ある日の学校。
その日はいつも通りの日だった。朝の時間に軽く談笑し、昼休みでは机を合わせて俺が作った弁当を食べ、やっとこさ放課後になったころ。
そんなとき、汐音は突然変なことを言い出した。
「ねぇ、時成。お泊まり会やらない?」
「…なんだ突然?いや、やってもいいけど…なぜ?」
いや、本当になぜいきなりお泊まり会なんざやるのだろうか。一時的にうちに来るならまだしも、24時間生活を共にするなんて俺の心が持たん。
だが、汐音はそんな俺の思いなんて知らず、少し恥ずかしそうに語り始めた。
「この前、時成の家に行った時に思ったんだけど……時成の家って、ゲームとか映画が結構あるよね?
僕、あんまりそういうの持ってなくて……もしよかったら、一緒にやらせてもらえないかな?
それで……ついでに、夜まで一緒にいたりとか……してもいいかな?」
「………」
思わずドキリとした胸に手を当てる。ええい、まったく!またそういう思わせぶりなセリフを!そんな可愛い顔で言いやがって…!
だが、まぁ…これも汐音なりに俺と親しくしようとする証なのかもしれない。
俺は汐音の唯一の友人…であるはずだ。ならば俺に対して向けられる矢印が大きくなるのは仕方ないことかもしれない。
ならば、拒む理由なんてないとも。
「分かったよ。ただ、変な期待はやめてくれよ?ありきたりな人気どころのゲームや映画しかないからな。まぁ、サブスクで探せば色々あるが…」
「うん!大丈夫だよ。時成と一緒にゲームするのが僕の夢の一つでもあったからね!それが叶うだけで僕からすれば一攫千金だから」
と、なんとも楽しそうな微笑みを浮かべて言われてしまった。いや、俺とゲームするのが夢の一つってどうなんすかね。あまりにも叶えやすすぎる願いでは?
ま、別にいいか…夢や目標は身近なところから持つべきだと言うのが俺の持論だ。そうすりゃ、どんどんと願いは叶えられ、自信が付いていく。
安易に手に入った自信だったとしても使いようはある。今までは踏み込めなかった小さな願望はそういった積み重ねで達成していくものだろうかな。
なんだが話が脱線した気もするが、まぁそういうことだ。
「日程は今週末の2日間でいいよね?月曜日に学校に行くときは時成の家から一緒に行くってことで」
まさかの2日体制である。む、むぅ…汐音と2日も同じ屋根の下で過ごすのか…
しかも一緒にゲームしたり映画見たり勉強したり…それだけではない。風呂も食事も同じものを使う、食べることになるだろう。
なんだか恥ずかしいな…普段は見せない私生活を赤裸々に曝け出すのは誰だって躊躇するものだろう。
「2日間もいるのか…?いや、ダメだとは言わないが…汐音は辛くないのか?」
ここは相手の意見を尊重したかのような形で回避するのがベストだろう。相手の意見を尊重する俺は優しいと思い込めるし、危機を回避できる上に尊重される相手の気分は良くなる。
まさにWin-Winな関係である。
「全然辛くないよ?マンションはセキュリティがしっかりしてるから大丈夫だし、時成の家ならマンションと同じくらい安心できるから」
だが、汐音には効果がないようだ。まじかぁ…全然OKっすか。そうっすか…俺は全然OKじゃないよ…主に汐音が可愛い過ぎるので。
「そ、そうか…まぁ、ならいいぞ。週末の土曜日、ちゃんと来いよな」
「もちろん、時成との約束をすっぽかすなんてことは絶対にしないよ」
流石は我が唯一の友人である。『行けたら行くー』とか『あー行く行く』みたいに軽く流すことはせず、声のトーンからも意思の強さがはっきり伝わってくる。
まぁ、お泊まり会を提案してきたのも汐音なのでそういう風に返す方がおかしいのだが…そこは気にしない。というか俺の頭の弱さが露呈してしまった気がするな…まぁいいか。
隣でニコニコと笑う汐音を見て思う。コイツと2人きりでの生活はどういったものになるのだろう。
存外に騒がしかったり、うるさかったりするのだろうか?もしくは静かに読書をしたり音楽鑑賞をしたり…
ただ、一つ分かるのは悪い生活にはならないということだけだ。
どうやら俺は思っていたよりも汐音のことを信頼していたらしい。なんだがお泊まり会が楽しみになってきたな…!
――――――――――
それから数日後。俺は自室のベッドの上で目覚めた。
カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ますと、まだ少し眠たげな頭を振りながら時計を確認する。
「あ…そうか、今日は…」
布団の中で思い出す。そうだ、今日は汐音が家に来る日だ。昨日までに両親への説明はしたし、掃除も万全だ。
目に付くところはあらかた掃除したし、"そういう本"は隠してある。油断も慢心もない、俺は自信を持って健全少年であると言えよう。
さて、汐音がやってくるまで後もう少しあるな…では、他にできる準備をしてしまおう。
「ふんふふーん」
なんだが気分が良くなってしまって適当な鼻歌を歌う。
適当な菓子にジュース、汐音が気に入りそうなゲームや映画を選んでおく。汐音に使ってもらう部屋も改めて見直しておいて…
そんなこんなで時間が過ぎた。そろそろだろうか…と思っていると丁度インターホンが鳴った。
「時成、おはよう。これからよろしくね!」
玄関扉を開けてみればいたのは汐音だ。髪を少し乱しながらも元気いっぱいに笑う汐音が立っている。小さな手でリュックを抱え、少し胸を張るような仕草で俺に挨拶した。
「あぁ、おはよう。俺こそ、よろしく頼む」
俺も軽く微笑みながら返した。俺もこのお泊まり会を相当に楽しみにしていたのだと密かに自覚する。
汐音を2階の部屋に案内する。この部屋が汐音に使ってもらう部屋となるわけだ。
汐音はお礼を言いながら部屋に入ると鞄を隅に置き、こちらに歩み寄って来た。
「それじゃ、早速ゲームしない?もしくは映画でもいいよ!」
「了解。早速やり始まるか」
汐音を俺の自室に案内し、ベッドに並んで座る。テレビの位置は少し変えてあってベッドの前に来るようにしてある。
「ねぇ、時成…僕、今日一日ずっと楽しむ気満々だからね!」
「おう、任せろ。こっちも準備は万端だ」
窓の外には朝の光がまぶしく降り注ぎ、家の中はこれから始まるお泊まり会への期待で静かに満たされている。
よし、準備はできた。さぁ、いよいよお泊まり会の始まりだ。ひとまずは家庭用ファミリーゲームから始めることにしようじゃないか。
そして今日の夜ご飯は自宅焼肉でした。小さな鉄板に並ぶ豚肉と牛肉…牛肉はちょっと高めなやつでめちゃくちゃ美味しかったです。