つまりは深いこと考えたら負けです。美少女が笑顔なら神羅万象すべては些末事なのだ。
やぁ。ネガマクスウェルだよ。
トレセン学園で働かせてもらっている正規スタッフだ。ちなみにここの卒業生でもある。当然ウマ娘だ。
何のスタッフかと言われると「色々」である。清掃やったり巡回やったり売店でレジやったり。ご飯作ることもある。トレセンの万事屋とは私のことだ。
軽く自己紹介しておこうか。
私が学園に入った理由は“走るのが楽しいから”。勝とうが負けようが走ってりゃ楽しいしという理由で来て、そして卒業した。
残念ながら大した成績は残せず仕舞いであったので無銘のままだったが、ぶっちゃけそれを苦にするほどプライドがある方でもなかったので大してどうとも思わなかった。同期が同じ境遇で退学したときの方が堪えられなかったくらいだ。
昏い目で涙を流すルームメイトの足元で泣いて喚いて去り際にアドレスゲットしたこともある。退学程度で縁を手放すような女だと思うなよ、面倒臭さは筋金入りだぞ。
閑話休題。私は走るのが好きで、逆に言えば走る以外に大して興味が無かった。強いて言うなら各教科の教科書や資料集を暇つぶしにするくらいには読書好きだったというくらい。何が言いたいかお分かりになったであろうか。
そう。進路に本気で困ってしまったのだ。“ならトレーナー目指せばいいじゃん”とか思ったそこの貴方。ランニングが趣味の人に陸上競技のコーチ勧めるような無理難題を言っているようなもんだと思って欲しい。無理である。私の場合指導者の立場放っぽって自分が走り出すのが目に見えてるので余計ムリなのである。
叶うなら私は一生この学校に居たかった。卒業してもここに齧りついていたかった。そのくらい、それこそ第二の故郷というくらい気に入ってしまったのだ。
なので理事長に頭下げました。
何でもしますって言ったらなんかの枠が余ってたらしく正規で雇ってもらえました。すげぇや秋川理事長。一生ついていきます。
勤務形態は一応8時間の土日祝日年末年始休み。とはいえやること多すぎて残業大量だし休みが潰れることも多い。ぶっちゃけると労働時間だけならブラックもドン引きです。フィジカルが素でバケモンのウマ娘じゃなきゃくたばってたね。フォーエバーウマ娘、5階から飛び降りてもケガ1つしない頑丈な子に産んでくれてありがとう母上。お陰で毎日楽しいぜ。
あと、これが重要なのだが――――
「今日も頑張ってたな」
「ぁ、トレーナーさん……」
んほ^~目の保養。穏やかながら芯のある顔してる新卒成人と頬を染める美少女の絵面だけで残業100時間/月はイケる。これが毎日どころか毎秒補給とかマジ? 一生残業するわ。
おっと申し訳ない、素が漏れた。
御覧の通り私は重度のカプ厨、どんな関係性も栄養素に出来る妖怪である。その気になれば文章にまとめて本に出来るぞ。というかしている。外に出たら不味いという自己判断で絶対秘密の二重底に厳重封印しているがね。ありがとうデジタル君、墓場まで持っていくぞ700ページ5巻(6巻目執筆中)。
そんなこんなで色々ヘルプに入りながら学園じゅう駈けずり回っていると勝手に栄養がチャージされるので幾らでも奔走していられる。家に帰ったら飯食って寝るだけ? 仕事が充実してるのでモーマンタイ。お盆と年末だけは休暇を許してくれ。宝探しの仕事がある。
はてさて、そんなこんなで今日も終業時刻が近づいてきたのだが……残念ながら学園自体がクッッッソ広いので色々やってあちこち行ってりゃ残業3時間はデフォである。まぁ半分くらい移動時間なので見た目よりは案外楽なんだがね。
そのうちの一つがこれである。
「うーっすウインバリアシオンのトレーナーさァん残業監視員でーッす」
「えっ、あっヤバ……」
そう、トレーナーの残業監視。デフォで体力がイカレてるウマ娘ならともかくヒト娘ヒト息子が毎日残業してたら早いうちにぶっ倒れるってもんである。なので理事長とたづなさん肝いりで残業してる連中を時間になったら寮に叩き返す作業を仰せつかっているのである。
ちなみにコイツは残業超過常習犯のひとり。まぁ両手足の指使っても足らないくらい常習犯いるんだけどな。
「ヘイヘイヘイもうお帰りの時間ですよ~。これ以上なんかするんだったら担当に
作戦は勢い重視の追込一本。トレーナーという人間は基本的にデフォで頭がいいので言い訳されかねないタイミングで長考させたら負けなのである。何か持ち出す前に急かして急かして背中を押して帰らせる。そしてマスターキーで扉をガッチャン。
「担当のこと考えて必死になるのは結構ッすけど、それで過労してたら元も子もねェでしょ。普段から休日返上して理事長泣かしてるんだから睡眠時間くらい摂れこんにゃろう共。あ、そんじゃ次の常習犯のトコ行ってくるんで、さっさと帰ってくださいね」
誰にでもここまでするわけじゃないよ? 常習犯組はマジで体調崩すまでやるので力業でやらないと自動労災生成マシーンなのです。そんなに残業したきゃウマ娘になってから出直してきな! お前の担当はお前が8時間睡眠取ったくらいで怒るほどバカじゃないよ! カプ厨の前で女を悦び以外で泣かせる気かい?
ちなみに基本名前を呼ばないのは学園の不文律。ウマ娘という生き物は基本デフォで愛情が重いので好いた相手を他の女が気安く接すると嫉妬するのである。特に私はウマ娘、つまりは同族。競争心が働いて暴走引き起こしやすいので「(担当名)のトレーナーさん」「(担当名)トレ」と呼ぶようにしている。シオントレ、ヴィルトレ、スぺトレ、タキトレって感じで。
そんなことをしていると時刻は夜10時。全員とりあえず帰らせて消灯、施錠まで完璧。最近警備員みたくなってきたな。カレンチャンに口利きしてもらって合気道でも習おうかしら。散弾投石はバイオレンス過ぎて使い道ないのよね。
最後に周囲を巡回しながら寮まで帰っていると、何やら校門に人影。シルエットからしてウマ娘、寮の門限はとっくに過ぎてるだろうに何をしているのやら。
「そこの不審者~? 止まらないと石投げますよー……おや」
「あ、えっと、その……」
黒鹿毛の子だ。たしか高等部の編入生じゃなかったっけこの子。
「どしたぁ? もう門限でしょうに」
「ごめんなさい! その、忘れ物をしてしまって、どうしても取りに来たくて……」
「あーね。OKOK、なら私も付いていこう、言い訳位にゃなるっしょ」
「いいんですか!?」
ぶっちゃけそう珍しい事例じゃない。思春期のウマ娘ってのはアグレッシブだからね。ふと思いついたらどんだけ無茶苦茶でも実行せずにはいられないときってのはままあるもんです。
なら大人として、馬鹿な事してるわけじゃないと見張って証明してやるのも責務だろう。なんか責任の取り方違う気がするけど女の子を一人で夜中にほっつき歩かせるよりマシマシ。
「んじゃちゃっちゃと行っちゃおっか。何忘れたの?」
「えっと、水筒を……」
「あー……」
身に覚えがありすぎるな。1日でも洗い忘れた水筒ってなんか使うの怖くなるんだよね。私は毎晩次亜塩使って消毒してたクチです。
「たぶん教室かな? なるだけ私の隣歩いてね、そこが一番安全だろうから」
「はい……!」
ぱぁっと明るくなる黒鹿毛の子。うーん笑顔がプライスレス。耳ぴょこぴょこしてて可愛い。
◇
「その、ネガマクスウェルさんは……」
「ネガとかウェルとかでいいよ。長いっしょ?」
編入生というだけあって、まだ学園には慣れていない模様。私のこともあんまり知らなかったらしく、まず何者なのかを聞かれた。学園じゅう駆けずり回ってると入れ違いで全く会わない子も居るんだよね。ちなみに私は名前は兎も角顔と髪色で誰であれ学年を見分けられます。
「ウェルさんはここの卒業生なんですよね……?」
「そーそー。理事長に土下座して雇ってもらったクチよ」
「土下……? だ、だったら、その……」
「おん?」
なにやら口をもごもごさせている。まぁ急ぐでもなしと歩きながら待ってあげていると、意を決したように声を上げる。
「その、学生時代、彼氏いたこと……って……あります、か…………?」
「ンフッ……いや無いよ。どした? 恋愛相談かぁ??」
失礼、尊みが口から漏れました。恋愛という言葉に耳が過剰反応し、暗闇でも分かるくらい顔が真っ赤に上気している。あぁ^~たまらねぇぜ。この感じはトレーナーじゃねぇな、同年代と見た。私の
「その、幼馴染が、ですね……とっ友達の話、友達の話なんですけど!」
「おうそうだな、友達の話ね。オッケー聞いたら忘れてあげる」
「あぅ……えと、友達がですね、幼馴染と遊びに行くらしいんですけど……この辺で、なんというか、その、
「おっほ」
「え?」
「何でもないよ。“それっぽい場所”ねぇ……」
ニヤけが止まらんぜよ。いいよねこういうの。いかにレースのための学校とはいえ、通っているのは思春期真っただ中の女の子。こういう惚れた腫れたがあっていいじゃないというのが持論である。幸せは探してみりゃ足元にゴロゴロあるもんなのだよ。その辺、今の生徒会長ちゃんは小難しく考えすぎちゃって苦笑されてたな。担当が付いてからは随分雰囲気も柔らかくなった。
さて、それはそうと。デートに良い場所、と言われてもそんなもん千差万別がファイナルアンサーといつの世も決まっちゃってるのである。カップルが100組いれば100通りのデートプランというものがある。極論一緒に居て心地いいなと互いが思えるならハンバーガー食いに行って終わりでもいいのだ。
だが、今そんなこと言ったって何の解決にもなりゃしない。自分で考えろと突っ撥ねてもいいのだが、それは未経験の初心者にゃちょっと酷に過ぎる。
「キミ……じゃないや、その友達が今買い換えようかなぁとか思ってるものって分かる?」
「え? えっと、普段使いのシューズがちょっときつくなってて……
「OK、んじゃスポーツ用品店でイケる。“私だけのガラスの靴”選んでもらっちゃえ」
「ガラスの……」
「貴方は私の魔法使い、時間限定でお姫様ってね?」
おどけてそれっぽく言ってあげると首筋まで真っ赤になって沈黙してしまった。あぁ^~可愛いんじゃ。友達って体のはずなのにバレちゃってたねぇ!?
が、約束は約束。12時を過ぎたら忘れるとしよう。その前に文字には残すが許してくれ。
ちなみにそのテの話はデジタル先生の大得意。今度文面送り付けて挿絵書いてもらおうかしら。いつかお礼をと言われるが子供から金銭受け取るのはちょっと……キミん家の会社に色々発注してお金落としてるからそっちで許して欲しい。
水筒? 無事に見つかったよ。幼馴染が編入記念でくれたものらしいね。尊さプライスレス。
ネガマクスウェル
髪色:濡羽色の黒鹿毛
身長:193㎝
スリーサイズ:B88、W55、H88(参考:ゴールドシップ)
体重:89㎏ 自慢のフィジカルだ、崇めよ
誕生日 12月26日
座右の銘:天下無敵のカプ厨にして古今無頼のハピエン厨
硬い、強い、あとやたらタフ。プライドと称号以外の全てを手に入れたトレセンの変態。今日も今日とて学園を駆け回る。
ネガマクスウェルのヒミツ その1
実は、投石紐で狙撃ができる。