聖火の精霊が英雄達を手助けするのは間違いだろうか   作:フェイト・

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38話 【出張治療師(ヒーラー)エレン君】④

「こんな感じなのですが……」

 

「ヴェルフはなんて?」

 

「『何それ知らん、怖い』って、ドン引きされました……」

 

「でしょうね……」

 

 

 場所は、【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)『ヴァルカの紅房』。

 

 神フレイヤの冒険者依頼(クエスト)を完了させたエレンは、次に椿の依頼を受けるべく、【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)を訪れている時だった。

 

 エレンは、昨日の出来事(魔剣融合)について、魔剣の制作者のヴェルフに『魔剣って融合するの?』と尋ねると『融合?何言ってんだ、あんた?』と信じてもらえなかったので、ヴェルフの目の前で『精剣』エクスカリバーを造ってみせた。

 

 目の前で、自身が打った魔剣が融合する光景を見たヴェルフは『何それ知らん、怖い』と言ってドン引きされ、この現象に、元鍛冶貴族であるヴェルフに何か知らないか聞いてみたが、過去の伝承にも魔剣が融合したなんて書かれていなかったとのことだった。

 

 魔剣の製作者(ヴェルフ)が知らないと聞いたエレンは、『ヘファイストス様なら何か分かるかな?』と思い、ヘファイストスのいる主神室に直行。

 

 ヘファイストスに事情を話し、ヴェルフの時と同様にヘファイストスの目の前で『精剣』エクスカリバーを造り、ヘファイストスに鑑定してもらっている最中だった。

 

 

「ヘスティアはなんて言っていたの?」

 

「恐らく、『神秘』のアビリティを獲得したことで、精霊が使う『融合』の奇跡の一端なんじゃないかと」

 

「サラッと『神秘』持ちであることが聞こえたことは置いといて……私もヘスティアと同じ考えよ。こんな現象は精霊の『融合』の奇跡のそれね。魔剣が融合するのは、初めて見たけど」

 

 

 ヘファイストスはエレンが持っている『精剣』エクスカリバーを長い時間をかけて観察し終えると、ヘスティアと同じ答えを出した。

 

 ヘファイストスの話では、エレンが持っている『精剣』は、大精霊クラスの存在が、自身を『剣』に変化させたものに匹敵するものだと断言。

 

 さらに、『上級魔導士魔法以上の火力があるから人に向けて絶対に撃っちゃだめよ?』とエレンに忠告するヘファイストス。───えっ?『エレンは既にオッタルに向けてぶっ放しているぞ!』って? あれは『化け物』枠なのでセーフである。

 

 そんな他愛もない話をしながら、回復魔法の炎を消し、『精剣』の融合を解除し、元の2本の魔剣に戻した直後に、依頼人(クライアント)がヘファイストスのいる執務室に入ってきた。

 

 

「すまんすまん! 遅くなったー!」

 

 

 そう言って、執務室に入ってきたのは、【ヘファイストス・ファミリア】の団長、椿・コルブランド。

 

 Lv.5の第一級冒険者でありながら、最上級鍛冶師(マスタースミス)としても有名である彼女が、今回の依頼人(クライアント)である。

 

 エレンも過去に何回か会ったことはあったが、今回は今まで見たことのない恰好をしていた。

 

 その姿は、江戸時代の戦で使われていた鎧姿。

 

 とは言っても、歴史の教科書に載っている全身鎧姿のものではなく、身軽さを重視しているのか、鎧部分が胸・腹を守る『(どう)』、肩の部分を守る『大袖(おおそで)』、腕につける『籠手(こて)』のみといった極端に少ない装備だった。

 

 オッタルも似たような軽装備をしていたので、『最近はこんな装備が主流なのか?』とエレンが考え込んでいると、椿は、大量の武器の入ったバックパックを持ってきた。

 

 

「羊皮紙に書いてある通り、お主にはサポーター兼治療師として、このバックパックを運んでほしいのだ!あっ! 何なら、試し切りに付き合ってくれてもいいぞ!」

 

「付き合うも何も……こんだけの量の武器の試し斬りって、どんだけの時間が……」

 

「あぁ、そのことについては問題ない。今回は助っ人も用意しておるからな~」

 

「助っ人?」

 

 

 エレンは所々、今にもはち切れそうなバックパックを目にし、『一体どんだけ入ってるの……!?』とその量に圧倒されていると、どうやら『助っ人』なる存在がいるらしい。

 

 流石にこれだけの量だから、ほかの協力者の1人や2人はいるか~と思ったのもつかの間。

 

 エレンは、椿から『お主にはこれを着てくれ!』と1つの防具を渡された。

 

 

 

***

 

 

 

「つまり……サポーター、ということでいいんでしょうか……?」

 

「まぁ、そんなところだ。何度も『ダンジョン』に入るのも骨だし、まとめて1回で済ませたいのでな」

 

 

 ここは、【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』。

 

 椿が言っていた『助っ人』とは、どうやら【ロキ・ファミリア】のことだったらしく、椿に連れられ、エレンは【ロキ・ファミリア】を訪れていた。

 

 そして、そんな2人の前に現れたのは、クルス・バッセルとラウル・ノールドの2人。

 

 どうやら、この2人が今回の『助っ人』のようだが、この2人はLv.4の第二級冒険者。

 

 【ファミリア】によっては、団長の立場にいてもおかしくない実力を持っている2人を試し切りの『助っ人』として貸し出すとは、都市最強派閥の名は伊達じゃないな~と、エレンは思った。

 

 

「まぁ……そういうことでしたら……」

 

「ちょっ……クルス! 安請け合いしすぎっす! この人は試し切りでL()v().()()()()()()()()()()()()()()なんすよ!?」

 

「なにっ……!?」

 

 

 なんかトンデモナイことを聞いてしまったエレンは、耳を疑った。

 

 第一級冒険者(Lv.5)なんて、ここ【迷宮都市(オラリオ)】でも、ほんの一握りしかいない次元の冒険者。

 

 その内の1人であるこの鍛冶師は、なんか試し切りをしていたらLv.5になっていたらしい……鍛冶師とは?

 

 そんな『聞き間違いかな?』と思いたい話を聞いていると、ラウルとクルスの2人が、椿の後ろにいる人物について尋ね始めた。

 

 

「あの~、椿さん。後ろにいる人は……?」

 

「むぅ? こやつのことか? ただの荷物持ち兼治療師(ヒーラー)だ。気にするでない」

 

「いや、そう言う話じゃなくて、一体()()()なのかと……?」

 

「あっ」

 

 

 ラウルとクルスの指摘で、エレンは今の恰好についてすっかり忘れていた。

 

 今のエレンは、椿が打った全身を鎧で覆っている状態であることを失念していた。

 

 今回の試し切りでは、『下層』まで降りるとのことだったが、『Lv.2になりたてのエレンがこのままでは危ない』とヘファイストスからお叱りを受け、この全身鎧姿の防具を着用している。

 

 この鎧の名は椿曰く『弁慶(べんけい)』という名の防具。

 

 エレンは、『面頬(めんぼう)』と呼ばれる部分を取り外し、顔を2人に見せると、『『【怖いもの知らず(ドレッドノート)】!?』』と驚きの声を上げた。

 

 

「なんだ? その、ドレッドノート?」

 

「……先日の『戦争遊戯(ウォーゲーム)』の影響で、そう呼ばれているみたいなんです……自分も昨日初めて知りました……」

 

「わっはは! 早速有名になっておるではないか! だが、時間は有限。早速試し切りに往くぞー!!」

 

 

 椿は大量の武器が入っているバックパックを片手に『黄昏の館』を出発する。

 

 その後ろを、いやな予感を感じ表情が暗くなっているラウル、クルスの2人の後ろを大量の武器が入ったバックパックを背負ったエレンが後を追っていった。

 

 

 

***

 

 

 

「のわぁぁぁぁーーーーーーーっっ!?」

 

「グオオォォ!?」

 

 

 ガキィィィィン!

 

 

「せあああぁぁぁっっ!」

 

 

 ズシャアァァッ!

 

 

「グギャアアァァッ!」

 

 

 場所は、『ダンジョン』の24階層『大樹の迷宮』。

 

 19階層から24階層の区域を指す『中層』エリアであり、巨大な樹木に覆われた場所。

 

 さらに、このエリアには『毒』を始めとした多くのモンスターが生息しており、『耐異常(アビリティ)』が必須と言われている場所でもある。

 

 そんな危険なエリアで……。

 

 

「……ふむ。この刀の切れ味は、ちと甘いか……そちらの盾は……?」

 

 

 武器のテストをしている集団が存在した。

 

 

「クルスに持たせた盾は問題なさそうだが、ラウルの方は、少し傷がついておるな……」

 

「ちょっ、椿さん!? 自分たちで試さないでほしいっす!」

 

「モンスターの攻撃を()()()()()()()()()()なんて、命が幾つあっても、足りませんよ!?」

 

「何を言っておる? あいつを見ろ、あれと同じことをするだけだぞ?」

 

「「普通はそんなはそんなことは出来ませんよ(いっす)!!」」

 

 

 ラウルとクルスの2人が『無理難題を押し付けないで欲しいッ!』と懇願するが椿は『何を言っている?Lv.2が出来るんだ。なら、お主らに出来む理由はなかろう?』と言って『バトルボア』と呼ばれる大型モンスターの攻撃を()()()()()()()()()()()()治療師(ヒーラー)を指さす。

 

 その治療師(ヒーラー)は、青い炎を纏っており、『バトルボア』の攻撃を受け止めると、お返し言わんばかりに、大盾を上へと押し上げ、ガラ空きになった胴体に刀を突き刺し、『バトルボア』を灰へと変えた。

 

 

「ふぅ~」

 

「『ふぅ~』じゃねーよッ!! 何やってんだぁ!! アンタはッ!?」

 

「えっ? だって、襲ってきたから……」

 

「なら、逃げるか、助けを求めてほしいっす!! 普通はLv.2が『バトルボア』の攻撃を真正面から受け止めたりしないっす!?」

 

 

 エレンが、『一件落着♪』とばかりに汗を拭っていると、先ほどの一部始終を見ていたクルスとラウルが怒号交じりの声で叫ぶ。

 

 『バトルボア』とは、大型の猪型モンスターであり、その突進は大岩を簡単に粉砕する。

 

 そんな相手を、Lv.2に成りたてのLv.2が真正面から大盾で受け止めるなんて自殺行為に等しいのだが、怖いもの知らず(エレン)は難なくこなしてみせた。

 

 それもそのはず。

 

 エレン・エウロギアは、あの実質Lv.9化け物(アルフィア)に何度もボコられ、掠り傷ではあるが一撃を入れた怖いもの知らずである。

 

 そんなエレンからして見れば、『バトルボア』なんて可愛い『うり坊』のような存在だった。

 

 

「どうだ? その大盾の使い心地は?」

 

「ん~。もうちょっと重さが欲しいですね。軽すぎてちょっと違和感を感じます」

 

「なるほど~。軽量化を追求してみたが、やっぱり大盾は重量があるほうが安定するか。なら───」

 

 

 因みに、先ほどの『バトルボア』の攻撃を防いだのは、椿が打った試作品の大盾であり、エレンの【炉の女神の大盾(ヘスティア・アイギス)】ではない。

 

 持ってきていない訳ではないが、今回は試作品の試し切りなので、なるべく使わないようにしている。

 

 椿は、さっきのエレンの意見を参考に次の大盾を見繕っている間に、エレンは持ってきたバックパックの中から大量の武器を取り出していた。

 

 

「なぁ、ラウル……。 全部の装備、試し終わるまで、これ、続くのか……?」

 

「全部……」

 

 

 クルスがエレンが取り出していく武器の数に表情を困らせた顔で隣にいるラウルに尋ねるが、そのラウルも半ば絶望したかのような表情で眺めていた。

 

 ラウル達の視界に広がっていたのは、地面が山のように積み重なっている武器や防具の数々。

 

 『遠征』と呼ばれる『ダンジョン』の攻略の為、予備(スペア)を含めた多くの武器、防具を持っていく彼らでもこれだけの量は滅多にない。

 

 そんな彼らに、椿は新たなる武器を手渡していった。

 

 ラウルには『鎖鎌』、クルスには『袖搦』、エレンには重量のある大盾を手渡し、再びモンスターとの戦闘が始まった。

 

 

 

***

 

 

 

「つ、疲れたっす~」

 

「だな、普通の冒険者依頼(クエスト)よりキツイぞ、これ」

 

「大丈夫ですか?」

 

「「……」」

 

「?」

 

 

 持って行った武器、防具をあらかた試し終わった椿一行は、一旦地上に戻り、『黄昏の館』戻ってきていた。

 

 椿は『手前も一度本拠(ホーム)に戻るから、少し休んでおいてくれ♪」と、何なら嬉しそうな表情で試し終わった武器、防具が入っているバックパックを持って『ヴァルカの紅房』に戻っていった。

 

 しかし、ラウルとクルスの2人はあれだけ酷い目に遭ったのにも関わらず、ケロッとしているエレンを凝視していた。

 

 

「……なんで、この人は平気そうな顔をしているっすか?」

 

「俺が知るかよ、本人に聞けよ……」

 

 

 『黄昏の館(ここ)』に戻ってくる途中に買ってきたじゃが丸君を頬張っているエレンを見ながら、ラウルとクルスが呟く。

 

 この椿の試し切りは、第二級冒険者(Lv.4)の彼らも根を上がるほどのキツイものであったが、第三級冒険者(Lv.2)のエレンは涼しそうな顔をしていた。

 

 体力は、治療師(ヒーラー)であるエレンに度々回復させてもらっていたが、何というか、精神的にめっちゃ疲れたのに、エレンは暢気にロキとお喋りをしていた。

 

 

「なんや、ドチビの所のエレンたんやないか。どうしてここにおるん?」

 

「お邪魔しています、ロキ様。椿さんの冒険者依頼(クエスト)で同行させてもらっています」

 

「あ~、例のアレか~」

 

 

 他派閥の子が、『黄昏の館(ここ)』にいることが気になったロキが尋ねると、エレンは『椿さんから冒険者依頼(クエスト)を受けています』と答える。

 

 ロキは、【メレン】に滞在している時に、【出張治療師(ヒーラー)エレン君】の存在を知っている。

 

 そのお陰で、すんなりと状況を把握することが出来たが、肝心の依頼人(椿)の姿が見当たらなかったロキが椿について尋ねようとすると……。

 

 

「すまーん! 遅くなったー!」

 

 

 またしても大量の武器や防具が入っていそうなバックパックを、ほかの【ヘファイストス・ファミリア】の団員の手を借りながら、『黄昏の館』にやってきた椿。

 

 その光景を見たラウルとクルスは、これでもかと口をあんぐりとあけ、全身が固まったかのように動かなくなっていた。

 

 

「な、なんや!? この量はッ!!」

 

「ん? 手前が打った作品に決まっておろう。こやつらが思っていた以上に有能で予定分が早く思ったのでな。ならばいっそ、溜まった分も消化しようかと、一旦地上に戻ってきたところよ」

 

「お~」

 

 

 エレンは、【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)を出る前に椿から『打った試作品の数か? これの3倍以上はあるぞ』と聞かされていたため、ロキのように驚きはしないものの、その見た目の迫力に圧倒されていた。

 

 さらに椿は、『荷物持ちであと1,2人ほど見繕ってほしい』とロキに申しだしていた。

 

 ロキも、ただの荷物持ちなら女子(おなご)に傷がつく心配はないと聞いたことで、見繕うために本拠(ホーム)の中へと入っていった。

 

 

「よーし! ラウル、クルス! 再び『ダンジョン』に潜るぞー! 次はその獲物を試してやろうか!」

 

「「……」」

 

 

 椿は、固まって動けなくなっているラウルとクルスを首根っこを掴み、一足先に『ダンジョン』へと向かっていった。

 

 エレンは遅れてやってきた【ロキ・ファミリア】の団員2人に事情を説明し、大量の武器や防具が詰まっているバックパックを背負い、椿の後を追っていった。

 

 

 

***

 

 

 

「どわぁぁぁーーーーーっっ!?」

 

 

ガキィィィン!

 

 

「ぬあああぁぁぁーーーっっ!?」

 

 

ガキィィィン!

 

 

「だああぁぁーーーっ!?」

 

「ひゃああぁぁーーーっっ!?」

 

 

 場所は、本日2度目の『ダンジョン』の24階層『大樹の迷宮』。

 

 2人の第二級冒険者が、最上級鍛冶師(マスタースミス)の鍛えた武器と防具を身につけ、モンスターに突っ込まされ、悲鳴が迷宮内に響き渡っていた。

 

 

「……」

 

「阿鼻叫喚……ですね」

 

「あの役……私達じゃなくて、本当に良かったわね……」

 

「……ところで、アキさん」

 

「何かしら、リーネ?」

 

「何で、あの人……エレンさんは、最上級鍛冶師(マスタースミス)()()()()をしているんですか……?

 

「それはこっちが知りたいわよ……」

 

 

 追加の荷物要員として主神に見繕われた第二級冒険者(Lv.4)のアナキティ・オータムと、第三級冒険者(Lv.2)のリーネ・アルシェの2人が2つの光景を見せられ、困惑の表情が顔ににじみ出ていた。

 

 1つは、同じ【ファミリア】の者が、試作品の武器や防具を無理やり持たされてはモンスターに突っ込まされる光景。

 

 もう1つは、最上級鍛冶師(マスタースミス)()()()()をしている他派閥の治療師(ヒーラー)の姿。

 

 何度も『ダンジョン』に潜っている彼女たちも、こんな光景は見たことがなかった……。

 

 

 ガコンッ!

 

 

「はははッ! それが言っていた『物真似』か? なら、その強さを見せてみろッ!」

 

「はぁあああああああああっっ!!!」

 

 

 激しい太刀同士のぶつかり合いにより火花が散り、金属音が迷宮内に響き渡っていた。

 

 エレンは椿の『解析』を終えたことで、椿の『剣術』を『模倣(コピー)』することに成功。

 

 ついさっきまで、素人だったエレンの太刀筋が大きく変化したことに『おぉ~!』と椿は驚きの表情を見せるが……。

 

 

「ふんッ!」

 

「ぐぅッ!?」

 

 

 椿はエレンの腹に強烈な蹴りを入れるが、エレンは常に回復魔法の炎を纏わせており、ダメージを一瞬で癒し、態勢を立て直した。

 

 

「ふむ。他者の動きの『模倣』にその頑丈さと回復力……。厄介ではあるが、その程度では手前の作品はやれんぞ?」

 

「くそー!」

 

 

 事の発端は、今回の報酬についての話だった。

 

 今回のエレンの報酬は、【炉の女神の大盾(ヘスティア・アイギス)】のメンテナンス代をタダにしてくれる内容だったが、椿が『手前に一撃入れれたら、作品の1つをやるぞ?』と発言したのだ。

 

 最上級鍛冶師(マスタースミス)の作品は、下手をすれば億単位になる代物。

 

 それが、一撃入れるだけで手に入るというもの。エレンは速攻で椿の申し出を承諾し、1時間の時間制限を設けるルールを決め、エレンは椿に攻撃を仕掛けていた。

 

 さらに、エレンは密かに椿の『解析』を始めており、椿本人と直接戦うことで、その『解析』時間が加速。その動きの『模倣(コピー)』を完了させることができたが、その程度では椿には歯が立たなかった。

 

 

「(やっぱり、1回の『解析(回転)』だけじゃ足りない。2回目を狙う? いや、時間が掛かりすぎる……!)」

 

 

 エレンのが他者の動きの完全に『模倣(コピー)』するのは、10回の『解析(回転)』が必要であり、長い時間を要する。

 

 さらに、椿のようなレベルの高い相手の『解析』は膨大な時間を必要であり、2回目の『解析(回転)』を狙うのは現実的ではなかった。

 

 

「(……なら)」

 

 

 『魔剣』を使う手もあったが、エレンは前から()()()()()()()()があった。

 

 その方法が格上である椿にどれだけ通用するのか気になったエレンは、『魔剣』を自ら封印し、【スキル】の()()()()()()を開こうとしていた。

 

 

「そっちがこないなら、手前からいかせてもらうぞッ!」

 

 

 一向に攻撃を仕掛けてこないエレンを見かねた椿は、太刀を握りしめ、攻撃を仕掛けてきた。

 

 振り下ろされる刃をエレンは借り物の太刀で受け流し、そのまま椿()()()()()()()

 

 

「(動きが変わった? 誰かの『物真似』か? だが、この太刀筋は手前のもの。それに……)」

 

 

 椿は斬り返されたエレンの攻撃を躱しながら、再び太刀をエレンに向けて斬りこむが、先程と同様に防がれてしまった。

 

 いくら加減しているとはいえ、ここまで防がれたことに疑問に思った椿だった、それ以上にエレンの『動き』の方が()()()()()()()

 

 どこかで見たことがある『動き』に、椿は過去の記憶を辿っていき、1人の()()と呼ばれる男の姿が頭に浮かびあがり、大きな笑い声を上げた。

 

 

「あははっ! お主ッ! 【猛者(おうじゃ)】の動きと手前の動きを()()()()()()?」

 

 

 以前の、【迷宮都市(オラリオ)】を襲った【黒い竜巻】を排除するために、『デダインの村』に向かっている最中に【猛者(おうじゃ)】の戦っている姿を見ている。

 

 その時の【猛者(おうじゃ)】の動きと比べると、エレンの動きは椿の言っている『物真似』レベルだが、確かに【猛者(おうじゃ)】の面影を感じていた。

 

 エレンが行ったのは、【精霊の才現(スピリット・アルフィア)】の『解析』の弱点を克服するために思いついた運用方法。

 

 それは、『模倣(コピー)』した()()()()()()()()()ことである。

 

 エレンが現在所持している他者の動きの『複製(コピー)』は、どれも本物に比べると『質』が圧倒的に低い欠点を、ほかの『複製(コピー)』した動きと組み合わせることで埋め合わせを図った。

 

 現に今のエレンは、オッタルの『絶対防御』を軸に、椿の『剣術』を組み合わせたもの。

 

 都市最強の冒険者の『防御力』に、多くの得物を扱ってきた椿の『技』を組み合わせることで、高い戦闘能力を得ることに成功した。

 

 

 

 だが……。

 

 

 

()()()()()()()()()

 

「そ、そんな……」

 

 

 終了時間になってしまったようで、終わりを告げるリーネの声が2人の耳に届く。

 

 椿は『いい運動になった!』と満足し、エレンは『最上級鍛冶師(マスタースミス)の作品……ガクリッ』とその場で膝から崩れ落ちていた。

 

 なお、この戦いで椿に完全に火がついてしまい、満身創痍のラウルとクルスの首っこを掴み、さらに深く潜ることになってしまった。

 

 『下層』では、『法螺貝』を使用すると大量のモンスターを呼び寄せることが判明し、ラウル達は、『法螺貝』を使用する毎に、試作品を持ってモンスターの相手をさせられ、全ての試作品を試し終わったころには、金属音に過敏反応するようになってしまい、5日間は使い物にならなくなったとか……。

 

 

「いや~! 今日はとても有意義な時間を過ごせた。感謝するぞ、エレン!」

 

「それはいいんですけど、大丈夫ですかね、あの2人?」

 

「なぁ~に。()()疲れた程度だ! 少し寝れば元気になるだろう!」

 

「少々……」

 

 

 エレンは、ラウル達と別れた後、椿が打った試作品を背負って【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻っていた。

 

 外はすっかりと暗くなっており、多くの冒険者などが居酒屋で酒を飲んでいる光景を目にしたエレンは、空腹で腹を空かしていると……。

 

 

「───ん?」

 

「どうした?」

 

「いえ……気のせいかな?」

 

 

 エレンは左薬指に嵌めている『指輪』が一瞬反応したような気配を感じたが、すぐに消えてしまった。

 

 

 

***

 

 

 

「クソッ!! この呪いの指輪がぁ!!」

 

 

 場所は、裏路地。

 

 メインストリートに広がっている商店街とは大きく異なる細道に、1人の猫人(キャットピープル)が苛立ちを隠さず歩いていた。

 

 

「何が伝説の【ファミリア】の遺産だッ!? ただの【呪いの指輪(カース・リング)】じゃねーかぁ!! あのほら吹き(ジジイ)がァッ!!!」

 

 

 その猫人(キャットピープル)の名はジュラ・ハルマー。

 

 かつて、【アストレア・ファミリア】を『ダンジョン』内で罠に嵌めて殺そうとした闇派閥【ルドラ・ファミリア】の1人。

 

 悪運にも生き残ったジュラは、闇派閥が拠点にしている場所に何とか戻ってこれたが、主神のルドラが送還されてしまい、今では別の邪神の眷属になっている。

 

 そんな彼だが、少し前に地上に出ている時に面白いものを見つけた。

 

 何でも、かつての『最凶』と呼ばれた【ファミリア】の遺産だと言って、老人が1つの『指輪』を掲げて歩いている通行人に売りつけを行っていたが、誰も目も向けていなかった。

 

 何しろ、その『指輪』は先日の『戦争遊戯』で【ヘスティア・ファミリア】の1人が『鏡』越しで装備している姿が映っていたのに、この老人は『この指輪は10年くらい前から持っていた』と言っており、誰もその話を信じようとは思わなかった。

 

 

「……へぇ、面白いじゃねぇか」

 

 

 ジュラは購入の意思があると嘘を言って、その老人から話を聞くと、この『指輪』は10年前にとある『廃教会』の中に安置されている『指輪』とのこと。

 

 『暗黒期』の影響で職を失い金に困っていたこの老人は、その『指輪』を持ち出したのはいいが、買い手がつかず、さらに、この『指輪』を持っていると()()()()()()()とのことで、ずっと閉まっておいたものらしい。

 

 だが、先日行われた『戦争遊戯』で、持っている『指輪』と同じものが使われているのを見た老人は『金になる!』と思い、ずっと閉まっていた『指輪』を取り出し、今に至るとのこと。

 

 ジュラは十分に話を聞いたと判断すると、その老人にナイフを突き出し、持っていた『指輪』を強引に奪い取り、その場を立ち去った。

 

 ジュラの目には、本物とは断言は出来なかったが、この『指輪』には何か特別な力があることを感じていたため、この『指輪』を奪うことを決めたが、この選択が後に後悔することになった。

 

 この『指輪』を装備しても何の効果もなく、寧ろ老人の言っていた悪夢に襲われるようになった。

 

 眠る時には必ず『夢』を見る───具体的には、馬鹿みたいに強い女共に何度も殺されては目を覚ます『悪夢』の類のものだった。

 

 さらに、時間が経ちにつれ、女の怨霊染みた幻聴まで聞こえてくる始末で、ジュラはこの『指輪』は『呪具(カース・ウェポン)』だと断言し、その『指輪』を人気のない裏路地に投げ捨てた。

 

 

「ちっ!」

 

 

 ジュラはそのまま『指輪』を捨てると、どこかへと姿を消し、『指輪』は夜の闇に溶け込むかのように姿を消したのであった……。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

もう1つの【婚姻の女神の指輪(ギメルリング)】の登場でした。

この【婚姻の女神の指輪(ギメルリング)】は、ヘラが【オラリオ】を離れる際に、自身の眷属の1人。メーテリアが愛した場所が侵されないように、と思いを込めてこの『指輪』を魔除けとして、『廃教会』に置いていたものです。

あと、今作ではレフィーヤじゃなくてリーネが荷物持ちで来ています。理由はロキがエレンを気遣っての選択です。(解消されたとは言え、まだ色々と根に持っているものが多いのが現状……)


エレン
 『模倣(コピー)』した動きを複数組み合わせることで、多芸を習得した半精霊。さらっと、到達階層が27階層まで行っています。

椿
 エレンとちょっとした決闘をした結果、火がついてしまいラウルとクルスが酷い目に遭った……。

ラウル、クルス
 椿の試し切りの被害者。エレンも同じように試し切りに参加していますが、アルフィアとの特訓に鍛えられているので、へっちゃらでした。
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