・本作品は原作小説「ハイスクールDxD」1~25巻及び「真ハイスクールDxD」1~4巻の内容を基に構成しております。ネタバレを気にされる方は十分にご注意ください。
・本作品は原作小説のエロ要素を限りなく薄めシリアス要素が多めとなっております。残虐的表現、鬱要素等が含まれておりますで苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。
教室へと足を踏み入れると中は薄暗かった。窓はカーテンにしきられ、今日の天気が曇り空というのも相まって日照量が少ないためだ。
試しに明かりをつけようとスイッチを押した所何の変化も現れなかった。
もうあまり使われていないから電気も通っていないのかもしれない。
「悪魔ならこれぐらいの薄明かりでも問題ないでしょう」
あくま…………悪魔と言ったのか? 聞き間違い……?
彼女は何を言っているのだろうか。
それってどういう意味かと質問しようとするよりも早く黒瀬さんが口を開いた。
「そんなことよりも聞きたいことがあるわ。あなたいったい何者なの?」
何者だって? 何を聞きたいのかがさっぱりわからない。
てっきり黒瀬さんの落とし物のことについての話になると思っていたので実に予想外だった。
訳はわからないが黒瀬さんが冗談を言っているようには思えない。ならばと真剣に考えてみよう。
だが、考えども考えども明確な答えは見つからない。
何者もなにも俺は俺だ。それ以外に何かあるだろうか? とはいえそれで彼女が納得しそうには思えない。
黒瀬さんが聞きたいのは最も根源的なもの、そんな予感がするのだ。
俺が無言で考え事をしているのをどう捉えたのか、黒瀬さんは目つきを鋭くする。
「言いたくないってわけね。まあいいわ、私もあえてあんたの正体を暴きたいとは思わないわ」
目の前の俺に向かっているはずなのに、そこにやり取りはなくまるで独り言のようだ。
まったくもって事態が呑み込めない。いったい彼女は何が言ったかったんだ?
困惑している俺を他所に黒瀬さんが徐に上着のポケットに手を突っ込んだ。
「これはどういうことなの?」
黒瀬さんが取り出して見せたのは俺が今日の朝に返したケースだ。
「キングの駒をどこにやったの?」
ようやく俺に答られる質問がやってきた。伝えそびれたことを今度こそしっかり謝るんだ。
一息つくと、頭を深く下げた。
「申し訳ない!! つい出来心で開けてしまった際に中に入っていた駒を失くしてしまったんだ!! 本当にごめん!!」
簡潔に経緯を説明しつつ、精一杯の謝罪の気持ちをのせて言った。
「なんで……」
頭を下げている俺には彼女の顔色は見えない。ゆえにその声音から推測するしかない。
なんで、の一言は呆然と呟いたのかのような何の感情もないように思える。
怒っているのか、悲しんでいるのかはわからない。そのどちらに揺れてもおかしくはない。
だから、続く言葉を待った。
「なんで」
ただひたすらに辛抱する。怒りの暴言か、悲しみの叫びを無意味に予想しながら。
「なんで……嘘をつくの?」
「え?」
わけがわからなかった。嘘? 嘘なんかついていない。
釈明しようとして顔を上げた俺は凍り付いた。
いつの間にか黒瀬さんは眼前にいて、見下ろしていた。俺よりも背が低いはずの彼女が嫌に大きく感じられた。
「ねえ答えて。どうして嘘をつくの」
黒瀬さんが返答をもとめている。そして、俺は必ず返事をしなければならない。
今となっては彼女が凶悪な肉食獣のように感じられる。いやそれは違う。俺が小物なだけだ。俺は彼女にとって矮小な存在に過ぎず、気分次第でいつでも踏みつぶせてしまえるちっぽけな虫に過ぎないのだ。
決して逆らってはいけない、ましてや絶対に機嫌を損ねてはならない。強迫観念に似た思いに襲われながら、質問の意図を探っていく。
昨日までの出来事と、今日の出来事を可能な限り思い出してみるも黒瀬さんの言う嘘に該当するものはない。
まぎれもなく真実そのままを口にしたはずである。
だからこそ俺は次の言葉にすべてを託した。
「嘘なんかついていない。全部本当のことだ」
「ならなんでそこにあるの?」
黒瀬さんが俺を指をさす。それは紛れもなく俺を指しているのだが、しかし思い当たる節がない。
それでも言われるがままに体をなぞり、ポケットをめくってみる。
「ない、けど……」
「まだとぼける。そっちがその気ならこちらにも考えがあるわ」
黒瀬さんは右手を前に突き出す。その行動に何の意味があるかわからず呆然としていると、次の瞬間、急に背中がむず痒くなる。
背中を掻こうにも一向に満たされるものはない。
その時俺は気づいた。表面ではなく中の肉がおかしいたのだと。そして、それは勢いよく飛び出した。
背中越しに見えたそれは翼だった。蝙蝠のように黒い翼。触った感触は生暖かく、なによりもその存在を俺の体は何の違和感もなく受け入れていた。触ると触られたという感触を感じるし、少し引っ張ると微かな痛みを覚える。
つまりは、この翼は間違いようもなく俺の体の一部ということだ。
バッ、今度はその音が目の前から聞こえてきた。
黒瀬さんもまた俺と同じように翼を生やしていた。
「なんだよこれ! お前俺に何をした!?」
「お互いの立場を分かりやすくしただけじゃない。何をそんなに怒っているの」
立場だと? 何を言っているんだこいつは? この翼は何なんだ? こんなの俺は知らないぞ!?
くそ。消えろ! 消えろ! 引っ張ってむしろうとすると翼がかき消えた。
消えてくれたのは嬉しいが理解の通じない現象に俺の頭は沸騰寸前だった。
だというのに黒瀬はなんの驚きもなく、さも当然の出来事のような顔をしている。
その顔が癇に障り俺は黒瀬に対し、初めて殺意に似た怒りを覚えた。
「やめとこうって思ったけど理由を聞かせてもらえないのならやっぱり聞くしかないか……。いい? これは最後の機会よ? 返答次第じゃ殺すから正直に答えて。あなたはいったい何者なの? どうやってキングの駒をその身に取り込んだの?」
淡々とした声が徐々に熱を帯びていき、言い切るころには明確な殺意が乗り始めていた。
殺す、それは誇張でも何でもないように聞こえた。だが、俺とて冷静ではいられずその言葉の真意を斟酌する余裕はない。
「だから、知らねえって言ってんだろ、そんなことより俺の質問に答えろ。これはなんだ? 俺に何をしたッ!?」
黒瀬は何も言わない。沈黙が訪れる。
視線だけが交わされながら時間が流れていく。
俺から退くつもりはない。根競べ上等。絶対に吐き出させてやる。
対する黒瀬が見せた行動は再び右手を突き出すことだった。
また、何かをするつもりのようだ。俺が身構えた刹那、何かが横を高速で通り過ぎていき爆音を鳴らした。
恐る恐る背後を振り向くと、教室の隅で煙が燻っていた。同時にそれまで頭に上っていた血が冷えて冷静になっていくのを感じた。
冷静になって先の出来事を思い返してみよう。俺の目の錯覚でなければそれは黒瀬の右手から放たれ、後方、教室の隅にあったゴミ箱へ衝突。爆竹のような音ともに炸裂した。
言葉にするとそんな感じだろうか。
ありえなかった。今の現象がわかったとしても理屈がわからない。何もかもが俺の理解を置いて勝手に常識を踏みにじっている。
専門家でも呼んで1から説明させたい。納得のいく説明を聞かせてほしい。どういった原理、法則でそうなかったのかを教えてほしい。
俺の知っている言葉で理解できるように。一から十まで。それぐらい意味が分からないし、安心できるものが欲しかった。
だが、目の前の存在がそんな甘えを許しはしない。
「次は当てるから」
淡々と告げられた言葉は本気だった。疑いようのないほどにその目と言葉は真実だけを如実に伝えてくる。
答えられなければ死ぬ。なんだそれは。答えられないだけで死ぬっていうのか?
あまりに暴虐的な理不尽。
なんて言えば納得する? 諦めてくれる? 許してもらえる? なんて言えばいい?
疑問が頭を巡る。1つ、また1つと現れて消えることもなく残り続けてそれだけが頭を支配する。
汗が止まらない。息が詰まりそうだった。喉の奥からはこみあげてくるものがあって吐きそうだった。
「ぁ……、ぇ……と」
なんか言わなければいけない。そう思って口に出してみても、声にならない吐息交じりの嗚咽が漏れるだけ。
黒瀬がゆっくりと右手を動かして俺に照準を合わせる。
「ヒッ……」
狙われている。いつでも打てるように。どんな手品かもわからない方法で俺を殺そうとしている。
死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。
その一言が迫ってきていた。すぐ目の前まで。
右も左もただそれだけが無秩序に並んでいる。どこを見てもごみのように当たり前のように転がっている。
死にたくない。原始的な生存欲求が、本能が死ぬなと叫んでいる。俺は生き残る方法を刹那の間に思考する。
そうして、導き出された結論は事態の解決ではなく現状からの逃避だった。
「わ、わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」
我ながら情けない悲鳴を上げつつ恥も外聞も、背負っていたリュックもかなぐり捨てて背中を向けて走り始めた。
逃げる先は当然、教室の扉。
幸いにも、扉までは精々数歩の距離しかなく、すぐさまたどり着くと扉を壊す勢いで開け放って廊下に躍り出る。
さらに奇跡的なことに一度も黒瀬の妨害を受けることなく無傷。
手足をばたつかせながら全力で走る。間違いなく人生最速だった。