ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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15話

 それから俺は御共さんが登下校する際は彼氏役として送り迎えをして、日中は大学に、夜はお嬢様の屋敷で宗方さんと修行する日々を送った。

 肝心の護衛任務はというとこれといって進捗はない。

 

 相変わらず粘っこい視線は感じるが、直接的に干渉はしないからだ。

 できることなら視線の正体を暴きたいところではあるが、御共さんのそばを迂闊に離れられないこと、相手の力量もわからないため今は控えている。

 それに匠や國坂の存在もある。彼らが御供さんに何らかの形で関わっている以上はおいそれと悪魔の力を披露するわけにもいかなかった。

 

 幸か不幸か、いや、不幸なんだろうけど最近御共さんもこの状況に慣れてきたのか、以前ほど怯えた様子はない。

 が、かといって完全に解放されたわけではない。

 俺の見えないところで確実にストレスは溜まっていることだろう。

 

 現状打つ手はないので護衛をすることで襲われにくい状況を維持するしかないのだが……。

 できることならお嬢様に相談したいところだが、あの人はまとも取り合ってくれないだろう。悪魔としての力と知見に優れた彼女ならあるいはと考えてしまうのだが……。

 

 まあ、これ以上当てにすることもできないことに考えをめぐらしては意味がない。

 必然、そうなると相談できる相手は絞られてくる。

 

「って感じなんですけど……、いてっ」

「うーん、なるほどなるほど。それは難しいですね」

 宗方さんが俺を払い飛ばしながら思案している。

 

 がむしゃらに突っ込んでくるを余裕かつ冷静にあしらいながらも息1つ切らさないあたり流石である。

「できることなら原因の特定をして警察とかにでも届け出せたならいいんですけどね」

 そもそも視線の主は一体何を考えてストーキングを始めたんだろうか。

 

 それがわからなければ延々と今の状態が続いていってしまう。

 現状手がかりもない上に人手も足りない。

「なんらかのアクションを起こしたいが人手が足りないと」

「まぁ、そうなりますね」

 

 遠回しに手伝ってくれないかなーと言っているのだが果たしてどうだろうか。

「まぁ、そういうことならいいですかね。私でよければお手伝いしましょうか?」

「本当ですか? 助かります」

 

 半ば茶番に近いやりとりなのでどちらも半笑いだ。

「それでこれから何をするのかはもうお考えで?」

「それがなにも思いつかなくて……、何か案はありませんか?」

「そうですね……そもそも今回の件は何が原因だと思いますか?」

「原因……」

 

 何がどうして御共さんがストーキングされるようになってしまったかという意味だろう。

 うーん。何故、か。

「色恋ではないでしょうか。御共さんに見惚れた方が振り向いてもらえなくて付き纏っているのでは」

「可能性としては一番あり得るところではありますが、ともすれば……」

「何か思い当たることでも?」

 

 問うと宗方さんは肩をすくめて苦笑した。

「いえ、確証はありませんしこの話はこれくらいにしましょう。犯人を捕まえさえすればわかることですしね」

 

 

 

 

 

 厳然たる雰囲気が支配する小部屋。その場に重く威厳のある声が朗々と響き渡る。

「定刻だ。定例報告会を始める」

 その室内に置いて一段高みに座す男が宣言をすると同時。前に進み出る影が1つ。

「ルーナよ、報告するがよい」

 

 眼前にて報告を促す大公に向かって私はレジュメを手に話し始めた。

「――以上で報告を終了させていただきます」

 すべてを話し終えた私は一礼する。

「うむ、ご苦労。しかし……」

 

 大公が予め渡されていたレジュメをデスクに放り捨てた。

 続くその言葉になんとなくの想像がつき私は顔を伏せたまま上げられずにいた。

「思っていたほどの成果を出せていないようだな?」

「そ、それは……」

 

 成果に関する部分はレジュメには記載していたが実際に報告する際にはあまり触れなかった。なぜなら其処をつかれると私としては非常に困るからだ。

 だが、大公は私の浅知恵などたやすく看破してみせた。

 

「所詮は雑事とそう考えているのか?」

 問うその声音は大公にとってみれば決して怒りを込めたものではないだろう。

 だが、私にとっては万の槍を束ねて心の臓を貫いて見せたかのような鋭さと重みがあった。

 

「そ、そのようなことは断じて……!」

「では、なぜ成果を出せない? 君を見出した私に間違いあったのかね」

「いえ、いいえ! そのようなことはありません! 此度は結果こそ振るいませんでしたが今度こそはご期待に沿って見せます」

 

「期待? フン、期待ときたか。思い上がるなよ俗物風情が」

「――ッ!」

 大公が冷えた目で睥睨する。

 

「いつ、私が期待をしているなどと言った? よいか。私が期待するのは結果を出し続けられるもののみだ。お前は未だ私が期待をかけるには値せんわ」

 グッと奥歯を深く噛みしめる。奥歯をかみ砕かんばかりに失意のどん底へ沈む私へさらなる言葉が投げかけられる。

 

「たかだか代行として選ばれただけで驕りがあるのではあるまいな?」

「ありえません。所詮は通過点であること、重々承知しております」

「であればよいがな。どれ、それが真意であるかもう一度やり直してみるのも面白いやもしれんな」

「ッ! それだけどうか……、ご容赦を」

 

 恥も外聞もなくただ許しを請うために私は首を垂れる。

 あのような地獄ただの一度でも味わえば十分に過ぎる。ましてや最初からなどもはや耐えられるかどうか。

 

「カカッ、愛い愛い。まるで幼子がごとく慌てたようよな。無論冗談だとも。そのような余裕はもはやないのでな」

 だが、と大公は続ける。

「あまりに成果を出せなければお前がいまのままではいられない。それはわかるな」

「はい。存じております」

「であれば疾く結果を出すがよい。貴様の代わりになりたいというものはいくらでもいるのだからな」

「はい……」

 

 体を震わせながらようやく返事をする。

「ではこれで終了とする。せいぜい励むがよい、捨てられたくなければな」

 退出を許された私は深く礼としたのちに転移魔法陣で人間界の邸宅へと戻った。

 メイド代わりの使い魔たちが命令を求めてすり寄ってくる。

 

「寄るな、鬱陶しい」

 その鶴の一声に待ち構えていた使い魔がそそくさと去っていく。

 自ら行動を起こすこともできない木偶の坊が。内心で吐き捨てながら自室へと戻りそのままデスクへ向かう。

 

 いつの間にか握り締めていた資料を乱雑に放ると、椅子に座って顔を手で覆う。

 思い出すのは大公が最後に言い放ったお前の代わりはいるということを言葉。

 そう、そうなのだ。領主代行は私ではなくともできる。私はたまたま生き残ってそのポストに落ち着いたに過ぎない。

 

 それでも運に恵まれたとはいえここまでこれたのだ。ここに至るまでどれほどの輩を踏み倒してきたと思っている。

 今更後には引けないし、くだらない結末を迎えることなど許されない。私は勝利者なのだ。勝ったものは勝ち続けなければならない宿命にあるのだ。

 

「ふ、無様だな。これでは彼らを笑えない」

 せっかくの地位を投げ捨てるような勝利者にふさわしくない結果しか今はない。

 ふと手の隙間から自らが纏めたレジュメの一頁がみえた。

 

 そこにあるのは今期に掲げた目標と実際の数字。目標に対して大きく突け放された現実が記されている。

「そうだ、私には結果がいる。何もかもを黙らせるための目に見える成果が……!」

 今の地位を失わないために。見限られないようにするためにも。

 

 そして、問題はそれだけではない。奪われてしまったキングの駒という問題もある。

 今はまだ、露見こそしていないがこれが明るみになるのも時間の問題だろう。毎日文献を漁っては悪魔の駒の摘出方法を探しているがこれがなかなかにうまくいかない。

 

 流石はベルゼブブ様が考案されただけあって隙のないプログラムをしている。単に堅牢で一部の隙も無いというものであれば時間をかければつけいるところもあったであろう。

 されど、ことは単純にあらず。なんとこのプログラムは美しく効率的に構成しつつも遊びの余地すら残している。

 

 複雑に書き込まれたプログラムは何百もの層に分かれており、1つ1つが相互に複雑に干渉している。かとも思いきや独立して働く仕組みを有していたりと変化に富みすぎておりとてもパターンを把握しきれない。

 加えてブラックボックスとなっている箇所も多いのだ、この術式の全容を把握するころには悪魔といえど寿命を全うしていることだろう。

 

 断言できる。このシステムを構築したものは真性の変態であると。

 と、そんな理由から摘出することは叶わず手元に置いておくほかしないのが現状である。

 やつがキングの駒さえ所持していなければ証拠隠滅も兼ねて殺してやるところだが、現時点ではそんなことをすればどのような結果をもたらすわけにはいかない。

 

 いっそのこと、どうせ露見してしまうのであれば殺してしまうのもありと考えるが、それはどうにもならなかった時の最終手段である。

 そういえば件の下僕は昨日から連絡をよこさない。一体全体どこで油を売っているのやら。

 

 先日あれほど灸を据えてやったというのに、学習能力のない奴である。

 下の者の手綱を匠に握るのも上の者の務めとはいえ、なかなかに厄介な人物であった。

 やっぱり殺してしまおうか。そんな風に考えているときのことだ。見知った名前から電話がかかってきたのは。

 

 

 

 昨晩、そのまま匠の家で泊った俺は翌朝にその場を後にした。

 出る瞬間、匠に体調を心配されたが、悪魔ということもあり一晩あれば日常生活に問題ない程度には回復していた。

 

 今はそれよりも一晩無駄にしてしまったことが大きい。不可抗力とはいえ、何の報告もしなかったのだ。

 今頃お嬢様はカンカンだろう。

 そんなわけで早々に匠の家を出てお嬢様に嫌々ながら一報を入れた。

 

 

 

 

「それで、もう終わり?」

 電話で報告しようとしたところ直接の報告を求められ、俺はお嬢様のいる邸宅まで向かうことを強いられた。

 数日ぶりに対面したお嬢様は異様な緊張感を纏っており、非常にやりづらい気持ちになりながらも昨日のことを伝えた。

 

 簡潔に、いかに俺が悪くなかったか、敵がとても強かったことも含めて。

 それに対してのお嬢様の反応はというと、だからなに? というような冷たいものだった。

 

「えっとですね、つまり俺は悪くないというか……、報告ができなかったのは大変申し訳ないと思いますが……」

「ーーふ、ふふふ。あははははっ」

 突如としてお嬢様が笑い出した。呆気にとられる俺を他所に彼女は面白うに笑う。

 

「あ、あの、お嬢様?」

「本当にあんたは使えないわね。笑いたくもなるっていうものよ、どうして言われたことの1つも満足にできないのかしら」

 

 突然笑ったかと思えば突然その笑みを引っ込めて、軽蔑した目で俺を見る。

「悪いとは思っています。ただ昨日のことはどうしようもなくって」

「それはもう聞いたわ。言い訳はもううんざり」

「なら、どうしろと?」

「今すぐに改善して。成果を出して。誰にも文句の言わせないほどの列記とした確固たる事実を見せて頂戴。早く。すぐに。結果が必要なのよ。どうにかして、どうにかしてよ」

 

 それは最初俺に向かって言っているのかと思っていた。けれども少しずつお嬢様は俺ではなく違うどこかを見ている。

 今日のお嬢様は何か変だ。いつも高圧的だけど今日はいつもよりにさらに輪をかけてひどい。

 怒られたときのいたたまれなさはいつの間にか消え去り、疑問がもたげてくる。

 

「何かあったんですか? 俺でよければ相談に乗りますよ」

「相談? そんなのもの必要ないわ。ええ、そうよ。必要ない。あんたさえどうにかしてしまえばそれですべて事足りるのだから」

「それはどういう……」

 お嬢様が右の手のひらを俺に向けてゆっくりと手を伸ばす。お嬢様の瞳に剣呑な輝きが灯る。お嬢様が何を考えているのかわからないがこのままではまずいといつでも逃げられるようにと足に力を込めた。

 

 俄かに漂う緊張を破るかのように軽快な電子音が鳴り響く。ピタリと体を止めて音の出所を探る。それは俺のポケットに入っている携帯からだ。

 お嬢様のほうを見ると右手を引っ込めていた。少なくとも一触即発の危機は免れたと判断し携帯に手を伸ばし発信者の名前を確認する。

 

 相手はーー、御供さんだ。

 今日は土曜日で御供さんの高校は休日のはず。いったい何の用だろうか。

 とにもかくも出てみないことには始まらないのでお嬢様をチラチラと見ながら電話に出ることにした。

 

「もしもし月深だけど」

「月深さんっ!?」

「おわっ!?」

 開口一番に大声で名前を呼ばれ面食らう。

 

「どうした? なにかあったのか?」

「大変なんです、お願い助け――」

 言い切るよりも早く電話が切られる。俺ではない相手の方から切断されていた。

 

 そして、切れる直前電話越しに微かに聞こえた破砕音。御供さんの身に何かが起きたに違いない。

「お嬢様、すみません。依頼人の身に何かが起きたようです。申し訳ないですけどこの話はまた今度にお願いしてもいいですか」

「どうやら、そのようね。いいわ許可する」

「ありがとうございます、ではーー」

「待ちなさい」

 

 踵を返そうとした俺をお嬢様は制止した。

「何か?」

 まだ、何かあるのかと苛立つ俺を待っていたのは驚愕の発言だった。

「私もついていく。言っておくけど拒否権はないから」

 

 

 

「ここがそうなのね?」

「ええ、そうです」

 俺、そしてお嬢様が見上げる先には住宅街の一角に据えられた一軒家。御供結乃の実家だ。

 

 電話を受け取ってすぐにお嬢様の転移魔法陣でやってきた。御供さんは助けてと言ったけどどこに来てとは言わなかった。

 御供さんの部屋に直接跳ぶことも可能らしいが、なんでもなかった時がめんどくさいし、何かあったときは不慮の事態に出くわしたとき対応しきれないので見送った。

 

 というわけで家の前まで一瞬でやってきた俺たちは外から様子を窺っていたわけなのだが。

 お嬢様はものの数秒で観察を止めるとインターフォンを押すこともなく中へ押し入った。

「お、おい。お嬢様」

「なに? 結界なら張ってはないし鍵も開いているわ」

「いや、でも礼儀ってもんが……え、開いてる?」

「既に来客は来ていたみたいね」

 土足のままに上がるお嬢様は俺のことな気にせずドンドン進んでいく。

 

「ああもう」

 勝手するなあと思いつついざという時お嬢様を止められるのは俺だけである。いろいろと諦めて後を追う。

 

 玄関からはいるとそこには男性と女性が倒れている。恐らくは御供さんのご両親だろう。

 一瞬死んでいるのではないかと危惧したが上体の動きからして呼吸はしているようで死んでいるということはなさそうだ。

 

 というかお嬢様はこれを見て何も思わなかったのか。

 呼びかけて体を軽くゆすってみるが気絶しているようで起きそうな気配はない。とりあえず倒れたままにしておくのは忍びなかったので壁に寄りかからせて奥へと進ませてもらうことにした。

 

 リビング、キッチン、風呂場など一階から巡る。御供さんはいない。リビングの明かりは点いたままでテレビやエアコンも稼働したまま、キッチンに至ってはガスコンロの火が点火しており、先ほどまであの夫婦が使用していたのは明らかだった。

 

 結局一階に御供さんはいなかった。残す2階へ向かうが最後に入った御供さんの部屋は当然というべきか誰もいなかった。

 入ってくすぐに風が頬を揺らす。見ると窓が全開になっており其処から風が入ってきていた。

 

「随分と質素な部屋ね」

 ぐるりと視線を巡らしたお嬢様が放った感想はそれだった。

 お嬢様の空気を読まない発言は今に始まったことではないので放っておくことにして部屋の物色を始める。何らかの手掛かりが残されているかもしれないからだ。

 

 勉強机の傍まであるみよると、割れたグラスが転がっていた。付近のカーペットが湿っていることから飲み物が入っていたコップを落としたに違いない。

 破砕音の原因はこれだろうか。さらに見ていくと窓の付近に落ちていたスマートフォンを発見した。

 

 試しに自分の携帯の履歴から御供さん宛てに電話をかけてみると落ちていたスマートフォンに着信が来た。間違いなく御供さんの携帯だ。

 あの電話の直前まで御供さんがここにいたのも確定なわけだが、肝心の彼女がどこに行ってしまったかまではわかりそうにない。

 

 さて、どうしたものかと思案しているとお嬢様が話しかけてきた。

「見当はついたわ、御供結乃はここから南西20kmの姫駒小学校にいるそうよ」

「なんでわかったんです?」

「あんたねぇ、私はここの管理者よ。土足で私の領域を荒らすネズミどもを見逃す理由なんてないわ」

 

 手に持つ携帯をちらつかせる。考え事に夢中で気づかなかったが何らかのやり取りをしていたようだ。

「それにしてもなんで御供さんがそんなところに、やっぱり昨日の敵が関係しているのか」

「どうやら今回は英雄派の残党が関係しているようね、あんたが昨日会ったのもそれでしょう」

「英雄派……?」

「古今東西の英雄の血引いたものや伝説上の武具を持ち得るものたちの集団よ。人が人として超常の存在に渡り合うなんて夢を傲岸不遜にも抱く下賤の者どもということね。ついこの前冥界で盛大にやられたくせにまだ残りカスがいただなんて」

「なんだってそんな奴らが御供さんを……」

「知らないわよ、英雄の血でも引いてたんじゃない。あいつら力を集めるためなら容赦ないし」

 

 御供さんに何かがある。それに目を付けた奴らが御供さんを引き入れようとしていたのか。それにしても、だ。

 俺は握りこぶしを作ると可能な限り全力で自分の頬を殴りつけた。

「ってぇ……」

「き、急にどうしたっていうの。気でも違った……?」

 お嬢様がドン引きしているようで、一歩後ずさりながら奇怪な生物でも見るかのような視線を向けてきた。

 

「いや、ちょっと自分の馬鹿さ加減に呆れて……」

「あ、そう。すごい今更ね」

 昨日になるまではただのストーキングだった。しかし、俺が現れた途端あんな常識破りな手段に打って出たのだ。土曜日になって家にいるから安全だなんてどうして言えようか。

 

 まったくもって浅はかだった。そのせいで御供さんを危険に晒してしまうだなんて、まだ人間だったころの幼稚な考えがあるようだ。

 戒めなければ、そうでなければ今度こそ手の施しようがなくなってしまうかもしれないのだから。

 

「漫才は終わったかしら? 終わったのなら行くわよ」

「行くわよって、協力してくれるんですか!?」

「勘違いしないでもらえるかしら。私は害虫駆除に行くだけよ、断じてあんたに力を貸すためではないわ」

「理由はなんだっていい。お嬢様が来てくれるなら百人力だ」

「敬語、崩れているわよ」

「それは失礼しました。じゃあ行きましょうか」

「転移させるの私なんだけど、というか仕切んないでくれる鬱陶しいから」

 

 そう言ってお嬢様が俺の肩に手のをのせる。足元に魔法陣が展開され光るが溢れていく。間もなくして光が止むと景色はガラッと変わり小学校の正門前についていた。

 校庭に人影は見えない。どころか何の音もしない。

 本当にここに御供さんがいるのだろうか。と、お嬢様が一歩前に躍り出る。

 

「ちっ、粗雑な結界ね。見ているだけで気持ちが悪くなる。所詮は人間の浅知恵か」

 右手を振り払う。何もなかった場所に半透明のガラスのようなものが出現し、次の瞬間にはパリンと音を立てて壊れた。

 

「さ、行くわよ」

「い、今のは?」

「え? ああ、多分人払いの結界よ。あまりに雑な造りだから多分としか言いようがないけど」

「は、はあ。なるほど」

 

 俺はその雑な造りな結界にこれまで翻弄されていたわけなのだが……。お嬢様がすごいのかそれとも俺が単に弱いだけなのか。……後者か。

 強くなりたい。守りたいものを守れるほどの力が欲しい。お嬢様のように。

「ちょっと、考えごとしている場合?」

「そうですね、急ぎましょう」

「だから仕切るなというのに」

 

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