「……ママ」
「千寿。私はこれから仕事があるので、用事がある時はお手伝いさんに言ってください」
「お仕事、いつ終わりそうなの?」
「今日中には終わります。お腹が空いたら、お手伝いさんにお菓子を貰ってください。いいですね」
「……うん。わかった」
私の母は、娘の私から見ても、賢くて綺麗な女性だった。
科学者だった彼女は、男尊女卑の思想が根強かった時代においても学生の頃から数々の名誉ある賞を授賞し、偉大な実績を残す程の天才だった。
それでいて顔立ちも端麗で、写真に映る若い頃の彼女は儚げでとても美しく、まるで氷でできた彫刻のようだった。
だけど私の記憶の中にいる母は、ろくに休憩も取らずに四六時中新薬の研究をしていたせいか痩せ細っていて、目には濃い隈が刻まれていて、いつも薬品臭かった。
頻繁に冷水や消毒液で手を洗うせいか、手はあかぎれだらけで爪はボロボロで、生きた人間とは思えないほど冷たかった。
青みがかった黒髪はボサボサに伸びきっていて、肌は青白くて、子供心に幽霊みたいだと思っていた。
彼女は、私の世話を全てシッターに丸投げして、ラボに籠って一日中顔を合わせない事も多かった。
欲しいものは買い与えてくれたし、怒られた事は一度もなかったけど、私の家庭は側から見れば異様だった。
きっちりと決まった時間に出てくるのは、栄養バランスが完璧に計算され尽くされた食事と、1錠のカプセル剤。
埃一つ残さないよう徹底的に掃除され、使うもの全てに滅菌処理が施された、潔癖症の彼女らしい無機質な家。
育ててもらっているというより、
彼女が私に向ける目は、母親が子供を見る目ではなかった。
まるで、実験用のマウスを見るような目だった。
母は私を褒めてくれる事がなかったので、子供の頃はあまりピンと来なかったが、私は子供の頃から、頭が良い方だったと思う。
学校の授業がつまらなくてサボった時は、母は難しい本や一人でできるゲームを買い与えてくれた。
たまたまパソコンに興味を持って、母のパソコンでこっそりプログラミングの練習をしていた時は、彼女は私を怒る事はせず、「好きなように使いなさい」と言って私にパソコンを与えてくれた。
私の欲しいものは買い与えてくれたけど、私が難解な問題を解決しても、それを誉めてくれた事は一度もなかったし、私の事を誰かに自慢した事も一度もなかった。
今思えば母が、凡その人間が持つ金銭欲や自己顕示欲すら持ち合わせていなかったのが、唯一の救いだったのかもしれない。
もしあの人に私の知能を利用されていたら、まだ幼かった私は好奇や嫉妬の目に晒され、今以上に荒んでいた事だろう。
なまじ頭がいいから、自分以外の人間が馬鹿に見えた。
こんな奴等の役に立つ為に自分を犠牲になんて、死んでもするものか。
「誰かの為に生きろ」だの、「善意に見返りを求めるな」だの、そんな綺麗事は、与えられない孤独を、裏切られる絶望を知らないお気楽な人間だからこそ言える事だ。
持って生まれたものを自分の為に使って、何が悪いのよ。
彼に出会うまでは、本気でそう思ってた。
「オレについてこい!!誰も見た事がない世界を見せてやる!!」
私と一緒に会社を立ち上げたサムは、私を金儲けの為に利用しようとする事も、私の才能を妬んで陥れようとする事もしなかった。
それどころか彼は、20年以上続いた孤独を、たったの数日で埋めてくれた。
彼は、理想に一途で、誰よりも優しい人だった。
生まれて初めて、誰かの役に立ちたいと思えた。
馬鹿の為に何かをするなんて死んでも嫌だと思ってたけど、彼が喜ぶなら、人助けも悪くないと思った。
だけど会社の規模が大きくなるにつれて、彼は変わってしまった。
「お前の研究があれば、世界一の軍事企業だって夢じゃない。お前の頭脳で、オレを高みへ押し上げてくれ!」
……誰だよ、お前。
私の知っているサムは、そんな事言わない。
サムは、私と違って心の優しい人だった。
サムの姿で、サムを悲しませるような事を言うな。
私の憧れていたサムを返せ。
それが出来ないなら、私の目の前から消えろ。
そっちが消えないなら、私がお前の前から消えてやる。
◇◇◇
『今際の国』滞在41日目。
最近カード集めと情報収集が停滞してきたので、『びざ』はまだ山ほどあるけど『げぇむ』に参加する事にした。
今日の『げぇむ』会場は、学習塾だった。
《げぇむ『りばぁし』。エントリー数8名。賞品、参考書。難易度『
今夜の『げぇむ』は、オセロでトーナメントをして、優勝した1人のみが『げぇむくりあ』という『るうる』だった。
『
まあ『びざ』と情報が増えるからいいけどさ。
ちなみにトーナメントの組み合わせは、『びざ』の残り日数や今までの『げぇむ』の戦績で決められてるらしくて、必然的に強い参加者が勝ち上がる仕組みになっている。
ポーカーや麻雀みたいなギャンブルほどではないけど、ボードゲームも不得意ではない。
チェスやリバーシなら寮のルームメイトとやった事あるし、囲碁や将棋も子供の頃に少しだけやってた事がある。
初めて将棋を指した時は、近所のおっちゃんに「筋がいいね」って褒められた。
……閑話休題。
私の最初の対戦相手は、今日この国に迷い込んだ初参加者で、しかもこういう頭使う系のゲームをやった事がなかったから、読み合いもクソもなくあっさり勝てた。
せっかく勝てるチャンスをあげたというのに、それを活かせない馬鹿に手加減してあげられるほど私もお人好しじゃない。
っていうか、遠慮して負けたら、私死んじゃうし。
その後の2回戦も、難なく勝った。
女だからって舐め腐ってきたのがムカついたので、速攻で全滅させてやった。
盤上が真っ黒になった時の対戦相手の狼狽えっぷりだけで、白飯三杯は食えるわ。ざまあ(笑)
そして迎えた決勝戦、ここまで参加者を二人下してきた猛者という事もあって、流石にさっきの二人より多少は強かった。
なんか県大会優勝者とか言ってたような気がする、忘れたけど。
だけど蓋を開けてみれば、私の圧勝だった。
最終的には、盤上がほぼ黒になっていた。
てかこれもう、オセロじゃなくてオレオ並べじゃん。ウケる(笑)
「ば…か、な…!?な、なんで……」
対戦相手が信じられないとでも言いたげな表情を浮かべていたので、私はキャメルを吸いながら言い放った。
「わかってないわね。オセロは角取ればいいってもんじゃないわよ♪」
私がそう言った直後、対戦相手のお兄さんは首を吊られて死んだ。
せっかく隅取れたのにこの結果じゃ、ざまあないわね。
はぁ……決勝戦っつってもこんなもんか、つまんないの。
《こんぐらちゅれいしょん。『げぇむくりあ』》
優勝した私は、首にかけられた輪縄を解いて、トランプと『びざ』を受け取って帰った。
さて……帰りますか。
◇◇◇
『今際の国』滞在45日目。
「あれから4日か…」
私は、『ビーチ』のプールサイドでぼんやりと空を眺めながら呟いた。
チシヤはNo.11、クイナはNo.15にまで昇格したけど、あれからほとんど何も進展がない。
そういや、最後にアリスとカルベに会ってからもう6日が経つけど、あれから『ビーチ』探しは順調なのかしら。
……もしかして、『げぇむ』で死んじゃってたりして。
二人に限ってそんな事…とは言い切れないんだよなぁ。
なんて思っていると、だ。
「おい、マジかよ新入り!?」
「何日振りだよオイ!?」
「あーでも高校生かぁ」
「けっこー可愛くね?」
何やら『ビーチ』の入り口がザワザワしていた。
どうやら、新入りが入ってきたみたい。
私は、プールサイドに集まっていたギャラリーを掻き分けて、新入りの顔を確認した。
新しく入ってきたのは、黒髪ツインテールの女子高生と、茶髪ボブの女子高生の二人組だった。
私は早速、新しく入ってきた二人に声をかけた。
「あなた達が新入りね?」
私が声をかけると、二人がこちらを振り向く。
二人とも服にアイロンがかかっているし、見たところ栄養状態も良好。
昨日か今日この国に迷い込んだ滞在者…ってとこかしら?
「見たところ、昨日この国に迷い込んだばかり…ってとこかしら?」
「えっと…」
「そうなんです。私達、昨日花火を見て、気づいたらここにいて…」
ボブの子が私の質問に詰まっていると、ツインテールの子がすかさずフォローに入った。
滞在2日目で、あっさり『ビーチ』を見つけられるものなのかしら…?
タッタの時はクイナが『ビーチ』に連れて来たけど、そうじゃなければここを見つけるのは難しい。
…まあ、たまたまここを見つけたって可能性もあるんだけどさ。
「『ビーチ』の事は、誰かに聞いたの?」
「昨日『げぇむ』会場で会った人から聞いたんです。ここに行けば『答え』があるって…」
「…そう」
ところどころ言葉に詰まってはいたけど、発言に矛盾はない。
昨日は『げぇむ』から帰ってこれなかったチームもあったし、多分彼等からここの事を聞いたんでしょうね。
ちょっと警戒しすぎたかしらね。
「……まあいいわ。アタシはツエダよ。潰田千寿。アナタ達は?」
「アサヒです。九条朝陽」
「井上萌々花です」
「アサヒとモモカ…ね。No.1のところに案内してあげる。ついてきなさい」
そう言って私は、アサヒとモモカをボーシヤのもとへと連れて行った。
ボーシヤから『ビーチ』のルールを聞かされて、私が部屋に案内した後、二人が更衣室から戻ってくる。
アサヒは水着の上に黄色いTシャツを、モモカはピンクのミニスカタイプのビキニを着ている。
「2人とも可愛い〜よく似合ってるわ♡」
私は、更衣室から出てきたアサヒとモモカに声をかける。
ウサギもそうだったけど、最近の子って発育いいわネ。お姉さんビックリ。
なんて思っていると、アサヒが私に話しかけてくる。
「あの、ツエダさんはどうして私達にここまで優しくしてくれるんですか?」
「アタシ、ここに来て長いからね。新入りのお世話係なの。わからない事があったらなんでも聞いて?」
そう言って私は、二人にニコッと微笑みかけた。
新入りに簡単なルールを説明したりロッカーキーを渡したり、あとは『げぇむ』の時に新入りをチーム分けするのは、クズリューとアンの仕事だ。
でも二人はボーシヤの側近だから、基本的に『げぇむ』の時以外に彼の側を離れる事はない。
だから暗黙の了解と言っちゃなんだけど、新入りを部屋に案内したりわからない事を教えたりするのは、他の幹部がやる事になっている。
具体的には、男の時はマヒル、女の子の時は私かミラがその役目を担う事が多い。
カルト派はボーシヤのお付きだし、武闘派連中は論外だから、単純に消去法なんだけどね。
「……ありがとうございます」
モモカは、軽く会釈をしながらお礼を言ってきた。
私がここの事を教える間もなく、二人はそそくさと去っていってしまった。
……照れ屋さんなのかしらね。
◇◇◇
『今際の国』滞在49日目。
私は、『げぇむ』の準備をしながらクイナに話しかけた。
「ねえクイナ、今日は一緒に『げぇむ』に行かない?そろそろ『びざ』補充したいでしょ?」
「アンタ、今日はチシヤを誘うんやなかったんか?」
「やっぱり今日はクイナの気分なの〜」
私は、今日はクイナを誘って一緒に『げぇむ』に参加する事にした。
ちなみにチシヤは、私の誘いをガン無視して一人で『げぇむ』に行ってしまった。
あの野郎、こんな美女が誘ってるのにシカトとか有り得んくない?
超有能な私を連れて行かないとか、『げぇむ』で死んでもしらねぇかんな。
いつも通り『げぇむ』に参加する為にグローブとドライビングシューズを身につけた私は、念の為にp226と前に『げぇむ』で手に入れたサバイバルナイフを腰に差して、使えそうなものをリュックに詰めた。
ブーツを手に持ってクイナと一緒に駐車場に向かうと、だ。
「良ければなんだけど…今日は僕が運転しようか?」
マヒルが、私とクイナに話しかけてきた。
自分で運転するつもりだったから、ドライビングシューズを履いてきたんだけど…
断るのも逆に悪いし、ここはお言葉に甘えさせてもらおうかしらね。
結局私は、マヒルに頼んで車を運転してもらう事にした。
『げぇむ』会場への道中、私はマヒルに話しかける。
「てかさ、マヒル一昨日も『げぇむ』やってなかったっけ。『びざ』あと何日残ってんの?」
「ああ、僕はあと13日残ってるよ」
……ひゃー、すごい。
まあ私もまだ『びざ』残ってんだけどさ。
この前『
◇◇◇
そんなこんなで、『げぇむ』会場に到着した。
今回の『げぇむ』の会場は、だだっ広い工場だった。
「なんやここ、工場……?」
「どうやら、マッチ工場のようだけど…」
クイナとマヒルは、そんな会話をしながら『げぇむ』会場を見渡す。
会場には矢印の書かれた貼り紙が貼られていて、指示通りに2階へ進んでいくと、床が大体20m四方になっている部屋に辿り着いた。
そんな事を考えていると、他の参加者が、最後に来た私達に目を向ける。
会場内には、既に他の参加者が10人くらいいた。
私達を含めて13人か……
中には、この前『ビーチ』に入ってきたアサヒやモモカくらいの歳の、青いおかっぱ頭の女の子もいた。
見たところ、初参加者ではなさそうだけど……
なんて考えつつ、他の参加者が集まっている白いテーブルを見てみると、三角プレートと、マッチ箱がちょうど三箱置かれていて、テーブルには貼り紙が貼られている。
三角プレートと貼り紙には、こう書かれている。
《1人1箱お取りください》
《エントリー数 無制限》
《賞品 マッチ》
私達は、三角プレートの指示通りに、一人一箱ずつマッチ箱を手に取った。
その瞬間、三人全員が違和感を覚える。
手に取ったマッチ箱が、妙に軽い。
しかも、降るとカラカラと音がする。
箱を開けて中を見ると、マッチが9本しか入っていなかった。
「マッチなんて使うて何の『げぇむ』すんねん…」
「ちょうど良かった。タバコの火、欲しかったところだから」
「アンタ、緊張感なさすぎへんか?」
私が茶目っ気たっぷりに微笑みながら言うと、クイナが呆れ顔でツッコミを入れる。
そんな漫才みたいな会話をしていると、いきなりバンッと大きな音を立てて工場の電気が消える。
「な、なんだ…!?」
「停電…!?」
突然起こった停電に、他の参加者達が驚く。
相変わらず皆死にそうだなぁ、なんて思っていると、どこからかアナウンスが鳴る。
《エントリーを締め切りました。『げぇむ』を始めます。これから皆さんに参加していただく『げぇむ』は、『びんご』。エントリー数、無制限。制限時間、1時間。賞品、マッチ。『げぇむ』難易度…『
「く…『
あら、ダブりか。残念。
まあ、今回も『げぇむくりあ』できるでしょ。
だって私、もう『
マヒルもクイナも得意ジャンル『
《『るうる』の説明。24部屋の中に隠された数字を見つけ出し、『びんご』を完成させれば『げぇむくりあ』。ただし、『びんご』が成立する前に『まっちばこ』の『まっち』を全て使い切った場合は、『げぇむおおばぁ』》
「え、たったそんだけ?難易度10なのに?」
「いや…『るうる』説明にないだけで、何かあるはずだ」
『
確かに今までの『げぇむ』も、『るうる』説明になかったクソゲー要素なんていくらでもあったからな…
《それでは、『げぇむすたあと』》
『げぇむ』が始まると、何人かの参加者はすぐに移動し、その場に残った参加者はどうするか考えていた。
「おい、どうする?」
「え、てかこれ懐中電灯使えば良くね?」
そう言って参加者の一人が懐中電灯をつけたその瞬間、その参加者はレーザーで貫かれた。
持っていた懐中電灯も、レーザーで破壊される。
はは、ズルは許さないって事ね。知ってた。
とりあえず私は、開始早々脱落した参加者の死体に近づき、手探りで『まっちばこ』を回収した。
死んだ参加者の『まっち』を奪っちゃダメって『るうる』は無かった。
あるものは使わないとね〜♪
そんな事を考えつつ死体漁りをしているうちに、他の参加者は移動してしまった。
「おーおー、皆生き残ろうと必死だねぇ」
「とりあえず、僕達だけで組もう。同じ部屋で手分けして探せば、『まっち』の消費は最小限で済む」
「せやな。それしかないか……」
「その作戦、私も乗らせてよ」
私達三人で話していると、誰かが加わってきた。
多分声からして、さっき見かけたおかっぱの女の子だ。
「アンタ、名前は?」
「レイ」
私達は、『げぇむ』会場で出会った女の子レイと一緒に、とりあえずC2の部屋に移動した。
しっかし……この会場、本当に暗いわね。
停電してからもう10分くらい経つのに、まだ全然目が慣れない。
なんて考えつつ、私はレイに話しかける。
いきなり私達に話しかけてきた彼女に、個人的に興味が湧いたからだ。
「レイ、アンタなんでこの部屋に残ったの?他の参加者は、もうとっくに行っちゃったけど」
「誰についていくかを見極めてたの。これは『
「はは、それは随分と高く買われたね」
レイが言うと、マヒルが笑う。
とりあえずこの部屋は、4人で1本ずつマッチを使って数字を探した。
だけどマッチを4人で1本ずつ使って探しても、数字は見つからなかった。
他の部屋を探した方がいいんじゃないかと考え始めた、その時。
《2B、『くりあ』》
どこからか、合成音声のアナウンスが聴こえる。
「2Bが開いたって事は…」
「最短で『げぇむくりあ』するには、1A、4D、5Eの3部屋で数字を見つければいいわけだね」
私が考えていると、レイが説明してくれた。
「じゃあ近い部屋から攻めていこう。1Aの部屋に行こうか」
「うん」
「ああ」
私達は、まず1Cの部屋に移動した。
部屋の移動に『まっち』を使うとすぐになくなってしまうので、部屋の反響と手の感触を頼りに移動する。
そこから1Bへ行き、1Aの部屋に入った、その瞬間。
「っ危ない!!」
マヒルが、咄嗟にレイの身体を寄せた。
その直後、さっきまでレイがいた場所に、ものすごい勢いで振り子のギロチンが迫ってくる。
「大丈夫か?」
「う、うん…」
マヒルがレイを心配すると、レイはか細い声で返事をする。
どうやら、怪我はないみたいだ。
1Aの部屋には、振り子のギロチンが並んでいて、それぞれがバラバラな周期で揺れている。
「嘘やろ、罠まであるんかこの工場…!?」
「どうする?別の道探す?」
「いや、他の部屋を探してたら時間がない。この部屋で数字を探そう」
私達は、ギロチンに気をつけながら数字を探した。
なんとか数字を見つけたのはいいけど、ギロチンの動きが速すぎて数字が読めなかった。
下手に止めようとすれば、ギロチンの刃で両手とおさらばしてしまう。
どうしようか考えていると、マヒルが私に声をかけてくる。
「ツエダ、ジャケットを貸してくれ。ギロチンを止める」
「はぁ!?」
「時間がない、早く!」
マヒルが急かしてくるので、私は合皮のジャケットを脱いで投げ渡した。
するとマヒルとクイナが、私のジャケットの両端を持ってギロチンを挟んで立ち、二人で息を合わせてギロチンの刃をジャケットに噛ませ、そのまま二人がかりでギロチンを止めた。
「今や!!早うせい!!」
二人がギロチンを止めてくれている間に、私とレイでギロチンの刃に書かれている数字を探す。
『まっち』でギロチンの刃を照らすと、ギロチンの刃にチョークで小さく『30』と書かれているのを見つけた。
「1Aの部屋は、30!」
私が声を張り上げて宣言した、その瞬間。
《1A、『くりあ』》
合成音声が、1Aの部屋が『くりあ』された事を知らせる。
その次の瞬間、ギロチンの刃に押し付けられていた私のジャケットがビリッと破れ、真っ二つに裂けた。
支えを失ったマヒルとクイナは、反動で身体を投げ出され、床に尻餅をつく。
あ゛あ゛あ゛あ゛!!アタシのジャケット!!
「よっしゃあ、次は4Dやな!」
1Aの部屋を『くりあ』した私達は、1A〜5Eの対角線で『びんご』を成立させる為に、4Dの部屋へ向かう。
まずは来た道を戻って、1Aから1Bに、そして1Cに移動する。
するとその時。
《4B、5D、『くりあ』》
4Bと5Dの部屋が、同時に『くりあ』された。
この時点で、残り時間は40分。
皆バラバラに移動してて他の参加者と協力するのは難しいから、私達だけで『びんご』するしかない。
そうすると、移動時間も考えると1部屋あたり15分で探さなきゃいけない。
4Dと5Eがまだ『くりあ』されていない事を考えると、他の参加者は探している最中なのか、それともあまりにも難易度が高すぎて諦めて別のラインで『びんご』を作ろうとしているのか……
なんて考えつつ、1Cから2C、そしてスタート地点の3Cへと戻った。
4Cは罠がある部屋だったので、比較的安全な3Dを通って4Dへ向かう。
私達がちょうど4Dに辿り着くのと同時に、5Aの部屋が『くりあ』された。
4Dに辿り着いた私達は、手分けして数字を探す。
だけど床や壁をいくら念入りに探しても数字が見つからず、『まっち』がどんどん減っていく一方だった。
「無いな……」
これだけ探しても無いなら、諦めて別の部屋を探した方が時間内に見つかる望みはある。
だけど2Dがこの部屋以上に難易度の高い部屋だったら、その部屋で全員『げぇむおおばぁ』になるかもしれない。
ここで探し続けるか移動するかで迷っていた、その時だった。
「これだけ探しても無いとなると、もしかしたら、高いところに数字があるのかも…マヒルさん、クイナさん。悪いけど、私とツエダさんを担いでくれない?肩車して探すの」
レイが、思いがけない提案をした。
確かに、床や壁は念入りに探したけど、まだ天井は探していなかった。
私達は、レイの提案に賭け、クイナが私を、マヒルがレイを担いで天井付近を探した。
私達が天井を探している間に、1Eの部屋が『くりあ』され、『びんご』が『りいち』になる。
そしてその直後。
「あった…!4Dの部屋は9!」
レイが4Dの部屋の数字を見つけ、声高らかに宣言する。
《4D、『くりあ』。『りいち』。残り6名》
4Dの部屋が埋まり、『びんご』まで残り1部屋となった。
あと5Eか2Dが埋まれば『げぇむくりあ』。
私達は、4Eに移動し、そこから5Eに移動して数字を探した。
5Eに着いてすぐ、クイナが数字を見つけた。
「あ、あった!……けど、何やこれ!?アカン、問題が分からへん…!」
「ちょっと見せて」
私は、最後の『まっち』を擦って、クイナが探していた壁を照らす。
部屋の壁には、チョークでこう書かれていた。
《87の23乗を187で割ったときの余りを求めよ》
「こういうパターンもあるのか…」
「どうしよう、もう他の部屋探してる時間も『まっち』もないよ」
問題を見た三人は、この部屋を『くりあ』するのは無理だと判断して歯噛みしていた。
でも残り時間はあと1分、『まっち』は全員残り1本。
もう他の部屋を探している時間はない。
「5Eの部屋は43」
「えっ?」
「この問題の答えは、43よ」
私は、問題を解いて答えを言った。
すると、その直後。
《こんぐらちゅれいしょん。げぇむ『くりあ』。これより、『げぇむ』に生き残った方への『びざ』を発行いたします》
1A〜5Eのラインで『びんご』が完成し、『げぇむくりあ』のアナウンスが鳴る。
どっと疲れが押し寄せて、深くため息をつく。
ふと2Dの部屋を覗くと、中にいた参加者は全員死んでいた。
『げぇむくりあ』したのは私達だけ……か。
見ると、2Dの部屋の壁には壁に銃が仕掛けられていて、部屋で死んでいた二人は、両方身体を銃で撃ち抜かれて死んでいた。
2Dの部屋には行かなくて正解だったな、もし2Dの部屋に数字を探しに行ってたら、全員『げぇむおおばぁ』になってたところだった。
『びざ』とトランプを受け取った私達が会場を出て行こうとすると、一緒に『げぇむ』を『くりあ』したレイが話しかけてくる。
「ありがとう。キミ達のおかげで生き残れた」
「それはお互い様よ。次に会うときまで、頑張って生き残りましょう」
「……うん」
私がレイに微笑みかけると、レイは小さく頷いた。
一緒に『げぇむ』を『くりあ』したレイと別れた私達は、その足で『ビーチ』に帰還した。
「はい、今日のトランプ」
「うむ、感謝する!」
私が今日のトランプをボーシヤに献上すると、ボーシヤは機嫌良さそうに笑った。
私は、トランプの絵が描かれたメインロビーの壁に目を向ける。
絵札以外の残るカードは、『
……そろそろ、終わりが見えてきたわね。
───今際の国滞在49日目
残り滞在可能日数
潰田千寿 36日
ドラマ版のシーズン3で出てきたレイをゲスト登場させました。
ドラマでは大学生でしたが、シーズン3は原作およびシーズン2の後日談的な扱いなので、本作では高校生という設定にしています。
どうでもいい事ですが、シーズン3公開前に執筆した前作にレイという名前のキャラを登場させてしまいましたw
あと、今回はドラマで消されたマヒルさんを登場させました。
最初は武闘派も参加させるつもりだったのですが、(表向きは)あんまり仲が良くない幹部5人が同じ『げぇむ』に参加するのが不自然だと思ったのと、『びざ』の日数的に『♠︎6』に参加する理由が薄くなりそうだったのでボツにしました。