聖火の精霊が英雄達を手助けするのは間違いだろうか   作:フェイト・

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14話 帰還

「……ん」

 

 

朝日の光で、テントの中にいたアルテミスが目を覚ます。『穢れた精霊(ギルダブルル)』から解放されたことで、分身であった『女神の残滓(アルテミス)』が光となって自身と一つとなった。それでも、完全に馴染むには時間がかかったようで、一晩眠りに就いていた。

 

アルテミスの眷属達も、『穢れた精霊(ギルダブルル)』から精神力(マインド)を吸われることがなくなったが、『精神力枯渇(マインド・ゼロ)』の状態。目が覚めるまで、遺跡の調査をする為に残る【ヘルメス・ファミリア】が保護。しばらく『エルソスの遺跡』に留まることになった。

 

 

「……夢、じゃあないか」

 

 

未だに自身が救われたことに疑問を持っているアルテミス。『穢れた精霊(ギルダブルル)』に取り込まれ、自身が助からないことを自覚した。覚悟もしていた。それを(エレン)によって救われた。『穢れた精霊(ギルダブルル)』に取り込まれている時、エレンが『精霊』であることは『穢れた精霊(ギルダブルル)』を通して分かった。

 

しかも、ヘスティアの精霊だった。悠久の聖火の精霊。彼のおかげで、自身が救われ、『穢れた精霊(ギルダブルル)』を倒すこともできた。

 

 

「……起きるか」

 

 

そう言うと、アルテミスは着替えを済ませ、少し体を動かした。違和感はない。動きも問題ない。ヘスティア達にも随分迷惑を掛けた。彼女達を安心させる為にも顔を見せないといけないと思ったアルテミスはテントの外に出た。

 

 

 

そして、アルテミスの目に映ったのは……。

 

 

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」

 

 

アルフィアに追い回されるエレンの姿だった。

 

 

 

***

 

 

 

1時間前……。

 

 

「あ、あの~」

 

「ふむ、これは……」

 

「どうじゃあ?ヘスティア?」

 

「俺達の予想は当たってたかい?」

 

「あぁ、()()()()()()、完全に……」

 

「混ざってる?」

 

 

朝早くに起きたエレンは主神のヘスティアに呼び出されていた。呼ばれたテントの中に入るとそこにはヘルメスとベルの祖父がいた。そして、その場で【ステイタス】の更新をすると言われた。さすがに事情が知りたかったエレンだったが『いいから、いいから』とごり押され、渋々服を脱ぎ、背中をヘスティアに向け、【ステイタス】を更新してもらった。

 

 

 

エレン

レベル1

力  :H 122→130

耐久 :F 177→300

器用 :I 70 →75 

敏捷 :H 72 →110

魔力 :A 590→800

 

魔導 :I

 

◾️魔法

聖なる火よ(セイクリッドフレア)

・回復魔法

・速攻魔法

 

【】

 

【】

 

《スキル》

 

聖火の守護者(ウェスタ・ダイモーン)

 

・盾の装備時、発展アビリティ『盾士』の一時発現。補正効果はLv.に依存

 

・盾の装備時、発展アビリティ『堅守』の一時発現。補正効果はLv.に依存

 

・盾の装備時、発展アビリティ『魔防』の一時発現。補正効果はLv.に依存

 

・盾の装備時、全アビリティ能力超高補正

 

 

精霊の軌跡(スピリット・ミラクルム)

 

・【発展アビリティ】【魔導】の習得

 

・精霊の血の発現

 

・【聖なる火よ(セイクリッドフレア)】を受けた対象が『精霊』、『精霊由来の魔法』、『精霊の血を引くもの』、『精霊の力が込められているもの』だった場合、能力の大幅な上昇。

 

 

月精霊の加護(アルテミス・ファヴォール)

 

・状態異常、精神汚染、及び呪詛の無効化

 

・弓の装備時、発展アビリティ『射手』の一時発現。補正効果はLv.に依存

 

・月光を浴びている間、全アビリティ能力超高補正

 

 

 

エレンの【ステイタス】を更新した内容を見たヘルメスとゼウスが絶句し、ヘスティアが『伸びてるね~』と呟く。トータル374の伸び。一番伸びているのは『魔力』その次が『耐久』で、その次が『敏捷』。

 

『敏捷』と『耐久』は『穢れた精霊(ギルダブルル)』からの逃走や攻撃。『魔力』は『穢れた精霊(ギルダブルル)』の浄化、回復。最も『精霊』であるエレンの影響であることは神の勘で分かったヘルメスとゼウスだったが、この【ステイタス】伸びには驚きを隠せなかった。

 

 

それに、【スキル】2つの発現。1つはなぜか内容が出てこない『ナニコレ?』といった出来事が起きていた。まぁ、それはいい。彼らが気になったのは()()()()()()

 

 

気になったのは……。

 

 

 

「「「『精霊の血の発現』?」」」

 

 

ヘスティア、ヘルメス、ゼウスが気になったのは【精霊の軌跡(スピリット・ミラクルム)】の内容に1つ。『精霊の血の発現』である。『精霊の血』とは大精霊からしか採取することができない超希少な『ドロップ・アイテム』。その力は重傷を癒し、あらゆる病を治し、数多の呪いを払ってきた『霊薬』。さらには精霊由来の『魔法』が使えるようになったとの話まである。

 

ヴェルフのように『精霊の血』を引いている者は存在するが、『精霊の血(オリジナル)()()()()()()()()。仮にその血を飲んだとしても、何の効果もないも同然だった。だが、これでエレンの血は()()精霊の血(オリジナル)』に近い状態になった。

 

 

「……どう思う?」

 

「ヘスティアの話だと、エレン君は純粋な『精霊』じゃなくて『半精霊(ハーフ)』なんだろう?さすがに『精霊の血(オリジナル)』程の効果はないんじゃないかな?」

 

「儂もヘルメスの意見に賛成じゃ。『魔法』の発現は出来なくとも、癒しの力はあるじゃろう。それでも、()()()()()じゃがな」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

実際、仮に『半精霊』のエレンの血を飲んだとしても精霊由来の魔法の発現には至れない。それでも、万能薬(エリクサー)以上の回復効果を持つ薬になる。もしこの情報が洩れてしまったら、エレンが神々に狙われるのは明白。最悪の場合だと、『一生血を作り出すだけの存在』として扱われる可能性すらある。

 

なので、ヘスティアはヘルメスとゼウスに『分かってるよね?』と言って念入りに釘を刺す。何なら『神威』を開放してまで釘を刺す始末。これには流石のヘルメスとゼウスも絶対に漏らさないと誓った。何よりヘスティアはその善性故に顔が広い。あの最強最悪超絶残虐破壊衝動女(ハイパーウルトラヒステリー)で有名な女神(ヘラ)とまともに会話ができてしまうぐらいの神物(じんぶつ)である。

 

 

「あの~、ヘスティア様?」

 

「あ、あぁ~、ごめんごめん。どうしたんだい?エレン君?」

 

「そろそろ、説明をしてほしいのですが……」

 

「あっ」

 

 

さっきから『混ざってる』だの、『精霊の血』だの、背中越しに会話をしているせいでエレンは一向に話についていけてなかった。ヘスティアはほったらかしにしていたことを謝り、エレンの【ステイタス】を記入し、それをエレンに渡して事情を説明した。

 

 

「これがエレン君の【ステイタス】だ」

 

「……また随分伸びましたねー、ん?【スキル】が……?」

 

「まぁ、そんな反応になるよねー。で、問題なのがこの【スキル】さ!」

 

 

ヘスティアはエレンが持っていた【ステイタス】の写しに指を差し、問題の【スキル】を指差す。そこのあったのは【月精霊の加護(アルテミス・ファヴォール)】。【スキル】の詳細はわからなかったようで、読むことができなかった。しかし、問題なのは()()。そこにはアルテミスの名が含まれていることだった。しかも精霊の名も含んだ書き方。ヘスティア達が問題視しているのはそこだった。

 

 

「エレン君。君が精霊であることは、もう分かっているかな?」

 

「はい。最初聞いた時はさすがに驚きましたが、今ではなんとなくですけど、分かります。なんかこう、実感が湧いたというか……」

 

「うん。そこはゴメン、別に悪気があったわけじゃないんだけど、こう、説明の暇がなかったと言うか……」

 

「……まあ、色々ありましたからね」

 

 

思い返せば。色々あった。【ヘスティア・ファミリア】に入った日にベルが『世界最速兎(レコード・ホルダー)』として有名になり、神々の注目の的になり時折ストーカー染みたスカウトにエレンも巻き込まれたり、『中層』に初挑戦した日の遭難、18階層まで降り、『黒いゴライアス』との戦闘、そして、今回の冒険者依頼(クエスト)……。確かに暇はあまりなかった。

 

 

「おっと、話がそれちゃったね。それで、この【スキル】が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「? どうゆうことですか?」

 

「実は、君がアルテミスを助けようとした時に、君の中にアルテミスの精霊……その残滓が君の中に入りこんじゃたんだ」

 

「入りこんじゃった!?」

 

「うん。あの子達も君の手助けをしようとしてたんだと思う。だけど、ちょっとした問題が起きてしまってね」

 

「まさか……」

 

「うん、君の中に入りこんだアルテミスの精霊の残滓が君に力を貸した後、君と()()()()()()()()()

 

「それ、大丈夫なんですか?」

 

「あ、うん。問題はないと思う。この【スキル】は君の中に入りこんだアルテミスの精霊の残滓が形になったような物なんだ。だから、エレン君の命が危ないとかの心配はいらないんだ」

 

 

どうやら、ヘスティア達が『混ざってる』と言っていた内容はアルテミスの精霊の残滓のことだったようだ。確かにアルテミスを助ける時に力が漲ってきた瞬間は在ったが、その時にエレンは何が起こっていたのか把握する余裕が無かった。てっきり、アニメとかでよくある。『エレン君、実は君はもう永く生きられないんだ』といった、知らずに高い代償を払っているパターンかと思ったが違うようだった。

 

それなら一安心!と思っていたが、ヘスティアは何やら顔を赤らめてもじもじしている。その後ろではヘルメスとベルの祖父(ゼウス)が何やら悪い顔をしているのがエレンの目に入り、何だか悪い予感を感じるとヘスティアが話始めた。

 

 

「それで、ここからが本題なんだけど……」

 

「?」

 

「じ、実は、君は、ボ、ボクの精霊でね。ボクの炉の女神としての精霊であり、悠久の聖火を司る精霊でもあるんだ」

 

「自分が、ヘスティア様の、精霊……」

 

「うん。それで、アルテミスの精霊の残滓とはいえ、アルテミスの精霊であることにも違いはない。混ざっている今のエレン君はアルテミスの精霊でもあるんだ……」

 

「自分が、アルテミス様の、精霊……ん?」

 

「そして、『精霊』は神の分身……言ってしまえば神々(ボク達)にとっては()()()()()()()

 

「……ちょっと待ってください!?」

 

「だから、その、今のエレン君は()()()()()()()()()()()みたいな感じでね、エレン君からして見れば、ボクとアルテミスは創造神(母親)になるんだ」

 

「……」

 

「だから、もしよかったら、ママって呼んで欲しいなぁと思って……」

 

「……」

 

 

ヘスティアは処女神である。しかし、だからと言って子供が嫌いな訳ではなく、寧ろ好きな部類だった。時折バイト先でじゃが丸君を売っている時にはつい、小さい子供におまけをしてあげたり、偶に孤児院の子供達と遊んだりしている。そんな彼女(ヘスティア)だが、処女神であり、不変の神であるが故に当然子供はできない。

 

そんな状況にヘスティアの精霊(エレン)といった存在が現れたことで秘めていた母性が爆発。決してベルの義母(アルフィア)が羨ましいとかではなく、一度でもいいからお母さん……いや、ママと呼んでもらいたいといった願望を叶えたいとかではない……決して。

 

そして、エレンはヘスティアの話、いや、()()()を聞いて宇宙猫状態になっている。考えてみてほしい。今まで敬愛している女神(ヘスティア)助けた女神(アルテミス)がある日突然創造神(母親)であることを明かされた瞬間を。そして、こうなることを予め予想していたヘルメスとベルの祖父(ゼウス)はエレンの反応に、口を必死に押さえ、笑いを抑えていた。

 

「えっと、話は、分かりました。そ、その、ママの呼びについては、少し時間を……」

 

「あ、うん。別に無理に言わなくていいからね。よかったらでいいから、よかったらで……」

 

「……」

 

 

ヘスティアも口では『無理しなくていいからね』と言っているが、その目は()()()()()()()()()()。だが、エレンはそんな要求にすぐに応えられるほど、肝は据わっていない。取り合えず、この宇宙猫状態をどうにかするべく、エレンはテントの外に出ようとテントの天幕に手を伸ばした瞬間。

 

 

ムニュ

 

 

「あっ」(あ、死んだわ、これ……)

 

 

なんというタイミングでアルフィアがテントの中に入ってくるアクシデントが発生。手を伸ばしていたエレンの手はアルフィアの胸にクリティカルヒット。『魔女(アルフィア)』の胸を揉む、ゼウスですら突破できなかった不可侵の領域をエレンは初見で突破する偉業を成し遂げていた。

 

 

 

なお、アルフィアの反応は……。

 

 

 

「殺されるか、殺されるか。好きな方を選ばせてやるぞ。クソガキ?」

 

 

ブチギレていた。

 

 

 

***

 

 

 

「ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!っっ!!??」

 

 

エレンは()()()()()()使()()()()()、全速力で逃げていた。エレンの回復魔法は魔法行使を止めると消えてしまう()()()()()()()()()。これをエレンは回復魔法で体力を回復させながら、全速力を維持していた。エレンがやっている行為は『平行詠唱』と言われる熟練の魔導士が行う技術だが、エレンは『平行詠唱』の事を全く知らない。

 

エレンは『平行詠唱(これ)』をアルフィアからの命がけの逃走劇で()()()()()。しかも、エレンはアルフィアの『ゴスペル・パンチ(初撃)』を()()()()()()。その後は、生存本能でアルフィアから逃げていた。なお、エレンが攻撃を避けた影響で真後ろにいたヘルメスとベルの祖父(ゼウス)に直撃したのはエレンは気づいていなかった。

 

そして、今もアルフィアに捕まっていないのはザルドのお陰だった。本当なら朝食ができたので近くにいたアルフィアにみんなを呼んでくるように指示を出していた。そして、呼びに行ったと思えばエレンを殺意剝き出しで追い回していた。

 

ザルドが間に入ったお陰で、エレンの逃げる時間は稼げたが、その代償にザルドはアルフィアの手によって湖の底に沈められてしまった。だが、エレンは知らなかった。【ヘラ・ファミリア】から()()()()()()()()()()であることを。

 

 

「あ、あぁぁぁ」

 

 

時間にして30秒。ザルドが時間を稼いだとしてもその時間はLv.1にしては上出来だった。エレンの逃げた先ではザルドの大剣を持ったアルフィアが立っていた。エレンが全力後退をしようとした瞬間、アルフィアはザルドの大剣をエレンに叩き込んだ。その場には精霊(エレン)の悲鳴が響き、大きな土煙が起きていた。

 

 

 

***

 

 

 

「(ん、うーん……)」

 

 

エレンはアルフィアからの攻撃で沈められた意識が()()()()()()()()()を感じて、意識を覚醒させた。後頭部には柔らかい物が敷いてある感覚で、頭は優しく撫でられている気持ちのいい心地よさだった。その心地よさに再び意識が沈みそうな感覚に襲われるが、()()()()()()()()が聞こえて、意識が一気に覚醒した。

 

 

「ふむ、膝枕は久しぶりだったが、気分はどうだ?エレン」

 

「ア、アルテミス様⁉」

 

 

なんと、エレンはアルテミスに膝枕をしてもらい、更には頭を撫でられていた。もし、この光景が世間にバレたら多くの男神達は血の涙を流しながら『おい!!そこ代われ!!!』とエレンに詰め寄り、多くの女神達は『あの大の恋愛アンチ(アルテミス)をどのように落とした!さぁ吐け!』とエレンに詰め寄るだろう。

 

 

「ん?どうしたエレン?顔が赤いぞ、具合でも悪いのか?」

 

「い、いえ、そんな訳ではなく……その」

 

「……あ~、ヘスティアから話を聞いたのか?」

 

「……はい」

 

 

エレンの顔が真っ赤になっているのは主神のヘスティアの話を思い出したのが原因だった。エレンがヘスティアの『精霊』であり、アルテミスの『精霊』でもある。そして、ヘスティアはこれを創造神(母親)と呼称していた。言ってしまえばエレンの今の状況は『創造神(母親)に膝枕をしてもらっている精霊(子供)』である。

 

エレンは『ヘスティアとアルテミスが創造神(母親)の事実』をうまく呑み込めておらず、さらには異性に対する耐性はそれほど高くはない。言ってしまえば、『恥ずかしい』である。そんなエレンの感情を察したアルテミスは『恥ずかしいのか?』とまるで、可愛い我が子を揶揄うかのように尋ねたりするなどして、エレンの反応を楽しんだりしていた。

 

その後、エレンの反応を一通り楽しんだアルテミスはエレンと一緒に仲間の所に合流。なお、キャンプ地ではアルフィアがベルの顔面を鷲掴みしており、白兎(ベル)の悲鳴が響いており、エレンとアルテミスは宇宙猫状態になっていた。原因はアルフィアが『エレンに胸を触られた』と言い、可愛い息子に慰めてもらおうと、柄にもないことしようとしたことが原因だった。*1

 

なお、帰ってきた言葉は『アルフィアお義母さんにセクハラできる人が存在したんですか!?』であり、アルフィアのこの行動は母親心を理解できていない息子(ベル)に対する矯正である。

 

 

 

***

 

 

 

冒険者依頼(クエスト)を完了させたベル達は『オラリオ』に戻ることになった。ヘルメスは今回の事件の報告の為、護衛にアスフィを連れて一緒に戻ることになった。アルテミスは自身の眷属達が目を覚ますまでここに留まる予定みたいだ。アルフィアとザルド、ベルの祖父も冒険者依頼(クエスト)を完了させたので帰るみたいだった。(帰り際にアルフィアがエレンに耳打ちで何やら()()()()を伝え、エレンの表情が真っ青になっていたのは秘密である。)

 

 

「あ、アルテミス様。これを」

 

「ん?これは何だい?」

 

精霊(自分)の血です」

 

「……いいのか?」

 

「はい。冒険者依頼(クエスト)の報酬をたくさん貰いましたし、ヘスティア様からも許可をもらっているので、大丈夫です」

 

「……そうか、それならありがたく貰っておくとしよう」

 

 

エレンがアルテミスに渡したのは数本の『精霊(エレン)の血』が入った瓶である。エレンはヘスティア達からの説明で自身の血が『精霊の血』に変化していることを把握している。ヘルメス曰く、『精霊(エレン)の血』は希少(レア)中の希少(レア)であり、それは回復薬(ポーション)1本分の量で3000万ヴァリスの価値があるとのこと。

 

その力は万能薬(エリクサー)以上の効果があるようで、聞いていたエレンは3000万ヴァリスと聞いた途端、気絶しそうになった。当然ながらこの情報は他言無用。ベル達も『精霊(エレン)の血』の事や、エレンが『半精霊』である事を知らされていない。『精霊(エレン)の血』を使う際は絶対にヘスティアの許可をもらうことが義務付けられた。なお、この話を聞いていたヘルメスとベルの祖父(ゼウス)には口止め料として、数本の『精霊(エレン)の血』の瓶を渡している。

 

そして、今回の冒険者依頼(クエスト)報酬では『穢れた精霊(ギルダブルル)』の甲殻と大量の『魔石』を貰っている。『穢れた精霊(ギルダブルル)』の甲殻はエレンの炎で浄化された影響かベルと同じ処女雪のように真っ白になっており、『魔石』のサイズも最低でも『中層のモンスター』並みの大きさばっかりだった。さすがに貰いすぎではないかと思ったが、アルテミスが譲らなかったので貰うことにした。

 

最も多くはベルとエレンへの()()()()()()()()()()()()()()()。ベルとエレンの使った『(オリオン)』は神造兵器。()()()()()()である。『下界』では神殺しは大罪なので『偉業』として数えることはできない。今回の戦いでは『(オリオン)』を使ったベルとエレンには一切の『上位経験値(エクセリア)』が入っておらず、殆どがアルフィアとザルドに入る形となってるみたいだった。

 

だからといって、さすがに貰いすぎだと思ったエレンはヘスティアに相談。許可を貰うことができたので、用意できる限りの『精霊(エレン)の血』を準備した。【アルテミス・ファミリア】も地上で多くの『モンスター』と戦う【ファミリア】なので役に立つ筈だ。

 

エレン達もアルテミス達に別れを告げ、飛竜に乗って『オラリオ』を目指した。帰りも行きと同様にエレンの回復魔法を存分に使い、連続飛行を可能にして、空の帰りを楽しんだ。

 

 

 

***

 

 

 

「♪~~~~」

 

「ず、随分機嫌がいいですね、神様?」

 

「そりゃあ、そうさ。行きの時はベル君はアルテミスと一緒だったんだからね!」

 

「は、はぁ…?」

 

 

帰りの空の旅はヘスティアはベルと同じ飛竜に乗ることができて上機嫌だった。これに関してはリリとジャンケンで勝ち続けたことが原因で、近くではリリがヘスティアに物凄い視線を飛ばしていた。なお、行きの時にヘスティアと一緒の飛竜に乗っていたエレンは独りぼっちで、代わりに大量の荷物を持っていた。

 

エレンはこの大量の荷物で疲れる飛竜を一定間隔で回復魔法で癒している。【スキル】に『魔導』が発現したおかげで精神力(マインド)効率が格段に上がり、大分余裕ができていた。余談だがエレンを乗せている飛竜は、この大量の荷物を3日間ずっと乗せたまま飛び続けていたせいで、【ガネーシャ・ファミリア】に飛竜を返却する際に『この飛竜()って、こんなにガタイよかったっけ?』と見間違う程の成長にアーディはとても困惑していた。

 

 

「む?」

 

「どうしたんだい?アスフィ?」

 

「いえ、()()()『モンスター』がいたもので……」

 

「珍しい『モンスター』?」

 

「『ユニコーン』です」

 

「『ユニコーン』?」

 

 

アスフィがLv.4の動体視力を生かし、遠くにいる『モンスター』を捉えていた。一緒の飛竜に乗っているヘルメスはほかのメンバー達を呼び留め、空中で待機。懐から遠くの物を見ることができる魔道具で『ユニコーン』を確認。『あ、本当だ!』と言い、何やら悪い笑みを浮かべていた。

 

 

「アスフィさん?『ユニコーン』って何ですか?」

 

「『ユニコーン』は『モンスター』でありながら、『聖獣』とまで呼ばれている一角獣のことです。『ダンジョン』では希少種(レア・モンスター)の1匹に数えられ、滅多に遭遇(エンカウント)できない存在です。『地上』なら、なおさらですが……」

 

 

ベルがアスフィに『ユニコーン』のことを訪ねて、アスフィが解説していた。ベルとエレンは『ダンジョン』のことについて勉強はしているが、まだまだ知識不足だった。『聖獣』と称される『モンスター』。滅多に会えない『モンスター』に『運がいいなぁ』と一同が思っているとヘルメスが『捕獲しようか!』とまさかの提案をしていた。

 

 

「ヘルメス様!?『ユニコーン』は警戒心が最も高い『モンスター』です。討伐ならまだしも、捕獲なんて……」

 

「大丈夫、大丈夫! 何とかなるさ!」

 

「は、はぁ~?」

 

「「「「「?」」」」」

 

 

ヘルメスとアスフィの会話についていけず、ベル達の頭には?マークが浮かんでいる。アスフィがベル達の状況に気づき、『失礼しました』と言って状況を説明してくれた。なんでも珍しい『モンスター』がいて、ヘルメスが『捕獲』を提案したという。

 

 

「やっぱり、『モンスター』の捕獲は難しいものなのでしょうか?」

 

「『ユニコーン』は気高いモンスターなので、捕獲すると逆上し、己の命を絶ってしまうんです」

 

「マジで⁉」

 

「はい。ですので捕獲は非常に難しいのです。唯一の方法が『ユニコーン』の習性……()()()に惹かれるという、習性を利用する方法が……あっ」

 

 

アスフィが説明している時に何やら気づいて様子でヘスティアの方を見た。『ユニコーン』には純潔性……つまりそれに満たされた処女に心を許す習性を持っている。そして、今ここには処女神のヘスティアがいる。ヘルメスはこれを狙っているのでは?とアスフィは予想するが、ヘルメスは首を横にふる。どうやら、違ったらしい。

 

 

「確かにヘスティアなら条件を満たしているが、相手は『モンスター』だ。万が一のことがあれば大変だ」

 

「では、どのように?」

 

「エレン君に行ってもらう」

 

「はい!?」

 

「……あっ」

 

 

ヘルメスからの突然の指名にエレンは困惑し、アスフィはヘルメスの意図を察した。アスフィの言った『純潔性に惹かれる』は嘘ではないが、その情報は派生されたものであり、()()()()()()()()()。そして、エレンはその伝承の条件をやや満たしていることをヘルメスは見抜いており、エレンを向かわせようとした。

 

『ユニコーン』を刺激しないように距離を置いて地上に降りたエレン達は、ベル達には聞かれないように距離を離してヘルメスとアスフィに方法を説明される。エレンはヘルメスの説明を聞いて、『いや、無理でしょ?』と反論したが、『大丈夫、大丈夫』との返事しか返ってこなかった。

 

なお、ダメ元で『ユニコーン』に一人で向かったエレンだったが、()()()()『ユニコーン』の調教(テイム)に成功。なんなら、『ユニコーン』に跨って戻ってきた。

 

 

 

***

 

 

 

「ねぇー、アミッド。『角』を手に入れて、かつ『ユニコーン』を住処に戻すっていうのは正直難しいんじゃない?」

 

「……かもしれません」

 

 

実はエレン達より先に『ユニコーン』を狙っている者達がいた。それは【ロキ・ファミリア】アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤと【ディアンケヒト・ファミリア】の団長のアミッドだった。アイズ達は【ディアンケヒト・ファミリア】の冒険者依頼(クエスト)で『ユニコーンの角』の入手。欲を言えば、『ユニコーンを捕獲』し、住処に戻す依頼をアミッドにされていた。

 

だが、『ユニコーンの捕獲』は簡単なものではなく、アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤの4人は失敗。唯一アミッドが『ユニコーン』に触れることはできたが、『角』の入手に失敗。それ以降は『ユニコーン』がアイズ達を警戒し、近づくことさえできない状況が続いていた。

 

丘に隠れているティオネの物言いにアミッドが暗い表情で答える。元々は【ディアンケヒト・ファミリア】の目的は『ユニコーンの角』であり、『ユニコーン』を住処に帰すという目標はアミッド個人の望みだった。だが、このままでは『角』の入手所ではなくなってしまう状況。そんな彼女達の心境とは裏腹に『ユニコーン』に近づく一人の青年の姿を、【ロキ・ファミリア】の乙女たちは捉えていた。

 

 

「ねぇ、誰か『ユニコーン』に近づいていってるよ?」

 

「えっ?」

 

「あら、本当! ん?あの髪色って……」

 

「うん、エレンだ」

 

「な、なんであの人が『オラリオ』の外にいるのでしょうか?」

 

「あの、エレンって、前に話してくれた『ポイズン・ウィルミス』の猛毒を解毒した治療師(ヒーラー)の方のことですか?」

 

「そうそう!アルゴノゥト君と同じ【ファミリア】の治療師(ヒーラー)だって!」

 

「確か、【ヘスティア・ファミリア】?だったかしら……」

 

 

アミッドはここに来るまでの間に、アイズ達から以前18階層でエレンが『ポイズン・ウィルミス』の猛毒を解毒したことを聞いていた。現在『オラリオ』では『ポイズン・ウィルミス』の猛毒を解毒できる治療師(ヒーラー)はアミッドのみ。しかも、超短文詠唱の全癒魔法の使い手。機会があれば同じ治療師(ヒーラー)として、話をしたいと彼女は考えていた所だった。

 

アイズ達がエレンが『ユニコーン』に近づいていくのを静かに見守っていると、エレンが少し離れた場所で立ち止まった。『ユニコーン』はエレンをじっと見つめるとゆっくりとエレンに近づき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

 

アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤ、アミッドが信じられない光景を目にしていた。彼女らがどんな手を使ってもアミッド以外の4人では『ユニコーン』触れることはできず、アミッドでようやく触れる程度。『角』を切り落とそうとした瞬間に『ユニコーン』気づかれてしまい、それから近づくことすら困難だったのに……。

 

彼女達があまりの光景に開いた口が塞がらずにいると、頭を擦り付けている『ユニコーン』をエレンは優しく撫でる。『ユニコーン』が傷ついているのに気付いたエレンは回復魔法を使い、『ユニコーン』の傷を癒す。『ユニコーン』も暴れる様子は殆どなく、なんなら気持ちよさそうにエレンの回復魔法を受けていた。

 

回復魔法を終えると『ユニコーン』はエレンの前に座り込み、エレンの袖を噛むとそのまま『ユニコーン(自身)』の背の方に引っ張り、エレンはこれを『乗れ』と解釈。『ユニコーン』に跨ると、そのまま静かに立ち上がった『ユニコーン』はエレンが指を指した方向に進んで行った。

 

 

「「「「「……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ⁉」」」」」

 

 

エレンは『ユニコーン』に触れるだけでは飽き足らず、『ユニコーン』に跨って、その場を立ち去って行った。なお、エレンは手懐けたのはいいがこの先どうすればいいか分からず、ヘルメスの指示をもらうために戻ろうとしていただけだった。まさか自身の言うことをここまで聞いてくれるとは思わず、『ぽか~ん』としていた。

 

アイズ達もまさか『ユニコーン』を目の前で持っていかれるとは思わず、アミッドをアイズが抱え、エレンの後を必死に追いかけて行った。

*1
偶にはベルに構ってほしい母親心




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

エレンの新しい【スキル】 【精霊の軌跡(スピリット・ミラクルム)】と【月精霊の加護(アルテミス・ファヴォール)】の登場でした。【月精霊の加護(アルテミス・ファヴォール)】に関しては時間経過でどんどん内容が判明していく風になっています。【精霊の軌跡(スピリット・ミラクルム)】に関してはエレンが自身が『精霊』であることを自覚したことで発現しています。【精霊の軌跡(スピリット・ミラクルム)】で獲得した【魔導】は【聖火の守護者(ウェスタ・ダイモーン)】で発動する『発展アビリティ』と違って条件なしに発動できます。

『精霊の血』はヴェルフが話した初代クロッゾの話を参考にちょっとオリジナルを加えた形にしています。なお、ゼウスが『精霊の血』をアルフィアとザルドの2人に飲ませたおかげで、『不治の病』と『ベヒーモスの猛毒』が完全に無くなり、完治します。(この先結構使う機会が多いです。秘薬とか……)

3つ目の効果は条件付きのバフ効果。活躍するのは大分先の予定。(なんかエレン1人で【アポロン・ファミリア】の半分を壊滅させている)


ヘスティアとアルテミスの創設神(母親)設定。『ソードオラトリア』の漫画を読んでいて『神に最も愛された子供、神の分身』の部分を深夜テンションで閃いた設定です。


ヘスティア
 可愛い子ができて嬉しい。『ママ』と言ってくれないのがちょっと残念……。

アルテミス
 エレンにアルテミスの『精霊』が混ざっているのを一目見てすぐに分かった。(1話にヘスティアと同じ理屈)。その為、エレンがアルテミスの『精霊(子供)』である事実を割とすんなり受け入れている。エレンと会った際はよく頭を撫でている。

エレン
 創造神(母親)が2人同時にできて、結構複雑な心境……。別にいやとかではないが、長い時間が必要。ヘスティアの要求(ママ呼び)に関しては、創造神や主神の意味合いで周りに誰もいない場合に限定して『お母様』呼びで対処している。

エレボス
 エレンの製造者。『ヘスティアの神殿』で『鏡』で状況を把握している。状況的にエレボスがエレンの創造神(父親)のポジションになる。言い換えれば、ヘスティアとアルテミスの旦那的な立場。『鏡』越しに「我こそが『ヘスティアとアルテミスの旦那(絶対悪)!!』と興奮した状態で叫び、タイミングよく『ヘスティアの神殿』を訪ねていた『天界』に残っていた知神(アテナ)に聞かれ、ボコボコにされていた。


アルフィアの『ゴスペル・パンチ』を避けられ内心驚いていた。その後『ゴスペル・パンチ』に必中効果(ホーミング性能)が追加され、エレンが避けることは二度となかった。


エレンは『精霊スペック』で『平行詠唱』ができる。なお、エレンの体は結構、高スペックだが、エレンが扱いきれていない宝の持ち腐れ状態。(時々、覚醒して常識外れなことをやらかす)。エレンの戦闘技術が低い為、『平行詠唱』が活躍するのは割と先の話。
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