・本作品は原作小説「ハイスクールDxD」1~25巻及び「真ハイスクールDxD」1~4巻の内容を基に構成しております。ネタバレを気にされる方は十分にご注意ください。
・本作品は原作小説のエロ要素を限りなく薄めシリアス要素が多めとなっております。残虐的表現、鬱要素等が含まれておりますで苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。
俺は教室を一瞥すると、行動を起こそうとして踏みとどまる。
古びた埃臭い教室。なんてことのないごく普通の教室だがそれを見て思い当たるものが1つあった。
「もしかして――?」
目に留めたそれをみて俺は思い至る。
それは暗闇の中に差し込む一筋の光明。
細く頼りないがそれでも確かな可能性の1つ。
「いや……しかし……」
それを選ぶのはあまりに賭けが過ぎる。
そう考えはするが頭は既にそのことだけを考え始めている。
まずは……そうだ。あれを確かめる必要がある。
しかし、確かめるには廊下から顔を出さなければいけない。
そこを見られたら一巻の終わりだ。でも、もしそれがあるのなら状況を一変させることも不可能ではなくなる。
猶予は残されていない。覚悟を決めてゆっくり、少しずつ頭を出して廊下を覗き見る。
期せずしてそれはすぐに見つかった。まちがいなくそこにあった。
急いで扉を閉めて、教室の壁に背を預けながらズズッと滑らせて腰を落とすと息を1つ吐いて呟く。
「さて、どうしたもんかな」
それがあるとわかった時から作戦は既に固まりつつある。あとは実行するのみ。
問題があるとすれば本当にそれをやるのかという点だ。
その時、遠くの方からコツコツと音がした。それが聞こえた瞬間俺はブルりと体を震わせた。
黒瀬が近くまで来ている。その事実に体と心が強張っていくのを感じる。
どんな選択肢を選ぶにしても、今すぐに決めなければならない。そして、それはもうとっくに決まっていた、ように思う。
「やっぱ、それしかないか……」
俺はズボンのポケットに残していた携帯と財布を取り出すと静かに音をたてないよう慎重に机の上に置いた。
コツコツと足音を立てながら私こと――黒瀬瑠奈は廊下を歩いていた。
じっくりと空き教室を舐るように見回りながら虱潰しに標的を探している真っ最中だ。
旧校舎全体を結界で覆っているため標的は抜け出せない。ゆえに、逃げられない標的をゆっくりと確実に探すだけでいい。
ただし、屋上は結界で覆えていない。そのため逃げ出そうと思えば逃げられてしまうがそこには抜かりなく特注のトラップを仕掛けている。あの見るからに無能な悪魔にそれを避ける手段はないだろう。詰まるところ死角はない。
ゆえに標的は袋の鼠。今行っているのはいわば勝ちの決まった狩り。じっくりと敵を追い詰め嬲り殺してやるとしよう。
まあ、殺すというのはあまり正しくない。正確にはキングの駒を取り戻した後に殺すというのが正しいだろう。
その時を思うと笑みが止まらない。いったいどんな罰をくれてやろうか。そんなことばかりを考えていた。
丁寧に順番に教室を除き探索する。
ここも外れ。階段を降りてすぐの教室に入るも空振りに終わった。
だが、気にしない。敵は逃れられない。捕まえるのも時間の問題だからだ。
その時。別の教室からガチャンと甲高い音が聞こえた。何かが割れたような音だ。
聞こえてきたのは隣、いや更に向こうの教室からだろうか。
身構える私だが、状況に変化はない。
さては教室か廊下の窓ガラスでも割って脱出を試みてたのだろう。
しかし、その手は無駄だ。窓ガラスに干渉できても結界が張っているためそこから先へ出ることは叶わない。
それにしても愚かなことを。今の愚行のせいでやつの位置は割れた。
そろそろ飽きてきてころだしチェックメイトと行かせてもらうとしよう。
勝利を予感し、標的がいるであろう扉を勢いよく解き放つ。
見えたのはーー。
布!?
私の前で放射状に広がる布。突然の出来事に反応できず正面からそれに覆われる。
小癪な。心の中で毒づきながら布を振り払う。布の正体はなんて事のないただのカーテンだ。
空き教室に残されていたカーテンを剥ぎ取って目くらましに使ったのだ。実に下らない手法である。おかげさまで私の服は埃まみれになっていた。
標的の姿は教室にはなくこの場を去っていた。私がカーテンに気を取られている間に脇を通り過ぎたらしい。
また逃げられた、その事実に歯噛みしつつ、ちらりと奥の方を見ると一ヶ所窓ガラスが割れており床にガラスが散乱している。
やはりさっきの音はガラスを割った音。ズバリ私の推測は当たっていたようだ。
私に位置情報がバレたとしてもかまわない、検証と逃走の2つを兼ね備えた一手。そうみるべきだろう。
くだらない。その一言に尽きる。この上級悪魔、黒瀬瑠奈を前にしてなんてくだらない戦法をとるのか。
「そろそろお遊びは終わりにしましょう」
真綿で首を締めるようにじっくりと追い詰めようとしたがやめた。
こんな扱いを受けて黙っていられる私ではない。元より子虫のように這いずり回る標的を追いかけまわすのは性に合わなかった。
こうなれば結界を狭めて使い魔をありったけ解き放つ。すぐに標的は補足され使い魔の餌になることだろう。
泣き叫び助けを乞う標的の姿が目に浮かぶ。
その時が実に楽しみだ。私はその瞬間を想像して笑みを浮かべつつ、誰もいなくなった教室から廊下へと出る。
「よお、随分と楽しそうだな?」
今まさに転移の魔力を構築しようとしていたが突然話しかけられ、集中しているところをかき乱され効力が失われていく。
声は――背後から。
振り向いて、少しだけ私は驚く。
標的はそこにいた。逃げてなどいなかった。距離は5mほど。隠れているでもなく正面に突っ立っている。
ただ、先ほどとは少しだけ様子が違う。と言っていも見たところ変わったのは先ほどまではしていなかったマスクを今は着けているということ。
鼻や口元を覆うだけの粗雑な造りであり、見ただけで正規に造られたものではなくその場しのぎで用意したものだとわかる。
素材は、教室に遭ったカーテンだろうか。
だが、その狙いがわからない。なぜそんなものを用意したのか、いや、用意する必要があったのか?
ガス? なんらかの薬品? これまでの逃走経路から考えてそういったものを用意できるわけがないはず。
……異臭はしない。周囲をみてもこれと言って怪しいものはない。これまで回ってきた教室のそれらしいものはなかったはず。
ならばただのブラフか。
そう判断し、緊張していた精神を緩める。
「あれだけの時間で賢しくも考えたものね。でも、それは無駄。あなたには何の手立てがないことぐらいお見通しよ」
ここで足を止めた理由。それはもう標的が諦めたから。
逃げるのにも、隠れるのにも神経を使う。ましてや上級悪魔たる私が相手なのだ。
心が折れたとしても当然だろう。
だからこそ、相手は最後に一か八かの賭けに出たのだ。最後に一矢報いることで、人生(悪魔生かしら?)に華々しい終わりを飾る。
低俗かつ野蛮な悪魔が考え付きそうな思考パターン。
無論、この私がそんなお遊びに付き合う道理はない。万が一にでも泥を塗られるわけにはいかないのだ。
「……落ち着いて聞いて。大人しく投降してくれるなら命までは取るつもりはないわ」
もちろん嘘だ。
キングの駒のさえ取り出せれば、もう標的に用はない。あとは殺すだけだ。
そんな内なる殺意を微塵も漏らすことなく標的を見据える。
「ごめんなさい。少しばかり大人気がなかったと思っているわ。突然の状況に私も混乱しているの」
一歩前へ進み出ると、同時に標的は一歩足を退いた。
依然として標的の表情は固いが、話を遮るつもりはないようだ。
表面上は穏やかかつ融和的に私は話を続ける。
「だから、ね。お互い馬鹿なことはやめてお話をしましょう」
さらに一歩前へ出る。
魔力があたる必中の距離に行き着く。話している間に結界を一階を覆うだけの範囲まで狭めた。
使い魔を呼ぶ転移魔法陣も構築を完了し、いつでも起動可能。
殺った。私は勝利を確信する。
「お前さ。さっきからずっと上から目線なんだよ」
ようやく口を開いた標的が言った言葉は確かにそう聞こえた。
驚き固まる私に標的は畳みかけるように告げる。
「私は上。でもお前は下。そんな考えが透けて見えてんだよ」
「はい……?」
「命はとらない言ってたっけか。それはいつまでの話だ? お前の気分次第か? その時々の機嫌で死ぬかもしれないなんて俺は御免だね」
吐き捨てるように、確かな敵意をその目に携えて標的は告げる。
「どうせ、逃げ場なんかない。なら、俺は俺の明日を俺自身の手でつかんで見せる、お前みたいな化け物はすっこんでろ」
啖呵を切られたのだと、事ここに至りようやくその事実を認識する。
「は、ははは」
乾いた笑い声がどこからか聞こえてくる。
標的は、黙ってこちらを睨みつけているだけ。笑ってなどいない。
つまり、嗤っているのは私だ。その理由はおかしくて仕方がなかったから、だと思う。
ああ、こんなに。こんなに……怒ったのはいつ以来だろうか。
「死ね」
低く、冷たい声が廊下に響き渡る。
臨戦態勢を取る標的。
遅い。あまりに遅い。こちらは万全の用意を済ませている。
構築し終えた魔法陣を起動させようする私。
対して、標的は――投擲の予備動作を取っていた。
それを見て、起動を寸でで止めてその動きを注視する。
標的が右手に握っているそれは三角定規ほどの大きさのガラス片だ。
私は瞬時に標的のこれまでの行動を理解した。
標的のこれまでのすべてはブラフ。私が近づいてくるように誘導し、挑発する。それらはこの状況にたどり着くまでの布石だったというわけだ。
鼻で嗤った。
なんだそれは。この私を相手にしてその程度で立ち向かえると本当に思っているのだろうか。
これほどまでに虚仮にされたのは初めてだ。
とはいえ、高貴なる私の体に傷1つ付くのも耐えられない。
転移魔法の起動準備はそのままに。私は左手を前に出して防御用の魔法陣を展開した。
これで何人も私の体に触れることは叶わない。
最後の足掻きを完膚なきまでに潰したうえで蹂躙してやる。
「当たれぇぇっーー!!」
標的が振りかぶってガラス片を放った。
放たれたガラス片は私の体には届かなかった。そして、防御用の魔法陣に触れることもなかった。そもそも当てることができなかったのだ。
あらぬ方向へ飛んでいったガラス片を横目で見送る。
狙い通りに当てることでもできない。そのあまりな醜態に笑い出しそうになりながら、それでも最後まで油断することなく防御用の魔法陣は起動したままに転移を完了させようとすする。
まもなく勝利が決定する。
そう予感した瞬間のことだ。
耳をつんざくような爆音。それから衝撃とともに世界が白に染まった。