・本作品は原作小説「ハイスクールDxD」1~25巻及び「真ハイスクールDxD」1~4巻の内容を基に構成しております。ネタバレを気にされる方は十分にご注意ください。
・本作品は原作小説のエロ要素を限りなく薄めシリアス要素が多めとなっております。残虐的表現、鬱要素等が含まれておりますので苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。
「今、なんて?」
困惑する俺は思わず聞き返してしまう。
対して彼女は繰り返し念じるように言う。
「お願いします、私を守ってください……!」
むう、聞き間違いではないようだ。
一番肝心な誰から何をという部分は抜けているが、守ってほしいというのはこの様子からして彼女自身だろうか。
すると依頼は護衛になるのか? なぜそれを悪魔にさせるのかも疑問だ。
正直全く予想していなかったがためにどうすればいいか悩みどころである。
とりあえず話を聞いてからでも判断は遅くはないだろう。
「えっと、守るのは君かな? いったい誰から守ればいいのかな?」
「そ、そうですよね。突然言われても困りますよね。じゅ、順番に説明するのでどうぞおかけください」
少女が椅子に座るよう促したので言われるがまま座る。少女もベッドに腰かけると訥々と語り始めた。
少女ーー御供結乃という名前らしい。
彼女は近くの公立高校に通う2年生であり、この間まで何事もなく普通の学校生活を送っていた。
そんな彼女に異変が訪れたのは6日前のこと。
いつものように学校に通い、授業を終えたその帰り道。視線を感じたようだ。
「視線?」
俺が話を遮って問うと御供さんはうなずいた。
「なんとなく見られていたような気がしたんです。最初は気のせいかとも思ったんですが……」
それはその翌日にも感じられたようだ。粘りつくような不吉な気配とともに。
周囲を見渡すと、人影が見えた。一瞬のことなので人相まではわからなかったが確かに見たそうだ。
そして、その後も嫌な視線は耐えることなく続いた。彼女は怖くなってついに今日仮病で学校を休むことにした。
それが事の顛末のようだ。
「怖いんです……ずっと見張られているような気がして、でも姿まではわからなくて……」
「親御さんとか警察には?」
「言っていません、親には心配をかけたくありませんし、警察には証拠もないのできっと取り合ってはもらえないと思ったので」
「それで悪魔にお願いをしたということか」
御供さんがコクリと頷いて同意の意を示す。
なるほど正体不明の相手に付きまとわれているのだとしたら相当な恐怖だろう。ましてや少女である。その恐怖は押して測れるものではない。
そんな彼女が誰にも相談できず、悩んだ末に頼ったのが超常の存在である悪魔であった。
「ふぅむ、そういうことか」
彼女の依頼したいその内容はわかった。だが……。
正体のわからない敵を相手に護衛か。敵がわからないというのが難点だな。
俺はつい最近悪魔になったばかりの新米だ。武術の心得があるわけでも戦闘経験があるわけではないので当然荒事には向かない。
なにも考えずにじゃあ、引き受けますという訳にはいかないだろう。
せめて相手が人間かあるいは悪魔かでもわかるといいのだが……。
「あの……悪魔さん?」
考え事をしていると御供さんが俺の顔を除くように話しかけてきた。
「ああ、すまない。少し考え事をしていた」
「そうでしたか、それで、どうですか? お引き受けしていただけますか?」
焦りと不安からだろうか。御供さんの瞳はわかりやすいぐらいに揺れ動いている。
頼れる相手もおらず藁にもすがりたい気持ちなのだろう。
俺としても、引き受けてやりたいのはやまやまなのだが、はい、そうですかとは安易に言えない。
「ちなみになんだけど君はその依頼に対してどれほどの対価を差し出せる?」
悪魔に対するお願いはその依頼に応じた代償を要求させられる。御供さんがどれほどのものを差し出せるかで一考の余地はあるかもしれない。
「だ、代償ですか。やっぱり魂とかですか?」
「いやいや、そんな重たいものはさすがに要らないよ」
「じゃ、じゃあ、かかか、体ですか?」
頬を赤らめながら今日一番の声を出す御供さん。
「そういうのもいいって。君がこれなら差し出しても惜しくないっていうものでいいよ」
「そうですか、ではこういうのはどうですか?」
御供さんは立ち上がるとハンガーにかかっていたバッグを見せてきた。
「これは?」
「進学祝いにもらったものです。高価なものなのでちょっと使い辛くてずっと飾っているだけだったものですが」
「それって、大事なものじゃ……」
御供さんは首を横に振った。
「使う理由もなくて私にはもったいないものですし、私の代わりに使ってくれる人がいるならその方がいいです」
「そうか、じゃあちょっと失礼」
携帯の電源を入れて黒瀬に入れてもらったアプリケーションを立ち上げる。
スマホを急に取り出してなにやら操作しだしたことが気になったのか御供さんが聞いてきた。
「何をされるんですか?」
「ああ、これはね依頼に対して対価が釣り合っているかどうか調べてくれるアプリなんだ」
「へぇ、悪魔さんもハイテクなものを使うんですね」
人間と悪魔であまり差がないことに少しばかり驚いているようだ。先日悪魔の仲間入りをした俺も同感だ。
「さて、ほうほう」
「ど、どうですか?」
「うん。全然問題ないよ」
御供さんが言った言葉は正しく、このバッグはかなりの価値があった。というかよく見ると俺でも知っているブランドのロゴがあった。
「そうですか、よかったです」
御供さんが胸に手を当てて安堵しているようだ。
対価は十分。だが、俺が十分かというと少し、いや、かなり怪しい。また何か言われそうだがあの人に相談するだけした方がいいだろう。
「少し俺の手に余りそうだから一旦この話を持ち帰らせてくれるかな?」
「持ち帰る、ですか?」
「ああ、この話は俺より向いている人がいるからその人に引き受けてもらえないか話してみるよ」
「そうですか……。よろしくお願いします」
明確に返事をもらえず落胆の色は隠せないようだが御供さんは必要以上に食い下がるようなことはしなかった。
御供さんと連絡先を交換してひとまず俺は転移の魔法で帰ることにする。俺が消えるその瞬間まで御供さんは頭を下げてくれた。
俺はそれを見て何としてもお嬢様を説得しようって心に決めたのだった。
翌日になると、昨夜のことをほうこくするため早速黒瀬にコンタクトを取った。場所は例によって旧校舎だ。
「ご足労おかけしてすみませんお嬢様」
「構わないわ、それよりも早く報告して頂戴」
「はい、実はーー」
昨夜の出来事をかいつまんでなるべく同情を誘えるように少し脚色して伝える。
「そう。それで?」
「ええ、なので今回の案件にはお嬢様にご参加いただけると助かるのです」
悪魔としては未熟な俺だが黒瀬が矢面に立ってくれるなら話は変わってくる。
御供さんの依頼を達成するためにも力を借りたいところだが……どうだ?
「なんのために?」
返ってきた言葉は真意を探ろうとする言葉。無為に否定はしないが、感情で動くこともしない。あくまでも合理に基づいて動こうとしている。
とはいえ、それも黒瀬の興味があるかどうかによる。まずは出方を探っていくとしよう。
「さっきも言いましたが依頼主はまだ年端もいかぬ少女です、対価も十分。なら引き受けたって……」
「それでどうして私に意見を乞う必要があるの」
「いや、だから。荒事になったときに力を借りたいんです」
「い、や、よ。なんで高貴な私が小娘の事情に巻き込まれなきゃいけないのよ」
顔を顰めながら拒否を表明するお嬢様。
はぁと俺は息を吐いた。
少しばかり可能性にかけてみたがやはりダメだった。おまけに無垢なる少女の願いを一蹴ときた。
「どうしても?」
「それは私の判断に不服があると言いたいの?」
「失礼しました。出過ぎた真似をしました」
御供さんには悪いが断るしかないだろう。そう考えていた時だ。
「あんたがやればいいじゃない。対価は十分なんでしょ」
「出来たらそうしています。ですが……」
自らの口から戦う力がないという訳にはいかない。つい先日は俺はお嬢様とも対等に戦える力があると誇示したばかりだ。
実は俺には戦う力もありませんなどと言おうものなら完全に舐められる。それだけは避けなければいけない。
直接的な明言を避けて戦えない理由を言うしかないだろう。
「相手の正体がわかりません。数で遅れを取っている可能性も考えられます。戦力は多ければ多いほどいい、違いますか?」
「そのとおりね。そしてその論で行けばあなたが戦力差を覆すほどの力を身に着ければいい。でしょう?」
ああ言えばこう言う。まったく本当に腹持ちならない女だ。
それができれば苦労しないというのに。
「まぁ、とはいえ今の言葉は暴論に過ぎるわね。だからあんたには機会をあげる」
「機会、ですか」
「そ、このあと私の屋敷に来なさい。特別に稽古をつけてあげる」
「稽古? お嬢様がですか?」
「あんた、今の言葉どう聞けばそうなるのよ。あんたに稽古をつけるのは私のビショップよ」
「眷属いたんですか?」
「あら、言ってなかったかしら」
聞いてねえよとツッコみそうになるがここは我慢である。
「1人だけだけどね。大公に命じられてトレードして預かっているのよ」
トレード? 何のことだ。
疑問に思った俺は聞いてみることにする。
「トレードって何です?」
「自分の眷属、駒を相手と交換することよ。例えば相手のビショップが欲しいとなったときに相手に打診して目当てのビショップと自分の眷属のビショップを交換することができるの」
「そんなことができるんですか……その場合交換される当人の意思はどうなるのですか」
「意志ってそんなのあるわけないでしょう。主たる王の意向こそがすべてよ。眷属がそれに反対するなんてありえないわ。それにトレードは日常的に行われているわ、いらない駒を捨てて、より優秀な駒を手に入れるのは当たり前でしょう」
何気なく聞いたつもりだったがお嬢様は偉く残酷な事実を俺に伝えてきた。
それはそうかもしれないが交換される駒はただの駒ではなく生きて感情を持っている悪魔なのだ。そんな物みたいに扱うことについて罪悪感を覚えないのだろうか。
「悪魔の社会では常識だから覚えといてちょうだい」
付け加えるように言われたその言葉に俺はそれ以上何も言えなかった。
純血の悪魔というのは皆こうなのだろうか。だとすれば悪魔に転生したものたちはさぞ生きづらいことだろう。
「さ、話はそれくらいにしていくわよ」
お嬢様に促されて俺はその後ろについて歩く。
未だ腑に落ちないところはあるがお嬢様はそれ以上話を続けるそうにもなく、蒸し返したところで俺の期待する回答が返ってくるわけでもないのでこれ以上は無駄と判断した。
なるべく気にしないよう努めつつ黙ってついていく。