先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う 作:goldMg
忍者とはかくありき 1
「お姉さん、ひとつサクラ大福はいかがですか?」
「あ、えーと……いただきます!」
迷ったのは一瞬。
是とともに代金を手渡せば、返されたのは舞い散る花びらと同じ色の桜大福。モチモチの食感のてっぺんにあるのは、程よい塩気の桜の花びら。彩だけでない、確かな味。
口の中に入れたと思ったら、あっという間に胃の中に消えていった。
ニュースでやっていたのを見た時にイメージしたのと同じようなサクラ大福だ。
「美味しい……」
「そうでしょう!? うちのサクラ大福、美味しいでしょう!?」
「あ、はい」
どうしてここにいるんだろう。
どう考えても私がいるのはおかしい。
ここに来ることになった経緯を思い出してみた。
『行かないの! 俺あそこ行かないの!』
『でもほら、楽しそうですよ?』
『……うるっせーな! じゃあ業務命令だ! お前だけ行ってこい!』
『えー!? パワハラー!?』
『人聞き悪いこと言うな! 帰ってきたら報告書作れy──ちょっと、聞いてる!? 邪魔よ!」
「ひぃんっ! ごめんなさいっ!」
気付いたら、道のど真ん中で邪魔になっていたみたい。
急いで脇によけると、台車がいくつも運ばれていく。
発泡スチロールの箱にタイやイカの絵が描かれたテープが巻かれてある。今回のために運ばれてきた海鮮の幸かも? エビスって書いてあった。
でも──
「みたらし団子あるよー!」
「大判焼きありまーす!」
「あんこ餅もどうぞー!」
お昼ご飯よりも、別のものでお腹が膨れそうな予感がした。
まだこの街に来たばかりで、入り口で早速桜餅を食べてしまったけど……落ち着いて全体を観察する。
「ほええ……」
百鬼夜行の街は初めて──それどころか、別の学園の区域内に行くのすら久しぶりで、無理やり行くように言われたにも関わらず胸が躍って仕方がなかった。
道をゆく女の子達はみんなキラキラと輝いて見える。
「うわあ……すごい!」
街のどこからでも見えそうな巨木から散った桜の花びらが、風に乗って龍のように流れていった。この街まで辿り着くことはないんだろうけど、あまりにも風流が過ぎる。
「とっ、とととととっ! 止まりません──っっ!?」
「へ? ──うわっ!?」
「きゃんっ!」
──突然、正面から突っ込んできたのは可愛らしいお耳を生やした女の子だった。幸い、私の方が体格が良かったので倒れ込むことはなかったけど、逆に女の子を弾き飛ばしてしまった。
「いたた……」
「あ、あの……?」
「はっ!? ああっ、すみません! えっと、大丈夫ですか? お怪我はありませんか!?」
「うん、私は大丈夫だよ。私の方こそごめんね? 街に見惚れてたからちゃんと前を見てなかったの」
「あ、ありがとうございます。それは良かったです……!」
女の子は、とても派手な服装をしていた。
花びら模様が描かれた和服スタイルの制服。
私にはとても着こなせそうにない。
どこにいても、きっと見つけることができるであろう雰囲気だ。
奇特な出会い方をしたのだから、どうせなら名前を知りたかった。
「お名前、聞いても良い?」
「はい! イズナは──はっ!?」
『待てー! 逃がさないんだから!』
『か、カエデちゃんちょっと待ってください……はあ、はあ……は、速すぎます……』
「もうこんなところにまで!? えっと、えぇっと! ど、どうすれば!?」
「……もしかして困ってる?」
「へ? そ、それは、その……」
(ガサゴソ)
早速使うことになるとは思わなかった。
ミレニアムプライスでも7位を取っていた、光学迷彩機能付きの衣服。
ユウジさ──社長達はアーマーにつけているけど、わたしは別のものを貰っていた。
人の目がこっちに向いてないことを確認して、道の端に寄ると一緒に被った。
「どこ行ったの!? 絶対ここら辺にいるはずなのに……」
目の前で、二人の女の子がキョロキョロと視線を巡らせている。私は私で、叫びだしそうな女の子──イズナちゃんの口を押さえていた。
「…………!? …………!?」
最初こそジタバタとしていたけど、やがてこっちに気付いていないことを悟ったイズナちゃんは静かになった。
「くっ……ミモリ先輩! あっち探そう!」
「うん!」
背を向けて、二人は走り去る。
イズナちゃんがポカンと口を開けているのが少しだけおかしかった。
「もう……大丈夫みたいだね」
人目が向いてないことをもう一度確認して、被っていたものを脱いた。
イズナちゃんは私が持っているもの──フード付き透明マントを凝視している。
「…………」
だけど、すごい見てくる。
じーっと。
「…………」
じーっと……
「…………」
じ、じーっと……見過ぎかも?
「あの……イズナちゃん?」
「…………あなたは──」
「うん?」
「本物のニンジャだったのですね!?」
「ひぃっ!?」
「先ほどの、視線を全て掻い潜る忍術! そして透明になれる忍具……しかも、見ず知らずのイズナを助けるためにそれらを使ってくださった! これはもう、ニンジャとしか考えられません! もしかして……あの伝説のニンジャのお仲間でいらっしゃるのですか!?」
「な、なに!? どうしたの!? いきなり──」
イズナちゃんはよくわからないことを言ったかと思うと、お目目をキラキラさせて詰め寄ってきた。
何かに憧れる視線を向けられるのは恥ずかしくて驚いたけど……それよりも、視界に入った人の姿で二の句を継げなくなった。
「ああっと! 興奮でお礼を言うのを忘れており、大変失礼いたしました! まずは……イズナを助けてくださってありがとうございました!」
「…………」
「と、ところで! こんな事を聞くのは忍者の方に対して失礼だと承知しておりますが……よろしければ、あ、あなたのお名前を──」
「あ! UFOニンジャだ!」
「UFOニンジャ!!!!????」
すぐそばにあった紙袋──桜餅の香りが漂うそれを引っ掴んで、穴を開けて被った。
「ど、どこですか!? UFOニンジャ! どこに──何故紙袋をかぶっているのですか!?」
『……うふふ』
「はっ! そ、そうではなくお名前を──」
イズナちゃんはとっても素直な女の子だ。
動きがすごく大袈裟で、少し一緒にいるだけで楽しくなる。
でも、その大袈裟さは人を引き寄せる。
例えば──
「ねえねえ、ちょっと聞いてもいーいっ!?」
ユウジさんのお気に入り、とか。
最近バイクの修理費とか払ってくれたらしい。
「なんでここにいるの!?」
『仕事です』
「あ、そ、そうなんだね……」
イズナちゃんは困っているようだった。
いきなり自分に話しかけてきたかと思えば私にターゲットを変えたんだから当然だよね。
先生恐怖症だから顔も晒せない。
うん、仕方ないね。
「ええと……」
『この人はシャーレの先生だよ』
「──あ! イズナ、聞いたことあります! シャーレにはキヴォトスの色々な事件をズバッと解決してくれる、すごい大人の人がいるって! どこにでも現れて即座に解決……まるでニンジャみたいです!」
「……忍者?」
「一度に二人のニンジャに会えるなんて……感激です!」
「え?」
先生がこっちを見た。
いや、そうなるよね。
二人って言ったら私とあなたしかいないもんね。
「ですが、シャーレの先生がどうしてここに? ──じゃないです!」
「なにがよ!?」
「お名前を! お二人のお名前を教えてください!」
「あ、そういうことね……ごほん、じゃあ改めて──私はシャーレの顧問、伊坂コハネ! よろしくね!」
『私は──』
──お前は今日、死んだ。死者は口を開かない。口を開かぬモノに名前は必要ない。故に、今のお前に名前があってはならない。だから仮に名乗ることがあるとしたならば……そうだな、お前の名前は──
『ウツツです』
「コハネ先生とウツツ様、ですね! 覚えました!」
「そんな名前だっんだ……へー……」
「お二人は、どのようなご用事でいらっしゃったのですか!」
その答えは決まっていた。半ば押し付けられた仕事──仕事? ではあるけど今はもう、やる気に満ち溢れている。
「『この、百夜ノ春ノ桜花祭を見に! ──ん?』」
そうなんだ……という顔を向こうもしていた。
向こうからは私の細かい表情は見えてないと思うけど、目は合った。
「そうだったんですね! では、折角同じ目的で百鬼夜行を訪れた二人がいることですし……旅は道連れ! 僭越ながらイズナに、このお祭りを案内させてください!」
若干の気まずさはもちろんあった。
でも、桜のような笑顔を咲かせるイズナちゃんの言葉を押し除けるほどのソレじゃない。
先生も良い人だって、口を酸っぱくするほど聞かされてる。
そして──
「見てください、あそこ! 屋台で百鬼夜行の名物、キツネせんべいを売っています! あ、あっちには桜花祭と言えば外せない、タヌキ印のお好み焼きも売っていますし! とは、桜の花びらで作ったサクラ大福も、とっても美味しいんですよ!」
楽しそうにぴょこぴょこと屋台を紹介してくれる、無邪気さに満ち溢れたイズナちゃんを前にしてしまえば──私たちのちょっとした蟠りなんてどうでも良いよね?
『あ、これ美味しい! 甘さ加減がちょーど良い!』
「ほんと? ちょっとちょうだい!」
『うん、これイズナちゃんもね』
3人で、床几台に腰掛けてあんみつを食べた。
他にも美味しいものはたくさんあるって話だから、とりあえず一人分を分けた。
甘いもの、食べないわけじゃないけど……こうやってお祭りで人と一緒にって凄く楽しいんだなあ。
凄く…………
「あ! 百夜ノ春ノ桜花祭といえば、あれを見に行かなくては!」
イズナちゃんは口の中のものを飲み込んだ途端に立ち上がり、私たちの手を引いた。グイグイと、有無を言わさぬ力加減は一人の少女のものとは思えない程に力強い。
その行き先は──
「こちらです!」
観光客が一層犇めく場所。
お城の展望台から見えるのは、あの巨大な桜の全容とお祭りの華やかさだった。
御神木らしい。
そりゃそうだよね。
イズナちゃんの夢を教えてくれた。
「夢?」
「はい! イズナの夢は、キヴォトスで一番の忍者になることです! 今日も今日とて、忍者になるために……!」
「忍者……?」
「はっ!? わ、わかってます! 今どきこんな夢を持ってる人なんていないのは……で、でも……!」
「ううん、かっこいいと思う」
『そうだね』
「あ……ああ…………そ、それがその、忍者になりたいという……そんな、あまり普通の学生では言わないような夢でも、ですか?」
「どんな夢でも、生徒の夢は応援したいな」
『私は先生じゃないけど……必死に何かを追いかけるのって、凄く素敵なことだよ。だから、イズナちゃん! 頑張ってね!』
イズナちゃんはすっごく喜んでくれた。
でも、まだ依頼を終えていなかったらしい。
私たちのことなんか気にせず、向かってもらうことにした。
十分に楽しんだからね。
「ではお二人とも! 依頼が終わったら、また桜花祭を楽しみたいです!」
──────
私たちは同じ場所に向かっていた。
『先生』は百夜堂の主人に呼ばれたらしく、私もお祭りの報告書を書けって言われているので、その実行委員会の委員長が主催のお店に行ける機会があるなら是非行きたい。
『先生』が
「なら一緒に行く? いいよー」
と言ってくれたから一緒に行くことのしたのだけど…………
「シズコたん」
「シズコたん!」
「シズコたん……」
「シズコたぁん!」
「シズコたん!?」
道を尋ねると、必ずと言って良いほどシズコたんの名前が出てくる。どうやら、委員長の名前らしいけど、なんでたん付け? オタク、ってやつなのかな。
「うーん、近いような遠いような予感……アイドルなのは間違いないね」
『わかるの?』
「声もすっごく可愛かったし」
『へえ〜』
「でもウツツちゃんも結構声可愛いよね」
『そ、そう? えへへ、ありがとう! でもコハネちゃんも可愛いよ?』
「くっ……! 私も欲しい……この天然さが……!」
『え? なに?』
「…………あ、ほらアレ! アレが百夜堂でしょ! 人いっぱいじゃん!」
『──ひょええ!?』
賑わっている、なんてものじゃない。
人でごった返していた。
獣人が多いからまだ助かるけど、これがみんなユウジさんだったら絶対に通れなかった。
お店の正面まで来ると、看板が掲げられているのが話なる。
百夜堂。
このお祭りのためにあるみたいな名前だ。
(チリン)
「──先生はともかく、あなたは?」
委員長のシズコちゃんは訝しげに私を見ていた。
仕方ないよね。
だって──
「どうして紙袋をかぶってるんですか?」
『それは、その……』
「──えっとね、この人わたしの友達なんだけど……諸事情で人前で顔を晒せないみたいで……今回、お祭りに来たから、折角なら百夜堂の美味しいスイーツを食べたいってことで一緒にきたの!」
「なるほど……?」
『ごめんなさい、どうしてもダメなら……』
「ああ、いえ! お客様であることに変わりはありませんから! 事情があるのでしたら仕方ありませんよ!」
そこで改めて、笑顔で迎えてくれた。
「先生! ウツツ様! いらっしゃいませ! 百夜堂へようこそ! にゃんにゃん!」
「にゃ、にゃんにゃん……?」
『にゃんにゃん! ふふっ!』
「お、おお……この適応力、流石にあの事務所に勤めてるだけあるね……」
「えへへ! では、中へご案内いたしますね! フィーナ、二名様!」
一番良い席──あの御神木がドーンと見える、窓際の明るい席だ。風の流れが心地よくて、ご飯も美味しく食べられそう!
食べすぎるとスーツ入らなくなっちゃうけど……少しならいっか。
「それにしても先生、本当に来てくださるなんて驚きました!」
「だって呼んでくれたじゃん?」
「えへへっ、では改めて自己紹介を!」
河和シズコちゃん。
百鬼夜行連合学院所属、お祭り運営委員会の委員長。
「そして、この百鬼夜行自慢の伝統的な喫茶度百夜堂のオーナー! それと同時に、看板娘でもあり、アイドルみたいなものでもあります!」
(ででん!)
タイミングよく、フィーナちゃんがでんでん太鼓を鳴らした。
(ぱちぱちぱち)
「おお〜」
『コハネちゃんの言う通りだったね!』
「え、予想されてたんですか? それは逆に予想外というか、逆に恥ずかしいというか……あ、こちらはフィーナです」
「はい! 任侠の道を究めんとする従業員、フィーナと申しやす!」
『かっこいー!』
「いいね! みんな個性的だ!」
面白い子達が経営しているお店だってことがわかった。
二人ともすっごく可愛いし、だから繁盛してるんだね。
「そしたら私も……伊坂コハネ、シャーレの先生です! 二人ともよろしくねっ! ☆彡」
『私は民間警備会社サンダースってところで事務員をやってるウツツです! よろしくねっ! ☆彡』
「ま、まさかお二人もアイドルなんですか!?」
そこで、先生と目が合った。
「ふっふっふ……そう! 何を隠そう私たちは!」
『普段はただの事務員と先生だけど、実は!』
(ばばん!)
「『アイドルだったのです!』」
ΩΩ<ナ、ナンダッテー! ‼︎
決まった……!
「──というのは冗談で、別にアイドルとかじゃないよ」
「それにしてはすっごい息が合ってたんですけど……こほん! お二人は百鬼夜行連合学院に来るのは初めてですよね?」
『うん!』
「そうだね〜」
なんと、お祭り委員長? 直々に百鬼夜行連合学院のことを教えてもらえることになった。先生ってすごい。
「ほえー!」
『なるほどー!』
シズコちゃんとフィーナちゃんの話に相槌を打ちつつ、この学校がどうやって形成されていったかを学んでいった。
それと同時に、シズコちゃんがどれだけすごい立場にいるのかも。
この、人が多い学校内のお祭りを全部取り仕切るのがどれだけ大変か曲がりなりにもかつては学生だった身として驚嘆した。
「活気がすごいね! 良いお祭りだよ!」
『うんうん!』
周りのお客さんたちもうんうんと頷いているけど、シズコちゃんは困り顔になる。
どうやら、お祭りを荒らすような人たちが現れたらしい。
許せない。誰もが楽しめるようにと、シズコちゃんが頑張って作り上げたお祭りをわざわざ汚すなんて。
誰であれ、許されて良いわけがない。
いっぱいの想いを詰め込まれた、大切な思い出なんだ!
「──委員長! 敵襲デス!」
『私がやっつけます!』
「私も行くよ!」
カバンを漁って拳銃を取り出す。
それと、いくつか渡されていたものも。
「戦えるの!?」
『…………無理かもぉ…………』
「ええ!?」
『……でも、見過ごせないよ!』
「分かった! じゃあ、指示は私が出す!」
不良集団は、魑魅一座 路上流と名乗りを挙げた。
「さあみんな、ご要望通りに荒らして荒らして荒らしまくりな!」
誰かの依頼を受けて荒らしているみたいだ。
正直、射撃の腕はメタメタな私だけど……もらった物を使えば多少は貢献できる。
今回は電磁グレネードで指揮系統を乱したり電磁バリアでみんなを守ったりして、直接戦うのはフィーナちゃん達に頑張ってもらった。
「多彩だね〜」
『良いの使わせてもらってるからね! でも、正確に投げられるのはコハネちゃんの指示のおかげだよ!』
お祭り運営委員会のみんなもいるし、意外と良い感じに戦えてたんだけどビックリ!
何故かイズナちゃんが一座にいたの!
「何故お二人がこちらにー!? ま、まさか最初からイズナを誘き出すことが狙いで!?」
『イズナちゃん! なんでお祭りを邪魔するの! まさか、忍者になりたいっていうのは嘘だったの!?』
「ち、ちがいます! イズナはただ忍びとして命令に従っているだけで──」
「命令?」
「忍びとは命令に従って戦う者です!」
戦い自体はこちらの優勢だった。
魑魅一座は撤退を選んだ。
「イズナ殿! 戦略的撤退だ!」
「戦略的撤退!? で、ですが……」
「立派な忍者は引き際を心得ているものだよ! ……って、どこかの本に書いてあった気がするなあ〜」
「……なるほど!」
命令というのは魑魅一座からのもの。
「先生、まさか私の夢を応援してくれた方がたちはだかるなんて…………そしてウツツ様! 忍びとしてある以上、いつかは敵方の忍者と遭遇するコトもある筈と思っておりました! ドラマで見ましたので! ですが……それがウツツ様であったことはなんたる運命の悪戯! 雷電忍者ウツツの名は拙者の胸に刻んでおくでござる!」
『ら、らいでんにんじゃ!?』
「宿命を背負うのも、また忍者! つぎに相見えるときは、今の3倍ほど強くなっている筈ですので! では! ニンニン!」
『ニンニン……』
イズナ達が去ってから、シズコちゃんが憤っている。
手に持ったパフェがゆらゆらと、落ちそうで落ちない絶妙なバランスを保っていて非常に怖い。
だけど、それ自体はスペシャルパフェをお客さんに見せるようのサンプルらしい。色々考えてるね……
「ねえシズコちゃん、魑魅一座って何者なの?」
「前々から問題を起こしてはいたんデス! ですが、最近──それこそ、百夜ノ春ノ桜花祭の準備期間から急に活発に動き出した気がしマース!」
頻度も数も増えてる──そこで、一つ思い出したことがあった。
『確か……命令通りに荒らす、みたいなことを言っていたよ』
「え? そうだっけ?」
『うん』
「──じゃあ、魑魅一座に誰かが依頼して荒らさせてるってこと!? お金をかけてまで、なんでそんなことするのよ! ふざっけんじゃないわよ! それでもしも桜花祭が台無しになったら責められるの私なのよ! …………な、なーんちゃって! やーん、もう! シズコこわーい!」
「大丈夫だよ、シズコ。私も協力するから、なんとかしよう!」
「…………はい!」
『よーし! じゃあ……えい、えい、おー!』
「お、おー!」
みんなで拳を突き上げたら、お爺さんがやってきた。
ニャン天丸さんという方で、百鬼夜行の商店街の会長さんなんだって。
貫禄のあるお声だった。
ニャン天丸さん曰く、その犯人は何か気に食わないことがあるんじゃないかって。
「お祭りの最終日、伝統においては花火を打ち上げていた。だが、今回は……それだろう?」
「はい、ミレニアム謹製の特注機械です!」
「確かほろぐらむ? というのを使うんだろう? 本物の花火じゃなくて、でじたるで誤魔化そうとしている──みたいに捉えられているんじゃないかね? 変化とは、容易く受け入れられるものではないからな」
「それはそうですけど……そんな理由でお祭りを邪魔するなんて……」
「何事も些細なきっかけからだよ、何事もね。例えば学生がこんな多くのお金を使って! なんて声も聞いたりする」
「わ、私は遊びでやってるわけじゃ──」
「そうだな。だが、声としてあるのは確かだ」
現場の声も一つじゃない。
それでも、お祭り運営委員会の委員長として色々な声に耳を傾けながらより良いお祭りを作り上げようとしているのはこの短時間でも分かった。
だって、こんな素敵なお祭りなんだから。
「他の人たちに助けを求めるってのは? 私たちももちろん手伝うけど、数が足りないし……人員を単純に増やせるならそうしたほうがいいと思うよ」
「うーん、心当たりはもちろんありますけど……みんな癖が強くて……手伝ってくれるかなあ……」
「ええ……?」
「……いや! そんなこと言ってる場合じゃありませんね! お祭りのためにも、まずは動かなきゃ!」
「おお!」
「でも、その為には先生の力が必要です! お手を拝借しても?」
「もちろん!」
この先で私が出来ることは少なそうだった。
それどころか邪魔になるって言われた。
「だってほら、紙袋被ってるし……いや、悪さをするだろうとか言いたいんじゃなくてね? 怪しいじゃん? 陰陽部って生徒会みたいなものだし、脱げって言われるかもしれないよ」
『そんなー!?』
私も手伝いたかったのに……
──────
午後はブラブラーって歩いて、お土産を見たりした。
夕方くらいになって宿にチェックインしたんだけど、取っておいてくれたのがすごく立派な宿だった!
眺めも良くて、おゆーはんもタイのお造りで、私一人なのが勿体無いくらい! コハネちゃんも同じ宿なのかな? って探してみたけど、いなかった。残念。
とりあえず、今日あったことを忘れないように連絡してみる。
「──ということがあったんです!」
『おお』
「このままじゃお祭りが大変なことになっちゃいます!」
『おお』
「だから来てください!」
『行きません』
「こんなにお刺身美味しいのに! ほら、写真送っちゃいますよ〜」
『おお』
「もう! どうしたら手伝ってくれるんですか!」
『えー? …………じゃあ、あれだ。ニャン天丸ってやつが怪しいから捕まえればいいんじゃね? 金持ってるだろうしそいつが魑魅一座雇ったんだろ』
「なんてことを言うんですか!?」
来てもいないクセに酷いことを言った! 百夜堂でパフェを奢ってくれた人に! 自分は事務所でゲームやってるクセに!
「ニャン天丸さんは良い人です!」
『そう……というか、先生と仲良くなりすぎじゃね? 今の話聞いてると、半日くらい一緒にいたように聞こえたんだけど』
「はい!」
『あー……まあ良いか』
「明日からは紙袋も脱いで良いですか!?」
『それはお許しできません』
「ケチッ!」
『ケ──言うに事欠いてケチ!? よく言えたなお前! あれか!? 今から最安値のボロ宿に変えてもらいたいってか!?』
「何も聞こえなーい! あー! おいしー! パクパク〜!」
『こいつマジで……』
そういえば、私がいなくて事務所は回ってたのかな。
ユウジさんがあの量の電話を捌けるとは……
『元トラックドライバー、略してとらドラ! を舐めるなよ。カーチェイスしながらでも余裕で出来るわ』
「危ないからやめてくださいね?」
『いきなり真面目になるな!』
ふと、そこで何かを感じた。
てっきりユウジさんは家にいるものと思っていたけど、後ろで物音が聞こえるような……家事をやってるだけ?
『俺? 今? 事務所だけど、なんで?』
「だって、もう夜ですけど……まさかお仕事を……?」
まさか、一人だけだから仕事が終わらずに残業を?
私の分まで!?
『ああ、違う違う。知り合いが来てるだけだ。相談があるってんでな』
「……は?」
『え?』
「誰ですか?」
『いや、流石に俺が勝手に言うのは……ほら、お前はあんまり知らないだろうし……』
「誰ですか?」
『……なんか圧がつよ──』
『誰ですか?』
『…………』
「だ れ で す か ?」
『おがt──』
「わぁぁぁぁあ!!!」
『耳がああああ!』
『ちょ、大丈夫ですk──』
電話を切ってやった。
腹が立っちゃって。
人がお仕事頑張ってる間に、自分は女の子呼んで気分良くしてるなんてサイテーだ。
相談とか言ってたような気もするけど、関係ない。
「はあ……」
大きな窓からはライトアップされた街並みが照らし出されて見える。シズコちゃんが頑張った結果がコレで、とっても尊いものだ。
花火は明日。
もし、お祭りを邪魔されたらそれも見られないかもしれない。そうならない為にもコハネちゃんは走り回っている。
明日になって魑魅一座を一網打尽に出来ればいいんだけど、仮にそれができたとして──
「一緒に見たかったなあ……」
ここに一人でいるのは、やっぱり寂しかった。