聖火の精霊が英雄達を手助けするのは間違いだろうか   作:フェイト・

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11話 女神を喰らった蠍

「……まさか、アルテミスが喰われ、『力』を奪われるとは」

 

 

場所は『天界』。とある処女神が住んでいた【神殿】で『鏡』を使い、『下界』の様子を観察している男神がいた。その名はエレボス。エレンを転生させ、『下界』に送り込んだ神であり、エレンの『体』を作って神でもあった。

 

 

「何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、誰が予想できるか……」

 

 

『神』が『力ある古のモンスター』に取り込まれる異常事態(イレギュラー)だけでも前代未聞なのに、『力ある古のモンスター』が喰われる。()()()()()()なのだが、だれが予想できたことか。

 

 

「あれはもう、『災厄の蠍(アンタレス)』とは呼べないなぁ。『神』を喰らった怪物……。『女神を喰らった蠍(ギルタブルル)』と言ったところか」

 

 

【神殿】の一室で呑気にワインを飲みながら、『鏡』を通して己が送り込んだ『半精霊(エレン)』の様子を窺っていた。『女神を喰らった蠍(ギルタブルル)』は()()()()()()()()()()()()()鎧を着た大男(ザルド)のおかげで捕まらずにいるが、時間の問題。何よりザルドも苦戦していたのだ。

 

 

「単純に同胞(エレン)を求めて……。いや、違うな。目的は『半精霊』としてのエレンか」

 

 

あの『女神を喰らった蠍(ギルタブルル)』の目的はエレン。恐らくは捕食。『アルテミス()』や、その眷属たる『大精霊』を喰っておきながら、次は『エレン(半精霊)』とは……。随分食いしん坊なのだろう。

 

 

「何より、『精霊』が()()()()()()()()()()()()なんて……。これも『下界』の『未知』か?」

 

 

女神を喰らった蠍(ギルタブルル)』はエレンと同じ『精霊』だった。だが、その顔は()()()()()()()()()でありエレボスも微妙な表情を浮かべていた。大の恋愛アンチの彼女があんなに嬉しそうな顔でエレン()を追いかけているのだ。

 

文脈だけで見れば、多くの男神達はエレンを呪い殺すぐらいの嫉妬を覚えることだろう。だが、現実は超巨大な蠍に追い回される悲惨な状況。これを目撃した多くの男神はエレンを憐れむだろう。

 

 

 

***

 

 

 

「おい!エレン。お前なんで()()に狙われているんだ⁉」

 

「知りませんよ⁉理由なんてこっちが知りたいぐらいなんですけど!!」

 

「なら聞いたらどうだ!あれは()()()()()()。答えてくれるんじゃないか?」

 

「えぇぇ⁉ な、なんで!自分を狙うんですか?自分美味しくないですよぉーー!」

 

 

エレンはザルドに担がれる形で逃げている状況。夕食の準備をしていた2人のすぐ近くの『遺跡』が突然、大爆発が起き。()()が現れたのだ。現れた瞬間エレンを襲い、近くにいたザルドのおかげで何とか危機を脱することはできた。

 

ザルドも反撃とばかりに近くに置いていた大剣で斬りかかるが、傷は瞬時に()()()()()。次の瞬間。蠍型の『モンスター』の大量発生。そこに()()()()()()()()をした『モンスター』が大量に出てきた。

 

 

 

何より、ザルドが最も苦戦したのが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【突キ進メ雷鳴(ライメイ)(ヤリ) 代行者タル我ガ名ハ雷精霊(トニトルス) (イカズチ)ノ化身 (イカズチ)女王(オウ)ー】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ⁉ またか⁉」

 

「あわわわわわっ!!!」

 

 

 

()()は『魔法』を放つのだ……。

 

 

 

「【サンダー・レイ】」

 

 

解き放たれるのは豪雷の大矛。雷鳴の轟きを鳴らしながらザルドとエレンを飲み込もうとしていた。ザルドはエレンの持っていた『大盾』で防ごうとしていたが、()()()()()()()()()()()、ボロボロの状態。二度目の砲撃をとても防げそうには無かった。そんな状態で『魔法』の直撃を受ける瞬間……。

 

 

「【魂の平静(アタラクシア)】」

 

 

『魔法』の迫力に思わず目を瞑ってしまったエレンだったが、()()()()()()()()が聞こえた。目を開くと、アルフィアが右手を前に出した状態で立っていた。突き出された右手の先でなぜか『魔法』がかき消されており、アルフィアは無傷の状態。その後ろにいたザルドとエレンも無傷に状態で助かった。

 

 

「耳ざわりな『雑音』が響いていると思えば、これはどういうことだ?」

 

「知らん。こっちはいきなり襲われた。あれが『アンタレス』じゃあないか?」

 

「聞いていた話と全く違うぞ?」

 

 

普段は両目を閉じているアルフィアだが、珍しく両目を開きオッドアイの瞳で『魔法』を放った存在を睨みつけていた。彼女達が聞いていた『アンタレス』は蠍の『モンスター』。しかし、()()を蠍と呼んでもいいのだろうかぁ。確かに下半身は蠍だ。ただ、上半身は……。

 

 

「エレン、大丈夫?生キテル?」

 

「……」

 

「アハッ、良カッタ。生キテル。良カッタ」

 

 

超巨大な下半身とは正反対に上半身は人1人分ぐらいのサイズだった。そして、そこには上半身に()()()姿()がいた。なぜかエレンのことを知ってる。()()()()()()()()、『魔法』を放ってくることに驚いた。

 

 

 

何より……。

 

 

 

「……アルテミス様?」

 

 

エレンが喋ってくる存在に無意識に()()()()の名を口に出した。上半身の人型が神アルテミスにそっくりなのだ。正確には似ているのは姿、形だけで人型の全身は下半身の蠍同様。漆黒に覆われておる。

 

 

「会イタカッタ。会イタカッタ。女神様ヲ通ジテ、ズット見テタヨ」

 

「(女神様……? もしかしてアルテミス様のこと?)」

 

「貴方ノ『火』ハトッテモ奇麗(キレ)イ、トテモ奇麗(キレ)イ」

 

「……さっきから、アレは何を言ってるんだ?」

 

「『火』……。エレンの回復魔法のことか?」

 

 

アルフィアは先程からの会話の内容をイマイチ理解できずにいて、ザルドは()()が言っている『火』はエレンの回復魔法のことではないかと予想を立てていた。だが残念ながら、()()が言っている『火』はエレンの体の半分を構成している『ヘスティアの火』を指していた。エレンの回復魔法。【聖なる火よ(セイクリッド・フレア)】は『ヘスティアの火』のほんの一部分でしかないのだ。

 

 

「ソレニ貴方、()()()()()()()()()。ダカラ、貴方ノ『火』ヲ、私ニ頂戴?」

 

「えっ?」

 

 

聞き間違いであってほしい言葉が聞こえたが気のせいだろうか。いや、気のせいだ。気のせいであってほしい。ザルドが憐みの視線を送り、アルフィアに至っては『美味そう? こいつが?』と言っているが気のせいに違いない。幻聴に違いない。

 

 

「ダカラ、貴方モ、一緒(イッショ)()リマショウ⁉」

 

「は?」

 

 

またしても、聞き間違いであってほしい言葉が聞こえてしまった。すると、アルテミスの形をした人型の何かは、両手を両頬に添えて、最後に言葉を放った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方ヲ、()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃいいいッ⁉」

 

 

三日月の不気味な笑みを浮かべ、エレンを凝視しながら『食ベサセテ?』の言葉に思わず悲鳴を上げるエレン。何よりとても短い間ではあったが、アルテミスと共に過ごしたエレン()だからこそ、()()の不気味さはより極まっていた。

 

 

エレン(こいつ)が美味そう?正気か?『モンスター』に何を言っても意味はないだろうが、やめとけ。腹を壊すぞ」

 

「遠回しに不味いっていうの止めてください!さすがに傷つきます!!」

 

 

アルフィアからの『くそ不味いぞ』と評価されたことに異議を唱えるエレン。ザルドはエレンの肩に手を置き『……あまり気にするな』となんとも言えない表情でエレンを慰めていた。

 

 

「無事でs、てっ、何ですか?アレはぁぁぁぁぁぁ⁉」

 

 

そんなに非常事態にする会話と思えない内容をする3人の元にアスフィを含めた【ヘルメス・ファミリア】が到着した。団長のアスフィも最初の『遺跡』への侵入時に『アンタレス』を目撃しているが、目の前の存在とは姿が変わっているのだ。

 

 

「【ヘルメス・ファミリア】か。ちょうどいい。お前達、エレンを連れてここを離れろ。アレの目的はエレン(コイツ)だ。しっかり守れよ」

 

 

ザルドの言葉にすかさずアスフィは『喜んで』と言って速攻でエレンの首根っこを掴み、ほかの団員達と共に撤収した。撤収する彼女達を大型の蠍の『モンスター』や極彩色の植物型の『モンスター』が阻むが、武器、魔法、魔剣、連携を駆使して討伐。返り討ちにしていた。

 

 

 

それでも、()()はエレンの逃走を許さなかった……。

 

 

 

「逃ゲルノ?エレン……」

 

 

アスフィに引きずられる形で自身から遠ざかっていくエレンを()()は見ていた。せっかく会えたのにすぐにお別れするのは寂しい。だから、()()()()()使()()()()()()()。下半身の蠍の部分。黒い甲殻で覆われていた胸部が()()()()()()()()()()。その胸部に青い巨大な水晶が埋め込まれており、そこには()()()()()()姿()()()()()

 

 

「何っ⁉」

 

「ちっ⁉ どういうことだ」

 

 

水晶の中にいる女神の姿はザルドとアルフィアは驚きの隠せずにいた。何しろ2人は知らないのだ。その女神はベルと共にここに来た。何なら、今のベルと一緒にいるのだ。2人の攻撃が一瞬緩んだ瞬間をアレは逃さずに、2()()()()()()()()()『月』に向けて、『詠唱』を始めた。

 

 

暗闇(クラヤミ)ヲ照ラスノハ月の光 降リ注グハ女神ノ(ナミダ) 代行者タル我ガ名ハ月精霊(セレーネー) (ツキ)ノ化身 (ツキ)女王(オウ)】」

 

 

紡がれるのは『月』の名を冠する『魔法』。月の光と同類の光を放つ魔法陣(マジック・サークル)を解き放つ存在。短文詠唱にも関わらず、注がれる『魔力』は規格外の規模のものだった。その名を……。

 

 

「【月の涙(ムーン・アロー)】」

 

 

空高くから降り注ぐのはエレン達を襲った光の矢だった。ザルド、アルフィア、【ヘルメス・ファミリア】、大量の『モンスター』を巻き込んだ、光の矢の雨が降り注いだ。

 

 

 

***

 

 

 

「鬨を上げろ! ()()()()()()()()()()()()()

 

 

『ダンジョン』の暴走の対応するべく【ロキ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】は()()()()()()()()()()、12階層。『中層』に繋がる連絡路を目指していた。本来なら、派閥のランクが『S』ランクの実力を持つ彼らなら大した問題にはならない階層だったが、今の『ダンジョン』は()()()()()()

 

 

「ちぃっ、()()()かぁ⁉」

 

 

12階層に入った途端、その光景を目にした【ロキ・ファミリア】の第1級冒険者。Lv.6になった。ベート・ローガは苛立ちを覚えた。そこには本来なら『下層』にしか現れない『モンスター』の軍勢が地上を目指して、こちらに向ってきているのだ。

 

 

「『スピノアックス』、『アルマルサウルス』、『シャドーラプトル』に『ゲイルプテラ』」

 

「『ヴェノケラトプス』に『ダイナス・ロックヘッド』もいる。あっ、『ブラッドサウルス』もいる……」

 

 

ベートの後に続いてきたのは、アマゾネスの双子の姉妹。ティオネとティオナの2人だった。彼女達もLv.6になっており、自信満々で『ダンジョン』にやってきたが、さすがの規模に驚いていた。

 

これらの『モンスター』は30階層。『密林の峡谷』と呼ばれている場所の『モンスター』。どれもLv.3以上の大物。そんな『モンスター』が『ここ(上層)』まで登ってくるのは、『神時代』で初めての現象だった。

 

何より、ここに来るまでに時間がかかったのは、『ポイズン・ウェルミス』の()()()()()。どの通路も隙間なく大量の『ポイズン・ウェルミス』で埋め尽くされており、魔導士による遠距離からの攻撃での駆除に時間を多く取られていたのだ。

 

その間も多くの『下層』の『モンスター』が上ってきており、広い空間での戦闘が可能な12階層の到達に多くの時間を消費してしまっていた。

 

 

「ベート、ティオナ、ティオネの3人は、リヴェリアとレフィーヤの『詠唱』が終わるまで『モンスター』を食い止めろ!!」

 

「ちっ」

 

「「了解」」

 

「輝夜とリオンもお願い。アスタとノイン、ネーゼは【九魔姫(ナイン・ヘル)】と【千の妖精(サウザンド)】の護衛をお願い!」

 

「「「了解」」」

 

 

すかさず、【アストレア・ファミリア】の団長。アリーゼは仲間に指示を出した。本来なら『オラリオ』の秩序を守る彼女達だが、『ダンジョン』の暴走に対処するべく、【ロキ・ファミリア】と共に行動を共にしていた。

 

 

「てめえら、『ダンジョン』は()()()()()()()!! 損傷は最小限にしろよ ()()()()()()()()()()!!」

 

 

【アストレア・ファミリア】のパルゥムのライラが大声で叫んだ。『ダンジョン』は損傷を受けた場合、『モンスター』の供給を『中止』して『修復』を始める。この知恵を生かし、多くの冒険者達は『モンスター』の襲撃を回避するテクニックとして、活用したりしている。

 

だが、今の『ダンジョン』は()()()()()()()()()()()。『ダンジョン』は絶えず『モンスター』を生み続け、『外壁』はボロボロの状態に、『魔法』で破壊された箇所はそのままの状態だった。

 

この状態を【アストレア・ファミリア】は()()()()()()()()()。5年前……。『闇派閥』に組していた【ルドラ・ファミリア】が30階層で怪しい動きをしているとの情報を入手した【アストレア・ファミリア】は調査と捕縛の為に『ダンジョン』に潜った。

 

ただ、その情報は『罠』であり、30階層に入った彼女達を『火炎石』を用いた『トラップ』が襲った。その規模は30階層全体に()()()()()()()()()程であり、直撃を避けたとしても無事では済まない規模のものだった。

 

それでも、【ルドラ・ファミリア】は【アストレア・ファミリア】を仕留めきることができず、彼女達は全員無事だった。この結果は【ルドラ・ファミリア】にとっては衝撃であり、この準備の為に多くの時間と金をつぎ込んでいた。

 

 

 

【ルドラ・ファミリア】が捕まるまいと、武器を引き抜いた瞬間……。『ダンジョン』が()()()()()()

 

 

 

修復ではなく『ダンジョン(自身)』を傷つける存在の『排除』。【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】でも確認されていない『()()』の『モンスター』。潜在能力(ポテンシャル)は生れ落ちる階層で異なり、彼女達の目の前で生れ落ちた個体はLv.5の中でも最上位の個体だった。

 

アストレア・ファミリア(彼女達)】は()()()()()()。新種の『モンスター』は()()()()()()()【ルドラ・ファミリア】を()()()()()。もし、新種が【アストレア・ファミリア(彼女達)】を最初に襲っていたら、()()()()()()()()()()()()()()……。

 

ヒューマンの男は食い殺され、大盾を持っていたドワーフの男は大盾ごと引き裂かれ、獣人の男は新種に逃げることは叶わず尻尾の攻撃で首をへし折られ、『魔法』や『魔剣』を放ったエルフの男達は、なぜか自身が放った『魔法』や『魔剣』に貫かれ、燃やされていた。

 

まさしく、()()()()()()()()()。それでも、【ルドラ・ファミリア】を襲った新種を【アストレア・ファミリア】はすぐに、『未知』を『既知』に変え、『新種』を満身創痍になりながら撃破。主神のアストレアは『嫌な予感がする』と、神の直感で【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】に【アストレア・ファミリア】の救出を依頼。

 

30階層についた救出隊は衝撃の光景を目にしていた。密林は破壊尽くされ、辺りは血の海と屍で埋め尽くされており、正義の乙女達は全身傷だらけの状態。中には腕や足を切り落とされている者もいた。

 

救助された【アストレア・ファミリア】は全員【ディアンケヒト・フィミリア】に運ばれ、1週間……。死の淵をさまよっていた。今回の騒動で【アストレア・ファミリア】は、全員が【ランクアップ】。【ギルド】側も今回の重く受け止め、神ウラノスが直々に動き、【ギルド】は職員全員の調査が行われ、『闇派閥』の関係者を炙り出された。

 

なお、今回の騒動は完全なる『異常事態(イレギュラー)』として、被害に遭った【アストレア・ファミリア】。救出隊として行動していた【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の3つの【ファミリア】に一切の口外禁止。【ギルド】にも情報が一切残っておらず、主神の神々にはウラノスからの情報の開示が行われた。

 

 

「ライラ、君達が戦った『新種』は出てくると思うかい?」

 

「……正直分かんねぇ。神ウラノスの話だと『祈祷』が届いている『中層』までなら、『新種』は出てこねぇって話だが、この状況でもそれが通用するかどうか……」

 

「……なるほどね」

 

 

フィンは近くにいたライラから『新種』が生れ落ちる可能性を訪ねていた。『新種』が生れ落ちる条件に『ダンジョン』が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。であることが神々の結論だった。

 

今の『ダンジョン』は()()()()()()()()()()()()()。つまり『ダンジョン』は今もダメージが蓄積されている状態だった。つまり、この状態を『ダンジョン』が『排除』の行動に移ることにライラは何より警戒していた。

 

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!」

 

 

フィンとライラがそんな会話をしている間に。レフィーヤの『詠唱』が完了した。放たれるのは火属性の広域攻撃魔法。大量の炎の矢の雨が降り注ぎ、大量の『モンスター』を焼き尽くす。その威力は【スキル】の効果も相まってLv.5以上の威力になっていた。

 

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

 

次に『魔法』を放つのは都市最強の魔導士の称号を持ち、レフィーヤの師であるリヴェリアの第一階位攻撃魔法。攻撃目標は13階層に続く連絡路。絶対零度の氷結魔法で()()()に通路を塞いだ。()()の『モンスター』は冒険者達と同様。通路を使って階層を行ききしている。例外がいるとすれば、『水中系モンスター』。そして、()()()()()()()『地底モンスター』。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「『ラムトン』⁉」

 

 

地中から突如現れる巨大な大蛇。その姿にベート、ティオネ、ティオナ、輝夜、リューは驚きを隠せなかった。アイズが口に出した『モンスター』の名は『ラムトン』。正式名称は『大蛇の井戸(ワーム・ウェール)』。

 

数多くいる『モンスター』の中でも地中を穿孔し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。生息域は『深層』。潜在能力(ポテンシャル)はLv.4。稀に『下層』に現れては冒険者達を全滅必至の結末を言い渡す、『凶兆(ラムトン)』である。

 

 

「「「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」」」

 

「しかも、()()()⁉」

 

 

続けて現れた『ラムトン』4体を含めて合計5体。『ラムトン』は本来『希少種(レア・モンスター)』に分類され滅多に現れない『モンスター』。しかも、『ラムトン』の出現が確認された階層は最高で()()()()。これらの『異常事態(イレギュラー)』の連続にレフィーヤは混乱した。

 

 

 

だが、『災い』は始まったばかりだった……。

 

 

 

「……嘘でしょ」

 

「こんなの、あり……」

 

「勘弁してくれよ……」

 

 

アスタ、ノイン、ネーゼは信じられない光景を目にした。『ラムトン』が出てきた穴から出てくるのは『深層のモンスター』。

 

 

「『スカル・シープ』、『リザードマン・エリート』……」

 

 

【アストレア・ファミリア】の『ヒューマン』の魔導士。リャーナがその名を呼んだ。37階層に出現し、体表の覆われた皮でカモフラージュする事から『死の陰者』と呼ばれている。羊型の『モンスター』。そして、『中層』に現れる『リザードマン』の上位種。どちらも潜在能力(ポテンシャル)はLv.4。

 

 

『ルー・ガルー』に、『スパルトイ』も……』

 

 

【アストレア・ファミリア】の『エルフ』の魔導士。セルティが口に出した。同じく37階層に出現する、狼の頭部を持つ中型級の『モンスター』。そして、骸骨系の『モンスター』。どちらも潜在能力(ポテンシャル)はLv.4。

 

 

「『オブシディアン・ソルジャー』……」

 

 

【アストレア・ファミリア】の「アマゾネス』。イスカが呼んだ『モンスター』は黒曜石の体を持つ岩石系の『モンスター』。防御力が非常に高く、『魔力』の減殺といった『魔法』を打ち消す特性を持っている。潜在能力(ポテンシャル)はLv.4。

 

 

「『ペルーダ』まで……」

 

 

【アストレア・ファミリア】唯一の治療師(ヒーラー)。マリューが怯えた表情で口から零れ落ちるように名を口したのは歴とした()()。背に猛毒を含んだ無数の針を生やし、上位冒険者の『耐異常(アビリティ)』を容易に貫通させる『猛毒』を持っている。潜在能力(ポテンシャル)はLv.4。

 

 

「……どうやら、『新種』を気にしてる余裕はねぇようだな?勇者様」

 

「いや、むしろ『新種』は気にしなくてよさそうだ」

 

「? どうゆうことだ」

 

「『ダンジョン』は度重なる『モンスター』の排出で、既にボロボロの状態だ。もし『新種』を出してくるなら、とっくに出してきてもおかしくない」

 

「なるほどなぁ。『新種』を気にしなくていいなら、こっちも戦いやすい。おいお前ら!『新種』は気にしなくていい。存分に暴れるぞ!」

 

 

しかし、フィンの予想は外れていた。『新種』は()()()()()()()()()()()。フィン達の目の前に現れないのは、『新種』が産み落とされたのは『下層』であり、『新種』は()()()()()()()()()()()()

 

『ダンジョン』はこの制約により、新たな『新種』を産み落とせず、絶えず既存の『モンスター』を産み落とし続けていた。

 

 

「前衛は『ラムトン』を攻撃、中衛はほかの『深層種』の対処を、後衛の魔導士達は『詠唱』を開始。『ダンジョン』への考慮は不要だ! 最大火力を叩き込めっ!!!」

 

 

そんな事を知らない彼らは、全力で『深層種』に対処していた。これまでの戦闘はフィンの指示で『ダンジョン』へのダメージを最小限を厳命させていた。だが、もう彼らを縛る鎖はなくなった。『魔法』、『スキル』を存分に開放し、『モンスター』の撃破に向かっていった。

 

 

 

***

 

 

 

「『ダンジョン』が震えとる……」

 

「当然でしょう。()()()()()()()()()()……」

 

 

場所は神塔(バベル)の高層。そこに神ロキと神フレイヤがいた。2柱が見ている月の形をした巨大な『弓』と、形成されつつある『矢』。狙いは神塔(バベル)の下にある『ダンジョン』。『ダンジョン』が暴走している原因は天空に存在している『弓矢』に狙われていることが原因だった。

 

 

「アルテミスのアホッ!! 一体何考えてんねん!!」

 

「アルテミスがそんなことをするはずないでしょう。それにあんな力、明らかにルール違反。『送還』されてもおかしくないわ」

 

「……なら、なんで『矢』は消えてないんや?」

 

「……おそらくは、()()()()()()

 

 

ただの憶測。あのアルテミス(彼女)が『下界』を滅ぼすようなことは絶対にしない。おそらくは『神の力(アルカナム)』を奪われ、利用されている。神々でさえ、予想だにしない、前代未聞の緊急事態。

 

 

「あぁぁ、もう。じっとしてられん!!」

 

「無駄よ、ロキ。私達にできることは『ダンジョン』の暴走を食い止めることだけ。あっちはもう、()()()()()()()()()……」

 

 

フレイヤは北の方角を見据えていた。その方角はベル達が向かった方角。神塔(バベル)から神フレイヤはベル達が飛竜に乗って飛んでいく姿を目撃していた。

 

 

 

***

 

 

 

「頼むエレン君!アルテミスを助けてくれぇ!!!」

 

「だから、助けますけど、どうすればいいんですか?自分は回復魔法しか使えないんですけど⁉」

 

「そこを何とかしてくれよ!! 『精霊』の君にしか頼めないんだよぉーー!」

 

「だから方法を……今、なんて言いました?」

 

 

エレン達は何とか光の矢から難を逃れ、ヘスティア達と合流することができた。合流できたがエレンを見つけた途端、ヘスティアはエレンに泣きつき『アルテミスを助けてくれぇ!!』と抱き着く始末。どうやら、あの結晶の中にいるのがアルテミス本人らしい。

 

エレンも救出には賛成だが、具体的な作戦はない。ヘスティアは『そこはエレン君が何とかしてくれぇ!』と()()()()()()()。これには後ろで見ていたヘルメスとゼウスも唖然とした。エレンは回復魔法が使える治療師(ヒーラー)である。とてもあの階層主級の()()をどうにかするのは不可能だった。

 

そして、ヘスティアからのカミングアウト。エレンが『精霊』であることが明かされた。これにはエレンもびっくり。近くにいたアスフィも『へっ?彼が『精霊』?マジですか⁉』と固まってしまっている。

 

さらに追加であの巨大な蠍が『アンタレス』……。正確には『穢れた精霊』が寄生した個体であることがヘルメスから明かされるが、情報過多でエレンの頭が混乱していると、エレンの後ろに『魔女』が立っていた。

 

 

「話は終わったか?」

 

「へっ?」ガシッッ!!

 

「ア、アルフィア君⁉」

 

「ヘスティアだったか? こいつは借りるぞ」

 

「ちょっ⁉」

 

 

エレンやヘスティアの了承を得ず、エレンの頭を鷲掴みにしてその場を一瞬で移動するアルフィア。何時ぞやの誘拐事件を連想させる扱いにエレンは悲鳴を上げるが『五月蠅い』と拳で黙らせるアルフィア。そして、ヘルメスが言っていた『穢れた精霊』の近くに着くと、エレンを放し要件を告げた。

 

 

「エレン。お前、ザルドに回復魔法を使ったようだな?」

 

「……はい。使いましたけど」

 

()()()()()()()

 

「?」

 

 

確かにエレンはザルドに回復魔法を使った。(アルフィアから受けたダメージを回復させる為に……。)それを『私を回復させろ』との発言にエレンは不思議に思う。だってこんなに元気なのだ。とても怪我をしている風に見えなかったが、一向に回復させないエレンにイラついたアルフィアが、再び拳を叩き込み催促を促した。

 

 

「私を回復させろ、いいな?」

 

「あ”い”」

 

 

1発目の拳の倍の威力の拳をもろに受け、に涙目になりながら了承するエレン。余りの理不尽な扱いに異議を唱えたかったエレンだったが、そんなことをすれば『拳』か『魔法』が飛んで来るだけなので、グッと堪えた。

 

エレンはアルフィアに【セイクリッドフレア】を行使。アルフィアは自身を包む青い炎をじっと見つめると、「なるほど……」とつぶやいた。

 

 

「ザルドが言っていたことは、あながち間違いではないな……」

 

「?」

 

「ザルドはお前の回復魔法を受けた後、『体の調子がいい』と言っていたぞ」

 

「えっ?」

 

 

エレンは知らない。ザルドは昔、()()()『モンスター』の毒肉を喰らい、今もザルド自身の肉体を蝕んでいることを。そこにエレンの回復魔法が蝕まれているザルドの肉体を()()()。それでも、エレンの回復魔法でも完治には至っていないが、少なくとも今までの状態で最も体の調子が良かった。

 

この話を聞いたアルフィアは『穢れた精霊』とその他の『モンスター』をザルドに()()()()、エレンを探していた。アルフィアもエレンの回復魔法を受け、今も彼女を苦しめる『不治の病』は、完治はしていないが『海の覇王』と戦う前の状態には回復した。

 

 

「……そういえば、お前の主神は、あの女神を救うにはお前の力が必要とか言っていたか?」

 

「あっ、はい。でも、具体的な方法が分からなくて……」

 

「回復魔法以外に『魔法』はないのか?」

 

「……はい、ないです」

 

「なら、()()()()()()()使()()()()()

 

「えっ?」

 

「? 何を驚いている。回復魔法しか使えないなら、()()()()()()()()()()

 

「(何言ってんのこの人……)」

 

 

まるで当たり前の事言ってるようにアルフィアは口にするが、エレンは絶句する。エレンは自身の回復魔法を『ちょっと便利な回復魔法』としか思っていなかった。正確にはエレンの考えていることは()()()()()()。そんな事を知る術がないエレンは最大の欠点を口にする。

 

 

「自分の回復魔法は触れるほど近づかないといけないんですけど⁉」

 

「なら、()()()()()()。簡単なことだろう?」

 

「……」

 

 

エレンの回復魔法は手が触れられる程()()()()()()()()()()。それはつまりあの、『穢れた精霊』に触れられるほど近づく必要性を意味する。ぶっちゃけ、無理である。近づこうものなら、速攻で捕まり、物理的に美味しく頂かれる未来しか見えてこなかった。

 

だが、現実は残酷だった。エレンの必死の説得も虚しく、アルフィアはエレンの胸ぐらを掴んだ。てっきりまた殴られると身構えるエレンだったが……違った。アルフィアは近くに置いてあったエレンの『大盾』を渡し、視線を『穢れた精霊』の方に向けて、エレンの胸ぐらを掴んでいる()()()()()()()()()()()()()

 

これまでアルフィアの被害にあったエレンは()()()。必死に抵抗した。必死に懇願した。『やめてぇ!!」と。だが、そんな青年の願いを『魔女』は蹴り飛ばし、呟いた……。

 

 

「確か……。きゃっち・ぼーる?だったか……」

 

 

なんと『魔女(アルフィア)』は『精霊(エレン)』を『穢れた精霊』に向けて()()()()()。仮にも回復してもらった相手にする行為ではない。激しい空気抵抗を受け、ロクに身動きの取れない『ボール(エレン)』はそのまま『()()()』の『穢れた精霊』に激突。特大の魔力暴発(イグニス・ファトゥス)が発生。

 

それから数十秒後に、『穢れた精霊』は青い炎に燃やされ、悲痛な叫び声を上げた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

『ギルタブルル』の登場でした。元ネタはバビロニア神話に出てくる女神ティアマトが創り出した11の怪物の1体。シュメール語で『サソリ人間』です。イメージは『アンタレス』の目の部分が『精霊の分身』になっている感じです。

『精霊の分身』の姿がアルテミスなのは、アルテミスとその眷属たる『大精霊』を喰っているのが原因です。

『新種』のLv.5はオリジナル設定です。初見殺しではなかったら【アストレア・ファミリア】なら勝ってくれるだろう。と思った投稿主の謎の期待で作りました。

それと『新種』は謎の怪人2人に捕獲されています。出番は当分先になる予定ですが……。『新種』の出現は『ダンジョン』が暴走しているせいで、ウラノスや異端児達は気づくことができなかった設定にしています。


ザルドとアルフィアはエレンの回復魔法でも完治はできません。

ザルドの場合は、『毒』によって侵された黒く染まった肉体は癒せますが、『毒』その物は取り除けません。

アルフィアは場合は『不治の病』の進行をある程度、巻き戻す感じで、『不治の病』その物は取り除けません。

2話でヘスティアが言っていた『大抵治せる』に当てはまらないのが、この2つになります。それこそ、この2つを治すには『奇跡』を起こす必要があります。
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