ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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43話

 今日のところはゆっくり休んでくれとだけ倉前さんは伝えるとその場を後にした。

 この場にいたその他のメンバーもそれに続いて外へと出ていく。

 残されたのは古河さんと小山内さん、それに佐々木さんだ。

 

 久場さんも残ったが早々にリビングを出て別室へ向かった。

 かくして今日は休むことになったのだがさて、どうしたものか。

 本当ならさっきの顔見知りの人物と色々とお話ししたいところだが入って早々に怪しい真似をするわけにもいかない。初日の接触は止めるべきだろう。

 

 そういえばおなか減ってきたな。ひとまずの窮地を切り抜けてようやく空腹を認識したようだ。

 買出しにでも行ってこようか。でも許可なく離れられないしなと考えていると古河が話しかけてきた。

 

「腹減ってないか?」

「は、はい。少し」

「ここ、来たばかりでなんもわかんないだろ。俺が作ってやるから座ってな。それと敬語使わなくいいから」

 

 古河は返事も待たずキッチンへと消えた。

 ご相伴に預かれるというのなら有難くそうさせてもらおう。

 何か手伝おうかとも思ったが古河の言う通り、何があるともわからないのでテーブルに座って待つことにした。

 

「牧子ちゃん、私も手伝おっか~?」

「大丈夫です、姐さん。何度も言ってますけど牧子ちゃんはやめてください」

 

 小山内さんはクスリと笑うとノートを取り出し何やら書き始めた。

 集中する小山内さんとは別に先ほどまでスマホを弄っていた佐々木は顔を上げてキッチンの方を見た。

 

「今日の当番は古河か。当たりだな月深」

 佐々木がそう言った。

 

「当たり? 外れもあるんですか?」

「おうよ、朝昼夕の食事は当番制で古河と姐さん、それと横井や遠野といった面々なんだがその中でもずば抜けて料理が上手いんだわ」

「へぇ」

「そうそう、お前にも清掃なり料理なりの当番が回されるからな、何が楽そうか今のうちに見極めておけよ?」

「本当に共同生活をしているんだな」

 

 互いの利益のみを求めた間柄ではなく目的を共にする共同体ということになる。

 宗方さんやお嬢様の話ではもっと凶悪なやつらの集まりとしか認識していなかったから軽くショックを受けている。

 どんなに取り繕うとも所詮はテロリストに過ぎない。

 

 心を鬼にしてはぐれ悪魔の排除に努めよう。

 しばらく佐々木さんと他愛ない話をしていると古河が料理を運んできた。

 和食メインの献立でとても美味しかったと記しておこう。

 

 

 

 同日。ルーナ・クロセルの屋敷では険悪なムードで二人の女性が対峙していた。

「ごめんなさい、もう一度言ってもらえるかしら?」

 胸の内に沸いた怒りを抑え込みながら私は、ルーナ・クロセルは問う。

 対して眼前のニーナ・クロセルは飄々とした態度を崩さず淡々と答えた。

 

「だーから。お姉様の下僕君がはぐれ悪魔に誘拐されちったんだって☆」

「……何故そのようなことに?」

「私が張った網にさはぐれ悪魔が引っかかってさ。んで、向かったはいいんだけどそこに、なななーんとエクソシストもいてさ~。もーてんやわんやだったの」

「貴女はそれでどうしたのですか?」

「どうって、別に何も?」

「何も? ただ見ていたということですか?」

「そうだよ~」

 

 どこまでものほほんとしたニーナ。怒りに理性という名の蓋を以って塞ごうとするにも限度があった。

「もう、さっきからなんなのさ。たかだか下僕が1人消えてくらいでさー」

「たかだか1人……?」

 

 その1人の重みがどれほどかけがえのないものなのか、ニーナは全然わかっていない。

 これ以上は話しても無駄だ。そう判断し、会話を勝手に打ち切ると外に向かおうとする。

 

「どこにいくの~?」

 背後からのんびりとした声が聞こえた。

 当然付き合う気などなく無視して歩を進める。

 

「下僕君のところに行くんだ?」

 取り合わない。兎に角早く我が王の下に向かわないと行かないといけないのだから。

 

「あーあ。どうしよっかなぁ。お爺様にお姉様が月深結真の下僕になったこと伝えちゃおうかな~」

 我が王の下へ一刻も早く急行しないといけない足がピタリと止まった。

 

「今、なんと?」

「ん? あれあれ~。もしかして、もしかしなくてもマジ? 本気って書いてマジって読んじゃうやつ?」

 ギリッと私は歯噛みした。ただのカマかけにハマってしまったことに気付いたからだ。

 

「アハハ。何それ面白すぎでしょ。ちょーウケるんですけど」

 何がそんなに面白いのか愉しそうに笑うニーナ。

 ……殺すか?

 真剣に検討してみる。ニーナには勘づかれたが大公はまだ我が王との関係は露見していない。

 

 今ここで消してしまえば時間が稼げる。

 無論ニーナが失踪すれば大公は怪しむだろう。でも、幸いなことにこの街にははぐれ悪魔がいる。

 

 上手いことやつらの所為にしてしまえれば楽に済むだろう。

 よし、殺そう。殺気を極限まで抑えながらニーナに近づき、そして来訪者を告げるベルが鳴った。

 

 誰が――もしかして我が王?

 僅かな期待が油断を生む。ニーナが背後に忍び寄り、そして脇を抜けた。

 遅れて私も彼女が後を追うが届かない。

 ニーナが玄関に向かい、そして訪問客を受け入れた。

 

「こんにちは。何か御用かにゃ? エクソシスト御一行様」

 訪ねてきたのは白ローブに身を包んだエクソシスト2人だった。

 

 ニーナが受けてしまった以上、通さないという訳にはいかない。

 天敵たるエクソシストとと言えども駒王協定がある以上は敵対することもできないのだから。客として対応するほかない。

 ニーナの目もあったため渋々と応接室に案内する。当のニーナも同席するといって譲らないので仕方なく許した。

 

「突然の訪問でしたのでお茶はご用意できません。ご了承ください」

「無用だ。悪魔が出す茶など落ち着いて飲めないからな」

 

 顔はわからず、全身を覆うローブで体のラインは見えない。おまけに認識疎外の術を使っているため尚特徴が掴めないが声音からなんとか男性だとわかった。

 それにしても、私も遠回りに攻撃しているとはいえ相手も随分な返答である。

 友好的な姿勢はなく一気に雰囲気が険悪となった。まぁこちらとしても仲良くするつもりはないのでお互い様か。

 

「随分な物言いね。下等な人間さん」

「事実だからな」

 

 まったく悪びれる様子もなく肩をすくめてみせた。

 わざわざ面会の打診をしておいて客人としての振る舞いもなく不遜な物言いをする様子は一周回って賞賛したいくらいだ。

 

「それでご用件は?」

「端的に言えば今回の件から引いてもらいたい」

「というと?」

「はぐれ悪魔がこの街に集まっていることは知っているだろう? それを追うのを止めろ」

 

 いきなりお願いから命令に変わったことに私は苛立ちを覚えたが僅かに眉を動かすに留め、先を促した。

「何故かしら?」

「あんたには関係ないことだ。とにかく関わるな、そうすればお前たちには手を出さない」

「言うに事欠いて、私の領地で起きていることに対して関わるなだと? せめて納得できる理由があるならまだしも……到底承諾できないわ」

 

 淡々とあちらの都合を押し付けてくるというのがあまりに失礼すぎる。

 この横暴を見逃すつもりもない。

 

「そうか? これは一応警告のつもりなんだがな。それを受け入れないというのであればどうなってもいいんだな?」

「それはこちらの話です。とにかくそちらの提案は乗れない。また、今回の件について正式にヴァチカンに対して抗議させていただくわ」

 

 駒王協定が結ばれて半年。こうもあからさまに反するような行為をしてくるものが出てくるとは思わなかったが、これは明らかな協定違反。

 

 脅しのようではあるが彼らのような正規のエクソシストならこれ以上ないほどに刺さるはず。

 そう思っていたのだが返ってきた言葉は私の予想を超えるものだった。

 

「時にあなたにはつい最近眷属にされた転生悪魔がいるようだな」

「……それが?」

「いや、なに、最近悪魔になられたばかりということでこちらのデータバンクも更新されていなかったなと思いましてね」

「……」

 ーーこいつは。

 

「どんな名前だったかな。ああ、そうそう」

「……」

「御供結乃って言ったかな」

 最初に覚えたのは意外にも怒りではなかった。

 

 過ごしやすい気温に整えているはずの室内に置いて気温が一度下がったようなそんな感覚に今、襲われていた。

 喉が急速に乾き、指先が微かに震える。この感情は、そう、恐怖だった。

 

「どうかされたかな、悪魔の姫様?」

 嫌味たらしく放たれた言葉も今は届かない。頭に入ってこなかった。

 

 どうして、どうやってその名前を知った?

 何かミスをしたのか? だが思い当たることはない。私は思考の坩堝にハマって抜け出せずにいた。

 

「さて、いうべきとは言ったしここらでお暇させてもらおうか。どうか建設的な判断を頼むよ」

 すくと立ち上がりその場を後にしようとする。

 その背に向かってたった1つ頭に浮かんだ質問を投げかける。

 

「月深結真という……名前を知っているかしら?」

 2人は足を止め、僅かな沈黙の後にいった。

「いや、そんな人間は知らないな」

 振り返りもせずそのまま出ていった。

 

 私は初めて、人間に心から屈した。

 

 

 使い魔から2人が屋敷を出たとの報告を聞いて安堵の息を吐いた。

 念のためトラップサーチを仕掛けたが特に反応はなかった。

 

「いやー、面白いことになったねぇ」

 どこまでもニーナは愉しそうだ。

 

 意外だったのはニーナは色々と掻き乱してくるかと思ったが茶々を入れてくるような真似はしなかったことだ。

 てっきり口を挟んでくるかと思っていたがずっとだんまりを貫き通していた。

 

「ところでさ、御供結乃ってなに?」

 エクソシストが漏らしたその名前はニーナにとっては知らぬものだ。当然聞いてくる。

 いくら誤魔化そうとも知ったからには隠すことはできない。正直に打ち明けることにした。

 

「下僕です」

「ふぅん、それってどっちの? …………はぁ、だんまりか。ま、いいけど」

「……どこに?」

 どこかへ行こうとするニーナを呼び止める。

 

「どこって大公様のところ。今回の件を伝えに行くんだけどついてくる?」

 大公のところに。緊張で心臓が早鐘を打つ。

 ここで殺すべきか?

 先ほどまでとはまた少し状況が変わってしまった。ニーナを殺してしまっていいのか判断に迷うところだ。

 

「安心しなよ。伝えるのはエクソシストのことだけ。それ以外はなんにも言わないから、さ」

 果たしてその言葉を信じていいのだろうか。

 確実性を考えたら間違いなく殺害一択だ。でも、と思う。

 

 どんなに正しくてもリスクは生じるもの。その時はきっと巡ってくる。

 まだ泳がせても問題はないはず。

 

「そう」

「そーんな心配そうな顔をしないでよ~。妹のことを信じられないなんて酷いお姉様。私、傷ついちゃうぞ☆」

 ひらひらと手を振ると転移魔法陣を使って跳んでいった。

 宣言通り大公の下に向かったのだろう。

 完全に魔力の痕跡が消えたことを確認してソファに深く腰を掛けて背を預ける。

 

「私はいったいどうしてしまったんだろう」

 あの時エクソシストから脅しを受けて私は怒りではなく恐怖を感じた。

 以前の自分ならば怒り狂うところで明確に何かを恐れたのだ。

 

 引き合いに出されたのは御供結乃だった。我が王が大事にするビショップで元は人間の転生悪魔。

 言外に殺すと言われ恐れた。私は彼女が失われることを恐れたのだろうか。

 少し考えてそれは違うと思った。

 

 正直なところ御供結乃のことは好きでも嫌いでもない。利ではなく不利をもたらす存在であるし負い目こそあるものの失われたとしてもあまり気にはならない。

 ならばどうして恐れたのだろう。

 わからない。考えども分からない。いくら思考を回そうとも結論を導き出せない。

 

「これ以上は無駄ね……」

 切り替えよう。今はそれどころではない。

 本当に考えなければいけないのはエクソシストの存在、それと我が王の行方である。

 

 彼らが今回訪問したことで何がしたかったのか、あるいはしようとしているのか。その狙いはわからなかったがともかく彼らは動こうとしている。それもヴァチカンの意向を無視してだ。

 

 単独によるものなのかそれとも組織ぐるみなのか。わからないが私というよりクロセルを遠ざけようというのだからただ事ではない。

 最早この際はぐれ悪魔はエクソシストらに討伐させればいいのではないか、そんな気もしてくる。

 

 領主でありながらと自分でも思うが我が王さえ無事であるならこの際何でもいい。

 実際、御供結乃の名前を出しても月深結真については何も知らない様子だった。少なくとも狙われているということはないだろう。

 

 エクソシストにはまだ。

 目下の懸念はやはりはぐれ悪魔。なんとかして我が王を奪還しなければ。

 決意を固めたその翌日。大公より正式にはぐれ悪魔捜索は禁止され、謹慎を余儀なくされた。

 

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