ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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14話

 それから俺は毎日の登下校時の送り迎えを行った。

 初日の時以来、あの嫌な視線を全くと言っていいほどに感じることはなく御供さんはそれを喜んだ。

 そうして月曜日から始まった護衛の任務はあっという間に金曜日の放課後を迎えた。

 

 いつものように俺は高校の制服にそでを通して御供さんを迎えに行く。

 最初のころは肌を掻きむしりたくなるほどの羞恥を覚えたものだが今となってはだいぶ慣れたものだ。

 案外堂々としていれば本当の高校生に見えるようで、道行く人から変な風にみられることもない。

 

 だからこそ、こうして何の不安もなく御供さんが通う高校の前で待ち構えることができるというものだ。

 さて、程なくして御供さんはやってきた。

「つく、ゆ、結真さーん」

 

 月深と言いそうになって下の名前に言い直す御供さんをほほえましく思いながら、ハッとして頭を降る。

 いかんいかん。俺と御供さんの関係はあくまでも(悪魔だけに)仮初の関係。ただの演技であって本気ではないのだ。

 色即是空、空即是色。う、ちょっと頭痛い。そういえば悪魔はお経を唱えられるだけでダメージを負うんだっけか。

 

「どうしました? 結真さん」

 考え事に耽る俺の顔を覗き見る御供さん。

「うぉ……いやなんでもない、です」

「そうですか? 気分でも悪いのでしたら少し休まれてからでも」

「いや、本当に大丈夫、少し考え事してただけだから。心配かけてごめん。さ、行こうか」

 

 赤くなった頬を見られるのは少しばかり恥ずかしいので話を切り上げ歩き出す。

 御供さんは不思議そうな顔をしながらも追及するつもりはないようで黙って後に続いてくれた。

 と、思いきや歩き始めた俺の服の裾を掴んだ。

 

「御供さん?」

「あ、あの。今日は……少し寄り道をして、……行きませんか?」

 指と指をもじもじと動かしながら、伏し目がちに言う御供さんの様子にグッとくるものがあった。

 やばい、めっちゃ可愛いぞ!?

 

 おっともだえている場合ではない。コホンと咳払いをして気持ちを落ち着かせて聞く。

「急にどうしたの?」

「あ、その、ごめんなさい。私なんかとは嫌ですね……」

「違う違う。そうじゃなくて、どうしてそう言ったのかなーって」

「お、怒りませんか」

「うん、怒らない」

「私……これまであの嫌な雰囲気に晒され続けてずっと怖くて、休みの日も家から出られませんでした」

「そうだったね」

 

 あんな視線にさらされ続けて藁にもすがる思いで頼ったのは悪魔の俺だった。

 その決断に至るまでどれほどの苦悩があったのかそれは俺にもわからない。

「でも、つく、ゆ、結真さんに出会ってそれが変わりました。さ、最近はあの嫌な視線もなくなってようやく少し日常が戻ってきたって実感できたんです。でもまだ少しだけ不安で……」

 

 伏せていた視線が宙を漂いやがて俺を捉える。

「だから、その……不謹慎だとは思うんですけど、他の子たちみたいにまた私も帰り道に寄り道したいなって。結真さんがいてくれたら安心できると思って……」

「なんだ。そういうことか」

 

 要は普通の高校生のように遊びたいってことか。

「はははっ」

「な、ななんで笑うんですか? 私変なこと言いました!?」

「ううん、全然。よし、遊ぼう」

 俺は御供さんの手を引いて帰り道とは逆の方へ走り出した。

 

 

 

「ふぅ、遊んだ遊んだ」

 しばらく遊んだ俺たちは帰路に着いていた。

「はい、とても楽しかったです」

 満面の笑みを見せる御供さんに俺もまた笑みを返す。

 

「満足した?」

「はい、とっても。お土産もいただきましたし」

 ぬいぐるみ付のストラップを優しく大事そうに握って御供さんはそう言った。

 さっきゲームセンターに行ったときにおれが取った物だ。ぬいぐるみはラッチュー君という流行りのマスコットキャラクターらしく御供さんはいたく気にっているようだ。

「大事にしますね」

「そ……うしてくれると嬉しい、かな」

 

 そんな大層なもんでもないような、と言おうとしたが御供さんがわかりやすいほどに嬉しそうだったので水を差すのは止めにした。

 鼻歌交じりに先を歩く御供さんの後ろ姿を見つめる。とても嬉しそうに楽しそうに足取りだけでそうとわかる彼女は突然足を止めた。

 俺もまた釣られるようにして足を止める。

 

「御供さん?」

 凍り付いたように固まる彼女は何の返答も返さない。不審に思い前に回り込もうとして俺は愕然とした。

 うなじがゾワリとするような粘つくようなあの視線を感じたからだ。

 

 いつかの時と同じように御供さんの家の近くの住宅街でだ。もう少しで家に着くというのに歯噛みするも俺は素早く立ち直ると未だ呆然としている御供さんの手を引いて走った。

 目指す場所はとにかく人がいそうなところ。そうすればあの視線も途中で切れるはず。

 そう信じて走っていたがしばらくして俺は立ち止まった。

 

 住宅街の雰囲気が変わったのだ。最初はただの肌感覚。気づいたときにはもう夕暮れの空が一瞬にして薄暗くなっていた。おまけに妙な靄が立ち込め視界が悪くなる。

 わけがわからないがとにかくまずいことはわかった。手を引いて元来た道を戻ろうとしてさらに事態は悪い方向へと進んでいく。

 

「…………は?」

 そんな間抜けな声をもらす。なぜなら俺の目の前に狼が現れたからだ。

 あまりに唐突だった。住宅街に似つかわしくない獣。日本においては当の昔に絶滅した存在。それが俺の前にいる。

 

 何度瞬きしても目をこすっても消えはしない。どころかこちらに近づいてきてすらいる。

 ゆっくりと前足と後ろ脚を交互に使ってじわりと距離を詰めてくる。確実そいつはこっちを見ている。間違いなく俺たちが狙われている。

 俺のすぐ後ろを歩いていた御供さんが背後に回ってギュッと服を掴んできた。

 

 動きにくいのでやめてもらいたいところだが気持ちはすごくわかる。だって、俺も御供さんの後ろに隠れたいぐらいにビビっているのだから。

 しかし、これで後ろに下がれなくなってしまった。さて、どうしたものか。

 

 危険なオーラをまとう狼。突如として現れたこいつが果たしてただの偶然とは思えない。何者かの作為を感じる。

 だとするならここで戦うのは得策ではないか。でも、今の御供さんがきちんと走ってくれるかどうか。

 

 眼前には狼。周囲はおどろおどろしい雰囲気。

 御供さんは恐怖からか縮こまって動こうとしない。

 俺は悩んでいた。が、目の前の相手は焦らせるかのようにさらに距離を詰める。

 

 どうする、考えろ。

 あの狼は突然現れたことを考えるにただの狼とは考えにくい。

 誰かの能力によって呼び出されたのかあるいは誘導されたか。

 

 なんにせよ、アレと戦うのは少し不味い気がする。

 戦闘は避けて逃げに徹したいが、狼は片時も視線を外さない。

 2人で逃げることが無理なら俺が囮になって御供さんを逃がしたい。けれど肝心の御供さんがちゃんと走れるか怪しい。

 

 そうだ! 焦りから狭窄する思考の中ふと思い出す。

 こういう時のために宗方さんから預かっていたものがあるじゃないか!

 俺はリュックの脇についているドリンクホルダーに手を伸ばす。

 

 狼から視線を逸らすわけにはいかないので勘と手の感触を頼りに探り当てる。

 蓋をとって中から呪符と呼ばれるものを取り出す。

 呪符とは霊的な力を込めた御札のことで魔力または呪力と呼ばれるエネルギーを流し込み始動呪文を唱えると込められていた力が解放される代物だ。

 

 種類もいくつかあり、今回渡されたのは目眩し、認識阻害、防護、火言、水言の5種だ。

 目眩しは文字通り、強力な光を瞬間的に放って対象の網膜を焼く。

 認識阻害は発動中、発動者以外の人から顔や声を分かりづらくしてくれる。

 防護は防御用の結界を張ってくれる。

 火言は発動すると火が出てくる。イメージとしては火炎放射器だろうか。

 水言は激流のごとく水が出てくる。

 

 どれも非常に強力だが数に限りがある。慎重に使わなければならないだろう。

 渡す前にあらかじめ魔力は込めてもらっているのであとは始動呪文を唱えるだけでいい。実にお手軽だ。

 前を見ながらでは流石にわからないので一旦全部取り出した。必要なのは目眩しと認識阻害。

 

 逃げるのならこの2つで十分というのもあるが、火言と水言は使う場面をしっかり選べと念押しされている。

 火言と水言は強力だが、とにかく効果範囲が広い。

 呪符を制御する術を知らない俺は出鱈目に放つことしか知らない。おいそれと住宅街のど真ん中では使用できないのだ。

 

 「御共さん、御共さん」

 小声でゆっくり話しかける。

 俯いていた御供さんは少しだけ顔を上げる。

 

 「はい……」

 か細い蚊の鳴くような声で応じてくれた。

 「今から目眩しの強力な光が出てくるから合図したら目を瞑ってほしい」

 御供さんがコクリと頷く。

 それを見て俺は目眩しの呪符を取り出す。

 

 「いくよ、3……2……1、0!」

 カウントが終了すると同時に呪符を放つ。

 狼は前傾姿勢を深くとるが逃げようとはしなかった。それが仇となるとは知らずに。

 始動呪文を唱えると間を置かずに呪符が強力な光を放った。

 

 「今だ! 走るよ!」

 「あの、足が……」

 御供さんの足が小刻みに震えている。やはり、足がすくんでしまったようだ。

 しかし、今は一刻を争う状況。なりふり構ってはいられない。

 

 「ごめん!」

 一度謝ってから御供さんの腰に手を添え、膝裏にも手と腕を添えると掬い上げるように抱き抱えた。所謂お姫様抱っこだ。

 

 そのまま、狼とは逆方向に走り始める。

 人間の頃だったら、抱き抱えるので精一杯だっただろうけど、悪魔となった今では抱えたまま走るくらいならどうということはない。

 

 背後を振り返る。狼は閃光をまともに浴びたようであらぬ方向へ走っては壁にぶつけるといったことを繰り返している。

 この分なら視界が回復するころにはかなりの距離を開けられることだろう。

 逃げられる。確かな希望を胸に油断することなく足に力を込めて俺は走った。

 

 いくら悪魔に成って体力がついたとはいえ人を抱えて全力で走れば限界はそう遠くないうちに訪れる。

 しばらく走ったところで完全に息が切れてしまい、足が止まる。

 

 ぜぇぜぇと荒くを息を吐いて、ありえないとは思いつつも後ろを見る。幸いなことに、狼の姿は全く見えない。

 だが、俺は背後の光景にあり得ないものが見えて目を離せなかった。

 

 走っているときは逃げることに夢中で全く気づいていなかった。周囲の雰囲気が変っていないことに。

 周りには似たような家屋があり、薄暗く靄の張っていて晴れることなく依然として天中を覆っている。

 

 短距離の陸上選手だって度肝抜かすような速さで、相当な距離を走ったはずだというのに景色が一向に変わらない。

 この現状に近しいものを俺は知っていた。

 

 それは先日お嬢様と旧校舎でドンパチした時のこと。あの時の彼女は旧校舎全体に結界を張ったといい俺は何度抜け出そうとしても旧校舎から出られることはなかった。

 この状況もまた同様のことが言えるのではないか。つまり未だ結界の中。

 

 そう結論付けていいだろう。だが、それが事実だとしたら非常にまずい。

 何しろ俺は悪魔に成りたてで魔力には明るくない。結界を打破する方法を持ち得ておらず、できることがあるとすれば結界を張った術者を倒すしかないのだから。

 

 結界の範囲もわかっていないのにどこかに隠れているであろう術者をお荷物を抱えながら探る。

 ――不可能だ。自分一人ならあるいはと思うもそれはたらればの話。

 現実がそうは簡単に覆ることはない。御供さんを守りながらどうにかする、いや、しなければならない。

 

 そこまで思考を巡らしたところで御供さんの「ひっ……」という怯えを多分に含んだ声で現実に引き戻される。

 御供さんが向けている方を俺もまたみて、愕然することとなる。

 狼が俺たちのすぐそばまで迫っている。それも1体だけではなく2体、3体と別の通路や果てには家屋の屋根へと何体も現れる。

 

 周囲をよく観察すればするほどに狼が見つかるさまは昔読んだ絵の中から特定の物や人物を見つける絵本のようで、途中で馬鹿らしくなった俺は視線を巡らせるのをやめた。

 御供さんはキョロキョロを見回しては狼を見つけて戦々恐々としていたが。

 

 状況は悪化。でも可能性はわずかに残されるている。なんとかこの包囲網を突破し運よく術者を見つける。そうすれば脱出することができる。

「ごめん、御供さん。今からちょっと無理をするよ」

「へ? えぇ? なんで……?」

 

「説明している暇もなさそうだ。しっかり掴まっていて!」

 一か八か包囲網を一点突破で抜け出す。地面を蹴り砕かんばかりに力強く一歩を踏みだす。

 が、囲んでいた一匹が俺の動きに反応して飛び出してきた。顎を開いて噛みつかんと迫る。

 

 初動は俺の方が先だったために俺や御供さんにその牙が届くことなく通り過ぎられる。

 何も捉えることはできず虚しく空をその口に収める。はずだった。御供さんのスカート、その裾が狼の牙に引っかかった。

 裾のほんの一部分が両方向に働く力に耐えられず引きちぎれる。

 それによって御供さん、そして彼女が掴まっていた俺の動きが殺され盛大に前につんのめるようにして転んだ。

 

 瞬間にして起きた出来事に事態を今一つ掴めなかったが、どうやら転んだらしいと素早く把握すると急いで起き上がろうとして突き飛ばされる。

 ゴワゴワとした手ごたえの何かに押し倒され天地を入れ替えながら転んでいく。

「こんの犬っころが!」

 

 前足と後ろ脚を起用に使って覆いかぶされる狼の頭を無我夢中に殴りつける。

 大した痛痒も感じていないのか一切怯むことなく口を開けて俺の右肩にかぶりついた。

「いっ……てええええええ」

 肉の繊維をかみちぎられる感触を覚えながらも束の間、狼の頭がすぐそこにあり見えやすくなったことに気付いて、ニヤリと笑った。

 

「てえぇな、おぉい!」

 人差し指と中指をやつの目玉に突き刺す。

「キャァウン」

 これにはたまらず甲高い声を出して口を放した。

 自由になった右手で張り手をくらわすと御供さんを探す。

 

「御供さん!」

「月深さん!」

 狼が御供さんの制服の襟を噛んでいずこかへ連れ去ろうとしていた。

 プッツンときた俺は神器を出そうとして、横からやってきた狼にまたもや押し倒される。

 

「く、くそっ」

 後一秒もあれば神器を出せたのに!

 俺は神器を扱い始めたのが最近だったために出すのに最低でも2秒ほど時間を要する。それも落ち着いた状態で、だ。

 

 こうも焦りや不安を覚えている状況では出すことすらままならない。神器に固執しているとそのままやられてしまう。

 神器の使用を諦めて、身体能力で切り抜けることにして、俺に向かって噛みつこうと躍起になる狼の隙だらけの腹に向かって蹴りを入れる。

 

 吹き飛びはするが大したダメージを与えられなかったようで、軽やかに着地を決めると再度吶喊してきた。

 飛び掛かる狼の頭に向かって拳を打ち付ける。帰ってくる感触からして直撃。

 狙いしました一撃はジャストミートだったようで狼は無様に吹き飛ぶと家屋を仕切るコンクリートの壁に激しくぶつかりピクリとも動かない。

 

 やった、と思うその気持ちが油断を生む。背後から飛び掛からんとする影に気付いたときには時すでに遅く、俺はうつ伏せに組み伏せられていた。

 即座に振りほどこうと試みるも、さらなる狼たちが家屋の屋根や塀から跳ねて俺に覆いかぶさる。

 肩を足にかぶりつき肉を引きちぎる。中の白い骨を露出させながらも、なお狼たちは噛むのを止めない。

 

「月深さんっ!!」

 御供さんの俺を案じる声が聞こえた。だが、どうにもならない。

 少女の声援を受けてなお奮起するも動けば動くほどに肉が裂けて痛みは増すばかりだ。

 拘束から抜け出すことができない。頼みの綱である呪符に手を伸ばすこともかなわず、御供さんが攫われる様子をただ見ているしかない。

 

 事態を挽回するための切り札はなく、まさに万事休す。

 遠く彼方で何かが煌めく。

 それは一瞬のことでただの気のせいかに思われた。閃光が降り注ぎ御供さんを狼が薙ぎ払われるまでは。

 

 何が、と思う間もなかった。再度極光が迸る。

 薄暗い世界が裂けて、その裂け目からまばゆい光が覗かせる。

 今度は俺を襲っていた狼が消え去る。すぐ近くにいた俺には傷1つない。光が少しだけ肌に沁みる程度だ。

 

 危機を脱したことで安堵を覚えると同時、新たなる脅威に不安と警戒が芽生える。

 感情のみならず、疲労も一気に押し寄せてきた俺は意識を保つことが難しくなっていた。それでも御供さんだけはと思い必死に意識をつなぎとめる。

 起き上がることもままならず未だ伏せたまま見上げる先、光の中に影が生まれる。

 

「お、間に合ったようだな」

「叔父さん、負傷者です」

「んん? あんな奴いたかー?」

 2人の声がした。1人は知らない声。だが、もう一人の方は聞き覚えがある。

 どうにか思い出す前に、意識が離れていき感覚のすべてを遠ざけていく。

「――っ!? おいっーー?」

 最後に焦るような声が聞こえた気がした。

 

 

「ん…………」

 目を開けると天井があった。薄暗い靄のかかった空ではない。

 意識を失う寸前の光景を思い出し、結界の外であることを認識した。

 そうだ、御供さんはーー!?

 ガバッと上体を起こして周囲を見る。

 

「起きたか」

 隣にいた人物に声をかけられる。身構える俺だが知っている声だったのですぐに肩の力を抜く。

「びっくりさせるな匠」

「それはこっちのセリフだ、結真」

「ここは……」

 

 匠が嘆息する。

「俺の部屋だ。倒れていたお前を運ばせてもらった。……無事でよかった」

「なんとかな」

 制服のあちこちが裂けていて、いたるところ血痕が残っている。傍から見たら交通事故にでもあったかのような風体だろう。

 

「それにしても、どうして匠が? なにがあったんだ?」

 なぜ匠があんなところに? そもそも俺はどうやって助けられたんだ? 疑問は尽きない。

 最後の瞬間に結界が崩壊したのは見ていたから匠みたいな一般人でも入ることは不可能ではなかったとは思うが。

 

「実は、少しばかり事情があってだな。順を追って話すよ」

 事情と来たか。非常に気になるところだが今はそれ以上に聞きたいこともあった。

「ごめん、その前に1つ聞きたいことがあるんだが」

「御供結乃さんのことか?」

「知っていたのか!?」

「まあな、これから話すことも彼女と関係のあることだ。彼女は無事だよ」

 

 御供さんは無事らしい。それを聞いて少しだけ肩の荷が下りたような気分になる。

「それでお前と御供さんはどういう関係なんだ? どうして、高校生のコスプレなんかしているんだ?」

 そうだ、今の俺は高校生の制服を着ているんだった。さっきまでは知らない人だけに見られていたからちょっと恥ずかしいで済んでいたけど、親友に見られると途端に恥ずかしさが倍増だ。

 

「み、見るな。そんな憐れむような目で俺を見ないでくれ」

「見てないぞ、見てないから近づかないでくれ」

「わかったこっちの話からする、弁明をさせてくれ」

 

 とはいえ、一般人である匠に対していきなり俺が悪魔であることを暴露するわけにはいかない。

 事情を知らないふりをしてさりげなく尋ねるために俺は言葉を選びながら事のあらましを伝えた。

 

 「全く、急に周りの雰囲気が変わったと思ったら狼が出てさ、住宅街のど真ん中にだぜ!?」

「ありえない、と言いたいが身体の傷を見るにどうも間違ってないんだよなぁ」

 信じられないという表情をしつつも俺の身体の傷を見たからには信じざるを得ないようだ。

 

「もうさ、無我夢中になって御供さんを守らなきゃと思っていたらこの様だよ、情けねぇ」

「あんまり自分を責めるなよ。お前はできることをやったさ。……何にせよ事情は分かった。次はこちらだが、結真と状況はほぼ一緒だな」

 その一言で俺はなんとなく察した。

 

「ああ、そうか。國坂だな?」

 コクリと匠が頷いた。

 おせっかい焼の國坂のことだ、何らかの筋で御供さんが困っていることを聞きつけて相談にでも乗っていたのだろう。

 

「相変わらずだな、國坂は。それでお前は國坂の頼みで御供さんの様子を見ていたわけだ」

「そういうことだ。今日の放課後から本人にも知らせず後をくっついていたんだが、びっくりしたぞ? 結真が御供さんのそばにいたんだから。親友でなければ警察に通報するところだった」

「うっ……」

「かと思いきや突然2人の姿が消えてな。しばらく付近を探しても見つからなかったが、突然光がさしてよくわからない場所に映ったかと思えばお前たちが倒れていた。俺が知っているのはそれくらいだ」

「そうだったのか……」

 

 悪魔やエクソシストの関係者かと勘繰りもしたが、冷静に考えてみれば匠はただの一般人。

 間違ってもあんな狂った世界にかかわっているはずもない。それは俺がよく知っていることじゃないか。

「どうかしたのか?」

「いや、なんでもない。ちょっといろいろあって少し疲れただけだ。そういえばなんだが、傷の手当てをしてくれたのはお前か?」

 

 傷があったであろう箇所には包帯が巻かれている。素人目からしても丁寧な処置であるとわかる。とても匠がやったとは思えなかった。

「ああ、それな。あんまりな具合だったんで叔父さんに処置してもらったんだ。俺の叔父さんは医者だからな」

 む、そういえばそうだった。昔そんな話しをしてもらったけっか。

 

「道理でしっかりしていると思ったよ。できれば会ってお礼をしたいところだが」

「残念だけど今はいない。急患だそうだ。代わりに礼は伝えておく」

「助かる。……しっかし疲れた」

「だろうな。今日はゆっくり休んでいけ」

「お言葉に甘えさせてもらうよ」

 それから俺たちはここ数日の空白を埋めるように他愛もない話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

「どうやら失敗したようだな」

「そのようだ。まさか悪魔の介入、加えてエクソシストまで出張ってくるとは流石に予想外だった」

「人間界にああも首を突っ込んでくるとは相も変わらず傲慢な奴らだ」

「それでどうする? こうなっては回収も難しいと思うが」

「もう少し慎重に事を進めようと思ったが仕方あるまい」

「では、いよいよ旗を起こすと?」

「ああ、我ら英雄派の意地、その覚悟をやつらは思い知るだろうよ」

 

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