ある日の学校。
この俺、村上時成は友人である天宮汐音から、ちょっと意外なことを言われた。
「ねぇ、時成。僕って可愛いよね」
「……は?なに言ってんだお前」
隣の席同士で、友人がほとんどいない俺たちは自然と仲良くなっていた。同じ陰キャ仲間として、暇なときには雑談をしたり、時にはくだらない話で笑ったりしていた。
まさか、こんな言葉を汐音から聞くことになるとは思わなかった。俺が「えぇ~、マジっすか〜」と視線を送ると、汐音は少し声を荒げて弁明した。
「いや、僕って前髪で顔を隠してるけど結構美形じゃん!?テレビで若手女優が紹介されてるの見て、僕の方が可愛いでしょって思っただけでぇ!」
その時点で、俺の中では「これはアレじゃないか…」と思わず苦笑してしまう。慌てて弁明する汐音に、俺は落ち着いた声音で肩にポンと手を置き、優しく言った。
「ま、俺達は思春期だし。そういうことを考えちまうときもあるよな。大丈夫、俺はお前の趣味を否定しないよ」
「ちょっと!?なんか優しく言ってるけど、凄い誤解してるからね!?」
いや、こう言うしかないだろう。唯一の友人がこんなことを言うんだから、俺だって少し動揺してしまう。
「むぅ…!なんだかバカにされてるみたいで気に食わない…今週の土曜日、暇でしょ?僕の家に来てよ。僕の可愛さを見せつけてやるんだから!」
頬を膨らませて言う汐音は、普段の天然な姿とは違って、ちょっと強気でやる気に満ちている。こういう汐音を見たことはあまりない。たまには付き合ってみるのも悪くないな、と思う。
「分かったよ、行く。行くから落ち着け」
汐音はふぅっと息を吐き、椅子に座り直した。少し落ち着いてくれたらしい。
「次の土曜日、昼前あたりでいいか?弁当くらいなら作っていくけど…」
「え?いいの?やった…!時成のご飯美味しいから楽しみだよ!たまにしか食べられないから余計にね…!」
その喜び方が可愛くて、俺も思わず笑ってしまう。先ほどの余韻で少しテンション高めらしい。
ふと、改めて汐音を見る。
長めの黒髪で目元は隠れているが、時折覗く瞳がキラリと輝く。顔も整っているし、体つきも細く、身長は160cmで俺より15cmほど低い。ちらりと見える笑顔は、誰が見ても惹かれる魅力がある。
俺は無意識にじっと見つめてしまい、少し前のめりになってしまった。顔が近づくと、汐音は恥ずかしそうに手で口元を隠し、頬を僅かに赤らめてモジモジとしている。
「そ、そんなに見つめられると…その、恥ずかしい…」
「あ、あぁ。悪かったな…」
慌てて体勢を戻す。お互いに顔を背け、微妙な空気が流れる。
「そ、その…土曜日、忘れないでね…」
汐音は頬を赤く染めながらそう言った。素の照れと可愛さに、俺まで動揺してしまう。微かに揺れる前髪に、綺麗な瞳が覗ける。両手の指を合わせて小さく微笑む様はやっぱり可愛らしい。
「分かったよ…うん、ちゃんと覚えた」
静かに笑って顔を向ける。コイツは俺にとって唯一の友人で、唯一の話し相手だ。そんな奴との約束を破ることなどできない。
汐音は驚いたように目を見開いて俺を見つめる。その視線を受けて首を傾げてみる。なんか変なこと言ってしまっただろうか…
「あっ、いや、何でもないよ。ただ…嬉しくて」
汐音は優しく微笑えんでそう返してくれた。まったく、こういう時の笑顔は反則級だ。
「ちゃんと来てよね。僕のところまで」
静かに目を細めて笑う汐音。
俺は静かに頷いた。詩的な言い方にツッコミたい気もするが、今は我慢だ。天然なところも、コイツの魅力の一つなのだし。コイツの友人でいられるだけで、俺もなんとなく幸せを感じてしまう。