というか思い付きを筆に乗せるのはやっぱりムズいっすね…もっと精魂使ってやらんと…
「時成!そっち行ったよ!」
「わかってる!そんな急がすな!」
汐音が家に来て一時間ちょい。俺たちは某赤い帽子をかぶったおっさんが主人公のゲームをやっていた。
汐音は本当にゲームの経験が少ないようで結構なはしゃぎ具合を見せながらも楽しそうな表情を浮かべていた。
というか微妙にゲームに集中出来ない…時折触れ合う肩とか、太ももとかふくらはぎとか…ちょっと刺激が強過ぎると思うよ俺は。
というか男のはずなのになんでコイツの肌はこんなにスベスベで柔らかいんだ…?人体って不思議ねー
とかなんとか思っていると手元のコントローラーを疎かにしてしまったようだ。俺が操る緑のおっさんが溝に落ちていく。
「あちゃ〜、死んじまったよ」
「あっ!もう、時成〜、油断しちゃダメだよ」
と、赤い帽子のおっさんを操る汐音が言う。いや、君が微妙に距離を近くして座るのがいけないと思うよ。いくらなんでも距離感近すぎないっすかね。
「あっ、僕もやられちゃった…」
と、どうやら汐音の方もゲームオーバーを迎えたらしい。しょんぼりとした様子で肩を落としている。
「ま、初めてにしては結構上手くいけたんじゃないか?」
「そ、そう?えへへ、時成に褒められちゃった…♪」
だからなんでそう頬を赤らめるんだよ…友人に褒められただけでそんな恋する乙女みたいな表情を浮かべるかね、普通。
ま、コイツが喜んでくれるなら悪くはない。それなりにリラックスしてくれている証拠でもある。
「ん〜!なんだか飽きてきちゃったな…このゲームもそこそこやったし…」
汐音は俺のベッドに身を沈ませてそう言った。まぁ、シリーズの中では新しい方だがシステム自体は割と古い方のゲームだからな。
「それじゃ、なんかやりたいゲームとかないのか?家にあるもんなら出来る限り叶えるけど」
飽きたのなら新しいものを出す。単純だが悪くない策だと思う。
「で、出来る限り叶えてくれるんだ…」
む、また汐音が頬を赤らめて俺を見ている。いや、出来る限り叶えるって…あくまでゲームの話だからね?別に俺自身が何かするわけやないよ?
「そ、それじゃあ…」
だが、汐音は俺の内心など知らぬまま口を開いた。
「服のコーディネートしてくれない? どうせなら、時成が好きな服を着てみたいんだ…」
汐音は恥ずかしそうに視線を泳がせながら、もじもじとそう言った。
なるほど、言われてみれば汐音が着る服はいつも彼自身で選んでいて、俺が口を挟んだことはなかったな。
気分転換には悪くない提案かもしれない。俺のファッションセンスなんて自分でも信用できないが…まあ、できる限り頑張ってみるか。
「いいぞ。ただ、一応言っとくけど、俺にファッションセンスは期待するなよ?変な格好になっても文句言わないなら喜んでやるが…」
「全然大丈夫だよ。僕は時成のこと、ちゃんと信じてるから。今日だけは、僕は時成の着せ替え人形になってあげる」
なんだが矢鱈と信頼されているらしい。というか汐音を着せ替え人形に…か。なんだか言い方悪くないか?少しだけモヤモヤする。
「そうか…それじゃ、軽く準備して行くか」
服を見繕うならやはりデパートだろうか。この家の最寄り駅から二駅ほど行ったところに大型デパートがある。
「そうだね。と言っても、持って行くものは財布とスマホくらいなものだけど」
汐音はベッドから立ち上がりそう言った。俺もベッドから立ち上がって汐音に向かい合う。
「だな。あぁ、それと…」
まぁ、言っておく必要もないがどうしてもモヤモヤするので言っておく。
「俺はお前を着せ替え人形扱いするつもりはないぞ。お前は俺の唯一の友達だ。そんなお前を着せ替え人形扱いなんてした日には俺は俺を許せなくなる」
「………」
む、なぜか汐音が黙りこくってしまった。そんな変なことを言ったか?別に当たり前のことだと思うんだがな…
「ほら、さっさと行くぞ。」
「えっ、あ…う、うん!」
一声かけると汐音は慌てて返事をした。頬は赤いし、モジモジとしながら前髪をいじっている。
そ、そんな気にするセリフだったかぁ!?なんだがこっちが恥ずかしくなってくるんすけど…
――――――――――
ってなわけでやってきました大型デパート。
ここは最近できたばかりの建物で駅近かつ、うちの高校の近くでもあるので高校生など若者が多い。
そして、今エスカレーターに乗って向かっているのは人気な服屋さんだ。様々な服が揃っているらしく、その店は特に客が集まるとのことだが…
正直俺はあまり行きたくない…まぁ、汐音のためでもあるので我慢するが。
そして、早速始まる着せ替えパーティー。
「ねぇねぇ!時成、この服どう思う?」
そう言って試着室のカーテンが開かれる。それと共に現れた汐音が試着していたのはゆるニットと黒のプリッツスカート。
その立ち姿には清楚な雰囲気があって、可愛らしさよりも綺麗さや可憐さが際立っているように思えた。
いつもより大人っぽくなった汐音には、どこか落ち着いた静けさもあって、悪くない印象だ。
「あぁ、よく似合ってるよ。大人っぽくて美人モデルみたいだ」
「そ、そうかな?そ、それじゃあ…!」
と、汐音は再び試着室のカーテンを閉めた。中で僅かな布擦れの音がして数分後、カーテンが開かれる。
「これはどう!?」
そう言って現れたのはオフショルダーのトップスとスキニーパンツを着込んだ汐音。
肩や首筋が露出していて、夏が近付いて暑くなっているのもあって滴る汗には色気がある。
スキニーパンツはスラッとしている汐音の足を魅力立てていてさっきのとは違う大人っぽさがあった。
「ん、なんというか…色気があるな。肩とか首筋とか…とにかく似合ってる」
いけない、つい正直に答えてしまった。汐音の色気にあてられたのだろうか…くっ!汐音は男、汐音は男…
「そ、そっか…これも似合ってるんだ…」
汐音は試着室内にある姿見を通して反射する自分の姿を見ていた。身を軽く振りながら全身の様子を見ている。
「それじゃあ、これも買っちゃおうかな…他にも見てくれるよね?」
汐音は俺に向き直ってそう言った。まだまだ時間はある。断る理由も何もない。…まぁ、色んな服を着た汐音を見る度にドギマギしてしまいそうだが。
「あぁ、もちろん。まだ時間はあるしな」
俺はそう答えながら、汐音の嬉しそうな表情を見ていた。こんなに楽しそうにしている汐音を見るのは久しぶりかもしれない。
その後も汐音は次から次へと色々な服を試着していった。カジュアルなTシャツとデニム、上品なワンピース、少しボーイッシュなシャツとチノパン…どれを着ても不思議と似合ってしまう。
「時成はどれが一番好き?」
試着を終えた汐音がそう聞いてきた。俺は少し考えてから答える。
「うーん、どれも似合ってたけど…最初のゆるニットが一番良かったかな。汐音らしさが出てたというか」
「そっか…それじゃあそれにしよう」
汐音は嬉しそうに微笑んだ。
結局、最初のゆるニットとスカートの組み合わせと、もう一着カジュアルなオフショルダーのトップスとスキニーパンツの組み合わせを購入することになった。
そして、会計を済ませるともう夕方の時間帯になっていた。
「もうこんな時間か…お疲れさま、汐音」
「こちらこそ。時成、付き合ってくれてありがとう」
デパートを出ると、夕日が街を染めていた。汐音の顔に降り注ぐ夕焼けはどこか神秘的に見えて思わず目を細める。
「腹減ったな…何か食べて帰るか?」
「うん、そうしよっか」
俺たちは駅前のファミリーレストランに入った。店内はそれなりに混み合っていて、デパートの客数の多さが伺い知れる。
側の席に座り、汐音と共にメニューを眺める。
「何にする?」
「えーっと…ハンバーグ定食かな」
「俺はオムライスにしよう」
注文を済ませると、汐音が今日買った服の袋を大事そうに膝の上に置いた。
「今日は本当に楽しかったよ。時成と一緒に買い物するなんて初めてだったから」
「そうか?まぁ、俺もそれなりに楽しかったよ」
料理が運ばれてきて、俺たちは静かに食事を始めた。窓の外では夕日がどんどん沈んでいく。
「あ、そうだ。明日は時成の好きなことをしない?今日は僕のお願いに付き合ってもらったし…恩返しってことでさ」
汐音がフォークを止めてそう提案した。
「俺の好きなことか?…まぁ、考えておくよ」
「うん、楽しみにしてる」
食事を終えて会計を済ませると、俺たちは家路についた。電車の中で汐音は今日の戦利品を嬉しそうに眺めていた。
「明日、この服を着てみようかな」
「いいんじゃないか?よく似合ってたし」
「そうかな…えへへ」
家に着いたのは夜の八時頃だった。長い一日だったが、悪くない時間を過ごせたと思う。汐音の笑顔を見ていると、こういう時間も大切だなと改めて感じた。
――――――――――
その後、俺たちは軽くシャワーを浴びて、それぞれの部屋で休むことにした。
布団に入って本を読んでいると、時計の針が十時を回った頃だろうか。
コンコンと、扉をノックする音が響く。
「時成…?起きてる?」
汐音の声だ。こんな時間にどうしたんだろう。
「起きてるぞ。どうした?」
扉を開けると、パジャマ姿の汐音が立っていた。いつものように髪は少し乱れていて、頬がほんのり赤い。む、むぅ…なぜか色気を感じる…
「あの…その…」
汐音は視線を泳がせながら、もじもじと手を握り合わせている。
「どうしたんだ?何かあったなら遠慮なく言ってくれ」
「え、えっと…一人だと、なんだか眠れなくて…」
「眠れない?」
「う、うん。普段は大丈夫なんだけど、今日は…なんだか心がざわざわして」
汐音は俯きながらそう呟いた。確かに今日は色々なことがあったし、興奮して眠れないのかもしれない。
「それで…その…」
「うん?」
「一緒に…寝てもらえないかな…?」
最後の言葉は蚊の鳴くような声だった。汐音の顔は真っ赤になっている。
「いっ、一緒にって…」
思わず俺も動揺してしまう。一緒に寝るって…男同士とはいえ、なんだか妙にドキドキしてしまう…
それにこんな美少女(見た目だけなら)と同衾…だと!?俺の精神が耐えられん!断りたいところだが…ぐぬぬ…
「だ、ダメかな…?変なこと言ってごめん…」
汐音が慌てて引き下がろうとする。そんな風に言われたら断ろうとしても断れない。まったく、汐音は魔性の男だ…
「あ、いや…ダメじゃないが…」
俺は慌てて汐音を引き止めた。困っている友達を見捨てるわけにはいかない。
「本当?」
汐音の目がぱっと明るくなる。だからそんな期待の籠もった目で見ないでくれ。いや、断るつもりはないけどさ…
「あぁ。ただ、俺のベッドはそんなに大きくないから狭いぞ?」
「大丈夫!僕、場所取らないから!」
汐音は嬉しそうに頷いた。
俺がベッドに戻ると、汐音は遠慮がちにベッドの端に横になった。布団を半分分けて、お互い端っこに寄っている状態だ。
「ありがとう、時成。なんだか安心した」
照明を消した闇の中で汐音が小さく呟く。
「そうか…なら良かった」
あぁ、本当に良かった。もしこれで嫌だとか気持ち悪いとか言われたら立ち直れなかっただろう。
しばらく沈黙が続く。お互いの息遣いが聞こえてきて、なんだか落ち着かない。
「ねぇ、時成」
「なんだ?」
「今日、本当に楽しかった。時成と一緒にいると、なんだか…すごく幸せな気持ちになるんだ」
汐音の声には温かさが込もっている。そんな直球に好意を伝えられましても…だが、恥ずかしいのになんだか嬉しく思ってしまう。
「俺も…お前といると楽しいよ」
素直にそう答えると、汐音が少しだけ俺の方に身体を寄せてきた。柔らかな肌が僅かに触れる。
ちょ、ちょっと!?そんなに近づく必要ありますかね!?
「おやすみ、時成」
「…あぁ、おやすみ」
汐音の寝息が聞こえ始めると、俺も次第に眠気に襲われた。こんなに近くで誰かと寝るのは久しぶりだし、緊張で体温が上がる。
だが、まぁ…誰かと共に同じことをして、誰かと笑顔で話し合って…その相手が汐音で良かったと思える。
今日は、悪くない気分だったな。
というかちょっと長かったかな?あ、あと、不定期更新とはありますが…まぁ、毎日夜に投稿予定ではあります。もちろん、不定期更新であることは変わりないので確実のものではありませんがね。