あれから数日、ようやく土曜日を迎えた。
朝、起きて布団を整える。軽く伸びをすると、ポキポキと鳴る背中の音が僅かに心地よい。今日は汐音と会う日だ。できるだけ身なりを整えなければ。
自室を出てリビングへ向かうと、ソファには父さんが新聞を読みながらコーヒーを飲んでくつろいでいた。軽く挨拶をする。
「父さん、おはよう」
「おう、おはようさん」
新聞に視線を向けたまま返す父さんは、冷たそうに見えるがどこか優しい声音で返した。2人きりでも気まずさはなく、心地よい空気が流れる。
食パンを取り出してトースターに入れる。パンが焼ける間に、コーヒーを淹れる。父さんが先に淹れていたため、ポットの中のお湯はまだ熱さを保っていた。
チン、とトースターの音が鳴る。立ち上がり、トーストを取り出す。
「ふぅ…」
落ち着いた息を吐きながらソファに腰掛けて朝食を食べる。俺はパンには何も塗らない。パン本来の甘みを楽しみたいのだ。
食後、片付けを済ませる。家事は分担制で、俺の担当は食器洗い、洗濯干し、畳み、風呂洗い。昨夜の分もまとめて食器を洗い終えると、手を拭きながら冷蔵庫に向き合う。これから汐音と食べるお弁当作りだ。
汐音の好みは大体分かっている。苦いものは苦手で、辛いものや甘いものは好き。野菜はピーマン、ゴーヤ、春菊などが苦手。脂っこい肉も苦手だが、モモ肉やレバーは好みだ。
30分ほどで弁当は完成した。2つ並んだ弁当を見て、俺は満足げに頷く。脂少なめ、苦手野菜少なめ。それでも少しは挑戦として僅かに入れてみた。
家庭科で習った通り、主食3・主菜1・副菜2のバランスも意識した。汐音は健康や美容に気を遣うやつなので、喜んでくれるといいのだが…。
キッチンに弁当を置き、自室へ戻る。適当な服を選び、着替える。服装にこだわりはなく、今日は上下黒のシンプルスタイルだ。
今の時間は10時半頃。家から汐音の家まで30分ほどかかる。そろそろ出かけよう。肩にショートバッグをかけ、弁当2つとスマホを入れて出発した。
「あっちぃなぁ…朝からこの暑さかよ…」
思わず呟いて、軽く駆け足でマンションへ向かう。髪先に汗が付いて気持ち悪い。早く涼みたい。
20分ほどで汐音のマンションに到着した。ここのマンションはかなり大きく高級感がある。汐音はここで一人暮らしをしているのだ。
エントランスに入り、冷房の涼しさにほっと息を吐く。エレベーターで汐音の部屋がある階層へと上がる。部屋番号は287号だ。
287号室の前に辿り着くとインターホンを鳴らす。
「はーい!」
扉が開く。出てきたのはもちろん汐音だ。
白いTシャツと黒い半ズボン。ラフな格好だが、腕や脚は白くスッとしていて綺麗な肌が覗けている。
「おはよう、時成。どうぞ入って!」
「ん、ありがとうな。お邪魔しまーす」
靴を脱いで汐音の部屋に上がる。リビングに上がり、鞄をソファの隅に置くと汐音と向き合う。
「それで、早速だが女装姿を見せてくれんだろ?」
聞くと汐音は肩をビクンと震わせて頬を赤らめる。恥ずかしそうに前髪をいじりながらモジモジとしている。つーか髪切ったのか?なんだが昨日と比べて髪が少し違う気がするが…
「そ、そうだけど…僕から言っといて何だけど、やっぱり恥ずかしくて…いや!時成に見せるのは全然良いけど…少し、覚悟を決めさせて」
俺が疑問を抱いていると汐音はそう言った。そういうことなら俺も文句はない。素直に頷いた。
「了解。汐音のペースでいいから、是非とも見させてくれ」
汐音は俺の答えに安堵したかのように胸に手を当てていた。何度か深呼吸をすると落ち着いた様子で時成に向き合う。
「それじゃ、僕は着替えてくるよ。頑張って可愛くするつもりだけど、笑わないでね?」
汐音は時成をじっと見つめてそう言って時成に歩み寄る。前屈みになって少しだけ覗ける首筋に視線が行ってしまいそうになるのを我慢する。
「あ、あぁ。分かったよ。たとえどんな格好になっても俺は汐音を笑わない。」
汐音は俺の答えに満足げに頷くと背中を向けて自室の前に向かう。
「覗いちゃだめだよ?なんてねっ!」
汐音は振り返り、からかうように笑って自室に入っていた。
なんというか…いやはや、不意打ちに驚いて硬直してしまった。いきなりそういうこと言うの反則だろ…
「まったく…汐音ってやつは」
腰に手を当てて汐音を待つ。ああいう茶目っ気もあるところが可愛いのだが…女装したのなら更に可愛くなるのだろうな。なんとも末恐ろしい。
汐音の女装姿を想像しながら俺は扉の前で静かに待ち続けた。
いや、本当はこの話で汐音の女装姿を書くつもりだったんすよ…ただ思ったよりも筆が乗ってしまって…!と思ったけど2000字いってないとは…小説書いてる人ってやっぱり凄いなぁ
次は汐音の女装姿をしっかり書くのでよろしくね!