「時成ー、これって捨てていいやつー?」
「あー、それか。いいぞ、もう使わんやつだからな」
汐音は俺の言葉を聞くと手に持っていた小物をゴミ袋に入れた。いやぁ、結構片付いてきたな。自室の掃除はあまりしていなかったからとても助かる。
月曜日のことから数日、汐音はお返しとして俺の部屋を掃除しに来てくれたのだ。俺は何もいらないといったのだが、どうしてもと言うので仕方なく受け入れることになった。
汐音は女装姿で来ていて、白いTシャツにデニムのショートパンツというラフな格好をしている。
ショートパンツから伸びるスラリとした脚がどこか魅惑的でつい視線が…
いや、なんでもない。汐音は男、俺と同じ男。yes男no女。ただ女装しただけの美男子定期。
はぁ、いけないな。最近汐音にドキドキすることが多くなっている。表面ではポーカーフェイス的な表情で平静を装っているが、内心では大慌てだ。
だがいつまでも汐音に気を取られるわけにはいかない。ちゃんと掃除もせねばな。
ふと、掃除の最中に思ったのだが汐音を家に招いたのは初めてな気がする。知り合ってからそこそこ経つが、俺が汐音の家に行くことはあってもその逆はなかったっけ。
大きなゴミ袋は半分ほどいらない物で埋まっていて、俺の部屋の汚さが垣間見える。一見そんなに汚く見えないが小さい所で汚れが溜まっていたようだ。
「時成、これってアルバムだよね?時成が中学の頃の!」
汐音は机に備え付けられた小棚から小さなアルバムを引っ張り出してそう言った。なんだがワクワクとした表情でこちらを見ている。
「あーそれな、別に面白くもないぞ。今と大して変わらないしな」
だが、これもあるあるだろう。掃除中に見つけてしまった懐かしいアイテムとか、意外な貴重品とか、掃除なんてそっちのけで時間が過ぎ去ってしまう。
「見たいならいいが…本当に面白くないぞ?」
「知らない時成を見れるだけで僕にとってとは何よりも面白いし楽しいよ」
コ、コイツめ…またそういう思わせぶりなことを言うんだから…!汐音、本当に恐ろしい子…!
とかふざけている間にも汐音はアルバムをパラパラとめくりながら楽しそうに眺めていた。
「あ、この時成可愛いー…こっちの時成はカッコいい!この時成は綺麗!」
う、うぅむ…恥ずかしいな。俺からすればどれもこれもいつもの俺なのだが、汐音にとっては色々と差があるらしい。
「ねぇ時成、アルバム他にもあるでしょ?もっと昔の時成、見たいな」
「ん、探せばあるだろうが…そ、そんなに面白いかぁ?正直ちょっと恥ずかしいんだが…」
割とマジメに恥ずかしい…中学の頃のやつならまだしも、小学生の頃のものや幼稚園の頃のものは流石に…
「ダ、ダメ…?僕、昔の時成をもっと知りたいんだけど…」
そんな残念そうに言われたら断りづらい。それに変なところで意思が強いのが汐音の特徴だ。断っても粘られることは見えている。
「しょうがないな…分かったよ。探してくるから少し待ってろ」
そう言って俺は部屋を出た。物置部屋にあるかねぇ…ない方が俺としてはありがたいのだがな。
―――――――――――
時成が出ていって僕は部屋を見渡していた。アルバムはもう見てしまったし、繰り返し見る必要もなく写真に写っていた彼の表情などは完璧に記憶してある。
う~ん、暇だなぁ。時成がアルバムを見つけるまでどれくらいかかるか分からないが、その間なにをしようか…
ふと、ベッドに視線が移る。時成のベッド…時成の匂いが染み付いている、時成のベッド…
気付けば僕は時成のベッドに倒れ込んでいた。枕に顔を埋めてそっと息を吸ってみる。
「………!!!」
これは…やばい…!月曜日、時成に直接抱き着いたこともあったけど、ベッドは長年の匂いが凝縮されていて…
は、早く離れないと…ずっとこのベッドに籠もっていたくなってしまう!
「う、うぅ…離れたくないけど…」
仕方なくベッドから離れる。あれはダメだ。もう近づくのはやめておこう、うん。
「そういえば、時成ってそういう本は読むのかな…」
ベッドに寝転んでいたときに思ったけど、時成ってそういう…エッチな本は読むのかな?最近は電子化も進んでるって言うけど…
そういう本は大体ベッドの下か、本棚、タンスの奥って決まってるよね。
「ん、んん…」
しゃがみこんでベッドの下に手を伸ばす。ここには無さそうだ。それなら次は本棚かな?
「色々な本があるなぁ」
本棚には色々な本があった。学校の教科書や漫画の単行本、ラノベなどがギッシリと詰まっている。
本を隠すなら本の中だろう。さて、あるかなぁっと…
「あ、これかな?」
本棚の隅から探していると最中でそれっぽい本を見つけた。厚い本同士で挟むように置いてあって分かりにくい置き方をしていた。時成も男の子だねぇ…
「時成ってこういう子がタイプなんだ…」
ペラペラとページを捲ってみる。そこには際どい格好をした美人な女性たちが…
「こ、こういう格好すれば時成も喜んでくれるかな…」
肌面積がとっても多いし、女装に慣れてきたとはいえちょっと恥ずかしい…でも!時成に好かれるためだし…
でも、でもなぁ…
「僕がいるのにこういうエッチな本読んでるんだ…」
そりゃ僕は男だからね、胸はペッタンだしお尻もそんなだけど…顔はいいし、声も透き通ってて肌も綺麗でしょ?
う、うぅ…認めたくないけどやっぱり僕は男だからなぁ。時成を惚れさせるには難しいところもあるか…
でも、それで諦める僕じゃないからね!
まぁ、でも、それはそれとして…
「こんな本、いらないよね」
ビリビリっと本を破く。紙くずになったそれをゴミ袋に適当に突っ込んでバレないようにカモフラージュする。
時成はまだ16歳なんだから!こういう本は18歳になってからだよ!もう、時成はエッチな子なんだから!
ふぅ、と僅かに流れていた額の汗を拭う。一仕事したなぁ…って感覚だ。なんだがとってもスッキリした気分である。
「汐音、アルバム見つけたぞー」
おっと、時成が帰ってきた。その手には少し埃を被っているアルバムが握られている。
バレないようにしないとね。僕はいつもの笑顔を浮かべながら時成と一緒にアルバムを見つめた。
―――――――――――
「本当に送ってかなくていいのか?」
「いいよ、全然。まだ完全に暗くなったわけじゃないし、何かあったらすぐに時成に連絡するよ」
汐音とアルバムを見て急いで掃除をして…そんな感じで過ごしていたら時間もあっという間に経った。
現在の時刻は午後6時。もう少しで日が完全に落ちて夜を迎えるだろう。
「それなら何も言わねぇけど…危ない目には遭わないようにな」
「ふふっ、まるでお母さんみたいだね」
汐音はそんな風に笑うが、俺にとっては唯一の友人なのだ。そりゃ心配するだろう。
「それじゃ、時成。また明日、学校でね」
「おう、また明日な」
お互いに手を振って別れる。汐音は扉から出ていって玄関には俺だけが残る。
さて、夜は適当に勉強して飯食って風呂入って寝るかぁ。
だが、その前にちょっと休憩を…
自室に戻り本棚を見やる。えぇっと、確かここらへんに…
「な、ない…なぜ、なぜだぁ!?」
どこにもない!本棚もタンスもベッド下も…部屋中を探したがどこにもない!なぜ!どうして!?WHY!?
その日、俺は元気も湧かず沈んだ気分で夜を過ごしたのであった。
甘い物食べたーい。俺の好物はケーキとか甘い物なのでね、お菓子もスコスコスコティッシュフォールド。