聖火の精霊が英雄達を手助けするのは間違いだろうか   作:フェイト・

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24話 動き出した『最強』と『最凶』

「そなたがイシュタルで間違いないか?」

 

「いかにも」

 

 

 カーリーが宿泊しているや宿の奥にある部屋に1柱の女神が訪ねてきた。

 

【イシュタル・ファミリア】の主神の女神イシュタル。

 

『オラリオ』に存在する【歓楽街』】領域(テリトリー)に持ち、その勢力圏は『オラリオ』随一である。

 

 辺境の地にある『テルスキュラ』から【カーリー・ファミリア】がやってきたのは女神イシュタルが()()を出したからである。

 

 依頼内容は『女神フレイヤを倒すための同盟関係の締結』である。

 

【ロキ・ファミリア】と肩を並ぶ最大派閥の主神。地位と名誉だけにとどまらず、同じ『美の女神』であるのに世界で最も美しいとこの世の男どもが言っているのが何より気に入らなかった。

 

 しかし、相手は都市最強派閥。自身の眷属達だけでは歯が立たないと思ったイシュタルは『オラリオ』の第一級冒険者に匹敵する実力を持つ【カーリー・ファミリア】に目を付けたのだ。

 

 眷属のアマゾネスを使者として何度も文を送り、今日ようやく同盟関係を結ぶまでに至ったのだ。

 

 その後、イシュタルから明かされる計画の内容。【イシュタル・ファミリア】は本拠(ホーム)がある【歓楽街】から、【カーリー・ファミリア】は【メレン】から『挟撃』する形で奇襲を仕掛ける内容だった。

 

 『オラリオ』には都市を囲っている市壁があるが、イシュタルの言いなりになっている商会を使って侵入……或いはイシュタル自身が門を開ける手筈になっている。

 

 さらに、今の【フレイヤ・ファミリア】の()()()()()の絶好の機会(チャンス)。イシュタルはすぐにでも【フレイヤ・ファミリア】に奇襲を仕掛ける気でいた。

 

 

準備はほぼ万端。しかも、()()()()()()

 

 

「しかし、イシュタルよ。()の【猛者(おうじゃ)】はどうする?あの者は妾の眷属では全く歯が立たなかったぞ」

 

「何を言っている?【フレイヤ・ファミリア】の団長は不在だとさっき言ったばかりだろう。それに、こちらには『切り札』がある。万が一にも……今、なんと言った?」

 

 

 カーリーが『【猛者(おうじゃ)】はどうする?』とイシュタルに尋ねるが、イシュタルは『切り札があるから問題ない』と言おうとするが、カーリーの言葉に耳を疑った。

 

 先程のカーリーの発言は、まるで【猛者(おうじゃ)】とやりやってきたと聞き取れる発言だった。

 

 

「今日、妾の眷属()がじゃれ合いをしている時は割り込んできてな。アルガナが手も足も出なくてなぁ」

 

「……待て、それはおかしいぞ!」

 

「むぅ?」

 

「【猛者(おうじゃ)】は今『ダンジョン』に()()()()()。それに地上に出てきたと報告は全く受けていない。だから【猛者(おうじゃ)】がいない【フレイヤ・ファミリア】を奇襲すると言っただろう!」

 

「お主こそ何を言っておる?あの()()()()()()()()は紛れもなく【猛者(おうじゃ)】じゃろう?」

 

「? 【猛者(おうじゃ)】は獣人……猪人(ボアズ)だ。ヒューマンではない」

 

「? それだと、あの者は誰じゃ?」

 

「私が知るハズがなかろう!」

 

「「……」」

 

 

 ここでようやく【カーリー・ファミリア】はあの大男(ザルド)が【猛者(おうじゃ)】ではないことに気づき、【イシュタル・ファミリア】のアマゾネス達は騒然とした。

 

 アルガナはバーチェと共にLv.6になったとの話は【イシュタル・ファミリア】も把握している。アルガナが手も足も出なかったとなれば、その大男の実力はLv.6以上。【カーリー・ファミリア】が勘違いしてもおかしくなかった。

 

 

「まぁよい。その大男には大人しくしてもらうかのぅ」

 

「……手はあるのか?話を聞く限りだと、Lv.7クラスだろう。お前達で勝てるのか?」

 

「無理じゃな。妾の見立てだと【カーリー・ファミリア】の全眷属をぶつけても勝てんじゃろう……」

 

「……そこまでの奴か」

 

 

 【カーリー・ファミリア】の規模は【国家系ファミリア】と称されるほどの規模と強さを持っている【ファミリア】である。

 

 その主神が全ての眷属をぶつけても勝てないと断言させるほどの実力にイシュタルは驚きを隠せなかった。

 

 

「ゆえに『人質』をとる」

 

「人質?」

 

「その大男は1人の()()()()()を連れていたんじゃ。その者を『人質』にして牽制に使う」

 

「出来るのか?」

 

「問題なかろう。その者は大した実力は持っておらぬ……。そうじゃろ、アルガナ?」

 

「……誰だ、そいつ?」

 

「ほれ。例の大男が抱えておったヒューマンのことじゃ」

 

「青い髪の雄のことか?カーリー」

 

「そうそう!そいつじゃ。バーチェよ。そのヒューマンの実力はどの程度か分かるか?」

 

「……強くはない。ただ、何かしらの魔法を使っていた……多分、回復だ」

 

「ほぉ~?回復魔法かぁ。珍しいのぉ……恐らく、その者は治療師(ヒーラー)じゃろう」

 

「青髪、治療師(ヒーラー)……おい、お前」

 

「何だ?」

 

「その治療師(ヒーラー)は名は『エレン』か?」

 

「……多分」

 

「なんじゃ?知っておるのか、イシュタルよ」

 

「少しだがな。何を思ったのか【ギルド】が所属してる【ファミリア】から強引に他の【ファミリア】に移籍させようと動こうとしていたらしい」

 

「らしい?」

 

「何でも、神の介入で白紙になったそうだぞ。だが、【ギルド】がそこまで動こうとするぐらいだ。よほどその者は優秀な治療師(ヒーラー)なのだろう」

 

「ほぉ?」

 

 

 この話は神ヘルメスが情報を入手して介入したように、一部の商人などで噂になっている内容である。優秀な治療師(ヒーラー)は時に上級冒険者以上の価値を秘めている。

 

 例に挙げるならば【ディアンケヒト・ファミリア】団長のアミッドはLv.2であり、冒険者の位置付けでは第3級冒険者に該当するが、その価値は第1級冒険者並みの価値がある。

 

 イシュタルは()()()()()()()()()()商会の者から話を聞いていた影響で、エレンの名を知っており、()()()()()()()と考えていた。

 

 

「カーリー。その治療師(ヒーラー)の身は私がもらう」

 

「何じゃと?」

 

「あの(フレイヤ)との戦いで治療師(ヒーラー)は必要になるだろう。向こうには【女神の黄金(ヴァナ・マルデル)】がいる。こっちは【戦場の聖女(デア・セイント)】を使()()予定だが、優秀な治療師(ヒーラー)は多いに越したことはない」

 

「ズルいぞ。優秀な治療師(ヒーラー)なら妾も欲しい。国に持ち帰って『奴隷』にしたいぞ!」

 

「報酬は上乗せにするが、どうだ?」

 

「……しょうがないのぉ。なら、報酬の上乗せはいい。()()()()()()を要求するぞ」

 

「代わりのもの?」

 

 

 その後、カーリーが要求したのは【ロキ・ファミリア】にいるアマゾネスの姉妹と【カーリー・ファミリア】の頭領姉妹との『儀式』。【イシュタル・ファミリア】には『儀式』を邪魔されないように足止めしてほしいとのことだった。

 

 イシュタルは最初こそは拒否したが、フレイヤと同じく都市最強派閥と言われでかい顔をしているロキのことが気に入らなかったのでカーリーの提案を承諾した。

 

 

 

***

 

 

 

「めっちゃ時間がかかった……」

 

 

 時間は次の日の昼。

 

 エレンは神ミョルズからの冒険者依頼(クエスト)を完了させ、『オラリオ』に戻ろうとしていた。お世話になった神ミョルズやロッド達に挨拶をして、【メレン】にある【ギルド支部】に『オラリオ』に入る入国手続きをしに行っていた。

 

 因みに、ザルドは今日も護衛で朝早くから海に出ている。アルフィアにも帰る時に声をかけたのだが、相変わらず機嫌が悪い状態だったが……。

 

 

「……気をつけて帰れ」

 

 

 まさかの自分の身を案じる言葉に『本物ですか?』と、つい口に出してしまったエレンは【福音(ゴスペル)】されてしまっていた。

 

 今日の夜にはヴェルフの【ランクアップ】のお祝いをする予定になっているので朝早くに【メレン】のギルド支部に行って『オラリオ』への入国手続きをしていた。

 

 それでも、【メレン】は『オラリオ』と海を繋ぐ玄関口のため、朝から多くの人で溢れかえっており、入国許可証を手に入れたのが昼頃になっていた。

 

 

「予定より大分遅くなってしまったけど……。間に合いそうかな?」

 

 

 【メレン(ここ)】から『オラリオ』までは地味に距離がある。その為、馬車での移動が主流になっているが、この時間帯は多くの人が利用するため、席を確保するのが難しそうとエレンが思っている時……。

 

 

「もし。冒険者様でいらっしゃいますか?」

 

「ん?」

 

「これは失礼。私は()()()()商会の商人でございます」

 

「……商会の人が自分に何の御用でしょうか?」

 

「えぇ、実は私達はこの後、『オラリオ』に向けて出発するのですが、宜しければ冒険者様に『護衛』をお願いしたく思いまして……」

 

「護衛……?」

 

「はい。実は私共の荷馬車には()()()()()()を乗せておるのですが、当初予定していた護衛の者が来れなくなってしまい……」

 

「……どうして自分なのですか?他にも自分より強い冒険者が多くいますが?」

 

「ほっほっほっ。そう、ご謙遜なさらず。2日前でしょうか……湖に突如現れたモンスターを一瞬で討伐されたと聞いております。実力は申し分ないと思いますが?」

 

「(2日前……あの食人花のことかな……?)」

 

「無論、報酬はお出しします。どうでしょうか?」

 

「……」

 

 

 確かに【メレン】から『オラリオ』までの道のりでモンスターに出くわさないといった保証はない。エレンがここに来る際も【デメテル・ファミリア】の荷馬車の護衛として【メレン】まで乗せてもらっている。

 

 それにエレンも『オラリオ』に向かう予定なので都合はいいが、なーんか話が旨すぎる気がするが……多分気のせいだろう。

 

 

「分かりました。その依頼を引き受けます」

 

「おぉー!ありがとうございます。ささ、あちらの荷馬車になります」

 

 

 商人に案内された荷馬車は細かな装飾が多く使われている豪華な荷馬車だった。確かこれ程豪華な荷馬車なら乗せているのはさぞ大切な客人なのだろうとエレンは思いながら、商人が荷馬車の扉を開け促されながら、中に入ろうとした瞬間……。

 

 

「(うぅぅぅ!?)」

 

「どうなされなしたか?冒険者様?」

 

「……いえ、何でもないです」

 

 

 荷馬車の中には商人が言っていた大事な客が既に乗っているようだが、中に充満しているとても()()()()()()()にエレンは思わず後ろに下がってしまった。

 

 中にいるのは全部で4人。ローブで全身を覆っているので顔は分からないが、体つきで女性であることは確かだった。

 

 

「(この匂い……もしかして『麝香』!? なら……娼婦!?)」

 

 

 麝香なんて嗅いだことがないエレンは判断に迷ったが、一度引き受けてしまった依頼を蔑ろにする訳にもいかなかった。

 

 しかし、この甘い匂いが()()()()()()()()エレンは荷馬車の外で護衛すると商人に申し出たが『モンスターが出たら知らせるから大丈夫』と言われてしまった。

 

 エレンは仕方なく、甘い匂いで満たされている荷馬車の中に乗り込んだ。

 

 

 

***

 

 

 

「(うぅぅぅ。 早く着いてくれ……)」

 

 

 【メレン】を出発してどれぐらい経ったのだろうか。相変らず中は甘い匂いで充満しており、エレンはその匂いで軽く乗り物酔いを起こしていた。

 

 

「(……ん?)」

 

 

 ふと、甘い匂いに気を取られていたが、別の匂いも充満しているのにエレンが気が付いた。嗅いだことがない匂い……。何処か()()()()()()匂いだった。

 

 

「(クスリ……? いやぁ……いやぁ……()?)」

 

「……どういう事だい?『眠りの香』が効いていないじゃないか?」

 

「!!」

 

 

 エレンが何の匂いか気になっていると、1人の女性が呟いた。エレンは『眠りの香』と聞いた瞬間、急いで荷馬車から降りようとしたが、別の女性に取り押さえられてしまった。

 

 

「ぐぅぅ!?」

 

「……『耐異常(アビリティ)』持ちかと思ったけど、その動き……Lv.1だね。だとすれば【スキル】で耐え忍んでいたのかい?」

 

「……()()()()()

 

「悪く思わないでくれよ。気まぐれな女神さまの命令なんだ」

 

「……どこの派閥の人ですか?」

 

「……【()()()()・ファミリア】だ。見て分かるだろう?」

 

「違いますよね?」

 

「……どういう意味だ?」

 

「【カーリー・ファミリア】のアマゾネスは麝香なんて()()()()()()()。それに【カーリー・ファミリア】のアマゾネスの殆どは共通語(コイネー)()()()()()。話せる人もいるようですが、貴方みたいに流暢には喋れない」

 

「……」

 

「となると別の【ファミリア】n───ガァ!!??」

 

「喋りすぎだ。まぁ、アンタの考えは間違っちゃいないよ。私達は【カーリー・ファミリア】のアマゾネスじゃない」

 

「───ッッ!!??」

 

「『眠りの香』が効かないなら、()()()()()()()()()()()()()。大した問題じゃない」

 

「……」

 

 

 エレンに『眠りの香』が効かないと判断した1人のアマゾネスは、エレンを拘束している別のアマゾネスにアイコンタクトを送るとエレンの首を締め上げた。

 

 エレンはすぐに抵抗を試みたが、エレンを拘束しているアマゾネスはLv.3。その圧倒的な【ステイタス】の差に何もできず、意識を刈り取られてしまった。

 

 

「おい商人! こっちの仕事は終わった!【メレン】に引き返せ!」

 

「畏まりました。【麗傑(アンティアネイラ)】様」

 

 

 エレンと話していたアマゾネスはアイシャ・ベルカ。【イシュタル・ファミリア】所属の『戦闘娼婦(バーベラ)』と呼ばれる戦闘員である。

 

 アイシャは主神のイシュタルの命令でエレンを『攫ってくる』ように命令を受けていた。

 

 エレンの情報に関してはメレン支部長(ルバート)に金を握らせ、()()()()()()()()()()だけで簡単に情報を漏らしたので実に簡単だった。

 

 しかし、ここには【ロキ・ファミリア】がいるので、確実に誘拐できる機会を作るために【イシュタル・ファミリア】の言うことをきく商会に荷馬車の手配をさせ、メレン支部長(ルバート)に準備が終わるまでの時間稼ぎをさせた。

 

 あとは、主神の前にコイツ(エレン)を連れ帰り、『魅了』を施せば、『操り人形』の出来上がりである。

 

 

「……本当に同情するよ。美の女神の魅了には()()()()()()()()……」

 

 

 美の女神の『魅了』は『神の力(アルカナム)』を封じられている『下界』で『権能』として許されている力であり、ロキ曰く反則(チート)の権能と言われている。

 

 美の女神の『魅了』は、下界の住人やモンスター、神々でさえも抗うことさえ出来ない力。唯一、()()()()()()()()()も存在するが、ほんの僅かである。

 

 しかし、アイシャの予想は大いに外れる結果になってしまった。

 

 意識を失った状態で運び込まれたエレンはイシュタルに『魅了』を施されたが、失敗に終わった。

 

 本来なら、意識が在ろうが無かろうが『魅了』は可能だが、エレンに『魅了』を施そうとすると、()()()()()()()()()()()()

 

 イシュタルは何度もエレンに『魅了』を施すが失敗し、本気の魅了でさえもエレンを堕とすことはできなかった。さらに気持ちよさそうに寝ているエレンの寝顔を見てイラッとし、エレンを『人質』として利用させる為に、港に連れて行くように眷属たちに命令を出した。

 

 

 

***

 

 

 

「アイズさん 港でアマゾネスを見たっていう漁師がいました!」

 

「……港の周辺を見張ろう。何か見つけたら、閃光弾か魔法を空に撃って」

 

「分かりました!」

 

 

 時間はエレンがアイシャ達に誘拐され大分経った後、【メレン】に滞在している【ロキ・ファミリア】では大きな動きが起きていた。

 

 エレンが提供した情報で食人花の大体の絡繰りが分かったロキは証拠を押さえる為に、眷属達にそれぞれ班を作らせ行動させていた。

 

 しかし、【カーリー・ファミリア】のアマゾネスのバーチェが1つの班を襲撃し、レフィーヤを誘拐。アルガナから『儀式』の参加の為に仲間を人質に取ったと聞かされたティオネがティオナを連れて、行方を眩ませてしまったのだ。

 

 辺りがすっかり暗くなった頃にティオネとティオナの捜索をしていたアイズ達の所に港にアマゾネスを目撃したとの情報が入り、アイズ達は目撃情報があった港に向かっていた。

 

 アイズはLv.6の【ステイタス】で近くの建物の屋根に上がり、状況を把握しようとすると……。

 

 

「───見つけた」

 

 

 【メレン】からどんどん離れていく船があり、そこにティオネが乗っているのを確認したアイズはほかの仲間達に合図を送り、急いでその船が出発したと思われる造船所に向かおうとした瞬間……。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!』

 

「!?」

 

 

 突如現れたのはアイズ達が【メレン】に来た目的である食人花だった。数は全部で7本。

 

 しかも、現れた個体はそれぞれ距離が離れており、討伐するにも多くの時間を消費してしまうのは明白だった。

 

 アイズはティオナ達を追うべきか、あの食人花を討伐するべきかの選択を迫られていた。

 

 仲間であるティオナ達を失う思いと、多くの一般人が危険に晒されている状況に幹部であるアイズが苦渋の決断を決めようとした瞬間……。

 

 

「───えっ?」

 

 

 突如、食人花は()()()()()()()()()()()()()人間の口のような花弁が無くなり、長い胴体は灰になって消滅した。

 

「えっ? えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「消滅……消滅っ!?」

 

「何が起きているのぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 アイズの元に集まっていた団員達は突然現れた食人花があっと言う間に消滅するという事態に驚きの声を上げていた。

 

【ロキ・ファミリア】の中でも食人花との戦闘経験のある者は限られているが、情報は共有されており、最低でもLv.3の強さと伝達されていた。

 

 それ程のモンスターが7本も一瞬で消滅させられた事実に多くの団員達が困惑している中、アイズだけが1人の人物に気づいていた。

 

 

「女の……人?ヒューマン……?」

 

 

 最初に出現した場所に佇むローブを深く被る人物にアイズは気づいていた。顔は分からないがローブから出ている長髪や体の輪郭で女性と推測できるぐらいである。

 

 しかし、驚異の食人花がいなくなったおかげでティオナ達の方を追いかけることができると考えたアイズは、その人物とは反対方向にある造船所を目指してほかの団員達を連れて行動を開始した。

 

 

 

***

 

 

 

「全く、匂いだけに飽き足らず、雑音をまき散らすとは……。お前達は本当に私を怒らせたいようだな?」

 

「あ……あぁ……」

 

 

 最初に現れた食人花の場所では、多くのアマゾネスが虫の息の状態で倒れていた。

 

 そして、その多くのアマゾネスが呻き声を上げるも、それさえも『五月蠅い』と一蹴する『魔女』と場違いにも爆睡している『精霊』がいた。

 

 

「……」

 

「Zzz」

 

「……ふふふ」

 

 

 アルフィアとエレンである。

 

 ザルドが港に戻ってきたとき、神ニョルズが慌てた様子でジルド(ザルド)に1枚の封筒を渡してきたのがきっかけだった。

 

 

 『邪魔をすれば、青髪のヒューマンの命はない』

 

 

「……何だ、これは?」

 

「1時間前ぐらいだ。俺の眷属(子ども)の前にカーリーの所のアマゾネスが突然やってきて、これを置いて行ったと言っているんだ」

 

「……」

 

 

 ザルドが受け取った封筒の中には先程の内容の紙と()()()()()が入っていた。

 

 ザルドは持ち前の嗅覚でその髪の毛がエレンの物であるとすぐに分かった。

 

 

「(昨日、連れてきたのは不味かったか)」

 

 

 恐らくは、昨日の事で自分の連れであると思った向こう側がエレンを人質にしたのだろうとザルドは考え、『巻き込んじまったかぁ~』と片手で顔を覆った。

 

 

「……神ニョルズ。お前の眷属共を集めておけ」

 

「はっ?」

 

「今晩……ここは軽い戦場になるだろう。これは俺が邪魔をしないようにするためのものだ」

 

「……君は如何するんだい?」

 

「ん?俺か?俺はコイツ(エレン)を迎えに行ってくる」

 

「ま、待て!?人質なのだろう?そんな事をすれば、ヘスティアの眷属(子ども)の命が!!」

 

「大丈夫だ。アイツが人質になった程度で死ぬような奴ならとっくにあの女(アルフィア)に殺されている……。いや、マジで!」

 

「はっ?」

 

 

 ザルドの頭の中では『割と元気にやってんじゃね?』と思っているのである。

 

 まぁ、実際……。誘拐され人質のようになっているのに関わらず、本人(エレン)は爆睡である。(イライラMaxのアルフィアの前で)

 

 ザルドはそんな事を考えながらも寝泊まりしている別荘に戻り、持ってきた大剣を手にして出ようとした時……。

 

 

「何処に行く気だ?ザルド」

 

「……」

 

「ふふっ 大剣なんて持って如何した? こんな時間から狩りにでも行くのか?」

 

「……」

 

 

 この別荘に帰ってきてとある異変に気付いていたザルドは、あえて気づいていないふりをしていたが、アルフィアに捕まってしまった……。

 

 

「(こいつ、『笑って』やがるっ!!)」

 

 

 アルフィアはあまり笑わない。

 

 笑うことがあるとすれば、妹のメーテリアとその子供のベルの目の前ぐらいであり、長い付き合いのザルドでさえ、あまり見たことがなかった。

 

しかし、()()()()()()()()()()()()()……アルフィアは笑うのだ。

 

 

「(こいつ!? ()()()()()()()()()()!!)」

 

 

 アルフィアはブチ切れると『笑う』癖があった。

 

 最後にブチ切れた(笑った)のは、ベルパパがメーテリア(大切な妹)を妊娠させたと知った瞬間であり、過去最大にブチ切れた(笑った)そうだ。

 

 具体的には、同じ【ファミリア】に所属しているザルドが八つ当たりを受け、ベヒーモス戦以上の負傷を受け生死の境を彷徨った。

 

 それでも、イライラ(笑い)が止まらなかったアルフィアは『ゴライアス』『アンフィス・バエナ』『ウダイオス』の3体の階層主を()()()()してストレスを発散させるほどだった。

 

 

「ほれ?話せ、それとも口の聞けない肉塊の方がいいか?」

 

「……」

 

 

 ザルドは正直に話した。

 

 エレンがアマゾネスの連中に連れ去れた事。そして、この後に【メレン(ここ)】が軽い戦場になる事。自分がエレンを救出(迎え)に行く事。すべて話した。

 

 

 

 そしたら……。

 

 

 

「……ふふっ。そうかそうか。なら、()()()()()()()()()()()エレン(アイツ)の大体の場所は分かっているのだろう? お前はアマゾネスの方をやってこい」

 

「……」

 

 

 ザルドは思った。『エレン(アイツ)……今度はダメかもしれんなぁ』と……。

 

 

 そして現在、エレンはアルフィアの目の前で全身を縄で縛られた状態で爆睡中である。

 

 

「Zzz」

 

「……ふふふ」

 

 

 エレンは一度寝ると中々起きない。

 

 どのくらいかと言うと、本拠(ホーム)で昼寝をしている時にヘスティアがエレンに抱きついた状態で寝ていても全く起きないぐらいである。

 

 さらに言えば、アルフィア(魔女)が支配している別荘で、余裕で寝てしまえるぐらいの変な度胸を兼ね備えている。

 

 なので誘拐され、全身を縛られても平気で眠っているのだ。強いて言えば、縛られているせいで寝返りが打てず、寝づらい程度である。

 

 

「ふふっ。そうかそうか。そんなに幸せそうな顔をして……ふふっ」

 

 

 アルフィアから猛烈な魔力が溢れ出していた。

 

 溢れ出す魔力は周囲の空間が歪んで見える程のものであり、倒れているアマゾネス達も体を引き摺りながら、その場から離れようとしていた。

 

 

「だが、そろそろ起きる時間だろう?これは()()()()()()()だ」

 

 

 そしてその日……エレンは『永眠級の目覚まし』を食らった。

 

 造船所は謎の大爆発で崩壊。その日の夜は大鐘楼と聞き違うぐらい大きな鐘の音が、『オラリオ』まで届いたという……。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

オリジナル設定のアルフィアがブチ切れると笑う癖がある設定でした。

アルフィアがブチ切れている理由は、エレンを捕まえるために『戦闘娼婦(バーベラ)』達が動き回った影響で麝香の匂いが【メレン】に広がった影響で溜まりに溜まったストレスが爆発した藻が理由です。

エレンがイシュタルの魅了に堕ちなかったのは処女神(ヘスティア)の精霊であること、【月精霊の加護(アルテミス・ファヴォール)】の影響のせいです。


エレン
 一度寝たら中々起きない男。アルフィアのゼロ距離目覚まし(ゴスペル)をもろに食らってしまっている。エレンの生死はいかに!

アルフィア
 『戦闘娼婦(バーベラ)』のつけていた麝香の匂いに我慢が出来なくなり、遂に動き出した『最凶』の眷属。ザルド曰くLv.8ではあるが実際はLv.9クラスとのこと。

ザルド
 アルフィアが【イシュタル・ファミリア】のアマゾネスを蹂躙したため、アルガナとバーチェ。その近くにいたアマゾネス以外の【カーリー・ファミリア】のアマゾネス達を蹂躙した。
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