ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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44話

 一夜が明けて翌日。

 頼まれごとがあるとのことで俺は早速居間に向かう。

 そこには既に古河さんと佐々木さんがいた。

 

 一様に顔を下に向けて深刻そうな表情を浮かべている。

 なにやらただ事ならぬ雰囲気である。

 声をかけることも憚れるムードであるが話しかけないことには何も始まらない。

 

 意を決して話しかける。

「おはようございます、何かあったんですか?」

「ああ、お前か」

 古河さんがこちらを見る。

 

「呼びつけて悪いな。お前にはちょっと頼みたいことがある」

「はい、何でも言ってください、俺出来ることなら何でもやるんで」

 ここで俺の有用性をアピールできれば大きく信頼を得られるはず。

 

 このまたとない機会を逃す手はないだろう。

「ありがとう。お前の覚悟受け取ったぜ。その意気を見込んでお前に頼みたいことがある」

 ゴクリと俺は唾を飲みこんだ。

 

 真剣な面持ちで古河は言った。

「近所のスーパーで醬油を買ってきてほしい……!」

「はい、わかり――え?」

「醤油を買ってきてほしい」

「いや、あの、2回も言わなくても伝わってますよ。そうじゃなくてなんで醤油を?」

「実は醤油を切らしていたことをすっかり忘れていてな……、俺と佐々木は拠点から離れられないし他のやつらは出払っている。頼めるとしたらお前くらいなんだ、すまん頼む」

 頭を下げる古河さん。

 

 それって頭下げることなんですかと言いたいところではあるがなんでもやると言った手前断り辛い。

 深刻そうな顔をしているから何事かと思えば内容はただのお使い。

 

 なんか期待していたのと違う。

 仕方ないか、こっそりとため息をつくと承諾する。

 

「わかりました、行ってきます」

「俺もつまみを切らしていてな適当に何か買ってきてくれ」

 ビール缶をひらひらと動かす。

 

 この人はこの人で朝から飲むつもりのようだ。

 その呑気っぷりにちょっとばかりムッとして俺は聞き返す。

 

「仕事しなくていいんですか?」

「今日は非番さ。んなもんで朝から贅沢しようと思ったらまさかのつまみがないときたもんだ。つまみがない酒なんて酒じゃないっての。ちゅーわけでつまみ買ってきてくれや」

「こういうやつだ、あまり気にしすぎるな」

 古河さんは肩をすくめるとお札を取り出した。

 

「そういうわけで悪いがちょっと頼む」

 醤油だぞ醤油、と最後に念押しされて俺は外へと出た。

 一日ぶりに外に出た感慨に浸る間もなく教えられたとおりのスーパーに向かい醤油を買って素早く拠点に戻った。

 

 片道10分にも満たない道程だ、ハプニング何てあるわけもなく、何事もなく行って帰ってこられた。

 買ってきた醤油を手渡すと古河さんはいたく喜んで上機嫌な様子で料理を始めた。

 

「料理、好きなんですか?」

 ふと気になり聞いてみる。

 何気なく聞いてみただけで、きっと同意するものと思っていたが驚くことに古河さんは否定した。

 

「んー別にそうでもないな」

「そうでもない……?」

 てっきり好きだからしていると思っていたのだが実際は違うらしい。

 

「割と誤解されるんだけどな。別に俺は料理すること自体は別段好きでも嫌いでもないんだよなぁ、ま、暖かくて美味しい飯が好きってだけさ。特に日本食にはこいつが欠かせないしな」

 醤油を掲げる古河さんは年相応な立ち振る舞いであり、はぐれ悪魔といえどちゃんと生きているんだなという感想を抱かせた。

 

 ひとまずのお使いを終えるとその間に外出していたメンバーの幾人かが戻ってきたようでリビングでリラックスしていた。

 その中の1人が俺を見咎めると立ち上がって隣の部屋に移った。俺はそれを見送ってトイレに向かうと見せかけて先ほどの人物が入った部屋に向かった。

 

「こんにちは」

 入って瞬間に挨拶の言葉を投げかけられる。

 なんと返したものかと思ったがここは無難に俺も挨拶か入ることに。

 

「こんにちは……ええっと、浅科さんでしたっけ?」

 リーダーの倉前さんから教えてもらった名前を口に出してみる。

「そう。改めて名乗らせてもらうわ浅科優です。よろしくね」

 

 名前こそ昨日初めて知った。だけど俺はこの人のことを見たことがあった。それもつい先日。

 それは俺がお嬢様のお兄さんの荷物持ちをした時のことで荷物を持って行った先で彼女から声をかけられた。

 

 その時は名前すら知らず、接点もなかった。

 次にであったのは船堀さんが亡くなったあの日にお兄さんと一緒にいたのをチラ見したくらいだ。なんとなく記憶に残っていたぐらいだったのでまたこうして出会うことになるとはちょっと驚きだ。

 

「ええ、よろしくお願いします。ですがここにいるということは……」

 あなたはお兄さんの眷属ではなかったのか、問おうとして浅科さんは突然に距離を詰めると俺の口元に指を当てた。

 

 これ以上は言うなという意思表示らしい。

 浅科さんはスマートフォンを取り出すとフリック入力で文字を打ち込むと画面を見せてきた。

 

『ここから先は筆談でよろしく』

 どうやら盗聴対策らしい。

『急に黙り込むのもおかしいから関係のない雑談を交えてね』

 

 俺は首肯すると浅科さんからスマートフォンを受け取る。

 スマートフォンを取り上げられたので筆談をするなら共有して使うほかない。

 早く信頼を勝ち取らないとな。現代人にスマートフォン無しはちょっと辛い。

 

「一晩経ったけど、どうアジトは?」

「や、まだ実感ないというかちょっと変な気分です」

「だよね~、私も最初はそんなんだったよ」

 

 適当な会話を交えながら俺はスマートフォンを浅科さんに返す。

『どうしてアイザック様の眷属である貴女がここに?』

『主の命令よ。姫駒町ではぐれ悪魔が集結しているっていうからその調査。君は?』

『俺も同じです。調査を命じられて潜入しに来ました』

 誰に、とは言わない。

 

 お兄さんがニーナのことを知っているのかそうじゃないかは不明だがわざわざ伝えてやる義理もない。

「私達って結構似た者同士なのかもね」

 

 直接的な表現ではなかったがお互いの目的は一緒なんだねと言いたいらしい。

「みたいですね、よかったら似た者同士協力し合えると嬉しいです(意訳:お互いに協力し合いませんか?)」

「そだね、私としても断る理由もないしいいよ(意訳:その申し出を受け入れるわ)」

 

 期せずして共同戦線が成立してお互いに情報共有をした。

 といっても主に俺が教えてもらう側なのだが。ともあれ得られた情報を整理するとこんなところらしい。

 

 現在街に集結しているはぐれ悪魔の集団はカオスブリゲードの構成員ストレイブラッド。

 メンバーは浅科さんが把握している限りは俺たち2人を除いて13人。名前や神器所有の有無もいくつか把握しているようだ。

 

 また、彼らの拠点はこの街にいくつかあるらしく定期的に変更しているらしい。全てではないがこちらもいくつかは見当がついているらしい。

 これだけわかっているなら十分ではないかと思い聞いてみたが彼女はかぶりを振った。

 

『彼らの目的、そしてその首謀者がわからない』

『首謀者というと小山内さんが言っていたボスってやつですか?』

『そう。彼らの上には明確なトップがいる。その人物によってストレイブラッドは動いている。そして、その人物こそがカオスブリゲードの幹部の1人だと睨んでいるのだけど……中々尻尾を掴ませてもらえてないの』

 

 末端の構成員をどうにかしたところで一時の解決になっても根本的な解決には至らない。

 根っこの部分を排除してこそ本当の平和が訪れる。だからこそ、浅科さんもこれほどの情報を掴んでいながら未だ行動に移せないのだ。

 中々に難しい問題だな。思っていたよりもハードなミッションになりそうだ。

 

『何か俺にできることはありますか?』

『現状では何も。彼らが何を企んでいるのかを看破するまでは、信頼を勝ち取るのが先決でしょう。だから私から提案したいのだけど』

 

 浅科さんはそこで区切ると時間をかけてメッセージを入力し始めて、終えると再びスマートフォンを渡してきた。

『私が情報を探るから君には何もしないで彼らに協力してほしいの。勿論それは表向きはという話。まずは彼らから信頼を勝ち取って隙を作ってほしいの。その間に私の方で彼らの目的とその背後にいる人物を見つけ出す。当然見つけたらそれらは全て共有させてもらうわ』

『それでは浅科さんの負担が大きいような気がするのですが平気なのですか?』

『リスクはお互い様でしょ。むしろ君が来てくれたことで1人で背負うはずだったリスクが半分になったとも考えられるし。それに悪魔歴で言えば私の方が長いんだからいざという時はどうにかするわ』

『わかりました。では、お願いします』

『ええ、お互いに主のために頑張りましょう』

 こうして秘密の会合は終わりを告げた。

 

 

 

 

 さて、大したことのないお使いも最初のうちだけと思っていたのも束の間、次の日にはトイレ掃除に各部屋の掃除、その次の日は洗い物や洗濯と雑用ばかりを押し付けられた。

 そんな生活を送った6日目の朝。

 

 ついに我慢の限界に達した俺はこう切り出した。

「あの、これいつまでやればいいんですか!?」

「なんだ、不満か?」

 

 対して驚いた風もなく古河さんはそう言った。ソファに深々と座り雑誌を読んでいるあたり今日も非番なのだろう。実にリラックスした御様子だ。

 不満爆発な俺をチラリと一瞥しただけでまた雑誌に視線を落とす。そのまま顔を上げずに言う。

 

「俺の利き間違いでなければ何でもやると言っていたような気がするが?」

「うっ、いや、確かにそうですけど……でも、こうなんかもっと皆さんの役に立つようなことがしたいと言いますか……」

「なら、安心してくれ。今のお前はこれ以上ないくらい役に立っている」

「……馬鹿にしてます?」

「至って真面目だ。まぁ、お前の言わんとすることもわかる。確かにいつまでも雑用ばかりというもの気が滅入るよな」

「なら――」

 遮るように古河さんは雑誌を閉じるとテーブルの上に置き立ち上がった。

 

「だから今日からは修行に入るとしよう」

「は……?」

「聞こえなかったか? 修行に入ると言ったんだ」

「ちゃんと聞こえましたよ。俺が言いたいのはなんで突然修行とか言い始めたのが気になったんですよ!」

「あーー、俺はオブラートに包むとかそういうのが苦手なんだ。だから理由はと聞かれたら正直に答えるしかないが構わないか?」

「大丈夫です、何でも言ってください!」

 

 これまでの不満が溜まっていたためだろう。

 飛びつくように答える。

 

「そうか、じゃあ言わせてもらうが、今のお前に雑用を押し付ける理由、それはお前があまりに弱すぎるからだ」

「…………」

「多分俺たちの中でも一番弱い」

「…………」

「今のままじゃ使い物にならない、盾としても使えんだろう」

「……そこまで言わなくても」

 

 ガーンと効果音が付きそうなほどに俺は衝撃を受けていた。

 うん、自覚はあったよ?

 あったけど人から言われるとこうダメージ倍増というかとにかくショックだった。

 

「だから言っただろう。正直に言わせてもらうと……でも、なんだちょっと言い過ぎた。すまん」

 俺が落ち込んでいるのが伝わったのか後ろ手に頭をポリポリと掻きつつ謝罪の言葉を口にした。

 

「こちらこそすみません年柄もなく凹んでしまいました。もう大丈夫です」

「そうか、ならいいんだが。それで修行の件なんだが、どうする? お前がこのままでいいというなら無理に受けてもらう必要もないんだが」

 

 さっきは正面から弱いなんて言われたせいで動揺してしまったが、敵自ら俺を強くしてくれるというのなら願ってもない。

「ぜひ、よろしくお願いします」

「いい返事だ、お前の覚悟受け取ったぜ」

 古河さんが口の端を吊り上げる。

 

 と、会話が落ち着いたところで佐々木さんが姿を見せてきた。

 起きたばっかりのようで髪はボサボサだ。

 

「ふぁぁ、なんだお前らこんなところで立ち止まって出かけんのか?」

「いや、ちょっと月深の修行にでもと思ってな」

「ああ、なるほどねそりゃ重要だわな」

「お前も来るか?」

「うーん、どうせやることねーし、付き合わせてもらおうか」

「それで、どこで修行するんです?」

 

 悪魔3人が力を使うとするなら広くて頑丈な場所か、人気が無くて誰も巻き込まないような場所が好ましい。

 ましてやはぐれ悪魔となれば存分に暴れられる場所は限られるはず。さて、そんな都合のいい場所があるのやら。

 

「ああ、それはもう決まっている」

 古河さんにはどうやら心当たりがあるようだが、いったいどこなんだろうか。

「この部屋の隣だ」

 親指で隣の部屋を指示した。

 

 

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