・本作品は原作小説「ハイスクールDxD」1~25巻及び「真ハイスクールDxD」1~4巻の内容を基に構成しております。ネタバレを気にされる方は十分にご注意ください。
・本作品は原作小説のエロ要素を限りなく薄めシリアス要素が多めとなっております。残虐的表現、鬱要素等が含まれておりますので苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。
あの後俺たちは解散し家に帰った。
黒瀬の家がどこにあるか知らないのであいつが本当に家に帰ったかでは定かではないが。
まあ、あんな激闘だったし黒瀬も大人しく帰ったことだろう。
あ、ついでに言っておくと連絡先も交換した。この先やり取りしないと何かと不便だからね。
帰路に着きながら今日のことを振り返る。
たった一日の出来事のはずなのにすごく濃い時間を過ごした気がする。
あの学園のマドンナと死闘を繰り広げ、悪魔だと言われた。こんなこと普通の人間には味わえないだろう。
もう普通ではないし、なんだったら――。
「俺、もう人間じゃないのか……」
自分の右手を握ったり開いたりしながらその手を見つめる。
実感がなかった。人間をやめたことも、悪魔になったことも。
何もかもが夢で、気のせいでしたと言われた方がしっくりするけれども多分全部本当のことだと思う。
何とはなしに空を仰ぎ見る。日中は曇っていたが今は完全に晴れている。
悪魔になって非常に良くなった視力は、都市の光に灼かれた明るい夜空であってもひっそりと輝く星を捉えていた。ただそれ以上に。
「眩しいな」
星々の明かりを塗りつぶす満月の光が異様なほど目に沁みた。
翌朝いつもの通り大学に行った。
悪魔になったので通っていもいいか不安だったが、黒瀬から学校に通うなと言われることもなく、むしろ今まで通りにしろと言ってくれた。
突然悪魔になってしまったからと言って、これまでの習慣を捨てろと言われてそうできたか自信はなかったので安心した。
そう考えてしまう俺はやっぱりまだ人間なのだろうか。
そんなくだらない自問自答を繰り返しながら、授業を受けていた。
「よっ」
4限終わり、食堂へ向かおうとしたとき肩に手を置かれた。その正体は振り返らなくてもわかる。
「匠か」
「おうおう匠さんの登場だ。ってどうした元気ないじゃん」
「んー、まぁいろいろあって」
「そうか、いろいろか。……ま、ま、まさかお前昨夜は黒瀬さんと一緒だったのか」
「え、あ、まぁな」
ぼんやりとした頭で何も考えず返事をした。
「この野郎、さては大人の階段を上りやがったな!?」
「はあ?」
1人、ヒートアップする匠の様子でようやく我に返った俺は何を口走ったのか気づく。
「いや、まて、違う。そういう意味じゃ」
「悲しいぜ相棒。いつの間に俺たちはこんなに離れちまったんだろうな。夕暮れはもう違う色なんだな」
わけのわからないことまで言っている匠だがもう何を言っても通じないだろう。とういうかお前ちゃんとした彼女いるだろうが。
俺は説得を諦めて話題を変えることにした。
「そういえばさ、最近俺ファンタジー小説にはまっててさ」
「ん? おう。お前が小説なんか読むの珍しいな」
「そういう気分なんだよ。でさ、これがなかなかに面白いんだけどそんなかの1つに悪魔とか出てくるんだけどお前、悪魔とか信じる?」
匠に対して馬鹿正直に俺悪魔になってさーなんて言えない。
黒瀬に口止めされているというのもあるが、そんなことを告白したくなかったからだ。
悪魔であるということを知られたくない。友人であるという関係を壊したくなかった。
同時に、誰かに気づいてほしいというわがままな気持ちがあった。
変わってしまった自分。誰にも何も言えない現状。
そう誰にも言えないのだ。家族なんてもってのほか。自分たちの間に生まれた子供が気づかぬうちに悪魔になってしまったなんて知った日には相当なショックを受けるだろう。
だから親友であるこいつになら。俺が悪魔になってしまっても素直に話を聞いて受け入れて、一緒に笑い飛ばしてくれるのではないか。そんな期待があった。
しかし、匠は一向に何も言わない。いつもなら適当に返してくれるのだが……。
「匠?」
流石に変だと思い声をかける。
「結真。お前何を言っているんだ?」
「え……」
「悪魔なんてこの世にいるわけないじゃないか、急に変なことを言わないでくれ」
その声音には無機質で何の感情も籠っていない。なのに、俺を一歩退かせる迫力が伴っていた。
「そう……だよな。すまん」
苦笑いしながらなんとか言葉を絞り出す。
「ああ、そうだ。二度と俺の前でその言葉を口にしないでくれ」
ニコリともせず、突き放すように言う。
いつもの匠では考えられない対応に知らず俺はたじろいだ。
「ごめん匠。なんか気に障るようなことでも――」
「わり、ちょっと用事思い出したわ。またな」
匠は俺の顔を一度も見ずに、そそくさとその場を後にした。
「匠……?」
呼び止めることもできず俺は去り行くその背中をただ見送るだけしかできなかった。
キンコンカンコーン。
授業の終わりを告げる終鈴が鳴った。
鳴ったが俺には全くその音が届いていなかった。端的に言って上の空だった。
思うのは匠のこと。悪魔という言葉を聞いて変になってしまった親友、陽朝匠についてだ。
いったいどうしたというのだろう。そんな変なことを言ったつもりはないのだが……。
午前中は悪魔について悩み、午後は親友について悩む。折角の授業も頭に入らず悩んでばかりだ。
授業が終わってもやはり考え込んでいると、携帯が着信音を鳴らした。
発信者を見ると、黒瀬だった。少しむしゃくしゃしているところなので無視してやりたくなったが、昨日の今日でそれはまずいのでひとまず応じる。
「もしもし」
「出るのが遅い」
開口一番にそれだ。思わず舌打ちしそうになるがグッとこらえて謝罪の言葉を口にした。
「申し訳ありません」
黒瀬に対しては敬語で。彼女が命じたことだ。思うところがないわけではないが、この程度で黒瀬の機嫌が買えるのなら安いものだと自分を納得させている。
「次は1秒で応じなさい」
「承知しました」
「本題に入るわ、悪魔の仕事について伝えるから着て頂戴。場所は――」
「またここかよ」
目の前には旧校舎。ここが黒瀬が指定した場所だった。
昨日も来て今日も来なければいけない。人の寄り付かないから秘密のおしゃべりにはちょうどいいのだろうが、トラウマのような出来事に直面した場所でもあり、あまり進んでいきたくないのが本音だ。
はぁとため息をつくと。諦めて中へと入る。
旧校舎一階、D教室。そこに彼女は待っていた。
「遅かったわね、3分24秒の遅刻よ」
出会ったのは昨日だが、黒瀬についてわかったことがいくつかある。そのうちの1つは時間にうるさいということだ。
昨日もそうだが、今日も何分何秒と当てつけのように言ってくる。
細かすぎだろと吠えたくもなるが、今の彼女は俺の主なので口答えはしたくない。粛々とお言葉を賜るしかないのだ。
「すみませんでした。お嬢様」
お嬢様とはもちろん黒瀬のことだ。
主に対してお前とは何事だというので仕方なく、言葉を変えることにして思い付きと嫌味を込めてお嬢様といったところ、まあそれならと受け入れたのだ。
なので今後はお嬢様で統一していこうというわけだ。対する黒瀬は俺のことを相変わらずあんたというが……。こちらも気にしてもしょうがないだろう。世の中諦めも肝心なのだ。
「愚鈍な下僕を持つとこうも苦労するものなのね」
まあいいわと付け加えて話し始めた。
「さっきも言ったけど、さっそく今日から悪魔の仕事をしてもらうわ」
「悪魔の仕事……いったいどんな内容なんですか」
「説明するって私言わなかったかしら? いちいち口を挟まないで頂戴」
伝えるとしか言ってないような、というのは野暮だろう。
「申し訳ございませんでした。以後気を付けます」
「ええ、そうして頂戴。鬱陶しいから。続けるわよ、悪魔の仕事はいくつかあるけど今回お願いするのはそのなかで最もオーソドックスなものよ」
そう言うとお嬢様は一枚の紙を取り出した。
「これは悪魔を呼ぶためのチラシ。これを手にした人間に悪魔を呼んでもらい願いを言ってもらう。その願いに対して対価を要求し私たちがその願いをかなえる。いたってシンプルで悪魔らしいシステム。理解できた?」
なるほど、確かに俺が思い描くような悪魔らしいお仕事だ。
「まあ、なんとなくは」
「なんとなくではなく私の言ったことをしっかりと頭の中で反芻して完全に理解しなさい。……このチラシは私の使い魔が配っているからあなたが配る必要はないわ。夜になったら悪魔を必要とする人がチラシを通じてコンタクトを取ってくるからあとは順番に跳んで契約を結べばいいわ」
「承知しました」
「ああ、そうだ。願いによっては当然あんたには叶えられないものあるでしょうから絶対にかなえてやる必要はないわ。あくまでも自身の身の丈にあった内容で契約を結んで」
今、悪魔だけにかっていったら絶対張り倒されるだろうなと思いながら首肯した。
「じゃあこれ、転移用の魔法陣。あとよろしく」
説明を終えると早々に教室を出て行ったので、俺も帰路に着いた。