ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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34話

 2週間が経過した。幸いなことにお嬢様のお兄さんの折檻はあれきりない。

 でも、お嬢様とは気まずい空気のままでどこかギクシャクしていた。

 

 それに勘づいた國坂からは、しつこく絡んできたがなんでもないと突っ撥ねた。あいつはお人好しだが、あれでドライな性格をしていて俺が助けてとはっきりと口に出さない限りは、何が何でも聞いてくるということはしない。

 

 というわけでちょっとモヤモヤする日を送っていたわけだが、今日は違う。

 何といっても今日はお嬢様のお兄さんとクライフさんのレーティングゲームの日だ。

 俺、お嬢様、宗方さんに御供さんと眷属全員で冥界に訪れていた。前回は突発的に連れてこられたけど今回は事前に相談の上でやってきていた。

 

 驚いたのは移動方法が列車だったことだ。宗方さん曰く正しい移動方法はこちらとのことで、むしろ転移で移動することのほうがよろしくなかったらしい。

 初回は必ず列車で訪問して正式に入国手続きを済ませる。以後は転移で移動してもよいようだ。

 

 バレたら怒られるどころの話ではないとのことだったので、内心ビクビクしていたがすんなりと手続きできたので一安心だった。

 

 そんなこんなで目的地まで何事もなく到着したのでチケットに書かれた指定席に腰を下ろす。

 開始予定の時間まではあと10分くらいか。まだ少し時間があったので気になっていたことを宗方さんに尋ねてみることにした。

 

「宗方さん、ちょっといいですか」

「ええ、私に答えられることでしたら」

「レーティングゲームってなんですか?」

 

 宗方さんがズッコケるような素振りをした。

「随分と今更な質問ですね」

「いやぁなんか聞く機会を逸してまして」

「わ、私も正直よくわかってないです……」

 

 おずおずと御供さんが手を挙げた。

「ふむ、思えばお二人には説明もしていませんでしたね。これは失敬」

「確かに我が王にはきちんと説明をできておりませんでした」

「では、私の方から説明でよろしいでしょうか黒瀬様」

「ええ、任せるわ」

「それでは僭越ながら」

 

 宗方さんは空咳を打つと説明を始めた。

「悪魔の駒がチェスを模した物というのはお二人とも既にご存じかと思います」

 俺と御供さんは揃って頷く。

 

「俺が王(キング)で」

「私が僧侶(ビショップ)ですよね」

「はい、その通りです。私も御供さん同様に僧侶(ビショップ)で黒瀬様は姫(クイーン)です」

 

 残りの駒は兵士(ポーン)、戦士(ルーク)、騎士(ナイト)だったか。

「さて、ここで1つ考えてみましょう。月深さん、チェスとはどういうものですか?」

「どういう、って元はボードゲームですよね? キング以外の駒を駆使して、相手のキングを討ち取れば勝利できるゲームです」

「その通りです。であれば、です。それを実際に現実に応用できるとは思いませんか?」

 

 ああ、なるほどようやくレーティングゲームの概要が呑み込めてきたぞ。

「つまり、チェスを実際に自分たちに当てはめてゲームとして成立させたのがレーティングゲームなんですね」

「はい、レーティングゲームはチェスのように眷属の主、王を討ち取るゲームという訳です」

「な、なるほど」

 

 御供さんも得心がいったようで仕切りに頷いている。

 そうこうしているとゲームが開始されようとしていた。

 

「そろそろ始まりそうですね」

 現在、俺たちがいる会場はコロッセオのような円形をしている。

 円の外側には観客席が、中央には映画館のスクリーンを何倍にもしたかのような巨大な映像が投影されていた。

 

「あの、選手? の皆さんはどこにいるのですか?」

 御供さんが問うとお嬢様が質問に答えた。

 

「異空間に専用の闘技場があるのです。悪魔が全力で力を振るうことになるので冥界で行うとどのような影響があるかわかりませんから」

「そうなんですね……」

 

 てっきり中央付近でドンパチするのかなと思っていたのでちょっと肩透かしだ。

 ここではないどこかで、お嬢様のお兄さんとその眷属。クライフさんとその眷属が整列していた。その中には船堀さんがいた。我知らず心の中でエールを送った。

 

 互いに正々堂々と戦う旨を告げて、所定の位置に転移された。

 戦場となる場所は樹木が林立していた。まるでアマゾンのようだ。それに結構広い。端から端まで何kmあるんだろうか。

 

「ふぅむ今回は短期戦(ブリッツ)となりそうですね」

「短期戦?」

「文字通り短い制限時間付きのルールです。限られた時間内に王を討てるかどうかこれは白熱した戦いになりそうですね」

「ふぅん」

 

 程なくして戦いが始まった。果たしてどのようなスタートになるかワクワクしながら見守っていた俺は唖然とした。

 何故ならお兄さんの眷属の船堀さんが単身で敵陣地に侵入を始めたからだ。それ以外の眷属は自陣から一切動いていない。

 

 その行動の狙いが読めず困惑していた。

「あれって、よくあることなんですか?」

「犠牲(サクリファイス)ですね。彼女を威力偵察代わりにしようとしているのでしょう」

「それってつまり捨て石ってことじゃないですかっ!」

 

 悪辣だとは思っていたがまさか彼女をああも雑に扱うとは。

「れっきとした戦術の1つですよ。とはいえことを急ぎすぎな気もしますが」

 手出しもできないのでただ見守るほかない。

 

 互いの陣地の中央地点を過ぎたあたりで敵陣地から2人が飛び出した。

「そういえば各駒の特徴をお伝えするのを忘れていましたね」

「え、特徴?」

 

 御供さんが聞き返す。

「はい。悪魔の駒を使用して眷属になった者には駒ごとにある特性が付与されます」

 宗方さんは見てください、とスクリーンを指さす。

 

 映像を注視すると敵陣地から出陣した2人は船堀さんと会敵していた。

 内1人が目にもとまらぬスピードで走り出した。

 は、早い。とても目で追いきれない。

 

「あれこそが騎士の特性です。騎士になった者には俊足とでも言うべきスピードが与えられます」

 船堀さんもなんとか捕捉しようとしているが、右往左往するばかりで対応できていない。

 

 自身を翻弄する騎士を狙うのを止めたのか、船堀さんはもう一方の敵を狙うことにしたようだ。

「彼女はどうやら僧侶のようですね。僧侶の特徴は魔力の操作に長けることです。見てください魔力を使いますよ」

 

 船堀さんは手を突き出して魔力をかき集めると大砲のように打ち出した。

 何気ない動作だったが出力された魔力の弾は想像以上に大きい。映像越しではあるが相当の威力があることが伺えた。

 

 敵は避けない。直撃するぞ!?

 ドカンとすぐ近くで花火でも炸裂したかのような爆音が轟いた。

 これはただではすむまい。煙が晴れると、なんと魔力の弾をまともに受けたであろう敵が直立していた。

 

 腕を顔の前でクロスさせている。急所だけを守って耐え抜いたらしい。

 衣服は避けて細かい傷は覗かせているがダメージと呼ぶには程遠いように思えた。

 

「いったいどうして?」

 俺の当惑の声を宗方さんが拾った。

 

「あの方はどうやら戦士のようです。戦士の特徴は頑強な防御力と比類なき攻撃力です」

 どうやら戦士は攻防に優れるという特徴があるようだ。あの魔力を受けてほとんど無傷とはつくづく恐ろしい。少なくとも今の俺にはあの防御力を突破する術はない。

 

 グッと拳を握り締めた。これがレーティングゲーム。ただ一度のやり取りで俺よりも数段上の強さを持っていることを痛感させられた。

 見るだけでも大いに得られるものがありそうだ。浮ついた心はもうなく、ただ貪欲な飢えにも似た向上心に駆り立てられて一挙手一投足を見逃すまいとした。

 

「あ……」

 騎士の攻撃が船堀さんを掠める。体勢を崩した船堀さんを戦士の追撃が襲った。

 諸に攻撃を受けた船堀さんは大きく吹き飛ばされた。林の中を勢いのままに飛ばされカメラの範囲外と出た。

 

「ふむ。リタイアの放送が無いということは戦闘不能になるほどの負傷はないようです。しかしあれでは戦線復帰は厳しいでしょう」

「リタイアってなんです?」

「ある程度のダメージを負うとそれ以上は戦闘困難だとして強制的に離脱させられるのですよ」

「安全のためにというわけですね。よくできている」

 

 リタイアの報せが無いということは単に気絶しているということだろうか。あまり無理はしてほしくないものだ。

「どうやら向こうは大きく動きそうですね」

 

 宗方さんの言う通りクライフさん陣営は先の勝利で調子づいたのか一気に数人が戦線に投入された。

 無論、全員が団子状態になって突撃ではなく、いくつかのルートに分かれての侵攻だ。

 

「そうだ、宗方さん。戦士や騎士、僧侶の特性は聞きましたがそれ以外の姫や兵士はどうなんです?」

「姫は先にお伝えした騎士、僧侶、戦士の特徴を併せ持っています」

「マジっすか。チートじゃないですか」

「はは、そうですね。確かに強力です。だからこそ投入するタイミングは間違えられません。何しろ姫は1人しかいませんから」

 

 協力だからこそ使いどころが重要ってわけか。

「そして、兵士ですが。兵士には通常特性はありません」

「それって他の駒と比べてかなりのハンデになりません?」

「ええ、ですがその分兵士が一番数を揃えられますし、何よりも兵士にはプロモーションというものがあります」

「プロポーション?」

「ややこしいですがプロモーションです」

 

 宗方さんが苦笑した。

「プロモーションは兵士だけに許されたもので敵陣地まで一定以上接近すると姫、騎士、僧侶、戦士のいずれかの特性を得ることができます」

「姫にもですか!?」

「はい。条件付きではありますが状況によっては最弱と言われる兵士にすら王を討ち取ることもありましょう」

「レーティングゲームって単純そうに見えて奥が深いんだな」

 

 大きな歓声が沸き上がった。

 少し目を離しているうちに戦場は様変わりしていた。

 あちこちで散発的に戦闘が発生しているようでお互いに魔力を打ちあっている。

 派手な音と色が戦場を埋め尽くしている。

 

「すっげぇ」

 見たこともない光景に俺は目を奪われた。

「通常、レーティングゲームは中長期的に進めていくものです。ですが今回は短期戦という制限がついていますから戦況の移り変わりも早いようですね」

 

 宗方さんの冷静の分析を聞くことでよりゲームの理解が深まっていく。付いて来てもらって大正解だ。

 ものの数十分でお互いの駒は見るからに減った。

 

 一進一退の攻防でどちらが勝かは読めないが主観でいうならクライフさんが優勢のように見える。

 それでもどちらが勝ってもおかしくない状況。これは目が離せそうにない。

 が、均衡は思ってもよらない人物によって傾いた。

 

 クライフさんの眷属が今まさにお兄さんに迫らんとした時のことだ。どこからともなく飛んできた巨大な魔力の弾によってクライフさんの眷属が吹き飛んだ。

「なんだ!?」

 

 カメラの範囲外からゆっくりと歩みを進めてそれは映し出された。

「船堀さん……?」

 先の攻撃は船堀さんによるものらしい。どうやらいつの間にか持ち直して復帰したらしい。

 

 まだ戦えることには驚いたが、けど戻ってきたことは素直に喜ばしい。

 なのに、どうして俺の心はこんなにもざわついているのだろか。

 幽鬼のごとくふらりと歩む船堀さん。先の負傷をまだ引き摺っている? だけど漲る魔力はとても負傷者のものとは思えない。

 

「彼女、力を隠していたのでしょうか」

 俺が抱いていた感想を宗方さんもまた感じていたようでぼそりと漏らした。

 

「相手の油断を誘うために出し惜しみをしていた、とか?」

「考えられなくもないですが、腑に落ちませんね」

 

 宗方さんの目には船堀さんがどう映っているのか問いただしてみたいところだがゲームの行方がそうさせてくれなかった。

 船堀さんに新たな敵が迫る。

 

 戦士と思わしき悪魔と、僧侶っぽい悪魔が連携して襲い掛かる。

 危ない! と思ったの束の間、無造作に翳した手から先とは比にならないほどの魔力が放出された。

 高速で射出されたそれは瞬く間に敵へ距離を詰めるとそのまま戦士と僧侶を吞み込んでしまった。

 

「クライフ様の戦士一名及び僧侶一名、リタイア」

 無機質なリタイア報告が船堀さんの勝利を宣言する。

 俺は愕然とした。

 

「強すぎる……!」

 まさかあっという間に二人をリタイアさせるなんて。

 しかし、衝撃はそれだけに留まらない。船堀さんが手を掲げる。

 その手に魔力が集中し凝縮されていく。

 

 一体何を。これから起こることの予想がつかず、固唾をのんで見ていると船堀さんが動いた。

 掌に作られた極大の魔力。身の丈を上回るほどのそれをある一点に向けた。

 その視線の先にはクライフさんがいる敵陣地だ。

 

「まさか……」

 ありえない、何kmあると思っているのか。無茶、無謀そんな言葉が脳をよぎる。

 そして船堀さんはありえないと思ったことを行動に移した。

 魔力の弾が放たれる。銃弾のような速度で戦場を横切り、射出方向にある障害物に当たって尚その速度は鈍らず、腰を上げかけたクライフさんに直撃した。

 

 

 

 レーティングゲームは終了した。まさかの船堀さんの活躍によって。

 初見ではあったが中盤までは普通のゲームだった。どちらが勝利してもおかしくない戦況。でも、突如として戦線に復帰した船堀さんがたったの1人で戦況をひっくり返してしまった。

 

 観客のだれもが呆然としていた。皆きっと同じ気持ちだったに違いない。

 それくらい圧倒的な力をまざまざと見せつけられた。ゲームが終わったのに一人として帰らない。俺たちもそうだ。さっきの結果をどう受け止めたらいいのかわからなかった。

 俺は船堀さんと話をしたいと無性に思った。

 

「すみません、俺ちょっと行ってきます」

 何処へとも何の用とも伝えずに立ち上がって駆け出した。背後からお嬢様の声がしたが俺を止めることはできなかった。

 

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