まぶたの裏にじわりと光が差し込んでくる。
目をこすりながらゆっくり意識を浮き上がらせると、隣で寝息を立てる汐音が見えた。俺にギュッと抱き着いて体を密着させている。
「ああ、そうか。昨日はお泊まり会だったな…」
ぼんやりした頭でそんなことを思い出し、軽く伸びをする。
というか…なんでコイツ俺に抱き着いてんの?寝た時はまだ距離あったろ。しかも…
「時成…好き…」
なんで寝言で俺の名前と『好き』って単語を呟いてるんすかねぇ!?勘違いしちゃうじゃん!お前に恋愛的に好かれてるって勘違いしちゃうじゃん!
「はぁ…ふぅ…」
取り敢えず深呼吸だ。そしてコイツから離れる算段を立てなければ…汐音が起きるまでずっと抱き着かれてるとか俺の心臓が持たんからね。
「む、なかなか強い…」
だが、汐音の力は予想外に強く、離れようとしても僅かに身をよじるだけで終わる。
ええい、こうなったら強行突破だ!お前がそこまで意地を張るなら俺も負けないぞ!
「よい…しょっと!」
一声呟くと共に汐音の腕から抜け出しベッドから立ち上がる。ふぅ…ようやく抜け出せた。
と言うか汐音は思ったより寂しがり屋なのかもしれないな。俺を強く抱き締めて離そうとしない様子は母親に甘える子供を彷彿とさせる。
さて…リビングに行ってコーヒーでも飲みながらゆったりするかね。そう思って部屋を出ようと一歩踏み出すが…
「ときなり…どこいくの〜!」
目を半開きにした汐音が俺の手を掴んで体を起こしている。そして、俺の手を強く引っ張ってベッドに引きずり込んできた。
「ちょ、汐音、何を…」
困惑する俺の様子なんか知らな存ぜずな態度で、俺に抱き着いた汐音は言う。
「離れちゃダメ…まだ寝よ…」
俺の胸元に顔を埋めて静かに寝息を立てる汐音。先ほどよりも汐音の体が密着してきて俺の中に妙な緊張感が漂う。
足は絡み合い、腕が背中に回されてガシッと掴まれている。汐音の髪からは爽やかな香りがして心に安らかさを与えて来る。
や、やばい…!汐音の柔らかな体もそうだが…足!スベスベの肌が擦れ合って柔らかな太ももが…!
ええい!我慢だ!俺は健全健康たる高校生!寝ぼけている美少女(男)を襲うなんてことはしない!絶対にぃ!
「ん…うぅん…って、なんで時成抱き着いてるの!?」
その後、ようやく目覚めた汐音にそんなことを言われた俺である。
いや、お前から抱き着いてきたんだからね?俺悪くないよ?実は汐音の体の柔らかさを堪能してたとかはないからね?本当だからね?トキナリオニイサンウソツイテナイヨ。
――――――――――
そんなこともありつつ俺達はリビングでゆったりとコーヒーを飲んでいた。両親はまだ寝ているのかリビングには俺と汐音しかおらず、静かな時間が流れる。
「時成よくブラック飲めるね…僕はミルクと砂糖入れないと飲めないや」
汐音は俺の隣でちびちびとカフェオレを飲みながらそう言った。まぁ、俺も最初は『苦っ!なんだこれまずっ!』ってなったが慣れればその苦さも乙なもんに感じるもんだ。
「ブラックも悪くないぞ。苦いけど朝にはちょうど良い。寝ぼけた頭にゃいい刺激になる」
そうかな〜、と悩んだような表情を浮かべる汐音に頷く。ふふん、ブラックの良さが分からんとはまだまだ子供よの〜
「ねぇ、時成。今日は時成のやりたいことをするって約束だったけど…どうする?」
汐音は俺の方に小首を向けてそう聞いてきた。
「ん、そうだな…やりたいことか…」
と言っても、正直あまりない。強いて言うならベッドの上でぐーたらしながらソシャゲを…というのは流石にないだろうな。
さて、となるとどうしようか。やりたいこと、やりたいこと…あっ…
「ゲーセンとか、久々に行ってみたいな」
昨日、汐音とデパートに向かったとき。服屋に向かう途中でゲームセンターを見かけた。偶には行ってみてもいいかもな…と思っていたところだったのだ。
「ゲーセンかー。僕も最近行ってなかったし、いいかもね」
汐音も優しく笑って頷いてくれた。汐音をこんなことに付き合わせるのは何だか申し訳ない気分もするが…それはそれ。俺が汐音を目一杯楽しませてやろう。
――――――――――
さてさてやってきました、昨日のデパート。俺達が向かうゲーセンは3階、昨日行った服屋は4階にある。
「時成!これ可愛くない!?」
と、汐音がクレーンゲームの景品を指さして言う。景品のぬいぐるみはでっかいライオンのぬいぐるみで、ガオ~と可愛らしく口を開いている。
「ほしいのか?」
「う、うん!」
汐音は胸の前でギュッと拳を握ってぴょんぴょん跳ねている。そこまでやりたいのなら止める理由なんてない。
「いいぞ、どうせなら協力して取ってみるか」
「そうだね!2人で、頑張ろ!」
――――――――――
「やった♪ありがとう、時成!」
汐音がようやく取れたぬいぐるみを抱えて嬉しそうに笑っている。
それなりの長期戦になってしまったが、こんなにも嬉しそうな汐音を見れたなら儲けものだろう。俺としても悪くない気分である。
「良かったな。俺も楽しかったよ」
「そ、そう?なら良かったよ!これ、宝物にするね…!」
思った以上の喜びようである。なんだかな、少し小っ恥ずかしい気分だ。俺も釣られて小さく微笑んでしまう。
そんなとき、聞き覚えのない声が聞こえた。
「あれ?汐音くんじゃん。いやー、久しぶりだねー、元気してた?」
振り返ればそこにいたのは一人の美少女。
茶髪のロングヘアにぴょこんと飛び出たアホ毛が可愛らしく見える。フワッとしたジャンパーにミニスカートは白い肌を良く見せている。まさにギャルって感じだ。
「え、えっと…どなた?」
声をかけられた汐音は首を傾げて疑問符を浮かべている。まぁそうだろう。うちの学校にこんなギャルっぽいやつはいなかったし…本当に誰だ?
「ってえー、覚えてないの?ボクだよ、ボク〜」
その言葉を聞いても汐音は首を傾げたままだ。
「と言うか、本当に汐音も女装してたんだね。まぁ、ボク程ではないにしろ、結構可愛いじゃん。っていうか隣にいる君は誰だーい?もしかして汐音の彼氏くん?」
お、おう…いきなり情報を詰め込むんじゃない!アワアワしちゃうだろうが!
「俺は汐音の友達ですけど…あの、貴女は?」
取り敢えずはその正体から聞くべきだろう。俺がそう質問すると彼女はフッと笑って答えた。
「ボクかい?ボクは天宮
――思わず、俺はゲーセンの喧騒が遠のいた気がして仕方なかった。
まさかの新キャラ登場ですよお兄さん方
胡桃には色々と活躍の予定が…と言いたいところだけどどうなるかは未来の俺次第ということで