非の打ち所がない、揺るがないあなた達の全力として言えるの?」

 

「それは…………」

 

「それが不満なら、私たちが納得する実績を出しなさい。あなた達が意義のある活動をしているんだって示してみなさい。それができないなら…………思い出として大切にしたいだけなら、ミレニアムの限られた部費を使うんじゃなくて自分たちの家でやって。楽しかったねって、面白かったねって、それだけで十分でしょ?」

 

 蚊帳の外だ。

 それにチヒロも関係ないみたいだね。

 本当に私への用事ってなんだろう、初対面なのに。

 

「じゃ、じゃあ実績って……何かの大会で優勝するとか?」

 

「そうね。スポーツならインターハイ、エンジニア部なら発明品を発表して特許を取得するとか──あなた達には多分無理だけどね? だって、クソゲーランキング1位のゲームを作って満足しちゃうんだから」

 

「ぐっ……」

 

「どうせなら、お互い楽な形で済ませましょう? 今すぐ部室を空けて、この辺のガラクタも捨てて」

 

 私が見たことないユウカだ。

 怖い。

 あの冷たさで来られたら太ももであっためて貰わないといけないかもしれない。いいなあ……私もあんな風に、骨格から良い太ももで生まれたかったなあ。

 スベスベしてそうだし……いや、私もスベスベしてるよね? 

 

「それはガラクタじゃない!」

 

「じゃあなに?」

 

「…………私たちには必勝法がある!」

 

「は? なに? 安易なパロディーは作品の質を下げるわよ?」

 

「うるさい! とにかく、その必勝法で私たちはミレニアムプライスにテイルズ・サガ・クロニクル2を出すんだから!」

 

「!?」

 

 1もやっとこう……でも──

 

「ミレニアムプライスってなに?」

 

「ミレニアム中の部活が各々の成果物を競い合う、ミレニアムでも最大級のコンテスト! ここで受賞さえすれば、いくらなんでも文句は言えないでしょ!」

 

 モモイは挑戦的だったけど、ユウカの態度からして相当厳しいラインなのは間違いない。だけど、それでも待ってくれるらしい。

 二週間とはいえ、再三の催促の後にまだ待ってくれるんだから有情極まっている。

 ツンデレだ。

 

「はあ……先生にこんな可愛くないところを見せなきゃいけないなんて……でも……もっと可愛くないことしないと……」

 

「ユウカ? 生徒会の仕事は終わったしこれで帰るんじゃ……」

 

「ええ、私もそうしたかったです…………用事が本当にそれだけだったらの話ですけど」

 

 な、なに!? 

 なんの話!? 

 

「ちょっと! 私たちだって先生に用事があるんだけど! 後から来て横暴だよ!」

 

「黙りなさい。これはゲーム部の存続なんかよりもよほど大変な話なのよ」

 

「え……」

 

 なに?! 

 ミレニアムサイエンススクールの大祭典よりも優先される私関連の何!? 

 怖い! 

 誰か! 

 ……チヒロ! 

 

「ちなみにユウカ、どんな話か私も聞いて大丈夫?」

 

 チヒロ……? 

 

「良いですけど……面白い話じゃないですよ」

 

「大丈夫、ちょっと気になっただけだから」

 

「それなら遠慮なく…………先生! 民間警備会社サンダースの夜長さんからお話は伺ってますよ! 夜長さんが所有しているバイクを破損させたそうですね! しかも砂漠で! 何を考えているんですか!? 確かに夜長さんは支払いも待ってくださるし先生の無茶にも応えてくださる寛容な方ですけど、遊んで良い場所とダメな場所くらい自分で考えてください!」

 

「……あのバイクの基幹システムを組み上げたのはうちだから修理をユウジさんに頼まれたんだけど、クラッキングの形跡があったんだよ。それも、外部からあり得ないほど強引にシステムに割り込む形で。ファイアーウォールなんて関係ないくらい強力な何かで……それこそ物理的な力に匹敵するほど強力なクラッキングが、ね」

 

「先生!? ハ、ハッキングまで──あれ、モモトークが…………はぁ……チヒロ先輩、伝言です」

 

「……なんでユウジさんのモモトーク知ってるの?」

 

「な、なんでって……この前シャーレで一緒に仕事した時に…………なぜか私、あの人に結構好かれてるっぽいんですよね」

 

「……ふーん…………で? 肝心の伝言は?」

 

「で? って、先輩が遮ったから言えなかったのに…………えぇと……先生にバイクの件について余計な詮索はしない事、だそうです」

 

「──あの人、何考えてるの?」

 

「というか……私たちがバイクのことを話すってなんで分かったのかしら」

 

 

 ──────

 

 

「ひぐっ……えぐっ……」

 

「よ、よしよし、大丈夫だよー。ユウカ達はもういないからね〜」

 

「うぇぇぇ……!」

 

「ミドリ、どうしよう……これじゃ廃墟に行くどころじゃないよ……」

 

 廃墟。

 そうだ。

 私は2人に助けを求められてきたんだ。

 泣いてる場合じゃないんだ。

 

「くしゅんっ!」

 

「──うわっ! は、鼻水垂れてるよ! ほら、ちーん!」

 

()べや(部屋)ぼごり(ホコリ)()()()……」

 

「泣くのか貶すのかどっちかにしてよ!」

 

「ごめんごめん……んんっ! ん! んんん! ……廃墟の話、聞かせてもらえる?」

 

「えっとね、廃墟っていうのは──」

 

 ミレニアム近郊の謎の領域。

 危険だからという理由で封印され、内情を知る人がいるのかすら知れていない。

 そんな場所がどうしたんだろう。

 どうして行きたいんだろう。

 

「──良いゲームが作りたいから! 私は証明したいの! たとえ私たちの腕がクソゲーランキング1位程度でしかないんだとしても……私たちを幸せにしてくれたこのゲーム達が、世の中に蔓延る最新ゲームに負けないくらい素晴らしいんだぞって! この──」

 

 その手には、さっきユウカがガラクタだって言ったカセットが。

 

「レトロゲームが、大切な宝物なんだって!」

 

「お姉ちゃん……」

 

「その為には、廃墟であれを見つけないと!」

 

 アレって? 

 

「うん!」

 

 

 ──────

 

 

「はっいきょ! はっいきょ!」

 

「こーら! 窓から顔出さない!」

 

「仕方ないじゃん! 楽しみなんだもん!」

 

 モモイは廃墟に行くのが楽しくて仕方ないようで、シートベルトが意味ないくらいにはしゃいでいた。

 部室で目を覚ました瞬間からそう思ってたけど、モモイは私と似ている気がする。

 

 逆にミドリは落ち着いていた。

 バックミラーでさりげなく見ると膝の上に手を重ねて、少し緊張しているみたいだ。

 

「モモイ、ユズは昨日はどこ行ってたの?」

 

「えっと……わかんない! ユズは神出鬼没だからね!」

 

「これみたいに、資料探し?」

 

「…………今度会えば分かるかな!」

 

「ふーん?」

 

 ユズとも会って話したいな。

 

「そういえばバイク壊したって話、本当なの?」

 

「うっ……」

 

 昨日、散々に詰められた話だ。

 サンダースたちにすっごい迷惑かけちゃったし、アヤネにも怒られてる。

 掘り返されると痛いところだけど……

 

「ほ、本当です……」

 

「本当なんだ! なんで壊したの!?」

 

「その……テンション上がって……」

 

 夢にまで見たライディングデュエルができるバイクが目の前にあったんだよ!? 乗りたくなっても仕方ないじゃん! 

 悪かったとは思ってるけど、絶対あの2人だってそうするよ! 

 そうじゃなきゃ砂漠まで私を見るためだけについてきて、私に水をくれて、帰りに道路燃やしながらカードゲームしないじゃん! 

 

「なんか……お姉ちゃんみたい」

 

「ミドリ、それどういうこと!?」

 

「その場のノリで行動するところ」

 

「私そんなんじゃないよ!」

 

 そんなん!? 

 

「ムカついたからってプライステーションだって投げちゃうしさ」

 

「ぐぬぬ……」

 

「もうちょっと考えて行動して?」

 

 なんか全部私に言われてるみたい……

 今回はもう少し控えめにいこうかな……

 プリティーなだけじゃなくて、お淑やかな女性でもあるんだぞってことを知ってもらわないと。

 ファンはアンチに反転するんだから、気をつけなきゃ。

 ズゾゾ(春限定チェリーモイストチョコチップモカフラペチーノ ミルク多め 砂糖多め)。

 

「──それ、知ってる!広告で見た!新作のフラペチーノだよね!?」

 

「うん」

 

「飲みたい飲みたい飲みたい!」

 

「いいよ、ちょっとなら」

 

「わーい! ズゾゾゾゾ!」

 

「ちょっとだよ!?」

 

「美味しい! ズゾゾ──」

 

 パッとモモイの手から離れた。

 

「お姉ちゃん、人のものなんだから考えて」

 

「うっ……ご、ごめんなさい」

 

「ズゾゾ」

 

「ミドリもじゃん!」

 

 だいぶ軽くなったフラペチーノが戻ってきた。

 高かったのに……フィギュア買いすぎてお金ないところから頑張って捻出したのに……

 

「が、ガチ落ち込み……ごめんね先生」

 

「……うん、いいよ」

 

「ミ、ミレニアムプライスで優勝したらたくさんお金もらえるし部費も出るから! それで一緒に飲もう!?」

 

「…………そうする」

 

 その頃にはお金にも余裕出てるといいな。

 二週間後だけど。

 お給料まだ入らないな……月初にあんなクオリティ高いプラモが出るのが悪いじゃん。

 

「なんか暗くなっちゃった……」

 

「お姉ちゃんが変なこと言うからだよ。それに、飲み過ぎ」

 

「は、反省してるよ……!」

 

 ──でも、いつまでも暗い顔してちゃダメ! 

 私はコハネ先生! 

 みんなの太陽なんだから! 

 

(パチンッ)

 

「わっ」

 

「さっ! 気分切り替えてこー!」

 

「おー! ……ほら、ミドリも……!」

 

「お、おー……」

 

 廃墟エリアのすぐ近くにあった吹き曝しの駐車場に駐車して、エリアに入る。

 ビルの荒れ具合がすごい。

 木の根はコンクリートを貫通するなんて言うけど、ツタなんかもビルの外壁面を覆っている。

 それに、アスファルトが大きく隆起陥没して、道路なんか車じゃ絶対に通れない。

 まるで、ポストアポカリプスの世界に迷い込んだみたいだ。

 

 私たちが来た事で興奮したのか、やかましく鳥が鳴き、物陰から音がする。

 モモイが先頭、私が真ん中、ミドリが後ろの陣形で進んだ。

 遠目にドローンが見えたからね。

 アロナバリアーは銃弾すら捻じ曲げてくれるけど、ものすごい負荷がかかるからアロナが気絶しちゃう。

 結局、撃たれちゃダメだ。

 

「あ、隠れて」

 

 慌てて瓦礫に身を伏せた。

 

「お尻でてるから! もうちょっと引っ込めて!」

 

「む、無茶言わないでよ……!」

 

(ザッ、ザッ、ザッ)

 

 ロボット達が、瓦礫の前を通る。

 何かしらの電子通信を行なっている事だけは分かったけどエンブレムは見当たらないし、電子的に探ろうにも不用意なハッキングは危ないからってアロナに暫く禁止された。

 バイクはハッキングそのものには簡単に成功したんだけど、シッテムの箱の認証と微妙に干渉し出しておかしくなっちゃったんだって。

 本来なら完璧に制御できたのに、そのせいでバイクが暴走したとかなんとか……よく分からないけど、そういうことらしい。

『わたしのぷらいど? が傷つきました! つーんです!』

 って拗ねられちゃった。

 可愛かった。

 

「……もう行ったみたいだね。よし、いこう!」

 

「よし、じゃない! なんなのここ!」

 

「ええ? だから廃墟だって。連邦生徒会長が管理してた

 立入禁止区域! 失踪してから兵力引き上げちゃったから、こんな感じになってるんでしょ」

 

「連邦生徒会長って、キヴォトスの生徒会長達のトップだった人だよね?」

 

「そう。まあとにかく連邦生徒会長がいなくなってくれたおかげで、ヴェリタスの助けを借りてここに来られたってわけ」

 

 ヴェリタスの助け、という単語が強く引っかかった。

 

「ヴェリタスって……チ、チヒロが?」

 

「チヒロ先輩がそんなこと手助けしてくれるわけないじゃん」

 

「あ、そうだよね」

 

「ヒマリ先輩だよ」

 

 誰だろう。

 また知らない子だ。

 

「『キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる、時代の下水道みたいな場所なのかもしれない』って、ヒマリ先輩は言ってた」

 

「怒られるよ? ……でも、なんでも知ってる賢者みたいな雰囲気出してるヒマリ先輩が『かもしれない』なんて言うんだね」

 

 ヒマリって子はすごく声が低いらしい。

 それに賢者みたいな雰囲気。

 特徴的だからすぐに分かるかも。

 それで──なんでも知ってるヒマリからG.bibleの情報を聞いて、ここに来たってわけ? 

 

「え? 違うよ?」

 

「…………まさか……まさかだよ? キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる場所なのかもって言われたから、ここにG.bibleがあるって思っただけじゃないよね?」

 

「何それ。私がおふざけで来たと思ってるの?」

 

「あ、違うの?」

 

「私のこと馬鹿にしすぎじゃない!? ちゃんとヴェリタスにG.bibleの座標を教えてって依頼したんだから! そしたらG.bibleが最後に稼働した位置を教えてくれたの! その座標が『普通の地図には存在しない場所』だったってわけ」

 

「…………ん?」

 

「忘れ去られたものが集まる、そして、普通の地図には存在しない場所にある──その二つの情報を合わせたらここしかないじゃん!」

 

「…………そんなわけないでしょ!」

 

「ええっ」

 

「はぁ……期待して損した……」

 

 そもそもG.bibleってなんだっけ……

 Gの聖典……寒気がするネーミングセンスだ。

 ゲームの聖典ってことならいいけど、Gって略すのはちょっといただけないかな。

 

 実際のところは、昔の伝説的なクリエイターが作った最高のゲームを作る方法を記したものらしい。

 えー? ほんとー? 

 

「先生、どう思います?」

 

「うーん……中身見ないとなんとも言えないけど、最高のゲームかー……」

 

「遠慮しないで言った方がいいですよ。お姉ちゃんハッキリ言わないと分からないし」

 

「…………最高って一口に言っても、人によって最高って違うじゃん? レトロゲームとVRゲームだって同じコンセプトで作ったら崩壊しちゃうし、ゲームに限らず最高を求めるときは既存の在り方プラスでそれをブラッシュアップしてユーザー目線で改良してくことで評価得られる事が多いって聞いた事があるからさ。あ、でも前提としてG.bibleの存在を否定するわけじゃなくて、今の話が前段に来た上でそれを超えるようなすごいものがあるならぜひ私も見てみたいなって………………お、思います」

 

「──先生って」

 

「な、なに?」

 

「私たちと同じ匂いがします!」

 

「え!? ホントに!?」

 

 ミドリ達からは甘いミルクみたいな香りが漂っている。

 もし私がそれと同じ匂いだって認めてもらえたなら──

 

「なんで匂い嗅ぐの? ……そっちの匂いじゃないですよ」

 

「えっ」

 

「先生からオタクの匂いがするって話」

 

「あ、ああ〜!」

 

 なーんだ。

 てっきり私の身体から自然に甘い匂いが漂ってるのかと思った──というかそうじゃないの? ちょっとショックなんだけど。

 

「ほら2人とも、いつまでも話してないで行くよ! G.bibleを読んで、我々は最高のゲーム、テイルズ・サガ・クロニクル2を作るのだから!」

 

『…………■■■■!!』

 

「え? あ、あれって…………」

 

(ガシャガシャガシャガシャ)

 

「ロボットがこっち狙ってるよ!? すごい勢いで集まってるし……こ、このままじゃ包囲されちゃうよ!」

 

 視線をめぐらした。

 ロボットの集結が薄い方向。

 その中で逃げ道がある箇所。

 敵の数。

 

 進めそうな方向に当たりをつけた。

 

「2人とも! あっちに工場みたいなのがあるよ!」

 

「じゃあ、突破してそこに逃げ込もう!」

 

 

 ────―

 

 

「ぜえ! ぜえ! げほっ! ぜえ! ぜえ!」

 

 工場の一室──空いていた通用口らしき扉から中に駆け込んで息を整えた。

 全力疾走→遮蔽確保→指示→制圧→全力疾走の繰り返しで休む暇がなかった。

 最後の方は頭の中が真っ白で2人を困らせちゃったと思う。

 だけど、頑張った甲斐があった。工場の中に入ったら急にロボット達が追ってこなくなった。

 多分赤外線センサー? とかでなんかやってるんだと思う。

 

「ひとまず安心だね! ヨシ!」

 

「ヨシ! じゃないよ! なんで私がこんなところでロボットに追われなきゃならないの!? こんな事なら部室に引きこもってラフ絵描いてた方がマシだったよお!」

 

「まあまあ。でもロボットが来ないってことは連邦生徒会が関わってるのかな」

 

「逆に、あのロボットがいるから出入りを制限してたんじゃないの?」

 

「うーん、実はあのロボットたちが最終兵器で、有事の際は合体ロボに──」

 

 そのとき、逃げ込んだ部屋全体に電子音が響いた。

 

『接近を確認』

 

「え!? な、なに!?」

 

『対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません』

 

「なんで私の名前知ってるの!?」

 

『対象の身元を確認します。才羽ミドリ、資格がありません』

 

「私のことも……どうなってるの?」

 

『対象の身元を確認します…………伊坂コハネ先生…………資格を確認しました、入室権限を付与します』

 

「えぇっ!?」

 

「え、どういうこと!? 先生はいつこの建物と仲良しになったの!?」

 

 私は……選ばれた勇者だった…………? 

 

『先生! わたしというものがありながら、この不審なAI達とも仲良くしていたんですか!? うわきですか!?』

 

 そんな筈はない。

 なぜなら私は忙しいから。

 アロナとツイスターゲームをする時間はあっても、他の人工知能に割ける時間はなかった。

 だけど、資格を確認……? 

 

「当の先生も戸惑ってるみたいだけど……」

 

『対象の身元を確認します…………夜長ユウジ…………資格を確認しました、入室権限を付与します』

 

「…………え? 誰?」

 

 モモイが一瞬聞き返すのも仕方ない。昨日初めて名前聞いたもんね。

 どう考えても知り合いの名前が出てきたけど、どう考えてもこの場には──ジジジジって音が聞こえて振り返ると、既にいた。

 

『俺も資格あるんだ……意味わからん……』

 

「──なんでここにいるの!? もしかして忍者!?」

 

『ドーモ。イサカ=サン』

 

『才羽モモイ、才羽ミドリの両名を先生の『生徒』として認定、同行者である「生徒」にも資格を与えます。承認しました──下部の扉を開放します』

 

「下部?」

 

(ガチャン)

 

 何がしかのロックが外れる音が耳に入るのと、重力加速度に対する反力が消え去るのは同時だった。

 

「うわっ!」

 

 二重に驚いている間に内臓が浮き上がり、落とし穴の縁目掛けて伸ばした手が空を切る。

 体勢が崩れた。

 このまま落下したら──

 

『高すぎるな』

 

「──へ?」

 

 速度が大幅に減速した。

 

『この高さは流石にまずい』

 

 壁面から火花が散っている。

 何か、ナイフのようなものを突き刺していた。

 

「わああぁぁぁ……?」

 

「きゃぁああああああああ!」

 

 モモイも気付いたみたいで、目が合った。

 私たち3人とも担がれている。

 突き刺さったナイフは壁の鉄板を切り裂きながら、それでも止まることなく一定の速度で下に落ちていた。

 

『流石に重いか』

 

 は? 重くないけど。

 リンゴ3個分ですけど。

 

『アイドルかよ』

 

 そうですけど。

 




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なかよくしてね。
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