先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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色眼鏡&贔屓

 

 オワタ式認証システムで奈落行き! 無慈悲! 

 そして3人+俺のイケボディーを1点で支えられるほど壁面の装飾パネルは剛性がなかった。

 突き入れたナイフがスーッ! (火花)

 

『お?』

 

 唐突に消えた抵抗。短い浮遊感の後、足から受けた衝撃を全てアーマーに流した。

 

「うげっ」

 

「うわっ」

 

 2人は地面に投げ捨てた。

 不用意シスターズと名乗れモモイと先生(お前ら)

 

「──きゃああああああ!」

 

 1人だけ、いまだにパニックのミドリが背中で叫んでいる。

 女の子に近くで叫ばれると警察来ないか不安になるよな。

 ……ヴァルキューレいないよな? 

 

 俺が3人についてきたのは、当然バイクだ。

 2台あって良かった! 

 なんでいるの? なんて当然な質問は無視して部屋を見回した。

 

 ──長年の保全不十分の結果、建物内部にも関わらず下草が見えている。円形の部屋。その中心にはまた円形の小上がり。メタリックな光沢を持つ床は俺が歩くとミシミシ音を立てる。

 小上がりの中心には歯科にありそうな椅子と──おっと、俺が見るのはマナー違反のコンプラ違反。

 青少年保護の観点からも違反だ。

 

 3人も気付いたようだ。

 後ろを向いたにも関わらずジト目で見られた。

 しかしねキミ、部屋の中心にいるものだから……

 

「──状況把握、難航」

 

 なんとも機械的な口調だ。

 とはいえ、俺の知ってる声色とは違うとしても本人だってことに変わりはない。

 

「会話を試みます……説明をおねがいできますか」

 

 自我がない。

 そういう意味では初期のサンダースも似たようなもんだった。

 組織に従うだけの機械。

 与えられた任務をこなす為だけに作られたもの。

 

 それは何も間違ってない。

 機械に求められているのは正しくそれだ。

 俺だってバイクがいきなりブレイクダンスし始めたらビビる。

 

 とはいえ、初見だと混乱する。

 あの3人は、俺がキヴォトスに来た時に手に入れたショックを今更に感じているのだろう。

 パンダ型の人間やロボット(人外)が自我を持って喋っている! っていう……そこまでじゃないか。人間にめちゃくちゃ似ているロボットがいるってシチュエーションに興奮してるだけだ。

 

 とりあえず、落ちた穴を今度はよじ登った。

 

「がんばれー!」

 

「が、がんばってください……!」

 

 可愛い女の子に応援されながらだからまだ納得もできたけど、それはそれとして文句を言っても許されるはずだ。

 

『脱出口ぐらい用意しろ! ──うおおっ!?』

 

「「きゃあああ!」」

 

『あぶなかった……』

 

 さらに上がった総重量を、外装パネルを剥がして露出させた躯体に脚部のスパイクを打ち込むことで支えながら上がった。だけど時間が経って躯体すらボロボロになっているから何度か落ちかけたな。

 なんとか這い上がって、帰りは俺手ずからロボットどもを粉砕してやったわ! ガハハハ! 

 

「最初からいてくれればよかったじゃん! なんで隠れてたの!?」

 

 並走している最中、後部座席の窓を開けてモモイが顔を出したかと思えばそんなことを言った。

 確かに、客観的にはそうかもしれない。

 しかし俺も事情がある。

 大人には、いつだって事情があるんだ。

 

『ほら見ろ、ボディーに傷がついてるだろ。修理に金かかるんだよ』

 

 ちょっとだったら自分でピッピッピ〜って直したりもするけど、基本的にはいじらない。

 メリケン育ちじゃないから、プロに任せたい派なんだよね。

 

「守銭奴!」

 

 金がないやつの言葉はノイズキャンセリングっとw

 

 

 ──────

 

 

「え? ここまで来て部室に寄ってかないの?」

 

「仕事」

 

「へー……いたたたた!」

 

 ムカついたので優しく抓っておいた。これは事務員の分! これはサンダースの分! これは俺の分だああああ! 

 ほっぺた千切れちゃうよー! なんて抗議は放っておいて、俺もお仕事しなきゃ。お金が減ったからな。

 内容はヴェリタスの護衛。

 

 えっ、仕事の委託先から仕事の受注を!? 

 …………できらあ! 

 内需で生きていこうぜ! これからもよろしくな! 

 

「よろしく〜! ウェーイ!」

 

『よろしく』

 

 ヴェリタスの護衛っちゅーか小塗マキの護衛? 

 2、3回目の顔合わせだ。

 高価なチップをブラックマーケットで買ったんだけど受け取りがマーケット内らしくて、白羽の矢が立ったってわけだ。

 高価だから郵送じゃ無理なんだって。

 最近の治安を考えるとまあわかる。

 お金をくれるなら、なんでもしやすぜ! 

 

『2人とも、遊びじゃないってことを忘れないでね』

 

 インカムから聞こえてくる各務の声に小塗が適当な相槌を打ったせいで声量が2倍になった。

 それだけ高いって事だろう。

 

「それでポテトチップの袋がパーンって弾けて! 勢いでチヒロ先輩のコーラが吹っ飛んだの! 側から見てたらバカみたいでさ! あはは! コタマ先輩、うわーっ! て聞いた事ない声出してたから!」

 

『うんうん、それは音瀬が悪いね』

 

 じゃ、入るね……(ブラックマーケット)

 

「うわ〜、相変わらず陰気臭いねー」

 

 先生が権限移譲したからって即座に治安が戻るほど人間は強くない。

 小塗の言う通り、陰が漂っていた。

 ダンボールハウスで暮らしてる奴もいる。

 女の子がダンボールハウスとか……と微妙な気持ちにはなるけど、外の世界とは違うからそういう事件を聞いたことはあまりない。

 あまり、な。

 

「ユウジさんは……あーいう子、どう思う?」

 

 一際無防備な姿を晒している女の子がいた。

 

『どうとは』

 

「ほら、やっぱり男の人じゃん? がおー……み、みたいな」

 

 自分で言って顔赤らめてんじゃねえぞ。

 それでどうすんだ、俺が本当にがおーしてたら。

 そうなんだね! あはは! で済むと思ってんのか。

 とはいえ、悪意はなくて単純に気になるって話だろう。

 

 答えるとするなら──

 

『仮にがおーするにしても、道端で寝てる子じゃなくて普通に出会った子とがいいかな』

 

「へ、へえ〜……例えばどんな人!?」

 

『赤髪で〜』

 

「うん」

 

『スポーティーで〜』

 

「うんうん!」

 

『……まあそんな子かな』

 

「性格は? 性格は気にならないの?」

 

『帰ったら笑顔でおかえりって言ってくれる子』

 

「うわー! 生々しー!」

 

 生々しい言うな。

 

『2人とも……遊びじゃないってもう忘れたのかな?』

 

「わっ! ……ち、ちがうよー! こういう自然な会話してた方が目立たないでしょ?」

 

 まあ、赤髪ポニテデカケツだけが俺の好みだと思われても困るけどな。そんなにストライクゾーン狭くない。

 大事なのは最後の部分だ。

 

 道中、何もしてない俺たちを襲ってきた不良を吹っ飛ばして目的地に辿り着いた。

 

 なんと! 

 俺の現実にはオート戦闘があります! 

 バイクの自律駆動状態でエリミネーションモードになれば、敵を轢き飛ばしてくれるんです! 

 装甲も神秘の力で強化されるから弾を撃つよりは損耗も薄い! 衝突してもほぼ傷無しだ! 

 すごい! やっぱり俺と違ってキヴォトス産だ! 

 先生もエリミネーションモードで乗ってくれればよかったな! ハッキングしても別にいいけどさ! 

 

「すご〜……流石傭兵って感じだったね!」

 

『お褒めに与り光栄です』

 

 なんもしてないけど褒められ、ビル内部へ。

 待っていたのはデップリ腹の出たスーツのロボット。

 地溝油飲みすぎた? 

 

「ふん……やってきたか」

 

「チップは?」

 

「ここにある」

 

「じゃあもらうね? 貴重な商品だからわざわざ取りに来たんだからね〜、疲れ──」

 

 チップをスーツケースごと掴もうとした小塗の手はスカした。

 

(カチャリ)

 

 閉じられたケースに錠がかかる。

 

「…………なんのつもり?」

 

「ハハハ……貴重な商品を、貴様らのような小娘に渡すわけがないだろう! ただでさえ品薄の今、学生のお遊びに使わせてやると思ったか!」

 

「はあ?! 何言ってんの?! お金払ったじゃん!」

 

「ふん、大人しく傭兵どもにやられていればいいものを……そちらも傭兵など雇うものだからな!」

 

「なにそれ! あり得ないよ!」

 

「……こい!」

 

(ザッザッ)

 

(ザッザッ)

 

 部屋を四周取り囲むように不良勢力が現れた。

 舐められたもんだ。

 こんなガキども集めてくるなんて。

 

「ユ、ユウジさん……」

 

『ハハハ! 良くある話だな!』

 

 しかし、ここはキヴォトス。

 悪性と善性の偏った町。

 良いものはより良く、悪いものはより悪い。

 大人とは、搾取し秩序を築く者だ。

 それに利用されてしまうのは仕方ない。

 

「何をごちゃごちゃ言っている!」

 

『ふふふ……ハハハハハ! 良いタイミングだ! 最近ストレスが溜まっていたからな! こちらこそ騙して悪いが──』

 

(ガチャリ)

 

「ロ、ロケットランチャー!?」

 

(ジジジジ)

 

「透明な何かが……副腕だと!?」

 

(ガチャリガチャリガチャリガチャリガチャリ)

 

「待て! 貴様、武器をいくつ仕込んで──」

 

『仕事なんでなあ!』

 

(ドッカァァアアン!!)

 

「ウギャアアア!」

 

(ドォォオオン!! ドゴォォオオオン!!)

 

「グワアアア!」

 

「うわあああ! あ、あいつこんなところでロケラン何発撃ちゃ気が済むんだよお!」

 

副腕(サブアーム)何本くっつけてんだギャアアアアア!!」

 

「逃げろ逃げろ!」

 

「ま、待てお前ら! 逃げるな! 金を払ったのだからその分の仕事をしろ! 仕事を! 私を──」

 

(ドッカァァアアン!!)

 

 

 ──────

 

 

「ビル壊れちゃった……あ、チップは!?」

 

『確保してある』

 

 ストレス解消できて、依頼も問題なく達成。

 いやー、また評判上がっちゃうなあ! 

 それにしてもブラックマーケット関連の依頼で本当に良かった! 

 ぶっ放しまくれるし! どれだけぶっ壊しても法律には引っかからない! なぜなら法律の外で仕事をしている奴らだから! 

 俺はあくまで自衛しただけ! 

 仮に捕まっても尾刃に五体投地したらなんとか……ならないわ、うん。捕まらないようにしよう。

 

「よし、じゃあ帰ろう!」

 

『了解』

 

 ヴェリタスの部室では、前回と違って部員全員が揃っていた。やるやん? 

 

『では、依頼はこれにて──』

 

「待って」

 

 スーツケースを渡して己のインド人を右にエンジニア部へ行こうとしたら止められた。

 というか、各務が目の前に立ち塞がった。

 目の前つってもだいぶ下だけどな。

 

「とりあえず、ありがとう」

 

『ふんっ』

 

「……なに?」

 

 言い方で笑ってしまった。

 しかも鼻で笑ってしまったよ。

 なんて説明しようか……別にいっかあ! 

 

『どういたしまして、それじゃあ俺は──』

 

「あの人と話したよ」

 

 あの人、という言葉で思いつくのは一人しかいない。

 先生だ。

 ちゅーか、バイクの件は追及してもしょうがないから話すなって早瀬さんに言ったんだけど……この感じ、やっぱり話してる? 

 

『良い人だろ?』

 

「まずはアーマー脱いで。話するんだから、それが礼儀でしょ」

 

『お、おう』

 

 ウィーンプシューw

 

「それで?」

 

 それで? って、それこそ俺のセリフなんだけど……なんだろう、この棘。

 

「えーと……良い人だったろ?」

 

「……まあ、ほぼ初対面のゲーム部のやることを手伝うって言うんだから……もしかしたらそうかもね?」

 

 なんだこの微妙な反応!? 

 生徒は常に先生に対して好感度マックスでいろ! 

 先生もだ! 

 ウサギとキツネとドクロは除く! 

 誰にだって事情はあるからな! 

 

「それだけじゃないぞ!」

 

 アビドス廃校対策委員会を救ったことも伝えた。

 過去の学校のしくじりのせいで首が回らなくなって、捕まった仲間を取り戻すために色々頑張っていた。

 その最後に、大事な人を救い出してテンションが上がってバイクぶっ壊しちゃうのはもう、仕方ないよ。

 そのうち全裸見せてもらうんだから、それでチャラだ。

 金も払ってもらえそうだし。

 じゃあプラスじゃん。

 やった! 

 

「へえ! そんなことしてたんだ! それで──ユウジさんもその場にいたの?」

 

「俺はいねえよ。仕事が忙しいからな」

 

「壊れたのサンダースのバイクだったもんね。つまり、サンダースだけ派遣したってわけだ?」

 

「そんな感じ」

 

「…………やっぱり変だ」

 

「え? 変か?」

 

 忙しいからサンダースだけ行かせるの、そんな変かな。

 

「お金もらったの?」

 

「これから払ってもらうけど」

 

 なんだ。

 なんか違和感が。

 なんでこんなに詰めてくるんだ。

 やめてよね、俺の脳みそで各務と対等に語り合えるわけないんだから。

 

「やっぱりさ……先生にだけ優しくない?」

 

「あー?」

 

 優しい、のだろうか。

 先生にだけかと言われると微妙だ。

 俺はみんなに優しい。

 

「はいはい……前も言ったけど、バイク壊した壊されたの関係でしかないじゃん」

 

「あ、それは違うぞ」

 

「え?」

 

「ほら、俺も先生も外の人だから頑張ってるの見ると親近感湧くんだよ。だから応援したくなるんだ」

 

 それに、薄い本に出てきそうな先生じゃなかったから安心した。

 見た目がどうであれ、生徒の為に動ける人ならなんでも良いだろ。生徒に手を出したり、都合よく女として扱ったり、そういう教師の風下に置けないクズじゃないから及第点だ。

 暴走列車なところもアジですよ、アジ。

 

「だから各務も、先生のことをもうちょっと色眼鏡を外して見てあげて欲しい」

 

「…………好きなの?」

 

「はい?」

 

「先生のこと、そんな贔屓するってことは……」

 

「…………」

 

 すぐこれですよ。

 これが高校生ですよ。

 いやー、みんなそういう事が気になるんだねえ。

 なんでだろうねえ。

 

 男が俺しかいないからだねえ! 

 

 なんぼ優秀つっても学生だからな。男女のそういう香りが少しでも漂ってきたら気になるよな、分かるわ。

 俺も学生の時は好きな女の子のケツばっか追いかけてたもん。

 しかし残念でした! 

 

「ブーッ! 先生は好みじゃありませーん! 俺の好みは──」

 

「赤髪のスポーティーで帰ったら笑顔でお帰りなさいって言ってくれる子!」

 

「ピンポーン! 小塗さん大正解! 夜長ポイント10ポイント贈呈でーす!」

 

「はいはいはーい!! ポイント貯まったら何かもらえますか!」

 

「100ポイント貯まったら俺のデッキを一つ差し上げます!」

 

「…………?」

 

「しかも、なんと! 俺と一緒にライディングデュエルができるかも……!?」

 

「あ、別にいいです」

 

「なんだとお!?」

 

「それよりも、あのバイクになんか描きたい!」

 

「それは今でも良いけど」

 

「いいの!?」

 

 グラフィティーは好きでも嫌いでもないけど、ネームド学生の絵を愛車に描いてもらえるのは嬉しい以外の何でもないのでは……? 

 

「うちの事務所もついでになんかいい感じの看板描いてほしいかな。ちなみにこれは普通に依頼としてお金も払うよ」

 

「ホントー!? やるやる!」

 

 これこれ、こういう反応ですよ。

 各務が敏感反応すぎる。

 カサカサしてるよね、心が。

 風紀委員会とか所属したら破裂してそう。

 

 爆発……蕎麦屋……うっ、頭が! 

 

「いいじゃん、別に各務の家が爆発したわけじゃないだろ? 俺のバイクがちょっとぶっ壊れただけなんだし……まあ、作ってもらったものを壊しちゃったのは悪いけどさ」

 

 メガネモブちゃん(あの子)と同じで自分の作品には愛情をガチで持ってるタイプだったりしたっけ? 

 

「…………」

 

「な、なんだよ……」

 

 意図が分からなくて良い加減に怖い。

 音瀬と小鈎は我関せずのくせにずっとaaaaaって入力してるし、各務は睨んでくるばっかり。

 俺は睨めっこなら負けないぞ! 

 頭じゃ勝てないんだから、頭使わないところじゃ負けないからな! 

 

「はぁ……もういいや」

 

 それ、各務と話してて何回聞いたことあるか分からんな。

 

「先生のことは忘れるよ」

 

 忘れないであげて? 

 何でちょっとズレてるんだ。

 

「とにかく、色眼鏡で見てるのはユウジさんの方だからね」

 

「忘れるんじゃないんかい……」

 

「返事は!」

 

「はい」

 

 俺ってもしかしてヴェリタスに所属してたのか? 

 なあ、やっぱ所属してるよな。

 

 

 ──────

 

 

「あはは……あーいうのは知り合いだとしてもちゃんと言わないとダメですよ? 社長が困るんですから」

 

 こんな優しい言い方してるだろ? 

 キレてるんだぜ。

 かっこいいよな、最高にイカしてる。

 俺も見習おうかな、笑顔でキレるの。

 ビジネスだと必要なのかもしれないし。

 でも身内ではなるべくやめてほしいかな。

 ほら俺、一応社長だし。

 もしかして身内じゃなかった? 

 

「──ユウジさん」

 

「う、うん」

 

 存外に優しい表情だった。

 両膝の上に置いた手が何度も前後し、柔らかく口を開く。

 

「私も、昔みたいにいつまでも何も分からないままじゃないんです。昔みたいに──突っ走れば良いってわけじゃない」

 

 そうだな! 

 

「たくさんのことを教えてもらったし……ユウジさんがどんな人かだって分かってます。あ、サンダースさんもですね」

 

 そうだな! 

 

「真面目な話ですよお!」

 

 切り替えは大事だ。

 

「私もバイクが壊れたからって責めません。わたしの持ち物じゃないし、そもそもユウジさんは関係ない──ことないか…………でも、ふふ……そっか。きっとこんな気持ちだったんだよね」

 

 今、すごいディスられてる気がする。

 過去最高に。

 怒って良い? 

 

「ディスってません! もう……すぐ話逸らすんだから」

 

 結局、何に怒ってたの? 

 

「教えてあげません!」

 

 ニンジンは? 

 

「食べません!」

 

 食べろ、ニンジンは。

 俺も好き嫌い無くそうとしてパクチー食ってたことあるんだから。でもあれって好き嫌いじゃなくて、そもそも人の食い物じゃなかった。

 

 ──袖なんか引いて、なんだ? 

 

「…………本当は……あんまり事務所に来てくれないから……」

 

 用事があるからなあ。

 でも前もこんな感じじゃなかったっけ。

 生徒会長がいなくなってから──

 

「サンダースさんもいないし……ちょっと寂しいなって……あはは……」

 

「あ…………」

 

「…………やっぱり、一人は寂しいんです。慣れてはいますけど……」

 

「分かった! もうちょっと事務所くる!」

 

「……本当ですか?」

 

「来る!」

 

「やったー! ありがとうございます!」

 

 擬態型!? 

 

「ふっふっふ、騙されたな〜!」

 

「…………そうだな」

 

「はい!」

 

「ところでさ」

 

「はい?」

 

「さっきロッカー見たら中に仕舞ってたはずの俺のスーツがビッショビショだったんだけど……」

 

「…………」

 

「なんかした?」

 

「……ぷ、ぷぴ〜」

 

「なんかしたなあ!?」

 

「ひぃんっ! ご、ごめんなさいぃ〜!」

 

 Tの字に配置しているデスクの周りを逃げ回り始めたので、俺も当然追いかける。しかしなかなかすばしこい。

 

「悪気はなかったんですっ」

 

「スーツびしょびしょにして悪気もクソもあるかあ!」

 

「だ、だってみんな来ないから!」

 

「みんな来ないから!? みんな来なかったら社長のスーツびしょびしょにすんのかお前は!」

 

「ひぃぃん! そ、そうじゃなくてちょっと見たかっただけなんですっ! 見るだけのつもりだったんですぅ!」

 

「なんで!?」

 

「あっ……ひ、ひみつっ!」

 

 応接室に閉じ籠りやがった。

 スーツを見るとは一体。

 まさか俺の使ってるブランドが知りたかったとかそういうことだろうか。

 しもむら行け。

 

『行きません!』

 

「はぁ……」

 

 何というか、このままだと出てくる気はなさそうだ。

 俺も……少し頭を冷やすか。

 

 冷やすために、応接室のアルミ製の扉にもたれかかった。

 向こうも同じことをしているようで、扉越しに仄かな熱を感じる。

 息遣いのみが聞こえる部屋の中で、天井を見上げた。

 

『………………ユウジさん』

 

「んー?」

 

『サンダースさん、ちゃんと戻ってきますよね?』

 

「んー」

 

『ユウジさん』

 

「うん」

 

『あのちっちゃい先生のこと、何でそんなに気にかけるんですか?』

 

「うーん……一言じゃ言えないなあ。なんか変か?」

 

『私の方が付き合い長いのに、私より対応優しい気がするんですけど……ちょっとおかしくないですか?』

 

「そーかあ?」 

 

『ひーきですよ、ひーき』

 

「贔屓ね……」

 

『…………ユウジさん』

 

「おー?」

 

『……や、やっぱりやめておきます』

 

「そか」

 

 冷えた。

 というか常に冷静だった。

 俺が冷静じゃない時とかねーから。

 冷静すぎて、クール便のユウジとか言われたことあるから。

 お前らは人生で『お前って生もの運ぶの得意そうだよな』とか言われたことあるか? ないだろ。

 

「よいしょ……ん?」

 

 立ち上がったタイミングで応接室のドアノブも回った。

 片目だけ覗いている。

 

「今日はもう終わろうか」

 

 終業の言葉に警戒心を解いたのか、建て付けの歪みによって軋んだ音を立てながら扉が開いた。

 今度直そう、558で。

 

「……!」

 

 出てきて早々何やら言いたげに、瞳がLEDを受けてか輝いている。ふん、ふん、と鼻息も前向きの装いだ。

 

「──夕飯、行きますか」

 

「はい!」

 

 

 ──────

 

 

「だからあ! 私は言ってやったんですよ! そんなお仕事は受けませーんって!」

 

「そうだなぁ」

 

「あーんなお仕事請けたら、みんかんけーびがいしゃさんだぁすの評判が下がっちゃいますからね!? 分かってるんですか?!」

 

「分かってる分かってる、ありがとな」

 

「いーや、分かってらい! 私がいつもいつも……どぉれだけ電話請けてると思っれるんでふか!?」

 

「どれくらいだろうなあ」

 

「きょーは20件でしたよ!」

 

「にじゅっ……え? …………そっかあ……大変だったな。いつも支えられてるよ本当に、ありがとう」

 

「ふ、ふんっ……まったくもう……ユウジさんはわらひがいないとおしごとできないんでしゅから……」

 

 今度聞かせてやろう。

 この録音内容を。

 

「おしゃけ、おかわりっ!」

 

「あーもう、今日はもうダメだから! すんません、お代わりはナシで」

 

『そうだな、ダメそうだな』

 

 フクロウの店主もどこか遠い目をしている。

 同じような目に遭った事があるのかもしれない。

 

「なんれれふか! いーじゃないれふか!」

 

 呂律も回ってないやつに飲ませる酒はないんだよなあ……

 

「水、お願いします」

 

『はいよ』

 

「ほら、これ飲みな」

 

 差し出しても全然受け取らない。

 ゆらゆら揺れている。

 待っていたら── 

 

「ずどーん!」

 

「うおっ!?」

 

 グラスが手から外れて、カウンターに転がった。

 

「はい、わたしのかちぃ〜」

 

「なにがだ……おしくらまんじゅうか?」

 

「そー!」

 

 ニーッと、嬉しそうに笑む。

 

「真っ直ぐ座れなさそうか?」

 

「えー? まっすぐですよー…………ユウジさんにねー! ぷぷぷーっ!」

 

「ダメだこいつ」

 

 もうダメだ。

 明日は休みにしとこう。

 無理だよこれ。

 デスクに座った瞬間からどうなるか見えてるもん。

 

『いやあ、見た目によらないもんだな』

 

「──そうなんれす! わたし、見た目によらずけっこーおしごとできるんでふ!」

 

『え? あー……なるほどな』

 

 胸を張ってする彼女の主張は、まさしく爆発的だった。

 ぼんっ! とでも擬音が発生しそうだ。

 

「店主さん! 見る目ありまふね! さすがフクロウ!」

 

『お、おう』

 

「……そのお肉、もーらいっ!」

 

 ちょうど一番煮えてて美味しそうなチャーシューを、勝手に掬って器に入れたのは俺ではありません。

 

「すいません! すいません! ちょっ、お前何やってんだよ! 酔いすぎだって! すいません! ちゃんと金払いますから!」

 

「店主さん! これ、おいしーです!」

 

「おいい! なに呑気に食ってんだ!」

 

「えー? ユージさんもたべたいんですかー? ……あーん!」

 

「もごっ……」

 

 違いますよ! 

 全部俺の意思関係ないですから! 

 俺は止めてますから! 

 

『……あはははは! 参ったなこりゃ! この俺が動体視力で負けちまったよ!』

 

「あぁー……ちょっときゅーけい……zzz」

 

 俺の腕にしがみついて寝始めた。

 あまりにも自由過ぎる……

 

 

 ──────

 

 

『頭が痛くて……気持ち悪いです……』

 

 知ってた。

 屋台に着いて1時間で分かってたから、あなたには期待してません。休んでください。

 これは社長命令です。

 ……はい! それじゃあ、お兄さんは仕事あるから、そちらもごゆっくり。

 来るな、会社に。

 俺を笑い殺す気がなければ。

 

『うう……待ってよお……家政婦さんもお休みで……うぷ……わ、わたし、もう死ぬんだあ……一人ぼっちで寂しく孤独に……寝ゲロのなかで朽ち果てるんだあ……』

 

 面白いのに笑えないからやめてね。

 

『ユウジさん……助けてよお……』

 

 こいつマジで……

 

「はいウコンのパワーとホテリスエット。熱は……ないな。掃除機は掛けたし、洗濯物は俺がやっとくから。気分が良くなってきたらちゃんとお風呂入ったりするんだぞ」

 

「きゅーせーしゅ……」

 

「渡したからな! じゃあ洗濯物やったら勝手に帰るから!」

 

「やー!」

 

 パワー! 

 

「おうた、うたってください」

 

 結末ばかりに気を取られ──! 

 

「そんなハイテンションなのじゃなくて、おかーさんみたいなやつがいい。あたまひびくから」

 

 こいつ引っ叩いてもいいか? 

 許されるよな? なあサンダース。

 お前今どんな風になってんだろうな。

 直ってるか? 

 それとも爆!! になってるのか? 

 なってたら……お前は明日から俺の秘書だ。

 ストレスを受け止めやがれ。

 

「うた……」

 

「歌なんか聞いても良くならないんだから、早くこれ飲めって。それで寝ろって」

 

「…………」

 

 なんだよ。

 なんだよその目。

 文句あんのかよ。

 来てやったんだぞ、わざわざ! 

 ミレニアムに行きたかっ──

 

「ほら、飲みな」

 

「……んく、んく」

 

 体がダル重過ぎて起こせないというので背中を支えた。

 ウコンのパワーを渡して、飲むところを見ています。

 

「おいしくない」

 

「ジュースじゃないんだから……ホテリスエットは甘くて美味しいぞ?」

 

「のむ」

 

 アルコールで傷付いた体には極上の甘味のはずだ。

 ほおら、細胞に染み渡るだろう。

 

「あんま飲み過ぎもダメだからな」

 

「んー」

 

 モゾモゾと布団に潜った。

 しかし落ち着きがない。

 目から上と指先だけ出してこちらを見た。

 

「口の中……べたべたする」

 

「水飲むか?」

 

「……んーん、はみがきしたい」

 

 なにこいつ、幼女? 

 えーと歯ブラシは……これか。

 歯磨き粉付けて……

 

「はい」

 

「ありがとございます」

 

 また背中を支えながら、今度は歯磨きが終わるのを待った。

 俺、傭兵やめて介護士になろうかな。

 

「がらがら〜ぺっ」

 

 洗面所で口濯ぎたい。

 トイレ行きたい。

 顔洗いたい。

 全部終えたな! よし! 

 

「じゃあ、布団戻るか」

 

「あい」

 

 おんぶしーの。

 寝室戻しーの。

 布団被せーの。

 おやすみーの。

 俺はニーニョ。

 

「なんか疲れた……」

 

 事務所に戻って、やっとこさ一息つけた。

 普段やらないことをやったせいだろうか、大したこともしてないのに妙に疲れた気分だ。

 今日はもうミレニアムに行くのは諦めて、電話だけ受けよう。

 

 ──のんびりと書類を整理していたら、5分くらいで一本目が来た。

 

『こちらヴァルキューレ警察学校 公安局2年生の──です! 緊急で出動を要請します!』

 

 オワタ\(^o^)/

 




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