この世界のヒナちゃんはちょっと人を頼れるようになってます。
”エデン条約”
連邦生徒会長が設立した、根深い対立関係にあったトリニティ総合学園とゲヘナ学園との実質的な和平条約。
連邦生徒会長の失踪により空中分解寸前になっていたそれは、現ティーパーティー
そして迎えた調印式当日。ゲヘナ風紀委員長空崎ヒナは、責任者の一人としての出席時間が迫るなか、腕を組んだままじっと考え込んでいた。
脳裏をよぎるのは、万魔殿議長にして実質的な上司であるマコトとの会話。
「キキキッ!私達は空を飛んでいくから、貴様らは地べたを這ってこい!」
別にこの程度の嫌がらせはよくあることだ。
いつもならまた馬鹿なことを、とため息を吐くだけだっただろう。
だが、あの時のマコトの声には、いつも以上に喜びが滲んでいた。マコトの性格を考えたら、エデン条約で目立つのが嬉しいからともとれる。
しかし自分たちの出席を邪魔しようとしてきたことを思えば、それだけとは思えない。
どうにも胸騒ぎがした。
「どうされましたか?委員長。そろそろ出発の時間ですよ」
隣で準備を終えたアコが、不安げに問いかける。
ヒナは腕組みを解き、歩き出しながら答えた。
「…アコ、連絡を繋いでほしい人がいるんだけど」
「はい、どちらでしょうか?」
本来、風紀委員長が命じるべきではないその依頼を、ヒナは口にした。
「——便利屋68よ。エデン条約の防衛を依頼する」
「はい、便利屋68ですね…ってえぇ!?便利屋ってあの便利屋ですか!?」
「他にどの便利屋がいるのよ…」
アコが素っ頓狂な声を上げるのも無理はなかった。
風紀委員長が、他人——しかも指名手配されているような集団に仕事を頼むなど、本来ありえないことなのだから。
「何故です!?わざわざ便利屋なんて頼らなくても私達がいるじゃないですか!」
「嫌な予感がする。それに、なにかが起こったときからじゃ遅い。戦力は多いほうがいい」
「しかし…!」
「…先生を、危険に晒したくないの」
その決意に満ちた表情を見て、アコには反論することなどできなかった。
「クッ…!終わったら風紀委員会の全戦力で私が…!」
「馬鹿なこと言わないで。それをやったら万魔殿のタヌキどもと同じ穴の狢になるわ」
調印式への準備が、着々と進んでいるなかでの出来事だった。
☆
一方便利屋は、未だに公園のテントで雨風をしのいでいた。
前回の依頼金は露と消え、新たな依頼もまるで来ない。
暇つぶしと状況把握を兼ねて、エデン条約の配信を4人で眺めていた。
——後に自分たちが巻き込まれるとは露ほども思わずに。
「すごい熱気ね〜」
「そりゃそうだよ。調印されれば歴史に残る条約だからね。ま、実際は上手くいくかどうか怪しいけど」
4人でやいのやいのと騒いでいると、突然アルのスマホがけたたましく鳴り響いた。
もしや依頼かとアルが飛びつく。
はやる気持ちをおさえながら、なるべくアウトローっぽい対応を心がけた。
「はい、こちら便利屋68です。ご要件は?」
『もしもし、こちらゲヘナ風紀委員長空崎ヒナよ』
——その一言で、せいいっぱい作ったアウトロー感は粉々に吹き飛んだ。
「そ、そ、空崎ヒナ!?なんで!?私達まだ何にもしてないわよ!?」
『”まだ”って…はぁ、まあいいわ。あなた達に頼みたい依頼があるの』
どんな依頼かと思わず身構えた。さっきの大声で相手が分かった他のメンバーも息を呑んでいる。
『あなた達に、エデン条約の防衛を手伝ってほしい』
「…防衛の手伝い?」
ついオウム返しになってしまった。
政治に疎いアルでも理解できた。とんでもなく重役な依頼だと。
自分で言って悲しくなるが、場末の便利屋に回ってくるような話じゃないことだけは分かる。
『あぁ、報酬は言い値で払うわ』
「いや報酬以前にそれってとんでもなく重要なことなんじゃないの!?私達に頼んでいいことじゃないんじゃ…!?」
『人手は多いに越したことはない。それに、私はあなた達の戦闘力は買ってるの。特にアルはね』
言っていることは分かるが、今から自分たちが行くのは現実的じゃない。
そう伝えると、ヒナは更にとんでもないことを言ってきた。
『あぁ…今そっちに風紀委員会の車両向かわせてるわよ。逆探知で場所は割れてるから』
「ちょっと!?私達にプライバシーとか拒否権とか無いの!?」
余りにも倫理観をガン無視した発言に、怒りよりも先に呆れが勝つ。
『で、どうする?この依頼、受けるの?』
「受けない選択肢はあるの…?まあいいわ。——便利屋68、その依頼、承りました」
——かくしてエデン条約は、もう一人の”ゲヘナ最強”を巻き込んで動き出した
ここから巡航ミサイルまでは書こうと思ったんですけど、長くなりすぎるのでプロローグとして分けさせていただきました。
明日には1話を出します