ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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【注意事項】
・本作品は原作小説「ハイスクールDxD」1~25巻及び「真ハイスクールDxD」1~4巻の内容を基に構成しております。ネタバレを気にされる方は十分にご注意ください。
・本作品は原作小説のエロ要素を限りなく薄めシリアス要素が多めとなっております。残虐的表現、鬱要素等が含まれておりますで苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。


6話

「当たれぇぇっーー!!」

 叫ぶと同時に、俺は手に握っていたガラス片を放り投げる。

 全力で放り投げられたそれは黒瀬を捉えることなく、別の方向へと流れていく。

 少しばかり顔を強張らせていた黒瀬が嘲笑の笑みを浮かべた。

 

 大方、最後の一撃を当てることすらできなかった俺を笑っているのだろう。

 だが、それは間違いだ。あのガラス片は元から黒瀬に当てるつもりなどなく、その背後にあるものを最初から当てたかったのだ。当たるかどうか一発限りの賭けだったが狙い違わず目標へと命中した。

 

 刹那、それは炸裂した。耳をつんざくような爆音がして、内部にあった粉が高圧ガスとともに噴出。瞬きの間に拡散され廊下を白に染め上げる。

 あらかじめ結果がどうなるかわかっていた俺も、あまりな惨状に声も出ない。だが、何も知らなかった黒瀬が感じた衝撃は俺の比ではないだろう。

 

 きっと何が起きたのかそれすらもわかっていないに違いない。だが、俺にはこうなる結果が見えていた。なぜなら実際に一度中学生のころに経験していたのだから。

 

 それはどの建物に備えられていて普段は見向きもされないもの。有事の際にしか使われずその有事はめったに起こることはない。

 だからこそ通用すると思った。その正体は消火器。当然それは旧校舎にも用意されていた。

 

 旧校舎にあるというのもポイントだ。消火器のメンテナンスなど普段から行うことなど稀だろう。

 老朽化が進んでいる消火器ならちょっとした衝撃や傷でも破裂してくると思っていた。

 加えて、ケースに入れられていなかった点も大きい。いくらそこにあるの自然と言っても、ケースの扉が開いているのは不自然に見えてしまう。しかし今回使用した消火器はスタンドで固定されているだけだったので、むき出しになっている消火器は実に助かった。

 

 どこにでもあって、さりとて使われることのない消火器。誤った使い方をすればそれは十分に凶器になり得る。

 消火器の位置から言っても大なり小なり負傷を負ったことだろう。

 最悪の場合、死ぬかもしれない。その可能性は頭にあったし、できることなら俺もやりたくない。それでもやるしかなかった。俺が生きるために、黒瀬を無力化するにはそれしかなかったのだ。

 

 舞っていた粉が時間の経過に従って廊下に降り積もっていく。

 ようやく、晴れてきた視界の先に見えていたのは、直立する黒瀬だった。

「うそだろ」

 

 不意の一撃だったはず。反応することもできずまともに浴びたはずなのに黒瀬は立っている。

 しかし、黒瀬と言えども無傷とはいかなかったようだ。

 髪はボサボサ、洋服はところどころ切れている箇所があり、出血が見られる。

 それなりの負傷を与えたといってもいいだろう。

 

「やってくれたわね」

 目をギラつかせながらいまだ衰えない戦意を向けてくる。

 彼女の前に紫色の幾何学模様が出現する。スクリーンもないのにプロジェクターで映し出したかのように鮮明に映し出された模様は徐々に輝きを強める。

 俺の本能が警鐘を鳴らす。なんだかわからないがあれはヤバい、と。

 

「消えろ、屑がぁ!!」

 まばゆい閃光が幾何学模様から放たれる。一条の光が空間を抉りながら迸る。その光が放たれる寸前に避けていた俺の一瞬後を通り過ぎていきなお消えることなく後方まで進み、突き当りの壁をぶち抜いた。

 

 空いた口がふさがらなかった。コンクリートの壁をものともせずただの一撃で人間が通れそうな穴を空けるなんてヤバすぎる。あんなの当たったら俺の体にも風穴があくことだろう。

 そして、それは一撃で済まない。既に黒瀬は2撃目の構えを取っている。

 左手で構えを取りながら、右手も前に出して攻撃の予兆を見せた。

 

 右手からソフトボール程度の飛び道具が出てくる。俺はその軌道を完全に見切り、体を捻ることで余裕をもって回避する。

「なっ!?」

 黒瀬が目を見開く。

 

 続けて、3つ俺に向かって放つ。それぞれが干渉しないように別々の軌道で飛んでくる。

 直撃すればそれで動けなくなる。足をすくませるのにはそれだけで十分。恐怖もある、けれど目を逸らさずしっかりと避けきって見せた。

「はぁ!? なんで、なんで当たんないのっ!?」

 悲鳴にも似た叫びを黒瀬があげる。

 

「知りたいか?」

 俺の一言に、眉を吊り上げる黒瀬。どうやら気になるらしい。だからこう言ってやる。

「教えるわけねーだろ、ばーか」

「クソガキがっ!」

 さらなる数をもって応酬する。そのどれもが俺を捉えるに至らない。

 

 その理由は簡単。黒瀬の攻撃があまり単調なのだ。最初の攻撃も次の攻撃も一直線だった。

 今だってそうだ。干渉しないように気道を曲げはするが、ほとんど俺の真正面から向かってくる。フェイントも時間差もなく一直線に。

 

 速さとて、目で追えないほどでもなく発射の瞬間を見逃さなければ見切るのはそう難しくもなかった。

 よほど自分の飛び道具に自身があるのか。それとも俺相手にわざわざ工夫する必要もないという驕りがあるのか。

 なんにせよ、ただの飛び道具はもう俺に通用しない。とすればあとはあの強力な一撃にさえ注意を払えばいい。

 

 強いて言うなら密度が俺にとって最大の課題となるがあの状態の黒瀬がそんな考えに行き着くには到底時間が足りないだろう。

 ほら、もう黒瀬は目前だ。

「なんなのよ、いったいこいつは……!!!」

 

 最早相手が女子だとか言ってられない。全力で殴りつける。例の攻撃の発動は……間に合っていない!

 当たる、そう確信した。けれどもその一撃は空を切った。タイミングは完璧だった。ちゃんと当たる距離から殴った。が、当たらなかった。

 

 当たらなかったのもそうだが、最も驚いたのは黒瀬が突然俺の視界から消え失せたことだ。

 すぐに黒瀬の姿を探し、あっさりと見つける。

 俺の足元だ。

 どういうわけか黒瀬は目を見開いてしりもちをつきながら、左手は前にかざしている。

 ようやく何が起きたのかを遅れて理解した。

 

 おそらく黒瀬はおれが殴りかかろうとしたとき、反射的に一歩身を退いたのだ。そしてあろうことか彼女は床に散乱していた消火剤に足を取られて滑った。

 それが俺の攻撃をかわして視界から消えた理由。

 

 黒瀬もまた予期せぬことに驚いたことに違いない。しかし、黒瀬にとって俺を殺すことのできる千載一遇の好機だ。

 俺が起こした行動が逆に黒瀬を助けてしまったのだ。なんという皮肉だろうか。

 

 尻もちをつきながら、黒瀬が不敵な笑みを浮かべた。あの強力な一撃がまもなく飛んでくる。黒瀬の顔を見ればそれは一目瞭然だった。

 ああ、これは躱せないなと他人事のように思う。

 それだけ黒瀬にとっては完璧な間であり、俺にとっては最悪な間となった。

 

 死ぬ。

 その事実がすぐそこに、目の前まで来ている。

 嫌だ、と思う。

 死にたくないと。

 でも、どうしようもない。

 何の打つ手もない。

 なら、俺は死ななきゃいけないのだろうか。

 

 

 

 違う。そんなの納得できない。

 例え死ななければいけないと決まっていたとしても、俺は生きたいと思う。

 みっともなくても生にすがりたい。

 

「だから、俺は——」

 

 足元から極光が迸った。死の一撃だ。

 

 コンクリートをも容易に貫く絶対の攻撃が来た。

 

 目もくらむ閃光が止んだその時。

 

 俺の右手には暖かな感触があった。赤く煌々と一片の曇りもなく輝きを放つ籠手。それがいつの間にか右手を包んでいる。

 

「龍の手(トゥワイス・クリティカル)!?、神器ですって!?」

 俺が何か言う前に、未だ尻もちをついたままの体制で驚きの声を上げる黒瀬。俺もまた声こそ上げないものの見知らぬ籠手が突然に右手に現れ驚愕する。

 

 黒瀬が先に驚いてくれたので、少しだけ冷静さを取り戻す。

「これがなんなのか知っているのか?」

「神器を有してるなら純血の悪魔ではない。つまり先祖返り、いえ、転生悪魔……なら神器が? いやでもただの龍の手(トゥワイス・クリティカル)なんかに……」

 問うも黒瀬はうわごとのようにつぶやくばかりで俺のことなど全く意に介していない。

 

 いつの間にか戦うなんて雰囲気でもなく、なんだか毒気を抜かれる。

 と、それまでブツブツとつぶやいていた黒瀬が突如背中から倒れる。

「お、おい?」

 思わず声をかけるも黒瀬は反応しない。

 

 不思議に思いながら慎重に近づいて顔を除く。

 玉のような汗をいくつも浮かばせながら息を荒く吐いている。

 尋常ではない様子に、俺は焦った。

 

「おい、どうした!?」

 それまで殺しあっていたことも忘れて、背中に手を回して起き上がらせる。

 背中に手を回すと、ぬるっとした感触がした。

 思わず手を見ると、べっとりと血がついていた。

 

「おいおい、マジかよ」

 あまりに平然としているものだから大したことないのだと思っていたが、その実消火器の攻撃をまともに喰らっていたようだ。

 こんな出血するほどの傷を負っていながらあれほどの立ち回りを見せるなんて、恐ろしいと言えばいいのかそれとも呆れればいいのか。

 

 いや、今はそんなことよりも黒瀬を安静にできる場所に連れて行った方がいいだろう。

 となるとやっぱり病院がいいだろう。事情を伝えるのは少し面倒くさいが背に腹は代えられない。

 携帯をとりにいくと早速電話かけるために、電源を入れる。

 しかし、またしても圏外。

 

 まさかと思い、旧校舎から出ようとするも、渡り廊下も窓からも出ることはできない。なんだったら2階にも行くこともできず1階に閉じ込められている。

「まいったなこりゃ」

 とりあえず閉じ込められている原因をどうにかしないとここから出ることもかなわないらしい。

 

 そして、当の本人はそれどころではないと来た。

「とりあえず起きる間でできるだけの看病してやるか」

 流石にこの状況で殺意全開で行動する気もない。

 

 とりあえず空き教室にあったテーブルを寄せてその上にカーテンを敷いて簡易のベッドを作る。

 ないよりはマシ程度のものだが、今はこれくらいしか用意できない。

 次は黒瀬だが。チラリと右手を見る。この籠手のせいでうっかりすると傷つけてしまいそうだ。

 

「邪魔だなこれ」

 そうつぶやいた瞬間、右手の籠手は光になって弾けとんだ。

 目の前で起きた光景に度肝を抜かされるが、今日一日いろんなものを見ていろんなことが起きた今となっては少し驚かされるだけでそれ以上は何にも思わなかった。

 なんにせよ消えてくれたおかげ右手の自由が利いた。俺は軽く握ったり開いたりして問題ないことを確認すると黒瀬のいる方へ向かった。

 

 黒瀬を抱きかかえるとその簡易ベッドに寝かせてやる。

 少し迷った後に傷の具合をも見るべきだろうと、内心で謝罪してから横を向かせて背中を観察する。

 すると、そこには大した傷は残っていなかった。あれほどの出欠なのだからさぞ深いものと思われたが、まったく傷は見受けられなかった。いや、跡ぐらいはあったがそれくらいのものでいつの間にか塞がったようだ。

 

 いったいどんな原理やらと今日何度目かもわからない驚愕を覚えながら、黒瀬をそっと仰向けにする。

 苦しそうに呻いてはいるが、今すぐどうにかなりそうな状態ではないだろう。楽観的な見込みではあるが。

 やることをやって一つ息を吐く。どっと疲れを自覚する。ピンと張っていた気が緩んだせいだ。

 

 俺も少し休むとしよう。黒瀬と一緒の教室で休むのは少し気が引けるので隣の教室に行こうと考え歩き始めるも右腕に妙な引っ掛かりを覚えた。

 視線を移すと黒瀬が俺の服の袖を掴んでいた。

 

 いつの間に起きたのだろうか、もしかして体を触っていたのもバレていた? 密に肝を冷やすも彼女の顔を見るに意識がはっきりとしたというわけではなさそうだ。

「や、だ……、いか……ないで……」

 

 どうやらただの寝言のようだ。なるべく優しくその手を振りほどこうとしてやめる。

 いったい誰と勘違いしているのかはわからないが、そんな切なそうに言われてはやりづらいというものである。

 

 俺はため息をつくと、近くにあった椅子を引き寄せて座り込む。

 こうなればおとなしく言う通りにするほかないだろう。

 先ほどまで殺し合いをしていたのに変な気分である。

 頬杖をついて黒瀬の顔を見ながら、いつになくゆっくりと流れる時間を過ごした。

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