ハイスクールDxD Lane Age   作:楓栞

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【注意事項】
・本作品は原作小説「ハイスクールDxD」1~25巻及び「真ハイスクールDxD」1~4巻の内容を基に構成しております。ネタバレを気にされる方は十分にご注意ください。
・本作品は原作小説のエロ要素を限りなく薄めシリアス要素が多めとなっております。残虐的表現、鬱要素等が含まれておりますので苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。



9話

 夜になってしばらく経つが例のチラシから呼ばれる気配は一向にない。

 時刻はまもなく23時を回った頃。自室でただ一人待っているというのも退屈なものだ。なにしろいつ呼ばれるかわからないからな。

 

 一応待機時間は午前1時までなので、あともう少しはあるし、悪魔になってから夜に強くなったようで眠くもないので起きていることに支障はない。

 お嬢様の口ぶりから何件か呼ばれるのだろうかと予想していたので少し拍子抜けだ。

 まあ、初日からドカッと来られても1人しかいないのでパンクしてしまうからそっちの方が助かるのだが。

 

 そうしてさらに時間は流れ24時を回った頃。

 魔法陣が淡い光を放ち始めた。転移の予兆だ。完全に自動で飛ぶのではなく、俺が呼び声に応じて飛ぶ仕組みなっている。

 なので、息を整えるくらいの少しばかりの猶予はある。あまり待たせすぎると召喚者が呼ぶのを諦めてしまうので気を付けなければならないが。

 

 俺は1つ息を吐くと覚悟を決めて召喚に応じた。

 魔法陣が大きく広がり、俺の足元に移動する。淡かった光は徐々に輝きを増していき俺を包んでいく。

 光の奔流がさらなる輝きをまとい、消えた時。そこにはもう誰もいなかった。

 

 

 目を開けると、そこは室内だった。

 漫画やゲームのパッケージが所狭しと並べられている。見るだけでTHEオタクのもの。それも趣向からしてまず間違いなく男の部屋だろう。

 その予想はズバリ的中で俺の目の前には男がいた。

 

 ぽっちゃりとしていて無精ひげを生やした見た目だ。

「えっと、召喚に応じて呼ばれた悪魔です。どうぞよろしく」

 俺の召喚者第1号さんだ。ここは愛想よく営業スマイルで話しかけた。

 

「チェンジで」

「なんでえ!?」

 返ってきた言葉は無慈悲なものだった。眉一つ動かさずの即答である。こいつ言い慣れてやがる!?

 おっと、心中とはいえお客さんにこいつはないな。失敬失敬。

 

「なんでって、君男じゃん。悪魔って言ったらこうボンキュンボンなえっろい女でしょやっぱ」

「むぅ、一理ある」

 なんも言い返せねえ。

 

「わかってもらえたようで助かるよ、じゃあさよなら」

「ってちょっと待てい!」

 せっかくのお客さんだぞ! はいそうですかって諦められるか! 初っ端からチェンジなんて言われて帰りましたなんて言ったらお嬢様に殺されるわ!

 

「壁薄いからあんまり大きな声出さないでくれる?」

「あっはい、すみません」

「もういいから帰ってくれるかな」

「い、いやです」

「嫌って言われてもね……君に頼むことなんて何もないんだけど」

「いや、そこをなんとか」

「なんとかって言われてもね。だいたい君何ができるの?」

 

 何がと言われても俺ができることはほとんどないに等しい。

 彼の口ぶりから察するに悪魔を召喚したのは初めてではないようだ。

 ここは先駆者たる同業者が何をしてきたかを探るべきだろう。

 

「ええと、ちなみに今までの悪魔さん方にはどんなお願いを?」

「そうだな、僕ここに来る前は駒王町ってところにいたんだけど、その時は金髪美少女のシスターさんにお話をよく聞いてもらってたかな。あの娘は癒し系でね可愛かったなあ。そうそう、その娘が一度だけ来られない時が合ったんだけど、その時はその彼女より小柄な女の子にお姫様抱っこしてもらった時もあったな。僕のタイプではないけれどなかなかにしびれる体験だったね」

 

 召喚主は実に熱く語ってくれた。悪魔なのにシスター。小柄なのに成人男性を持ち上げられる怪力少女。

 なるほど先輩たちはそうしているらしい。……全然真似できそうにないが。

 残念ながら俺は癒し系ではなく、卑しい系だし大した力もない。

 あまり参考にはならなそうだ。

 

「そういうわけだから、何の特技もない君はお呼びじゃないんだよね。美少女でもないし」

 あっちはもう完全に俺に興味を失くしている。

 だが、俺は先の言葉に聞き捨てならないものがあった。特技がない? ノンノンである。

 俺を誰と心得る。泣く子も黙る悪魔だぞ(もとは人間だけど)。

 俺をただの小僧と侮るのはこれを見てからにしてもらおう。

 

「特技ならありますよ」

「へえ?」

「今からいいものを見せるんでよく見ててください」

「ほう」

 

 おっと、少し興味が出てたようだな。

 いいだろう、ならば刮目しろ俺の雄姿を!

 思い描くは初代マスクドライバーの変身ポーズ。

 説明しよう! マスクドライバーとは元はただの人間だった偽然荒次(ぎねん こうじ)が悪の組織に拉致され改造人間となってしまった後正義のヒーローとなって戦う姿を描いた特撮ドラマである!

 俺はこの特撮ドラマが好きすぎて、手本がなくても素で変身ポーズをとることができる。

 さあ、見るがいい俺の変身を!

 

 シュッ! バッ! 両腕をダイナミックに動かしビシッと止める。

「マスクドライバ~! 変身ッ!!」

 かっちょいいポーズとともに背中から悪魔の翼が現出する。

 フ、決まった。

 

 俺は召喚主に目線を送る。

「……」

 あれ、無言? もしかして滑った?

 れ、冷静に考えてみれば20歳の男が他人の家で特撮ドラマの変身ポーズをとるって非常に恥ずかしいことなのでは!?

 

 今更なことではあるが頬が赤くなるを感じる。穴があったら入りたいとはまさにこのことを言うのだろう。

 焦っている俺を他所に、男は徐に立ち上がった。

 怒らしてしまっただろうかとさらに焦っていると、男は両腕を掲げた。

 

「ッ!?」

 俺は気づいてしまった。それは何者に汚せない男のロマンが詰まった動作であることを。

「マスクドライバ~! 変身ッ!!!」

 堂々とした威風あふれるポーズとともにその言葉放たれる。

 それはまさしくマスクドライバーの変身ポーズ。それも俺がやった初代のものではなく2代目の変身ポーズ。

 

 年の差など感じさせない流麗でいて、大胆な変身ポーズに俺は涙を禁じえなかった。

 召喚主が俺の手をグッと掴む。

「語ろうかっ!!」

 その一言で何もかも十分だった。

「語りましょう!!!」

 年の差だとか、人間だとか、悪魔だとかそんなすべての垣根を越えて俺たちは通じ合ったんだ。

 

 期せずして始まるマスクドライバーの視聴会。流石に全話振り返るとなると時間が足りないが、そこは工夫だ。

 俺たちは互いに名シーンを抜粋して、感想をぶつけあい、時に戦闘ごっこをしながら語り明かした。

 気づけば、夜が明けるほどに。

 

 

「で、そこからどうしたの?」

 翌日。昨晩の成果を報告するため再度旧校舎に出向きお嬢様と出会っていた。

「ええと、それでですね。そのー、本音をぶつけ合った俺たちはそれで満足したというかわかりあえたというか……」

 

 やべえ、喋れば喋るほどにお嬢様の眼力が増していくぞ!?

 言い訳はこれ以上辞めた方がいいようだ。

「つまり、契約は取れなかったってことね」

「えーと、端的に言うとそうなりますね」

「これなんだかわかる?」

「いえ」

 

 お嬢様が取り出したのは封筒だ。

 俺が用意したものでもないので当然わかるはずもない。

「これはね悪魔を召喚してくれた人間にお願いしているアンケートよ。昨晩あんたが行った先の依頼主からアンケートがさっき届いて読ませてもらったわ」

 お嬢様がヒラヒラと封筒を揺らす。

 

「それで、これなんて書いてあったと思う?」

 昨夜熱く語り合った俺たちは心と心で通じる心友になれたはず。その彼が悪しざまにものをいうとは思えないが、お嬢様の表情を見るにあまりいい予感はしない。

「いえ、わかりません」

「なら教えてあげる。『実に充実した時間だった。こんな熱くなれたのは一体どれくらいまえのことだっただろうかと思う。それくらい童心に帰ってしまうほどの熱い時間だった。今回お願いすることは何もなかったが、またいつか出会ってその時はきちんと契約したいと思う』だそうよ」

 

 そんな風に思ってくれていたなんて……。一度あの人を疑ってしまった自分が憎い!

 熱い友情に涙しているころ、お嬢様は冷え冷えとした目で俺を見ていた。その視線に気づき固まる俺。

 

「ねえ、あんた私が昨日なんて言ったかわかる?」

「契約を取ってこい、です」

「で、昨日は?」

「マスクドライバーで盛り上がっていました」

「はぁ? 何それ。あんた言われたこともできないわけ?」

「うっ……すみません」

「謝罪なんかいらないわよ!! あんた悪魔舐めてんの!? 実績がなければだれも認めてなんかくれない、結果がすべての実力主義よ!? 甘えるのも大概にしなさい!」

 厳しい言葉が降りかかる。お嬢様の剣幕におれは冗談を挟み込む余地もない。

「でも、昨日は……」

 

 昨日はもう少しでいけそうな気がしたのだ。実際アンケートの感触は悪くない。このまま関係を構築できればいずれは契約を結びつけることだってできるだろう。

 目の前の利益に夢中になりすぎて、お嬢様は少し冷静さを欠いているのではないかと思う。

 

「昨日はもう少しでいけそうだったなんて言わないわよね?」

 先読みして続く俺の言葉を言い当てるお嬢様。その通りなのでそのまま認めるしかないだろう。

「はい、そうです」

「叶えられないお願いなら叶えなくていいって言ったわよね?」

 その言葉に俺は目を見開く。確かに言っていたからだ。

 

「わかっているようね。ならなんでそうしなかったの?」

 理由はわかっている。お嬢様の機嫌をうかがって欲張ったからだ。

 だが、それを口にすることができず俺は黙ってしまう。

 

「あんた自分が置かれている立場わかっていないようね。いい? 私たちは今不安定な立場にあるの。まともに眷属も作れず、バレれば信用を失い処分されかねない私に悪魔に成りたての出来損ない。これだけ言えば少しは伝わるかしら?」

 改めて言われると相当に危うい立場にあることがよく伝わってくる。知らず知らずのうちに俺は相当なことをしでかしていたようだ。

 

「それはとてもまずいですね」

「ようやく今の状況がわかってもらえたかしら。次命令に背いたら今度こそあんたを私の手で殺す。役立たずはいらない。わかるわね?」

「はい」

「精々私を失望させないよう必死になることね」

 

 

 夜も更けたころ俺は転移魔法陣を前にして不貞腐れていた。

「なーにが私を失望させないようだ、だ! わざわざやってやってるってのに」

 自分の部屋で誰もいないことをいいことに言いたい放題言いまくる。

 匠といい、お嬢様と言い今日は俺を悩ませてばかりだ。

 お嬢様の言いたいことはわかる。俺たちが置かれている状況も悪魔の社会は知らなくてもなんとなくはわかる。だからといってあんなふうに言わなくたっていいではないか。

 

 まさに踏んだり蹴ったり。

 そんな折に再び転移魔法陣が輝いた。

 どうやら呼ばれたようだ。少々気怠いがこれ以上お嬢様に怒られたくもないので仕方なく仕事に取り掛かることにした。

 閃光に身を包まれながら転移した。

 

 

 

 ベッドがあって勉強机がある。ありふれた内装で飾り気はないが、どこかホッとするような暖かみのある部屋だ。

 その部屋に、少女が1人。丸い眼鏡に茶髪のボブカット。小柄な体躯のせいか小動物のような保護欲を掻き立てる雰囲気をまとっていた。

 

 おらそく彼女こそが俺を読んだ依頼主だろう。というかこの部屋に彼女以外いないので消去法でそれしか考えられないんだけど。

「えっと、召喚に応じて呼ばれました悪魔クロセル……の者です、どうぞよろしく」

「あ、うう。よ、よろしくおねがいします」

 俺が名乗りを上げると少女はどもりながらも返事をしてくれた。

 

 見た目からして控えめそうだと思っていたがドンピシャらしい。

「それじゃあ、さっそくですけどあなたのお願いをお聞きしても?」

 男性と話慣れていないのかそれともコミュニケーションが苦手なのかはわからないが、進んで話してくれる雰囲気ではなさそうなので円滑に会話を進めるため俺の方から切り出させてもらう。

 

 やるといった以上にはお嬢様に相応の成果を持っていなければならない。

 俺になんとかなるお願いなら聞く。そうじゃないならそれまで。兎にも角にもスピードが命である。

 果たして、少女の願いはーー。

 

「……」

 少女は何も言わない。正確には何かを言おうとして口を閉じる。それを何回か繰り返しているのだ。

 流石に焦れてきたのでもう一度聞こうとしたところ、ようやくその気になったのか少女は顔を上げた。

 

「あの……その、私を、私を……」

「私を?」

「私を……………………守ってくださいっ!!!」

「はい?」

 予想だにしないお願いに俺は間抜けな声を漏らした。

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