Duchess in Borderland   作:M.T.

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くらぶのさん(2)

 無数の火矢が刺さった境内は、火の海と化していた。

 私達4人は既に『おみくじ』を引いて、最後にアリスが『おみくじ』を引いた。

 『げぇむくりあ』の最後の希望は、アリスに託された。

 そんな中、アリスが引いたのは、大凶だった。

 

「オマエさぁ……なかなかだわ」

 

「ごめん……」

 

 私がガリガリと頭を掻きながらアリスに皮肉を言うと、アリスは俯いて泣きながら謝る。

 問題の欄は、『地球の人口は何億人?(二〇一〇年 推計) さあびす問題です。億より下の位は切り捨てちゃって構いません』と書かれていた。

 

「待てよオイまさか…億単位で答えろってのか…!?」

 

「1つでも答えを間違えれば…1億本の矢が飛んでくる…!!」

 

「何が…さあびす問題だよ…!!ひでぇよ…こ…こんなの…こんなの、答えられるワケないじゃんかよおおッ!!」

 

 チョータは泣き喚いていた。

 そうこうしている間にも、提灯がどんどん消えていく。

 

「くそっ!!要は…当てりゃあいいんだろ!誰か答えを知ってる奴はいねーのか?」

 

「オレが知るワケねーだろ!!日本の人口すらわかんねーのによ!!」

 

 カルベが尋ねると、チョータは泣き喚きながら首を横に振る。

 カルベが今度は私の方を見るので、私は覚えている範囲で答えた。

 

「去年のデータだけど…確か68億とか…だったと思う」

 

「世界の人口は、毎年8000万ずつ増えてるって聞いた事があるわ…もしそこから推測するならばおそらく、68億か、69億…だけど無理よ!!こんな曖昧な情報だけで、とても答えられないわ…!!」

 

「ムチャクチャだ…!!こんな問題…はじめから当てさせる気なんてねーんだよォ…」

 

 シブキとチョータは、半ば諦めかけていた。

 するとカルベは、覚悟を決めてアリスに声をかける。

 

「…もう、時間がねぇ…アリス!お前が決めてくれ」

 

「…は?」

 

「カ…カルベ君…!?」

 

「お前が『おみくじ』を引いたんだ。オレの命は、お前の判断に委ねるぜ」

 

 カルベは、自分の命運をアリスに託す決断をした。

 だけど当の本人は、その場で立ち尽くし、もう何も考えられなくなっていた。

 それでもカルベは、アリスの事を信じて託した。

 

 本当に、何か助かる方法は無いの…?

 世界人口を答えられなきゃ死ぬなんて、そんなの『♣︎3(くらぶのさん)』の『げぇむ』じゃない。

 せめて、矢がどこから飛んでくるのかがわかれば……

 

 ………あれっ?

 そういえば、何で毎回火矢が飛んでくる方向が違うのかしら。

 チョータの時は駅から、私の時は病院から、シブキの時は山から矢が飛んできた。

 

「………」

 

 私はふと、私が『おみくじ』を引いた時に矢が飛んできた方を振り向いて、夜空を見上げた。

 視界に映る北斗七星の延長線を目で追うと、ちょうど私の時に矢が飛んできた方角の空に、北極星が見えた。

 

「……やっぱり…そういう事か…」

 

 見えたわ、この『げぇむ』の突破口…!!

 私が答えに辿り着くとほぼ同時に、アリスも何かを閃いたように笑った。

 

「……ははっ…わかったぞ…!」

 

「ホ…ホントかアリス…!?」

 

「だったら早く答えろ!!もう時間がねーぞ!!」

 

「答えは…68億…」

 

 明かりの灯っている提灯があと一つになったところで、アリスが答える。

 その瞬間。

 

 

 

 ――ブーーーッ!!

 

 

 

《正解は、69億。ぺなるてぃは完遂します。これから朝になっても何日かかっても、あなた方が全員死ぬまで1億本の矢が射られ続けます》

 

 ………不正解、か。

 こりゃ腹括らないとだね…

 

「ど…どういう事だよアリス…わかったんじゃなかったのかよ…!?」

 

「な……なんて事を………なんて事をしてくれたのよォ!!次はもう…逃げ場なんてどこにもない…!!」

 

 アリスが解答を外すと、カルベが問い詰める。

 シブキは、絶望のあまりその場にへたり込んだ。

 

「マジで1億飛ばすってのか…!?ハッタリに決まってやがる…!!」

 

「もうダメだァ…!!オレ達全員死んじまうんだァ!!」

 

 北の空には、無数の黄色い炎が見える。

 もう迷ってる時間はない。

 私は、その場にへたり込んでいるシブキの腕を掴み引っ張り上げて立たせ、他の4人に向かって叫んだ。

 

「立って!逃げるよ!」

 

「逃げるって、どこに逃げるんだよォ!?あんなの、逃げられるわけないじゃんかよぉっ!!」

 

 私が叫ぶと、チョータが北の空で光っている無数の炎を指差しながら喚く。

 するとその時、アリスが叫んだ。

 

「南だ!!南に走れ!!」

 

「アリス…!?」

 

「走れって…アリス君、どういう事!?」

 

「時間がない、説明は後だ!!とにかく走れ!!」

 

 チョータとシブキは、アリスの言葉に半信半疑だった。

 だけどカルベだけは、迷わずアリスを信じて、チョータの肩を支えて走り出した。

 

「信じるぜ、アリス…!!」

 

 私達は、アリスの言葉を信じてひたすら南に逃げた。

 そしてアリスは、赤いレーザーが伸びた石の柵の前で立ち止まった。

 

「南に…何があるってんだよアリスぅ……」

 

「チョータの言う通りだよ…こんな問題、はじめから当てさせる気なんてなかったんだ」

 

「え…?」

 

「オレがわかったのは、問題の答えじゃない…!『おみくじ』だよ…!!」

 

 アリスは、自信に満ちた表情を浮かべながら振り向いた。

 

「なんでこの『げぇむ』の媒体に『おみくじ』を利用する…?舞台が神社だからか?それだけじゃ不自然だ…!『運勢』は出題の難易度。そして『問題文』…だったら残りは、何の為にある…?」

 

「『方角』…矢が飛んでくる方向は、『おみくじ』に書かれている方角…!」

 

 アリスの質問に、私が答える。

 私の時に矢が飛んできた方角の空には、北極星が光っていた。『おみくじ』に書かれていた方角も『北が悪し』。

 チョータの時は、私の時の左手の方角…『おみくじ』は『西が悪し』。

 シブキの時は右手の方角、『おみくじ』は『東が悪し』。

 今回無数の炎が見えているのは、私の時に矢が飛んできたのと同じ方角…そしてアリスの『おみくじ』に書かれていた方角も『北が悪し』。

 矢が飛んでくる方向は、あらかじめ『おみくじ』に書かれていたってわけ…

 

「だからって、なんで南に逃げたんだよォ!?」

 

「カルベの大吉だよ!!」

 

 喚くチョータの質問に、アリスが答えた。

 するとシブキがハッとして、カルベの『おみくじ』に書かれていた内容を思い出す。

 

「『あんたが大将…何をやってもうまくいく、絶好調もおど』…『方角…南が良し』」

 

「そこにオレ達が助かる為の、カギがあるかもしれねーだろ?」

 

「ク…クハハ!アリス…!!オメェ、やっぱスゲェわ!!」

 

 アリスが言うと、カルベが笑う。

 その時、何かを見つけたシブキが、どこかへと駆け出す。

 

「…!!あった、井戸…!」

 

 シブキが駆けつけた先には、古井戸があった。

 カルベが駆け寄って、井戸の蓋を開ける。

 

「スゲェよ!!アリスの読み通りだァ!!」

 

「ここに逃げ込みゃ、オレ達全員助かるかもし…れ…」

 

 カルベは、希望を抱きながら井戸の中を覗いた。

 だけど井戸の中は埋められていて、井戸の中の土からは雑草が生えていた。

 

「埋められてる…!?」

 

「ここじゃ…なかったの…!?」

 

 埋められた井戸を見て、チョータとシブキは絶望の表情を浮かべる。

 考えろ…私とアリスの読みは間違っていないはず…

 この南端のどこかに、逃げ道があるはず…!

 

 

 

 ――いやぁ〜…キツいネ。もう少し年配に優しくしろよなぁ〜

 

 

 

「そういえば…ここに来る途中、やたらと段差の高い階段があった。この境内、地下があるのかも…」

 

 私が言うと、アリス、カルベ、シブキの三人がハッとする。

 その時チョータが、北の空を見上げて泣き出した。

 

「おいおい…来てんぞ…あんなん、矢じゃねぇよぉ…!!」

 

 北の空は真っ赤に燃え上がっていて、炎の雨がすぐそこまで迫っていた。

 まずいぞ…早いとこ地下室を見つけないと、マジで全員お陀仏だよ。

 私が地面を調べて地下室を探し出した、その刹那。

 ゴッ、と硬い音がどこからか鳴った。

 

「!」

 

 振り向くと、何かに気付いたアリスが、何度も足元を踏みしめている。

 ゴッ、ゴッと明らかに土じゃない足音が響いた。

 それに気付いたカルベが、目を見開いてアリスのもとへ駆け寄る。

 

「どいてろ!」

 

 カルベは、盾として持ってきた台をアリスに押し付け、その場でしゃがみ込んで地面を掘った。

 カルベが掘り起こした地面からは、市松模様の扉が出てきた。

 

「カルベ!?」

 

「そのままそこに隠れてろ!!オレは!!苅部(カルベ)大吉だァ!!何をやってもうまくいく!!絶好調もおどッ!!『おみくじ』が正しいってんなら…このオレがこんな所で、くたばるかってんだァ!!!」

 

 カルベは扉のハンドルを回して、扉をこじ開けた。

 そこには、地下室へ続く梯子があった。

 

「あった、地下室…!!早くこの中に逃げ込め!!」

 

「ま…真っ暗で何も見えねーぞ!?」

 

「いいから急げ!!」

 

 カルベは、チョータ、アリス、シブキの順に地下室へと逃がした。

 火矢が次々と飛んできて、地面にザクザクと刺さる。

 

「カルベ、早く!」

 

「先に行け!」

 

「きゃっ!」

 

 私がカルベに声をかけると、カルベは私を突き飛ばして先に地下室へと逃がした。

 その直後、カルベが飛び込んできて、勢いよく扉を閉めた。

 地上からは、地下にいてもビリビリするほどの轟音が聴こえる。

 長い梯子を降りていくと、一番下にいたチョータが足をついたタイミングで、地下室の明かりがついた。

 

「シェ…シェルター!?」

 

 地下には、8畳ほどの広さのシェルターがあった。

 シェルターには、モニターと『びざ』のレジが置かれている。

 

「なんでこんなもんが神社の地下にあるんだ…?」

 

「そ…それより…オレ達は……助かったのか…?」

 

 アリスがそう言った、直後。

 レジの上に設置されたモニターが光る。

 

 

 

《こんぐらちゅれいしょん》

《げぇむ『くりあ』》

《あなた方は全員『おみくじ』を引いて見事生き残ることができました》

《下水道に通じるドアがあります。どうぞそこから自由に地上へお戻りください》

 

 

 

「…………っ、しゃああ!!!!!」

 

 モニターを見て、アリスはガッツポーズをした。

 そしてカルベのもとへと駆け寄ると、思いっきりハイタッチをした。

 

「ざけんなってんだ!!!どんなもんだァ!!!バカ野郎ォーーーっ!!!」

 

 アリスは、泣きながら生の実感を噛み締めていた。

 私は、アリスとカルベの間に割り込むと、二人を抱き寄せて、二人の横顔に横乳を押し当てた。

 

「オマエらヤるじゃんよ〜!!」

 

「うわ!?」

 

 私が二人の顔におっぱいを押しつけて絡むと、カルベは鬱陶しそうに呆れ顔を浮かべ、アリスは顔を真っ赤にした。

 男子ってこういうの好きなんだろ、ホレホレ。

 なんてふざけている間に、チョータは泣きながらシブキのおっぱいにダイブして抱きついた。

 

「うわああああああん!!ネーチャン!!アンタのおかげで助かったよォ〜っ!!」

 

「ちょっ…!?何するのよ離しなさ…」

 

「ありがどお〜っ!!!ほんどにありがどお〜っ!!!」

 

 チョータは、ぶびゃっと涙と鼻水を垂れ流しながら、シブキに礼を言った。

 シブキの服はチョータの涙と鼻水でベトベトのドロドロに濡れ、チョータが顔を上げると、湿っぽい音と共にシブキの服とチョータの顔面の間にきちゃない架け橋ができる。

 

「オレ達は、生きてっぞオォーっ!!!」

 

 私達5人は、お互いに身を寄せ合って、生きている事を喜び合った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから私達は、『びざ』が発行されるまでの間、シェルターの中で過ごした。

 腰のポーチに入っていた救急セットでチョータの脚を治療していると、いつまでもビービー泣いているチョータに、カルベが声をかける。

 

「チョータ、いつまで泣いてんだよ?」

 

「なんか、今になって傷口が痛くなってきたんだとよ」

 

「ぶえぇ、痛ぇよお〜っ!!」

 

 命が助かった事に安心して痛みが戻ってきたのか、チョータは鼻水を垂れ流して泣き喚いていた。

 私は、チョータの傷口を消毒して包帯を巻き直しながら声をかける。

 

「大丈夫〜?オッパイ揉む?」

 

 解けないように包帯をしっかり結んで…っと…よし。

 

「はいオッケー。あとは病院行って薬探さないとね〜♪」

 

「カルベぇ、アリスぅ…どうしようオレ、好きな人が2人になっちまったよぉ〜!」

 

 私がチョータに微笑みかけると、チョータが泣きながら言うので、アリス、カルベ、シブキの三人は一瞬だけぽかんとした表情を浮かべてから笑った。

 ちょっと優しくされただけで好きになっちゃうなんて、よっぽど今まで女子に縁のない人生だったんでしょうね。カワイイわ♡

 同じ童貞でも、ウチの悪ガキ(ラスボス)とは大違いだわ。

 なんて思っていると、アリスが私に話しかけてくる。

 

「ツエダさん。アンタのおかげで助かった。アンタが助けてくれなかったら、オレは……いや、オレだけじゃない…みんな死んでた。ありがとな」

 

 アリスは、3回目の火矢の時に私が彼を庇った事を感謝してきた。

 あの時私は、咄嗟にアリスを助ける決断をした。

 もしあの時アリスが火矢に射られて死んでいたら、『全員が『おみくじ』を引く』って条件を達成できずに詰んでいた。

 私が火矢に射られて死ぬかも、なんて考えなかった。

 生き残る為に、助ける為に、無我夢中で走った。

 

「別に…実際そうだっただけだから。キミが火矢に射られてたら、『全員『おみくじ』を引く』っていう条件を達成できなくて、アタシ達全員『げぇむおおばぁ』になってた」

 

 私は、アリスに向かって淡々と事実を言った。

 するとその時、レジからカタカタと音がする。

 

《これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》

 

「お…おい、みんな見てみろよ…」

 

 レジから『びざ』が発行されているのに気付いたアリスが、『びざ』を受け取る。

 

「な…なんだこれ…!?『びざ』…!?」

 

 アリスが『びざ』を受け取ると、今度はトランプが発行される。

 

「それに…トランプ…?」

 

「こ…今度はオレの名前だ…」

 

「次はオレか…内容は全部同じみてぇだな…」

 

 アリスの次は、チョータ、カルベ、シブキ、そして私の順に『びざ』とトランプが発行される。

 シブキはトランプだけ受け取って、先に出口へと向かった。

 

「『びざ』ってのは…取らなくていいのか?」

 

「ええ!内容は…見なくてもわかってるから…」

 

 シブキはそう言って、私達の方を振り向く。

 この前の『げぇむ』で会った時はあんなだったのに、随分と強くなったものだわ。

 なんて思いつつ、ズボンのポケットを弄るも、目当てのものがない。

 

 あ゛、そうだった。

 タバコ、もう無いんだった。

 『げぇむ』の最中に落としたのが最後の一本だった事を思い出して落胆していると、カルベが私にタバコを差し出してくる。

 

「え、いいの?」

 

「その代わり、今度こそ知ってる事を話してもらうぜ」

 

 そう言ってカルベは、私にタバコを一本恵んでくれた。

 ああ、そういえばそんな事言ってたな。

 『げぇむ』に生き残るのに必死で、すっかり忘れてた。

 

「……そういえば、そういう約束だったわね」

 

「けど、まずは病院に行きましょう。チョータ君の傷、破傷風の危険もあるし、使えるものを探さないと。話なら道中でもできるでしょ?私が知ってる事は、全部教えてあげるわ。この…『今際の国』と呼ばれる世界について」

 

「い…『今際の国』……!?」

 

 シブキが話すと、アリスとカルベは驚いたような表情を浮かべる。

 私とシブキは、道中にこの国のシステムについて三人に話した。

 病院に向かう途中で、私は三人と別れた。

 

「それじゃ、アタシはここで」

 

「本当にもう、行っちまうのか…?」

 

「ええ…仲間が別の『げぇむ』会場で待ってるの。早く合流しないと」

 

 私が世田谷方面を指差しながら言うと、4人は名残惜しそうな表情を浮かべる。

 

「アリス君」

 

 私は去り際に、今回の『げぇむ』の功労者であるアリスに声をかけた。

 アリスは、私よりも早く『おみくじ』の仕掛けに気がついて、私達を『げぇむくりあ』に導いてくれた。

 そしてカルベ、彼もいい。

 火の海の中に飛び込んでチョータを助けに行った時、ぶっちゃけキュンときちゃった。

 ああいう強くてネジが飛んだ男はモロ好み♪

 二人は、私達の計画に使えるかもね〜。

 

「もし、また生きて会えたら…その時改めて誘うわね」

 

 そう言って私は、4人に手を振って歩き出した。

 しばらく歩いて、4人の姿が見えなくなった頃。

 

「……やべ、どうしよ。バイクが無い」

 

 帰る足を失った事を思い出した私は、ワシャワシャと頭を掻く。

 あ゛〜、そういえば神社にバイク置きっぱだったわ。

 どうしよう、よりにもよって神社の近くに停めちゃったから、絶対火矢でボロボロじゃん。

 な〜んか、前にもこんな事あったなぁ。

 うあああ、ここから『ビーチ』まで地味に遠いんだよなぁ〜、歩きたくねぇ〜。

 

 とりあえず私は、同じ渋谷方面で『げぇむ』をしているクズリューにトランシーバーで連絡を取った。

 すると数分ほどで、クズリューの車が到着した。

 クズリューは、火矢で服をボロボロにした私を見るなり、呆れてため息をついた。

 

「君は…またバイクを失くしたのか。これで何度目だ?」

 

「そう言って、何だかんだでいつも助けてくれるよね〜。アナタってホントにイイ男♪」

 

「煽てるな」

 

 私がふにゃりと笑うと、クズリューはまたため息をつく。

 クズリューは、私を乗せてそのまま世田谷方面へと車を走らせ、『ビーチ』に帰還した。

 思わぬ収穫があったので頬を緩ませていると、バックミラー越しに私の顔を見たクズリューが話しかける。

 

「…どうした?何かいい事でもあったか?」

 

「ウフフ、何でもない♪」

 

 クズリューが運転しながら話しかけてくるので、私は笑って誤魔化した。

 私は、さっきの『げぇむ』でアリスを庇った時、腕と脚に火矢が掠ったのを思い出して、車に積んであった救急箱を開けた。

 救急箱の中には、包帯や消毒液だけじゃなくて、リンデロン、ドルマイシン、ゲンタシン、アクトシン、プロスタンディンなんかの薬が入っていた。

 

「…………」

 

 私は、『げぇむ』で火傷したなんて一言も言ってない。

 なのにどうして、火傷の薬がこんなに入ってるのかしら?

 その事を疑問に思いつつも、私はあえてそれを問いただす事はしなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、私は『ビーチ』に帰って、カードをボーシヤに献上した。

 残念ながら『♣︎3(くらぶのさん)』は既に回収済みのカードだったけど、ボーシヤは上機嫌だった。

 私達創設メンバーのナンバーは固定だから、未回収のカードを持ってきても意味ないんだけどね〜。

 

 後頭部の低い位置で括っていた髪を解き、水着とズボンを脱いでスイートルームのバスルームに入った私は、シャワーで汗を流した。

 ところどころ火矢が掠ったところが火傷になっててヒリヒリするけど、シャワー浴びるくらいなら大丈夫でしょ。

 ハンドルを捻ると、シャワーヘッドから熱めのお湯が噴き出す。

 肌がお湯の粒を弾き、水滴が身体の曲線を伝って流れていく感覚がなんとも堪らない。

 

「はぁ〜…生き返る〜…」

 

 そんな事を呟きつつ、上を向いて顔にシャワーを浴びながら前髪を掻き上げてオールバックにした。

 ラックに置いてあるシャンプーを使って、髪を入念に洗う。

 その後は傷口を避けて身体を、そして顔を洗う。

 シャワーで泡を綺麗に流して、厚手のバスタオルで身体を拭き、ドライヤーで髪を乾かしてから、化粧水で肌を保湿する。

 ブカブカのパーカーに袖を通し、肩にタオルをかけた私は、キッチンでお酒と料理の支度をした。

 

「んふふ♪」

 

 鼻歌を歌いながら、夕飯を何品を作る。

 バーニャカウダと、ガスパチョと、カルパッチョ。あと、鴨のロースト。

 ロースト肉は、食糧庫から盗んだ出来合いのやつをレンチンしておく。

 一応『ビーチ』にはシェフもいるんだけど、『げぇむ』内容によっては食事のタイミングが合わないので、こうして自分で夕食を作る日もあったりする。

 店とかで出てきたらテーブルひっくり返したくなるクオリティだろうけど、そこはご愛嬌という事で。

 私が上機嫌で料理をしていると、クイナが私に話しかけてくる。

 

「どないしてん。今日はやけに機嫌ええやんか」

 

「ん〜や、面白い素材を見つけてさぁ♪アタシ達のプランに使えそうかも」

 

 クイナが話しかけてくるので、私はロースト肉にかけるソースを味見しながら答えた。

 パッションフルーツとオレンジを使った、私特製のフルーツソース。

 学生時代にハワイで食べたフルーツソースのステーキから着想を得たんだけど、肉料理との相性がいいんだワこれが。

 

 ……閑話休題。

 ふとリビングを見ると、チシヤがソファーに座って本を読んでいた。

 このスイートルームは、すっかりチシヤとクイナの溜まり場と化していた。

 下の階は人通りが多いから幹部の私が頻繁に出入りしていたら目立つし、誰が使ったかわからないイカ臭い部屋で作戦会議するの嫌だし、ここに来るのは自然な流れなんだけども。

 鍵がかかっていないとはいえ、スイートルームの方が防音性能いいし。

 

 白身魚の刺身とスライスしたパルミジャーノ・レッジャーノを交互に並べて、塩胡椒してイタリアンドレッシングをかければ、お手軽カルパッチョの出来上がり。

 それと冷蔵庫で冷やしておいたトマトベースのガスパチョをガラスのカップに入れて、仕上げにオリーブオイルを垂らす。

 あとはレンチンしたロースト肉にフルーツソースをかけて、バーニャカウダと一緒に並べる。

 これでもう完成でいいんだけど、せっかくだしカルパッチョにキャビアかけちゃお。

 今日は面白い素材が見つかって機嫌がいいので、大奮発しちゃいます。

 料理をダイニングテーブルに並べた私は、ワイングラスを三つ取り出して、クイナにワインを勧める。

 

「一緒にどう?」

 

 私がワイングラスとモンラッシェの瓶を両手に持って笑顔を浮かべると、クイナが呆れ顔を浮かべながら私に話しかける。

 

「アンタ、毎日飲んでばっかやんか。ホンマにこっから出た後の事考えとるんか?」

 

「やぁねぇ、ちゃんと考えてるわよ。だからこうして、『げぇむ』で()()()()してるんでしょ?」

 

「ほんならええけど」

 

 私が料理を皿に盛り付けながら言うと、クイナは呆れつつもそれ以上は問い詰めてこなかった。

 私も計画に使えそうな人を探してはいるんだけど、なかなかこれって人が見つからない。

 今の所アリスとカルベが優良物件だけど、初心者だし、まだ評価が定まってないところはあるのよねぇ。

 今度の『げぇむ』で生き残れたら、改めて誘おうかしら。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どうしたのそれ」

 

 夕飯を食べ終わった後、私がソファーで寛ぎながら腕の火傷痕をポリポリ掻いていると、チシヤが話しかけてくる。

 幸い掠ったのが一瞬だったから火傷はそこまで深くないし、薬が効いているのか痛みはそれほどひどくないけど、今度は傷口の周りが痒い。

 

「…今夜の『げぇむ』で、ちょっとね。初心者の子がいたから庇いきれなかったの」

 

「らしくないね。アンタ、人助けするような人だったっけ?」

 

「そうしないと『くりあ』できない『るうる』だったのよ」

 

 いちいち癇に障る言い方をするチシヤに対して、私はムッとしつつも答える。

 その後私は、『げぇむ』の話をするついでに、アリスとカルベの事をチシヤに話した。

 するとチシヤは、珍しく私の話に興味を持った。

 

「へぇ、面白いじゃん」

 

「でしょ〜?高校生で、しかも初参加者なのに、アタシより先に『げぇむ』の攻略法に気付いたのよ」

 

 私が言うと、チシヤは「ふぅん」と小さく喉を鳴らした。

 人に興味を持たない彼が、ここまでちゃんと私の話を真面目に聞いたのは初めてかもしれない。

 ソファーに座っていたチシヤは、何かを決心したかのようにすっくと立ち上がった。

 

「明日はオレも『げぇむ』に参加しようかな♪」

 

「あら。じゃあアタシも一緒に行くわ」

 

「え、行くんだ。昨日の今日だけど」

 

「そうだけどさぁ。仮にも仲間なんだし、コッチの相性だけじゃなくて、『げぇむ』の相性も知っておきたいでしょ?」

 

 そう言って私は、臍の下あたりを指差す。

 何の相性かは、言わずもがな。

 するとチシヤは、スッと目を細めて私に釘を刺してくる。

 

「ついてくるのは勝手だけど、助けてもらおうなんて期待はしない事だね。殺し合いの『げぇむ』だったら、アンタを囮にするかも」

 

「はいはい」

 

 チシヤが、とっくに分かり切った事を念押しするように言ってくるので、私は適当に受け流した。

 彼は殺し合いの『げぇむ』だったら私を囮にするって言ったけど、それはお互い様。

 囮にされて死ぬくらいなら、逆に囮にしてやるわよ。

 まあ、それは彼もわかってて言ってるんでしょうけど。

 

 チシヤの事は、一応仲間としてそれなりに期待はしてるけど、特別な感情は全くない。

 積極的に裏切る理由がないってだけで、殺し合うのに躊躇う理由もない。

 私達はそうやってお互いに割り切る前提で関係を持ったのだから、誰に何と言われようと構わない。

 

「それと、向こう着いたらあんまりベタベタするなよ」

 

「わかってるってば。『げぇむ』内容がわからないうちは、仲間同士だって事は隠しておいた方が得策だもの」

 

 『(はあと)』とか『(だいや)』の『げぇむ』だったら内容によっては、仲間だって事を隠しておいた方が、他の参加者を出し抜けるかもしれないし。

 なんて思っていると、チシヤが急に真顔になる。

 

「それもあるけど…オレ、アンタの仲間だと思われるの、普通に嫌だから」

 

「普通に?」

 

「普通に」

 

「……まあ、逆に助かるけどね」

 

 私は天井の照明を見上げながらふぅっ、とタバコの煙を吐いた。

 ……うん、こっちとしては都合がいいんだけどね?

 なんだろう、こう…釈然としないわぁ。

 

 

 

 ───今際の国滞在38日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 潰田千寿 24日

 

 

 

 

 

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