滞在39日目。
14時過ぎ、私は『ビーチ』のプールサイドで遅めのお昼ごはんを食べた。
そのままサンドイッチを頬張ると、全粒粉を使った茶色い食パンから小麦の香りがする。
私がサンドイッチを食べていると、クイナが隣に座ってきたので、私はクイナに話しかけた。
「クイナも今日は『げぇむ』に参加するのよね?」
「ああ。早うトランプ集めてこっから出たいしな」
「お昼まだなら、一緒に食べない?とりあえず同じの頼んでいいかしら?」
私は、クイナの為に私のと同じサンドイッチを注文した。
私とは真逆の価値観を持つ彼女と一緒にいるのは、新しい発見の連続で、何だかんだで楽しい。
もし現実世界で出会えていたら、親友同士になれていたのかもね。
なんて非現実的な思考をしていると、既に空いた二つのグラスを見て、クイナは禁煙パイポを奥歯で噛み締めつつ、呆れたようにため息をついた。
「アンタ、『げぇむ』前も飲むんかいな。ホンマに生き残る気あるんか?」
「ああ、逆よ逆。酒が足りないと、身体震えちゃって思考がまとまんないんだわ」
「末期やん」
「ちょっと待って、人を廃人みたいに言わないで。アタシだってちゃんと学習してるのよ。運転中のラッパ飲みはもうやってないわ。この前リバースして流石に懲りたもの」
「アホなんか?」
飲酒運転をして車酔いと二日酔いのダブルパンチで吐いた事があるのを白状すると、クイナにツッコまれた。
まああれは、手を出したのが安酒だったっていうのも原因のひとつではあるんだけどさ。
あれで懲りてからは、運転しながらウイスキーをストレートでがぶ飲みするとかいうアホなマネは流石にしていない。
というか、二日酔い以前に普通に危ないし。
私の正面で運ばれてきたサンドイッチを食べるクイナの手首のロッカーキーには、『029』の文字が印字されている。
彼女が幹部入りにリーチをかける日も近い。
彼女に幹部の座が回ってくる頃には、『ビーチ』はとっくに崩壊しているでしょうけどね♪
◇◇◇
腹拵えを終えた私は、『げぇむ』に備えて身支度を整えた。
靴はサンダルからドライビングシューズに履き替えて、両手にオープンフィンガーグローブを填める。
最初はカッコつけのつもりでつけてたけど、意外と馬鹿にできない実用性があるんだなこれが。
つけたままスマホいじれるし、手の保護と指先の操作性を両立できるし。
特に銃撃つ時とか、指先の感覚を鈍らせずに滑り止めとして使えるから超便利なんよね。
髪を後ろで無造作に結んで唇に赤いリップを引いた私は、リュックに使えそうなものを詰めて、武器庫に向かった。
幹部と武闘派以外は『ビーチ』で銃を持てない決まりになっているけど、『げぇむ』の時だけは銃の持ち出しを許可されている。
私は、武器庫に置いてあるSIG SAUER P226 E2を手に取った。
P226は信頼性に定評のあるSIG社製の銃で、命中精度や耐久性が高く、初心者でも扱いやすい。
特にこれといった弱点も無く、SASやSEALsでも使われている大変優秀な銃なので、私も普段使いさせてもらっている。
私が今持っている銃に関しては、
お値段が張るのがほぼ唯一と言っていい欠点だけど、『
9mmパラベラム弾の弾倉を手に取って、銃に装填する。
殺傷能力は.45ACPとかを撃てる銃の方が高いんだろうけど、当てられなきゃ持っててもあんまり意味ないしね。
私は、銃を腰のホルスターにセットし、予備の弾倉とサイレンサーをベルトに固定しつつ、チシヤの持っているベレッタ92Fに目を向けた。
そういえば、最初に会った『げぇむ』でもその銃使ってなかったっけ?
「今更なんだけどさぁ。その銃、どうしたの?」
「初めて参加した『げぇむ』の賞品で手に入れたのさ」
「へぇー」
私が尋ねると、チシヤは弾倉を装填しながら答える。
彼の92Fも良い銃。
米軍で採用されているだけあって、使いこなせればよく当たる優秀な銃なのよね。
個人的には、
◇◇◇
『げぇむ』に向けて必要な装備を持った私は、サングラスをかけて、駐車場に停めてあった黄色の2代目フィアット500に乗り込む。
某アニメの大泥棒の愛車で有名なイタリアの名車で、しかも色まで同じときた。
たまたま『ビーチ』付近のガソリンスタンドで見つけて、これは運命だと思って『ビーチ』に持ち帰ったのだ。
ドアを開けてリュックとタクティカルブーツを後部座席に置くと、チシヤがルーフに手を置きながら私に話しかける。
「フィアット500か…確かカリオストロの城で崖走ってたやつだっけ」
「そうそう。前から乗ってみたかったのよね〜、これが」
そんな会話をしつつ、私は運転席に、チシヤは助手席に乗り込む。
コンパクトな車だけど、私もチシヤもそんなに背が高くないので、それほど窮屈さを感じない。
イグニッションシリンダーにキーを挿し、チョークレバーとスターターレバーを引きエンジンをかけると、ドッドッドッ、と独特のエンジン音が鳴る。
エンジンが安定するまでの間に『げぇむ』会場の地図を頭の中に叩き込んでいると、車の設備を確認していたチシヤが私に話しかけてきた。
「これ、ダブルクラッチするタイプだよね。大丈夫?ちゃんと運転できんの?」
「ウフフ、お姉さんに任せなさい♪アタシ、この子に乗って風になるわ」
しばらくアクセルを吹かしていると、やがてトトトト、とエンジン音が安定してきたので、クラッチを踏みながらシフトレバーを操作して、ギアをローに入れ発進した。
そのまま草が疎に生えた自動車道に乗り、今日の『げぇむ』会場がある千駄ヶ谷方面へと車を走らせる。
左足をクラッチに置いて右手でシフトを捌き、右足の爪先と踵をブレーキとアクセルに置いて左手でハンドル操作をし、何度もギアを入れ直しながら運転する。
うっかり操作をミスって車が車道から逸れそうになると、チシヤが冷ややかな視線を向けてきた。
「……風がなんだっけ?」
「た、たまたま!今のはたまたまよ!」
チシヤが詰ってくるので、私は冷や汗をダラダラかきつつ早口で言い訳した。
このフィアット500、可愛らしいフォルムとは裏腹に、運転に高度な技術が要るクセの強い車なのである。
ギアを変えるのにいちいちクラッチを切ってからニュートラルに戻さないといけないし、シフトダウン時にブレーキで減速しながらアクセルでエンジンの回転数を合わせるヒール&トゥにもコツが要る。
ダブルクラッチ操作自体は初めてじゃないけど、久しくこのタイプの車に乗っていないので、ちょっと操作を忘れかけているところがある。
慣れるまでちょっと運転が荒いかもしれないけど、そこは大目に見てください。
慣れないダブルクラッチ操作に悪戦苦闘しつつも、時間に余裕をもって『げぇむ』会場の近くに到着する事ができた。
流石に『げぇむ』会場に車を停めると目立つので、目的の『げぇむ』会場から徒歩で歩ける距離にある駐車場に停めた。
後部座席に積んだタクティカルブーツに履き替え、リュックを持って『げぇむ』会場に向かった。
◇◇◇
歩く事5分ほどで、『げぇむ』会場に到着した。
今日の『げぇむ』会場は、千駄ヶ谷の団地内にあるL字型のマンションだ。
私達は、二人で『げぇむ』に参加しているのが他の参加者にバレないように、わざとタイミングをずらして『げぇむ』会場に入る事にした。
私が靴を履き替えている間に会場入りしたチシヤを追いかける形で、私も会場へと歩き出す。
「おっと」
会場に入る直前、私はレザージャケットを脱いで、腰のホルスターを覆い隠す形でジャケットを腰に巻いた。
銃持ってると目立つからね。
『げぇむ』会場に入ると、先に会場に到着していたチシヤの他に人がいた。
帽子を被った小柄なおじさん、スキンヘッドでメガネをかけた大柄なお兄さん、細身で色黒のお兄さん、ロングヘアーでメガネのお姉さんと、キャップを被ったお兄さんの5人。
ふとチシヤを見ると、『げぇむ』会場のコンセントでiPhoneを充電し、イヤホンをつけて音楽を聴いている。
おうおう、随分と余裕そうだねぇ。
死んじゃってもしーらーなーい♪
なんて考えながらタバコを吸っていると、帽子を被ったおじさんが小声で話しかけてくる。
「なぁ、お姉ちゃん。アンタ、この国に来て長いのか?」
「…まあね」
「あ、オレ、
そう言ってニトベとかいうおじさんが、馴れ馴れしく握手を求めてくる。
私は適当に返事をしながら、ニトベと握手をした。
なんか怪しい匂いがプンプンするんですけど、このおっちゃん。
なんて考えていると、ニトベが他の参加者を一通り観察しながら、私に話しかける。
「アンタから見て、今回の奴等どうだ?何人生き残ると思う?」
「さぁねぇ。皆死んじゃうんじゃナイ?」
「アンタもそう思うか?でも見ろよ、あの奥の男。ここに来てからずっと音楽聴いてやがる。ありゃ初心者じゃねーな」
ニトベは、奥の壁にもたれかかって音楽を聴いているチシヤを見ながら言った。
どうやら、私が彼と知り合いって事は、まだバレてないみたい。
「そうねぇ。でもああいうタイプは、案外あっさり死んじゃったりするのよねぇ〜♪」
私はチシヤの方を見ながら、わざと聴こえるように嫌味を言った。
さっき私の運転テクをバカにしやがったお返しよ。
私がニトベと話していると、また二人マンションに入ってくる。
私達を見つけた途端に走ってきたから、多分初参加者かしら?
「おい、女がいるぞ!」
「エロくね?オレモロ好み♪」
あれ?なーんか…私の話してない?
そう思っていると、初参加者のお兄さん二人は、私の方へ駆け寄ってくる。
「オネーサン、今ヒマですかー?」
「ぎゃはは、やめとけって」
鼻の下を伸ばしたお兄さん達は、私をナンパしてきた。
胸や腰回りを舐めるように見てるのが丸わかり。
肌着代わりに水着を着て見せびらかしてる私にも非はあるんだけど、だからってキサマらに見せる為の水着ではない。
あーあ、これがボギーみたいなハードボイルドなイケオジだったら最高だったのになぁ。
「これイベントか何かっすか?」
「アレじゃね?電波少年的なやつ」
う〜ん、なんて答えようかしらね。
馬鹿正直に答えるのもなぁ。
本当の事を話して下手に混乱させても足引っ張られるだけだし、そもそも教える義理とかないし。
彼等の言ってる電波少年っていうのが何なのか知らないけど、多分バラエティ番組か何かでしょうね。
「そうよ。これはバラエティ番組の収録。なんかエキストラを集めてゲームをしてるらしいんだけど…ここだけの話、もしクリアできたら100万円貰えちゃう♡」
「100万!?マジかよ!」
「うひょー、100万ゲットできたら何に使うよ?」
私がコソッと話すと、バカ二人はバカみたいにはしゃいだ。
私ははしゃいでいる二人を尻目に、1階のトイレに向かった。
その時にチシヤの前を通ると、チシヤがコソッと話しかけてくる。
「性格悪いねぇ♪」
チシヤが私を見ながらニヤリと笑ったので、私は振り向きざまにべっと舌を出しながら笑った。
アリス君とかカルベみたいな優良物件なら助けてやってもよかったけど、生き残る見込みが薄い初参加者を助けてやれるほど私もお人好しじゃない。
賞金をエサに釣っておけば、囮くらいは進んでやってくれるでしょ。
「ふぅ…」
私がトイレから戻ると、ちょうど同じタイミングで、もう一人参加者が来た。
ワインレッドのショートボブが特徴的な、制服姿の女子高生。
彼女は誰とも視線を合わさないように会場に入ると、私の近くに置かれていたベンチにスクールバッグを置いて座った。
……彼女、初参加者じゃないわね。
一応マークしておこうかしら。
壁にもたれかかって、エントリーの締め切りを待っていると、ギリギリでもう二人来た。
ニトベが、会場に近づいてきた二人に声をかける。
あれは…アリス…と、カルベ?
あらやだ、すごい偶然だこと。
しかし、昨日『げぇむ』に参加したばかりなのに、何でまた…
…ああ、もしかして、『げぇむ』の傾向を調べに来たのかしら?
なんて思っていると、二人も私がいるのに気づいて、視線が合った一瞬、緊張の表情の中に少しだけ安堵が混じった。
「アンタら、参加するなら早く入りな!もう時間がねーぞ」
ニトベは、壁にかけられた時計を指差しながら二人に声をかけた。
時計は5時59分を指していて、下の張り紙には『エントリー受付 18時マデ』と書かれている。
二人がマンションのエントランスに入った次の瞬間、マンションがレーザーで締め切られ、外のスピーカーから『ゆうやけこやけ』が流れる。
《よい子の皆さん。6時になりました。おそろしい殺人鬼が出没するので、気をつけておうちに帰りましょう》
アナウンスが鳴ると、全員がアナウンスに耳を傾け、チシヤもイヤホンを外した。
「え…?い…今、何て…?」
『殺人鬼』というワードに、アリスが反応していた。
《それでは、『げぇむ』の時間です。これから皆さんに参加していただく『げぇむ』は…『おにごっこ』》
「鬼ごっこだぁ…?」
「ちょっと待てよ。その前に…さっきのアナウンスで、殺人鬼って言わなかったか…!?」
アナウンスを聞いて、カルベとアリスの表情にも緊張が宿る。
そんな中、さっきのお兄さん二人組が口を開く。
「鬼ごっこだってよ」
「ぎゃはは!ガキじゃねーっつうの!で、誰が鬼やんだよ?」
「お前がやれよ!」
「ジャンケンで決めよーぜ」
お兄さん二人は、私が言った『テレビの企画』という嘘を本気で信じていたのか、能天気な会話をしていた。
そんな二人に、アリスとカルベが視線を向ける。
「アイツら…」
「昨日のオレ達と同じだ。今夜の『げぇむ』が初めてなんだろ。いいかアリス…」
「わかってるよ。多分、今のアイツらにいくら説明したって信じちゃくれない。実際に、『げぇむ』が始まるまでは…それに…この大人数が初対面で団結するのはハッキリ言って難しい。他の皆には悪いけど…」
「わかってるなら、その先は言うな」
アリスとカルベは、初心者二人に『げぇむ』の説明をしない事にした。
まあ、賢い判断だね。
下手に本当の事を話したって、その場ですぐ適応してホイホイ協力できる奴なんか、私みたいな変人だけだし。
初日から『
「ああいうバカが混じってると、正直こっちはやりづれえよな」
ニトベは、私からアリスとカルベにターゲットを移し、小声で話しかけた。
「あ、オレ、
ニトベは、二人にも握手を求めていた。
あのおっちゃん、他の皆にもああやって声かけてたんかな。
なんて考えていると、追加のアナウンスが流れる。
《エントリー数、無制限。賞品、なし。『げぇむ』難易度…『
アナウンスを聴いた女子高生は、スクールバッグをゴソゴソと漁って、運動靴と服を取り出す。
そしてその場で、取り出したスパッツをスカートの下に穿き始めた。
あのお姉ちゃんわかってるねぇ。
「なになにねーちゃん?いきなり生着替えか?」
「パンツ見せてくれよ!」
女子高生がその場でスパッツと運動靴を身につけると、さっきのお兄さん二人が下品な野次を飛ばす。
着替え終わった女子高生は、野次を無視して一人黙々と準備運動をしていた。
私も携帯灰皿にタバコを押し付けて火を消し、首や手首を軽く回して関節をゴキゴキと鳴らし、爪先でトントンと床を軽く蹴ってブーツの中で足が浮かないように調整した。
あとはリュックから使えそうなものを取り出して腰のポーチに収納し、リュックを女子高生のスクールバッグの隣に置く。
《最後に、『るうる』の説明です。皆様には、これからこのマンション内で、『おに』から逃げ回っていただきます。『くりあ』の条件はただ一つ。このマンション内でただ一室、『鍵のかかっていない部屋』があり、そこが『おに』の『じんち』になります。制限時間は30分。時間内にその部屋を見つけて中に入り、『じんち』に『たっち』出来れば、見事『げぇむ』は『くりあ』です》
「話だけ聞いてると…今回は簡単そうだな…」
『るうる』の説明を聞いて、キャップのお兄さんが呟く。
簡単そう…本当にそうかねぇ。
《次に、『げぇむおおばぁ』は次の二つの場合。制限時間を過ぎた場合、もしくは『おに』に参加者が、全員殺された場合。なお、制限時間を過ぎた場合は、このマンションは爆破され、跡形もなく消滅しますので、『げぇむおおばぁ』になれば、どのみち皆様の命はございません。マンション周辺には高感度の地雷が多数設置されているので、マンションからはみだりに出ないようにご注意ください》
「さっきから何この空気?え?これって…もしかしてマジなの…?」
「つーかこれ、テレビの企画なんじゃねーの?あれ…?」
さっきのお兄さん二人は、やっと少しだけ状況を理解し始めたみたい。
あー…これ、テレビの企画とかテキトーに嘘ついたの、逆にまずかったかもな。
「アンタらみんな知らねーようだから、教えてやるよ…地元じゃ有名な話なんだけどさ…ここ、実際に大量殺人があったっていうマンションなんだ。つってもオレらの生まれる前だけど…長年引きこもって頭のおかしくなった男が、10人だか20人だか…片っ端から殺っちまったんだってさ…」
さっきのキャップのお兄さんが、緊張気味に話す。
へーそうなんだ、こわーい。
なんて思っていると、ロングヘアーのお姉さんも口を開く。
「私も聞いた事あるわ。元自衛官だったとか、当時はずいぶん騒ぎになってたらしいけど、その犯人は、無期懲役か死刑かで、どこかの刑務所に服役してるはずだけど…」
「だ…だったらソイツは関係ねーだろ!?こんな時に変な事言ってんじゃねーよ!!意味わかんねーし!」
ロングヘアーのお姉さんが言うと、初心者のお兄さんが叫んだ。
「お前らだって、例の花火見て、ワケわかんねーうちにここにいんだろ?実在の殺人鬼がここに招待されたっておかしかねーぜ?」
「この『げぇむ』は、親切にもその日の惨劇を再現しようとしてくれてるのかもね」
「っせーな!!なんなんだよオメーら!?アタマおかしいんじゃねーの!?イミわかんねーっ!!つーかイミわかんねーし!!」
カルベはごもっともな事を言い、ニトベは他の参加者を不安にさせるような事を言った。
二人の発言に、初参加者のお兄さん二人が青ざめてギャーギャー喚く。
うっせーなぁ…重要な情報聴き逃したらどうしてくれんだまじふざけんな。
《それでは『げぇむ』を開始します。『おに』は6時5分より始動します。タイムリミットは6時30分。皆さんくれぐれも、一ヶ所に固まらない事をオススメします。『げぇむすたあと』》
「ひいいっ!!どっ、どうすんだよ!?」
「どっか遠くに逃げんだよ!!」
「けど地雷があるって…」
「んなもん、ハッタリに決まってる!!」
「マジだったらどーすんだよ!?」
「あーもう、どうすりゃいいんだよ!!」
お兄さん二人は、やかましく騒ぎながら走り出す。
他の初心者達も、慌ててバタバタと走り出した。
こうなりゃもう烏合の衆。
協力して『くりあ』するのは難しいだろうねぇ。
せっかくテレビの企画って事にして丸め込もうと思ったのにさ、あーあ。
さて…と。
そろそろ私も移動するとしますか。
私は、アリスとカルベの二人に向けて「あとでね」とハンドサインをしつつ、エレベーターへと向かった。
ボタンを押してエレベーターのドアを開け、エレベーターの中に乗り込むと、チシヤもエレベーターに乗り込んでくる。
『開』ボタンを押しながら9階のボタンを押し、チシヤが乗ってから『閉』ボタンを押した。
するとチシヤが、私に話しかけてくる。
「ツエダが言ってた優良物件って、最後に入ってきた2人?」
最後って…あ、アリスとカルベの事か。
「なんで分かったの?」
「最後の2人が入ってきた時、アンタが驚いてたから」
「あー…」
そんなに顔に出てたか。
私もまだまだだねぇ。
「で、どうすんの?『ビーチ』に誘う?」
「いいや、でも種は蒔いておく。もし自力で来れたら、その時は改めて仲間に誘うよ」
「なるほどね〜」
二人が本当に計画に使えるかどうか試そうってわけ。
まあその意見には、私も賛成かな〜。
にしても、鬼ごっこかぁ。
私、鬼ごっこやった事ないのよね。
子供の頃はゲームとか、一人でできるスポーツしかやってこなかったし、そもそも友達なんてもの、一人もいなかったし。
中学に上がってからは少しは友達ができたけど、その頃にはもう鬼ごっこをやるような歳じゃなかったし。
「はぁ〜、よりにもよってアンタがパートナーとか、不安だわぁ。アンタ、鬼ごっこなんてやった事ないでしょ?」
「何その決めつけ」
「だってアンタ友達いなさそうじゃん」
私は、チシヤを指差してハッキリ言ってやった。
私の発言が癇に障ったのか知らないけど、少し間を置いてから口を開く。
「……知ったような口、利くんだね」
「わかるわよ。アタシもね、鬼ごっこやった事ないの」
そう言って私が振り向きながら笑顔を浮かべると、僅かに顔を上げて私を見た。
私達って、似た者同士なのかもね〜。
なんて思っていると、エレベーターが最上階の9階に到着した。
この『げぇむ』は、最初の場所選びが一番重要。
だったら、マンション全体を見下ろせる最上階を選ばない手はない。
「L字のマンションを会場に選んでくれるなんて、随分親切な『げぇむ』だね」
「そうね」
今いる場所の真下は把握できないけど、私達は二人いるから、南側と西側を手分けして監視できる。
二人で協力し合える『げぇむ』で助かったわ。
「じゃ、オレは南から見張るから」
「ん、ならアタシはこっちね」
チシヤが南通路に移動したので、私は西通路に移動して南側を見張る事にした。
西階段と中央階段の間に移動した私は、腰に巻いていたジャケットを羽織り、サングラスを外してジャケットの内ポケットにしまった。
その頃チシヤは、目深に被っていたフードを脱いで、プラチナブロンドの髪と顔を晒していた。
「何人殺した殺人鬼か知らねーけど、どーせオレよりバカなんだろ?」
チシヤは、小馬鹿にしたような表情を浮かべながら、顔を出してマンションを見下ろした。
おいおい、最上階だからってあんまり頭出してっと見つかっぞ?
あんまり人の事言えないけど、アイツ『げぇむ』舐めすぎじゃね?
にしても、『おに』はどこから来んのかね。
『おに』が出てくる部屋が『じんち』なのか?
なんて思っていると、南側の4階の一室がガチャッと開いた。
「……うわ、まじかよ。あれが『おに』?」
部屋の中からは、馬の被り物を被った大男が出てきた。
男の右手には、サブマシンガンが握られている。
あれが『おに』…?
…うわ、『
『おに』は、部屋から出てきて扉を閉めるなり、出てきた部屋に鍵をかけた。
……って事は、『じんち』はあの部屋じゃないって事だね。
じゃあ『じんち』はどこに…
「……え?」
『おに』は、サブマシンガンの銃口を西側へと向けた。
えっ、アイツ何してんの?
――パラララッ
「ぎゃあああああ!!」
「うわあああああ!!」
『おに』が西通路に向かってサブマシンガンを撃つと、真下で悲鳴が聴こえた。
さっきの初参加者のお兄さん達の声だ。
『おに』はそのまま、通路を渡って西側へと移動した。
そして……
――パラララッ
またしても、銃声が聴こえた。
くそっ、ここからだと何が起こってんのかわかんねーな。
私は、南通路側に移動して少し身を乗り出し、銃声がした方向を覗いた。
するとその瞬間、西階段の踊り場で、初参加者のお兄さんが無数の銃弾で身体を貫かれ、血を流しながらその場に倒れた。
『おに』が踊り場まで来た瞬間、階段に隠れていたアリスと目が合った。
「う…うああああああああああ!!!」
アリス、カルベ、ニトベの三人は、一塊になって下の階へと逃げた。
だけど3階に辿り着くと、アリスは何かを思いついたように西通路へと走り、カルベもアリスを追いかけて3階に留まり、二人は3階通路の影に身を隠した。
二人と一緒にいたニトベだけは、パニックになって下の階へと逃げた。
3階の踊り場まで追い詰められた時点で、逃げ道はどう足掻いても不利な3択しかない。
廊下に出たら余計に不利になるから、普通は下に逃げる。
だからこそ『おに』は、まさか廊下には逃げないだろうと踏んで、下に逃げた獲物を追いかける。
そこまで読んで、廊下に逃げたってわけ。
やるじゃん。
なんて他人事のように分析していると、チシヤが話しかけてくる。
「ふーん、なるほどね。流石はアンタが見込んだってだけあるな」
「でしょ〜♪」
「何気に今回の参加者、レベル高ぇじゃん」
まんまと『おに』を撒いたアリスとカルベを見て、チシヤはニヤリと笑った。
その頃、1階に逃げたニトべは、『おに』に追いつかれて撃ち殺された。
あー…結局特に何もなく殺されちゃったか。
さっき怪しいとか思っちゃってごめんな、おっちゃん。
そしてその頃、うまく『おに』を撒いたアリスとカルベは、階段を駆け上がっていた。
この『げぇむ』の本命はやっぱ、あの二人かな…?
げぇむ 『おにごっこ』
難易度 『
残り22分
生存者 12名中9名
この主人公、しれっと西くんみたいな事しようとしてて草。
『るうる』説明がご丁寧すぎたせいで、早々に失敗したけど。