Duchess in Borderland   作:M.T.

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すぺえどのご(2)

 『げぇむ』『おにごっこ』。

 難易度『♠︎5(すぺえどのご)』。

 

 マンション内でただ一室、『鍵のかかっていない部屋』を見つけ出し、その『じんち』に『たっち』出来れば『げぇむくりあ』。

 制限時間は30分。

 制限時間を過ぎた場合、もしくは『おに』に参加者全員が殺された場合は『げぇむおおばぁ』。

 

 

 

「あー…まじかー…」

 

 私は、『おに』に射殺されたニトベの死体を眺めながらポツリと呟く。

 さっきまで怪しいとか疑ってたおっちゃんが殺されてしまった。

 

「『今際の国』では銃器の所持、及び人に向けての発砲は合法…と解釈していいワケだ♪」

 

「ま、今更だけどね〜」

 

 チシヤが『おに』を見下ろしながら言うので、私は肩を竦めながら口を開く。

 そんなん言ったら、私だって『げぇむ』でバンバン人殺しまくってるけどお咎めなしだからね。

 

 そういえばチシヤって、どこが『じんち』かわかってんのかな。

 『おに』が出てきた部屋は『じんち』じゃなかったって、一応教えておくか。

 

「あ、そうだ。さっき4階の南通路から『おに』が出てくるとこ見たんだけどさ、アイツ出てきた部屋に鍵かけてた。『おに』が出てきた部屋は、『じんち』じゃないわよ」

 

「だろうね」

 

 私が一応教えると、チシヤが平然と答える。

 何よ、わかってたんじゃない。

 教え損だわ、ちくせう。

 

 問題は、あの『おに』をどう攻略するかだな。

 『おに』は足を引き摺ってる。

 多分足を怪我してるか、元々足が悪いんだろうね。

 いくらマシンガンを持っていて圧倒的なリーチの利があれど、私達よりは速くは走れない。

 おまけに『おに』は、馬の被り物のせいで視界が悪い。

 『おに』はあれだけの悪条件で私達を皆殺しにしないといけないんだから、あれはあれでクソゲーだろうねぇ。

 なんて分析していると、カルベが6階の西通路から身を乗り出して叫んだ。

 

「おおおおいお前ら!!!聞こえっかァァァ!!!『おに』はマシンガンを持って、馬の被りもんをした大男だ!!互いにデケェ声を出して、『おに』の居場所を知らせ合うんだよ!!そうすりゃ、安全圏にいる奴は、その間に『じんち』を探せる!!これだけの人数で協力すりゃあ、『おに』は何もできねー!!全員でここを生きて出るんだよ!!」

 

 あー…なるほどね、そう来たか。

 これには、チシヤも感心していた。

 

「みなぎってるね。それに頭も切れる。やっぱり本命はあの2人かな。だけど本当に、そう上手くいくかな…?」

 

 良いアイディアだけど、答えてくれる奴なんていないだろうね。

 これだけの人数がいればわざわざ自分が危険を冒して『じんち』を探しに行かなくても誰かが探してくれるだろうと考えるだろうし、大声を出すなんて『おに』に自分の位置を教えるようなもの。

 そもそも、赤の他人の情報なんて信用できない。

 

「地球の裏だろうが目の前だろうが、自分さえ無事なら他人が何人死のうとも構わない。それが人間だろ?」

 

 うーわ、なんか耳が痛い話だなぁ。

 まあ見ず知らずの他人を信じられるお人好しがいれば、話は別だけどね。

 

「『おに』は6階の南通路よ!!近くにいる人はすぐに離れて!!」

 

 私達が今いる南通路の真下から、女の声が聴こえてくる。

 西通路に移動して見てみると、さっきの女子高生が、物陰に隠れながら『おに』から逃げていた。

 

「ふぅん、そうでもないんだね」

 

 なんてチシヤが呟いている間に、女子高生が階段を使って4階に降りた。

 青いねぇ。

 でも嫌いじゃないよ、そういうの。

 

「こっちはダメよ!!『おに』がすぐ後ろに来てる!!早く逃げて!!」

 

 女子高生は、4階西通路にいたお姉さんに向かって叫んだ。

 だけどお姉さんは、咄嗟の事で状況を理解できていなかった。

 『おに』が4階まで降りてくると、女子高生は通路から飛び出た雨樋を掴んで、雨樋をよじ登った。

 お姉さんはそのまま『おに』に撃ち殺されたけど、女子高生は1階上の通路から飛び出た柵を掴んで、腕と脚の力で身体を上に引っ張り上げ、そのまま1階上の通路へとよじ登った。

 

「ふぅん、クライマーか…やるね」

 

 彼女もいい。

 『げぇむ』で生き残れたら、彼女も誘おうかしら…?

 私がニヤニヤ笑いながら唇をペロリと舐めると、チシヤが冷めた目で私を見た。

 まるで私が変質者みたいに……テメー後で覚えとけよ。

 

 なんて思っていると、キャップのお兄さんが、1階の南通路からマンションの外に出ようとした。

 お兄さんが外に足を踏み出した瞬間、地雷が作動して盛大に爆発した。あほ。

 これで残りは、あと7人か…

 

 

 

「残り時間もあと10分…」

 

 スマホの時計を見ると、18時20分を指していた。

 あれから何の進展もなく、時間だけが過ぎていった。

 ふと南側を見てみると、5階の通路では、アリスとカルベが『じんち』を探していた。

 手当たり次第に探してたんじゃ、間に合わないよ。

 

 アリスが通路のど真ん中で息を整えていると、通路に『おに』が来た。

 二人が『おに』に気づいて物陰に隠れた直後、『おに』はマシンガンを撃ってきた。

 

「くっ!!アリス!!」

 

 カルベは『おに』を撒いて階段まで辿り着けたけど、体力が底をついたアリスは、その場から動けなかった。

 アリスを助けられないと踏んだカルベは、南階段を使って3階通路まで一人で逃げた。

 

「くそオオオオ!!」

 

 カルベは、叫びながら3階通路を走り、中央階段の方へと向かった。

 ここからじゃ、中央階段の様子はよく見えないな…

 そういえば残りのお兄さん二人は、何やってんだろ。

 

 『おに』がいる5階の通路に目を向けると、『おに』は物陰に隠れたアリスをやり過ごして、そのまま6階へと上った。

 『おに』はアリスに気づかなかった…?

 ……やるじゃん、アイツ。

 

 『おに』は6階南通路を通って、中央階段へと歩いていく。

 残り時間も少なくなって、『おに』は全ての通路に通ずる中央階段を軸に移動を始めた。

 そうすれば、参加者と遭遇する確率は上がるからね。

 だけど『おに』がそう来る事は、私達も容易に想像できる。

 後半戦になると、必然的に体力がある参加者ばかりが生き残る。

 だから……

 

 

 

 ――シュバァアアアア

 

 

 

 3階の中央階段の方から、白い煙が上がる。

 そら来た。

 当然、『おに』が中央階段に来るのを見越して、待ち伏せする奴が出てくるよね。

 『おに』の視界を塞ぐ為に、消火器か何かを噴射したんだろうね。

 煙の中からは、ゴッ、ゴッ、と壁に何かがぶつかる音と、マシンガンの銃声が聴こえる。

 多分他の参加者が『おに』とドンパチやってんのかな…?

 

 しばらくして、弾が切れたのか、銃声が止んだ。

 もし体力に自信のある参加者なら、『おに』の銃が弾切れした瞬間に、逆に『おに』を殺そうとする。

 

 だけどそれを、『おに』が想定していないはずがない。

 私が『おに』なら、複数の参加者に囲まれた状況を、逆に『一網打尽のチャンス』と考える。

 だったら、弾切れやジャムを起こしたり、参加者に銃を奪われたりする事も見越して、銃は複数所持しておくよね。

 わざと銃を一丁だけこれ見よがしに使って、『銃を一丁しか持っていない』と思わせてさ。

 

 

 

 ――パラララッ

 

 ――パララッパラララララッ

 

 

 

 ほら来た。

 銃声が長く鳴り響いてるって事は…多分誰か死んだな。

 

「誰かが…頑張っちゃったのかな?『るうる』を変えようなんて、バカだね。『おに』を追っかけたら、『おにごっこ』にならないじゃん♪」

 

 手摺に頬杖をつきながら、チシヤが余裕そうに呟く。

 残り時間は、あと2分。

 私が動こうとした、その時だった。

 

「しゃああああ!!」

 

 5階の南通路から、アリスが叫んだ。

 ……やっと気づいたか、『じんち』の場所。

 

 『げぇむ』が始まってすぐ、『おに』はわざわざ離れた場所から、4階の西通路を撃ってきた。

 しかも私達みたいに上から様子見している参加者がいる事くらいわかってたはずなのに、『おに』は7階より上には一度も行っていない。

 思えば『おに』はずっと、4階の西通路を軸に移動していた。

 それがもし、できるだけ参加者を『じんち』に近づかせたくなかったからだとすれば、『じんち』は4階西通路のどこかにある。

 

「やっと…彼が気づいたか。そろそろ動くか…ここからは先は、人手がいる…」

 

 残り1分、私とチシヤは、西階段を使って下へ降りた。

 残り時間が少なくなれば、『おに』は『じんち』の前から動かない。

 『おに』を『じんち』から引き剥がすのに、人が要る。

 私達が『おに』を引き剥がすから、その間に『げぇむくりあ』しちゃってよ、アリス君。

 

 

 

「ぐおおおおおおおお!!!」

 

 私がちょうど5階の踊り場に辿り着いた頃、下の方からカルベの声が聴こえてくる。

 生きてたのか…

 

 下からドンッと大きな音が響いたので、急いで駆けつけると、カルベと『おに』が3階と4階の間の踊り場に倒れていた。

 『おに』が立ち上がってマシンガンを構えようとした、その瞬間。

 

 

 

 ――パンッ!!パァン!!パァン!!

 

 

 

「……ガッ…」

 

 私は、持っていたP226(えもの)で迷わず『おに』を撃った。

 私が『おに』の右腕を撃った拍子に、『おに』は右手に持ったマシンガンを落とした。

 3発のうち2発は『おに』の右腕と右脚に当たったけど、腹部狙いで撃った1発は、防弾チョッキでも着ていたのか、致命傷は与えられなかった。

 でも防弾チョッキを着ていても、銃弾の持つ運動エネルギーを100%殺し切れるわけじゃない。

 肋骨の一本や二本は折れてろ。つーか骨折しろ。

 『おに』が左手に握ったマシンガンを構えたので、私はすかさず『おに』の左手首を撃った。

 銃を撃つ手を負傷させれば、『おに』は何もできない。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

 私が『おに』の右腕と左手首を撃つと、カルベが『おに』に飛びついてタックルを仕掛けた。

 カルベが『おに』の首に両腕を回して絞め落とそうとすると、『おに』がカルベの脇腹に蹴りを入れ、ドスッと鈍い音が響く。

 

「ぅぐ…!!」

 

 カルベが『おに』と取っ組み合いになったので、私も『おに』に飛びつき、『げぇむ』開始前にポーチにしまっておいたラムネケースを『おに』の脇腹に押し当てる。

 私がケースの側面のスイッチを押した瞬間、バチっと閃光が走り、『おに』の身体が跳ねた。

 使い捨てカメラの基盤で作った、お手製スタンガン。

 

「クソ馬を躾けるのなんざ、中学ん時以来だぜオイ!!」

 

 この『おに』を見てると、中学の頃にやってた乗馬で、私がペアを組まされたクソ馬を思い出す。

 全然言う事聞かなくて、私を振り落とした挙句顔面にウンコぶっかけてそのまま逃げやがった、文字通りのクソ馬。

 どいつもこいつも、ウンコだのパラベラム弾だの、ろくでもねーもんぶっ放しやがって。

 つーかよく見たらこの馬の被り物、あのクソ馬にクッソ似てるんだけど。

 ……なんかムカついてきたわ。

 てか、チシヤまだ来ないの?ちょっと遅くない!?

 

 『おに』の身体が痺れている間に銃を奪い取ろうとしたその時、『おに』がいきなり起き上がった。

 次の瞬間、『おに』が私の顔面に頭突きを仕掛けてきた。

 

「が…!!」

 

 『おに』に思いっきり頭突きされた私は、脳震盪を起こしてよろめいた。

 うそ、回復すんの早すぎ…!?

 くそ…視界が歪む……

 近くでカルベの声が聴こえるけど、頭がぐわんぐわんして聴き取れない。

 ぼやける視界に映ったのは、右手でマシンガンを構える『おに』の姿だった。

 やば…あたま、追いつかな……

 

 

 

 ――パァン…パアァ…ン

 

 

 

 近くで銃声が聴こえて、ようやく頭の中がクリアになった。

 『おに』の近くの壁には、銃痕が二つ付いている。

 

「やっぱ素人じゃ、映画みたいに簡単には当たらないか」

 

 振り向くと、4階の踊り場には、92Fを右手に構えたチシヤが立っていた。

 チシヤが『おに』を引きつけると、『おに』はチシヤを狙い撃とうと、やたらめったらにマシンガンを撃ちまくる。

 チシヤは、階段を駆け上ってマシンガンの銃弾を回避した。

 

「時間稼ぎにはなったっしょ。後は自力で頑張ってよ、2人とも♪」

 

 助けに来んのが遅えよボケナス、と言いたいとこだけど…チシヤのおかげでひとまず命拾いしたわ。

 私は鼻血を拭いながら、『おに』に蹴られた脇腹を押さえているカルベに目を向ける。

 

「……立てる?」

 

「ああ……」

 

 私はカルベに肩を貸して、一緒に立ち上がった。

 あとはアリスが『じんち』に『たっち』してくれれば『げぇむくりあ』……

 

「ダメだカルベ!!この『げぇむ』は、1人じゃ『くりあ』できないッ!!『じんち』は、2つのボタンを同時に『たっち』しないとダメなんだ!!」

 

 4階の西通路から、アリスの声が聴こえる。

 最後の最後に、そんな仕掛け用意してくるとか…

 クソ、だからこの『げぇむ』は『♠︎5(すぺえどのご)』だったのかよ……

 

 このまま何もしなかったら、マシンガンで撃たれなくてもどのみち死ぬ。

 だったら私は、生き残れる可能性に賭ける。

 

「ああああああああああ!!!」

 

 私は雄叫びを上げながら、階段を駆け上った。

 『おに』が利き腕を負傷した今、射撃能力は私の方が上だけど、殺傷力が低いパラベラム弾だと確実性がない。

 確実に『おに』を足止めするには、私が囮になるしかない。

 私は意を決して、姿勢を低くして『おに』の死角に入り込み、そのまま突き進んだ。

 

 まるでスローモーションみたいに、周りの動きが極限まで遅く見える。

 銃弾が頬や腕を掠めるけど、まるで痛みを感じない。

 これがゾーンってやつか…

 

 ……あはっ♪

 なんか楽しくなってきた。

 アドレナリンMAXだぜ、ヒャッハー。

 

 『おに』が私の顔に銃口を向けてくると、私はその場で跳び上がって、そのまま『おに』に飛びついた。

 『おに』の両腕を両脚でガッチリホールドして拘束し、『おに』に組みついたままマシンガンの弾倉を抜いて床に落とす。

 『おに』を無力化した私は、上の階にいるチシヤに向かって叫んだ。

 

「今よ!!行って、早く!!」

 

 私が叫ぶと、上から階段を駆け下りる足音が聴こえる。

 3階の踊り場からも、『おに』に殴られてボロボロになった身体に鞭を打って階段を上るカルベの足音が聴こえてくる。

 間に合え、間に合え…!

 

「くそッ!!くそォッ!!ここまで来たのに…!!『くりあ』は目の前なのにッ!!頼むから…誰か…誰か来てくれよォォォォ!!」

 

 『じんち』の中から、アリスの叫び声が聴こえる。

 チシヤ、カルベ、どっちでもいいから早く来い…!!

 

 

 

「呼んだ?」

 

 声がした方を見ると、『じんち』の前には、息を切らしたクライマーJKが立っていた。

 

 ……そうだった。

 そういえば、この子がいたんだった。

 

 一瞬で状況を理解した女子高生は、『じんち』の中へと駆け込む。

 安堵したのも束の間、『おに』はものすごい力で私の身体を振り解いてきた。

 コイツ…脚と腕撃たれてんのに、なんつー馬鹿力…!!

 

「あっ、オイ!!」

 

 『おに』に振り解かれた私は、そのまま階段の方へと放り投げられる。

 私の身体が、放物線を描きながら宙に浮いた。

 会場の外に放り出されて『げぇむおおばぁ』…かと思いきや、後ろにいたカルベとぶつかった。

 

「がぁっ!!」

 

 私とカルベは、そのまま二人仲良く後ろへと倒れ込んだ。

 『おに』は引き剥がした。

 あとは頼んだわよ、二人とも……

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

アリスside

 

 もうダメかと思ったその時、さっき壁を登っていた女の子が駆けつけてきてくれた。

 俺と彼女は、それぞれ『じんち』のボタンの前に立った。

 ここで息を合わせなきゃ、カルベが作ってくれたチャンスが無駄になっちまう。

 ……いや、もうこれ以上余計な事は考えるな。

 

「いくわよ!!」

 

「ああ!!」

 

 今はただ、『げぇむ』を『くりあ』すればいい!

 

「「せぇーーーーーのぉーーーーー!!」」

 

 俺と彼女は、バンッ、と同時にボタンを押した。

 その瞬間。

 

 

 

 ――ボンッ!!

 

 

 

 廊下の方で、爆発音が響いた。

 振り向くと、廊下には血飛沫が飛び散っていて、下の方から何かが落ちるような鈍い音が響いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ツエダside

 

「ッハァ…ハァ……」

 

「何だ、今の…!?」

 

 いきなり目の前で、『おに』の首が爆発した。

 『おに』に放り投げられて廊下に倒れていた私は、顔面に血飛沫を浴びる羽目になった。

 『おに』は、そのまま廊下の手摺から落ちて、ドスッと鈍い音を立てて地面に叩きつけられた。

 

「『おに』が…死んだ……」

 

 私の下敷きになっていたカルベは、『おに』が死んだのを見て呆気に取られていた。

 『おに』が死んだって事は、私達…『くりあ』したのよね…?

 

「ッハァ………助かった……」

 

 『おに』は死んだけど、とにかく私達は生き延びた。

 生き抜いた事で安心したからか、今になって疲れがどっと出て、傷口が痛くなってくる。

 私がため息をついて脱力していると、私の下でカルベの呻き声が聴こえる。

 

「オイ、頼むからそろそろ降りてくれ…」

 

「あ…ごめん」

 

 カルベが苦しそうに言うので、私は身体をごろんと横に転がしてカルベから降りた。

 咄嗟にカルベが受け止めてくれなければ、アリスと女子高生が間に合ったかどうかに関係なく、私は『おに』にマンションから放り出されて『げぇむおおばぁ』になっていた。

 助けるつもりが、逆に助けられちゃったわね……

 ふぅっとため息をついたその時、チシヤが私達に歩み寄った。

 

「大丈夫?生きてるかい?」

 

 チシヤは、まるで他人事のように私に話しかけてきた。

 『生きてるかい?』ぢゃねぇーーーーんだよバァーーーーーカ!!

 テメー足遅ぇーーーんだよヴォケが!!

 おかげで血ィ出たわ!!

 帰ったらベッドの上でお仕置きだゴルァ!!

 

「……ええ。何とかね」

 

 私は、今すぐにでも助走つきでチシヤをぶん殴りたい衝動を抑えて、ヒラヒラと手を振った。

 親しげに話す私達を見たカルベは、私とチシヤが初対面じゃない事を察した。

 

「お前ら…仲間だったのか」

 

「…まぁ、そうなるかな」

 

「いつからだ…?」

 

「キミ達がこの国に来る、ずっと前から」

 

 私がカルベの質問に答えると、カルベは通路の手摺壁にもたれかかりながらため息をつく。

 カルベは、チシヤが右手に持っていたハンドガンをパーカーのポケットにしまうのを見て、息を整えてから口を開いた。

 

「お前ら…銃持ってんだな…」

 

「まーね♪人に向けて撃ったのは初めてだけど」

 

「『げぇむ』の賞品ってのと関係でもあんのかよ。まぁいいや…んな事より…なんでオレを助けた?」

 

 カルベは、チシヤに鋭い目を向けながら尋ねる。

 するとチシヤは、クスッと笑ってから質問に答えた。

 

「これはね、レースなんだ。『げぇむ』に勝つ為には、強い馬に賭けなくちゃ。今回は君に貸しを作っといたまでさ。オレの名は、苣屋駿太郎。この貸しは君が、もう少しこの国を知った時に返してもらうよ♪」

 

「お前は…何を知ってんだ…?『今際の国』ってのはなんなんだ!?オレ達は…元の世界に戻れるのか…!?」

 

「君はどう思う?ここは見た通り未来の世界で、得体の知れない未来人の手中でオレ達の命は弄ばれている。これは単なる永い夢。案外、死とともに悪夢から目覚めていつもの暮らしに戻れるのかもしれない。あるいは、妄想と現実の区別がつかなくなったのか…宇宙人(エイリアン)の実験…仮想現実(バーチャルリアリティ)…オレはね、どれでもないと思ってる。オレ達は、迷い込んだだけなのさ。いつでもなければどこでもない。子供の頃に読んだ童話の世界にね。だったらこのオレが、著者の要求(ニーズ)に応える『主人公』になるまでの事♪主人公としての選択を間違えない者だけが、自ずと元の世界に戻れるのさ」

 

「お前は…その選択を、知ってるのか…!?」

 

 カルベが尋ねると、チシヤはパーカーのフードを目深に被りながら答える。

 

「悪いが情報はタダじゃない。ヒントくらいはあげてもいいけど。世界が静止しても、無線ってのは生きてるんだ。特に、タクシー無線の周波数なんかがオススメかもね♪」

 

 そう言ってチシヤは、先に階段を降りていった。

 私も、手摺を使って立ち上がり、チシヤを追いかける形で階段を降りていく。

 

 おいコラ置いてくなテメェ。

 この後誰が運転すると思ってんだ。

 コイツまじで気が利かねーな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ったぁ〜…しみる〜……」

 

 1階に降りた私は、まだトイレの水が流れるうちに、女子トイレの洗面台の水で傷口を洗った。

 こういうのは早く洗い流しとかないと、後で破傷風になっちゃうからね〜。

 ちなみにカルベは、私がトイレに行っている間に、アリスと合流して先に帰った。

 

 私がトイレから出ると、さっきの女子高生が、1階のエントランスに置きっぱなしにしていた荷物をまとめて、ちょうど『げぇむ』会場を出て行こうとしていたところだった。

 さっきギリギリ間に合ったけど、きっと外壁を登ってきたんでしょうね。

 腕っぷしに自信のある猛者が増えた今の『ビーチ』にも、あんな芸当ができる人はいない。

 しかも、自分の命がかかった状況でもできるだけ人を助けようとする、勇敢でお人好しな子。

 彼女も、私達の計画に使えるかも。

 私は、会場を出ようとする彼女を引き留めて、手を振りながら笑顔で話しかけた。

 

「さっきはありがとうね〜、おかげで助かったワ」

 

「あなたを助けたわけじゃないわ。私は、自分が生き残る為にボタンを押しただけ」

 

「さっきのアレ、凄かったわね。それに勇気がある。アタシ、アナタみたいな人モロ好み♪」

 

 私は、早速クライマー女子高生を口説いた。

 計画に使えそうっていうのもあるけど、彼女の事は個人的に気に入ってるのよね。

 私、強そうな人だ〜いすき。

 

「あ、アタシはツエダっていうの。アナタは?」

 

「ウサギ。宇佐木柚葉よ」

 

「そう…ウサギちゃん、アタシと一緒に来ない?アナタにとっても、悪い話じゃないと思うんだけど」

 

「……悪いけど、遠慮しておくわ。私は1人のままでいい」

 

 そう言ってウサギは、私に背を向けて帰ろうとした。

 まあ、彼女からしてみれば、今回の『げぇむ』で私に信頼を寄せる要素なんてひとつもなかったし、当然っちゃ当然か。

 終盤まで何もしてなかったって言われても否定できないし。

 

「もしかしてアタシ、信用ない?」

 

「そうじゃないけど…情が移るとこの先、生き残れなくなるから」

 

「そう…優しいのね」

 

 …そっか、それならしょうがない。価値観の差は決定的だ。

 一緒にいたら仲間同士で殺し合うかもしれないとか、そういうの気にするんだ、この子。

 仲間同士で殺し合う『げぇむ』に当たっちゃったら、私なら普通に割り切って殺すけどね。

 それがアンやミラ、クイナとかだったら残念だけれど、私は別に仲間を生かす為に進んで命を差し出そうとは全く思わない。

 どのみち自分が犠牲にならなきゃ『げぇむくりあ』出来ないなら、話は変わってくるけど。

 

「それじゃ」

 

「ええ。お互い頑張りましょう」

 

 ウサギは、そのまま1人でどこかへと去っていった。

 ちぇっ、フラれちゃったわ。

 どうしてくれんだよこの空気。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ウサギを見送った私は、1階に置きっぱにしたリュックを回収してから、『おに』が落ちていった方へと歩いていく。

 地面に転がっている『おに』の前には、見慣れた人影があった。

 見るとチシヤが、『おに』の死体を漁っていた。

 うわぁ〜…死体漁ってるよこの人、趣味悪〜。

 

 私がチシヤの手元を覗き込むと、チシヤは血まみれになったトランプと『びざ』を持っていた。

 多分、『おに』のポケットに入っていたものでしょうね。

 

「やっぱり…君も、別の『げぇむ』の参加者だったんだね。制限時間内にオレ達全員を殺さないと『げぇむおおばぁ』ってとこか。君も…生き残る為に必死だったんだね」

 

 そう言ってチシヤは、『おに』を見下ろす。

 『おに』の馬の被り物は外れていて、『おに』の素顔が見える。

 『おに』役をやらされていた強面のお兄さんは、この世界の理不尽を嘆くかのように、口を大きく開けて涙を流したまま息絶えていた。

 

「8人でカードが6枚…あまりいい収穫とは言えないけど、おかげでまた一歩、出国に近づいたよ♪」

 

 チシヤは、不敵に笑いながら、回収したトランプをパーカーのポケットに突っ込んだ。

 私も『おに』からサブマシンガンを回収し、手で持ちきれない分はベルトで腰に固定した。

 MAC10か…いい銃使ってるわね。

 

「よいしょっと…行きますか」

 

「カードはオレの手柄って事にしていいよね?」

 

「好きにしな?どーせアタシが持っててもあんまり意味ないし」

 

 初期メンバーのナンバーは基本的に固定だからね。

 ここは、昇格のチャンスがあるチシヤに譲った方がいい。

 ほぼ何もしてなかったコイツが手柄総取りってのも癪だけど、私も大概人の事言えないからねー。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 駐車場に停めておいたフィアット500に乗って『ビーチ』に戻った私は、改めて医務室で治療を受けた。

 幸い弾丸は一発も身体の中に入ってなかったから、ガーゼと破傷風の注射だけで済んだ。

 なんか医者の手つきがいやらしかったけど、今に始まった事ではないのでスルーしておく。

 医療従事者って、人体に触れる機会が多いから変態率高いって聞いた事あるけど、本当なのかね。

 治療を終えた私は、相変わらず騒がしいプールサイドへと戻る。

 

「No.7が帰ってきたぞーーー!!」

 

「カッケェよな…!オレも仲間に入れてもらおうかな」

 

「バーカ、お前じゃ無理だよ」

 

 私がプールサイドに顔を出すと、馬鹿騒ぎしていた連中が歓声を上げる。

 自分で言うのは何だけど、私は幹部の一人という事もあって、密かにファンクラブ的な支持層ができるくらいには人気がある。

 私は、飛ばしてくるお兄さん達に愛想を振り撒きつつ、ギャラリーの奥にいたクイナに近づく。

 クイナは、キャップを被ったお兄さんと一緒にいた。

 …新入りかしらね。

 

「あら…?クイナ、お友達?」

 

「ああ、コイツな。今日の『げぇむ』で一緒やってん」

 

「へぇ〜」

 

 クイナがお兄さんを顎でしゃくりながら言うので、私はお兄さんに目を向けてみた。

 見たとこ、今日この国に迷い込んだってところかしら…?

 クイナはどうして彼を『ビーチ』に誘ったのかしら。

 計画に使えるってわけでもなさそうだし…

 

「あ、アタシはツエダよ。ここではNo.7って呼ばれてるわ。よろしく♡」

 

「た、タッタっす。竜田康大」

 

 私がサングラスを上げて挨拶をすると、タッタと名乗るお兄さんは、頬を染めながら会釈した。

 ウエストあたりまで切り込んだハイレグの競泳水着を着た私の姿がよほどエロティックだったのか、彼は私に見惚れているようだった。

 

「そう。タッタね。アナタ、何ができる人なの?」

 

「一応、車の整備なら……父ちゃ…父が車の整備工やってたんで」

 

 ああ、それで『ビーチ』に誘ったのか。

 この前の『げぇむ』で整備士が一人死んじゃったし、ちょうど良かったわ。

 私も人手が足りない時は手伝ってるけど、整備に関しては下手の横好き程度だし、得意な人がいるなら任せるに越した事はないわ。

 

「いいじゃない。ちょうど人手が足りなくて困ってたところなの。車の整備、お願いね♡」

 

「はい!」

 

 私がウインクすると、タッタは元気よく頷く。

 整備工が仲間になったのはいい事だわ。

 

 そろそろ、絵札以外のトランプが揃う日も近い。

 あとはアリスとカルベが『ビーチ』に来てくれれば、私達の計画を実行に移せる。

 そうすればやっと、この永い地獄が終わる。

 

 

 

 ───今際の国滞在39日目

 

 残り滞在可能日数 

 

 潰田千寿 28日

 

 

 

 

 




本作では銃持ちのキ◯ガイババァオリ主が参加していて、装備がマシンガンだけだとあまりにも『おに』がかわいそうなので、運営からお恵みの防弾チョッキが支給されています。
そもそも原作の『おに』の条件があまりにも不利すぎる。
カルベの腹部の怪我の原因ですが、オリ主の介入により、『おに』に蹴られた事による内出血に変更したのと、顎の怪我がなくなってます。
あと地味に、オリ主が『おに』を無力化した事によって、チシヤが『じんち』に行けるようになってます(それでも結果的にウサギの方が早かったけど)。

ちなみにオリ主はハーフ美人ではあるのですが、トップモデルやハリウッド女優が裸足で逃げ出すとか、100人中1000人が振り向くとかいうテンプレのような絶世の美女ではありません。
顔のパーツだけならかなりの美形ですが、名前の元ネタの公爵夫人が醜い顔で有名なので、雀斑とか赤隈とか、他の女性陣に比べてブスに見える要素も盛り込んであります。
構想では、さらに顔に傷がある設定だったのですが、作者の曇らせ癖のせいで過去が今以上に暗くなりそうだったので没にしました。
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