くだらない日常からの解放。
現実逃避、中二病、ピーターパン症候群…
呼び方なんか関係ない。
どこでもいいから。
どこか知らない国へ行きたいと思った事はない?
「──そこまで。お前ら筆記用具机の上に置けー」
無機質にカチ、カチ、と時計の秒針が鳴る教室の中で、教授が声をかけた。
白髪の混じった髪を七三分けにして、黒縁の眼鏡をかけシャツの上にベストを着た、50代後半の中年。
いかにも『学校の先生』って感じのおじさんだ。
大学の期末試験を受けていた私は、筆記用具を置いて、教授が回答用紙を回収しに来るのを待った。
「あ〜終わった〜」
「ねぇプール行かない?」
「いいね〜!」
今日最後の期末試験が終わり、教室にいたクラスメイトが次々と席を立つ。
私も筆記用具を鞄の中に入れて、少し遅れて席を立った。
私の名前は
都心の大学に通う、医学部四年生。
私が席を立つと、隣の席の座っていたクラスメイトが声をかけてきた。
「ヒーロ、今日テストどうだった?」
「別に、普通」
「うわ出た、優等生の余裕〜」
この快活な笑顔の女子は、米宿麻里奈。
私がこの大学に入学してから作った、唯一の友達。
最初は同じ本が好きってところから話が始まって、今では割と自然体で話せる数少ない話し相手になってくれている。
私が麻里奈と話していると、いきなり後ろから誰かに話しかけられた。
「ヒーロちゃん!」
振り向くと、あまり見慣れない顔の男子が笑顔を浮かべていた。
ええっと、名前は確か…
「……隅田君?何の用?」
「あのさ、オレらこれから飲み会行くんだけど、一緒に行かない?」
「みんなでお酒飲んでパーッとはしゃいでさ、一緒に遊ぼうよ〜!」
クラスの男子と一緒にいた金髪の男が、馴れ馴れしく私の肩を掴んでくる。
私は、ため息をついてから、左肩に置かれた男の手を右手で払い除けた。
「無理。今日バイトあるから」
そう言って私は、足早に教室を立ち去った。
すると私を追いかけてきた麻里奈が、私に話しかけてくる。
「あれ…?ヒーロ、今日バイト休みじゃなかった?」
「だってああでも言わないとしつこいから。何が楽しくて
「ちょっと、言い過ぎ!聴こえてたらどうすんの?」
「いや、事実じゃん」
私の事を窘めようとする麻里奈に、私は素っ気なく言い返した。
いつも通り、変わりのない通学路を通って家に帰った私は、玄関のドアを開けて言葉を発した。
「ただいま」
いつも通り、誰の返事もない。
玄関で靴を脱いでリビングを通ると、父がソファーに座って本を読んでいた。
キッチンでは、家政婦さんが、黙々と夕食の支度をしている。
いつもと何も変わりがない事を確認した私は、そのまま2階の自室へと向かう。
そして本棚にびっしりと並べられた本の中から、解剖学の参考書を手に取り、机の上に置いてあるノートの新しいページを広げ、参考書に書かれた単語をただ黙々とノートに丸写しした。
そうやって何時間も、単調に書き写す作業を続ける。
勉強が好きなわけじゃない。
いい成績を取りたいわけでもない。
ただただ、こうして参考書と向き合って、覚える気のない単語を書き連ねている時間だけが、私が唯一独りでいられる時間だから。
私の家は、
私の家系は代々病院を経営していて、父は総合病院の病院長を、母は父の病院で看護部長と副院長をしていて、兄二人も東大医学部を卒業してそれぞれ外科医と内科医として働いている。
私は、幼い頃から両親には兄と比べられ、兄二人には女だからと馬鹿にされてきた。
家族に認められなくて、何にも情熱を見い出せない私だけど、たったひとつだけ夢中になれるものがあった。
◇◇◇
「On your marks. Set.」
パン、と軽快なピストルの音と同時に、強い日差しに照らされた真夏のグラウンドを駆け抜ける。
ただ速く、速く、速く。
このまま、どこまでも駆けていける気がした。
私が走り終えると、同級生が駆け寄ってくる。
「すご…!!大木場さん、新記録だよ!」
「これなら来月の全国大会は優勝間違いなしだね!」
部員の女子達が、興奮気味に褒めちぎってくる。
私の叩き出したタイムは、国内記録どころか、それまでの世界記録すら大きく引き離す新記録だった。
兄さん達に比べて勉強ができないし、コミュ障で友達も少ない私だけど、足が速さだけは誰にも負けない自信があった。
小さい頃から、走る事が好きだった。
走っている時だけは、無敵でいられたから。
親の束縛も、くだらない日常も、何もかもを振り切って、自由になれる気がした。
無我夢中で走っている瞬間だけは、こんなどうしようもない世界でも、私らしく生きられた。
私の夢は、オリンピックに出場して金メダルを獲る事だった。
もちろん走る事が大好きなのが一番の理由だけど、もうひとつ理由があった。
それは、女だからと私を馬鹿にしてきた父さんと兄さん達を見返す事だった。
父さんの望んだ才能じゃなかったけど、陸上で1番になれば、父さんも私を認めてくれるかもしれない。
そしたら、今度こそ普通の家族になれるかもって淡い期待もあった。
だけどいつからか、走り込みをしたら脈がおかしくなって、胸が苦しくなった。
今までは、いくら走っても動悸がする事なんてなかったのに。
最初は調子が悪いだけだろうと思って気にしてなかったけど、走る度に症状はどんどんひどくなっていった。
それでも大好きな陸上をやめたくなくて、胸が苦しいのを我慢して陸上を続けた。
でも、それが間違いだった。
いつも通りグラウンドを走っていた私は、途中で視界が歪んで、そのまま意識を失って、救急車で病院に搬送された。
私が倒れた原因は、心臓の病気だった。
医者には、まだ世界的に見ても症例の少ない病気だから根本的な治療法が無い事、これ以上陸上を続けたら命に関わる事を告げられた。
父さんには部活を辞めさせられて、スパイクシューズやユニフォームを全部捨てられて、家で勉強を強要された。
最初のうちは、もう陸上を続けられない事を受け入れられずに、隠れて練習してた。
だけどある日兄さんが、私がこっそり走り込みをしている事を父さんにチクった。
そしたら父さんは、怒って私の頬を平手打ちした。
「柊色!!お前という奴は…!!英樹から聞いたぞ、コソコソと走り込みをしていたんだってな!?この馬鹿者が!!死んで迷惑をかける気か!?」
「……ごめんなさい、父さん。もう二度としません」
「お前は将来、一志や英樹と共に私の病院を支えていく身なんだぞ!何がオリンピック選手だ、くだらん!!そんな事に割く時間があるなら勉強しろ!!」
父さんは、私を怒鳴りつけて夢を全否定してきた。
夢を叶えれば父さんも認めてくれるかもしれない、そんな希望を抱いた私がバカだった。
「柊色。お前もう、ガキみたいなマネするな。父さんは、お前の為を思って言ってるんだぞ」
「むしろ良かったじゃないか、これで諦める理由ができたんだから。お前がオリンピック選手になるなんて、最初から無理な話だったんだよ」
兄さん達は、二人とも全面的に父さんの味方だった。
……そりゃあそうだよ。
優秀で将来の不安なんか何一つない兄さん達に、陸上しかなかった私の気持ちなんて、わかるもんか。
走る事だけが、ただひとつの私の取り柄だった。
それだけが、私の存在意義だった。
無我夢中で走っている時だけは、誰よりも自由でいられた。
まるで背中に翼が生えたみたいに身体が軽くて、どこまでも飛んでいけそうな気がした。
だけど自由になる為の翼は、あの日突然捥がれた。
神様、どうして。
私のせいなのですか?
私が、父さんの望む『できる子』に生まれてこなかったからですか?
どうして私にだけ、こんなにひどい仕打ちを与えるのですか?
◇◇◇
陸上の道を絶たれた私は、父に流されるまま医学部に進学した。
大学受験の時、父に「そこしか認めない」と言われて東大理三を受験させられて、結局落ちて第二志望の大学に進学した時点で、私は出来損ないの烙印を押され、家では無視されるようになった。
父親としての体裁の為か、学費だけは出してくれたけど、この家の中で私はいないものとして扱われてきた。
父に夢を全否定されたあの日から、明暗が全部ひっくり変えて見えた。
何かに一生懸命な人間を見ると、無性に罵りたくなる。
ひたむきな情熱が、未来への希望が疎ましくて仕方ない。
『努力は報われる』、この世で一番嫌いな言葉だ。
こんな言葉を気軽に使える奴に、努力する事さえ否定された私の気持ちなんか、わかるはずがない。わかってたまるか。
全部、全部、大嫌いだ。
こんな世界も、こんな世界に私を生んだ父さんも、母さんも。
私とは違って、父さんの望む子供に生まれてきた兄さん達も。
こうやって何もかもを憎む事でしか自我を保てない、自分の事さえも。
「はぁ…いっその事、東京中に化け物でも現れないかなぁ」
異星人、ゾンビ、怪獣、旧支配者…なんでもいい。
法律も、常識も、文明も、武力も、何一つ通用しない奴らが、遊び感覚で東京をメチャクチャにして。
父さんも、母さんも、兄さんも、ムカつく教授も、うざい陽キャも、みんな呆気なく死んじゃうんだ。
…はは、なんか考えてたら楽しくなってきた。
ああ、いっその事──
どこでもいいから、どこか知らない国へと行きたい。
「……ん」
いつの間にか眠っていたのか、壁の時計は朝の4時前を指していた。
このまま寝直す気分にもなれなかったので、外の空気を吸いに、コンビニに行く事にした。
「コーヒー買ってきます」
私は、一応声をかけてから玄関のドアを開けて、最寄りのコンビニへと出かけた。
缶コーヒーを手に取って、レジで会計を済ませる。
「ありやしたー」
やる気のない店員の声を聴きつつ、買ったコーヒーを持ってコンビニを出た、その瞬間。
何気なく空を見上げると、突然花火が上がった。
「ん…?花火…?」
次々と、無数の花火が打ち上がる。
こんな夜明けに花火?と思いつつも、花火を眺めていると…
「………え?」
一際大きな花火が空に打ち上がり、そして弾けた。
その瞬間、私の視界が真っ白に染まった。
◇◇◇
「んん〜………」
ジョワジョワと蝉の声がうるさくて、重い瞼を開く。
すると、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「………え?」
そこには、草木が生い茂った渋谷の街並みがあった。
車は蔦や苔で覆われていて、兎が道路を飛び跳ね、見た事のない蝶が飛んでいる。
それに、私以外誰も人がいない。
何よ、これ……
「おーい…誰かいないんですかー!?」
私は、近くにあった建物に入って叫んだけど、誰の返事もなかった。
本当に、私以外誰もいないわけ…?
まさかと思って、私は急いで家に帰った。
無駄に広い豪邸のドアを開けると、バサッと埃が落ちてくる。
「うわっ!?」
いきなり落ちてきた埃に驚いて、間抜けな声を出してしまった。
当たり前だけど、誰の返事もない。
それよりも、埃に驚いた直後、私はすぐに異変を感じた。
私の家の玄関は、誰かが来たら照明が自動で点くようになっている。
なのにいつまで経っても、照明が点く気配がない。
いつの間にかスイッチがオフになっていたのかと思い、玄関の照明のスイッチに手を伸ばす。
「つかない…!?」
何度もスイッチを押したけど、玄関の照明がつかなかった。
この家だけじゃない。
この街の建物全部、電気がついていなかった。
何でこんな事に…?と思いつつも、何か食べ物はないかと思ってキッチンの冷蔵庫を開けた、その瞬間。
「うえ…っ!?」
冷蔵庫から漂う異臭に、思わず顔を背けて反射的に冷蔵庫の扉を閉めた。
冷蔵庫の中の食糧は、全部腐っていた。
おかしい。
いくら電気が止まったからって、たったの数時間で全ての食糧が腐るわけがない。
蛇口とコンロのつまみをひねってみたけど、どっちも反応はなかった。
どうやら、水道とガスも止まっているみたい。
文明が止まってから、どれだけ時間が経てばこんな事になるのよ…?
とりあえず、まずは状況を整理しないと。
いきなり東京のライフラインが全部止まるなんて、どう考えても非常事態だ。
もしかしたら、私以外の人は既にどこかに避難してるのかも。
父さんと母さん、兄さんもそこにいるのかもしれない。
正直会いたくないけど…この状況じゃそんな事も言ってられないよね。
とにかく、私もどこか安全な場所へ避難しないと。
私は2階に上がって自室のドアを開けると、使えそうなものを探してリュックに詰めた。
懐中電灯と、ラジオと、モバイルバッテリーと…持病の薬と…
あと、服も着替えた方がいいのかな…?
行ってすぐ帰ってくるだけのつもりだったから、持病の薬は持ってきてないし、スウェットのまま家を出てきたのを忘れてた。
流石にこのまま避難所に行くのはまずいかもと思った私は、Tシャツとストレッチパンツに着替えて、リュックを持って家を出た。
いきなり東京から人が消えるなんて、どう考えてもおかしい。
早く避難して、父さん達と合流しなきゃいけないっていうのは、頭ではわかってる。
だけどどうしてだろう。
この世界にたった一人でいる事が、妙に気楽だった。
「……あれ?」
しばらく歩いていると、数百メートル先に見える動物園にだけ明かりがついた。
もしかして、あそこが避難所なの…?
非常時に動物園が避難所になる事って、普通ないと思うんだけど…
…って、今はそんな事気にしてる場合じゃないか。
とにかく行ってみないと…
◇◇◇
「あ……」
明かりのついている動物園に行ってみると、中に人がいた。
坊主頭のガタイのいい男の人と、顔にピアスをつけて黒い服を着た男の人、顔にタトゥーを入れて日本刀を背負った男の人、あと他にも何人かいた。
うわ…なんか関わっちゃいけない感じの人達だ…
っていうか、銃とか刀とか持ってるけど、銃刀法違反じゃないの?
でも、ここが避難所かもしれないしなぁ…よし頑張れ、私のなけなしの社交性。
「あの、皆さんここで何をしていらっしゃるんですか?」
私は、やばそうな人達に声をかけた。
すると黒い服の人が、驚いたような表情を浮かべて口を開く。
「……は?オイマジかよ、まだ初参加者がいんのかよ!?」
……?
初参加者?どういう事?
ここ、避難所じゃなかったの?
っていうかこの人達、なんなの?
「あ…すみません。ここ、避難所じゃなかったんですね。私…なんか場違いみたいなので、帰りますね」
そう言って私が外に出ようとした、その時だった。
「出るな」
「?」
いきなりガタイのいい人が、私に話しかけてきた。
彼は、動物園の入り口の前に立つと、ズボンのポケットから丸めた紙屑のようなものを取り出して、それを外に放り投げた。
すると外に投げられた紙屑がいきなり燃えた。
そしてさっきまで何も無かったはずの場所から赤いレーザーが出てきて、まるで鳥籠みたいに無数のレーザーが動物園全体を囲んだ。
「……!!」
え…?
何これ…
「一度『げぇむ』会場に入ったら出られない。『げぇむ』を『くりあ』するまではな」
……?
ゲーム?
ゲームって、何?
これって、何かのイベントなの?
私が混乱していると、スピーカーから機械的な女の声が聴こえた。
《皆さま、当動物園にようこそお越しくださいました。それでは、『げぇむ』の時間です。これから皆さんに参加していただく『げぇむ』は…『もうじゅうがり』。エントリー数、無制限。賞品、なし。難易度…『
エントリー?
スペードの6?
何の話?
《『るうる』。『しまうま』の皆さんが、『もうじゅう』を全て倒せば『げぇむくりあ』。『もうじゅう』は、6時5分より始動します。『しまうま』の皆さんは、一塊にならない事をオススメします。それでは、『げぇむすたあと』》
アナウンスが鳴ると、怖い感じの三人組が移動した。
どうしよう、このままだと一人になってしまう。
さっきまでは一人が気楽だとか思ってたけど、流石に何の情報もないまま一人にされるのは怖い。
でもあの三人についていくのは嫌だな…
とりあえず、話が分かりそうな人について行った方がいいよね?
私は、一緒にいた人達の中でも、一番優しそうな人について行った。
するとその人は、私の方を振り向いて大きめの舌打ちをした。
「ついてくんなよ、お前初心者なんだろ?足だけは引っ張んじゃねぇぞ」
そう言ってその人は、一人で行ってしまった。
結局、私は一人になってしまった。
しょうがない、一人でなんとかするしかないか…
まさか、一人になったら死ぬってわけじゃあるまいし。
バイオハザードじゃないんだから。
なんて考えつつ上を見ると、モニターには『のこり20ぴき』と表示されている。
そういえば、もうとっくに6時5分を過ぎてるけど…
『もうじゅう』って、何が出てくるんだろう。
流石に本物の猛獣が出てくるわけじゃないだろうけど…
「うわあああああああああ!!!」
私が動物園の中をウロウロしていると、さっき私を置いて行った男の人が、泣き叫びながらこっちに走ってきた。
男の人の後ろには、大きなライオンが迫っていた。
嘘でしょ、比喩でも何でもなく、ガチの猛獣…!?
やばい、どうしよう、どうしよう…!
「ぎゃあああああっ!!」
ライオンが、後ろから男の人に飛び掛かる。
ライオンは、男の人に馬乗りになって今にも噛みつこうとしていた。
男の人は、ナイフを振り回してライオンを追い払おうとしたけど、まるで意味がなかった。
私が立ち尽くしていると、ライオンに襲われている男の人と目が合った。
「た、助け…」
男の人は、泣きながら私に助けを求めてきた。
「助けて」って言われても…私、どうしたらいいかわかんないよ…
さっき「足だけは引っ張るな」って私を置いて行ったくせに、なんでよりによって私に助けを求めるのよ。
「ああああああああああ!!!」
私が棒立ちしていると、ライオンが男の人の腹に噛みついた。
その瞬間、男の人の腹からは赤い液体が噴き出し、男の人は泣き叫びながら暴れた。
彼はそのまま内臓を貪り食われて、しばらくして動かなくなった。
「あ…ああああ…!」
し、死んだ……
本当に、人が死んだ…!
「うっ…オエ゛ェッ…!」
急に吐き気が込み上げてきて、その場で蹲って吐いた。
なんなの、なんなのよこれ…!?
なんでこんな事になったんだっけ…!?
テスト終わって、部屋で勉強してて、コンビニに行って、花火見て、家帰って、ワケわかんないまま動物園に来て…
……あれ?私、今何してんだっけ?
ふと顔を上げると、別のライオンが私を睨みつけていた。
「ひぃ!」
私は、走って逃げた。
逃げようと考えたわけじゃない。
気がつけば、身体が勝手に動いていた。
上手く動かない頭の中で、ここに来る前に呟いた言葉が反響した。
――はぁ…いっその事、東京中に化け物でも現れないかなぁ。
あの時の私は、バカだったのかな。
どうして傍観できる立場だって、勝手に思い込んでたんだろう。
もしそんな事になったら、私も呆気なく殺される側だって、ちょっと考えればわかるはずなのに。
後ろから、猛獣の唸り声が聴こえてくる。
死にたくない…死にたくない、死にたくないッ!!
私はそのまま、動物園の外へと逃げ出そうとした。
だけど目の前に赤いレーザーのバリアが見えて、咄嗟に足を止めた。
私の背後には、ライオンが迫っていた。
もう逃げ場なんて、どこにも……
………いや、ひとつだけある。
この状況で、私が生き残る方法。
一か八か、試してみるか…
私がボーダーラインの前で立ち止まって、ライオンを正面から睨みつけると、ライオンが私に向かって飛びかかってきた。
私は、ライオンが飛びかかるよりも先に、その場でしゃがみ込んで回避した。
狙いを外したライオンは、そのまま私の頭上を飛び越えていき、ボーダーラインを超えた。
するとその瞬間、ライオンの身体が燃え、一瞬で黒焦げになった。
「はぁっ、はぁっ…」
やっぱりだ。
ボーダーラインを超えたら死ぬ、それは『もうじゅう』も例外じゃない。
…ははっ、なんか楽しくなってきた。
アドレナリンがドバドバ溢れてくるのがわかる。
私は、ボーダーラインのギリギリのところまで『もうじゅう』を誘い込んで、わざと挑発して飛び掛からせてから小回りのきく体格を活かして回避し、相手のパワーとスピードを利用してボーダーラインの外に押し出した。
人間相手だったらこうはいかなかったけど、相手が獣でよかった。
生きるか死ぬかの極限状態だからか、陸上をやっていた頃以上に身体が速く動いた。
身体が軽い。
地面を蹴る感覚が、風を切る爽快感が、死への恐怖を吹き飛ばしてくれた。
余計な事は何も考えるな。
走れ。
ただ、速く。
誰よりも、何よりも速く。
速く、速く、速く、速く、速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く!!
――タァァ…ン!!
突然、どこからか何かが弾けるような音が聴こえた。
振り向くと、私が誘き寄せていたハイエナが血を流して倒れていた。
何、今の…銃声…?
「ヒュー♪足速ぇな、あの女。しかも、なかなかキレてやがる。脱走防止用のレーザーを逆手に取るとか、フツー思いつかねーわな」
銃声が聴こえた上の方を見ると、さっきの黒い服の人が展示施設の屋根の上であぐらをかき、スナイパーライフルを構えて私を見下ろしていた。
あの銃、本物…?
ここは日本でしょ?
なんであんな自衛隊でも
「おい、そこの女!ちょっと囮になって『もうじゅう』をここに誘き寄せろよ。そしたらコイツでサクッと仕留めてやるからよ」
「は!?」
ふざけんな、なんで私がアイツの為に囮にならなきゃいけないのよ。
銃持ってんなら、さっさと『もうじゅう』を撃ち殺してくれればいいじゃん。
なんなの、アイツ?
私は、そう怒鳴りたいのを我慢して、また走り出した。
……怒るな、冷静になれ。
これ以上心拍が速くなったら、身体が使い物にならなくなる。
それに、彼の言っている事は間違ってない。
私が『もうじゅう』を一箇所に集めて彼が仕留めるのが、一番効率がいい。
『もうじゅう』を全部倒すまでは、『げぇむ』が終わらない。
全員で協力しないと、いつまで経ってもここから出られない。
私は、ヒョウを挑発しながら逃げ、広場へと誘き寄せた。
今日は調子がいいのか、発作の前兆はまだ出ていない。
だけどその時は、突然訪れた。
「う……!」
突然脈がおかしくなって、胸が締めつけられるように苦しくなった。
視界がぐにゃりと歪んで、平衡感覚を保てずに倒れた。
なんで…?
さっきまで、発作の前兆なんか出てなかったのに。
まさか、無茶な走りをしたから、アドレナリンが切れた今になってガタが来た…!?
「ぅぐ…はっ、はっ……!」
顔を上げると、誘き寄せていたヒョウがすぐそこまで来ていた。
逃げなきゃいけないのに、身体がいう事をきかない。
大声で威嚇して追い払おうにも、うまく声が出ない。
心臓の鼓動がうるさい。
薬…早く薬飲まないと…!
私がズボンのポケットから薬を取り出そうとしている間にも、ヒョウが私に飛びかかってくる。
お願い、誰か助けて!!
――タァン!!
私が頭を抱えて蹲っていると、銃声が鳴り響いた。
私に飛び掛かろうとしていたヒョウが、頸から致死量の血を流して倒れる。
「チッ、バテてんじゃねぇよ。使えねぇな」
息を整えながらゆっくりと上半身を起こすと、黒い服の人が、ライフルのボルトを引いて排莢していた。
私は、ズボンのポケットから取り出した錠剤を飲み込んで、すぐに立ち上がった。
だけどその時、今度はチーターが私に目をつけて走ってくる。
私はすぐに逃げようとしたけど、チーターが私に襲いかかる事はなかった。
チーターは、私に襲いかかる前に、銃弾を数発浴びて倒れた。
振り向くと、さっきのガタイの良い人が、ハンドガンを構えて立っていた。
「あの…ありが…」
お礼を言おうとした私は、彼が右耳を怪我している事に気がついた。
もしかして、『もうじゅう』にやられたの?
彼は、その場でハンドガンのマガジンを入れ替え始めたので、私はその間に彼に歩み寄った。
「…大丈夫ですか?」
「うるせぇ、構うな」
私が声をかけると、彼は私を追い払おうとした。
だけど私は、命を救ってくれた彼を放っておく気にはなれなかった。
私は、腰のポーチから消毒液とガーゼを取り出して、彼の右耳を手当てした。
「こういうのはすぐに手当てした方がいいですよ、そうしないと化膿してしまいますから」
「…手際が良いんだな」
「私、医学部通ってるんです。実家が病院ですし…簡単な応急処置は、父に教わりました。結局落ちこぼれちゃいましたけど…」
私は、ガタイの良い人の右耳にガーゼを当てて、テープと包帯で固定しながら言った。
父さんに押し付けられた医療知識が、この世界で生き延びるのに役に立ってるんだから、皮肉な話だわ。
応急処置を終えて、消毒液と包帯をポーチにしまった私は、すぐにでも逃げられるように態勢を整えた。
今は、薬のおかげで発作が落ち着いている。
ふと、動物園の入り口のモニターに目を向けると、モニターには『のこり9ひき』と表示されている。
『もうじゅう』の数も、もう半分を切った。
今生き残ってる人と協力すれば、私なら最後まで生き残れる…はず。
「それじゃ、私もう行きますね。お互い頑張りましょう、お兄さん」
「待て」
私が立ち去ろうとすると、彼が私を呼び止めた。
彼は、ハンドガンを私に差し出してきた。
「持ってけ。何もねぇよりはマシだろ」
「…ありがとうございます」
「それと『お兄さん』じゃねぇ、アグニだ」
そう言ってガタイの良い人…アグニさんは、新しいマガジンを装填し終えたハンドガンを構える。
私が走り出すと、今度は大型のグリズリーが目に留まる。
銃を撃った事なんてないけど…
距離は充分ある。射撃の練習にはちょうどいいか…
…動物に向かって銃を撃つのを冷静に『練習』って考えている私は、もう既にこの世界に染まってしまっているのかもしれない。
こんな理不尽に適応し始めている自分に辟易しつつも、私はグリズリー目掛けて発砲した。
だけど私が撃った弾は、グリズリーの耳に掠っただけで、全くダメージを与えられなかった。
…やっぱり、映画みたいに一発で仕留める、みたいなのは無理か。
発砲されて怒ったグリズリーが、牙を剥いて私に襲いかかってくる。
私は、狙いを定めずに、やたらめったらに発砲した。
するとそのうちの一発が急所に当たったのか、グリズリーが血を吐いて倒れる。
「やった…」
初めて撃った銃で、獲物を仕留めた。
だけど今ので、弾を全部使い切ってしまった。
予備のマガジンは持ってない。
…結局、走って囮になるしかないのか。
「ああああうああああああああああ!!!」
私が次の獲物を探していると、悲鳴が聴こえてくる。
まだ他にも生き残ってる人いたんだ…
泣き喚きながらこっちに逃げてきた眼鏡の人は、追っかけてきたハイエナにそのまま襲われた。
「うあああ!!い…嫌だッ!!助けてッ!!誰か助けてくれぇぇ!!」
ハイエナに襲われた人は、泣きながら助けを求めていた。
するとその直後、アグニさんがハンドガンでハイエナを眼鏡の人ごと撃ち殺した。
「助けてやったぞ、苦しみから。戦う意志も無ぇ軟弱な精神なら…せめて囮として死ね!」
アグニさんは、撃ち殺した眼鏡の人に向かって冷淡に言い放つ。
今度は、ライオンがアグニさんに襲いかかってきた。
するとその直後、ライオンの胸が銃弾で撃ち抜かれる。
振り向いて見上げると、さっきの黒い服の人が、ライフルを構えていた。
「ヒュ〜ッ!日本の警察、結構いい狙撃銃使ってんじゃねーの。日本製ってのも、満更でもねーなこりゃ。とはいえやっぱ、狙撃手の腕がいいせいだな。オレ、ゲーム世代だし」
黒い服の人は、展示施設の屋根の上でニヤニヤと笑っていた。
撃たれたライオンは、よろけながらも立ち上がろうとする。
そう思ったその時、ライオンの首が上から飛んできた槍で貫かれた。
「……6、匹目…」
ちょうどライオンの真上には、木の枝の上にしゃがんでいる刺青の人がいた。
「オイ!!ソイツはノーカンだろ!?今のはほとんどオレの手柄じゃねーかよ!!」
刺青の人が地面に降りると、黒い服の人が刺青の人に文句を言った。
「にしても今夜の『げぇむ』楽勝すぎじゃね?これで『
黒い服の人は、余裕そうに笑っていた。
あの銃、警察からパクってきたのか…
やっぱりこの世界では、銃の所持や発砲は合法…と解釈していいわけね。
なんて考えていると、最後の1匹になったハイエナが、アグニさんに狙いを定めた。
アグニさんはハイエナを撃ち殺そうとしたけど、ハンドガンの弾が切れていたらしく、ハンドガンを投げ捨ててそのままハイエナと取っ組み合いをした。
ハイエナがアグニさんの左腕に噛みついて顔の左側を引っ掻いてくるも、アグニさんは親指でハイエナの左眼を潰し、そのまま首を握り潰して倒した。
《こんぐらちゅれいしょん。げぇむ『くりあ』》
私が息を整えていると、どこからかアナウンスが聴こえる。
『くりあ』した……?
って事は私、ここから出られるの…?
「ははっ…やった…やった…っ!」
私はその場で尻餅をついて、生き残れた事を喜んだ。
その直後、黒い人が屋根にあぐらをかいている展示施設の扉が勝手に開く。
生き残った人達は、ゾロゾロと展示施設の中へと入っていった。
生き残ったのは、アグニさん、黒い服の人、刺青の人、そして私だけだった。
「え…?何これ…」
展示施設の中にあったレジからは、レシートと、♠︎の6のトランプが発行された。
レシートには、私の名前が書いてあった。
ーーー
────────
び ざ
入国許可申請証明
────────
大木場 柊色様
────────
今回ポイント 6ポイント
累計ポイント 6ポイント
滞在期限は7月29日(水)です
残りの滞在可能日数には
くれぐれもご注意お願い致します
レジ:♠︎6
ーーー
「『びざ』だ」
「『びざ』…?」
私がレシートの内容を確認していると、アグニさんが口を開く。
私がきょとんとしていると、黒い服の人が後ろから話しかけてきた。
「まあお前もちったぁ役に立ったし、これくらいは教えてもいいか。『げぇむ』を『くりあ』すると、生き残った奴には『びざ』が出んだよ。この国では、『びざ』が切れた奴は死ぬ。お前はこのままだと、あと6日しか生きられねぇってこった」
『びざ』が切れたら死ぬ…か。
今回の『げぇむ』で私が得られた『びざ』は6日。
あと6日以内に『げぇむ』に参加しないと、どのみち私は生き残れない。
生き残るには、命懸けの『げぇむ』を続けていくしか、ないんだね…
「あの、ありがとうございます。えっと…」
「チッ、ニラギだ」
黒い服の人…ニラギさんは、私を見ながら舌打ちした。
この人、何で怒ってるんだろう…
なんて考えていると、他の三人は、展示施設から立ち去ろうとした。
「あ、待ってくださいッ!!」
「…あ?」
「あの、まずは傷の手当てを、ですね…えっと、ほら、アグニさんさっきハイエナに噛まれてたから、破傷風と狂犬病のワクチンを打たないと…」
私がうまくまとまらない言葉で説明すると、アグニさんは他の二人を呼び止めた。
私は、動物園中を探して、医務室から破傷風や狂犬病のワクチンを取ってきた。
アグニさんの治療を理由に引き留めたけど、本当は、この世界で一人になるのが怖いだけだった。
◇◇◇
「はい、終わりましたよ。効果があるといいんですけど…」
「悪ィな」
「さっき助けていただいたお礼です」
私は、アグニさんの顔の傷を消毒液で消毒して、破傷風と狂犬病のワクチンを打った。
勝手に取ってきたやつを打っただけだから、効果は保証できないけど、何もしないよりはマシかな…
なんて考えていると、ニラギさんが口を挟んでくる。
「意外な特技があるんだな」
「一応、医学部生なので…」
親と教師に習った応急処置を『特技』と言われて、胸がチクリと痛む。
違う、これは特技でもなんでもなくて、ただの親の真似。
私はただ、親の言いなりになるしかなかっただけ。
大学では色んな人に優秀だと言われたけど、それは私じゃなくて、私をそう造った父が褒められてる気がして、その度に胸がチクチク痛んだ。
元の世界では、そんなくだらない劣等感を手放したくて、心の中で誰かを罵倒してばかりいた。
気づけば私は、元の世界での出来事を愚痴っていた。
今日会ったばかりの他人なのに…いや、今日会ったばかりの他人だからこそ、打ち明けられたのかもしれない。
「私、本当は陸上選手になりたかったんです。でも心臓の病気で続けられなくなって、医者には今の技術じゃ治せないって言われて…だから──」
だから親の言いなりになって医学部に行くしかなかった、そう言おうとしたら…
「だから医者目指してるってか?」
ニラギさんが、私の話を遮って口を挟んできた。
「………え?」
「だから、治らないって言われたから、自分で治す為に医者目指してんのかって聞いてんだよ。そんくらいわかんだろ、頭悪ィな」
ニラギさんは、どこか機嫌悪そうに悪態をついた。
普段なら暴言を吐かれて嫌な気分になっていたんだろうけど、彼の言葉が今の私にとっては衝撃で、それどころじゃなかった。
そっか、そういう考え方があるのか…
…というか、なんで今まで気づかなかったんだろう。
今までずっと、医者の道は父さんに敷かれたレールだって思い込んでた。
だけど視点を変えたら、そうじゃない見え方があったのかもしれない。
陸上の道を絶たれた理不尽を憎むあまり、大事な事を忘れていた。
大事なのは、何になるかじゃない。
「……ふ、ははっ、アッハハハ!」
「あ?何笑ってんだよ」
「いや…なんだか、天啓を得た気分だなぁって」
「なんだそりゃ、キモッ」
私が笑うと、ニラギさんがまた悪態をついた。
今まで、何の為に生きているのかわからない人生だった。
こんないつ死んじゃうかもわからない世界で生きる意味に気づかされるなんて、皮肉もいいところだわ。
しかもよりによって、こんな態度の悪い奴に。
……決めた。
私は、医者になる。
でもそれは、父さんに言われたからじゃない。
私はスポーツドクターになって、私と同じように難病や後遺症に苦しむ選手を、一人でも多く救いたい。
私の叶えられなかった夢の続きが見たい。
そしていつかは私も、心臓の病気を治して、まだ行った事のない場所を自由に駆け回りたい。
父さん、母さん。
今まで期待に応えられなかったけど…やっと、私だけの生き方を見つけたよ。
◇◇◇
その後、アグニさんがこの国の事を色々教えてくれた。
アグニさんとニラギさんと刺青の人は、動物園の外に停めてあった車に乗り込んだ。
車が動くのかと聞いたら、この国のどこかで待っている仲間が修理してくれたと教えてくれた。
私もついて行きたいって言ったけど、もう間に合ってるとアグニさんに断られてしまった。
「一緒には、行けないんですね…」
せっかく一緒に生き残れると思ったのにな…
三人を乗せた車が発進しそうになったので、私は咄嗟に声をかけた。
「あ…あのッ!!私、ヒーロっていいます。大木場柊色。もしお互い生きてたら、またどこかで会いましょう」
「ハッ、テメーみてーな甘ちゃんはすぐに死ぬだろ」
私が声をかけると、ニラギさんが車の窓から顔を出して、馬鹿にしたように笑ってきた。
三人を乗せた車は、そのまま発車して西へと向かった。
私は、夜の闇へと消えていく車に向かって何度も頭を下げた。
今までは、世界の全てを恨んで、どこか遠い国で独りになってしまいたいとさえ思っていた。
それでも私は、元の世界に帰りたい。
今では、私に走る楽しさを、生きる意味を与えてくれたあの世界が愛おしい。
帰ったらまず、父さんと話をしよう。
これまでの事、そしてこれからの事。
それまでは、何が何でも生きなきゃいけない。
それがどんなにつらい道のりだったとしても。
私は最後まで足掻いて、生き抜いてやる。
───今際の国滞在1日目
残り滞在可能日数
大木場柊色 6日
二人目の主人公登場。
原作では主人公二人(アリスとドードー)の得意ジャンルが『
二人目の主人公は、クズお姉さんに比べて身体能力はバケモノですが、思考は常人寄りです。
年齢:21歳
身長:162cmくらい
出身地:東京都
職業:医学生(元陸上選手)
好きなもの:一人で過ごす事、かわいいもの
得意ジャンル:『
容姿:ダークブラウンのショートウルフ。雰囲気が若干ウサギに似ている。
服装:ロング丈のTシャツとストレッチパンツ
本作の二人目の主人公。都内の大学に通う女子大生。
代々病院を経営してきたエリートの家系の出身で、父は総合病院の病院長、母は副院長兼看護部長、二人いる兄もそれぞれ東大医学部を卒業した外科医、内科医。
かつては中学の全国大会での優勝経験もある陸上選手だったが、高校生の頃に原因不明の心臓病を発症して引退を余儀なくされ、父親に言われるがまま医学部に進学した。
超人的な俊足を持つが、心臓に持病を抱えており、長時間走ると発作を起こす。
名前の由来はパピー(白ウサギの家を逃げ出したアリスの前に現れた大きな仔犬)。