・本作品は原作小説「ハイスクールDxD」1~25巻及び「真ハイスクールDxD」1~4巻の内容を基に構成しております。ネタバレを気にされる方は十分にご注意ください。
・本作品は原作小説のエロ要素を限りなく薄めシリアス要素が多めとなっております。残虐的表現、鬱要素等が含まれておりますで苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。
結局言えずじまいに終わったのもの、単位は落としたくないのだから授業にはきっちり出た。
ケースの中はどうせ開けるのだから遅かれ早かれバれる。本当ならそうなる前にきちんと謝りたかったところだが今日のところは日を改めるほかないだろう。……決して逃げているわけではないぞ?
と、自分を無理やり納得させていた時だ。
「よっ、色男」
肩に腕を回され声をかけられる。馴れ馴れしく俺に話しかけてくる人物は1人しか思いつかない。
「やめろ匠。ていうか色男ってなんだよ」
匠の腕を乱暴に振り払って振り向く。
そこにはニヤニヤと笑みを浮かべる匠が突っ立っていた。
「とぼけんなよ見てはいねえけど聞いたぜ」
「はあ? 何をだよ」
匠のにやついた顔が寝不足の俺をイラつかせる。
2限の教室に向かいため立って話はせず、次の教室に向かうため歩き出す。2限の授業は同じじゃないはずの匠は横に並んで歩く。
「だから、とぼけなくていいって。されたんだろ告白」
「だ、だれに?」
何を言わせたいのかはもはや明白。だがその人の名前を俺が口にするのは憚れた。できることなら聞きたくない。ましてや親友である匠の口からは。
しかし、そんな俺の思いもむなしく匠は言い放った。
「黒瀬瑠奈。あの学園のマドンナに、だよ!」
”だよ”の一言の後、匠は強めに背中を叩いてくる。
しかし、俺はその痛みを自覚することなく匠に質問する。
「それってさ、もうみんな知っているのか?」
「ああ、あたりまえだろ。学校中その話でもちきりだぜ。ほら周り見てみろよ」
言われた通りに周りを見る。
廊下を歩く学生たちが皆一様にこちらに好奇の視線を投げかけている。
それは匠がイケメンだからという理由ではないだろう。なぜなら大半は俺のことを見ているからだ。
つまり、そういうことなのだ。
「そうか、うん。そうか……」
「おいおい、せっかく告られたってのに浮かない顔だな」
「そりゃ浮かない顔をするさ、なんたって誤解なんだからな」
「なに!?」
それまでにこやかだった匠の笑みが引きつる。
「ああ、話すさそして聞いてくれ」
友の誤解を解くために情けなくも、自らの恥をさらそうとしたその時、突如後方からどよめき声が聞こえてきた。
自分には関係ないと一時は無視していたが、その声は徐々に大きくなっていく。
流石に気になって振り向くと、廊下の向こうに黒瀬さんの姿が見えた。
ズンズンと効果音が付きそうな勢いで廊下を踏みつけながら、勘違いでなければ俺のことを睨みながら真っ直ぐこちらに向かってきている。
その迸る気迫は廊下を歩く数多の学生達が自ずと道を譲るほどだ。さながらモーゼの十海のように割れた人だかりの中から、何の障害もなくやってきた。
そして、遂に目標である俺に辿り着いた彼女はこう言った。
「話をしましょう。私について来て」
一見すると表面上は冷静で、淡々としている。されど双眸には熱く煮えたぎる溶岩のような深い激情をたたえていた。
俺はその覇気に半ば気圧されつつ、一度唾を飲んでからゆっくりと頷いた。
それを確認すると黒瀬さんはふいっと背中を向けて歩き出した。
黙ってついてこいということだろう。
着いていく前に匠の方を見る。
珍しくきょとんしていた匠は俺の視線を感じ取ると無言で敬礼をした。
あいつも理解しているのだろう。これから俺が死地へ赴こうとしていることに。
匠なりの最大限の敬意に対して俺もまた敬礼を返す。
この時この瞬間、俺たちは心と心で通じ合った。
さながら宇宙に進出し、その過酷な環境に適応した人類のごとく。
というお遊びはこれぐらいにして、俺は黒瀬さんの背中を追う。だって、早くしないと置いていかれるからね。
まだ遠くに行ってはいなかったので容易に追いつけた。黒瀬さんは振り返らない。果たしてどんな顔をしているのか想像もしたくないので構わなかったが。
黒瀬さんの間の空気は異様なほどに重く、12月の気候であることを加味しても恐ろしいほどに冷たい。
当然話しかけられる雰囲気でもなく、むしろそれが好都合なぐらい俺には余裕がなかった。
なぜなら、この後に展開されるであろう会話。それによる話の切り出した方、謝罪方法について全神経、全脳細胞をフル活用しかつてないほどに没頭していたからだ。
要件に関してはもはや考えるまでもない。間違いなく彼女が落とし、俺が拾ったケース。さらに言うのなら中に入っていたチェスの駒についてだろう。
朝方黒瀬さんは昨日落とした大事なチェスの駒をようやく取り戻せたことに歓喜したにちがいない。
しかし、実際に蓋をもといケースを開けてみたらキングの駒は消え去り、鮮やかな藤色に光っていた駒は黒く燻んでいる。
さぞ、落胆し、そして怒り狂っただろう。
俺も逆の立場なら必ずそうおもう。
それがわかるからこそ、俺は誠実に事情を話し弁償することを真摯に伝えたい。
信じてはもらえず、罵声を浴びるかもしれない。怒りのあまり手が出されるかもしれない。
俺はその全てを当然の報いと思い甘んじて受け入れたい。
その上で、何度でも黒瀬さんに伝えるのだ。
幾度時間を費やそうともーー。
「ここよ」
と、黒瀬さんから声を掛けられた。
着いたのは現在改築予定となっていることからあまり使われることのない旧校舎の教室だった。
知らず知らずのうちに本館から旧校舎まで歩いて来ていたようだ。
よく言えば年季のある建物。悪く言えばおんぼろな建物である旧校舎は、良くないものが溜まる一種の神霊のスポットとされており普段から学生たちは立ち寄らない。
なるほど、話すには打ってつけの環境だ。
既に黒瀬さんは中に入っている。臆することもなくごく自然に扉を開けた様子からしてよく訪れているのかもしれない。
俺はこれまでのシミュレーションをもう一度反復すると意を決して足を踏み入れた。
必ず、いや、いつかは許してもらうことを信じて。
その後どうなったかって?
結論から言おう。俺は死にかけた。