遊園地の日から数日、俺はいつも通りに過ごしていた。
「ん、この唐揚げ美味しいね。やっぱり時成のご飯が一番美味しいや」
昼休み、汐音と共に俺が弁当を食べる。机を合わせて隣り合った俺達は微笑み合いながら昼休みを過ごし…
「時成、今度一緒にボーリングとか行かない?あの大型デパートにあるボーリング場の割引券持ってるからさ」
放課後は汐音と雑談しながら下校する。休日はどう過ごすかとか、宿題がどうとか話し合って帰路を歩く。
まぁ、そんなこんなで割といつも通りの日常だったのだが…
学校が終わり、放課後を迎えたある日。
途中で汐音と別れ、数分ほど家へ帰っていた。
ふと、背後を振り返る。なんだか視線を感じた気がしたが、気の所為だろうか?
……パシャッ!
今、完全にシャッター音したよね?音的に俺の背後。チラリと横目で見てみると、恐らくあの電柱の影だろうか。
はぁ…これで何度目だ?ここ数日、似たようなことが多発している。ここまでやられたら恐怖を超えて覚悟が決まる。ここいらで答え合わせといこうじゃないか。
「そこストーカー(仮)!動くなよ!その正体を拝んでやる!」
そう言って背後の電柱に駆け寄る。ストーカーらしき人影は慌てたように逃げようとするが、その前に相手の腕を強く掴む。
「ぁ…♡」
電柱の影から相手を引きずり出し、その顔を拝むと…
「く、胡桃さん?」
そこにいたのは天宮胡桃だった。汐音の兄にして、先日共に遊園地にいた人物。
白のトップスとマウンテンパーカー、ベージュのスカートを着込んだ姿はまさに花の大学生。
美少女と言って差し支えないものだ。手には小さな鞄が提げられており、それもまたコーデの一つとして溶け込んでいる。
なんだかなぁ…汐音の女装姿を日常から見ているせいか、驚きが少ない。いや、まぁ、胡桃さんが圧倒的な美少女であることに変わりはないのだが…
それはそれとして、なぜ彼が俺の後をつけていたんだ?
と言うか小さく喘いでいた気が…き、気の所為だよな?
「ん、時成くん…なかなか力強いね。とってもボク好みだよ…」
胡桃さんは頬を赤く染め、薄く笑いながら俺の手を撫でた。もちろん、胡桃さんの腕を掴んでいる手だ。
なんかゾワゾワする…綺麗な指先がスーッと俺の手の甲を撫で、ギュッギュッと優しく穏やかに俺の手を握り返す。
えぇ…なんなのこの人。距離感おかしくね?と言うか何故この人が俺の後をつけていたんだ?
「あ、あの、胡桃さん…なんで胡桃さんが俺の後をつけてたんですか…?」
「ぁ…」
胡桃さんの腕を離し、僅かに後退って問いかける。
胡桃さんは何故か、離れる時に残念そうな小声を漏らしたけれど、問い質すべきことは別にある。
「いやぁ、時成くんに気付かれてしまうとは…ボクも衰えてしまったかな」
だが、胡桃さんは飄々とした態度で言い逃れようとする。まるで子供をからかうように、遊び心の籠もった瞳が俺に向けられる。
「あのですね、さっきシャッター音が鳴ってましたよ。スマホかカメラか…どちらにせよ、それって盗撮ですからね?」
声を強めに彼に一歩踏み出す。知り合いだったことに気が抜けてしまったが、彼は俺の後をつけ、ストーキング行為をしていたことに変わりはない。
それは立派な犯罪であり、俺としても心よろしくない。誰かに監視され続ける日常など、精神的にきつすぎる。
「まぁ、やっぱりその話になるよね。ごめんね、ちょっとした事情があって…どうせなら、近くのカフェで話さない?奢るよ」
と、俺に薄く笑って提案してくる胡桃さん。
信用ならねぇ…この人はやっぱり苦手だ。人を見透かしたような瞳も自信満々な笑顔も、俺の苦手な陽キャ感があってすっごい苦手。
だが、胡桃さんが俺を付けていた理由。それは知りたい。このまま放置して付きまとわられるのも迷惑だし…ここは試しに乗ってみるのも悪くない。
「分かりました。そこでお話しましょう…ちゃんと、理由を話してくださいよ」
俺の言葉に胡桃さんは軽く頷いて歩き始めた。方向的に駅前の喫茶店に向かっているのだろうか、俺もそんな彼の背中についていった。
――――――――――
場所は変わって喫茶店。駅前にある小洒落たお店で午後四時といった微妙な時間帯ながらも人は多かった。
お互いにコーヒーを頼み、一息ついてから話し合う。
「ボクが君の後をつけていた理由だったよね。本当はあまり言いたくなかったんだけど…君がそこまで望むなら、ボクは言うよ」
胡桃さんは頬を赤く染め、小さく笑っていた。その表情は先程のものとは違い、まるで恋する乙女のようで…
「まぁ、簡潔に言うとね。ボクは君に惚れてしまったんだ。あ、もちろん恋愛的な意味だよ?LikeではなくLoveのほうさ」
「…ゴホッ!」
彼の口からこぼれた言葉に思わず、飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになり咳き込んでしまった。
胡桃さんはそんな俺の様子を楽しそうに眺めていて、その態度がちょっとだけイラッとくる。
「あ、あの…なに変な冗談を言ってるんですか…俺はそういうからかいを受けに来たわけじゃなくて…」
と、俺の言葉を遮って真剣な声音で胡桃さんは断言した。
「冗談じゃないよ。そう聞こえるかもしれないけど…ボクは、君が好きなんだ。心の底から…君を想ってる。」
その声に、俺は黙りこくるしかできなかった。あまりに真っ直ぐで正直な声音と表情だったから、その見た目も相まって見惚れてしまった。
「君はまだ色々と考えることがあるからね。答えは急がなくていいよ。ただ…」
胡桃さんはそこで言葉を切るとテーブル越しに体を前のめりに倒して耳元で囁いてきた。
「ボクは君を絶対に手に入れる…ボクは君が好きで好きでたまらないんだ。
ボクはこれから君にアピールしまくる。逃げ切れるだなんて…思わないでね」
胡桃さんはそう言うと俺の頬を両手で押さえて顔を近付けてきた。唐突な行動に慌てて声を出す。
「ちょ、なにを…!」
チュッ、と小さな音がする。胡桃さんの唇が当てられたのは俺の唇…ではなく、額だった。
ただ、胡桃さんにキスをされてしまったという事実が俺の頬を赤く染めていく。体が段々と熱くなって、胡桃さんを"女の子"のように思えてしまう。
「ふふっ…それじゃあ、ボクは帰るね。ちゃんとお金は払っておくから、君も早めに帰るんだよ?」
愕然として動けない俺を置いて胡桃さんは立ち去ってしまった。そのことにハッと意識を浮き上がらせて俺も店を出る。
胡桃さんは駅の中に入ったようで、その瞬間が微かに見えた。だが、それもすぐに消えてしまって俺はぼんやりと適当に歩く。
気付けば近くの公園に入っており、俺は木陰のベンチに座り込んで空を見上げる。
気付けば夕方になっていて、ふと公園にある時計を見れば午後5時を回っていた。夕焼けに黄昏れながら俺は先程のことを思い出す。
俺は胡桃さんに好かれている。恋愛的に…愛されていた。
俺は、どうするべきなんだろうか。今まで人に告白されたこともないし、ましてや男に好かれるなんて想定外だ。
「でも…嬉しかったな」
そう、嬉しかった。
初めて誰かに「好きだ」と言われた。誰かに求められた。そのことが、何故かとても嬉しかった。
だが、それでは付き合えない。俺はまだ胡桃さんのことをよく知らないし、関係性だって浅い。
ガシガシと頭を掻いて立ち上がる。迷う心を振り払おうと勢いを付けて歩き出した。
今日はゲームして寝よう!そんでもってこの事は明日考える!今日はもう疲れた!
イライラとしながらも家にたどり着き、部屋に入って制服を脱ぎ捨てる。そのままゲーム機のコントローラを握ってテレビを付ける。
一通り遊んだ後、飯を食って風呂に入って…そして、就寝の時間。
今回はASMRを聴きながら寝ようと思う。この胸の中にある雑念を掻き消すにはちょうど良いだろう。
――――――――――
翌日の朝、俺はどうにも眠れず、薄い隈を付けた顔で目を覚ました。
『逃げ切れるだなんて、思わないでね』
その言葉が脳内で反響し続け、俺はどんよりとした気分でベッドから起き上がった。
なんか小説書いてて思うんすけど、キャラの言動とか俺の中のその人が決めてる感じがするんよね。なんか言い表しずらいんですけど…自然とそのキャラのセリフとか行動が出て来ると言うか。