ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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47話

 神器が暴走してから丸一日が経過した。

 ひとまず体調を万全に取り戻した俺は特訓を再開することになった。

 

「おはよう、よく眠れたか?」

 俺の身を案ずるように古河さんはそう聞いてきた。

 

「おかげさまでぐっすりです」

「体調はどうだ? いつもと違うところはないか?」

「特に変なところはないです」

 

 その場で軽く腕や足を回してみるが痛みが走ったり動かしにくいとかいったことはない。

「ならいいんだが……異変があったらすぐに報せるように」

「わかりました、よろしくお願いします」

「さて、そういうわけで今日もまた修行をやっていくんだが、当面の間は神器の修行を行わない」

「暴走したからですか」

 古河さんが首肯する。

 

「お前の神器ははっきり言って得体が知れん。暴走の原因がわかるまでは使うな、いいな?」

「それは……」

「なんだ不満か?」

「いえ、そういうわけでは……」

「言いたいことがあるならはっきり言え、それとも俺たちがそんなに信用できないのか?」

「なら言わせてもらいます。俺もこの神器が怖いです。おっしゃる通り得体が知れない、なんでこれが俺の中にあるのか不思議で仕方ないです」

 でも、と続ける。

 

「わからないままで終わらせたくないんです。俺はきっとこいつのことを知らなきゃいけないんです、漠然とですがそんな気がして……」

 頭に思い浮かんだことをそのまま言ったら結局何を伝えたいのか不明瞭なものになってしまった。

 

 自分自身どうしたらいいのかはっきりさせられないのが原因だろうか。

 ともあれ、言いたいことは言った後はそれを古河さんがどう判断するかだが。

 俺の言葉を聞いて古河さんは難しい顔をしている。

 

「後回ししたとて逃れることはできない。そうさな俺は少し臆病になっていたみたいだ」

 1人得心がいったのか頷くと、硬くなっていた口角を少し緩めた。

 

「わかった、やろう神器の特訓を。ただし、しばらくは間隔を開けよう。前回の暴走からまだ日が浅い。どんな影響があるかしばらく見極めてからだな」

「はい、それでお願いします」

 

 それから、何が起こるかはわからない以上は発現することも控えることとも釘を刺すと、神器は一旦隅に置いて走り込みや腕立て伏せ、腹筋と基礎体力の向上を目的にした訓練を行い神器とは代わるように座学も行うことが決まった。

 

 内容は主に悪魔や天使のことだ。

 生態はもちろんのこと歴史や制度について学んでいるのだがこれがどうにも難敵だった。

 

「あの、この魔王がどうとか4大天使がどうとかって習う必要があるんですか」

 気分はこんな授業が将来何の役に立つのかと吠える中学生や高校生である。

 抗議するそんな俺を古河さんは澄ました顔であしらった。

 

「必要だと? 無論あるに決まっているだろう。これは常識だ、お前だって日本の治世については学んだだろう。だというのにそこで一番偉い者の名前すらいえないものを果たしてどう思う?」

「……常識がないと思います」

「そうだろう。お前がこれから学ぶのは常識だ、知っていて当然の知識だ。お前も悪魔だというのならそれくらいの自覚は持つんだな」

 

 ぐぬぬ、ああ言えばこう言うとはまさにこのこと。だが、そのすべては反論の余地もない正論という名の弾丸である。

 躱すことなんて到底できない。所詮俺は無知なる的でしかいられないのだ。

 

 正論を前に俺は何と弱いのだろうか。

 嘆く俺の前に加減の知らない鬼軍曹はさらなる課題を積んできた。

 

「物思いとは随分と余裕があるじゃないか、喜べ更なる課題をお前に暮れてやる」

 意地の悪い笑みで鬼軍曹こと古河さんは告げた。

 なんか思い浮かべていたテロリスト生活は全然かけ離れているなこれ。

 詰み上がる課題を前に俺は頭を抱えた。

 

 「月深君、今暇かな?」

 今日は任務だからと古河さんは早朝から出かけて行ってしまった。修行代わりに休みを命じられたある日。居間で暇していた俺に倉前さんが突然現れてそう声をかけてきた。

 倉前さんは普段からあまり拠点に姿を見せることはない。

 

 ボスと呼ばれる上司から直接依頼を受けてはあちこちで動いでいるからだ。

 とにかく多忙で拠点に顔を出しても直ぐに出ていってしまう。それが俺が倉前なる男に抱いている印象だった。

 そういうわけであまり喋ったりする機会もなく、緊張からか少しどもりながら返事をした。

 

「えっと、は、はい、暇です」

 返事をしてから不味ったかと思う。

 倉前さんはリーダーというには厳しい印象はなくどちらかというと優しそうな柔和そうな印象がある。

 

 とはいえ、他のメンバーが働いている中で1人ゴロゴロしているというのはいくら優しいとはいえあまりよくは思われないのではないか。

 ここは嘘でも用事があると怒った方が良かっただろうかと、先とはまた違った緊張に襲われながら倉前さんを見る。

 

「そうかい。なら今から食事でもどうだい?」

 怒られるかも。そんな予想を簡単に打ち砕いて見せた。

 

「しょ、食事?」

「うん。今日は幸いなことに依頼が入っていなくてね。たまには外食でもしたいと思ったんだけど、良ければ月深君もどうかな?」

 

 願ってもないチャンスだ。

 ここでうまいこと近づいて情報を引き出せれば一網打尽にすることも夢ではない。

「是非お願いします」

 二つ返事で了承した。

 

 

「月深君は何が食べたい? 肉とか魚とか希望ある?」

「そうですね~」

 悩んでいるふりをしながら倉前さんを盗み見る。

 

 シャツの上にキャメルのピーコートに黒のチノパンとシンプルに着こなしているが、本人のスタイルの良さも相まってとてもお洒落である。

 こうして改めて見ると、背も高く顔も整っている。まぁ、美男子である。

 

「僕の顔に何かついているかな?」

 思わずジッと見てしまっていたのだろう。苦笑気味に尋ねてくる。

 

「あ、いえ、こうして歩くのがちょっと変で……あ、変というのは嫌とかそういうのではなく……」

「わかると、初めてだし新鮮だよね。本当はもっと早くこういう機会が持てればよかったんだけど忙しくてね」

「そうですよね、皆さんお忙しそうですけど倉前さんには特に忙しそうですし」

「あはは、そうだね。仕事に忙殺されるサラリーマンもこんな感じなんだろうかね」

 

 うっかりすると忘れそうになるけど彼ら、いや、俺たちはテロリストだ。

 普通に働いて稼ぐなんてできないのだから、所謂社会人の実態なんて知るはずもない。

 

 街ゆく人たちを見ながら、彼らがどうしているのかを想像で語るしかないのだ。

 直ぐ近くのはずなのに、どう足掻いても届くことはない。そのことについて他のメンバーはどう思っているのだろうか。

 

 考えても意味のないことだ。俺は胸の内に抱いた疑問を無理矢理忘れて、何を食べようか考え始めた。

 なんとなくの気分で肉でとお願いしたところ、個室でいいところがあると言われてそこで食事をとることにした。

 

 

 なんとも立派な店構えだと素直に思った。

 玄関からして大人な雰囲気溢れる格式の高そうな、ありていに言えば金持ちが通いそうなオーラを発している。

 

「あの、ここですか」

「うん。あ、嫌かな?」

「いえ、そういうわけでは」

 

 ただ財布の事情が不安ではあるが。

 一番安い奴でどれくらいするのか。あまり考えたくはない。

 

「ああ、お金なら心配しないでちゃんと払うから」

「や、それは……」

「大丈夫だよ」

 

 悪いですよと言い切るよりも早く先に店へと入っていく。

 気を遣わせたなと苦笑し後を追った。

 中に入るとこれまた立派な内装で、身なりがきちんとしたウェイターに案内されて席に着いた。

 

 平日ということもあってかあまり人の気配が感じられない。

 個室で区切られているのだから視覚や聴覚があまり頼りにならないはずなのに、気配がなんとなくわかることに今更ながら驚いた。

 

 知らないうちに感覚が鋭敏になっているようだ。これも修行の成果だろうか。

 と、ウェイターがメニュー表を持ってきた。手に取り見てみるとどれも相当な値段である。

 

 おごってもらえるとはいえ、頼むのも恐縮するようなメニューばかりだ。だけど、ここで下手に遠慮するとまた気を遣わせてしまいかねない。

 ここは倉前さんの度量を信じて食べたいものを頼ませてもらうとしよう。

 

「決まったかな?」

「はい」

 

 というわけで写真からして食べ応えのありそうなステーキを頼ませて貰った。

 倉前さんも同じものを頼んだ。しばらくしてやってきたステーキに舌包みを打ち、堪能した。

 

「ふぅ、食べた食べた。口にあったかな月深君」

「ええ、とても美味しかったです」

「ならよかった。デザートも頼む?」

「いえ、あ、飲み物を頼んでもいいですか?」

「もちろんさ」

 

 メニューから適当に選ばせてもらい、同様に倉前さんも頼んだ。

「そういえば最近古河さんに習って修行をしているみたいだね、調子はどうだい?」

「あの人中々の鬼教官ぶりですよ、おかげさまで体力はついて来てますけど」

「ふふ、古河さんは自他ともに厳しいからね。でも彼女の下についていれば間違いないよ」

「確かに師匠としてあれほど頼れる人はいません」

 

 これまで宗方さんに師事していたが彼に分からないことも古河さんは教えてくれる。宗方さんを悪く言うつもりはないが古河さんの方が教えることに慣れているのは間違いない。

 

「早く強くなって皆さんに貢献できるようになってみせます」

「貢献、か」

 声のトーンを落として目を伏せる。

 

「ねぇ月深君。君は本当にそうしたいと思ってくれているのかい?」

「勿論です、そのために仲間に入ったんですから」

「そうだよね。うん」

「あの何か気になるようなことでも?」

「……君と僕たちここにある違いって何かわかるかい?」

「違い、ですか」

 

 俺とストレイブラッドの違いか、はて、なんだろうか。

 年齢、種族、色々考えてみるがあまりピンとはこない。が、答えないわけには話が進まないのでそれらしいものを選択する。

 

「実戦経験ですか?」

「それもあるけど……決定的な違いではないかな」

「うーん、すみませんちょっと思いつかないですね」

「そうか……」

 

 言い惑うような素振りを見せる。迷っているようだがやがて決心がついたのか口を開いた。

「君と僕の違い、それは環境だ」

「環境……?」

「本当ならこんなことを言うべきではない。でもね、僕は言わなければいけない。だからどうか気を悪くしないでほしい」

 

 倉前さんが思惑があって俺を食事に誘ったのはわかっている。そこは驚くべきことではない。だが、何をそんなに躊躇っているのだろう。

「大丈夫です、言ってください」

 倉前さんが重々しく頷いた。

 

「月深君は確か普通のご家庭だったよね。家族がいて家がある。そうだよね」

「ええ、そうです」

「……ストレイブラッドの皆はそうじゃないんだ。何かしらの理由があって家から追い出され、迫害を受けてきた」

 

 どこか遠い場所を見る倉前さん。

「どこにもいられなくなってどうしようもなくなってそれで流れ着いたのがストレイブラッドなんだ。この意味がわかるかい?」

「俺は違うと?」

「そうだね。月深君は主からの虐待に合っていたと聞いている」

「そうです、それが嫌で俺ははぐれになりました。もちろんこの理由が他の皆さんの同列なものだと語るつもりはありません。でも、どうしようもなくなったからこそここにいるんです」

「比較するつもりはないよ、でも、でも、僕から言わせてもらえば君は戻れるんだ」

「戻る……?」

「今ならまだ引き返せる、どうしようもないところまで来てしまった僕たちと違って君の手はまだ汚れていない。わざわざここまで来る必要もないんだ」

 

 テーブルに置かれた手がグッと握り締められる。

 確かに俺のためを思って言ってくれているのが嫌というほどに伝わってきた。

 

「それにね、正直に言うと君にはテロリストにはあまり向かないように思うんだ」

「向いている人の方が珍しいんじゃないんですか」

「はは、確かにその通りだ」

 乾いた笑いで言うがその目は笑っていない。

 

「月深君、君は悪魔になったことをどう思う、今は幸せかい、それとも不幸かな?」

「……わかりません」

 こればかりは嘘を付けなかった。嘘を吐く理由がなかったのもそうだが嘘を吐きたくなかった。

 

「そうであるのであれば尚のこと止めた方がいい。こんなことを続ければ悪魔になったことを恨みかねない」

 俺はスパイとしてここにやってきた。だから別に真に受ける必要はない。

 そのはずなのに倉前さんの言葉が重く心にのしかかる。

 

「ごめん、説教臭くなってしまったね。何が言いたいのかというといつでも抜けてもらって構わないということを言いたかったんだ」

「それ、俺に都合よすぎませんか?」

 

 まるでちっとも俺のことを疑っていないようではないか。

 俺からすればなんとも有難いことのはずなのに、どうしてもそう思えなかった。

 

「それが対等というものだよ。僕たちは君に服従してほしいわけじゃないから。……それからこれを君に返そう」

「え?」

 倉前さんがテーブルにおいたのは取り上げられたはずの俺のスマートフォンだった。

 

「どうしてですか……?」

 まさか、先の言葉は本心からきているというのか。

 

「証明であり、信頼しているからさ。裏切られるのが怖いからといつまでも取り上げるような真似はしたくない。君がこれから何を目的として動いていくのか今度はそれを見させてもらうよ。でも1つ老婆心ながら言わせてもらうならどうか自分の良心に従って行動してほしい」

 倉前さんを見てそれからテーブルのスマートフォンを見る。

 

「後悔しませんか」

「後悔するかもしれないね」

「それでいいんですか!?」

「よくはないけどそうしたいと思ったからね。これが正しいんだよ」

 

 前からよくわからない人だとは思っていたが余計に倉前という悪魔がわからなくなった。

 何故こうも無条件で他者を信じられるんだ。懐が深いのかそれともただの大馬鹿か。

 

「後で返せって言われても知りませんからね」

「もちろん」

 

 久しぶりに自分のスマートフォンを手に取る。

 電源ボタンを押しても画面に変化はない。充電がキレているようだ。多分家族も友達にも心配をかけていることだろう。あとでメッセージを確認させてもらうとして一先ずポケットにしまい込む。

 

「そうそう、これまで拠点に拘束させてもらったけどこれからは自由に外も拠点も出入りしてもらって構わないから」

「わかりました、ありがとうございます」

「それじゃあ話すことも話したし行こうか」

 

 その言葉を皮切りに俺たちは拠点へと戻った。

帰りは無言だった。俺はなんとか会話でもしようかと口を開きかけてなんとなく口を閉ざしてばかりで金魚の真似事しかできなかった。

 

 気まずい思いをしながら拠点まで来た俺は玄関を開けて仰天した。

 赤よりも赤い液体が玄関から居間まで続いていたからだ。

 それに気づいた倉前さんは俺を押しのけて奥へと走った。呆けていた俺だったが倉前さんに押されてようやく我に返り続いた。

 

 居間に入るとそこには小山内さんがいて血まみれの鹿目さんを抱えていた。

 他には久場さん、それから佐々木さんと古河さん、南さんがいた。

 

「よかった倉前君。ちょうど連絡しようと……」

「何があった?」

「久場君、南さんと鹿目さんが次の拠点探しのために外出したら運悪くエクソシストに居合わせたみたいなの。魔術を使われたところを見られたようで久場君が戦ってくれたんだけど鹿目さんが……」

 

 鹿目さんと南さんはどちらも女性で、戦闘を得意じゃない。なので普段は後方支援を主としている。

 拠点探しも彼女らの任務で、安全な拠点を探して候補にすることも仕事している。今回も鹿目さんと南さん、それと護衛として久場さんがついて拠点探しに外出したとこと、事件はその時に起きたようだ。

 

 エクソシストは2名。久場さんは真っ先に鹿目さんと南さんを逃がしたが数的不利もあり鹿目さんが負傷。南さんは辛くも無傷で逃げおおせたらしい。

 

「傷はどう?」

 倉前さんが問うと小山内さんは首を横に振った。

 

「そうか、交代で治癒をしてくれ」

 俺を置いて会話がドンドンと進んでいく、たまらず俺は口を挟んだ。

 

「あの、状況がイマイチ飲み込めないんですが鹿目さんはどうなるんですか」

 直後、鹿目さんを除く全員の視線が俺を射抜いた。

 

「月深、ちょっとこい」

 古河さんが俺の腕を乱暴につかんで別室へと連れていく。

 そこに気遣いはなく、何度も転びそうになりながら引っ張られる。

 別室に入った途端これまた乱暴に扉を閉めると言った。

 

「鹿目はもうだめだ」

 それが意味することを察せられない俺ではない。

 

「なんとかならないんですか?」

「なるならとっくに何とかしているよ。でも、駄目だ。光の剣に滅多刺しにされて光力に体を冒されている。ああなったらどうにもならない。ゆっくりと光っていう猛毒が体に回るのを待ちながらやがて死ぬしかない」

「そんな……」

 光が悪魔にとって天敵なのは知っていたがそこまで手の施しがないだなんて。

 

「あと、それからな」

「え、……ぶへっ」

 気づいたときには古河さんの拳によって俺は頬を殴られた。

 かなり本気だったようで壁の方まで吹っ飛ばされた。

 

「これからどうなるかもわかんねえのに本人の前で状態なんて聞くんじゃねえ。今回は初犯だからこれぐらいで許してやる。次は絶対にすんな」

「すみません……」

 痛む頬を摩り謝罪の言葉を述べる。

 

 立ち上がろうとしたが、脳にまでダメージがいっているのか足がふらついて上手いこと立ち上がれない。

 仕方ないのでそのまま座ることにした。

 

「すまん、手加減できなかった」

「大丈夫です、気にしないでください」

 仲間が間もなく死ぬというのに状況も読めず無神経な質問をかましてこれで済ませてもらったのだから優しいくらいだ。

 

「ずっとこんな感じなんですか」

「そうだ。見送った数も両手じゃ足りないくらいだ」

「そうですか……」

 

 それでも平然としているなんて相当な場数を踏んだに違いない、顔を上げた俺は目を見張った。

 歯を食いしばって、拳はギュッと握りこんでいる。あまりの力に手からは血がしたたり落ちていた。

 

 慣れているから動揺しないのかと思った。でも違うんだ。慣れないからこそこの反応なんだ。

 自分の弱さを必死に隠して平然と保っている。俺なんかとは覚悟も違う。この人たちはすごい。

 

 それからどれほどそうしていたことだろう。時間の感覚がぼんやりとしたころ部屋に入ってくるものがいた。久場さんだ。

 

「鹿目が亡くなった」

 淡々とそれだけを告げた。

 俺も古河さんも何も言えなかった。

 

「月深」

 名を呼ばれ久場さんに視線を向ける。

 交わした久場さんの目はとても冷たかった。

 

 と、そこに古河さんが体で割って入ってきた。

「何のつもりだ古河」

「お前こそ何のつもりだ久場」

 

 俺の視界には古河さんの背しか見えないが、2人が睨みあっているのがわかる。

「単純だろうが、俺はそいつが情報を流したんじゃないかと疑っている」

「どうやって? 俺たちの行き先をこいつには伝えていないし、連絡する手段なんてない」

「どうだかな、やりようなんていくらでもある」

「根拠のない推測でどうやってわかる?」

「それも本人に吐かせるのが一番だろ。いいからどけよ」

「断る」

「他所者を信じるのか」

「違う、仲間だ!」

 

 ヒートアップしていく両者。

 頼む、これ以上は止めてくれ。仲間が死んだ日に残された仲間がいがみ合うなんて間違っている。

 

 それを言おうにも俺が行ったところで火に油を注ぐだけだろう。誰かこの2人を仲裁してくれる人はいないか。

 その思いが通じたのかあるいは怒鳴りあう声が聞こえたのか、多分後者だろうが小山内さんと倉前さんがやってきてくれた。

 

 2人の仲介もあってその場は収まったが久場さんのギラつく瞳が瞼の裏に張り付いたまま離れてくれなかった。

 

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