先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う 作:goldMg
G.Bibleのパスワードが知りたいゲーム開発部と、鏡を取り戻したいヴェリタス。2つの異常者集団が出会った時、ミレニアムの生徒会すら揺るがす大事件を引き起こす。
ところで、鏡はクラッキングのために必要だって話だった気がするけど、各務はそこんところどう思ってんだろうな。
各務が鏡を…………
『ブフォッ!』
やべ、余計なこと考えてたら運転が乱れた。
笑うと力がね、うん。
……あっ。
(キキーッ!)
『うわー!』
(ガシャァアアンッ!)
『あのバイクなんなんだよおおお!』
(ドゴォォオオオン!)
──爆炎が立ち上った。
…………見なかったことにしようか。
大丈夫、今は社名消してあるから。
基本的に俺のバイクの外装はデジタルで好きにチェンジできるけど、小塗にペイントしてもらっている今はデジタル外装無しの地黒が出ている。
たとえ、俺が事故を引き起こしたなんて謂れのない罪を突きつけられても関係ないね。
そもそも不良の乗ってるトラックだったし、逆に誰か救ってるだろ。もしかしたら先輩の助けになったかもしれないもんな。
…………そう考えたら、急に良い気分になってきたな!
ちなみに逃避思考とかじゃなくてマジ話として、運輸トラックが高速道路で襲われることは多い。
道が広いけど逃げ場はなくて、速度を出しやすいからだ。
不良どもに囲まれて銃を突きつけられたら停止せざるを得ない。
パンダ先輩からも気をつけろって言われていたけど、気を付けてても襲われるもんは襲われる。
ちなみに俺は怪しいのがいたらその時点で追い越せないようにして、それでも横に付けてきたらトラックの重量で壁と挟んで吹っ飛ばしてたな。
あの頃はアーマーもなかったのに良くやったわ。今だったら撃っておしまいだし、あんなリスク冒すなんて考えられんもん。
高速を降りてしばらく下道を進むと、例の建物が見えてくる。そう、ミレニアムサイエンススクールだ。
ミレニアムのガチ中心にあるミレニアムサイエンススクールは、さまざまな方角から来やすいように位置が調整されている。
幾何学的な整理された街づくりが特徴の、完全な計画都市だ。
バイクは学校内じゃなくて駐輪場に停めた。
バイクで通学してる子なんていないからな。
入り口で、来訪者に先んじて送られてくるIDを提示すると入校許可証が発行される。
1日限りとはいえ、それがあれば自由に動き回れるんだ。
もちろん権限は限定されているから、入れないところもたくさんあるけどな。
前はそれで入った。
ちなみに今回は透明になって門を飛び越えた。
正門から入れ?
ちょっと何言ってるかわかんないっすね。
「購買購買……」
1人、メガネモブちゃんがトコトコとミレニアムタワーに向かっていたのでその後ろにピッタリと張り付いた。
「購買……あんぱん……購買……あんぱん……」
どうやらあんぱんが食べたいらしい。
やっぱり頭良いことしてると糖分欲しくなるのかね。
「何で私が……野球拳なんかするんじゃなかった」
アホなことしてたわ。
なんにせよミレニアムタワーの中に入ることは出来たので、エンジニア部の元に向かうことにした。
奴は今頃──
「あのさあ……」
各務だああああ!
見えてますけど? みたいな顔しながら目の前に立ち塞がりやがって……ビックリして声出かけたわ。
あっぶねえ。他に誰もいないから声出しても問題は少ない(ないわけじゃない)けど、むしろ各務がバレると一番面倒くさいまである。
人がいないからってそんなイライラしないで……きっと小塗達がまたなんかやらかしたんだろうなあ……。
「…………」
なんかスマホチラチラ見てこっち見てを繰り返してる。
ながら人生やめてね〜。
運転免許とれそ?
心臓の鼓動を抑えて、と。
改めて、サンダースの様子ちらっと見に行くか。
そこからゲーム開発部行って──
「──いるんでしょ?」
…………えーと、ゲーム開発部にいなかったらヴェリタスか。
「透明になっても無駄だよ。そこにいるの分かってる」
!?
「ちゃんと入館許可証取ってきなよ、今なら見逃してあげるから」
──入り口でIDを提示すると入館証が発行された。前回と同様に引っ掛けて見せびらかす。ロボットPMCでも中には入れるんだぞってゆってんの!
『ふぅ……やっと! ミレニアムに! 着いたし! さて、サンダースの様子見に行くか!』
俺は夜長ユウジ。
人呼んで秩序の守護者。
ルールに反したことが大っ嫌いだ。
人様がせっかく決めたルールを守らないで好き勝手行動するなんて最低だよなあ!?
許可証もナシに勝手に動き回るなんてありえねえ!
「白々しさもここまでくると美徳かもね」
その声は各務じゃないか!
奇遇だな!
俺はゲーム開発部に行くところなんだ!
じゃあな!
「言っとくけど、居場所分かるからね」
流石ヴェリタス……人の機械に勝手に侵入してエロ画像フォルダを舐め回すように見るのが得意なだけはあるな。
しかし問題はない。
所詮は鎧、脱げばいいのだから。
「何が目的?」
なんだろう。
先日に引き続きやたらと突っかかってくる。
ヴェリタスの副部長として忙しい日々を送っているはずなのに、俺のような端っこのハスボーに何の用だ?
実は暇なのか?
「ユウジさん、最近派手に動いてるしなんか怪しいなって」
まるで民間警備会社サンダースの動向を監視しているかのような物言いだな。
しかーし!
俺は忙しいので華麗にスルー。
「じゃあ私も付いていこうかな」
目立っちゃうからやめて欲しいなあ。
ついでに発信機なのか何なのか分からないのも外して欲しいなあ。
仕事に支障が出るし。
「目的を教えてくれたら教えるよ」
ミレニアムサイエンススクールに興味があるとか、特定の生徒に興味があるなんて思われても困る。
素直に、先生に興味があるだけだと伝えた。
キヴォトスにやってきた連邦生徒会長のお気に入りが何をしようとしているのか、気にならないわけがなくないか?
つい最近もペロロジラっちゅう怪獣を討伐したわけだし。
「先生のこと好きじゃないとか言ってなかった?」
曲解すなー!
それ男女関係の話だろ!
ちなみにファンではある。
おっと、もうバイクの話はするんじゃないぞ!
──くだらんこと話してたらミレニアムタワーについた。サンダースは……
『ま、ままま待てって! 近付ける前に説明しろ!』
「ニワトリ発射機さ」
『なんだそれ!』
「簡単に言えば、飛行機のコックピットの窓に鳥がぶつかった際の耐久力を測るためのものさ。実際に飛ばして鳥にぶつかってもらうわけにはいかないからね、ニワトリの身を飛ばして擬似的にバードストライクを再現するってコンセプトだ」
『なんでそれを俺の体に仕込もうとしてんだよ!』
「君たちは傭兵だろう?」
『……だからなんだよ』
「仕事中、弾切れした時にこれがあればなんでも撃ち出せる」
『アホか!』
ラッパ銃的な運用を考えているのか。
なんか意外と使えそうな気もしない事もない──これがゲームだったら。
空気圧縮程度の力で出せる威力などたかが知れている。特にヘイロー持ちのおまいら達に対してはな!
サンダースも同じように考えたらしい。
『んなもん付けて役に立つわけねーだろ!」
しかし腕すらないロボットに何ができるはずもなく。
「本当にそうでしょうか!? 空気はそのほとんどが空隙です! たとえば本来の1%程度の堆積まで圧縮すれば、当然圧力は百倍になります! つまり、単純なピストンだとしても体積を操るだけで圧倒的なパワーを発揮させることができるわけです! 有名な定理に基づいてますね! それをサンダースさんの脚部に仕込めば強力な跳躍力を実現させられますし、腕に仕込めばロケットパンチにもできるかもしれません!」
「おお! ロケットパンチか! いいアイデアだコトリ!」
『アイツが置いてった武器あんだろ! あれに仕込むとかにしろよ! なんで俺が実験台なんだよ!』
「キミのように強力で従順なロボットの修理を頼まれることはなくてね。いい機会なんだ」
『誰が従順だ! 直ったらマジでその場でボコボコにしてやっからな!』
楽しそうだから大丈夫かな。
それに先生達もいないし、一旦ゲーム部に行こう。
──────
ゲーム部の部室が入ってる建物前に着いた。見てる人は誰もいないし、直接入るのは厳しいから窓から見てみるか……
「普通に壁を登り始めるのやめたら?」
確かに着替え覗いちゃう可能性もあるか……やめておこう。
「そこの倫理観はあるのになんで不法侵入しちゃったの? なんで登り始めたの?」
追求を華麗に躱しつつ、どうやって先生達がいるかを確認しようと考えて──いいことを思いついた。
なあ、話聞いてきてくれよ。先生いるかって。
「いないよ。今はヴェリタスでお茶してるからね」
『え゜』
それは先に言っておくべきことだと思うな!
今の20分くらいの時間、全部いらなかっただろ!
一緒に歩いてた時間なんだったの!
俺の時間返してよ!
「それならエンジニア部行った後に直接行けば良かったじゃん」
ごもっともですこと! でもお前に言われたくない!
つーか、お茶ってなんだよお茶って。
あの感じでお淑やかにお茶してるとこ想像できないんだが。
「今はみんな準備してるからね。先生が出る幕はないの」
なんだなんだ?
まさかミレニアムの生徒会を襲撃して、押収されたツールを差押品保管所から強奪しようってわけじゃねえだろうな。
「……!?」
まさか当たり?
なるほどねえ。
「ねえ、まさか盗聴器付けてないよね」
成人男性が花の女子高生にそんなもん仕込んでたら大問題だ。会社も営業停止じゃすまんぞ。
「だから聞いてるんだけど」
付けてるわけがない。
さて、そうとわかれば──
(ドカァァアアアアンッ!)
「!」
突然の爆発。
ミレニアムタワー内部で起こったと思われるそれは、しかし一般生徒にとってはそこまで珍しいものでもないようだ。
「またエンジニア部がなんかやったの? 昨日も事故起こしてたし……好きだね〜」
「良いじゃんなんでも。早くカフェいこーよ」
「そーだね」
さすがエンジニア部。
サンダースも言ってやれ!
あっ! 壊れててこの場にいないんだからなんも言えねーか!
じゃあ各務、真面目に俺はやることがあるからここら辺で。
流石に時間取りすぎた。
「……待ちなよ」
1分で頼む。
「今度は何するつもりなの?」
そりゃあほら、頭が良いお前ならそのうち気付くから。
「ふざけないで」
これが全くふざけていなくて、この場で話すことになんのメリットも無いだけなんだよね。
「そういう態度だから嫌われてるんじゃない? あの子達に」
うーん、これは大正論! w
でも、人に嫌われることってそんなネガティブに捉える必要ないからな! 俺が好きに生きてる証拠だ!
ほんじゃな!
「待っ……はぁ……追跡も切られた、か」
──風の中で思う。やはり夜のミレニアムは美しい、と。
街を口説き落とそうとしてるわけじゃなくて、純粋な感想だ。
膨大な科学の結晶であるこの街は尽きぬ電力によって支えられている。
各務と一緒にいた昼間とは打って変わった黒い空。しかし夜になろうともビルには煌々と光が灯され、街をゆく人々を明るく照らし出していた。
遥か下、歩くのは多くの市民や学生達。
電光掲示板の数も他都市に比べて多く、ニュースに事欠かない。報道部は一つではないのだ。
アビドスとは対照的に空の風景を楽しむことができないという欠点はあるものの、女子高生が作り出した景色だと思えば何となく得した気分にもなれるってもんだ。
そして、その光景を一番高いビルの屋上から見下ろしている気分は最高の一言に尽きる。
(ドォン……ダダダ……)
下層から風に乗ってやってくる激しい音。
近くのビルの屋上で、光が反射している。
今頃はきっと……なんかやってんだろうな。
正確に何してるかなんてわかるわけがない。
最速の猿、パタスモンキーなら見て来てくれるかな……
(ドォォオオン!)
『おっ!』
砲弾が視界に強調された。
左手側から射ち出されたそれは俺の真上を通り過ぎて反対側へ行くと、キラキラと鬱陶しく光を反射させていたやつの直上に落下した。
つまり……何をしているかがわかるということだ。
拡大すれば、知り合いがドヤ顔をしているのがドアップで映った。しかしその直後、少しばかり焦りを見せる。
激烈な爆発音と振動が関係しているのは間違いない。
『さーて、また無意味なことをしに行きますか』
分厚い強化窓ガラスをぶん殴って飛び込むと、中には誰もいない。
照明もついていない。
シャッターも閉じ切っている。
そういうタイミングなのだから当然だ。
『出力100%を維持』
『──承知いたしました』
──────
「ミドリ! モモイ! アリス! やったね!」
「うん! 早く行こう!」
私たちは、アリスが合流したおかげもあって、なんとか差押保管所のある階にたどり着くことができた。アスナとアカネが合流した時はどうなるかと思ったけど……何とかなった!
ハレがエレベーターを操作してくれたからだ。
「──え?」
だけど、エレベーターを降りた私たちの目の前にあるのはシャッターだった。
それも普通じゃない。
「ハレ先輩! シャッターが!」
捻じ曲げられ、半ばから引き裂かれていた。
穴は人が二人くらい通れるほど。
覗き込むと奥の方まで──つまり、保管所まで続いている。
恐る恐るみんなで進むと……扉は吹き飛ばされていた。
何度も何度も殴りつけられたような跡。
『…………私にはただの廊下しか見えないよ』
「それって……私たちがやったのと同じこと!?」
『ありえない。ハッキングされた形跡もないのにどうやって?』
監視カメラ。
ヴェリタスの上をいくハッキング技術を持つなんて、多分この世ではありえないと思う。
だけど何気なく監視カメラを見て気付いた。
「みんな、あれって……」
天井近くの壁に設置されている監視カメラ。
そのレンズの前に──
「先生、ちょっと肩車して?」
「えっ」
私が、モモイを?
アリスがモモイをじゃなくて?
「ふんぎぎぎぎぎぎぎ!」
「そ、そんな重くないからね!?」
「ふひいっ、ふひいっ、ふひいっ!」
今日、なんだかんだで疲れたから……膝が……笑える……!
「お姉ちゃん! 先生の顔がやばいことになってるから早く!」
「──取った!」
もう立てない……
「貧弱すぎるよ!」
そこにあったのは紙。
おそらくは廊下の映像を切り抜いて綺麗にプリントしたものだった。
それを監視カメラに一つ一つ貼り付けて騙していたんだ。
「こんなアナログ、そりゃ誰も見抜けないよ。ヴェリタスだって……」
『……反論したいけど出来ない』
「ねえ……まさか、部屋の中にまだいるとか言わないよね?」
このとんでもな惨状を作り上げた何者かが中に?
まさか噂に聞くC&Cのリーダー、ネルが!?
こんな腕力で掴まれたら私の腕もげちゃうんだけど!?
だけど、実際のところは違った。
中に入ると誰もいなくて、ただ、机の上にポツネンと一つのデバイスが置かれているだけ。
その名前を確認して──
「これ、鏡じゃない?」
モモイがそう言うと同時、アリスが反応した。
「静かに、ミュートでお願いします」
どうやら誰かが来ているみたい。
よく分からないうちに押し込まれて、なぜかお尻を引っ叩かれて密密に隠れた。
「ぐ、ぐるじぃ……」
「しっ! しずかにして……! せんせーのお尻が大きいのがいけないんだから……!」
カツコツという足音の後、聞こえたのは勝気な声だった。
「どこのどいつだ? こんな舐めた真似しやがったのは…………あ? なんか音が…………そっちか!」
まずい! 見つかった!?
声を漏らしそうになっていたモモイの口に手を当てて必死に──と思ったら声は逆に遠ざかっていく。
「待ちやがれ!」
風切音の後、声は全く聞こえなくなった。
少し待っても何もない。
恐る恐る出てみると、本当に誰もいなかった。
……え?
「よく分かりませんが、脅威は去りました……鏡ゲットです!」
アリスがパンパカパーンと掲げたものは、先ほど机の上に置いてあったアレだ。没収されたばかりだからあそこにあったのかな?
「お姉ちゃん、アリス、ユズ、先生! 早く帰ろう! またC&Cが襲ってくる前に!」
──────
「おかえりなさいっ! 昨日はサンダースさんどうでした?」
「帰って来たらキメラになってるかもしれん」
「ええっ!?」
じゃあ私の書類は減らないってこと!? とかほざいてたので書類を更に机に載せた。二日酔い明けでまだ現実に戻って来ていないのかな?
「うう……一昨日はあんなに優しくしてくれたのに……」
この事務員ってやつは俺のことを完全に舐めくさってるんだ。少し優しくしてやればすぐこれ。
つーか社長との夕飯で自分だけしこたま飲むとか正気か?
「私、そんな飲んでないですよたぶん」
なんともまあ自信に満ちた顔でいるあたり、屋台でのことを本当に何も覚えていないのだろう。次は俺が呑みまくってやろうかな。
まあ、今度の飲み会はまた先の話だけど。
一先ずは書類をやっつけよう。
仕事はやればやる分だけ増える、そういうものだ。
ペロロジラ戦で使った武装に関して報告書をまとめないといけない。
「ヴァルキューレのお仕事取ってくるからじゃないですかあ〜!」
あんな必死な声で呼び出されて、行かない奴がいるだろうか。いないと思う。
心があったら誰だって行くだろう。
「そうでしょうけど! でも書類仕事引き受けてる私の身にもなってくださいよお〜!」
なるほど確かに書類仕事も大変だ。肉体労働はあまり頭を使わないから、そういう意味では楽だろう。
しかしおかしいね。
引き受けているという割には俺の山と同じくらいしかない。
看病した後に怪獣決戦を乗り越えて、次の日にもまた出張して戻って来て、更に次の日の朝から手を動かしている俺と同じ程度の山しかない。
なんだろうこれ。
なあ?
なんだろうなこれ。
俺の見間違いかな。
午前中何やってたのかな?
「そんなの二人がおかしいだけです!」
そう言われても、これくらいずっとやっていたもんだから実感が湧かない。
運び屋時代もこんな感じだった。
「先輩さんを連れて来てください!」
絶対にヤダ。
なんで先輩をお前に会わせにゃならんのだ。
「お説教ですから! ずーっと思ってたんです、私がこんなに頭を悩ませている原因は誰だろうって……先輩さんです!」
ファイティングポーズを取ろうとして、自分自身の体の一部に阻まれていた。そのまま腕を上げてったら無呼吸連打とか取得できそう。
まあとにかく、このアホの子と先輩を会わせるわけがない。
先輩との時間は俺の癒しなんだ。
邪魔しないでよね。
「……私は?」
本気か?
会社の人間と一緒にいる事が癒しになるわけあるか?
ましてや俺とお前だぞ?
「なんでそのスタンスで看病しに来てくれたんですか……」
──────
ヴェリタスのところに顔を出していたらミドモモユズがやってきた。小塗の手からUSBを受け取るとテットコと嬉しそうに部室へ駆けていく。
俺も続いた。
ウィーンガシャンウィーンガシャン
「──嘘! 嘘! 嘘だ!」
「あんなに頑張ったのに……! 夢……! やっぱり現実……! これは悪夢……!」
「こんなに落ち込んだのは……『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプをアップロードした時以来……」
全員一年だし、良く考えると割と最近なんだよな……という感慨でぼーっとしていた。
泣き言ばかりで終わったような雰囲気を醸し出している3人の様子は、先日勇敢にC&Cに立ち向かっていただろう姿とは思えない。やっぱり見とけばよかったか。
「ごめんアリス……私たち、もうダメみたい……」
「ごめんねアリスちゃん……G.Bibleがこれじゃ、私たちは最高のゲームなんて作れない……」
悔しそうだ。
もうダメだと諦めている。
3人の成績を考えても、ここから上手い手を思いつくことはないんだろう。
──3人だけなら。
「……アリスはどう?」
「え?」
「G.Bibleをどう思った?」
「G.Bibleを……」
「私にはゲーム作りなんて良くわからないし、あれが正しいのか間違っているのかすらわからない。だけど……アリスの話が聞きたいな」
「…………私はやっぱり、G.Bibleの作者さんが間違ったことを言ってるとは思えません」
決然とした表情だった。
キッパリと、ハッキリと、3人に反論していた。
散々にこき下ろし、無い方が良かったとまで宣った彼女たちの事を真正面から見て、曇りなき眼で言葉は放たれた。
もはや弾丸に等しいソレを受け止められずに俯いた3人に対して、アリスはもう一度口を開く。
「今も、この胸の中にはあの光景があります」
「……あの光景?」
「皆さんが私に教えてくれたものです」
それこそが、彼女の原点。
「電子の波の向こうで私を待つ無限の世界……思い出すだけで胸が躍るような、この身体の奥底まで熱くなるような冒険でした」
「アリス……」
「モモイが、ミドリが、ユズが……あのゲームをどれだけ愛しているかが、あの世界を訪れた私にはわかります。人々の息遣いや、草花の揺れる姿。暴れ回る悪逆の魔物と、世界を手にかけんとする魔王。そして……ソレを打ち倒さんともがく勇者──」
冒険の旅路で得た聖剣を撫でて、少女は柔らかな笑みを見せた。
「だから、私は思うのです。あの冒険から──この夢から覚めたくないと…………アリスは、そう思うのです」
「──!」
ソレを聞いて、全てを始めた少女は拳を握った。
「私、やる」
「ユズ?」
「私の夢は……私が作ったゲームをみんなに面白いって思ってもらう事、だった」
「だった……って……?」
「私がテイルズ・サガ・クロニクルのプロトタイプを公開したときは低評価と冷やかしのコメントばかりだった。それが辛くて、苦しくて、部室に引きこもっていたけど……二人が部室に来てくれた」
大事なものを抱えているように心臓へ両手を当てて、嬉しそうじゃないか。
「面白いって言ってくれて……一緒にゲームを作ってくれて、笑ってくれる人がいたから……私の夢はもう叶った。だから、これ以上は欲張りなのかもしれないけど……私も、この夢が終わってほしくない」
そう。
誰もが同じ思いを抱いているのならば、ソレに向けて動くだけだ。
言い訳をやめて、やるべきことをやるだけ。
少女たちは目を合わせた。
「…………よし! ミレニアムプライスに向けて、みんなでがんばろー!」
「「「おー!」」」
残された時間は一週間足らず。
その時間の中で私は見た。
子供達が必死になっている。
銃ではなく、争いではなく、ただ、愛を持って何かを創造する為に。
ソレこそは正しく、G.Bibleに記された言葉通りの姿だった。
果たして、ミレニアムプライスギリギリまでその時間は続いた。
「お願いお願いお願いお願いお願いお願いロード終わってロード終わってロード終わってロード終わって限界限界限界限界指痛い指痛い指痛い指痛い」
ユズはボサボサの油ぎった髪で、アップロードするだけで限界の状態だった。部屋の中も、籠ってるけどほんのり甘かった匂いじゃなくて、どことなく酸っぱい匂いだ。
すんすん。
「先生の真似をします。すんすん……いいかほり……」
「アリスちゃんが壊れちゃった! あはは! あは、あははは!」
ミドリも十分に壊れていた。
モモイだけが静かに正座をして、PC画面の前でじっと待っている。
締切まであと30秒だ。
「私たちは出し切りました……でも、もしアップロードできなかったら……」
果たして──
(──受付が完了しました)
「やっ…………たああああああ!」
何とか。
何とか提出は間に合った。
みんなで抱き合って、飛び跳ねて、審査より先にユーザーの声を聞く為にプラットフォームを立ち上げた。
ゲームの内容というよりは、どんなゲームなのかという期待のコメントが多かった。
(先生! 武装勢力が接近しています!)
「──みんな! 戦闘の準備をして!」
突然の生徒会襲撃。
私たちは生徒会の戦闘ロボットを振り切ってビルに逃げ込み、そこで初めてC&Cのリーダー美甘ネルと対面した。
「映像を見たとき、やけに動きがいいと思ったぜ。アンタがいたからなんだな。アカネが調査した──」
前回は顔を直接見る前にいなくなっちゃったけど……
「シャーレの『先生』さんよ」
か、かわいい……っ!
「あ? んだよその顔……」
切れ長のお目目にちっちゃな耳!
編み込みの片おさげ!
スカジャンがダボダボなのもポイント高いし、メイドさんだ! メイドさん!
「ど、どんなご用で? ……じゅるり」
「なんだコイツ……」
「前回、メンバーがやられたリベンジとか?」
「はっ! そんなちっせえ理由で来るかよ! あたしが用事あんのは、そこの髪の長えあんただ」
指差したのは、緊張した顔のアリス。
まさか、彼女がただの生徒じゃないことに勘付いた?
「…………アリス……ですか?」
「シャッターをぶち破るなんて芸当ができるくせに、最初は生徒会に大人しく捕まったんだってな。しかもあたしが追いかけたら尻尾巻いて逃げやがって。力はつえーのに腰抜けか?」
「……ええと…………?」
ネルは何か、致命的な勘違いをしているようだった。
「ねえ」
「んだよ」
「アリスはそんなことしてないよ。私たちがエレベーターで上がってきた時にはもう破られてた」
「そんなばかデカくて重い機械振り回しといて、通るわけねえだろ!」
「本当だって! 差押品保管所でずっと一緒にいたもん!」
「ああ……やっぱいたのかよアソコ……つーか、ソレなら誰があれをやったんだよ」
「さあ……」
やりそうなのは一人だけ知ってるけど、今はエンジニア部で絶賛修理中だ。エンジニア部に聞いてみたけど動ける状態じゃないのは間違いなかったし……本当に誰かわからない。
「つまり何だ? あの騒動に乗じて、他の誰かが差押品保管所から何かを盗み出そうとしてたってか?」
「そうなる……かなあ……」
「……まあいいか。別にぶち破ってようが破ってなかろうが、もう一つ用事があるのは変わらねえ」
一騎打ちが始まった。
どうせなら可愛い対決にしてくれれば、わたしが正確にジャッジしてあげたのに。
ネルの頭は若干古い価値観というか、いわゆる昔の不良みたいなタイプらしい。
でも、強さは確かだ。
ヒナやホシノと同じ、単騎で万を崩す力があると感じた。
初撃の余波で吹っ飛んだわたしと違って、直撃寸前の距離だったにも関わらず全く負傷がない。
というか身体が痛い。
「へっ! この間合いでいつまであたしの攻撃を耐えられるかな!?」
「──出力最大……!」
(ギュゥゥゥウン……!)
「やけくそか!? だから意味ねえって──床に……まさか、テメェ!」
あれ、待って。
私は今、割と一騎打ちの近くですっ転んでいるわけで、避ける余地がないわけで、仮にスーパーノヴァの攻撃がフロアスラブごとぶち抜いたら落ち──
「光よ!」
やっべ死ぬっ♡
………………?
『──』
私は確かに穴の上にいるのに……浮いてる……?
いや、誰かに掴まれて──
「ぎゃふんっ! いったああああ!」
お、落としやがった! 女の子なのに! お尻から! ポイって! 誰か知らないけど、最後まで丁重に扱ってよ!
「先生! 大丈夫ですか!?」
「ま、まさか落ちちゃったんじゃ……アリスちゃんも大丈夫!?」
『そ、損傷率45%……今のうちに撤退を……!』
「大丈夫! 私が背負う!」
「よかった! でも先生の足は雑魚なんだから私が運ぶよ!」
「そこまで言う!? 疲れてなきゃ大丈夫だから!」
一番近いところにいたからおんぶして部室までダッシュした。大人らしいところを少しは見せられたかなって思ったけど……着いてから気付いた。
スーパーノヴァは?
一瞬だけ大騒ぎになったけど、部室の外に立てかけてあった。
「うわーん! 失くしたかと思いましたあ〜!」
……今度差し入れとかしとかないといけないかな?
──────
「そうか……」
なるほどなるほど、なるほどねえ。
あの四人はこんなゲームを作れるんだなあ。
「はあ……」
感じたのは、鮮烈な懐かしさだった。
はるか昔──アプリなんて概念が存在しない時に触れた、初めてのゲームをやった時のことだ。
王道というのは作るのが難しい。
王の道と名がつく通り、押さえるべきポイントを確実に押さえていかなければいけないからだ。少し逸れただけで、人々はソレを論って晒し者にする。
故に、王道と名を付けることはリスクがつきものだ。
だからこそ──
「良いゲームだ」
王道を突き進んだ結果を久しぶりに堪能した。
失くしたワクワクを別角度から取り戻した気分だ。
「──何で仕事中にゲームしてるんですか!?」
「俺がこの会社の社長だからだが?」
「社長はゲームして良いんですか!?」
「そうだが?」
俺は雇用契約で縛られてないし。
俺がゲームしていて会社が立ち行かないとしても、それは俺の会社がなくなるだけで何にも痛くない。
また別の会社を立ち上げるだけだ。
そもそもそんな温い仕事してないけど。
一ヶ月くらい仕事なくてもなんとかなる。
すごい頑張ってたから。
修理代とかも支払われたし、お金的には何の問題もない。
「ぐぬぬぬ……わ、私だってテレビ見ちゃうもんね!」
「あーあ、社長の前でテレビ見始めちゃったよ」
「なんですか! ユウジさんがそーゆー態度なのが悪いんですからね!」
プリプリ怒りながら好き勝手にチャンネルを変えていく。
この会社に今いるのはゲーマーとテレバーと入院患者だけ。
会社ごと戦力外通告しても良いか?
「うーん……あ──」
事務員は、とあるニュースに目をとめた。
『今年も百鬼夜行連合学院の目玉、
美味しそうな桜団子を頬張っている生徒にスポットが向けられた。モチャモチャと何を言っているかはわからないけど、とにかく華やかで楽しげだ。
「いいなあ……」
「行ってくれば?」
「え?」
「お祭り」
「……いえ、大丈夫です」
「そか。まあ無理強いはしないけど……」
「ユウジさんは行かないんですか?」
「行かない」
「なんで?」
「いや……別に……」
「イベント大好きなのに珍しいですね」
「まあ……はい……」
「…………変なの」
いーの!
やーやーなの!