最強アルちゃん概念   作:Nikich

7 / 9
その七「エデン条約防衛編 2」

火と灰が降り、瓦礫が辺りを埋め尽くす。

そんな中で戦う生徒は、便利屋の面々だけではなかった。

 

「はぁ、はぁ…キリがありませんね…先生!こっちへ!」

「きゃははははは!もっと、もっとぉ!」

 

トリニティの治安維持組織——正義実現委員会の副委員長、ハスミのスナイパーライフルが火を吹き、敵を撃ち抜く。

その隣で狂気じみた笑い声を上げながらショットガンを乱射しているのは、同じく正義実現委員会の委員長、剣先ツルギだった。

 

本来なら、正義実現委員会のツートップが並んで戦うことはほとんど無い。

だが今はそうも言っていられなかった。

眼前に立ちはだかる敵達から先生を守ることが最優先事項だからだ。

 

——しかし、戦況はじわじわと劣勢に傾いていく。

キヴォトス有数の戦闘力を誇る二人をもってなお押されている理由はただひとつ。

 

今ツルギ達の前に立つのは、過去に消滅したユスティナ聖徒会の”複製(ミメシス)”の一部。  

アリウスの最終兵器の一つであり、戒律を護る者たちだ(・)っ(・)た(・)も(・)の(・)。

 

戒律によって蘇った彼女たちは、それが守られる限り永遠にその役目を果たし続ける。

つまり、この騒ぎの首謀者を倒さぬ限り、どれほど倒しても数は決して減らない。

二人は、無限の兵力を相手取っているに等しかった。

 

一体一体は決して強くはないが、数が多すぎる。

撃つ、撃つ、撃つ、その繰り返しは徐々に精神を蝕んでいく。

そしてついに、均衡が崩れた。

 

”あっ…!”

「先生!」

 

ツルギが目を話した瞬間、先生が瓦礫に足を取られた。

その隙を逃さず複製(ミメシス)が一斉に銃を向ける。

しかし誰も助けに動けない。全員、目の前の敵で手一杯だった。

 

唯一気づいたのはツルギのみ。だが——

 

(今私が撃ったら、先生が…!)

ツルギの強みはショットガンでの広範囲掃射。今撃てば、確実に先生を巻き込んでしまう。

そう考え、彼女もまた動けない。

 

誰もが動けない中、複製(ミメシス)が銃の引き金に指をかける。

——その時だった

 

銃声。

次の瞬間、先生を狙っていた複製(ミメシス)の頭が突如として爆ぜた。

その銃声の主は

 

「助けに来たわよ!先生!」

「くふふ、やっぱり私が必要でしょ?」

 

——”便利屋68”

 

ゲヘナ(地獄)とトリニティ(天国)、二つの最強が今、並び立った。

 

☆

 

謎のユスティナ聖徒会で手一杯の中、ゲヘナきっての要注意団体”便利屋68”が出てきたのを見てハスミは顔を引き攣らせた。

 

「便利屋68…!?何故こんなところに!?」

「落ち着けハスミ、彼女たちは味方だ」

 

銃の引き金に手をかけそうになったハスミを、別人のように冷静になったツルギが押し留める。

そのままユスティナ聖徒会をなぎ倒していくアル達を見て、ハスミも落ち着きを取り戻した。

 

「なぜここにいるのかは分からんが戦力は多いほうがいい。先生を連れて逃げるぞ!」

「その必要はないわ」

 

ツルギの言葉に、後ろから返事が返ってきた。だがツルギにとって、それは気づかぬうちに背後を取られたことを意味する。

瞬時に振り向き、銃を構えた。そこに立っていたのは

 

「空崎ヒナ…!」

「あなたはここに残って指揮を取って。私は先生を連れて撤退する」

 

ゲヘナの風紀委員長を務め、陸八魔アルと並ぶゲヘナ最強を誇る彼女なら先生を託すに足るだろう。 

だが——

 

「お前もボロボロじゃないか…!」

 

彼女はツルギ以上に傷を負っていた。頭や腕からは血が滴り、服はもうボロボロだ。

超人的な回復力を誇るツルギと違い、ヒナはあくまで頑丈なだけ。

一度ついた傷はすぐには治らない。

 

それでも、ヒナの決意は微塵も揺らいでいなかった。

その瞳を見て、ツルギにはもう止めることはできなかった。

 

「…分かった。先生のことは任せる。暴れるのは私の役目だ」

「えぇ…必ず。退路は私がこじ開ける」

 

そう言い残し駆け抜けていくヒナを見ながら、ツルギはにやりと狂気的な笑みを浮かべた。

それを見たハスミも無言で銃を構える

 

「いーひひひひひひ!敵は目の前だ!きゃははははは!」

「…参ります」

 

ツルギとハスミの、もうひと暴れが始まった

 

☆

 

「う〜ん、出てきたは良かったけど、これ私達もやばいよ〜?アルちゃん」

「撃っても撃ってもキリがないわね…!ってハルカ!前!」

 

便利屋68もまた、複製(ミメシス)達との激闘を繰り広げていた。

一体一体は敵ではないが、圧倒的な数の差は埋められない。

撃っても撃っても湧いて来る複製(ミメシス)たちにじわじわと体力を削られていく。

 

そんな便利屋の面々に、駆け寄ってくるものがいた。

その姿は見覚えがある——いや、できれば今は見たくなかった顔だった。

 

「便利屋68!待ってください!」

「えぇ!?アコ!?今あんた達の相手をしている暇はないわよ!」

 

風紀委員行政官——天雨アコ

ただでさえ忙しい状況で、さらに面倒な人物が現れたとアルは思わず顔をしかめる。

しかしアコは肩で息をしながら、声を張り上げた。

 

「今、風紀委員行政官ではなくただの天雨アコとして…便利屋68に依頼を頼みます」

「はぁ!?」

 

アルが素っ頓狂な声を上げるのも無理はなかった。

この状況で一体何を言い出すのか、と眉をひそめる。

だが一切緩まないアコの険しい表情を見て、ただ事ではないと察した。

 

「…内容は何かしら?」

「ヒナ委員長を、助けてください…!」

 

思いも寄らぬ依頼に、アルは耳を疑った。

あのヒナに助けが必要だというのか?

訝しげな視線を向けるアルに、アコは必死の形相で続けた。

 

「今、ヒナ委員長は先生を連れて撤退しています。ですがもう限界です!あれ以上無茶をしたら取り返しがつかない…!でも、私たちじゃ委員長には追いつけない。私じゃあの人は助けられない!」

 

そう叫んだアコは、目を上げ、そして深く頭を下げた。

滅多に見せぬその姿に、アルは思わず動揺する。

 

「ちょっ…!?アコ!?顔を上げて!」

「ヒナ委員長を助けられるのは、あなたしかいません…!お願いです!ヒナ委員長を、助けてください…!」

 

そう言い放ち、頭を下げたまま動かないアコを見て、アルはゆっくりと顔を下げた。

それを見たアコの表情に絶望の色が交じる。

 

「ダメ、ですか…」

「…ムツキ室長、カヨコ課長、ハルカ。社長命令よ。私なしでこの場を維持しなさい。ただし——絶対に無事に戻ってくること」

 

アルの命令に、ムツキ達はにっと笑みを浮かべる。

「社長命令なら仕方ないよね!」

「…了解」

「ア、アル様のご命令とあらば…!」

 

3人が銃を構え直したのを見届け、アルはアコににやりとした笑みを向けた。

 

「アコ、顔を上げなさい。…便利屋68社長、陸八魔アルとして、その依頼——引き受けたわ」

「ありがとう、ございます…!」

 

安堵の表情を見せるアコを一瞥し、アルは走り去ろうとする。だが、アコが呼び止めた。

振り返ったアルに、黒い何かを差し出す。

 

「これを、持っていってください。ヒナ委員長とつながっている無線機です」

「でも、それを渡せばあなたは連絡できなくなるんじゃ…」

「私は構いません。ここで指揮を取るために残ります」

「…分かった。借りていくわね」

 

本来なら手放していいはずがない。

ただでさえ心配なヒナとの連絡手段を、自ら失うのだから。

 

それでもアコは、迷わず差し出した。

 

ヒナへの忠信を知るアルは、その行為に込められた覚悟を感じ取り思わず息を呑んだ。

 

「…ありがとう。必ず、成功させるわ」

「…よろしくお願いします」

 

走り去るアルが視界から消えるまで、アコは頭を上げなかった。

 

☆

 

「はぁ、はぁ…くっ…」

「…ようやく倒れたか、ゲヘナ風紀委員長空崎ヒナ」

 

アリウスの生徒達に、ユスティナ聖徒会の亡霊、そしてアリウススクワッド。

手負いの状態による連戦に次ぐ連戦で、ヒナは遂に倒れ伏していた。

 

(まだ、まだ倒れるわけには行かない…!先生を、助けないと…!)

 

必死に自分を立ち上がらせようとするが、もはや体は全く動かない。

巡航ミサイル落下の時点で動けるのが不思議なほどのダメージを負っていた体を無理に動かした反動が来ていた。

 

「痛かったですよねぇ…、よくあの傷でここまで…」

「トリニティとゲヘナの主要人物はもう全員片付いた。後は貴様だけだ、シャーレの先生」

 

先生に銃口が向けられる。私が先生を守らなきゃいけないのに、先生は私を信じてくれたのに。

先生との思い出が頭を巡る。それでも体は動かなかった。

 

「やめてっ!」

 

ヒナの必死の叫びも届かずに、銃声が響いた。

思わず目を瞑る。しかし、貫かれたのは

 

「…は?」

 

——撃とうとした、サオリの手だった。

 

「ライフル…!?ヒヨリ!警戒態勢!」

「了解で…ッ!?」

 

ライフルを構えたヒヨリのスコープがまたしても撃ち抜かれる。

驚愕に染まるサオリに、救(・)急(・)車(・)が迫ってきていた

 

「先生!乗ってください!」

”セナ!?”

 

救急医学部部長——セナ

反応の遅れたサオリたちの隙を突き、先生を強引に救急車へ押し込んだ。

 

「しまった…!追え!」

「無理だよ。…もう追いつけない」

 

余りにも一瞬の出来事にサオリ達は呆然としていた。

しかし徐々に現実が押し寄せる——計画は失敗したと。

 

サオリ達が呆然とするなか、同じように呆然としていたヒナに無線機の信号が入った。

画面に表示された文字は、アコ。しかし聞こえた声は別のものだった。

 

『ヒナ、聞こえる?先生は無事よ。撃たれる前にセナの救急車に乗せれた。アコから先生の位置情報を受け取ったのは間に合ったみたいね』

「アル…!?なんで!?」

『アコからの依頼よ。あなたを助けてくれってね』

 

あのプライドの高いアコが、便利屋を頼ったという事実に思わず息を呑んだ。

しかしそれ以上に、自分ひとりでは先生を守れなかったという事実が胸に突き刺さる。

 

「アル…ありがとう。あなたが居なかったら、先生を守れなかった」

『当たり前でしょう!仲間なんだから。あなたは人を頼らなさすぎなのよ…でもまだ終わってない。私(・)達(・)で、終わらせるわよ』

 

その言葉に、目が覚めるような感覚がした。

落ち込んでいる場合ではない。戦いはまだ終わっていない。

先生は無事——そして、今度は一人じゃない。

 

(先生の期待に応えるには……まだ遅くない!)

 

拳を握り開き、体がまだ動くことを確かめ、前を向く。まだ動ける。

愛銃”終幕・デストロイヤー”を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。

 

「こいつ!まだ動けるのか…!?」

 

サオリが驚愕の声をあげる。

ヒナは銃を構え、無線の向こうに声を返した。

 

『ヒナ…!?動いて大丈夫なの!?』

「…大丈夫、大事なことに気づけた。ありがと、アル」

『え?私何もしてないわよ?』

 

素っ頓狂な声に、思わずヒナは苦笑する。

銃をしっかりと構え直した。無線の向こうからアルの声が聞こえる。

 

『…分かった。ヒナ、行くわよ』

「えぇ…さっきまでの私とは違うわよ!」

 

——ゲヘナの両翼(最強)が、今対となる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。