ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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40話

 その発言に俺は耳を疑った。

 ニーナは確かにはぐれ悪魔のところに行くといった。が、ニーナがどうして居場所を知っている。

 

 俺と出会ってからしていたことなんでそこらへんを遊びまわることぐらい。

 とても捜索なんて真面目にやっていなかったというのに。

 その内心の疑問を汲み取ったニーナが言う。

 

「いったいどうやって、って顔だね」

「そりゃまぁ、真面目に捜索していたとは思えなかったので……」

「あはは、正直だねぇ。ま、仮にもお姉様の妹ですし隠れ潜んでいる敵を見つけ出すくらいなんてどうってことないって」

「しかし、どうやって?」

「気になる? でも単純だよ。街のあちこちに使い魔を放って情報を収集していただけの物量作戦だからね」

 

 簡単そうに言うが使い魔からリアルタイムで送られてくる情報を一人で処理していたということだ。

 相当に神経を削る作業だったろうに、そんなことをおくびにも出さず遊びまわっていたということになる。

 一見おちゃらけている風に思えても、その実力は折り紙付き。流石はお嬢様の妹といったところか。

 

「既にニーナ様の方で見つけてくださっていたことにはお礼申し上げます。ですが、発見しているのならもったいぶらないで教えてくださいよ」

「簡単に教えちゃつまんないでしょ~」

 一切悪びれる様子のないニーナだった。

 

「ほい、んじゃ行きますか」

 彼女が手を差し出す。

 それが何を指すのかはお嬢様との付き合いでもうわかっている。

 

「すみません、お願いします」

「おけ、跳ぶぜ☆」

 その声を合図にして景色が様変わりした。一面緑の中にポツンと残されたあれは……。

 

「ここは……工場、か?」

「そうみたいだね。街の外れにある今はもう使われていない廃工場。どうやらここにはぐれ悪魔はいるらしい。数は不明。中にいることはわかるけどどこにいるかもわからない。偶発的な先頭も予想されるけど戦う準備はできてる?」

 

 そうだこれから俺は戦わなければいけない。

 瞬間、俺は船堀さんのことを思い出しかぶりを振った。

 あの時とは状況が違う。正式に大公から討伐依頼が来ているのだ。俺がしっかりしなくてどうする。

 

「はい。いつでも行けます」

「わお、たのもっし~。じゃ、戦い始まったらよろしくね」

「任せてください」

 

 俺が先頭になって廃工場の中へと踏み入る。まだ日中だというのに薄暗い。

 カーテンかシャッターかを全て締め切っているようだ。

 それでも明かりが僅かに差し込んでいるのは老朽化して穴が空いているせいだろう。

 

 とはいえ、これくらいなら悪魔の視力なら余裕で奥まで見渡せる。

 しかし、それは向こうも同じこと。あちらは俺たちがきたことに気付いていないが、俺たちは向こうがここにいることを知っている。このアドバンテージは絶対に無駄にしない。

 

 慎重に物音を立てないように注意深く観察しながら歩を進める。

 いつ敵が俺たちに気付いて襲ってきてもおかしくない。その考えは奥へ進むごとに強まっていく。

 

 緊張で心拍数が跳ね上げる。落ち着け、俺。必死に宥めながらそれでも前へと進む。

 程なくすると大きな空間に行き当たった。どうやらメインで作業を行う場所のようでよくわからない機器が所狭しと並んでいた。

 

 どれも俺の身長より高く視界を妨げている。

 と、不意に音がして俺は慌てて伏せる。同時に後ろに続いていたニーナに合図して伏せるように伝える。

 ニーナは頷くと大人しく身を屈めた。

 

「~で~~だったな」

「うん~なんだけど」

 声は遠くすべてを聞き取るのは難しそうだ。だけど、そこに誰かがいるのは確実。

 

 問題は相手がはぐれ悪魔なのかどうなのか。こんな辺鄙なところだから可能性は低いだろうけど一般人である可能性もないわけではない。

 間違っても無辜の民を攻撃してしまわないように注意しなければ。

 

 慎重に様子を窺っているとニーナが俺の腕をツンツンと突いてきた。

 それから口元に指をあてる。そのジェスチャーはシーと喋らないように伝えてきた。

 と、その時不思議なことが起きた。

 

『聞こえる?』

 それは耳から聞こえたわけじゃなかった。脳内に直接響いてきた。

 びっくりしてニーナをマジマジと見つめる。

 

『その調子なら聞こえているかな? 試しに返事をしてみて。勿論発声するんじゃなくて私に届くように念じながら心の中で、ね』

 頷き、俺は脳内でニーナを意識しながら伝えてみる。

 

『聞こえて、ますか?』

『うん、バッチリ。初めてにしてはやるじゃん』

『これはテレパスってやつですか?』

『そーそー。こーいう喋られない時とかは便利よ。ま、テレパスを使える人が最低1人はいないとできない芸当だけど』

 

 ニーナは壁となっている機器の向こう側を見透かすかのように視線を向ける。

『それで君が気になっているのはこの向こう側の人達が本当にはぐれ悪魔なのかってことでしょ』

 俺は首を縦に振った。

 

『さっきも言ったけどここにはぐれ悪魔がいるのは確実。んでこの向こうにいるのは魔力の痕跡からして間違いなくはぐれ悪魔しかいないね』

 魔力の痕跡。彼女はそれを辿ることで相手がはぐれ悪魔であることをとっくに見抜いていたらしい。

 

『じゃあ遠慮なく叩けるということですね』

『そーゆーこと。相手は2人ね。じゃ、頑張って』

『一緒には戦ってくれないんですね……』

『当ったり前じゃん。そーゆー泥臭いのは下僕君の役目だよ~。ほらほら頑張れ頑張れ☆』

 

 その場に留まるつもる気満々のニーナに内心で嘆息する。

 まぁ、なんとなくわかってたけどな。

 1人でもやるっきゃない。ここでお嬢様の顔に泥を塗るわけにはいかないのだから。

 

 即座に意識を切り替えて、俺は神器を呼び出す。

 相も変わらずのくすんだ黒色の籠手を、頼むぞと左手で軽く叩く。

 相手はまだ俺に気付いていない。それはつまり奇襲を仕掛けられるということ。

 

 このアドバンテージはでかい。とはいえ、ニーナを頼りにできないので数の上ではこちらが不利。

 確実に一回で最低でも1人は仕留めないといけない。全ては初撃に懸かっている。

 

 ようし、行くぞ。深呼吸をすると意を決して飛び出した。

 よくわからない機器を踏み台にして高く跳びあがる。見えた。敵だ!

 落下する勢いをも乗せてすぐ近くにいた敵に狙いを定めて拳を振り下ろす。

 

 まもなくその拳が届く、その瞬間に敵は顔を上げると須臾の間に身を翻すとギリギリで躱してみせた。

 嘘だろっ!? 完璧なタイミングはずだったのに外した。一体どうやって気付いたんだ……。

 

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。攻撃を外したことで懸念していた数的不利を覆すことができず1対2だ。

 状況もまた最悪。狙っていた相手が距離を取ってしまい俺は敵2人の間に挟まれている状況だ。

 

 状況は絶体絶命。ともあれ泣き言は言っていられない。たとえ倒せなくてもなんとか活路を見出して脱出するんだ。

 俺は立ち上がって敵を見据える。この時俺は初めてその全身を目に捉えた。

 

 ……。……白いローブ?

 眼前の相手はなんと白いローブを身に纏っていた。そして、それを俺はつい先日目にしていた。

 

「ハッ、ようやく網にかかったかよ、クソ悪魔が」

 敵が啖呵を切るが俺はその罵倒に耳を傾ける余裕がなかった。

 白ローブのこいつらが何故ここにいる? ここで何をしていた? 敵は二人組ならあの時の?

 敵に囲まれているというのに、疑問が止め止めなく湧いて来て仕方ない。

 

「いくぞ■■!」

「おっけ!」

 敵が2人同時に走り出す。その手には光の刃を握っている。

 

 先日、聖剣で殴られたことを思い出す。切りつけられたわけでもなくただ殴られただけであの衝撃。

 切られれば俺は苦痛の後に消滅する。

 

 それがわかっていながら、未だ思考が鈍くその体は思うように反応しない。

 だが敵意を敏感に感じ取った体が反射的に動いた。

 上半身を捻って刃が描く軌跡から逃れるとそのまま床を転がっていく。

 

 チリと腕に痛みが走る。どうやら掠ったらしい。けど我慢のできる範囲。

 素早く立ち上がって後ろに跳び退る。

 大きく距離を取ると同時に挟まれる状況から脱する。

 

 しかし、状況は何一つ好転していない。剣を構えて敵対する白ローブの2人。彼らの攻撃を掻い潜ってなんとか逃げなければいけないのだから。

 最早俺の中に倒すという選択肢はない。何故ならあいつらには俺を殺す明確な手段を持ち得ながら俺にはないからだ。

 

 未だ神器の扱いすら覚束ない俺には彼らを打倒する方法はない。だから選択肢は逃亡一択。

 なんとか隙を作らないと。自身も戦う構えをしながらも相手の出方を窺う。

 じりじりと距離を少しずつ詰めてくる2人に、俺は同じ分だけ後退するがそれにも限界はある。俺の背後には出入り口はなく壁しかない。

 

 つまり逃げるには目の前のこいつらを突破する必要がある。

 そのタイミングを計りたいところなのだがどうにもその隙を見出せない。一か八か吶喊するか?

 その覚悟を8割がた固めようとしていた時のことだった。

 

 耳がつんざくような爆発音。次いで衝撃が俺を襲った。何が、などと思う暇もない。

 とにかく突然の連続だった。

 濛々と舞い上がる埃。視界の悪い状況は逃げるにうってつけなのだが、驚きに硬直した頭と体は反応できなかった。

 

 そして、どこからか声がした。鋭く張りつめたような口調だ。

「随分な状況だが、これは一体どういうことだ?」

 舞い上がった埃が晴れるとそこには新たに2人の姿があった。一人は男、もう一人は女。それからどちらもラフな格好をしており、白ローブを着ているわけでもない。認識疎外の術を使っている様子はなく顔までバッチリ見える。

 

 女の方と目が合った。一瞥しただけで、次にあらぬ方向を見た。

 俺も同様に視線を向けるとそこには無傷の白ローブの2人がいた。

 

「エクソシストか」

 即座に看破すると女は俺にもわかるほどに敵意を剥き出しにした。

 全方位に放たれるプレッシャー。途端に俺の足は震えたが、白ローブらは動じた様子もない。

 

「だったら?」

「殺す」

「ほざいてろクソ悪魔が」

 女が飛び出した。

 

 早い! 大した助走もなかったのに瞬く間に目で追いきれないほどのスピードになった。

 素早く攻防が始まった。女は徒手空拳。白ローブは聖剣。どちらが有利ではあるかは一目瞭然だが女の実力は相当なものらしく戦いは驚くべきことに拮抗しているようだ。

 

 空気を切り裂く音ともに繰り出される拳と足。それを剣で打ち払いながらも果敢に切り込んでいくその様は俺なんか及びもつかないほどレベルが高く見惚れるほどだった。

 

 と、有効打を与えられないことに痺れを切らしたか白ローブが大振りな一撃を繰り出した。当たれば身体を真っ二つにせんばかりの凄まじい一閃だったがそれを見越していたか、恩んは半身になってよけると懐に潜り込み、強烈な攻撃を相手の鳩尾にお見舞いした。

 

 吹き飛ぶ白ローブ。それを相方の白ローブが受け止めた。

「離せ、まだやれる」

「駄目。撤退するよ」

「うるさい、俺はやれる!」

「落ち着きなよ、また機会はくるよ」

「これが落ち着いていられるかっ! こんなやつらが街に蔓延っているんだぞ!」

「ふん、俺らは虫かよ」

 女が言う。

 

「ああ、そうさお前らは虫だ。いや、虫以下の屑だ」

 そのお前らの中には当然俺も入っているんだろう。

 白ローブのギラつくような視線がそれを無情にも教えてくれる。

 

「害虫は確実に殺さないとな」

 聖剣を手に白ローブが一歩踏み出す。諸に攻撃が入ったはずなのに些かも戦意に衰えがない。

 

 第2ラウンドが始まるかと思えたが、相方が再び引き留めた。

「いいから、逃げるよ」

 直後、光が迸った。とても目を開けていられない。

 

「お前、何を!?」「状況分からない? どう見ても不利なんだけど?」「うるさい、俺は」「あーはいはい、行くよー」

 言い争いをする声が徐々に遠くなっていく。

 

 視界が回復したころにはもう白ローブの2人はいなかった。どうやら逃げたらしい。

 殺意全開だった剣使いを相方がどうにか御したようだ。助かった。

 なんて言えないよな。

 

 エクソシストがいなくなった。なら新しく現れた2人組はどうするか?

 当然、今度は俺に意識を向けるよな。

 俺に向き直る2人組。今のところ敵意はない。即戦闘にはならなさそうだ。

 

「お前、悪魔だな?」

 女がそう質問してきた。

 

「ええ、そういうあなた達も?」

「まぁな」

 今度は男の方が答えた。

 

「そうですか、どこの方とは存じませんが助けていただいてありがとうございます。本当にたす――」

「だがただの悪魔じゃねぇ」

 男が遮るように言った。

 

「と、いいますと?」

「なんて言ったって俺たち泣く子も黙るはぐれ悪魔だからな」

 突然、俺の目の前が真っ暗になった。

 

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