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名前もなく人もいない、忘れられた土地。
廃墟が立ち並ぶその場所に紛れるように建つ廃ビルの奥に、男…いや、もはや性別すらわからない異形の頭をした何かが立っていた。
その異様な見た目に似合わぬスーツをきっちりと着こなした”黒服”は、送られてきた資料を見て口元を深く歪めた。
「ふむ…”AL-1S”いや、名もなき神々の王女が蘇った…クックック、実に興味深い」
はるか昔、「名もなき神」を信仰する無名の司祭が崇拝したオーパーツであり、世界を滅ぼすために作られた
ゲマトリアが総力をつくしてなお場所も、素性も分からなかったそれが復活した。
本当ならいますぐ自ら研究に乗り出したいたいところだが、”先生”が関わっている以上それは不可能。となれば、外部に調査を依頼するしかない。
「キヴォトス最高の神秘をもつ小鳥遊ホシノとも互角の勝負を見せてくれた彼女なら…面白いものを見せてくれるかもしれませんね」
そうつぶやくと、黒服は”便利屋68”への番号を押した
☆
「みんな〜!依頼が入ったわよ〜!」
公園の寒空の下、アルはまた意気揚々とテントに押し入った。
テントぐらしになった理由は単純。前回の報酬金が支払われず、家賃が滞って事務所を追い出されたのだ。
前回の失敗による影響を現在進行系で受けているカヨコ達は、疑わしげな目をアルに向ける。
「社長…また変な依頼じゃないよね?」
「今回は普通の依頼よ!え〜と内容は…”天童アリス”っていう生徒の情報収集。ミレニアムの1年生で、ゲーム開発部っていう部活に所属してるみたい」
「う〜ん、内容自体におかしなところはないし報酬も普通だけど…このアリスって子、結構な訳ありみたいだね。学生証におかしな点はないんだけど、経歴が不自然」
依頼内容と送られてきた資料に目を通していたカヨコがそんなことをこぼした。
アルは不思議そうな顔をしながら聞く
「え?普通の生徒に見えるんだけど…」
「
「よくわからないんだけど…気をつけたほうが良さそうね」
そうして便利屋68の面々は、ミレ二ア厶サイエンススクールに向かったのだった。
☆
そんなこんなでミレ二ア厶に到着したのは良かったが、いざ調べようとしたら何をするべきか分からない。
とりあえず4人バラバラに分かれて聞き込みをしたが、
「知らないですね」
「ゲーム開発部の子ということしか…」
「そんなことよりこの機械の被験者になるつもりはないかい?」
と碌な証言が集まらない。
被験者云々言っていた人に関しては自爆機能とか恐ろしいことを言っていたのでさっさと逃げた。
「一体どうしろっていうのよー!」
公園のベンチで一息つき、アルは思わず愚痴をこぼした。
おまけに欲望に耐えきれずソフトクリームを買ってしまったので、またしても一文無し寸前だ。
ため息を吐いて空を見上げていると、いつの間にか隣に少女が座っていた。
こちらをじっと見つめてくるので思わず見返すと、少女はぱっと笑顔になり声を張り上げた。
「パンパカパーン!アリスは悪魔とエンカウントしました!」
「誰が悪魔よ!私は陸八魔アル。泣く子も黙る便利屋68の社長よ!…ちょっとまって今アリスって言った!?」
慌てて眼の前の少女をよく見てみると、確かに写真に写っていた子と瓜二つだ。
アルの視線に首をかしげていた少女――天童アリスは、はっと気づいたように言った。
「アリス知ってます!陸八魔アルって人のことをチビメイド先輩が言っていました!」
「えっ!?な、なんて言ってたの…?」
ついにミレ二アムでも噂になったのかと感動したアルだったが、アリスが満面の笑みで答えた内容を聞いて顔を引き攣らせた
「風紀委員長とも渡り合える、ゲヘナ最強格だって!」
——違う。
噂になってほしいのはそっちじゃない。確かに噂になっているが、もっとこう、裏社会とかハードボイルドとか…アウトローな意味で噂になってほしいのだ。
別に最強議論の仲間入りをしたいわけじゃない。
ちなみにアウトローというより戦略兵器的な意味で裏社会で噂にはなっているのだが、アルは知る由もなかった。
がっくりと肩を落としたアルを見て、アリスが何かをひらめいたように顔を上げた。
「アル、私と勝負してください!ネル先輩以外のカンスト勢と勝負して経験値を上げたいです!」
「えっどういうこと!?私何もカンストしてないんだけど…」
「さあ行きましょう!」
「ちょっ腕引っ張らないで…力強!?な、なんでこうなるのよー!」
いくらアルが強いといえど純粋な力比べでアリスに勝てるはずもなく、ズルズルと引きずられていくのだった。
☆
アルが連行されていた頃、ミレニアムの治安組織ことC&Cは慌ただしく動いていた。
”Cleaning&Clearing”という正式名称に違わず敵を”掃除”する彼女たちだが、ゲヘナ最強格こと便利屋68がきたと聞いたときは顔色を変えた。
”便利屋68”あの風紀委員長の空崎ヒナともやりあえる陸八魔アルが率いる、金を積まれたら何でもやる会社。
猛獣が首輪も着けずに放たれているようなものであり、ゲヘナに限らず様々な学園で警戒されている。
幸いアルが善寄り(本人に言ったら怒るだろうが)なため大した事件は起きていないが、仮に彼女たちに目的を持って暴れられたら甚大な被害が出ることは間違いないだろう。
そんな爆弾のような彼女たちがなんの前触れもなく来たとあれば慌てるのは必然だった。
緊急事態と判断したC&Cは、即刻ヴェリタスとセミナーに許可を得て監視カメラで見張っていた。
”
「おい!便利屋の連中…硝煙の
「…!?アリスちゃんにどこかに連れてかれてます!」
「はあ!?」
ネルが思わず素っ頓狂な声を上げた。
最近関わるようになったチビこと天童アリス。何をしようとしているのかはわからないが、
あの二人が接触してもまずろくなことが起こらないだろう。
すぐにC&Cの全員に命令を下す。
「すぐにあの二人を引き剥がせ!何が起こるかわかんねえ!」
「「「「「了解!」」」」」
——ミレニアム最強とゲヘナ最強が今、衝突しようとしていた
☆
ネル達が慌ただしく動いていた頃、アルは——
「やっちゃえアルちゃ〜ん!」
「負けるなアリス〜!」
(なんでこうなるのよ〜!?)
ミレニアムの特訓施設にてアリスと対峙していた。
しかもアリスが呼んだゲーム開発部といつのまにか集まっていた便利屋の面々が観客席に座っている。もう引き下がれ無い。
ちなみに特訓施設はアリスの無断利用である。バレたら間違いなく怒られるだろう。
思わずアルは天を仰いだ。前回のアビドスの一件といいどうして自分はこうも厄介なことに遭うんだろうか。
だが、ここでアリスの戦闘力を計れればクライアントへの報告もしやすい。依頼の一環と割り切り、覚悟を決めた。
「よ〜い…はじめ!」
戦闘開始の合図が響いた。
様子見のため手加減しながら三発の弾丸を撃ち込む。
だが、それでも元はビルをぶち抜く威力だ。普通の相手なら戦意を喪失するだろう。
「ふん!」
だが全てアリスの持つ砲台のようなレールガンに阻まれた。
お返しとばかりにレールガンからいくつもの光弾が飛んでくる。
それを見たアルは避けもせずに爆発弾で迎撃した。
「ひ、光の剣が…!?」
驚愕するアリスに隙を与えず弾丸を撃ち込み続ける。防戦一方のアリスは必死に考えを巡らせた。
生半可な一撃では撃ち落とされる。アルを落とすには最大出力の弾をぶつけるしかない。
だがそれを許すアルじゃないだろう。遠距離でアルに撃ち勝てるとは思えない。
残された手は一つ。——詰める
「アリス、行きます!」
どこかで聞いたような台詞を発しながら一気にアルのもとに突っ込んだ。
だがアルも当然そんなことは予期している。愛銃を振り回し迎撃しようとした瞬間、
——背中に悪寒が走った。
本能に従って飛び退く。その直後、彼女の頭上をかすめて振り下ろされた光の剣が地面を叩き割り、大きなクレーターをつくった。
(危なっ……!)
光の剣の重量は100キロを超える。その一撃を受けていたら、いくらアルでも無事では済まなかった。
必死に避けながら弾を撃ち続ける。だが全て光の剣の射撃に迎撃された。
アルの本領はあくまで遠距離だ。近接手段の銃床殴打が通じないとなると打つ手がなくなる。
近距離での一撃を狙うアリスと、一発撃ち込んだら勝ちのアル。
勝負は膠着状態に陥った。
☆
一方観客席のゲーム開発部達は呆然としていた。
ネル以外でアリスに拮抗できる人がいるとは思わなかったのだ。
「ネル先輩以外でアリスの攻撃をしのげる人がいるなんて…」
半ば驚嘆のようにモモイが呟く。
ただの独り言のつもりだったが、その背後から声が返った。
「クフフ、当然でしょ?アルちゃんはめちゃくちゃ強いんだから」
「キャッ!?」
思わず振り返ると、いつの間にかこちら側にきていたムツキが居た。
「…そんなに強いんですか?」
ムツキの自信ありげな態度に、ミドリが遠慮がちに問いかける。
だが、ムツキは視線を試合に向けたまま、口元を緩めるだけだった。
「ま、ちょっぴりアルちゃんらしいところもあるけどね。でも——」
不敵な笑みを浮かべながら、その言葉を言い放った。
「1対1でアルちゃんに勝てる人間は、存在しないよ」
☆
「光よ!」
可愛らしい声に似つかない凄まじい勢いで光弾が飛んでくる。
なんとか迎撃するがそろそろ腕が限界になっていた。
正直今のレベルの弾だったら当たっても大したダメージは喰らわないだろうが、その隙に出力をチャージされても困る。流石のアルでもあの大きさのレールガンの最大出力を食らって無事に立っていられるかは分からなかった。
だがわざわざ迎撃しているのは、防御のためだけではなかった。
ひたすらアリスの隙ができるのを待ち続ける。そしてついにその時はやってきた。
迎撃のついでに飛んでくる弾を防ごうとして一瞬アリスの体勢が崩れる。
その瞬間、アルは一気にアリスの懐まで詰めた。
遠距離が本領のはずのスナイパーが、わざわざ近距離まで詰めてくる。
それを予想できていなかったアリスはほんの一瞬反応が遅れた。だがアル相手では、それが致命傷となる。
ドンと轟音を響かせアリスの手を撃った。
思わず手を抑えたアリスの手から光の剣が飛んでいき、その隙を逃さず2撃目を腹に叩き込もうとする。
その威圧感にアリスは、初めての”死”への恐怖を感じていた
「止まれ!」
大声にアルが思わず動きを止める。
緊張から解放されたアリスもぺたりと座り込んだ。
その大声の主は、
「派手にやってくれたじゃねえか…便利屋さんよ」
——
次回はネルvsアルちゃん戦です。