聖火の精霊が英雄達を手助けするのは間違いだろうか   作:フェイト・

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ベルの保護者達の登場です。【アストレア・レコード】や【イレギュラー・レコード】を読みながら書いてみました。


10話 最強と最凶

「なっ!」

 

「どういうことだ……」

 

「なんですか、これ?」

 

「森が……死んでる……」

 

「『アンタレス』の仕業だ……」

 

「これを、全部……」

 

「そして、あれが『エルソスの遺跡』……」

 

「あそこに『アンタレス』が……」

 

 

早朝に出発したベル達は目的地を目指して飛竜の背に乗り、空を飛んでいた。谷を越えた先に見えたのは、紫色に変色した森だった。アルテミスの話では『アンタレス』の仕業であることが明かされ、目的地の『エルソスの遺跡』も見えてきた。

 

 

「くっ……」

 

「アルテミス様!」

 

「来る……」

 

「えっ?」

 

 

突然アルテミスが苦しそうに胸を押さえ込む。その姿を見たベルはアルテミスに声を掛けるが、彼女は小さくつぶやいた。

 

 

 

だが……。

 

 

 

「(!!。……なんで?)」

 

 

彼女は感じた。狙いは『アルテミス(彼女自身)』ではなく、『オリオン(ベル)の持っている槍』でもなかった。狙いは……。

 

 

「逃げろ! ヘスティア!、エレン!」

 

「「えっ?」」

 

 

突然アルテミスから『逃げろ!』と言われて困惑する2人。すると、ヴェルフが『よけろぉーー!』と危険を知らせてくれた。空から無数の光の矢が空中を飛んでいたベル達を襲った。4匹の飛竜は全力で回避行動をとり、ベル達も振り落とされないように必死にしがみついていた。

 

 

「ーーーーーッッッッッッッッッッ⁉」

 

「エレン君⁉」

 

 

エレンはヘスティアを守るべく、大盾を上に掲げ、彼女を覆いかぶさるように抱きかかえていた。それでも、1本の光の矢が彼の左肩を射抜き、そのまま飛竜の左翼を貫通した。射貫かれた飛竜は飛行能力を失い、そのまま変色した森へと墜落していった。

 

 

「オリオン!彼女達の所へ。2人を助けなくては」

 

「はい!」

 

 

何とか被弾を避けたアルテミスとベルヘスティアとエレンの2人を救出するべく、飛竜が墜落した場所へと向かった。遅れて、ヴェルフ達も後に続いていった。

 

 

 

***

 

 

 

「神様!エレンさん!」

 

「おーい!べるくーん! ここだよぉー!」

 

「ヘスティア! 怪我は?」

 

「ボクは平気。エレン君が守ってくれたおかげで何とか……」

 

 

墜落場所に降りると、ヘスティアとエレン。そして飛竜の姿があった。ヘスティアは無傷の状態で、エレンと飛竜は先程の光の矢に射抜かれた影響で血で汚れていたが、エレンが回復魔法を使い、すっかりきれいになっていた。

 

 

「(どうして、『アンタレス』はあの子を……)」

 

 

アルテミスの疑問。それは光の矢はエレンを狙って放たれたからだ。『アルテミス(自身)』ではなく、『アンタレス(自分自身)』の命を脅かす『槍』ではなく、『エレン』を狙った理由をアルテミスが理解できないでいると……。

 

 

「気を付けてください! ()()()()()()()

 

 

空から降りてきたアスフィが地上にいたベル達に声をかけた。ベル達の周りには不気味は赤い光が無数に広がり、うごめいていた。360度ベル達を囲うように包囲しており、逃げ場がない状態だった。

 

 

「こいつら、この間の奴か?」

 

「……いえ、大きさも、形も違います」

 

 

ベル達を囲んでいるのは黒い蠍の『モンスター』。しかし、以前見た『モンスター』とは大きさや形が異なり、少なくとも前回の個体よりも強さが上であることは確かである。

 

そんな絶対絶命のピンチに陥っているベル達の所に()()()()()()()()()……。

 

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

「えっ?」

 

 

突然、ベル達を囲んでいた『モンスター』の集団の一部が吹き飛んだ。間髪入れずに次々と、『モンスター』の集団が吹き飛ばされていくが、()()()()()()。確かなのは鐘の音が鳴り響いていることだけだった。

 

 

「この音……。まさか」

 

「ベル?」

 

「あの2人の説得には……。随分苦労しました」

 

 

ベルには何やら心当たりがあるようだが、なんだが怯えているように見えるのは気のせいだろうか?アスフィの方も引き攣った笑みを浮かべており、ヘルメスに至っては、悟りを開いたような顔をしていた。

 

『オラリオ』を出発する際、アスフィがヘルメスをボコボコにしていたのは()()()()()()冒険者依頼(クエスト)を受けてもらうように説得をしに行っていたからである。1人で。

 

正確には気づいた時には主神のヘルメスと神アルテミスの姿が無くなっており、テントの中に『アスフィ。例の一軒家に行って応援を頼んでくれ。頼んだぞ』と書かれた置手紙があったのだ。これを見たアスフィは置手紙をビリビリに破り捨て、『あの糞神!! 絶対にボコボコにしてやるー!』と悲鳴にも似た声を上げていた。

 

 

「おい、あそこ!誰かいるぞ!」

 

 

ヴェルフが指をさす方角から1人の女性が歩いてきた。肩に余裕でかかる灰色の長髪に、場違いのような漆黒のロングドレスを着ている女性。なぜか両目を閉じており、その表情はとても機嫌の悪そうな感じだった。

 

 

「まだ来ます!備えてください!」

 

 

リリが言葉を発すると同時に森の奥から大量の『モンスター』が押し寄せてきた。その数は先程の数を上回る数であり、ベル達が身構えていると、女性が一言……。

 

 

「【炸響(ルギオ)】」

 

 

その一言と同時に、周囲が鐘の音に包まれた。まるで、共鳴するかのように、音は鳴り響き、大量の『モンスター』はあっと言う間に全滅した……。

 

 

「……マジ?」

 

「あの、数を……」

 

「たった一人で……」

 

 

エレン、リリ、ヴェルフがあり得ないものを見たかのように言葉を口に出す。あれだけの数の『モンスター』を瞬殺したのだ。その実力は第1級冒険者であることは間違いないのだろう。ベルに至っては、『蛇に睨まれた兎』みたいになっており、終始震えていた。

 

 

「お、おいベル。大丈夫か?」

 

「ア、アア、ア」

 

「? もしかして、前に話していた、アルフィアおb」「【福音(ゴスペル)】」

 

 

エレンが怯えるベルを心配し、声を掛けるが全く効果はなかった。だが、以前ベルから聞いた育ての親の特徴に似ており、『アルフィア()()()()』と言い切る前に、周囲の視界から消えた。

 

 

「おいベル!」

 

「はっはい⁉」

 

「私を呼ぶときはなんと言えと教えた? ん?」

 

「……アルフィア()()()()()

 

「そうだなぁ、確かに私はそう言えと教えたはずだ。だが、さっきのアレはなんだ?まさか、さっきの奴には『アルフィアおばさん』とでも言ったか? ん?」

 

「……」

 

「……」

 

「すm」ドゴッッ!!

 

 

ベルが『すいませんでしたー!』と言う前にベルの頭からヤバイ音が鳴り、頭の天辺を押さえて悶絶していた。周囲は何が起きているのか理解できていない所を、ヘルメスが解説した。

 

 

「あれは【福音拳骨(ゴスペル・パンチ)】。瞬きの間とかそんな次元じゃない神速の拳で『殴られた』という『結果』だけを残す!」

 

「なんだそれはーー!ただのチートじゃないかぁ!」

 

「しかも、防御も回避も知覚も不可能! 信じられるか? 超短文詠唱より速いんだぜ!」

 

「それはもう拳骨ではない。ただの『凶器』だ」

 

 

ヘルメスの説明にヘスティアが突っ込み、アルテミスはアルフィアの拳骨を凶器認定した。

 

 

「って、そんなことを言ってる場合じゃない!えっと、アルフィア君!ボクのエレン君をどこにやったんだい!」

 

「……誰だ?お前は」

 

「ボ、ボクはベル君の主神のヘスティアだ!」

 

「あぁ、ベルの主神は貴様か」

 

 

アルフィアは閉じていた瞼を開き、オッドアイの瞳でヘスティアを見据えると、フッと。僅かだが口元が笑い、指を差した。その先には木々が無造作に倒れており、奥からエレンが大型の蠍に追いかけられていた。そのサイズはさっきの『モンスター』の2倍以上である。

 

 

「エレンくーーーーーーん⁉」

 

「……驚いたぞ。加減したとはいえ、私の『魔法』を喰らってすぐに動けるとは」

 

 

アルフィアの『魔法』は『音』の『魔法』。不可視の攻撃であり、直撃すれば、三半規管がやられ、平行感覚を失い、まともに歩くことすら困難である。

 

エレンはこれを【スキル】で得た『魔防』での防御力。そして、『精霊』としての高い『魔法耐性』で乗り越えた。

 

 

「助けて下さーーーーーい⁉」

 

 

エレンも反撃として、全力の盾の突撃(シールドバッシュ)を叩き込んだが、ビクともしなかった。だから全力で逃げているのである。『ミノタウロス』より硬い体。下手をすると、Lv.3以上の大物だった。

 

 

ガシッッ!!

 

 

「あっ」

 

 

だが、現実は残酷だった。エレンの逃走は空しく、尻尾の鋏に捕まった。そのままエレンは大型の蠍に()()()()()()()()()()()。【スキル】で得た【ステータス】強化で必死に抵抗するが、ビクともしない。ベル達とはどんどん距離を離されていく。その瞬間……。

 

 

「あれっ?」

 

 

エレンを掴んでいた大型の蠍は突然『灰』に変わった。掴んでいた尻尾の鋏は無くなり、地面に落ちるエレン。顔面から落ちたエレンは鼻を押さえて悶絶するが、エレンの前に黒い鎧を着て、大剣を肩に乗せている大男が立っていた。

 

 

「無事か?」

 

「あっはい。ありがとうございます」

 

 

顔には大きな傷があり、冒険者になって日が浅いエレンでも分かる圧倒的な実力者。森の奥から追加でやってきた複数の大型蠍を大剣で一振りで瞬殺していた。

 

 

「もしかして、ザルドさんですか?」

 

「なんだ?俺のことを知ってるのか」

 

「ベルから聞きました」

 

「青髪に青い眼、お前がエレンか?」

 

「はい。そうです」

 

「そうか、ベルが世話になってるようだなぁ。礼を言う」

 

「あ、いえ、こちらこそ……」

 

 

何だか、見た目の印象とは全く違う感じに戸惑うエレン。先程いきなり『魔法』をぶち込んでくるアルフィアとは、大違いだ。

 

ただ、今の彼女(アルフィア)はとても機嫌が悪いだけなのだ。とある老人の度重なるセクハラを受け、ストレスが溜まっているのだ。そして、ダメ押しの蠍の無限駆除の作業でストレスが臨界点を越えようとしていたのだ。

 

 

「所で、何でこんなところにいるんだ?」

 

「えっと、神アルテミスから冒険者依頼(クエスト)を受けて、ここまで……」

 

「あぁ、なるほど。()()()()()……」

 

「お前達も?」

 

「こっちも似たようなもんだぁ。ヘルメス……。正確にはそこの団長の娘から依頼を受けてなぁ。『アンタレス』討伐に力を貸してほしい。と頼まれたなぁ」

 

 

どうやら、アルフィアとザルドの2人は依頼を受けてここまで来たらしい。正確にはベルの祖父が依頼を受けたみたいだった。最初はアルフィアは留守にする予定だったが、ベルの祖父が嫌な予感がする。と言って彼女も連れてきたらしい。

 

 

「あ! だから、あんなに機嫌が悪そうだったんだ」

 

「正確には、糞爺がアルフィアにセクハラをしまくるのが原因なんだがなぁ」

 

「えっ?ベルの祖父ってセクハラするの?」

 

「あぁ、するぞ。覗きは男の浪漫。とか言ってよく女風呂を覗きに行く」

 

「……まじか」

 

 

その後は無事?にベル達と合流することができたエレンとザルドの2人。アスフィの案内で浸食されていない森に造ってある簡易拠点に案内された。そこには多くの【ヘルメス・ファミリア】の姿があった。

 

 

「おーい、誰かー。ここから出してくれー!」

 

「ん?」

 

何やら声が聞こえる。具体的には助けを求める声だった。だが、簡易拠点いる者は誰一人として、反応しないことに疑問を持っていると、ベルが反応した。

 

 

「えぇぇ⁉ もしかしてお祖父ちゃんもここにいるの⁉」

 

「あぁ、いるぞ。あの糞爺は懲りずにアルフィアにセクハラをして埋められてるぞ」

 

「(埋められている? 比喩表現かな……)」

 

 

流石に人が埋められてることはないんじゃあ。と思っていたエレンだったが声が聞こえる方に行ってみると、本当に埋まっていた。正確には首から下が完全に埋まっている状態だった。

 

 

「お!ベルじゃあないか。久しいな、助けてくれ」

 

「今度は何したの?お祖父ちゃん」

 

「アルフィアと親交を深めるべく、胸を触ろうとしただけじゃ」

 

「その発想力と行動力がすごい」

 

「……誰じゃお主?」

 

「えっと、エレン・エウロギアといいます。ベルと一緒の【ファミリア】に所属しています」

 

「おぉ!そうかそうか。孫が世話になっとるの」

 

「は、はぁ……」

 

「そんな訳で。助けてくれ!掘り起こしてくれ!」

 

「どんな訳で助けるんですか……。どうします?ザルドさん」

 

「ほっとけ、助けたらアルフィアの『魔法』が飛んでくる」

 

「あれ、結構痛いんですよねぇ」

 

「痛いで済むのは大概だぞ、貴様」

 

「あははは……」

 

 

結局、ベルの祖父は埋まった状態で放置されることになった。エレンは【ヘルメス・ファミリア】の団員の治療のため、怪我人用のテントに案内され、回復魔法で治療をしていると、ヘルメスに呼ばれた。

 

 

 

***

 

 

 

「今日、君達は伝説になる!」

 

 

ヘルメスは簡易拠点にいる2()()()()()を除いた、全ての男達を招集した。内容は『覗き』である。

 

 

「いいか、よく聞け! この奥に広がるのは乙女の楽園! リリちゃんやアスフィ達が生まれたままの姿で身を清めている!」

 

「そして、アルテミス! 三大処女神に数えられるアルテミスの一糸まとわぬ姿を見た者はいない! そう、この儂でさえも!」

 

 

なぜか、ベルの祖父も混ざり、ヘルメスと共に演説をしている。

 

 

「オレの夢は1度破れた! だけどオレの心が言っているんだ……諦めたくないって! そして、今、そんなオレには君達が……志を同じくする仲間がいる!」

 

 

感銘を受けて涙を流す者がいる。一言一句漏らさず、羊用紙に書き記すエルフがいる。

 

 

「お主らの眼前に立ち塞がるのは困難の頂だ! だが、これを乗り越えた時、()()()()は後世に名を残すだろう!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「「立ち上がれ、男達よ! 真の英雄となるために!」」

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!」

 

 

盛り上がるは最高潮に達した。多くの男達が真の英雄と成るべく、先頭を歩く、ヘルメスとベルの祖父の後ろに続いていった。その中にはベルの相棒ヴェルフの姿もあった。

 

 

「「天よ、ご照覧あれ! 誇り高き勇者達に、必勝の加護を!」」

 

 

男達は真の英雄と成るべく森の奥へと消えていった。だが、彼らは忘れていた。その泉には『魔女』がいることを……。

 

 

 

***

 

 

 

「……止めなくてよかったんでしょうか?」

 

「構うな。あいつ等はロマンを求めて『覗き(死地)』に行ったんだ。本望だろう」

 

「(……ベル、お前は良い奴だったよ)」

 

 

例外の2人。エレンとザルドの2人は夕飯の支度をしていた。ヘルメスの招集内容を聞いたエレンは嫌な予感を感じ、近くにいたベルを身代わりにして逃走。ベルはヴェルフと祖父によって連れていかれた。

 

無事に逃げることに成功したエレンは夕飯の準備をしていたザルドを見つけ、手伝いをしていた。と言っても、食材を洗ったり、切ったりする程度で、ほとんどザルド1人で調理が完了してしまった。

 

 

「本来ならば数日は仕込みに時間をかけたかったが仕方ない。有り合わせだが、食えはする出来だろう」

 

「有り合わせとは?」

 

 

ザルドの作った料理の数々はどれも、店に出してもおかしくない出来上がりだった。それなのに本人は、なんだか満足できないようで不満そうな顔をしていた。エレンが『マジかぁ』と思っていると、森の奥から()()()()()()()()

 

 

「……アルフィアさんですか?」

 

「だろうなぁ」

 

 

おそらく、覗きに行った英雄達が『魔女』の『魔法』で吹っ飛ばされたのだろうと考えていると、2人の所に()()()()()()()()()

 

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

「「がはぁっ⁉」」

 

 

音の塊が2人を直撃した。森の奥から白いタオルを巻いたアルフィアが歩いてきた。水浴びをしていたのだろうか、所々まだ濡れており、見た目の美しさも相まって妖艶な雰囲気を出していたが、2人はそれどころではなかった。

 

「!? なんのつもりだ!アルフィア!!」

 

「とぼけるか。水浴びを覗きに来る害虫共め」

 

「自分達は覗きに行ってないです⁉」

 

「黙れ!!ベル以外の男なんざ同類に決まっている。よって、私の粛清は何も間違ってない」

 

「「理不尽!!!」」

 

「【ゴスペル(煩い)】」

 

 

追い打ちと言わんばかりに、音の塊が再び2人に直撃。アルフィアも多少溜飲が下がったのか、森の奥へと消えていった。

 

 

「……無事か?」

 

「……何とか、ですけど」

 

 

エレンは回復魔法で体を癒し、なんとか起き上がった後、ザルドの治療を始めた。エレンは『モンスター』の襲撃に備えて大盾を背負った状態だったので、【スキル】が発動していて何とか無事だった。

 

 

「しかし、お前も随分頑丈な奴だなぁ」

 

「そうですか?」

 

「アルフィアの『魔法』を受けたら、大抵の奴はまともに動くことはできん」

 

「ザルドさんだって動けるじゃないですか」

 

「俺は慣れだ」

 

「慣れで何とかなるものなんですか⁉」

 

「……」

 

「? どうしました?」

 

「お前は『()()』か?」

 

「はい?」

 

 

エレンの回復魔法で治療中にザルドがエレンに訊ねる。いきなり『精霊か?』と、聞かれたエレンは困惑するが、ザルドは言葉を続けた。

 

 

「俺は少し鼻が利いてなぁ。匂いで大抵のことは判別できる」

 

「匂い……」

 

「あぁ、そして、お前からは『()()』の匂いがする」

 

「『精霊』の匂い?」

 

「『ヒューマン』の匂いもするが、『精霊』に匂いもする。言ってしまえば『ハーフ』みたいな感じだなぁ」

 

「……」

 

 

エレボスがエレンに施した『認識阻害』は『下界の住民』、そして、『神々』が対象になっている。対象外なのは『精霊』や、ほんの1部の『モンスター』である。

 

だが、例外が存在した。ザルドは『悪食』を極めている影響で、獣人以上の嗅覚を得ている。その鼻で相手の種族を割り当てることはもちろん。相手の感情もわかってしまう程である。

 

ザルドも元々は『オラリオ』の冒険者。『オラリオ』でも下位ではあるが、『精霊』との好意的な関係を持っている。そのおかげで、『精霊』の匂いなども覚える機会があった。

 

結果、『認識阻害』の抜け穴というべき、『匂い』で、エレンの正体にザルドは気付くことができたのである。

 

 

「(……心当たりは、()())」

 

 

エレンも心当たりがある。エレンの体は前世とは違う。それに転生させてくれた邪神様は「体を()()()()」と言っていた。邪神様は特に何も言ってはいなかったが、エレンが気づいていないだけで、『精霊』であってもおかしくはないと考えた。

 

 

「(これ、なんて答えればいいんだ……)」

 

 

ザルドの質問にどうやって、答えようとした瞬間……。地面が大きく揺れ、近くの『遺跡』が大破、そこからとてつもなく巨大な蠍が2人の前に現れた。

 

 

 

***

 

 

 

「何やっているんだい、ヘスティア。こんなところで」

 

「! た、ただの散歩さ。少し眠れなくてね」

 

「へぇ……使えない『槍』を持ってかい?」

 

 

滝のすぐ近くで『槍』を持ったヘスティアを、なぜかボロボロの恰好のヘルメスが声をかける。ヘスティアはベルがいない間にテントに置いてあった『槍』を持ち出していたのだ。

 

 

「ベル君を捜さなくていいのか? 今頃、2人っきりかもしれないぜ?」

 

「よく言うよ。ずっとそう仕向けていたのは君のくせに……」

 

 

ヘルメスはあの手この手で。ベルとアルテミスをくっつけていた。それは1つの目的の為……。

 

 

「2人の心が通じるほど、『槍』の()()()()()……」

 

「っ……⁉。本当に、本当にこの『槍』じゃなきゃダメなのか」

 

「ダメだ」

 

「っっっっっ⁉」

 

「……アルテミスから、聞いたはずだ。もう時間がないんだ。このままでは、『()()』は消滅してしまう。何より、アルテミスの眷属(こども)()()()()()……」

 

 

アルテミスは『アンタレス』に()()()()()()()()。今ベルと一緒にいるアルテミスは、『アンタレス』に取り込まれた後、残された力を使い、『天界』から召喚した『矢』に宿るアルテミスの残り滓だ。

 

神の力(アルカナム)を得た『アンタレス』は、主神アルテミスが刻んだ神の恩恵(ファルナ)を通じて、アルテミスの眷属達の『魔力』を吸い続けている。そのせいで、彼女達は、重度の精神枯渇(マインド・ゼロ)の状態。この状態が続けば、命に関わってしまう。

 

 

「だってッ!! 今のアルテミスは……昔と違って……違うけど……すごく……これじゃあ、アルテミスが……可哀そうだ……!!」

 

「……だから『矢』を沈めようとしたのかい?」

 

 

ヘスティアは大粒の涙を流し、その場に崩れ落ちてしまった。今ヘスティアが持っている『矢』は『神造武器』。それは『不滅』の存在。神々をも殺す『武器』。

 

今の『アンタレス』は『モンスター』であり、『神の力』を手にしている『矛盾を孕んだ災厄』。しかも、『アンタレス』は『力ある古のモンスター』。その特徴は、その身を漆黒に包み、『神の力』を無効化する……。『ダンジョン』が後出しで生み出した()()

 

『神の力』を有している以上、『眷属』達の力は通用しない。『力ある古のモンスター』である以上、『神の力』は通用しない。

 

3すくみのカードの内、『神の力』と『力ある古のモンスター』の2枚のカードを持っている。そんな矛盾を孕んだ存在を打ち倒す為に、彼女(アルテミス)は『アルテミスを必ず殺す』という因果を持つ『矢』。『オリオン』をこの地に召還した。

 

そして、残されたカード。『眷属』に『矢』を持たせて、『神の力(アルテミス)』を手にした、『アンタレス』を射抜こうとしていた。たとえ、彼女(アルテミス)が死ぬことになっても……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にそうか? ヘルメス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……()()()

 

 

そんな2柱の会話に入ってきたのは、ヘルメスと同じボロボロの状態で現れたベルの祖父。その名を『ゼウス』。15年前に『オラリオ』に君臨していた最強の派閥【ゼウス・ファミリア】の主神である。

 

 

「久しいのぉ、ヘスティア。孫が世話になってるようで、礼を言うぞ」

 

「……やぁ、ゼウス。ヘルメスから話を聞いたときは耳を疑ったよ」

 

 

以前、18階層に向かっている時に、ヘルメスから聞いた話、ベルの祖父の名はゼウス。しかも、『神威』を完全に消し、『神』であることを秘密にして、今まで一緒に暮らしていたと言うのだ。そして、それは今も続いている。

 

 

「ヘルメス、本当にアルテミスを助ける方法はないのか?」

 

「……」

 

「お前は3すくみの残りのカード。『眷属』のカードに『矢』を持たせて『アンタレス』を討つ。そう言ったなぁ」

 

「……あぁ」

 

「だが、()()()()()()()()()()。それを忘れていないか?」

 

「……」

 

 

『眷属』のカード。それは『下界の住人』を指していた。『矢』に選ばれたベルはヒューマン。他も、エルフ、ドワーフ、パルゥム、獣人、アマゾネスなど多種多様だ。言ってしまえば、『眷属』のカードには()()()()()()()()()

 

 

「……確かにアルテミスを()()()()()()()()。限りなく0に近い可能性。『理想』と言ってもいい、可能性が……」

 

「⁉ ヘルメス!その可能性って何だい⁉」

 

「……『精霊』か?」

 

「あぁ」

 

「!!」

 

 

『精霊』は『神の分身』、『神に最も愛される存在』と言われているが、()()()()()。現に今まで『アンタレス』を封印していたのは、アルテミスの系譜の『大精霊』。『精霊』ならば、矛盾を孕んでいる『アンタレス』にも対抗できる。

 

 

「だが、ただの『精霊』じゃあだめだ。『()()()』であることが絶対条件だ」

 

「へっ?」

 

「それに、()()()()()じゃ。アルテミスの話では、引き剝がせない浸食されているそうだの。それを引き剝がす程となると『聖火』を司る()()()()()()()()である必要がある」

 

「えっ?」

 

「この条件をクリアするのがアルテミスを救出する絶対条件だ。だが、そんな都合よく探し物が見つかるほど、時間は残されてなかった。だから、除外した」

 

「それに、今の下界に『大精霊』がいるのかどうかすら、怪しいしのぉ」

 

「……」

 

 

ヘルメスとゼウスが深刻そうな表情で話をしているが、ヘスティアだけ呆然としていた。だって()()()()。その条件に当てはまる者が、自身の眷属にいるのだ。正確には力の半分もないが『大精霊』であることに変わりはないのだ。

 

 

「……いる」

 

「「んっ?」」

 

「いるんだ!その条件をクリアしている子が!」

 

「「はっ?」」

 

「エレン君だよ!今まで黙ってたけどっ!エレン君はボクの『精霊』。ちょっと違うけど、『大精霊』なんだ!!」

 

「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ⁉」」

 

 

まさかの情報。ヘスティアの眷属。エレンが『大精霊』であることが明かされて、驚愕の声を上げるヘルメスとゼウス。だって、気づかなかったのだ。

 

 

「だから、エレン君ならアルテミスを助けるk」

 

 

ヘスティアがアルテミスを救出できることを告げる前に、地面が大きく揺れ、大爆発が起きた。発生源は『エルソスの遺跡』。大量の土煙が立ち込めているが、()()()()()()()()()()

 

 

 

***

 

 

 

 

「なんやて! 『オラリオ』から出られへん⁉」

 

「どうやら【ギルド】の命令らしい。『オラリオ』の中にいるように厳命されてしまったよ」

 

「うちらは『港』に用があるっちゅーねん」

 

「当然、中止だね……」

 

「何してくれんねん、【ギルド】の連中! こっちは『グランド・デイ』の前に『港』に行きたいちゅうのにーー!」

 

 

ベル達が『オラリオ』を離れている間に異変が起きていた。『ダンジョン』は立ち入り禁止の状態になり、【フレイヤ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】を中心とした実力のある【ファミリア】は例外なく『オラリオ』の『外』に出ることが出来なくなっていた。

 

無論、【ロキ・ファミリア】は『オラリオ』の『外』に用があったが、【ギルド】側は、『神ウラノスの神意に行動している』と言うばかりで話にならなかった。

 

 

「(僕達を『外』に出したくない理由……。『ダンジョン』の封鎖と関係があるのか?)」

 

 

【ロキ・ファミリア】の団長。フィン・ディムナは主神ロキの愚痴を聞きながら、思考を続けていた。

 

 

「(……何より、親指がうずく)」

 

 

何より自身の最も信頼している『親指』の疼きが止まれないのだ。この『親指』の疼きのおかげで、今まで幾度となく危機を察知すろことができた。そんな『親指』の疼きを感じていると1人の団員が執務室に飛び込んできた。

 

 

「だ、団長!! 緊急事態っすぅー!」

 

「ん?どしたん?ラウル。そんなに慌てて……」

 

「【ギルド】から緊急招集っす、ダ、『ダンジョン』が暴走!全ての『モンスター』が『地上』を目指して、大移動を始めたとの報告がっ!?」

 

「なんやてっ!?」

 

「……僕らを『オラリオ』から出さなかったのは、この為か……」

 

 

『ダンジョン』の暴走。『モンスター』の地上進出。これほど最悪のシナリオは存在しないだろう。

 

 

「ラウル。全ての団員達に通達。完全武装で『バベル』に集合だ! 急げ!!」

 

「は、はいっす!!」

 

「……頼むで、フィン。『モンスター』の地上進出は何が何でもそs」

 

「無論、そのつもr……。どうしたんだい?ロキ」

 

 

ロキが突然しゃべるのをやめ、窓の外を見て固まってしまった。フィンもロキと同じく窓の外に視線をやると固まってしまった。視線の先には『月』が弓矢のように『矢』を引いているのだ……。




ここまで読んで読んでくださりありがととうございます。

ベルの保護者。アルフィア、ザルド、ゼウスの登場でした。

アスフィは原作とは違い事前に『神殺し』しか方法がないことをヘルメスから聞いています。そして、『槍』がベルを選んだこと知り絶句していました。(なお、彼女は主神を宣言通り『生贄』として『魔女』に捧げて難を逃れました)

ゼウスに関しては、『原作』や『イレギュラー・レコード』では亡くなっていることになっていますが、エレンのメイン武器の関係で現存する流れを採用しました。(そんなに出番はないと思いけど……。)

アルフィアがヘスティアを見て笑ったのは、ヘスティアが少なくとも善神であることをすぐに見抜いて内心ほっとしたからです。

エレンの『魔法耐性』については『精霊の残骸』を参考にしています。ちなみにエレンは性能は高いですが、戦闘能力はそんなに高くないので割と戦闘は苦手です。

「えっ?盛りすぎなんじゃ……」と思っていると思いますが、『精霊』なんで大丈夫です。エレンよりやばい『精霊』なんてたくさんいますし。

ザルドの嗅覚ですが、『イレギュラー・レコード』でベルの感情を嗅ぎ取っている所を見て、投稿主の解釈で書いてみました。あとは一部の『モンスター』にとても懐かれます。

3すくみのカードについては、『ダンクロ』のオリオンの矢。祈祷の間で話していた内容を読み、考察して書いてみました。
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